クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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エリファスVS遊馬 下

 1人、プロ決闘者がカイトの前で敗北しこちらに住まなさそうな顔をして消えた。残り17人となる。

 4属性龍が吼え昂ぶり、魔導書がもたらす魔力が全てを覆いつくし、虫の軍勢が破壊し蹂躙していき、機殻の不死身軍勢がビームを乱射する中、カイト達はまだ戦っていた。

 すでに激戦に次ぐ激戦を重ね皆の体はボロボロ、満身創痍だ。

 装置には兵士が飛び込んでも弾かれなくなっており光は赤黒に染め上げられている。

 そこへ大量の兵士、そしてギラグ、アリトがゲートを通りアストラル世界に進軍していた。

 

「ベクター!」

 

 また1人、カイト達の仲間が敗北し消滅する、残り16人。

 すでに何回決闘したか分からない、決闘盤を持つ腕が感覚がなくなるほど構え続け、カードを握る手も気を付けていないと落としてしまいそうなほどだ。

 

「もう百回以上征龍、魔道、甲蟲装機、 クリフォートの全力、ナンバーズのフルパワーを受けて勝ち続けていられるなんてすごいなぁ、俺だったら無理だよ」

 

 裕は楽しそうに嗤う、これが今まで遊馬と仲間だったクェーサー厨の裕なのか分からない、だが目の前の裕は敵だと言う事だけは分かる。

 また1人消える。残り15人。

 それでもカイト達は逃れることは出来ない。

 退路は膨大なバリアン兵がひしめき合い逃れることは出来ない1歩たりとも進む事も逃れる事も出来ない。

 

「ふん、だがまだ兵士は大勢いる、いつまで持つかな」

 

 兵士を倒した所から次の兵士が前に出て歩く事も出来ない、少しずつ減ってきてはいるがバリアン兵が崖から降りてきている。

 無限の兵士が使う圧倒的なデッキパワー、一回でも敗北すれば消滅するという状況でも遊馬達の帰りを守るべくカイト達は戦い続ける。

 また1人、プロ決闘者が消えた。残り14人

 

                    ●

 

エリファス場   NO13 エーテリック・アメン ATK7000 (ORU20)

LP1950    

手札0      ランクアップ・アドバンテージ

 

遊馬場      No.39希望皇ホープ ATK2500(ORU0)

LP500     

手札1      

 

 遊馬の山札は残り10枚、手札1枚、場にオーバーレイユニットの無いホープのみ。 

 エリファスの場には戦闘カード効果で破壊されないエーテリック・アメンがいる、状況的に見れば敗北が濃厚だ。

 遊馬は状況を見返し一瞬だけ諦めそうになるも、遊馬はアストラルを見て、

 

「アストラル、お前は生意気で、自分勝手でいつも上から目線で、でも! でもよぉ! お前は俺の運命を決めちまった! 俺の人生を! お前は今じゃあ俺の全部なんだ、だから、だからっ、俺はお前を失う事なんてできねえ! 負ける訳にはいかねえだぁー!」

 

 遊馬は気づかない、だが相対するエリファスは遊馬の変化に気づいた、遊馬の体が光り始めている事に。

 それはシャイニングドローと同じ輝きを放っている。

 それに気づいたときエリファスは目を見開く。

 遊馬が、人間が、それもただの十数年しか生きていない者がアストラル世界にたどり着ける段階にランクアップした事に。

 そして息を掃き眼を見据える。今の彼では足りない、アストラル世界の未来を任せることはできない。

 故に更に問いかける、

 

「…………私達はバリアン世界を消滅させる、例えドン・サウザンドを倒したとしてもカオスに塗れた魂が行き付く先があれば第2、第3のドン・サウザンドが現れるだろう、その受け皿は無くさなくてはいけない、故にヌメロン・コードを手に入れたならばバリアン世界を消滅させアストラル世界に更なるランクアップを齎す!」

 

