クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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全てを制圧する掌 下

ギラグ場  CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 (ORU0)

LP4000  iCNo.69死神紋章カオス・オブ・アームズ ATK4000 (ORU1)

手札1

 

裕場 

LP1400

手札2

 

 黒と赤の光が世界各地よりこの年に集められていく、地球上にある都市も森も砂漠も全てが分解されこの地に収束していく。

 銀河の様に赤黒に光り輝く空の下、黒紫のドームの中、火傷や裂傷、打撲で体中傷だらけの裕と余裕の表情を浮かべるギラグが向かい合っている。

 本当に理不尽だ。裕はそう思う。

 ただいきなり大男から決闘を挑まれたかと思えば超熱波に体をあぶり焼きにされた挙げ句に打撃で身体中が痛い。

 そのうえ相手がドローする度に体から体力が失われていく。

 どれもこれもふつうの決闘ではあり得ないことばかり、自分が知識不足なのは理解してはいるがそれでも頭のおかしい性能のカードを使われると怒りがこみ上げてくる。

 今、裕を支配するのは怒りだ。

 理不尽な物に対する怒り、自分の好きなことが汚されていく事に対する怒りだ。

 それが裕の戦える理由だ。

 そうでなければ遊馬が到着したときには打撲か大火傷か疲労でぶっ倒れている。

 

「俺のターンドロー、調律を発動、デッキからジャンク・シンクロンをサーチしデッキトップから1枚墓地へと送る」

 

 墓地に送られたカードは墓地に装備魔法が無いこの状況では何も意味を成さない速攻魔法だ。

 そして裕は相手の墓地を見る。

 この状況で裕の動きを妨害できるカードは無い、一応ブレイクスルー・スキルがあるがこの状況を突破するためにはあのカードが必要だ。

 そこまで決め、ギラグの手に握られるカードを見る。

 相手の最後の手札が増殖するGの可能性は捨てきれない、だが相手の伏せがない今が展開のチャンスなのだ。

 

―――なんであろうと踏み抜く!

 

「俺はボルト・ヘッジホッグをコストにワン・フォー・ワンを発動、デッキからチューニング・サポーターを特殊召喚する、そしてジャンク・シンクロンを召喚、召喚時効果で墓地からエフェクト・ヴェーラーを特殊召喚する、そして墓地のボルトヘッジ・ホッグの効果発動、このカードを特殊召喚!」

 

 疾風怒濤の小型モンスターの展開、それは手札か墓地がそろっていればそれだけで環境デッキをも圧倒する火力を発揮するシンクロンデッキの真髄だ。

 

「行くぜ! レベル2、ボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、レベル5、TGハイパー・ライブラリアン! 更にレベル1のチューニング・サポーターとレベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング、レベル2、フォーミュラ・シンクロン!」

 

 墓地、場のシンクロモンスターより光が漏れる。

 主の願いを叶えるためモンスター達は力を集結させていく。

 

「ライブラリアン、フォーミュラ、チューニング・サポーターの効果でデッキから3枚ドロー!」

 

 引き抜かれたカードの一番上、コンボ要素が強すぎてこの世界に来てから抜いたカードが久しぶりにドローできた。

 今の状況に置いて最高のカードであり、裕は笑顔で叫ぶ。

 

「ナイスだ俺のデッキ! 更に俺はシンクロキャンセルをフォーミュラ・シンクロンに発動、フォーミュラをエクストラデッキに戻し墓地のシンクロ素材、エフェクト・ヴェーラー、チューニング・サポーターを特殊召喚する! そしてもう一回チューニング! フォーミュラ・シンクロン、デッキから3枚ドロー!」

 

 墓地より飛び上がった2体のモンスターは空へと上り再びF1カーの様なモンスターへと成る。

 場にモンスター無し手札3枚という状況から手札5枚、シンクロモンスター2体にまでのぼり上げた裕、そして更にデッキの回転は続く。

 

「調律を発動、デッキからクイック・シンクロンをサーチ、そしてデッキトップを墓地に」

 

 墓地に送られるはライトロード・ハンター・ライコウ、三詰みされているためにしょうがないとはいえ裕のデッキでは貴重な除去カードだ。

 裕は僅かに表情を曇らせつつも、次の瞬間には表情を明るくさせる。 久しぶりに動く相棒に会えるのだ。 こんな頭のおかしいカードを使ってくる相手も頭のおかしい状況も全てを忘れて今より現れかっこよく活躍するであろう龍へと胸を躍らせる。

