クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
最上は黒原の攻撃から逃れ持ち主の居なくなったDホイールを使い学校から一番近いカードショップに逃れていた。
本当に水田が良い案があるならば何でもしようと考えていた。自分が助かる為ならばなんでもする、最上はそう考えていた。
だが今、最上がこの場所に居る理由は他にある。
「クソ、禁止カードが根こそぎ無くなってる」
最上は確かに裕から起死回生の方法を聞いた、だがそれはあまりにも博打が過ぎる、自分と決闘がおままごとに見えるほどの大きな博打だ。
限られた条件をいくつもクリアしなければいけないし、最後の最後は裕の一番嫌いな相手の行動が勝敗を決してしまうからだ。
一応、黒原の性格や今までの戦いを見た限り成功しそうかもしれない、程度にしか考えられない様な案である。
だが不安材料が多すぎて1歩目が踏み出せない、よって最上はその案を実行したくないがために禁止カードを探していた。
―――所詮はフリー決闘、相手がアニメチートを使うのならばこちらだって混沌八咫ロックや押収を使って勝ってやる。暗黙の了解? 知らなんなぁ! 相手がハイパーチートを使うんだしジャッジも呼んでも来ないんだろう、だったら使うしかないな!
もはや手段を択ばない、なりふり構わない行動だ。
一応決闘盤には禁止カードは使えないようにシステム的なロックがかけられているのだが、それを違法ツールを使ってでも取り外し使える様にしようとまで考える。
それほどまでに最上は裕の案を採用したくなかったのだ。
だが、カードショップに来たが禁止カードは棚から無くなっていた。ショップのケースは破壊されめぼしいカードはすべてなくなっていた。
コレクション用の禁止カードや強力なシンクロ、融合、エクシーズ、儀式、全てのレアカードが失われている。
「これが目的だったのか」
最上は黒原がカードショップに居た理由を知る。
パックや禁止カードや制限カード、レアカードや街中に落ちているであろうトレジャーシリーズを黒原は何かしらの目的で奪っていったのだ。
これによって町にあるめぼしいカードはすべて失われている。残るのは誰でも手に入るようないつもの最上ならば屑カードと呼ぶであろう何かしらの欠点があるカードばかりを集めたジャンクカードだ。
「…………まじか、マジでやらないといけないのか? ほんとに、マジでこんなアホみたいな、この方法しかないのか?」
泣きそうな顔で最上は立ち尽くし、どうしようもなくなり拳を握る。
裕に敗北したあの瞬間と同じように、自ら敗北を認めたアポクリファとの決闘の様に拳を握り方を震わせ、残された最後の可能性を手にするために歩き出した
●
黒原はDホイールを走らせながら最上を探していた。
ガトリング・オーガを召喚しテンションが上がってしまったのか最上の姿を見失ってすでに十分以上経過していた。
これだけの時間があれば町の中ならば何処にでも移動できるだろう。
「このままじゃなぁ」
黒原は今、行われているアストラル世界の戦いをもう1人の水田の目を通じて観戦していた。
Ⅳの説得の叫び、ベクターを除くバリアン七皇が集結し遊馬を守るために殿を務める決闘者達に敗北一歩手前に追い込まれる光景が広がっている。
だが黒原は知っている。このあと七皇はナッシュのもたらした新しいランクアップマジックを使用し逆転する事を。
「知ってる光景はいらないんだよねぇ、早く未知の光景が広がらないかなぁ」
CMをスキップするように黒原は呟きながら周囲を見回す。人は誰も居ない、動く者も居ない。
全ては黒原の思い描いた光景だ。
だがそのシナリオにおいていらない異物が紛れ込んでいる。
「あの2人、どこに行ったんだろう?」
黒原は1人呟きながら探し続ける。
今頃消えていたはずの2人が何かしらの方法でこちらに這い登って来たのは驚いた。だがこのままでは遊馬と再び合流し戦力となる可能性がある。
折角、原作よりも苛烈な危機的状況を演出したのに、邪魔者に合流される訳にはいかないのだ。
つい先程までカードを処分していたカードショップにたどり着き店の中に入るも誰も居ない、だかジャンクカードを扱う棚にカードが山盛りにされているのが見える、近寄ってみると侍の絵のあるカードばかりが抜き出されている。
「今度は真六部衆か」
最上を追いカードショップを走り回り、その度にジャンクカードの区画に特定のカードが固められているのが目につく。
種類はバラバラだがどれも瞬間的に特殊召喚を繰り返しシンクロモンスターやエクシーズモンスターよって制圧する事に長けたデッキシリーズばかりだ。
店内を見回すも人影はない、カードに触れてみるが時間がたっていて冷たいままだ、
「新しいデッキを作ってるのか、だがシンクロモンスターを何処で手に入れる気だ?」
切り札となるであろうシエンやナチュビ、パルキはこの町には存在しないはずだ、それとも最上が何かしらの手を使って手に入れる予定があるのか、それともこういうデッキを組むぞというブラフのつもりなのだろうか?
