クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
「私の先攻だ、ドロー」
デッキよりカードを引き抜くエリファス、その手から放たれる輝きに遊馬は目を奪われる。
「私は永続魔法、神秘のモノリスを2枚発動、このカードはランク4のモンスターエクシーズの素材と出来る、更に私はアステル・ドローンを召喚」
似たようなカードは人間世界に存在するそのため遊馬は改めて気を引き締める。
これより現れるはアストラル世界の代表が使うであろう切り札、そしてドローされたカードが放つ存在感に遊馬は構える。
「私はレベル4のエクシーズ素材賭して扱う神秘のモノリス2枚とアステル・ドローンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚」
魔法使いとオレンジ色の石板2枚は空へと飛翔し渦に入り込む、それは人間世界に現れる渦よりも光が強くずっと強力な光を放つ。
黒が混じり始め、吹き上がるは闇の力に蝕まれる雪の結晶、それが積み上がり氷河を作り上げ、中より現れるは全てを捕食する意思に侵された禁断の邪龍だ。
「現れろ、ヴェルズ・ウロボロス。そしてエクシーズ素材となったアステル・ドローンの効果でデッキから1枚ドロー、さらにヴェルズ・ウロボロスの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い相手の手札1枚を墓地に送ってもらう」
エリファスは星型の魔法使いの輝きで更なるシャイニング・ドローを、遊馬には禁断邪龍の放った吹雪によって手札、オノマト連携を削り取られる。
「さらに私は永続魔法、ランクアップ・アドバンテージを発動、そして私は先ほどシャイニング・ドローによってドローしたカード、RUM―アストラル・フォースを発動」
光が放たれる波動と力が全てを覆っていく。
エリファスの手より太陽が生み出されたように青白の混じる光と、遊馬の皇の鍵のようなモニュメントより力を与えられた禁断邪龍は空へと昇っていく。
「アストラル世界のランクアップマジック!?」
「このカードは私の場の最もランクの高いモンスターを選び、ランクの2つまで上のモンスターエクシーズをエクシーズ召喚できる、私はランク4のヴェルズ・ウロボロスでオーバーレイ、1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築、ランクアップ・エクシーズチェンジ!」
空より現れる渦に飲み込まれ禁断邪龍は更なる強さへとランクアップする。ランクアップし到達した姿は禁断邪龍と対となる星の輝きをその身に宿す機械竜だ。
禁断邪龍の撒き散らした氷と部屋に元からおかれたクリスタルが機械竜の光を乱反射して煌く。
「現れろ、ランク6 セイクリッド・M7。さらにランクアップ・アドバンテージの効果発動、RUMによってモンスターエクシーズの特殊召喚に成功した時、そのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローできる。シャイニングドロー!」
引き抜かれる輝きより発せられるはランクアップし続ける意思、アストラル世界を象徴する力だ。
「そして私はセイクリッド・M7の効果発動、オーバーレイ・ユニットを1つ使い私の墓地よりモンスターを手札に加える、アステル・ドローンを回収する。そして私は先ほどドローした2枚目のRUM-アストラルフォースを発動、ランク6のセイクリッド・M7でオーバーレイネットワークを再構築、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」
次々とランクアップしていくその光景に遊馬は言葉なく見守るしかできない。
機械竜が次にランクアップした姿は鰐だ。体には金の装飾が多く高貴で強力な力があると一目でわかる。
だが鰐の横、宙に浮く金輪の装飾に輝くは8つの光、残り4つ分の空きが見える。それが現すのは更に上があるという事だ。
「現れろ、
エリファス場 NO8 エーテリック・セベク ATK3000 (ORU3)
LP4000 ランクアップ・アドバンテージ
手札1 伏せ4
遊馬場
LP4000
手札4
「全部がシャイニングドロー、それに一気に2つもランクアップを……! これがアストラル世界の決闘!」
伏せられた4枚のカードの中身は神の宣告、そして残りの3枚もエーテリック・セベクを守るカードなのだろうと遊馬は予測する。
