クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第4章 誰かが泣いて、誰かが笑い、誰かが願いを託す場所
邂逅


 アストラル世界は砕けていく。

 青白い地表には罅が走り、聞く者を不安と恐怖に叩き落とす音が響く。

 その中でカオスに犯されたアストラル人や今なお戦い続けるアストラル兵士が見上げるは新しきアストラル世界の代表者の乗る飛行船だ。

 それを見たバリアン兵が空へと攻撃を放つ。そしてそれと時を同じくして徐々に離れていくアストラル世界へと飛び乗ろうと動きを見せるバリアン兵がいる。

 だがそうされてしまっては自分達がこの場所に残った意味はない、自分の意思でこの地に残ったアストラル人達は叫ぶ。

 

「行かせない!」

 

 体の損壊も傷も何もかも捨てて激突する。

 全てはより良き未来につなげるために。

 誰も見捨てない、殺し合わずにすむ世界のために、彼の言った言葉を、その行動を信じ託し彼らは最後の最後までバリアン兵をこの場に足止めするために戦う。

 

               ●

 

 抗いの姿勢を見せるアストラル人達を、切り離されたアストラル世界を見、Dパッドに届いた遊馬を逃がすために七皇に戦いを挑んだ者からの決闘映像と最後の言葉を聞き遊馬はしばらく黙って考え込む。

 しばらくの間、誰も喋らないままの時間が続き、そして遊馬はアストラルへと声をかける。今までデッキに入れていなかったカード達を取り出し、

 

「アストラル、これ俺達のデッキに入れて良いか?」

 

 今まで2人で戦ってきたデッキに過去の暴走の証拠と裏切られた友情の証、そして渡された敵の力の結晶を見せる。

 アストラルはその遊馬の行動の意味を理解し、だが確認するために聞く。

 

「どうしてそれを?」

 

「このカード達は俺達がこの戦いの中で受けた傷みたいなもんだと思うんだ、カオスに取り込まれ生み出したDZW、真月から貰ったVサラマンダーとRUMリミテッド・バリアンズ・フォース、俺達も確かに間違った。だけどそこから絆や未来への希望を築き上げてきたんだ」

 

 嘘と裏切り、そしてそこから生まれたもう一度騙されるかもしれないという負の感情による暴走、そして遊馬がアストラルを失い仲間を喪った際に喪われる事を忌避する感情、それらは今のシャークが恐れている物に似ているものだ。

 一度あったからもう一度あるかもしれない不安、そしてそれがもう一度あった時どれだけの人がまた喪われるのか、それを怯えるからこそ誰も喪わない世界を願うのだろう。

 そう感じた遊馬はシャークへと自分達が望む未来を示すために自分達の失敗の証を入れるのだ。

 失敗や嘘を許し互いを信頼し、戦うことで大切な仲間が傷つき喪われていくかもしれない恐怖を乗り越え輝かしい未来を掴むために。

くるかもしれない未来を切り捨て今を永遠にしようとするシャークとどんな未来でも恐れず踏み出そうとする遊馬、どちらが正しいなんて言い切れる事もなく2人は相手の願いを理解しつつも自分の願いを叶えるために戦うのだ。

 

「確かに未来に何があるかなんて分からねえ。失敗する事だってあるかもしれねえ、だけどそれをバネに更に大きくかっとビングすればもっと良い未来に行けるって事をシャークに見せるためにこのカードを入れたい、俺の大切なデッキの中に」

 

「ああ、そうだな」

 

 そして遊馬の言葉を受け、アストラルは微笑みそれを了承した。

 会話が切れるのを待っていたのだろう、カイトは二人へと近づき、

 

「遊馬、俺は人間世界についたら一旦親父の所に行く」

 

「どうしてだよカイト、こんな時に別行動は危ないぜ?」

 

 遊馬の言葉はもっともだ。

 人間世界にいつバリアン兵が送り込まれるかもしれない状況で一人で行動させることは危険すぎる。

だがカイトは新しく手に入った2枚のカードを手にし、

 

「俺は月にいく」

 

「月!?」

 

「ああ、資料室に残された文献の最後にとある伝承が残っていた、ヌメロン・コードの起動キー、最後のナンバーズが月にある」

 

 白紙のカードを手にしカイトは確信を持ち遊馬へと別行動をすると告げる。

 