そう考えながらもここに居続ける意味は無く移動し始めようとする黒原のDパッドにメールが届く。
差出人は最上だ。
決着をつけると書かれ、場所が書かれている。
「諦めたのか、それともここに僕を誘導して逃げる気か?」
前者ならば未OCGの宝札シリーズとガトリング・オーガ3積みをチェーンバーンデッキで焼き払えばいいし、後者ならば追うことも視野に入れる。
裕が居る可能性もあるがナンバーズを持っておらず、あれからドン・サウザンドの力で強化された自分の能力が負けるとは考えられない。
「乗ってやるよ」
黒原はアクセルを噴かせ記された場所へと向かう。
記された場所、それは黒原と最上が初めてであった路地裏から少しだけ出た先の町に向かう道路だ。
最初は遊びのつもりで仕掛けてヴェルズで叩きのめしたっけなぁ、などと口元を歪めていると裕が通りから姿を現した。
1人だ。
決闘盤を腕に着けこちらへとゆっくり歩いてくる。
「なんだ、お前だけか」
「いや、最上も来るよ」
水田が後ろを指さす先、最上が黒髪を翼の様に広げながら走ってくるのが見える。そのまま水田の隣に立ち、最上は敵意の籠った目でこちらを睨み付けてくる。
「よう、異物共、負ける用意はできたか?」
「誰が異物だ、この状況を作り上げたクソ野郎の癖に、こいつはともかく私を非難するいわれはないな」
黒原は、はっ、と鼻で笑う。
「何言ってやがる、折角僕が書いた筋書を邪魔した癖に。今、良い所なんだ、状況は僕が書いていた筋書と違うけどそれがまた最高でさ、Ⅳがナッシュになった凌牙を説得するために決闘してるんだ、君たちに見せることが出来なくて非常に残念だよ」
アニメの名シーンを開設する様に黒原は笑いながら最上へと自慢げに喋る。今を生きるこの世界で起きていようと、どれだけ原作と乖離している状況でも黒原は楽しく思っている。
全て知らない事ばかりだからだ、前世の様なくだらない日々の繰り返しではなく毎日が楽しいと思えるような世界がある。
そしてその世界を黒原は観客として楽しんでいる。
「カードショップからカードが無くなったのも?」
「ああ、遊馬やカイトがこの場所に戻ってきて新しいカードを手に入れさせないためさ」
最上は黒原の楽しげで自慢気な表情に不機嫌と嫌悪感の籠った表情を隠そうともせず、舌打ちし、
「お前の目的は前に聞いたけど、自分が介入しようと思わなかったのか? そのハイパーチートで悲しい目に合う人を助けようとかハーレム築くんだとかそういうのが目的とか無かったのか?」
「どうせ僕の助けが無くても主人公が勝つ世界だ、所詮は少し辿る道が違っても結論は一緒だよ、どうせだったらもっと残酷で容赦ない世界がいい、救いが無い悪党が居て、絶対に信念を曲げない傲慢で最低メンタルの敵がいる、そういう世界でもがいて苦しんで勝つ、そういう主人公が見たいんだ」
「てめえのせいでどれだけたくさんの人が苦しんだと思ってんだよ!」
黒原の楽しげな様子を見て、裕はもう黙っていられないと黒原に詰め寄ろうとする。その手を最上が掴む。
「無駄だ、こいつは私達の言葉を聞く気はない」
水田の肩に手を置き、最上は一歩前へと出る。
「私もそうだしな、最終的に自分が面白ければいいだろ、そりゃそうだよな、誰だって2度ネタを見せられても飽きるだけだ、どうせなら馬鹿みたいに不幸にあってる奴が適当に耳触りの良い言葉を言って足掻くさまを上から見おろして、ぷっ、こいつ何言ってんの? 不幸自慢? キモイなぁ、って笑うのも楽しいよな」