 

「レベル・スティーラーを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚、そしてライブラリアンのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚、レベル1のレベル・スティーラーにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング、レベル6、ジャンク・ガードナー!」

 

 緑色の厚い装甲の戦士が盾を構え降りてくる。

 そしてガードナーはカオス・オブ・アームズへと接近し盾で思いっきり殴り倒した。

 

「ライブリアンの効果でドロー、ガードナーの効果でカオス・オブ・アームズを守備表示に変更、そしてレベル4となったTGハイパーライブラリアンにレベル6のジャンク・ガードナー、レベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベルマックス!!」

 

 金の星となり10の光が赤黒のエネルギーを、黒紫のバリアンズ・スフィア・フィールドを押しのけ遥か上空で2つの輪に統合される。

 2つの輪によって調律が行われ金の光の中より白く輝く龍が舞い降りる。

 

「俺の相棒の勇姿をその目に焼き付けろ! 真面目に決闘しない奴ら全員ぶっ倒せ! 最も輝く龍の星、俺の相棒の姿を目に焼き付けやがれ、シューティング・クェーサー・ドラゴン!!」

 

 黒によってバリアン世界に堕とされてからというもの決闘を使用にも出来なかったため動くクェーサーの姿が見れずフラストレーションが溜まっていた裕だったがこの瞬間、全てのストレスが吹き飛んだ。

 傷は無く白く輝く体は神々しく、金の光は裕の中にあるストレスを吹き飛ばしてくれる。巨大な四肢は相対する者を砕き、鋭い眼光が相手のどんな動きも見逃さないだろう。

 

「うん、うん、久しぶりだな、クェーサー! やっぱりお前は最高だな」

 

 一度見て、二度見、満足したように頷き、もう一度見上げ素晴らしいとため息を吐く。

 気合を入れ、手を叩き、裕はプレイを再開する。

 

「貪欲な壺を発動、墓地の……フォーミュラ・シンクロン、TGハイパーライブラリアン、速攻のかかし、増殖するG、ジャンク・シンクロンをデッキに戻し2枚ドロー! 行くぜ! クェーサーでカオス・オブ・アームズを攻撃!!」

 

 ナンバーズ耐性の無いカオスで出来た偽ナンバーズ、その攻撃力はクェーサーに匹敵し効果も凄まじい。だが守備表示の今、クェーサーの敵ではない。

 地面に叩きつけ若干ふらふらしている偽紋章死神をクェーサーが上より打撃、地面に埋め込んだ。

 衝撃で地面は砕け、クェーサーの押さえつける手とは反対の手に恒星が生まれる。

 それは逃げる事の出来ない敵へと叩き込まれた。

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000 VS  iCNo.69死神紋章カオス・オブ・アームズ DEF1800

破壊→iCNo.69死神紋章カオス・オブ・アームズ

 

「そしてジャイアント・ハンド・レッドを攻撃!」

 

 爆散した黒赤のカオスの残骸、それを青白の光が切り裂いていく。

 それはクェーサーの拳に収束した光の剣だ。

 主をここまで物理的に追い詰めた事に対する怒りからか通常時に作り上げる物よりもはるかに巨大なそれを溶岩掌へと振りかざす。

 無効化し制圧する事に長けた溶岩掌にそれを止める手段は無く、光剣は上空の赤黒と黒紫を切り裂き、溶岩掌の下に広がる地面ごと切り裂き、衝撃波をまき散らした。

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000 VS CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600

ギラグLP4000→2600

 

「くぅううう!」

 

 裕達を包んでいた黒紫の空間はクェーサーの一撃によって断ち切られ消失した。

 そして光剣の一撃で溶岩掌は砕かれはしなかったが衝撃波を受け止める事は出来ずギラグは遥か後ろまで吹き飛ばされた。

 

―――クラウソラスがあればワンショットキル出来たのに……!