「お前は世界が限界を超える為にランクアップが必要だって言うけど、もしランクアップが必要だって言うのならそれは生きている人の為だ、アストラルはお前なんかとは全然違う! いや、あいつだけじゃねえ! カイトやシャーク、俺がデュエルを通して出会ってきた仲間全部、そいつらは全部1人、1人苦しんでいた、自分自身と必死に戦っていた! 誰でも心の中じゃあ良い心と悪い心が戦ってるんじゃねえのかよ、でもそこから逃げ出さなきゃ、きっとどんな事でもやり直せる! 誰とだって理解り合える! 1人1人の苦しみも知らないで、何も見ないで本当のランクアップなんて出来っこねえっ!」

 

 遊馬の人生の中で決闘を行って戦った相手の顔が思い浮かぶ、それら全ての経験を渾身の叫びにしエリファスへとぶつける。

 遊馬の言葉は強い力となってエリファスへと確かに届く、だがエリファスは真っ直ぐにこちらを見て、

 

「それが君が願う先か?」

 

「そうだ!」

 

「なるほど、だが私からアストラルが使命を終えた後の事を聞いたとき君はすぐに答えられなかったな、未来を見据えていない者が希望を、可能性を信じるなどと言うのか! 君の口にする可能性も希望も全ては君がこうなって欲しいという現実逃避から来る願望にすぎない、現実を見ず、綺麗事がまかり通れと押し付ける者が掲げる願望を、アストラル世界の皆が支持するものか!」

 

「そんな事は」

 

「違うか? 希望も可能性もどんな事でもやり直せる、誰とだって理解り合える、それら全ては軽々しく口にできるが実行するのにどれほどの危険が、困難が横たわっているか想像しているのか? 人間の大半はバリアン人に堕とされ、ドン・サウザンドを倒して人間に戻れるかどうかも不明、圧倒的な物量を持ち、確実にこちらを殺そうとする敵に過去を許して分かり合えると言うのか? 正直、私には君が気に入らない事を突っかかってきて綺麗事が正しいと押し付けているようにしか見えない」

 

 違う、そう力を失いつつも呟いた遊馬の言葉をエリファスは確かに聞く、もはや相手の言葉を子供の戯言だとは受け止めない。真正面から受け止めて議論する。

 

「違うというならば具体的な意見を示せ、君が夢見る希望を、君が信じる可能性を、そしてその為ならばどれほどの事が出来るのか、その全てを示せ! これは今後のバリアンとアストラル世界の大戦にも影響するような大きな決闘だ、先の目標を上げられない者にこの世界の命運を任せる訳にはいかない!!」

 

「っ、俺は、俺は」

 

 遊馬が思い出すのは戦ってきた仲間と敵であるバリアン七皇、そして元アストラル人であるリペントの言葉だ。

 そして父から教えられたかっとビングの精神、今までの決闘の中で自分が考えて得てきた物を思い出し願いを口にする。

 

「俺は誰も置いていかねえ、見捨てたりするもんかぁああああああ!!」

 

 敵も味方も決闘した者全てが仲間であり、仲間は皆置いていかない、遊馬は感情と意思を込め全力で叫ぶ。

 遊馬のさけびに呼応するように遊馬の右手に光が宿る。強く、強く黄金の輝きが遊馬の手より溢れ全身輝きで満たしていく。

 

「アストラル世界もバリアン世界も人間世界もみんな見捨てねえ! 確かに分かり合えなくてぶつかり合う事だってある、だけど決闘でみんなの心が繋がっていくんだ、皆で可能性と希望を持って新たな未来に行く、そのためなら何度だって俺は戦う! 俺のターン、ドロー!」

 

 遊馬の体から溢れるカオスの力の混じった光、それはシャイニング・ドローを超える力がある。

 カードも煌めき、引き抜かれた線は星の様に輝きを放つ。

 

「エクシーズ・トレジャーを発動、場のモンスターエクシーズは2体、よって2枚ドローする、最強決闘者のデュエルはいつも必然、ドローカードさえも決闘者が創造する、シャイニング・ドロー!」

 

 遊馬の手に導かれるように引き抜かれるカード、そこに宿るのはヌメロン・コードの力の1部を使って塗り替えられたランクアップの新たな可能性がある。

 

「俺はRDM-ヌメロンフォールを発動、このカードは希望皇ホープをそのランク以下の希望皇ホープランクダウンさせる! 俺はランク4のNo.39希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築、ランクダウン・エクシーズチェンジ!」

 