最上は首肯するように頷く。頷き、
「だから言うぞ、私をそんなくだらない事に巻き込むんじゃねえよ、こいつがどうなってもいいよ、だけど、私がお前に負けた事を許しておく気はない」
裕を指差し最上は叫ぶ。
「水田の様にデッキとの絆に負けたわけじゃなく、お前との決闘で私が負けたのはお前の能力があったからだ。だから言ってやる、お前だって能力がなければ自己中心的で中二病患ってる痛いクソガキだろっ! はっきり言って私はお前は大嫌いだ、その何でも自分の思い通りになる、自分に勝てる奴は居ないって顔を見てると吐き気がする!」
だがそれは最上にも同じ事が言える筈だ、裕は口をあんぐりとあけ信じられないような発言をした最上を見、黒原も最上をバカにすべく叫ぶ。
「それは自分の顔を鏡で見るべきだよなっ!」
「はあ?」
最上は鏡をバックから取り出す。
デコレーションのされた年頃の女の子の持ちそうな、ざっくり言えば最上のキャラ的に持ちそうにない小道具を取り出し、自分の顔を見る。
口元で微笑み、ウィンクをし、手鏡をバックに戻して
「素晴らしい顔だな」
ドヤ顔で黒原を見る。
無言で黒原は唾を吐き、
「話しても無駄だな、終わりにするよ」
「ああ、そうだな。嫌いな奴に負けろ、不幸になれって願うのは当然だよなぁ、お前は私が嫌いで私はお前が嫌いだ、つまりは敵。どちらも嫌いという感情を持っていてどちらも相手を邪魔だと思うならば殺し合うしかないよなぁ」
最上の能力は失われている、だがそれでも最上から放たれるのは息が苦しくなるほどの敵意だ。
和解などという道はない、話し合う事もする必要は無い。敵を排除し仲間にすることなく叩き潰すと 最上は誓っている。
デッキを賭けた決闘での敗北、自分のカードを燃やされた事、能力を奪った事、部屋を荒らし家具から何から何まで全てを壊した事、不意打ちしてきた事、自分を嘲笑った事、全ての感情と意思が黒原へと向けられ最上の力となる。
「そうだな、それでお前達2人がかりで僕に決闘を挑む気か? それだったら手札10枚からスタートだけど?」
その言葉を予想していたのだろう、最上は隣に立つ裕へと視線を向ける。
「……水田、お前が今も思い続けている物を願い続けろ、能力はそいつがどれだけ思い続けるかで力の強さが変わる。アポクリファとの決闘、あの時、お前は心の底でこんな事見たくないって思ってたんだろ。命を賭ける決闘なんて見たくないって、だから私やアポクリファに少しだけ影響を及ぼしていた、だからもっと強く祈れ」
「ああ、分かってる、全部許せるわけがない。カードを書き換えるだの、命を懸ける決闘だの、アンティ決闘だのふざけたことを言ってんじゃねえよ、そんなの楽しい決闘になる訳ない。ずっと、ずっと思い続けてるよ」
裕の願いはバリアン世界に堕とされても変わらない。むしろ強固な物へと変わっている。
そして裕は自分のデッキからカードを何枚か取り出すと最上へと渡す。
「無駄だ、ドン・サウザンドによって強化された僕の能力にナンバーズを持ってないお前らが対応できるものか!」
叫びながら黒原は初手を増Gとヴェーラー、命削りの宝札等の宝札系ドローカード3枚と決めた。
―――最初から本気を出してあいつらが奇跡なんてあるわけがないって教えてやる。お前らは主人公じゃないからどんなに願って叫んでもかなえられることはないって教えてやる!
