クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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希望と悪意 上

 裕は家に無事に戻り幸いなことにお湯が出るため血だらけでボロボロになった服を脱ぎ風呂に入っていた。

 学校から出た最上と裕は用心深く見回すも町には人影は全くなく洗脳された決闘者の姿は見えない。

 最上もカードを探しに自分の家に戻っており裕は今は1人だ。

 腕の傷がじんわりと痛む中、裕が思い出すのはもう一人の自分だ。世界の全てを敵に回してでも奪われた相棒を取り戻そうとするもう1人の自分が何を考えているのかを想像する。

 

―――ヌメロン・コードで盗られた過去を塗り替える? どうやってするというんだ、ドン・サウザンドから奪う気か、それと塗り替えてやるから手を貸せって約束しているのか、だったらそこに……いや、無理か。

 

 裕はもう一人の自分を説得する方法を考える事を無駄だと切り捨てる。

 自分が同じ立場ならばドン・サウザンドに利用されている事が分かってて、約束が破られるかもしれないと分かっていても、それしか相棒をもう一度手にする道がないならば大切な相棒のために自分だって同じことをするからだ。

 最上に利用されていた様にもう一人の自分は腹の中で恨み事と嫉妬を呟きながら寝首を掻く隙を伺い続けているのだろうか、それとも約束が叶えられる事を祈っているのだろうか、そうまで考えて裕は立ちあがる。

 もう1人の自分が使っていたデッキを探し、壊れた自分の決闘盤の代わりを探しに裕は浴室を出た。

 

                   ●

 

 最上はマンションの屋上に座って眼下に広がる赤黒に塗り潰された町を眺めていた。

 最上の部屋は家具からカーペットまで全てが跡形もなくなっていた。

 家具も部屋の何もかもを奪い去られ動かせない物は破壊され燃やされていた。

 前世から持ってきたカードは全てが燃やされておりクリフォートと相性の良いカードを見つけることは出来なかった。

 つまり最上はアポクリファから奪った超重量級のこのデッキで戦わなければいけない。

 そして自分にはそのドロー力が無くなっている状況であり手に入れたばかりの敵が使っていたデッキを信じることが出来ない。

 そもそも前世で趣味と自分の満足のために始めたカードゲームであり、そのデッキを子供のように信じるなんてことできる訳がない。

 デッキと持ち主に絆があることを認めてはいるが自分がデッキを信じることはないだろう。

 

「あぁ、ダルい」

 

 口ではそんな事を呟きながら最上は今後の復讐計画を考えていた、もちろん相手は黒原だ。

 だがハイパーチートである黒原に勝つ手段が見つからない。

 

―――ドローするカードは思い通りで、対戦する相手は黒原の行動を妨害するカードを引く事が出来ず、黒原の先攻が確定、そしてチェーンバーンでワンショットキル、どうあがいても勝てる気がしないんだよなぁ…………。

 

 黒原の持つぶっ壊れにもほどがあるというよりデュエルモンスターズという個人対個人の対戦カードゲームをただの作業ゲーにするぶっ壊れ能力に対抗する手段と言えば水田の持っていたスキドレに似た能力だ。

 だが今の現状、初手を悪くする程度の今の水田の力量では百回やっても1回だけ後攻の1ターン目で死なない程度でしかない、次のターンになった瞬間、消し炭になる。

 水田と最上でタッグ決闘を挑んだとしても、特殊召喚をした瞬間に増殖するGを打たれるだけで1枚目のドローでかかし、2枚目でブラックホールが引かれ、次のターンに必殺のドローカードを引かれるだろう。

 

「勝てる気がしない……」

 

 せめてナンバーズがあればなぁ、と呟きつつ、カードショップを見てこようと思い最上は立ち上がりエレベーターへと向かう。

 幸いな事に電気はまだ生きておりエレベーターや冷蔵庫は動く状況だがいつまで続くかは分からない。早めに事態を何とかしないとどうしようもない状況だ。

 最上がマンションを出て歩いているとDパッドに連絡が入った。

 

「誰だ?」

 

「水田だ、そっちは無事か?」

 

「ああ、私は無事だが私の部屋が無事じゃなかったからカードショップにでも行ってカードを漁る気だ、そっちは?」

 