「そうか、分かった。でも気をつけろよ」

 

「ああ」

 

「遊馬、カイト!」

 

 窓のそばに張り付いていた小鳥達が遊馬達を手招きする。

 赤黒に染まる見慣れた街並み、赤黒のバリアン世界へと繋がる巨大な穴があるがそこは確かに遊馬達の住んでいた人間世界だった。

 

                    ●

 

「さてと残されたカードはこれだけか」

 

「お前、前々からずっと言ってるけど最低だよな」

 

 裕はげんなりした顔で最上の行っている蛮行を見ていた。

 黒原が消滅した後、残された彼の持ち物から彼の使っていたであろう部屋の鍵と今まで戦っていたデッキを拝借したからだ。

 ある意味自分が殺したようなものであり罪悪感がはんぱない上に死体あさりをしているので裕は気分が悪くなっていた。

 

「今はそれどころじゃないだろ、そんなくだらない意見なんて言えなくなるほど酷いぞ、見ろよのデッキ」

 

 最上から見せられる40枚のカード、裕も1枚1枚テキストを確認すれば、

 

「うわぁ」

 

 うめき声しかでなかった。

 絶対にOCG化されないレベルのアニメ産の禁止級カード、ガトリングオーガを筆頭に一切自重しないぶっ壊れカードのオンパレードがそこに在る。

 絶句する裕を尻目に、黒原の持ち物を探るために地面にしゃがみ込んだ時に地面に着いた黒髪の先端を手で払いながら最上は立ち上がり、鍵を指で弄びながらどこかへと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待って、どこに行く気だ?」

 

「とりあえず黒原の部屋を漁ってみようかなって思ってる、もうちょっと凄いカードがあるかもしれないし」

 

 最上は一切後悔も悪気も無くさらりと犯罪宣言する。

 状況は緊迫している、それは裕にも分かっていた。だがしょうがない、なんて言葉で平然と行われるそれらを一度注意すべきだと思った裕は口を開く。

 

「お前なぁ、こういうときでもやって良いことと悪いことがあるだろ」

 

「そういう一般論はいらない。今、私は理不尽な攻撃をしてくる敵に襲われてるんだ手段なんて構ってられない、相手が殺しにくるっていうんならどんな反則技だってやってや」

 

 最上の言葉がとぎれたのを聞き裕はまた敵がきたのかと身構えつつ振り向く。

 裕達の視線の先、遊馬達が真月を助けるために使った飛行船が出現するところだった。

 

「行くぞ」

 

「おう」

 

 裕は最上がどこに行くかを一瞬で理解し飛行船へと走り出した。

 走る中で飛行船はどんどん高度を落としていく。ビルの陰に隠れたがそれは町の中心部へと降りていくようだ。

 そしてこのタイミングを逃せばいつであえるか分からないため裕はさらに足を早める。

 

「先、行っといて」

 

 裕よりも遥かに身体能力に優れた最上だが走るのに飽きたのか途中より歩き始める。それを見た裕は最上を置いて飛行船が下りたであろうビルの影へと息を切らしながらもたどり着いた。裕が着き見たのは飛行船の中から遊馬達が降りてくるところだった。

 

「おーい、遊馬!」

 

「おっ、裕じゃん、お前無事だったのか!」

 

 遊馬も裕へと駆け寄ろうとする、だがそれをカイトが腕を伸ばし少し待てと言う。

 カイトを筆頭に小鳥、響子や儷利に緊張した表情から様子がおかしいということを察した裕はその場で立ち止まる。

 遊馬以外のこちらを見る目はまるで敵を見るような目であり決闘盤に手が伸びている。

 その様子から裕は最悪の事を想像した。

 

「そこで止まれ」

 

「どうしたんだよ、みんな?」

 

 様子がおかしいのを理解できない遊馬は皆に聞く。

 

「お前は本当に水田裕なのか?」

 

「…………そうだ、俺は本物だ」

 

 強調すれば怪しく見えるだけだろうと裕は考え、声を荒らげ強調せずに裕は自分にとっての真実を言う。

 それでもカイトはこちらをじっと見つめ、

 

「俺はジンロンの遺跡からずっと違和感を感じていた。どうして敵は俺達があの場所に現れるのを知っていたのか、まるで誰かがこの場所にいると教えているように用意周到に準備され俺達は襲撃を受けた。あれは俺達が水田裕だと思いこんだ奴がやったんだろう」