「さあ決闘だ、最上、あの日やり残した3戦目、僕とお前の最後の決闘だ!」
「ああ、私が勝っててめえを更地にして全部終わりだなぁ!」
決闘盤のディスプレイが点滅する。最後に止まった方が先攻を得れる。
黒原は能力を使って本気で先攻を得る気だ。初手で何もさせずに撃ち殺すと心に決めている。
場の空気は黒原の能力で抑圧され軋みを上げる。
点滅が徐々に遅くなる。
最上は願う。能力が無くなったために裕の決闘の代役しかできない自分を呪いながら。
点滅はタイミングを取る様に、女神が迷い目をつぶって選ぶように移動し続ける。
裕は願う。この遊戯王デュエルモンスターズを好きな決闘者をバカにする決闘ですらない決闘をする者全てを許さないと。
真面目に決闘を楽しみ、デッキ構築を必死で考えている全ての決闘者をバカにするなと。
ピンポイントに望んだカードが引ける事、相手に妨害カードを引かせない事、それらを運命、能力だからなんて意味不明の言葉で済ませようとする全てを許さない、そいつら全員、負けろと。
そして決闘盤の点滅が止まる。
表示される先攻は最上だ。
「なに!?」
「よし、先攻貰った!」
―――まずいな、水田の能力が強くなってるのか?
力尽きた様に座り込んだ裕を見て黒原は焦りの表情を浮かべる。
先攻になるはずだったのにならなかった。それだけでも黒原は動揺する、その胸に広がる不安を紛らわせるためにデッキから5枚ドローする。
そして、引いたのは、
「フッ、ハハハハ、少し驚いたがどうやら無駄足掻きだったようだな!」
黒原が初手に引いたのは思い描いたカード達だ。
「私のターン、ドロー、そうか、なら良い手札だ」
最上は静かに決闘盤を操作した後、次のフェイズに入るべく口を開く。
「スタンバイフェイズ」
「僕は手札から増殖するGを発動する」
このターン、最上が伏せただけで動かなければ、黒原は大嵐をドローして宝札シリーズを駆使してガトリング・オーガの弾とチェーン・バーンのカードを集め、撃ち殺す。
展開してくればブラックホールなどの破壊カードをドローすればいい。
シエン、ナチュル・ビースト等がでた場合は超融合から旧神ノーデンを融合召喚すればいい。
黒原の前にデュエルなんて形は無く、勝ちの結果しかありえない。
一応、運よく光の結界とtheworldを最上が出せたときのためにエフェクト・ヴェーラーを握ってはいる。
最初のターンは攻撃できないためかかしなども入れていない、自分のターンが回ってくればその場にあった最適なカードをドローできる黒原がデッキに入れている手札誘発カードは増殖するG1枚とヴェーラーのみだ。
最上に残されたターンは1ターンのみ、それをすぎれば理不尽でしかない瞬間火力のオンパレードだ。
「さあどうする、動くか?」
対する最上はなにも答えず、
「手札のレベル・スティーラーを墓地に送ってクイック・シンクロンを特殊召喚する」
動く。
「何? ……ドローする」
「更にクイックのレベルを下げて墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚、さらに手札からTGワーウルフを特殊召喚する」
現れるは裕のデッキの潤滑油、クイック・シンクロンだ。そしてその背からは天道虫が転げ落ち、人狼が身軽な動きで姿を現す。
「レベル3のワーウルフとレベル1のレベル・スティーラー、レベル4のクイック・シンクロンをチューニング、レベル8、ロードウォリアー。そしてリ・バイブルを召喚、更にロードのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚。レベル1のレベル・スティーラーにレベル1のリ・バイブルをチューニング、レベル2、フォーミュラ・シンクロン、デッキから1枚ドローする」