「ああ、父さんの使っていた決闘盤があったからそれを借りてる、あとはデッキだけだ、大体は見当がついているし、探しているとこ」

 

 がさりごそりと物を掻き分ける音が非常にクリアに聞こえる、それはバリアンが近くに居ない事を示している。

 ふとカイト達はどうなったのかと思い立ち最上は聞く。

 

「カイト達に連絡は取れたか?」

 

「いや、あっちとは連絡が繋がらない、カイトや遊馬、鉄男達にも連絡してみたが繋がらない、無事だといいんだけど」

 

「案外、絶体絶命のピーンチとかにでもなってるんじゃないか?」

 

「なってるかもしれないけどあいつ等なら大丈夫だよ」

 

 根拠のない言葉だ、何も信じるべき証拠がないのに水田の言葉には自信がある。

 だが最上はそれについて問わない。

 絆だの信じているだのと最上が全く信じられない言葉を言われるだろうと予測したからだ。最上はため息を吐きつつカーブミラーを見るとカードショップが見えてきた。

 周囲に人影はおらずカードショップも窓ガラスが割れたり血が見えたりはない。

 一応警戒しつつカードショップの扉の前に立ち扉を開ける。

 

「ははは、そうだといい」

 

 最上の言葉は止まる。

 扉を開けるとまず目に入るのは赤黒の壁だ。

 そして店の奥には決闘スペースがある、そこに黒原がこちらを笑顔で見つめていた。

 

                     ●

 

 カイト達が意識を失っていたのはほんの一瞬だった。

 ベクターとナッシュがゲートに入ってからすぐにカイトが意識を取り戻し状況を確認する。

 周囲にはバリアン兵が氷河を背に折り重なっており何かが衝突したであろう場所には大きなクレーターがある。

 何かが落ちてきた衝撃で決闘が中断されたのだろうか、バリアン兵の決闘盤からも小鳥達の決闘盤も光を失っている。

 倒れているバリアン兵の様子を確認すれば意識を失っており今ならば皆を起こし逃げれるかもしれない。

 カイトは倒れている皆を起こし決断を迫る。

 

「急げ、俺達にある選択肢は2つ。アストラル世界に行くか、この真っ直ぐに走る渓谷を駆け抜けるかだ」

 

 氷河の渓谷の上でも騒ぎになっているのだろう、声が聞こえる。

 よって上にある飛行船には戻れない。

 遊馬達の家族を避難させた扉の周りには大量のバリアン兵が重なっており開けることは出来ないとすれば逃げる道は2つしかない。

 

「早くしないとバリアン兵が下りて来るぞ」

 

 周りのバリアン兵を見れば瞼や腕がピクリと動く者がいる、目が覚めるのは時間の問題だ。

 

「アストラル世界に行くしかないか」

 

 この状態で渓谷を走り切ることは出来ないだろう、そう判断したⅤは装置に向き直る、ベクターや裕が座っていた場所に人影はなく周囲に気配はない。

 そして上より声が大きくなっていく。喧しく聞こえるほどにすぐそばに大量のバリアン兵がいる。

 

「走れ!」

 

 Ⅴとカイトは声を押し殺して指示をだし、それと同時にバリアン兵が飛び降りたのが見える。

 降って来る数は今までと何ら変わりなく数え切れない、そして更に上からはまだ声が聞こえる、つまりは倒したところであと何百とバリアン兵が居るという事だ。

 落ちて来るバリアン兵を避け、時にはオービタル7が変形し物理的直接攻撃を加えたりして時間を稼ぎながらも走り続け、カイト達は装置の前にたどり着いた。

 遊馬を送り出したときは青白だった光は赤黒に変色しており見る影もない、忌避感を覚えるような色だが立ち止まっている時間はない。

 カイト達は転がり込むように光の中に入っていく。

 その中で堺だけは後ろをじっと見ていた。

 渓谷を埋め尽くすバリアン兵とまだ上に居るであろう無数の軍勢を見、Vへと向き直る。

 

「Ⅴ君、あのスイッチを貸してくれ」

 

「っ!?」

 