「そう、これがランクアップを目指す者だけが出来る決闘、アストラルが受け継ぐべき決闘だ、だが今のアストラルにその資格はない」
暗に告げられるはカオスに侵されているからと遊馬を責める言葉だ。
「アストラルも最初はお前の様に石頭だったよ、だけどおれといっしょに色々な事を経験して」
「よくアストラルを見るがいい! あの胸に歩く黒いシミを、あれは君がアストラルに付けた傷だ」
遊馬はアストラルへと視線を移す、良く見れば黒いシミは僅かに蠢いているのが見て取れる。
思い出されるのはベクターとの決闘、そして決闘で負けてベクターの言葉を、確かに心に傷は残り、今アストラルの命を脅かしている。それは遊馬の行動のせいだ。
「はじめは小さな傷でしかない、だがそのうちに傷は全身に達し、彼の心は死んでしまうだろう」
確かにアストラルに嘘を言って傷つけたのは遊馬だ、嘘を言われアストラルが憎しみと嫌疑の感情を持った事が今回の状況を悪化させているのは間違いない。
だがWDC決勝でゼアルになったときに食べたデュエル飯をアストラルは美味しいと言ったとき、アストラルは笑っていた。
ベクターとの決闘で遊馬の嘘を許しアストラルは遊馬を信じたいと言った、無表情で無愛想で人形みたいだったアストラルが感情をもった事が間違いだったと遊馬は認められない。
「アストラル、くっ、そんな事はねえ、アストラルがそんな毒になんか負けるか!」
「なぜそう言い切れる!」
エリファスは恫喝する、感情は無く、ひたすらに自分の持つ事実を遊馬へと突きつける。
「よいか、この決闘はアストラル世界の全ての者達が見ている。だからこそはっきりさせておく、君はカオスという毒をばら撒いたのだ、君はエナ達を救ったつもりでいるようだがそれは違う。今はいい、今は君の貰ったカオスで生きながらえることが出来るだろう、だがいずれ、君の与えたカオスに取り込まれアストラルと同じように苦しむだろう、我々にはカオスの力は必要ないのだ」
繰り返す様にカオスは必要ない、感情は不要だとエリファスは言う。
リペントから聞かされた出来事を考えればアストラル世界がカオスを排除しようとする理由は理解できる。
だが、自分に要らないもの、害のある物を遠ざけ続けるという事は逃げると同じ事なのではないかと遊馬は考える。
アストラルはカオスに飲み込まれたが自分の意思で戻ってきた、自分の中にある欲望や負の感情をコントロールしようと戦い、自分の中にある遊馬を疑い信頼しないという感情に勝ったからこそ今の自分達がここにいる。
アストラルにも出来たのだから他のアストラル人にも出来る筈だ、そう思い口に出す。
「それって逃げてるだけじゃんか、何で戦おうとしないんだよ! 戦わねえから、この世界の人たちはみんな弱ってるんじゃねえのかよ! アストラルだって俺を疑う感情を持ってた、だけどその感情と戦って乗り越えて、俺を信じたいって言ってくれた。あの堅物で石頭なアストラルだってできたんだ、だったら他の皆だってカオスと戦って打ち勝つことが出来るはずだ!」
「ならば君達の世界はどうだ? カオスによって多くの人々が苦しみ、失敗を繰り返している。だからこそ、ランクアップできない世界ではないのか、全ての者がカオスに飲まれる訳では無い、だがほとんどの者がカオスに飲まれるだろう、そしてランクアップできずカオスを抱えてバリアン世界に堕ちる、その世界に住む者達では世界をランクアップできない。だからこそカオスより解脱した我々が君達、人間を導いていかなければならないのだ」
欲望により多くの人々が他人と争う、感情によって苦しみ悲しみ怒りに踊らされる、それを愚かだとエリファスは指摘する。
欲望と感情によって困難に挫折する者を、その場所からランクアップ出来ない者ばかりいて、ランクアップ出来る者の脚を引っ張る者がいるからいつまでも世界がランクアップできないのだとエリファスは人間世界を見て来て知った真実を指摘する。
「そんなことはねえ! たとえ失敗しても、負けてボロボロになっても、諦めずにチャレンジする。そうさ! 俺たちの世界の皆は、誰だってかっとビングできるのさ!!」
エリファスの反論に更に遊馬は反論する。
感情に溺れアストラルは暴走した、遊馬も皆を守りたいという感情から皆から離れようとした、だがそこから立ち直った。
失敗しても諦めずチャレンジする、父親から教わった言葉を、自らが積み上げてきた体験を遊馬はエリファスに伝えようと必死で叫ぶ。
だがそれは平行線だ。
