クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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逃走

 六十郎の張った煙幕に紛れて小鳥達は遊馬の落下した穴に駆け寄るった。

 穴は深く、底は僅かに光が見える程度であり、穴に落ちた遊馬の安否は分からない。

 まず初めに動いたのはカイトだ。

 カイトはオービタルと共に穴の中に降りていこうとハンググライダー用の装備を始めている。そして次にⅣはナッシュとなった凌牙の元に向かっていった。

 煙幕の中、ナッシュの声が周囲へと届き、辺りに無数の人の気配が生まれ始める。

 

「バリアン兵、他の地下への道を探し遊馬を追え!」

 

 周りに足音が聞こえ始め、Ⅴは立ち上がる。

 決闘盤を手に動く彼の背中を見て、Ⅲやアンナ、ロビン達が決闘盤を手に歩き始めた。

 皆が望んでいるのは1つ、遊馬をこの場から逃がすための時間を稼ぐ。そのために彼らは捨て石になろうとしていた。

 

「カイト、遊馬を頼んだぞ」

 

「クリス……ああ、分かった」

 

 頷き、カイトが穴へと飛び降りようとしたとき、風が吹き荒れ、煙幕が全て晴れてしまう。

 煙幕が晴れた天を見上げれば3本の光が立ち上っているのが見える。

 恐らくは散り散りになっていたバリアン七皇の仕業であろう。

 そして煙幕が晴れ、アリトもこちらへと走って来るのがカイトの視界にはいり 

 

「行け、カイト! 遊馬を頼んだぞ!」

 

 Ⅴの言葉に背を押され、カイトは小鳥達と共に穴へと身を投げる。

 

「みんな、無事でいて」

 

 小鳥は上に残った皆の無事を祈りながらかなり深い穴の中を落下する。下を見れば虹の光が弱々しく瞬いているのが見える。

 虹クリボーだ。

 遊馬を背にのせ絨毯の様に広がっている虹クリボーの上に落下したカイト達はすぐさま目を閉じている遊馬へと駆け寄る。

 虹クリボーの体が光っているおかげで遊馬の体に傷を無いか確認することができ、体中を見るもDパッドが画面が点灯しているぐらいで外傷らしきものはなく、爆発の衝撃で気絶しているだけなのだろう。

 

「遊馬は無事だ、だがこのままでは折ってくるバリアン兵に囲まれる危険がある」

 

 アストラルはカイト達の横に現れる。

 小鳥がどこに行っていたのかと思ったが周囲を警戒して偵察に行っていたようである。

 

「わわわわ!?」

 

 と、小鳥たちの背後で声が上がり虹クリボーの上に誰かが落ちてくる。

 2人が急いで背後を見れば響子が腰をさすりつつ立ちあがるところだった。

 

「響子さん、どうして」

 

「私もいるよ!」

 

 それに続くように彼女の姉の麗利が空中で体を2回転し猫の様に音もなく着地した。

 他の人間が来て安心したのだろうか、遊馬達を乗せた虹クリボーは小さくなり、手のひらサイズに収縮し、少しふらつきながらも頭の角の様な器官を光らせながら進んでいく。

 

「藤田プロに下にも敵がいるかもしれないから行ってやれって言われたんだ」

 

 落下し風に煽られた髪を手櫛で元に戻しながら麗利はこちらへと笑いかけて、虹クリボーが飛ぶ方向へと先陣を切って走っていく。

 辺りを見回し、聞き耳を立てるように耳の横に手を置いた麗利は大きく腕で丸を作りカイト達を呼ぶ。

 それを見たカイトは意識を失っている遊馬を肩に担ぐと虹クリボーに導かれ歩き出した。

 小鳥は今、激戦が繰り広げらえているであろう上を心配そうに眺めぽつりとつぶやく。

 

「上のみんな大丈夫かな」

 

「さあーね、案外勝ったり負けたりしてるかもね」

 

 麗利は後ろを振り向いたりしながら明るい声で言う。その声色からは心配しているような様子は窺い知ることは出来ない。

 

「そんな」

 

 どこにバリアン兵がいるか分からないため大きな声を出せないがそれでも小鳥は軽い言葉に気分を悪くする。

 