最上の場に風が集まっていく、それは天道虫を起点とした風だ。
最初は僅かで彼女の髪を少しだけ浮かせるような微風だが、風は留まる事を知らない。
そして風が更に黄金の戦士とF1カーの巻き起こす風と合流し、更なる力を蓄え吹き荒れる。
「…………まさか、そんな事……都合が良過ぎるだろ!?」
決闘盤を操作してそうか、と呟いた最上、増殖するGをうたれているのにも関わらずの大量展開を見て、黒原はふと脳裏をよぎるものがある。
だがそんな都合の良い事なんてあり得る筈が無い。信じられないとでもいう様に黒原は何度も横に振る。
それを意に止めず最上は更に手札と墓地、エクストラデッキからモンスター連射する。
「さらにロードのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚する、レベル1のスティーラーにレベル2のフォーミュラをチューニング、レベル3、霞鳥クラウソラス。さらに死者蘇生を発動、墓地のリ・バイブルを特殊召喚する。レベル3のクラウソラスにレベル1でのリ・バイブルをチューニング、レベル4、波動竜フォノン・ドラゴン。さらにロードのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚、レベル1のスティーラーにレベル4のフォノン・ドラゴンでチューニング、レベル5、TGハイパー・ライブラリアン」
現れては消えるシンクロモンスターとテントウムシ、そしてチューナーモンスターの巻き起こす風は集まり、大気をかき集め、徐々に強くなっていく。
赤に染まる街路樹の木々の葉は千切れ吹雪の様に宙を飛び回る。
「墓地のリ・バイブルの効果発動、ライフを2000支払い墓地から特殊召喚する。さらにロードのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚し、レベル1のスティラーとレベル1のリ・バイブルをチューニング、レベル2、炎紫竜ピュラリス、TGハイパー・ライブラリアンの効果で1枚ドロー」
今出せる最後のシンクロチューナーであるピュラリスを出し、最上は最後の仕上げにかかる。
竜巻のような猛烈な風が最上を中心に発生する。
雷を轟かせ、引きずり込み全てを飲み込み、最上は最後の特殊召喚を行う。
「さらにハイパー・ライブラリアンのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚、レベル1のレベル・スティーラー、レベル4となったロード・ウォリアーにレベル2のピュラリスををチューニング、レベル7,月華竜ブラックローズ! さらにブラックローズのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚する」
「なんで、なんでだ、なんでそんな都合の良いカードばかりッ…………!」
増殖するGを撃った後、最上が行った特殊召喚数は19回、それに伴い黒原の手札は23枚、そしてデッキ枚数は16枚となった。
この状況で勝ち誇る最上の様子、決闘開始時のそうか、と漏らした呟きからこの状況で黒原は最上が手に握っているであろう必殺のカードがなんであるか予測するまでもなく分かる、分かってしまう。
だが、
「なんで、そんな都合のカードがお前が引けるんだ!? 引ける訳無いだろ、能力を無くしたお前がぁ!」
最上は黒原によって能力を失い望んだ物が引けないただの一般決闘者になった。ここぞと言う所で切り札を引けるような事は出来るわけがない、そのはずだった。