感情や欲望をその身に宿し未熟でカオスに染まりやすい意思を持つ人間だが、誰でも挑戦し、失敗しても再び挑戦し乗り越えることが出来ると信じる遊馬。
人間のほとんどはカオスを制御できず誤った判断を繰り返し続け、互いの足を引っ張り自滅するだけだからそのような欲望も感情もいらないと主張するエリファス。
二人の意見が衝突するも理解し合うことは無い。
「かっとビング。カオスの言葉、君の父、九十九一馬もそのような事を言っていた」
「父ちゃんが、やっぱりアストラル世界に来てたんだ」
ようやく掴めた父親の尻尾に遊馬が顔をほころばせていると、エリファスは無表情のまま更に言葉を続ける。
「そもそも彼がこの世界にやってきたのが間違いだった、彼はアストラルが地上に行くためのプログラムを変更し君に会わせた、九十九一馬が裏切らなければ、アストラルもカオスに侵されることは無かった、いやそもそも彼に使命を託さなければよかったのだろう」
そこに感情は込められていない、ただ淡々と起きた事と思った事を述べるだけだ。
「父ちゃんはどこにいるんだ!?」
「無事だ、自由ではないがな、そして彼女達も」
エリファスが動かし壁の水晶に投影するはエナや大量のアストラル人がいた教会のような場所だ、そこには兵士のような服装のアストラル人が槍や剣型の決闘盤をもって立っている。
「エナ、どうしてエナ達を、あいつらは関係ないだろ!」
「いや、カオスに触れた者をそのままにしておけない」
カオスに侵されたアストラル人が犯した過去の事件を考えるとそれは当然の反応だろう、カオスはアストラル人へと伝染し土地を犯し、人を汚す。
遊馬が再びエリファスに訴えようとする、その雰囲気を察したのかエリファスは、
「全てはこの決闘にかかっている、もし君が誰かを守りたい、誰かの為に生きたいという感情が、私の絶対の意思を、私の勝利する必然すらも打ち砕く可能性を私に示せればこの世界の価値観を見直してもいい、だが君が勝つのは不可能だがな」
全てを超えていく、立ちふさがる障害を乗り越えるという絶対の意思、それこそがエリファスの力となっている。
最上が勝つと言う執念でカードを引き当てたように意思の力は全てを超越する。そこにカオスの入り込む余地はないとエリファスは信じている。
カオスの混じった意思などに自分の純粋な感情が負ける事などあり得ないと信じている。
「勝つさ、この決闘、絶対に勝たなきゃいけないんだ、あいつに出来るならば、俺だって」
故に遊馬はその可能性を示さなければいけない。誰かを守る気持ちや誰かのために生きたいと言う気持ちを持ち、勝つという意思がもたらす力を、人間、全てが持つ可能性を信じられない、あるわけが無いと立ち止まっているこの世界の皆に示すために。
デッキトップに遊馬は手を置く、だが手は光らない。
明らかに落胆した遊馬、そしてその姿を見てエリファスは、時間の無駄だ、と吐き捨てる。
「君にシャイニングドローが出来たのはアストラルの力であって君の力ではない、絶対の意思を持たない君にシャイニングドローは起こりえない」
「それでもアストラルと俺が作ったデッキは答えてくれる、それがデュエルモンスターズなんだ、それがかっとビングだ!」
遊馬がカードをドローする。
「俺は速攻魔法、サイクロンを発動、お前の中央の伏せカードを破壊する」
竜巻はエリファスの伏せへと襲い掛かる、空高く突き上げられそして、黒紫色の鎌が音を立てエリファスの場に落ちてきた。
「なっ!?」
遅れて空より落ちてくる黄金の歯車、遊馬はその形に見覚えがあった。
「私は破壊されたアーティファクト・デスサイズの効果発動、墓地よりこのカードを特殊召喚する、更に特殊召喚に成功したデスサイズの効果で君はこのターン、相手はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚出来ない」
黄金の歯車が装填された黒紫色の鎌の波動により遊馬のエクストラデッキが黒い歯車で固定された。
思わぬカードの登場に遊馬が混乱していると、
「甘いぞ、九十九遊馬、アストラル世界の決闘は全てシャイニングドローによって成り立っている、つまり常に大嵐、死者蘇生などの制限カードをいつでもドローできると言う事だ。それらのカードをいかに打たすかを読み相手の伏せを読むか、それがこの世界の決闘だ、人間世界の決闘とはレベルが、いやランクが違うのだよ!」
遊馬の決闘の常識とは全く異なる異質の決闘、アストラル世界の決闘はデッキを手札として扱い、相手に無駄なカードを打たせるかを考える戦いだ。
故に生半可な決闘ではエリファスの前に立っていることは出来ない。
