クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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アストラル世界へ 下

 落下してくる敵に素早く反応できたのは数人、長らく決闘と共に人生を歩んできた強者ばかりだ。

 他の者は決闘盤を装着するよりも目の前の光景に言葉を失い立ち止まっている。

 青い空を覆い尽くすほどの赤黒の軍勢は切り立つ崖を飛び降り、降り注ぎ、それぞれが決闘盤を持ち、展開する。

 この状況でお互いにする事は1つしかない。

 

「さあ決闘だぁ!!」

 

                       ●

 

 プロ決闘者が即座に動き出し、一歩遅れてカイト達が動き出す。

 飛行船はこちらの世界に置いていった以上、このゲートを守りきらなければ遊馬はこちら側に帰ってくる手段がなくなるからだ。

 必死の形相で皆が決闘盤を展開し、目の前の敵と決闘を始める。

 目の前にいるバリアン人は赤黒の肌をした人間の姿だ。

 体を実体化したモンスターの攻撃から守るために急所を守る様に鎧のようなものを装備している。

 バリアン兵の数は圧倒的に多い、だがそれは今までとあまり変わらない。

 そして今までの洗脳された決闘者達は洗脳される前の自分のデッキと自分のプレイングスタイルを使ってきた、だからこそ経験の少ない小鳥でも運良く勝ってこれたのだ。

 だがバリアン人が召喚してきたモンスターを見て言葉を失う。

 

「私は手札より炎征龍バーナーのモンスター効果発動、このカードと手札のドラゴン族のエクリプス・ワイバーンを墓地に送り、デッキより焔征龍ブラスターを特殊召喚する!」

 

 氷と空のある世界を踊るのは赤黒のラインが体中を巡る、墓地と場を永劫回帰し続ける4属性龍と子龍の群れ。

 

「私は手札のグリモ、トーラ、ゲーテの魔道書3枚を見せて魔道法士ジュノンを特殊召喚します」

 

 魔道書の審判が赤黒の光を放つ中、現れるは赤と黒の服を纏う魔道の女王、そして魔道書に記された数々の魔法を駆使して戦う魔法使い達。

 

「僕は甲蟲装機ダンセルを召喚、そしてダンセルの効果で手札の甲蟲装機グルフを装備する」

 

 赤黒の線の入った昆虫を模した機装を纏い破壊と進撃を繰り広げる赤黒の人型とそのエクシーズモンスター達。

 

「私はクリフォート・ツールとEMトランポリンクスでペンデュラムスケールをセッティング、ペンデュラム召喚、現れろ、我が僕のモンスターよ!」

 

 2つの柱より降りてくる別次元の召喚システムを持つ機殻の軍勢だ

 それは最上やリペントの使っていたデッキだ。

 個人的な戦術、戦略、知識の幅は天と地ほどの幅がある。それをカバーしてあまりあるほどのカードパワーで全てを蹂躙していく。

 いつもの戦いよりも難易度が上がり、阿鼻叫喚の地獄絵図に変わる中、幻獣機ドラゴサック2体の爆撃を受け吹き飛ばされるもなんとかワンキルを取り留めたカイトは叫ぶ。

 

「だが、それぐらいで俺達が負けるものか!」

 

「そうだろうなぁ」

 

 そしてそれを笑ってみている裕が言う。

 戦いもせず肘を突き、装置に腰掛けのんびりと決闘の様子を見ている。

 

「デッキだけでもダメだろう、持ち主の性能も善し悪しはある、だがコピーしたのはただのカードだけじゃないんだよ」

 

 その言葉と共に現れるは黒赤のエネルギーラインの入った数字の入ったモニュメントだ。

 目玉、三角錐、巨大な人形、希望を守る翼、どれも見たことがありこの場にいるものならば知っているそれ達は変形を始める。

 

「現れろiNo.(イマジナリー・ナンバーズ)11ビッグアイ」

 

「iNo.16色の支配者ショックルーラー」

 

「iNo.15ギミックパペット・ジャイアントキラー」

 

「iNo.39希望皇ホープ」

 

 現れるは遊馬の所有するはずのナンバーズ達だ。

 それはこの世界において一枚しかない物である、だが少なくとも同じナンバーズが2体以上並んでいる場も存在する。

 堺は理解できない状況に声を荒らげる。

 