 Ⅴはその言葉に目を見開く、スイッチとは氷河に取りつけた爆弾を起爆させるために仕込んだものだ。

 もとよりアストラル世界に行けるこの装置だが異世界の未知の技術によって逆に利用され、アストラル人が大量に乗り込んで来たり、今の様にバリアン人に利用される可能性をトロン一家と堺達で話し合い、もしそうなった場合は装置ごと氷河に埋めてしまおうと考えていた物だ。

 堺はそれを貸せと言っている。そして決闘盤を構えている。

 それが意味するのは1つ、殿を務めると言う事だ。

 

「早く、時間が無い」

 

 Ⅴは一瞬だけ躊躇し、そして走ってくる大量のバリアン兵を見て起爆スイッチを渡す。

 

「ああ、あとⅤ君の判断で遊馬君に伝えてくれ、あまり力になれなくてすまない、そして子供の君達に全てを託してすまない、大人なのに君達の逃げる時間しか稼げなくて申し訳ない、私が強ければここで逃げるような選択をしなくて済んだのにな」

 

 心の底からすまなさそうな表情を見せ堺はボロボロになった帽子を被りなおす。

 

「じいさん、何やってんだよ、早く来いよ!」

 

 堺が来ない事にしびれを切らした藤田が駆け寄る、そして堺の手に握られたスイッチを見た。

 そして堺の意思を理解した、一度決めたら梃子でも動かない恩人に説得することは出来ず、時間もない。

 だから藤田も決闘盤を手にし堺の横に並ぼうとする。

 

「来ないでくれ」

 

「なんでだ、じいさん!?」

 

「私が負けたときここを爆破する、そのとき君はここに居たら私が躊躇する、だから行ってくれ」

 

「負けるなんて言うな、あんたは強いんだろっ!、研究を成し遂げるんだろ、あとから、追い付いてこいッ」

 

「ああ、必ず行くよ、だから私の託した希望を守ってくれ」

 

 鼻声になりながらも恩人から託された者を守るために藤田は後ろ向きに走り出す、Ⅴも堺に一礼し光へと身を投げる。

 それを見送り、堺は笑う。

 大切な希望を守れたと、まだ全てが終わってなどいないと、私が居なければこの希望は繋がらなかった等と大げさな事を考えながらも堺は大切なデッキと魂のカードであるデュランダルを撫で、

 

「さあ偽りのデッキと偽りのナンバーズを持つ者達よ、決闘だ。私が負けるまでこの場所を通れないと思え!!」

 

                    ●

 

 焔と溶岩、そして吹き上がるカオスの力がアストラル世界を汚していく。その中をアストラルと遊馬はオーバーハンドレッド・ナンバーズの元へと走っていた。

 なぜこの世界に居るかは分からないが彼らが実体化させている2体は明らかに敵意のある攻撃が行っている。

 

「アリトがこんな事するわけねえ」

 

「ああ、そうだな、だとすればドン・サウザンドに彼らも操られているのかもしれない」

 

 遊馬はエクストラデッキより2つのナンバーズを取り出す、どちらも強力だが出しにくいカードだ、

 とくに三太夫はエクシーズ素材として獣族縛りがあり今の遊馬のデッキでは出すことはできない。

 なにか良いカードがあったっけとサイドデッキを探り手持ちのカードを見るも何もない、どうするかを考えていると眼の前の建物が吹き飛んだ。

 大量の破片を撒き散らしながら砕けていく白い建物の中より地響きを立てながら現れるのは青紫色の巨人だ。

 その肩に乗るのは遊馬にとって見覚えのある顔がある。

 

「アリト!」

 

 服装は大人びているが前に見たときとなんら変わらない様子だが不穏な気配も漂わせている。

 アリトの眼下ではバリアン兵によって更なる破壊が繰り広げられていく中、アリトは友達に在ったような気軽さで手をあげる。

 

「おお、遊馬か、ひっさしぶりだな!」

 

「どうしてここに?」

 

「お前が使ったゲートを使ったんだよ、今頃お前の仲間は人間世界で全滅しているだろうな」

 

「なっ!?」

 

 遊馬は自分が来た方向を見る、ちょうどそのときだった、黒赤の光が翼のように噴出するのを。

 全てを燃やす炎のように黒赤が僅かに残っていた青白の光を塗りつぶしていく。

 