「くっ、俺はカードを3枚伏せる、そしてモンスターをセットしターンエンド」
遊馬場 セットモンスター
LP4000
手札0 伏せ3
エリファス場 NO8エーテリック・セベク ATK3000 (ORU3)
LP4000 アーティファクト・デスサイズ ATK2200
手札1 ランクアップ・アドバンテージ
伏せ3
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裕と最上は人間世界を目指していた。
力を持たない裕は最上と手を繋がないといけないようだが気恥ずかしく、最上のパジャマの一部を掴んでいるのだがこれはこれで気恥ずかしい。
だが見なくてはいけない事がある、赤黒の空間を飛びながら裕は最上の付けている腕輪を見る。
ずっと口には出さなかったがそろそろ言わなくてはいけないだろうと裕は考え、
「…………あの、も、最上さん」
「なんだ?」
「ずっと怖くて聞けなかったんだが、腕輪が点滅してない?」
「してるな」
平然と言われた言葉に裕は眼を開く。
この空間を移動している状況で空間を移動できる力が無くなればどうなるか想像したくはない。
よく分からない空間を半永久的に彷徨うのか、それとも別の次元に落ちるのかは分からないがどの道、非常にまずい状況だ。
「それってやばいじゃん!?」
「いや、これでも全力でとばしてるつもりなんだけど、どうにもならんな」
さて、と最上は呟き困った表情で頭を掻く。
「ナンバーズがあればなんとかなると思ったんだが甘かったな」
最上の手の中で光を放つのはアポクリファのデッキとトロンより渡されたナンバーズだ、徐々にエネルギーが無くなって来たのか光が弱くなっていき、それと呼応する様に腕輪に着いている赤い宝玉が光を弱くしていく。
それが裕の焦りを強くする。
「いやだぁ! こんな所で死にたくない!」
「私もお前みたいなのと心中はなぁ……ん?」
最上が何かを見つけたように眉を顰め、遠くを見るように目の上に手を当て前を見る。
裕も見習って見るが何も見えない。
「どうした?」
「いや、気のせいか、なんか黄色の光が見えたような?」
「えっ?」
最上の言葉に再び前を見た裕の目の前に広がったのは黄色の光を帯びた塊だ。
裕に避ける間も与えずそれは裕を轢き後ろへと飛んでいく。
最上から手を離したため空間移動能力を持たない裕は当然、時空の狭間へと落下し始める。
「うわぁああああ!?」
悲鳴を上げ手をばたつかせる裕、それを阻止したのは最上だ。
裕の足首を掴み落下を阻止し、最上は先ほど裕を轢いた相手を見る。
紫色の肌に白い髪、明らかに人間ではなくバリアン人、それも人間世界とバリアン世界を移動できるとなればその数は限られている。
「バリアン七皇か」
最上は知らなかったが移動中に人間世界とバリアン世界は融合をはじめて今ではバリアン人は人間世界に顔を出せる状況になっているためその予測は外れる可能性もあった、だがその予測は今回は当たる。
紫肌はこちらを一目見て、
「そうだ、貴様は人間だな、どうしてこの場所にいる?」
「ちょっと別の奴から力を勝ち取ってな、今は人間世界に帰ろうとしてるんだ、見逃してくれないか?」
「いや、それは出来ない」
「その声は凌牙か、なんでここに……ってあれ?誰だお前?」
裕と最上は振り向く。聞き覚えのある声とそっくりだったからだ。
だが裕と最上の前に居たのは髪型は凌牙のようだが赤と青の瞳を持ち王様の様にマントを羽織り威厳を漂わすバリアン人だった。
逆さになりながらも首を捻る裕を無視する様にその男はこちら側に手を伸ばす。
「ナンバーズを持っているな、渡してもらう」
普通に考えれば危機的状況だ、バリアン七皇の2人に挟まれ戦えるのは最上だけ、そして今腕輪の力は切れかかっている、だが最上はニヤリと笑いながら呟く。
「ほう、これは使えるなぁ」
「えっ!?」
裕はあまり刺激しない方がいいんじゃ、と最上に軽く行ってみるが最上は聞かず、
「じゃ、取引しようぜ」
トロンから預かったナンバーズを目の前のバリアン人に見せる。
「私達を人間世界に帰してくれないか、無事に返してくれたらナンバーズをあげるよ」
「そんな事しなくてもお前らと決闘し奪い取ればいいことだ」
後ろの紫肌がこの場で一番楽な事を言う、だが最上はそれを想定している。
「そうだね、だけど私達がこの空間に入れるのはこの腕輪のおかげなんだ、それでこの腕輪はもう壊れそうなんだよ。お前ら、私達と決闘しながら一緒に異次元に落ちる覚悟ある?」