「そうだ、都合が良過ぎるだろ、はた目から見ても頭がおかしいな」
何度も最上も共感する様に頷き、
「だけど、こうなったのはお前のせいだとしたらどうだ?」
●
「なん…………だと?」
理解不能だという表情を見せる黒原を見て、最上は補填大会で自分が負けたとき自分もこのような表情をしていたのだろうと推測する。
そしてこうも思う。
―――なるほど、これは確かに、楽しいな。嵌ってしまいそうだ。
恍惚に緩む笑み、そして黒原を嘲笑うために最上はこの出来の良すぎるドローの真相を話す。
「お前は最強だ、望んだ物が引けて相手は自分の行動を妨害できるカードを引けない、相手にまで影響を及ぼすとは能力は確かに強い、だれも正攻法で勝てる奴は居るわけがない、素晴らしい、私もそういう能力を頼めばよかったよ」
最上は手を叩き褒める表情を作る。
手を軽く適当に叩き、そして顎を上に突き出し見下ろしながら嘲笑う。
「だけど、お前は本気を出し過ぎた。遊べばいいのに私を殺しに来て能力を全開にしたんだろ、それがお前の敗因だよ」
「何を言っている? どうして僕が全開で能力を使うとお前の都合がいいドローが出来るんだ!?」
「お前は私がお前の行動を妨害するようなカードをドローできなくさせた。逆に言えばお前の行動を妨害しないカードは引ける訳だ」
過去の黒原との決闘で最上は魔導書の審判や大征竜、子征竜を素引きした、つまりはそれらは黒原の行動を妨害できないカードとして判断されたための結果だ。
カードショップからカードを消したのもそれが理由なのだろう。
カードの効果が黒原を妨害するかしないかの2択で選別される黒原の能力はシンクロ、エクシーズからどのように繋がるのかまでは判別できないのだろう、というより出来たら相手が引けるのはモンスターではなく、こちらの行動を妨害できない罠や魔法のみとなる。
「だから私はこのデッキに魔法罠モンスター効果、召喚を無効にするカウンター罠を34枚入れた」
時は止まった。
黒原は言われた言葉の意味が分からず、行動を止め、絞り出す様に息を吐いた。
「…………………………は?」
「そうすればお前の能力で私はカウンター罠34枚を引く事が出来ず、初手6枚が確定するわけだ、分かるか?」
黒原は空いた口がふさがらない様子で何度も口を開閉させ、こちらを指差す。
「お前、正気か?」
黒原の言った事は正しい。
最上が使用したのは手札コストやライフコストのあるカウンター罠を34枚と6枚のカードを無理矢理詰め込んだデッキだ。
つまり黒原が能力を使わなければそのカウンター罠しか手札にこない可能性の方が遥かに多い。
この状況は黒原が全力で能力を使い、デッキが40枚ぐらいで、増殖するGを撃ち、尚且つD.Dクロウ等の手札誘発でレベル・スティーラーの特殊召喚を妨害する事が無い、という4重の関門があり、そもそもの大前提として先攻が取らなければ意味がない。
それら全てが揃う事などあまりにも都合が良過ぎる。そんなバカみたいな、奇跡ともいうべき物に全てを賭ける事を黒原は正気ではないと言い切った。
「ああ、私も同じことを言ったよ」
「まさか、全部水田裕の作戦だと?」
黒原はおぞましい化け物でも見るような視線を裕に向け、呻く。
最上はそれを見て同意する。
―――私も最初そう思ったっけ、当たり前だよなぁ。
「ショップにラヴァルや真六部衆のカードを出してたのも僕に大量の特殊召喚をさせて制圧するデッキを組んでいるように思わせたかったからか、そんな馬鹿な!?」
最上は笑い、水田はざまぁみろと言う表情で黒原を見る。