「バリアン七皇と戦うんだ、Ⅳは自分の命をかけて凌牙に戦いを挑むように、誰もが負けて消える可能性も覚悟しているはずだ、そして皆が遊馬に希望を託している、こいつがなんとかしてくれるって言う思いを」

 

 それからは無言のまま少し歩き続ける。

 洞窟の奥が騒がしくなってきた、大量の人が走り回る音が聞こえてくる、そしてそれはすぐそばに聞こえてくる。

 慌てた皆は背後へと方向転換しようとするが背後からも足音が大きくなり逃げ道が無くなってしまう。横を見るも大きな水晶が立ち並び隠れた所ですぐに見つかってしまうだろう。

 戦うべきかと決闘盤を取り出したカイト達の横、灯りが出現した。

 水晶の奥より青白の手が伸び、ランプの様な物から光を放っている。

 何者かが現れる事を警戒したカイトは片手で小鳥たちの歩きを止め、オービタルが目の部分から光を照射し灯りを持つ人物を照らす。

 ランプを持つ人がこちらへと姿を現す。それは青白の女性型、アストラル人だ。

 

「お前は?」

 

「私の名前はエナ。貴方の味方です、さあこちらへ」

 

 足音はどんどん大きく人数が増していく。

 決断は素早かった。

 カイト達はエナに着いていくことを決めエナの現れた水晶の奥を見る。

 水晶の奥には扉があり、通路がある。

 いくつもの扉が開かれてはカイト達が通り過ぎると閉まっていく。だが背後より追ってくる足音の速度は僅かに遅くするだけだ。

 いくつもの扉を背にしカイト達は青白に輝く水晶のある部屋へとたどり着いた。

 そこには巨大な水晶があり、その中央にはカードがあり青白の光を振りまいている。

 

「これは?」

 

 カイトはその光景に目を奪われる、何故か目を離す事の出来ない。

 

「これは崇高なる竜皇の残滓です、何者かによって竜皇の一部の力を簒奪され、この竜皇は眠りにつきました。この世界ではもおう目覚めることは無いでしょう」

 

 エナの言葉にカイトは銀河眼の眠る水晶へと近づき、手を伸ばす。

 彼のデッキに眠る銀河眼がこのカードを手に取れと主に促すのを感じている。そして、水晶に触れようとする、だがその手を阻むカードがある。

 オーバーレイユニットのように水晶の周囲を回るカードはカイトの行く手を遮り実体を成す。

 それは装甲を纏う銀河眼の光子竜の様な竜だ。触れるな、と拒絶の意思を示す様にカイトの前に立ち唸り声を上げる。

 カイト達が通って来た背後の扉が大きく打撃され揺らいだ。

 

「皆さま、早くこちらへ!」

 

「待て!」

 

 エナの声に耳を貸さずカイトは遊馬をその場に置いて銀河眼へと1歩踏み出す。

 オービタルは説得しようとするが長年の経験から説得の言葉を聞かないだろうと判断し、リアルファイトモードへと変形する。

 長いアームを伸ばし扉を押さえつけ、片手をドリルへと変え、その場に体を固定し扉のつっかえ棒になる。

 打撃は連打され水晶で出来た扉が一部、砕け始める。

 

「カイト様! 長くは持ちません、お早目に!」 

 

「……待っていろ、すぐに終わらす!」

 

「カシコマリッ!」

 

 オービタルの行動に小鳥達も扉を抑えに回る。

 

「銀河眼、俺は、お前を利用していた」

 

 カイトは更に1歩踏み出す。

 装甲を纏う銀河眼の口より細い光線が放たれカイトの足元を焼く。

 それでもカイトの足を止めることは出来ない。

 

「弟を助けるために父親から渡されたお前の一部である銀河眼を使ってナンバーズを持っている者を狩り続けた」

 

 銀河眼は何も語らず簒奪者の言葉を聞く。

 

「他人を傷つけてでも自分の家族を助けたかった、その欲望や強敵と戦うために力を望んだ感情はバリアンの力を呼び寄せお前にバリアンの力で強化した……」

 

 超銀河眼の光子龍は銀河眼を敵対したであろうバリアンで強化した姿だ。アストラル世界の竜からすればそれを許せるわけがない。

 それでもカイトは手を伸ばし、自分の本当の気持ちを崇高なる竜皇へと語る。

 