 

「そいつは、偽物で俺は本物だよ」

 

「目の前にいるお前が本物なのか、それを俺達が確かめる手段はない、本当は偽物で後ろから刺されたらこの状況では致命的だ。今、俺はお前を本物だと信じ切れない」

 

 カイトも裕の言葉を信じたいのだろう、表情は辛く眉は眉間による。

 だがそれでもカイトは裕を近づける事はしない。遊馬は多くの希望と未来を託されている。それを軽はずみな行動で終わらせるわけに行かないからだ。

 そして裕は遊馬達が何を経験し託されたのかを知らない。

 だが何かしらの事情があり自分が偽物だったときの事を考えて彼らが自分を警戒しているのだろうという事は分かる。

 

「良いよ、これは俺のせいだ」

 

 自分がこの世界に来てしまったがために、もう1人の裕を生み出してしまったがため裕はそれを不服に思わない。

 ため息を吐き、

 

「みんなが無事でよかったよ」

 

 少しだけ笑いかけ踵を返す。

 皆の無事な顔を見て安心してそれで終わりにしようと思った、だがそれをよしとしない人物がここにいる。

 

「おいおい、こいつが嘘を言ってるように見えるのか? 私が保障しよう、こいつは本物だ」

 

「最上、お前何を!?」

 

 カイトは現れた少女を見てさらに警戒を強める、明らかに敵意のこもったまなざしで最上をにらみつける。

 カイトとしては補填大会で最上と酷い決闘を行い更にそのあと一切話していないためにカイトからすれば印象は最悪だ。

 

「何しにきた?」

 

「まあそんな敵意丸出しにしなくても良いじゃないか、私が折角アドバイスをしようと思ったのに」

 

 胡散臭い笑顔を浮かべ、パタパタと手を振りながらも最上は少しずつ近づいていく。

 

「アドバイスだと、貴様の施しなんて受ける価値もない!」

 

「まあ落ち着け、とりあえずこれを見ろよ」

 

 最上は黒原のデッキをカイト達へと放り投げる。

 いくら敵のデッキだからと言って丁重に扱わない最上を裕はにらみつけるも最上は澄まし顔でいる。そしてデッキを受け取ったカイトは警戒しつつもデッキの中身を見た。

 全てのカードテキストを読み終えようやく何を意味するかを理解したカイトはこちらを見て、

 

「どうしてお前がこれを俺達に見せる?」

 

「偽者ならばそんなカード見せないで初見殺しにすればいいんだよ、それだけ頭のおかしい性能のカードばっかりだ。お前らがどんな事をしても、どんだけ抵抗してもそれを使えば楽勝だよ。それをしないって事は、私達は本物だって信じてくれるかな?」

 

 胸に手を当て嗤いながら言う。

 一応筋は通ってるとも言えなくもない理論、それをカイトは素直に受け取らない。

 

「そこまでが敵の策略ということは無いのか? もっと凄まじいカードを隠し持ってるんじゃないのか?」

 

「かもねぇ」

 

 ちゃかす言い方に舌打ちをしカイトは最上に比べれば大分ましな裕を見る。

 裕はと言えば何も知らされておらず呆然とした表情を浮かべるだけで何も判断材料にならない。

 最上と裕を何度も見るカイトの目には警戒、困惑等の感情がその目にはありどうするかを決めかねているようだった。

 

「とりあえずデッキは返すぞ」

 

 カイトは生粋の決闘者らしく他人のデッキを無下に扱わずこちらへと慎重に一歩ずつ歩み寄りデッキを裕に渡そうとする。

 そして互いの手と手が触れ合ったその瞬間、それが起こった。

 カイトの手からは青白の光が、裕の手からは赤黒の光が反発するように強く瞬いたのだ。

 それはまるでアストラル世界のエネルギーとバリアン世界のエネルギーが反発し合ったような光景だ。

 

「っ!?」

 

「何これ!?」

 

 2人は互いの手のひらを見、カイトは裕から距離を開け決闘盤を構え臨戦状態へと移行する。

 

「…………俺は本物だ、信じてくれ」

 