「お前も能力を過信しすぎだ、水田を警戒し私を確実に殺すために能力を本気で使いチートドロー、チートカードがあるから死ななければいいやなんて甘えた考えを持ったからその油断を突いたんだよ! てめえが馬鹿にしたこいつの願いと私を倒さずバリアン世界で苦しんで死ねなんて甘えた考えを持ったお前の馬鹿さ加減で、私達の勝ちだ!」
最上の高らかな勝利宣言が響き渡り、それを認めることのできない黒原は更に大きな声を上げる。
「先攻を、先攻をお前が取れるって信じたのか、お前が!? こいつを!?」
「いいや、私はこいつを信じたりはしない」
最上は首を横に振り、否定の意思を示す。
最上が信じるのは自分だけだと。
「だけど、デッキとこいつの持つ願いに私は負けたから、だからそれに賭けたんだ、私はそれを踏みにじろうとして負けたから、お前も私と同じ様に、負けろッ!」
裕が願って作り上げた半分のチャンスをくぐり抜け、最上が全ての因縁に決着を決めるべくカードをかかげる。
最上の手にあるのは必殺の一撃だ。
荒れ狂う竜巻を切り裂き、そのカードは発動する。
「デッキごと、更地になれ! 手札抹殺を発動!」
最上の手札は1枚、よって1枚ドロー、黒原の手札は23枚、それら全てを捨て、同じ枚数だけドローする。よって23枚ドローすることになる。
デッキに19枚しかない状況、23枚をドローしないといけない。もしも引けなければどうなるか。
「水田っ、最上ぃいいいいいい!」
黒原の叫びはデッキ切れによる敗北のブザーと共に高らかに響き渡った。
●
「こんなくだらない戦略で僕が負けた、そんなのあり得るわけない!」
崩れ落ちた黒原はこの敗北が認められないのであろう、地面に拳を叩きつけ叫ぶ。
「ところが残念、これが現実、どうだ? 今まで馬鹿にしてたやつの筋書の上で踊っていた感想は? ねえ今どんな気持ち? どんな気持ち?」
心底楽しそうに嗤いながら死体蹴りを繰り出し、最上は笑う。
「ありがとう、ふざけたチートに戦いを挑んで全力で勝った時の楽しさ、これはいいね、ジャイアントキリングがこんなに楽しいとは思わなかった。ありがとう黒原、この勝利で私はお前から受けた負ける屈辱を全て許そう、非常に楽しいなぁ!」
「最上ぃ!」
掴みかかろうとする黒原、すでにその足は燃え始めている。
「さあ、最後はお前が招いたバリアンの法で燃え尽きろ、敗者必滅だ!」
黒原の全身は燃える、人型の松明の様に燃え始め黒原はその熱に道路に爪を立てもだえ苦しむ。
そして憎悪と殺意を込めたタールの様にねっとりとした視線をこちらへと向け、
「一見、正しいように思えるその選択、実は大きな間違いだ」
「なんでその台詞をここで使う?」
「なんでだろうなぁ、せいぜい、僕が立てた筋書に苦しめ」
最後の最後まで黒原はこちらを睨み付け、そして消えた。
●
そしてアストラル世界では赤黒の軍勢の進行スピードが格段にアップした。
それは今までの軍勢に新たに加わったデッキタイプの性だ。
今までの敵はモンスターによるビートダウン戦法が主であった。
そのためにアストラル世界の兵士達でもメタカードを投入し戦ってこれたのだが、新しく加わった3デッキがそのバランスを一変させる。
チェーンバーンがワンショットキルの猛威を振るい始めた。
腹にガトリング砲を装備した鬼が笑いながら銃撃を乱射し、それに紛れて邪悪な思念に染まった鳥のような嘴のある翼竜が暴れまわり、壺が舌を出し理不尽なワンキルをばら撒いていく。
アストラル世界の状況は地獄絵図と言ってもいいほど混迷を深め、アストラル世界の大地に深くカオスを浸透させていった。
それは黒幕を気取った男の最後の願いだ。
自分の思い通りにならない世界はいらない、思い通りにならないやつは苦しめという独りよがりな願いがバリアン兵へと宿り全てを塗り潰していった。