「だがこのままでは世界がたった1人によって終わってしまう。ヌメロン・コードを手にし過去も未来もその男の良いように塗り替えられ、全ての意思も感情も意味を成さなくなってしまう。それを止めるためにお前の力を俺達に力を貸してくれ!」

 

 簒奪された力より生まれた1枚のカードによってカイトは導かれ仲間と出会い戦いこの場所までたどり着いた。

 その過去を無かった事に出来るわけが無い、それほどまでに素晴らしく掛け替えのない思い出なのだ。

 この世界とその世界に生きる意思と感情を守るためにカイトは頭を下げ必死に叫ぶ。

 その思いをくみ取ってか、カイトのエクストラデッキより1枚のナンバーズが浮かび上がり実体化する。

 

「ドラッグ・ルーオン、いやジンロンか」

 

 カイトが目を細め事の成り行きを確かめる中、乳白色の龍は銀河眼へと向き合い人の声で語り始める。

 

「確かに人間は感情で間違うだろう、じゃがそれを未来に進む力とする彼の意思は本物じゃ、どうじゃろう、彼の意思を信じてみると言うのは?」

 

 ジンロンは龍の姿でカイトを阻む銀河眼へと話しかける。

 

「お前も感じているはずだ、アストラル世界は人間の可能性を認め変わろうとしている。カオスを許容し未来と可能性の為に闘う事を選んだ。それは儂等の願った事ではないか、孤独を嫌い、寂しいと言う感情から世界を作った。そしてその作り上げた世界の未来を良くしていく、そのような意思を持った者にのみ姿を現そうと決め、力をナンバーズとして分解しカオスもアストラル世界の力を、2つを内包する事の出来る人間を作り上げたではないか」

 

 カードは悩むように停滞し、カイトの手に収まる。それとともに巨大な水晶に罅が入る。

 

「もう、ダメ! きゃああああ!?」

 

 小鳥たちが必死で時間を稼いでいたが扉は破られ大量のバリアン兵が決闘盤を片手になだれ込んでくる。

 それと同時に水晶が砕け1枚のカードが飛翔する、そして7つの青白の星が浮かび上がり、莫大な光の中より僅かに姿を現した竜皇の放った7光によってバリアン兵は片っ端から消滅させられた。

 

「これが、崇高なる竜皇の力!」

 

「行きましょう、ここも追手が来ます」

 

 カードは眠りにつくように光を失い白紙のカードとなってカイトの手に収まる。

 新しく手に入れた2つの力、そしてジンロンを見上げ、カイトは頷き、遊馬を背負い直して走り始めた。

 

                     ●

 

「へえ、やっぱり僕って運がいいなぁ」

 

「っ!? あとでかける」

 

 最上は電話を切り即座に踵を返し走り始める。必至であり最上の表情は他人にはあまり見せられないほどの形相だ。

 

「待て!」

 

 追ってくるのを声で感じ、最上は近くにあった学校へと駆け込んだ。

 無駄に広いグラウンドを走り抜け、

 

「割れろぉ!!」

 

 犯罪ではあるが窓ガラスを足元にあった石で叩き割り、体に切り傷が出来る事を無視し飛び込み、そのまま教室を走り抜け廊下を出て何個目かの教室に転がり込んだ。

 荒い息を吐く。汗で服は体に張り付き不快感がさらに上がる。

 

―――逃げ切れたか?

 

 外の様子を窺えば黒原が追って来ていた。決闘盤を手に装着し、1枚のカードを手に取ると決闘盤に叩きつけた。

 

「召喚」

 

 声が何故かはっきりと聞こえた。そして召喚されたのは腹にガトリング砲の付いた軍服の悪魔の姿だ。

 それを見たとき最上は思わず口をあんぐり開け固まった。

 そのモンスターの姿は見覚えがある。

 ライフ4000の世界においてワンキルの鬼、ヴェーラーを握っていなければ即死する性能を持つ、とあるリアリストの使っていたカードだ。

 

「ふざけるなっ、なんでお前がそれを持っている!?」

 

 悪魔の肩の弾倉に弾が装填されていくのを最上は視認し教室の奥へと走る。

 動き始めた最上を視認したのか先ほどまで最上が隠れていた窓枠、教室の机、扉が銃撃音と共に穴が開いていく。

 

―――攻撃が実体化している、それにガトリング・オーガ!? この世界にはないカードの筈だ!