「なぜ、遊馬君が所持しているはずのナンバーズ達がここにいるんだ!?」

 

「いやジャイアントキラーは今、俺が持っている。それによく見ろ、名前もカード効果も微妙に違う、これはいったいなんだ!?」

 

 征竜、魔導、甲虫装機と同じくオリジナルとは少しだけ名前とイラストが違う。

 赤黒のラインの入った体だ、だがその身から発せられる力は本物と変わりない。

 

「しょうがねえな、教えてやるよ」

 

 Ⅳの困惑した言葉に応えるはどこからか姿を現したベクターだ。

 ベクターはこちらを一目見て、鼻で笑いながら自慢げに話す。

 

「そいつらはドン・サウンザンドが作り上げた偽物のカードだ。ナンバーズって名前はついてるがナンバーズとの戦闘では破壊されないというカード効果は消えてイラストも違う。だがそれでもナンバーズの名を冠したカード達だ。本物には劣るがナンバーズを戦闘破壊するだけならば名前だけの偽物で十分だ、お前らプロ組と遊馬達との決闘が決闘者達にどれだけ影響を与えたか分かるか?」

 

 イマジナリー、それは虚数、架空、実在しない物を指す言葉だ。

 それにいち早く気付いた境は叫ぶ。

 

「まさかこのカード達は!」

 

「そうだ。WDC補填大会でお前らが得意げに振るった凄まじい性能のデッキ、ナンバーズ、それを見た決闘者は欲しいと願った!」

 

 この振るわれた凄まじいデッキ、ナンバーズ、それには決闘者達の欲望が詰め込まれている。

 

「嫉妬して、願って、爛れに爛れ、胸の奥で熟成されたその欲望を形にした! それがこのナンバーズと最上愛の持っていたデッキだ。さあ、お前らが得意げに振るったナンバーズの力で叩き潰されろ!」

 

 ベクターの命令が発せられ龍と虫と魔法使いと機殻と偽ナンバーズがカイト達へと襲いかかった。

 

                    ●

 

「さてと俺様はこちらの道を作り上げるとするか」

 

 ベクターは背後で繰り広げられる死闘を見ず手を挙げる、それをうけた後ろの兵士達は我先にとゲートへと殺到する。

 それはまるで火に寄っていく蛾のようである、だが火に近寄った蛾がどうなるかそれは考えなくても分かる事だ。

 ゲートの中へと入った兵士たちは苦悶の声も上げず破裂していく。

 

「ひっ」

 

 誰かが背後で息をのむ声がベクターの耳に届く。

 兵は自分の野望を成就させるために使い捨てる道具でしかない、ベクターはそう考えているそれは昔も今も変わらないと考えて、昔とはいつのことなのかと疑問に思い、一瞬で疑問は消える。

 そうしていく間も兵士はとぎれることなく飛び込み破裂していく。

 ゲートへと兵士が飛び込んでは破裂する。また飛び込んでは、とかそれが数えるのも飽きるほどの時間が過ぎた頃だ。

 ゲートの中にある青白の光は赤黒が混じり始めたのは。

 それはまるで大量の水に落とされた墨のようにジワリと広がるだけだ、がそれを見てベクターは満足げにうなずく。

 

「ベクター、貴様はいったい何をしている!?」

 

 背後よりカイトのうるさい声がする、しょうがないから振り向いたベクターの目にはいるのはほとんどいなくなった部下の姿だ。

 

「あん? 見てわかんねえか、道を造ってんだよ、バリアン人でも通れるような道をなぁ」

 

 そういっている間にも兵士は飛び込み続ける。

 その光景を直視したのだろう小鳥は顔を背ける。

 

「この道はアストライトからアストラルエネルギーを抽出し強引に造った道だ、普通の人間が入れば体や魂に蓄積したバリアンエネルギーと反発してああなるんだよ」

 

 ベクターが顎さすは背後の惨劇、ひたすらに無表情で突撃していく蛾の群れだ。

 だが九十九遊馬はそうならなかった、アストラルのせいなのか、ナンバーズの影響なのかそれとも別の何かがあるのかもしれないが今は考えるだけ無駄である

 

「だからちょっとずつバリアンエネルギーを流し込んでいく、塗り潰すのがバリアンエネルギーの得意分野だしな、あとはバリアンの力を注ぎ込んで固定させる、そのための兵だ」