 裕は信じてほしいがために繰り返し言う。だがその言葉に帰ってくる返答はない。

 今の理屈はわからないが起こってしまった光のせいでなんとかなりそうだった状況が一瞬で崩れたのを裕は感じ、一歩、後ろへと下がる。

 

「行くぞ」

 

 臨戦態勢をとるカイト達から少しずつ距離をあけながら最上へと告げる。

 最上はカイト達を見て、そして裕の手のひらを見、考える素振りを見せつつ裕の後を追う。

 

                  ●

 

「どうしてこうなった……」

 

 裕は大切な相棒であるクェーサーを見ながらため息をついた。いつも決闘で裕を励ましてたまに蹴り飛ばす相棒は何も答えないでカッコいいイラストと名前を輝かすだけだ。

 そしてもう1人の自分が持っていたデッキと自分がこの世界に来た時に持っていたカードから選んでつくりあげたデッキを撫でる。

 

―――手札誘発の防御カードはあるが明らかにに火力不足で決定力不足、クラウソラスやフォノン・ドラゴン、レッド・デーモンやトリシューラといった強力なカードもなしかぁ。

 

 今までの自分が幸運だったことを噛み締めつつ、裕は今、自分の背後で行われる犯罪行為から目を逸らしていた。

 

「おお! これは凄い、なんで敵が使わないのかってぐらいぶっ壊れカードの中でも飛び抜けたぶっ壊れのカオスエンド・ルーラーじゃないか、しかも3枚も! これ1度使って見たかったんだよなぁ!」

 

 黒原の部屋の中、一1の少女が黒髪を尻尾の様に揺らしながら家具を放り投げ黒原がコレクションしていたカードを漁っていた。

 最上は邪魔にならない様に長い髪をポニーテールにし、カードファイルを手当たり次第に引っ張り出しては抜き取っている。

 そしてそれを物理的に阻止しようとしたが護身術のようなもので何回も天井を見る羽目になった裕は黙認するしかなかった。

 

「……そろそろ止めようぜ」

 

 カードファイルを漁りつつ最上は一瞬だけ動きを止め考え込み、またも手を動かしながら口を開く。

 

「で、これからどうするんだ? あの連中の後を追ってピンチになった所を颯爽と助けて仲間にしてもらう的なパターンでもとる?」

 

「それの方がわざとらしいよ。それに俺はあいつと話さなくっちゃいけないんだ。俺1人でもやってやる」

 

 巻き込むわけにいかないではなく入る余地が無い、裕はそう言う。

 ナンバーズを賭けた訳でもなく、世界の命運を賭ける訳でもなく、ただ自分があいつと話したい、というそれだけの目的がため裕はこの世界を賭けた戦いの中を突き進む。

 何が邪魔をしようとも、誰が相手でも、理不尽でふざけた力を持つ敵が立ちはだかろうとも、もう1人の自分に合うためならば全部倒す。

 裕はそう決めていた。

 

「やれやれくだらない、着いていくこちらの身にもなれ」

 

「えっ!? まさか偽物か!?」

 

 最上はレアカードを奪ってそのまま逃げるのだろうと予想していただけに裕は驚きの声を上げ、1歩後退る。

 一緒に戦ったところで一切、最上に利益は無くむしろ不利益しか見当たらない。

 その状況下での台詞、それは最上を知るものならば予測できない言葉だ。偽物としか思えない。

 

「勘違いするな、お前と一緒に顔見せしてしまったから私も偽物の扱いされてそうだし、かといって逃げ延びた人達を守るってのも面白くない、それぐらいなら私をこんな目に合わせたベクターやドン・サウザンドを叩きのめす」

 

「最上……!」

 

 過去の最上を知っているだけに他人を気遣う台詞が出ただけで凄い成長したように感じ裕は少しだけ感動する。

 このまま行けばまともな人間に、

 

「絶対に許すもんか」

 

―――あっ、これ無理だ。

 

 最上の表情、それは自分に苦労を負わせた者への怨、そして仇敵と自分よりも強いであろう強敵を全てを叩き潰した際に得られる快楽を求めるものだった。

 黒原をジャイアントキリングした快楽はよほど素晴らしかったのか最上は強い敵と戦う事を求めていた。

 それでも一緒に闘ってくれる事はありがたい、そう考え裕は最上へと感謝の意を伝えると、

 