 ホープは地面展開された渦へと飛び込んでいく。ランクアップの塗り替える力に包まれ原点へと回帰していく。

 渦の中よりせり上がってきたのは細く青白に輝く剣だ。遊馬の掲げる誰も置いていかない、誰も見捨てない意志が、仲間を守り強くなってく感情がすべてを塗り変えていく。

 細い剣のモニュメントは展開していく。ホープよりも細身の青白を基調とした戦士が現れる、その細い腕や翼は弱々しくも見える。

 だがその姿は他人を守り自分を守りともに強くなっていくという遊馬の願いを体現している。

 

「現れろ、ランク1、No.39! 希望の光、進化へと突き進む! 原初の記憶を解き放て! 天衣無縫の力、希望皇ホープ・ルーツ!」

 

 だが現れたその貧弱で最低のランクにエリファスは失望の息を漏らす。

 一瞬のシャイニングドローさえも超える力を前に期待したために失望も大きい。

 

「エーテリック・アメンの効果発動、君のモンスターエクシーズとのランクの差は12、よって君の残りのデッキ7枚を、アメンのオーバーレイユニットにする」

 

NO13エーテリック・アメン ATK7000→7700 ORU20→27

 

「これで君は次のターンドローフェイズに入った瞬間、敗北が確定した、残り2枚の手札とそのカードで私のアメンを倒しライフを削り取れるわけが無い!」

 

 その言葉に遊馬は笑みを浮かべる。突破できる術があるように自信満々の笑みだ。

 

「在るというならば見せてみろ、カオスとアストラル世界の両方の力を担うものよ!」

 

「おう! 俺は墓地の希望皇ホープレイ・ヴィクトリーを対象に魔法、アーマード・エクシーズを発動!」

 

 それは遊馬が信頼し今は行方不明の凌牙がくれたカードだ、あの時の決闘で凌牙と本当に分かり合えた事が遊馬の今を支えていると言っても過言ではない。 

 墓地よりせり上がるはカオスの結晶、そして遊馬とアストラルが共に許し合い作り上げたモンスター、CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリーだ。

 その体の外武装がパージされホープ・ルーツへと音を立て合致していく。

 青白の体に情熱を見せつけるような赤と黄が混じる。か細い翼も細い手足もカオスの外装によって強化されていく。

 それはまるで不屈の意志でどんな困難も屈せず、誰かを守りたいという気持ちを力に変える遊馬の言葉の象徴のようだ。

 

「俺の場のモンスターエクシーズに装備カードとなり、ホープ・ルーツはその攻撃力となる!」

 

No.39希望皇ホープ・ルーツ ATK500→2800

 

「だが、その程度の攻撃力では私のモンスターは倒せない!」

 

「それはどうかな! いっけぇ、ホープ・ルーツ・ヴィクトリー、エーテリック・アメンを攻撃!」

 

 細い剣を握り締め、翼を広げホープ・ルーツは空を飛ぶ。

 

「バカな!? 攻撃力の低いモンスターで攻撃だと」

 

 アメンの放つ大砲撃の乱射、部屋を覆い尽くし砕いていくほどの光が全てを蹂躙する。

 6の輪と中央の像より宙を切り裂いていく砲撃の前に攻撃力の低いホープルーツでは突破することはできない。

 目の前に迫った大砲撃にホープ・ルーツは回避を諦め、迎撃のために剣を振り上げる。

 

「この瞬間、ホープ・ルーツの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い攻撃を無効にする、そして攻撃を無効にしたのがモンスターエクシーズだったならばそのランク×500ポイント攻撃力をアップする!」

 

No39希望皇ホープ・ルーツ ATK2800→3300

 

 ホープルーツの胸にオーバーレイ・ユニットが飛び込む。

 持っていた剣は分解されルーツの前に展開されるのはホープの使うムーンバリアだ。それは砲撃を受け止める。

 

「何を考えている!?」

 

「そしてこの瞬間、速攻魔法、ダブルアップ・チャンスを発動、攻撃力を2倍にしてもう1度攻撃が出来る、バトルだ、ホープ・ルーツでエーテリック・アメンを攻撃! ホープ剣・ルーツ・ダブルビクトリースラッシュ!!」

 