 

 そう現状を歯がゆく思うもどうする事も出来ず、

 

「メイン2、クェーサーのレベルを下げレベル・スティーラーを特殊召喚、そしてカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

裕場   シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

LP1400  レベル・スティーラー DEF0

手札3  伏せ2

 

ギラグ場  CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 

LP2600  

手札1

 

 身を起こしたギラグは怒りを爛々と光らせ、ここまで自分を追い詰めた敵を見据える。

 そして敵の切り札を刈り取るべくデッキへと手を伸ばす。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はこの瞬間、手札のテイクオーバー5をコストに超融合を発動!」

 

「えっ、くっ、クェーサー!?」

 

 恒星龍は白の粒子、溶岩掌は黒の粒子となり抗う事の出来ない渦の中へと飲み込まれていく。

 黒と白の海の中、貝殻の馬車に乗り長い髭を蓄えた老人がゆっくりと現れる。

 

「お前の場のシンクロモンスターと俺の場のモンスターエクシーズで融合召喚を行う! 逆らう事の出来ない最強の渦の中、白と黒の混沌の深淵より現れろ、旧神ノーデン!! そして特殊召喚したノーデンの効果で墓地よりファイアー・ハンドを特殊召喚する」

 

 裕はかっこよく最高で最強の相棒とよくわからない赤い掌がドロドロに融け合って現れた老人を呆然と眺め、声にならない叫びをあげる。 簡単に切り札を除去されランク4になれる用意をされた事に裕の怒りは限界点を突破する、それでもなんとか思考を回し状況を確認する。

 並び揃うはレベル4、2体。そしてこのデッキの主力となるクェーサーを失ったこの現状でヴェルズ・ビュートを食らった瞬間、本格的に巻き返しが厳しくなることを考え、最後まで取っておきたかったカードを使う。

 

「くっ、ファイアー・ハンドの特殊召喚時、強制脱出装置をノーデンに発動、これで」

 

「ふん、そうだ。ノーデンの効果で特殊召喚されたファイアー・ハンドも除外される。だが」

 

 空、巨大な螺旋の渦を描きながら世界中より集められたエネルギーが徐々にギラグの腕へと収束を始める。

 

「スタンバイフェイズ、墓地のテイクオーバー5の効果発動、このカードと同名カードをデッキ、墓地、手札より除外しデッキから1枚ドローする」

 

「また来るのかよ……!」

 

 その莫大なエネルギーがギラグの手に集まっていく。

 それを見、裕は目を閉じ自分の愛する決闘を思い浮かべる。

 

「ここで俺がドローソースを引く、そうすればお前の伏せカードも手札にいくら誘発カードがあろうとも俺の攻撃は続く。そしてお前を消滅させたら九十九遊馬、次はお前だ!」

 

 裕とギラグの決闘している上空、赤黒の銀河の様に輝く光がある。

 それらは世界中の町や土地、生きる生命から無機物まで手当たり次第に分解されエネルギー体のまま漂っている人間世界そのものだ。

 それらがギラグの掌に収束していく。

 

「バリアンズ・カオス」

 

 手を置かれたデッキトップはバリアンの力でギラグの望むカード、命削りの宝札へと再構築されようとする。

 だがその侵食は遅い。

 裕が全身全霊、自分の魂全てを賭して目の前のふざけた現象を打ち消そうとしているからだ。

 叫び声を上げながら黒原との決闘の時よりももっと強く、強く願う。

 人間世界分のエネルギーが裕の願いを潰そうとし、裕はそれに抗い願う。たとえ世界の全てを敵に回そうとも裕の願いは変わらない、壊れない。

 デッキのカード達、クェーサーは共に光を放ち主に力を貸していく。そして、

 

「ドロー!」

 

 引き抜かれたカード、それをギラグはゆっくりと確認する。そして裕は力を全て出しきりその場に倒れ込んだ。

 僅かに落胆したギラグのため息が裕の耳に届く、裕は持てる力の全てを振り絞り顔を上げる。

 ギラグの顔を見る。

 そこにあったのは、

 

「残念だったな、お前はよほど運命に愛されていないらしい」

 

 ギラグの勝ち誇った顔だった。

 

「魔法カード、運命の宝札を発動、サイコロを振り出た眼の数だけドローし、数値分デッキトップのカードを墓地に送る、一度目は防がれたが、二度目はどうだぁ!」

 

 いくらバリアンの力を持ってしてもサイコロの目までは操作できない。1がでるときもあれば6が出るときもある。

 だがドローカードはギラグの望むカードへと再構築される、それを今の力つきた裕では防ぐことは出来ない。

 そしてサイコロは転がり止まる。

 出目は3、これから引かれるであろうドローソースの事を考えれれば十分すぎる。

 

「……あ」

 