「もっと褒め称えろ」

 

 無い胸を張り偉そうで嬉しそうな顔をした。

 

                    ●

 

 裕達は黒原の家を出て適当に町を見ていた、幸いなことにバリアン兵はおらず人影はない。そのまま学校の校庭に空いた穴を見る。

 黒赤に染まる穴の壁、人に良く似た模様が浮かんでは消える。

 それらを必死に気のせいだと思い込みつつ裕は石を摘み上げ落としてみる。当然、石は見えなくなるだけで音は返ってくるわけもない。

 

「何やってんだよ」

 

 最上は呆れたように息を吐き、裕も釣られて愛想笑いを浮かべ、

 

「いや、なんか起きないかなって思って」

 

 そして裕の背後、黒紫のゲートより大男が現れた。

 明らかにコスプレをした人間か、もしくは人外の大男の出現に最上は固まり、裕も最上の表情を見て何かが起きたのかを悟り錆びついた歯車の様に少しずつ首を動かす。

 

「アリトと別の場所へと飛ばされたがちょうどいい場所に出たようだな、ベクター様の命令だ、消えてもらう」

 

 大男、ギラグは腕に決闘盤を構築し空中に手をかざす。

 黒紫のカードがギラグの背後より飛来しバリアンズ・スフィア・フィールドを構築していく。

 それを見た瞬間、最上は即座に座り込んだ姿勢の裕を見捨てバリアンズ・スフィア・フィールドの範囲外へと逃げた。

 空気抵抗の少ない胸を全開に伸ばし、宙へと大きく体を投げ出し地面に手を突き一回転、黒紫の領域より脱出した。

 

「あっ、てめえ!!」

 

 置いていかれた裕は思わず声を上げるが時すでに遅し、彼がミザエルと決闘した際に体験したバリアンズ・スフィア・フィールドよりも遥かに強力な檻が彼を取り囲み逃げられない状況へと変化していた。

 抗議の意を示し黒紫の壁を叩き内包されたエネルギーで体を焼かれ、唸り声を上げる裕。

 

「頑張れ、消えたら消えたで私が意思を引き継いでやろう、5分ほどで忘れるかもしれないがな!」

 

 最上が転がった際に着いた土を払いながら立ち上がりこちら側へと手を振った。

 裕は頭の何処かで血管が切れるんじゃないかと思うほど激昂し、そして声を思いっきり上げようとしたその瞬間、最上も黒紫のカードで形成されたドームに囚われた。

 

「…………裕、お願い、勝って!! あんたが今ここで倒れたら私も危ないの。さあこいつをぶっ倒してもう1人の自分、ぷっくくく、と決着をつけるんでしょう!」

 

「笑ったな、今笑ったよな! お前、あとで絶対ぶん殴る!」

 

 最上は自分の状況が危険になった瞬間、掌を返しキャラを作り、裕の応援に回った。

 それを見た裕は更に感情をあらわにする。

 置いてけぼりにされたギラグはベクターに洗脳される前ならば怒ったり困惑したり警戒するのだがそれをせず、ロボットのように無表情で決闘盤を裕に向ける。

 

「さあ、決闘だ。俺はお前らを消滅させ九十九遊馬にリベンジをするんだ!」

 

 遊馬の名前を出した瞬間だけギラグの目に憎しみの色が浮かぶ。そしてそれを目撃した裕は拳を握る。

 

「消滅だの訳の分からない事言うんじゃねえよ、どいつもこいつも憎しみや恨みなんて持って決闘するんじぇねえよ!」

 

「はっ、ベクター様より新しく貰ったこの力の試運転をさせてもらう」

 

 裕の怒声を聞き流しギラグも決闘盤を構える。

 相手がどんなカードを使ってくるかは分からない、だが少なくとも黒原と同類だろう、そう裕は考える。

 そして黒原と最上が決闘を行ったときと同じように自分の能力をはっきりと意識する。自分の思い描く普通の決闘を。

 楽しく笑い合い、負けても悔し涙を流すだけ、そして思い通りのカードが引けるのはデッキとカード達の気分しだいの裕が愛する決闘を。

 裕も決闘盤を装着、デッキを装填し、

 

「俺もこのデッキを試させてもらう!!」

 

 2人は向かい合い、叫ぶ。

 

「「決闘!!」」


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