 そして力をためるように振り上げられたままの形で止まっているホープ・ルーツに変化が訪れる、 ヴィクトリーの外装より新しい腕がホープ・ルーツの脇より延びてきた2刀を掴み抜く、振り上げた手にホープの剣が2振り出現した。

 背中のヴィクトリーの翼が展開し4翼を羽ばたかせ最低ランクの戦士は最高ランクの天使へと砲撃の中を進みはじめる。

 

NNo.39希望皇ホープ・ルーツ ATK3300→6600 VS NO13エーテリック・アメン ATK7700

 

「だが、まだ私のアメンの攻撃力を上回ることは出来ない!」

 

 エーテリック・アメンのオーバーレイ・ユニットより供給される光によって更に極太の超砲撃がムーンバリアを砕きホープ・ルーツへと砲撃が迫る。

 ホープ・ルーツはホープ剣を構え超砲撃を受け止める。だが攻撃力で負けているホープ・ルーツは徐々に押され始める。

 

「この瞬間、ヌメロンフォールの効果で特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う相手のモンスター効果はバトルフェイズ中、無効になる!」

 

「なにっ!?」

 

 柱から供給されていたオーバーレイユニットの光はヌメロンの力によって書き換えられ沈黙する、それと同時にホープへと照射され続ける超砲撃に弱まってくる。

 その瞬間をまっていたホープ・ルーツは両手の希望を信じる心と誰かの為に生きるカオスで構築された剣を振り上げVの字に砲撃を切断、その空いた穴を突き進み、4刀に全てを込めエーテリック・アメンを叩き切った。

 

No.39希望皇ホープ・ルーツ ATK6600 VS  NO13エーテリック・アメン ATK7500→5000

破壊→NO13エーテリック・アメン 

エリファス LP1950→350

 

 カオスの入り混じった爆風はエリファスの体に巨大なダメージを刻みつけ、

 

「アーマード・エクシーズの効果発動、装備したモンスターエクシーズを墓地に送る事でもう1度攻撃が出来る、いっけぇホープ・ルーツ、エリファスにダイレクトアタックだ! ホープ剣・ルーツ・スラッシュ!!」

 

 爆発を切り裂き飛翔するは外部武装をパージしたルーツだ、青白に輝くその腕を振るいエリファスを切った。

 

「これがアストラル世界を照らす新しき光、カオスの、人間の可能性か、ぐうぁあああ!」

 

エリファスLP350→0

勝者 遊馬

 

                  ●

 

「遊馬、どうやら私の役目はこれまでのようだ」

 

 エリファスの言葉、そしてそれを祝福する様に光がアストラル世界全てからあふれ出る。それはアストラルへと吸い込まれ水晶の中でカオスに侵されるアストラルへと吸い込まれる。

 胸の穴が徐々に薄くなり体への侵食は収まっていく。

 そして水晶が内側より砕けアストラルが目を開け、遊馬を見て微笑んだ。それを見て遊馬はアストラルに駆け寄り抱き合う。

 遊馬は歓喜の涙を見せ、アストラルの目じりにも光る物がある。

 だがその感動の再開も長くは続かない。街へと激震が走ったからだ。

 

「どうやら再開を喜んでいる時間はないようだ」

 

「なっ、なんだ!?」

 

 エリファスは窓へと駆け寄る、遊馬も驚いて窓へと駆け寄り見たのは赤と黒、アストラル世界では見る事の出来ない色がそこにある。

 

「あれは」

 

 町は赤黒によって塗りつぶされている。ボロボロだった都市外の放棄された建物もカオスを失って枯れていた花畑も全てが塗り潰されていく。

 それは地を埋め尽くすバリアン兵であり、青紫の体にと赤黒のエネルギーラインを輝かす王者の姿の放つ破壊の光であり、溶岩を身に纏う赤黒のエネルギーラインと機械を核とする巨大な掌から放たれる波動である。

 

「あれはジャイアント・ハンド・レッドにカエストス!? なんでこの世界にオーバーハンドレットナンバーズが?」

 

 バリアン兵の進撃を阻止するためにアストラル人達が決闘盤を手に戦いを挑んでいくが竜、虫、魔法使い、機殻の軍勢によって徐々に削り取られていく。

 

「行くぞ、アストラル!」

 

「ああ」

 