最上は点滅が早くなった腕輪を見せ、あくまでも平静に言う。
脅迫するように真っ直ぐに言い放たれた言葉に後ろの紫肌のバリアン人が動きを見せる。前からももう一人がこちらへと近づいてくる動きを見せる。
同時に挟みかかる素振りを見せる二人。
「……っ、ならば力づくでも」
2人が同時に少し前に出た瞬間、最上はカードから一瞬手を放し、掴み取る。
手を離したのは1秒にもみたない時間だったが本気であるという意思を示す。
近づくことを止める2人へ最上は笑いながら、
「その時はこのカードを時空の狭間に捨てる」
「貴様、それがどれほどの力を持っているか知ってるのか!?」
「知らないよ、たかがちょっと変な能力のあるカードだろ、私は捨てても何も困らないしなぁ…………動きがないか、しょうがないなぁ。ごめんな、水田、この連中が私に従ってくれないようだし、腕輪も限界だ。私とこのカードと一緒に適当な異次元にでも落ちてGXやら無印やらターミナル世界にでも行ってどこぞのオリ主のようにペンデュラムやシンクロで蹂躙して原作ブレイクしようぜ」
実際、無くしたらいけないというレベルを超えた代物であり、それを最上は知った上でバリアン組に鎌をかけている。
相手が強硬手段に出たら捨てるつもりだしこのままでは水田と一緒に堕ちる事も承知している。
ナッシュは最上が凄まじい力を持ったカードであることを理解している事は分かっている、だが自分の身に危機が迫れば最上は本当に捨てるだろうという確信があり動けないでいる。
だがあいてはこちらの思惑を測りかねているのかいつまでも判断が着かないようなので最上は更なるカードを切る。
「こっちも時間がないんだよ、ベクターとその身に宿るドン・サウザンドによって遊馬達が危険な目にあっているんだろうし早く決めてくれ」
「ベクターにドン・サウザンドだと!?」
魚が餌に食いついたときのような悪い笑みを浮かべ最上は急かす。
「ああ、そうだ、だから早く決めろ」
「……分かった。お前の条件を飲もう」
「ナッシュ、いいのか?」
「そいつはクズだが、言った事は本気でやる女だ。それに俺らにはナンバーズが必要だ。アビス、ゲートを開け」
ナッシュと呼ばれた凌牙の声に似た男の言葉と共に水が生まれ輪となりゲートが開かれる、それを見た最上は足を掴んでいる裕をゲートに放り込み危険を確かめさせる。
「どうだ?」
「どうだじゃねえよ! いきなり放り込みやがって、しかもここもバリアン世界と同じような、ってあれ、ここって俺達の学校?」
裕の言葉に最上は視線をゲートを開けた本人へと移す。
「どういうわけだ?」
「こちらも分からん、だが約束通りナンバーズを渡してもらう」
最上は一瞬、持って逃げようかとも考えたが両側よりかけられる圧力を受け、面倒になりそうだから止める。
ゲートに半身を入れ、ナッシュと呼ばれた男へとナンバーズを投げ、最上はゲートを潜り抜けた。
潜り抜けると同時に腕輪は力を喪ったように光が消える。あのままいけば最上達は本当に異次元の狭間を彷徨うことになったであろうが、ナッシュ達と出会った事により運良く人間世界に帰ってこれた。
ただし目の前に広がる地獄の様な光景は続く。
赤黒に覆われた校舎、道並、グランドに空いた大穴、全てが見覚えが在る筈なのに別の場所にしか見えない。
「どうして学校なんだ?」
裕のぽつりと漏らした言葉に、
「学校って色々な感情が渦巻くとか言ってるしそういうのが溜まって開きやすいとか、それとも生徒達の間で噂になっていた怪談の正体ってもしかしてバリアン人だったとか?」
「ああ、そうかもな」
裕が思い出すのは遊馬達と話した学校の七不思議、遊馬達の学校と同じような怪談が生徒の間に広まっていたがそれらもバリアン世界がこちらにもたらした影響なのだろうかと考える。
「で、これからどうする?」
「俺は一度家に戻る、デッキを作って、熱田が言ってたウルトラレアの団結の力を探す」
裕はこの世界に来て水田裕の部屋に入った時に情報を集める集めるために部屋中をくまなく探した、だがデッキらしきものは見つからなかった。
だが自分の性格を考えればデッキを捨てるなんてありえない、どこかに大切に保管しているとしか考えられない。
手に持てるのかは分からない、だけど、出来るならばデッキに入れたいと考えている。
「私も一度家に戻る、デッキを作ろう」
「クリフォートを使わないのか?」
「まあ、カードを収納したトランクが無ければ使うかな」
最上は言葉と共に立ち上がり大きく伸びをし歩き始める、それに習う様に裕は歩き出した。