 再びギラグの手に赤黒の力が収束していく。

 それはたった一人の少年の力ではどうにも出来ない力の量だ。いくら相棒やデッキのカード達が主の願いを聞き届けようと力を貸したところでもう裕は力を使い果たし満足に立ち上がる事すらも出来ない。

 圧倒的な力の前にはどんな高尚な望みも願いも全てが蹴散らされるだけだ。

 それでも諦める訳に行かない裕は叫ぶ。

 

「なんか、なんか無いのか、あれを打ち砕く力は!!」

 

 裕は無念の叫びをあげる。今から望み通りのカードを引くと宣言するあの男のふざけた言葉を打破したい、だが力が足りない事に対する渇望の叫びだ。

 確かに裕とカード達の力で一度だけ塗りつぶしを回避した。

 だが全力を使い果たした二度目は無い。

 

「終わりだ!」

 

 ギラグの手に光が収束する。

 

―――まだだ、まだ何かある筈だっ! こんな所で負けてたまる! 勝つ、勝つんだよぉ⋯⋯。

 

 何度も裕は心の中で吠え叫ぶも徐々に語彙は弱くなっていく。

 ギラグの手の輝くが失われない為だ。

 もうダメかと目を閉じ諦めかけた裕。

 

「くそったれぇえええっ!!」

 

 裕は叫ぶ。

 願いが届かない事に対する怒りを、自分の力不足を嘆き、そして力を貸してくれた相棒とデッキへと謝る。

 

―――ごめん、みんな。

 

 目を閉じる裕の頬をふわりと風が撫でた。

 裕の耳にクェーサーの咆哮が聞こえたような気がした。

 まだ諦めるなと言わんばかりに轟く声に導かれ目を開けてみれば裕の目の前、一枚のカードが浮かんでいる。

 それはバリアン七皇のミザエルと自分を引き合わせたある意味、因縁のナンバーズだ。

 裕に力を貸そうとするのは生前の主君を救おうとする化け狸の精霊が宿りしカード、それが赤黒が吹き荒れる空間に浮かんでいる。

 裕にカードの精霊は見えない。

 だがカードが訴えかけて来る様に感じた。

 力を貸してやるから協力しろと、

 

「お前……!」

 

「裕、そのカードを使ってギラグを呪縛から解き放つんだ!」

 

                     ●

 

 遊馬はお前ならば大丈夫だと裕を信頼し親指を立てる。

 だが言われた裕は何の事だか理解できないという表情を見せる。

 それは当然だ、バリアン七皇の事を深く理解しておらず出生の秘密を知らないからだ。

 遊馬達は遺跡のナンバーズが七皇の持つオーバーハンドレット・ナンバーズと関係があるのだろうという事を知っていて、遺跡の伝説と遊馬の父親の残した資料との食い違い部分をドン・サウザンドが介入したからだろうと推論づけていた。

 カイトはドン・サウザンドがバリアン七皇になる前の生前に何らかの介入を行い彼らをバリアン世界に堕としたのではないかという推論を述べ、アストラルはそれに同意した。

 そして遊馬はギラグたち七皇をドン・サウザンドの影響から助けたいと考えた。だからこそ自分のエクストラデッキより勝手に飛び上がったナンバーズを止めなかった。

 呪縛から解き放つ方法までは分からない、だが裕ならきっとやってくれるという確証が遊馬にはあった。

 

                     ●

 

 裕は目の前に浮かぶカードを取ろうとするが自分の受けた呪いを思い出す。

 

―――新しいカードを入手すれああいつの元へと送られてしまう。最上はナンバーズの力で中和できるかもしれないと言ったが本当にできるのか? もしも中和できなけれは態々託してくれた遊馬達の大事なカードが敵の手に渡っちまう。

 

 怯え、手を降ろしかける裕を相棒の声がデッキからは風が吹き裕を叩き叱咤していく。

 ナンバーズに気圧されたのか、それともその光景に見入っていたのかギラグはドローしようとする手を止めていた、だが尋常ではない様子に慌てたように手を当てる。

 

「バリアンズ・カオス!」

 

 裕は意を決しカードを手に取った。

 アストラルのエネルギーが裕の体に蓄積されたバリアン世界のエネルギーと反発する、更に裕の手に入れたカードを黒へと送ろうとする呪いが発動しそれに抗おうとする精霊との間で強烈な反発を生む。