 走ってギラグとアリトの居るであろう場所へと向かう遊馬とアストラルをエリファスは引き止める。そしてデッキから抜き出したのはRUM-アストラルフォース、それをアストラルへと投げ渡した。

 

「これをもっていけ、だがアストラルよ、忘れるな。アストラル世界は遊馬の力によって生まれ変わったがヌメロン・コードの力を使いアストラル世界を救う君の使命は変わった訳では無い」

 

「必ず見つけてみせる、私と遊馬で新しい未来を」

 

「ああ、やってやる」

 

 走っていく2人を見送りエリファスも歩き始める。

 

「世界を脅かす危機が訪れたとき、世界を救う英雄が現れる、頼んだぞ、アストラル、遊馬、私もあの場所に行かなければいけない」

 

 エリファスはカオスの力とナンバーズの持つ強力な一撃のダメージの残る体を動かす。カオスは生きるために必要だ、だが多すぎるカオスはアストラル人を暴走させてしまうだろう、そうしないためにしなくてはいけない事がある。

 アストラル世界では決闘によるダメージは凄まじい、だがここまでのダメージを受けたのは初めてだ。

 それほどまでに遊馬の感情と意思の込められた剣だ、そしてそれはエリファスに確かに届いた。

 

「だがいったいどこからこれほどのバリアン兵が来たのだ?」

 

                      ●

 

 ベクターは今まで戦ってきた人間達の終焉を見届けようとしていた。

 すでに小鳥達は絶体絶命の状況に追い込まれている。

 それは当たり前だ、サイドチェンジを行う暇が無い状況でカード性能の高くアドバンテージを稼ぎまくる4つのデッキ相手によく戦い勝ち抜いたと賞賛するべきだ。

 カイト以外の皆がすでに絶対的な状況に追い込まれていた。

 

―――ふん、だがカイトは逃さねえとな、そうしないと最後のナンバーズが月で生まれない、戦力にならない小鳥辺りでも一緒に逃がさせるか……。

 

 そろそろミザエルがこちらに来る頃だろう、と空を見上げたベクターの目に映るのはバリアンの力を放出させこちらへと向かってくる光だ。

 藍と蒼と白の光が真っ直ぐにこちらへと落ちて来る、それはベクターの見覚えのある光であり、見る事のできないだろうと思っていた光だ。

 

「な、なんだと、あの光は!?」

 

 バリアン兵のひしめき合うこの渓谷に落下したそれは今まで決闘していたカイト達ごとバリアン兵達をまとめて吹き飛ばし壁へと叩きつける。

 爆心地のようにバリアン兵がなぎ倒される光の中、現れたのはドルベと青白の氷のように冷たい印象を与える女性と王の威厳を纏う男の姿だ。

 

「ナッシュ、メラグだと⋯⋯ほ、本物か?」

 

「ああ、ベクター、俺達は本物だ、お前に殺されそうになった俺とメラグが地獄の底から戻って来たぞ」

 

「ひっ、ひぃいいいいい!?」

 

 ベクターは3人分の殺気を向けられ開き続ける門の中へと飛び込んだ、全力でバリアンの力でコーティングされたゲートを進み背後を見れば3人が猛スピードで追いかけてくるのが見える。

 

「くっそ、くっそ、くっそがぁあああ! なんであいつらに俺様が怯えなくちゃいけねえんだ!? あいつらに勝つためには……!」

 

 ベクターは3人と自分の力量差がある事は知っている。

 光天使を使い3体素材を要求する重いランク4のモンスターエクシーズを連射するドルベ。

 サーチから展開しリクルートしシンクロからエクシーズまで幅広い戦術を使いこなすメラグ。

 魚族のランク3から5というレベルがバラバラ過ぎて常人では回せない様なデッキを使いこなすナッシュ。

 3人の実力は折り紙付きでありドン・サウザンドの力を得た今のベクターでも勝てるかどうかは分からない。

 

「こうなればあいつらを取り込むしかねえ」

 

 それは今ベクターでは、だ。

 バリアン七皇の2人分の力を手に入れれば少なくともドルベとメラグには勝てる、そうベクターは確信して、アストラル世界へと全力で逃走しつつ、どうすればドルベとメラグをナッシュの傍から引き剥がすかを考え始めた。


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