「なんだこれ!」

 

「これはドン・サウザンドの気配、それにナンバーズ!?」

 

 アストラルが何かを察知したように空を見上げる、その先を飛ぶのは紫色の光だ。彗星のように真っ直ぐに空を飛び、建物の陰に隠れた。

 そしてそれを追う様にもう一度カオスが噴出する。先程のカオスの噴出よりもずっと強く濃度の強い力が更に塗りつぶす力を強化していく。

 アストラル世界の大気はそれに怯えの感情を示すように大きく鋭く吹き荒れていく。

 

「今度はなんだ!?」

 

「なんという凄まじい力だ、これはいったい?」

 

「これは⋯⋯ナッシュの気配か、アイツ無事だったんだな」

 

 アストラルの疑問の呟きに答えるのはアリトだ、安堵するように胸を撫で下ろし、腕を組み自慢げに喋る。

 

「ナッシュだと!?」

 

「ああ、そうだ、バリアン七皇のリーダーだ! 遊馬、アストラル、ナッシュが来たからにはお前らはもう終わりだな!」

 

 空を見上げれば青、黄色、水色の光が3方向に分かれていく。そしてその先で自分のオーバーハンドレッド・ナンバーズを呼び出し何かをあぶりだそうとしているように攻撃を放つ。

 両端の大鎌で水に刃を通したように抵抗無く建物を両断する黒服い礼服に赤黒のエネルギーラインを光らせる女性、藍色の体色の堕天使が振るう大きな槍より放たれた悪霊達がアストラル人達を飲み込んでいく。

 そして破壊の中で眼を引くのが赤黒の映える黒の槍術士だ。

 シャークの持つブラック・レイ・ランサーと似たような姿だが発せられる力の量はまるで違う。その槍より放たれた光線は全てを切り開いていく。 

 

「このままじゃアストラル世界が……おい、アリト!」

 

「なんだよ? 今、良い所なんだぜ」

 

 全てが壊れていく光景を見てアリトの口許には笑みが浮かんでいる。

 壊れていくのが面白い、人が苦しんでいるのが楽しいというように。

 

「アリト、お前いったい、どうしちまったんだよ、いつも熱い決闘をしたいって言ってたお前がなんでこんな」

 

「ああ? 熱いじゃねえか、どっちも本気で相手を殺すために戦ってるだぜ。手加減もなし全力の全力でぶつからなくっちゃ死んでしまう、そんなすげえ戦いがあちこちでやってんだ、滾ってくるよな!」

 

 帰ってくるのはアリトの本心の言葉だ。

 心のそこから楽しんでいると伝わってくる、それが普通の戦いならばよかったのだが今行われているのは戦争であり、死闘だ。

 以前言っていた互いの本気をぶつけ合う熱い決闘とは程遠いものであり何かをされたということに他ならない。

 

「お前はそんなことを言うような奴じゃないだろ、思い出せよ、俺との熱い決闘を!!」

 

「ああん、俺があの時負けた決闘か……そうだな、あれもすっげえ楽しかった」

 

 言葉が通じたかと一瞬だけ思わせ、

 

「だけどこっちの戦いの方がずっと楽しいな」

 

 叩き落す。

 アリトの楽しい決闘がお互いに全力でぶつかり合う物ではなく一方的に蹂躙し相手が抗うのを更に全力で叩き潰すことを喜ぶ事だと塗りつぶされている。

 

「アリト、くっ」

 

「遊馬、どうする?」

 

 アストラルは遊馬へと戦うのか戦わないのかを問いかける。

 

「分かってる、俺は、アリト、俺と決闘しろ!」

 

「ほう、いいだろう、この前の負けた雪辱を」

 

「その勝負、俺が受ける」

 

 その声が響いてきたのはアリトの背後だ。

 遊馬がそちらを見れば黒い槍術士の手に乗るのは金の装飾を体のあちこちに付け、胸にバリアンの紋章をつけた赤いマントの男が赤と青の色違いの瞳を遊馬へと向けている。

 

「ナッシュ、そりゃねえぜ、これはあいつと俺の いいぜ」

 