 その抵抗は裕の体に延々と電流が流れ続けるような激痛と数え切れないほどの裂傷となって刻み込まれる。

 

「ぎっ、ぐぅ、ぅおおあああああああっ!」

 

 意識なんてぶっ飛びそうな激痛が裕の体を苛み、それでも裕は意識を手放さず前を見る。

 力を貸してくれた相棒とデッキのカード達、そしてナンバーズの為に、こんな所で自分の好きな物を侮辱する敵を止めるために必死で願う。

 

「ドロー!」

 

 引き抜かれたカード達は再構築されない。その事にギラグは舌打ちをする。だがカードを確認し余裕を取り戻す。

 裕は必死で倒れたままの体を起こそうとする。

 四肢に力は入らず何度も崩れ落ちそうになる体に鞭を打ち、相棒やデッキの仲間が助けてくれてるんだからここで倒れたらだめだろうと何度も思い立ち上がる。

 

「俺はファイアー・ハンドを召喚、そして幻魔の扉を発動! 貴様の場のレベル・スティーラーを破壊し俺の墓地からジャイアント・ハンド・レッドを特殊召喚する」

 

 ギラグの背後に見た者の背筋を凍らせる悍ましい装飾の扉が現れ、開く。

 中より伸びる手は天道虫を握り潰し魂を対価に墓地より溶岩掌を引き吊り上げる。

 

「バトルだ、ジャイアント・ハンド・レッドで直接攻撃!」

 

「手札から速攻のかかしの効果発動! このカードを墓地に送りバトルフェイズを終了させる!」

 

 それを予測していたのだろう、ギラグは不敵に笑い、

 

「そう、このターンのバトルフェイズを、な」

 

 その様子、そしてギラグが残った最後の手札を掲げたのを見て、裕は息を呑む。

 

「まさか!」

 

「そうだ、俺は速攻魔法、時の女神の悪戯を発動、貴様のターンをスキップし再び俺のバトルフェイズとなる! さあ終わりだ、握り潰せ、ジャイアント・ハンド・レッド! 万死紅掌!!」

 

 炎の竜巻となり裕へと迫る溶岩掌、それをまともに受ける訳に行かないと裕は、

 

「永続罠、リビングデットの呼び声を発動! 墓地からジャンク・ガードナーを特殊召喚する!」

 

「無駄だ! 攻撃続行!」

 

「ジャンク・ガードナーの効果発動、相手モンスターを守備表示に変更す」

 

 墓地より呼び出されたガードナーは溶岩掌へと走り、巨大な盾で打撃(バッシュ)しようとするが、

 

「しない! 俺は墓地からブレイクスルー・スキルの効果発動、このカードを除外することで相手モンスターの効果を無効にする! 握りつぶせ、ジャイアント・ハンド・レッド!!」

 

 空間を割り、現れた白い竜の腕に叩き落とされ、溶岩掌の炎の竜巻に飲まれガードナーは体の装甲を弾けさせ大きな爆発を生んだ。。

 

CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 VS ジャンク・ガードナー ATK1400

破壊→ジャンク・ガードナー

裕LP1400→200

 

 爆散したガードナーの体を避けて迫る炎に裕は飲まれる。溶岩掌の放った炎に飲まれたのはこれで2度目だ。

 その熱と炎はより深く、裕の体に刻まれた裂傷を、火傷を入念に焼いていく。

 

「ぐぅああああ!」

 

「これで、なに!?」

 

 とどめを刺そうとしたその瞬間、ギラグの目に飛び込んできたのは溶岩掌の炎を打ち抜きガードナーの盾付き腕がファイアー・ハンドを捕らえた光景だ。

 

「くっ、墓地に送られたジャンク・ガードナーの効果だ、あ、相手モンスターを1体守備表示にするっ!」

 

「ちっ、俺はこれでターンエンド」

 

ギラグ場  CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 

LP2600  ファイアーハンド DEF1400

手札0

 

裕場   

LP200 

手札2

 

 裕一人ではどうにもならなかった、

 それをこの状況まで持ってこれたのはデッキや相棒、そして力を貸してくれたナンバーズのおかげだ。

 敵は強大で一度は諦めかけた、だがこんな中途半端な所で諦めていいわけがない。

 ここまで繋げてくれた相棒達の努力を無駄にする事は出来ず、そして裕の口元には僅かな笑みがある。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

―――このタイミングで、来るか。

 