 

 最上は記憶が抜き取られているためあまり覚えがないがアレが登場したのは1作品前である事、そしてこの世界で一応探したが無かったことは覚えていた。

 だが黒原はあのカードを実体化させてきた。

 黒原は決闘に使う能力しか持っておらずカードを実体化させる力はないはずだ、つまり、

 

「ドン・サウザンドか!」

 

 カードを実体化させる力を与え、それと同時に存在しないカードを黒原と最上の記憶から作り上げたのだろう、と最上は推測する。

 最上は前世であのカードぶっ壊れて使いたいな、これを使えたら楽しいだろうなぁとアニメを見て妄想していた日々があり、その効果を覚えていた。そしてそれが使われたのだ。

 原因は分かった。

 次に最上が考えるのは黒原がどのカードの効果を覚えているかを知らねばならないと言う事だ。

 

「ドン・サウザンドめ、余計な事しかしねぇ! というかGXか、それとも無印も覚えてたら勝てるわけが無いぞ!」

 

 黒原がもしもぶっ壊れというレベルではない邪神ゲーやシュトロームベルクの金の城等の無印、時の女神の悪戯、命削りの宝札等のドローカードや幻魔の扉があるGXまでを知っているのだとしたら、そして敵がその辺りを使うとしたら敗北以外の未来が見えない。

 

「……っ」

 

 ガトリング・オーガの掃射は止まらない、球は無限に装填されているのかガトリング・オーガのレバーを回す手は止まらない。

 廊下がガラスで煌めく中、最上は意を決して窓の外をのぞく。

 こちらを見る黒原の顔が確認できる。こちらの顔を見て楽しんでいる表情だ。

 

「くそったれ!」

 

 目と鼻の先に銃弾が叩き込まれ最上は即座に移動する。

 地の利はこちらにあり逃げ切る事が出来る、だがそれは目的無く敗北から逃れるための時間稼ぎに過ぎない。

 こそこそと逃げ回る事を気に食わないと思うも打つ手がないのだから。

 

―――望み通りのドローが出来ると言うだけならばいくらでも手はあるんだが!

 

 それだけならば相手のドローしたカードを強烈なはたき落としやウィルスカードを使って捨てさせる事や天変地異でジャッジキルさせればいい。

 だがジャッジはおらず、その対策カードが引けず先攻を確実にとられ、他の世界のカードがある時点で意味は無くなる。

 現状、水田の力を使えば先攻後攻は運試しになるかもしれない、初手が少し悪くできるかも、しれない。

 だがあくまでも可能性だが命削りの宝札や運命の宝札のようなドローカードが黒原のチェーンバーンデッキにあるとすれば、最上が無策に挑んだところで先攻後攻かかわらずガトリング・オーガでワンキル、相手の遊び心からヴェーラーを初手で握れていたらチェーンバーンで焼き払われるであろう。

 

「何、このクソゲー!?」

 

 状況確認するだけで死にたくなるほど理不尽だ。

 校舎内を走り回りつつ必死で頭を巡らせるも良い案は浮かばずにいる。走り回り後者の壁に体を再び預け息を整えているとDパッドが震えた。

 画面を見れば水田の番号が表示されている。

 

「水田か」

 

「最上、無事か?」

 

 水田の声は荒い、忙しそうに走る足音からどこかに移動しているのだろう。

 

「なんとかね、でも黒原がガトリング・オーガを使ってきやがった」

 

「はぁっ!? んなぶっ壊れカードまで使ってきたのか」

 

 水田も驚きの声を上げる、それほどまでに事態は切迫している。

 最上は力を奪われ能力は無い状況であり今は水田が最後の希望である。

 

「何か良い案は無いか?」

 

 水田が自分を倒したときのあの頭のおかしいとしか言いようのない凄まじい1手、最上はそれに縋るしかない。

 本当にあるならば何でもしようと考える。自分が助かる為ならばなんでもする、最上はそう考える。

 電話口でお互いの荒い息のみが満ち、そして考え込む様な雰囲気が水田から伝わてくる。

 

「…………お前から黒原の能力を聞いてどうやったら今の俺の能力で勝つことが出来るかずっと考えていた。多分、いや今の俺達にはこの方法しかないと思う」

 

「あるんだな!?」

 

 最上はDパッドに、水田の持つ策に縋り付く。

 

「あるよ」


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