 途中よりまるで思考が別人になったように平坦な声でアリトは一歩下がる。

 そのことに遊馬は疑問が生じるがそれを聞く暇はない。ナッシュは決闘盤を構え遊馬へと近付いてきたからだ。

 

「お前がバリアン世界のリーダーか!」

 

「……ああ、そうだ」

 

 一瞬言いよどんだ様に間が開きナッシュは頷く。

 

「だったら話がある、俺達と協力して3つの世界を救おうぜ」

 

「無理だ」

 

「なんで!?」

 

「アストラル世界が信用ならないからだ。世界の1部とそこに住む人間ごと危険だと思って捨てて、邪魔になるから世界を壊しに来る連中と一緒にいるやつの話なんて信じられるものか! どうせ、危機が去ったら今度は跡形も残さずに消し去るつもりだろ」

 

「そんなことは……」

 

 ありえないとは言いきれない、エリファスはカオスの力は認めた、だがバリアン世界を壊す使命を撤回したわけではない、つまりはアストラル世界の害になるのならば容赦なく切り捨てる決断をするだろう。

 

「それに俺達はアストラル世界に進軍できた、このままアストラル世界をカオスで塗りつぶしバリアンの物にすればバリアン世界とアストラル世界の危機も収まる、遊馬、お前がこの後戦う必要はない、全部俺が終わらせる」

 

「お前はいったい?」

 

 それは優しい言葉だ。

 こちら側を気遣うような言葉に遊馬は面食らう。

 敵対しているはずなのに向けられたのは敵意ではなく気遣い、そして友人を見る眼だ。

 

「俺は」

 

 ナッシュの足元から光が漏れる、それは赤黒の粒子になり別の形をつくりあげてくる。

 紫色の服装だ。そして見慣れた顔が遊馬へと微笑みかける。

 

「神代凌牙だ」

 

                      ●

 

「ナッシュの正体が凌牙だと!?」

 

 ベクターはこっそりと遊馬達のすぐ傍にある建物の中から隠れていた。

 アリトの五感をジャックし先程までの会話を全て聞いて元から悪い顔色を更に悪くした。

 神代凌牙としてナンバーズを奪うためにベクターがしかけた今までの計画での恨み、さらに生き、ナッシュとメラグを殺した恨みが積み重なり確実にこちらを許さないだろう。

 だが今、このまナッシュと遊馬が決闘した場合に万が一にでもナッシュが九十九遊馬を倒したらナッシュからナンバーズを奪うことは更に難しくなる。

 さらにベクターの体にいるドン・サウザンドはこの世界に来てほとんど喋っておらず役に立たない。

 兵士を見れば数と個々の持つカード性能で良い進撃をしてはいるが膨大なアストラル世界を占領するには時間がかかる、かといって自分が妨害しに行くとナッシュと決闘の流れが確定する。

 今、アリトやギラグを使った所で旨みは無くどうしたものかと考えていると先程通ってきたゲートから誰かが移動してくるのを感じた。

 

「ミザエルか?」

 

 ゲートのほうへと意識を向けると人間世界でバリアン兵に袋叩きにされているはずのカイト達が出てきた。

 姿はボロボロだが人数もさほど減ってはおらずバリアン兵達が足止めができなかったことを示している。

 

「ちっ、使えない。いや、使えるか」

 

 ベクターはドン・サウザンドの力を使って兵を動かす。

 ドン・サウザンドの力は兵士の魂に繋がっており誰にも感知できずに指令を送ることが出来る。

 それをうまく使いベクターは兵士を動かし、ゲートの前で座り込んでいるカイト達を取り囲ませようとする。

 当然、人間世界と同じ状況になるのを嫌うカイト達はベクターがわざと空けた場所を走り抜ける。そうした先にバリアン兵を出現させ、カイト達を遊馬達の居る場所へと向かわせるのだ。

 ベクターが狙うのはナッシュやドルベ、メラグ達とカイト達を戦わせ消耗させることだ。

 うまくカイト達がナッシュ達に勝利すればベクターは楽にバリアン七皇の力の一部を手に入れれる。倒せなくてもあのバリアン兵を抜けてきたのだから腕は確かであり大ダメージを叩き込んでくれるだろう。

 

―――どちらに転んでも俺様の得になる、さあ潰しあえ!


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