「ジャンク・シンクロンを召喚、墓地からライトロード・ハンター・ライコウを特殊召喚、そして死者蘇生を発動、墓地からライトロード・ハンター・ライコウを特殊召喚する!」

 

 現れるは2頭の白い犬だ。それらはお互いに高め合う様に叫び裕の前に作り上げられた渦の中へと飛び込んでいく。

 裕は心に浮かんだ言葉を負けないと言う意思を込め叫ぶ。

 

「レベル2の獣族、ライトロード・ハンター・ライコウ2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、No.64! 混沌と混迷の世を斬り裂く知恵者よ。世界を化かせ、古狸三太夫!」

 

 茶釜が構築、そして木の葉を纏った竜巻を生み出し甲冑姿の狸が出現した。

 三太夫は薙刀を振り回し洗脳された主を見、今助けるとばかりに気合を入れる。

 

「三太夫の効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い影武者トークンを特殊召喚する」

 

 三太夫の掴みとった球は黄金の狸像へと姿を変え、この場に置いて一番攻撃力の高いモンスターへと姿を変える。

 それは白い溶岩掌だ。だがそれでは勝てない。

 

「だがナンバーズはナンバーズでなければ破壊できない!」

 

「いいや、ここでお前のライフを削り取る! 俺はレベル1の影武者トークンにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、レベル4、アームズ・エイド! アームズエイドの効果発動、このカードをを古狸三太夫に装備!」

 

 巨大な鉤づめの付いた手甲は三太夫の手に装着される。攻撃力は上昇し2000となる。だがそれだけでは届かない。

 裕は最後の自分の手札、引き当てたカードを相手へと見せる。

 

「団結の力を古狸三太夫に装備する!」

 

 水田の持っていたシンクロモンスターの居ないシンクロンデッキの戦略は簡単だ。手札誘発で防ぎ続け、トークンを生み出しデッキの中で唯一光るレアカード、団結の力を装備させ殴り倒すという脳筋戦略だ。

 端が擦り切れたりボロボロになりながらも他のデッキを使わず自分のデッキで勝ちたいと言うこだわりがデッキに見え裕はもう一度水田に対して怒りと悲しさを覚える。

 息を吐き、たった一体残った三太夫へと激を飛ばす。

 

「バトルだ、古狸三太夫でジャイアント・ハンド・レッドを攻撃!」

 

No.64古狸三太夫 ATK2800 VS CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 

 

 数は一、だけどこの状況になるまで沢山のモンスターたちが繋がり未来を掴もうとした。その終着点がここにある。

 金や虹色に光る薙刀を振りかざし三太夫は溶岩掌へと迫る。

 固い溶岩掌の外殻と三太夫の薙刀は何度も打ち合い、青白の斬撃と黒赤の炎が全てを覆っていく。

 何度も何度も放たれる波動にギラグは何かを思い出す様に眉を寄せ、顔に手を当てる。それは何故か忘れていた大事な事を必死で思い出そうとするものである。

 三太夫の斬撃は溶岩掌の核となるカオスを僅かに傷つけ溶岩掌の動きは鈍る。

 その一瞬、邪悪なる者がギラグを支配するために作り上げた偽りの記憶、その呪縛の象徴を三太夫の薙刀は確かに切り裂いた。

 

破壊→CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド

ギラグLP2600→2400

 

「アームズエイドの効果発動、装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、相手にその攻撃力分のダメージを与える!」

 

「馬鹿な、俺が九十九遊馬にリベンジする前に負けるだとぉおおおお!?」

 

 三太夫が真っ赤に赤熱する巨大な手甲を主に振り下ろした。

 

 ギラグLP2400→0

 勝者 裕

 

                     ●

 

 決闘が終了すると同時に裕は糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。

 指一本動かせず倒れ込んだままの視界、ギラグが何か呟くのが見える。

 

「俺は、ドン・サウザンドに騙されてたのか……ああ、すまなかった、お前を一人にして」

 

 ギラグの目には涙が浮かぶ、感動的な良いシーンのようなのだがカードの精霊が見えず具体的な声の聞こえない裕はさっぱり理解できない。

 とりあえず転送される前に遊馬達にカードを返すべく首だけでも動かそうと努力する裕の耳に聞きなれた声が届いた。

 

「ギラグ!」

 

 アリトが倒れ足の先から消滅しかかっているギラグに走り寄ったのだ。


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