 

「させるか、止めさせてもらう!」

 

 カイトは決闘盤を構え叫ぶ。

 まだ叫ぶ余力を持っているカイトを見、そして倒され始めたバリアン兵を見、使えねえな。とため息をつく。

 

「しょうがねえな、おかわりが欲しいんならはっきり言えばいいんだぜぇ、ほらよっと」

 

 ベクターは指を鳴らす。

 音に誘われるように大量の兵士達が落ちてくる。

 さらにカイト達の逃げ場を無くさせるために背後からも大量のバリアン兵が落ちて来て道を塞ぐ。

 そうしている間にも目の前の惨状が目に入らない様にバリアン人たちはひたすらに突撃していくのを止めない。

 破裂しアストラルエネルギーにバリアンの力が混じっていく。

 

「貴様、仲間を何だと思っている!?」

 

「ああん? 仲間だぁ? こいつらはなぁ、足の生えたエネルギータンクで、お前らを叩きのめすための力でしかないんだよ」

 

 ベクターは堂々と手を広げ言い放つ。

 

「足りなくなればまた連れてくればいい。兵が少なくなればまた作ればいい。魂と俺様の体に宿るドン・サウザンドのエネルギーさえあれば、兵はいくらでも作り上げれる!俺の為に敵も味方も死んでくれよぉおおおお!」

 

 それはまるでバリアン世界そのものを体現するような言葉だ。

 死んでも蘇らせればいい、兵士は取り換えのきく道具であり、使い捨てた所でベクターの心の全く痛まない物だ。

 ある意味それは、人間世界に溢れる大量消費の社会を現している。

 使うだけ使って、壊れたり役に立たなければ捨てる事を繰り返している、大量生産が出来る社会でのみ許されるシステムだ。

 だがヌメロン・コードをバリアンが手に入れアストラル世界を滅ぼせば使い潰されるのは物だけではなく人間すらもその範囲に入ってくる。

 たった1人の人間の感情で大量の人や者が己の意思とは関係なく動き、使い潰されるだけの世界となる、その縮図が実際に目の前にある。

 絶対にそれを許してはいけない、カイト達はそう心に決める、だが目の前にいる兵士達が全てを邪魔する。

 

「くっ、どけ!」

 

「やっだよーん、さあ、アストラル世界への道を作れ!」

 

 延々と自爆特攻は繰り広げられ、青白の光に赤黒が混じっていく。

 

                   ●

 

 人間世界で地獄絵図が展開されている中、遊馬はアストラル世界に無事にたどり着き、アストラル世界の住人に手厚い歓迎を受けた。

 虚空より現れた犬に追いかけられ、逃げた先で海に叩き込まれ、海から上がって遺跡を走り回り、逃げ回った先の町の建物から落とされる等、明らかに敵意と害意の籠った物だった。

 絶体絶命のピンチになった時、遊馬と父親の使っていた虹クリボーを助けたのはアストラルとは違う実態を持ったアストラル人のエナと大勢のボロボロになったアストラル人だった。

 巨大な光の巨人からの1撃をブロックの下にあった隠し通路に入り難を逃れた遊馬はひと息つく。

 

「はぁ、助かった」

 

「お怪我はありませんか?」

 

「ああ、大丈夫だ、それよりなんで助けてくれたんだ?」

 

「あなたに私は助けを乞いたいのです、ここにいる人々を助けてくれませんか?」

 

 エナと名乗った女性は背後に立つ大勢のアストラル人を見る。

 

「助けるって、どうやって?」

 

 遊馬は救急道具もない、医療の知識もない。そもそもアストラル人の体は人間と同じなのだろうか?

 そう考え、遊馬は最初に町に来た時を思い出した。

 荒廃しボロボロの町、その中で遊馬が踏み出した瞬間、ボロボロの木々や草華に命が芽吹いたのを、まるで何かを与えられたような、その光景を。

 

「……こうか?」

 

 遊馬は手を差し出し、ボロボロになったアストラル人へと触れて回る。

 遊馬の手が触れるたびに枯れた土地に水がしみこんでいくようにひび割れていた顔や手足がうるおいを取り戻していく。

 皆の体に触れ、ボロボロのアストラル人がいなくなった事を確認し遊馬はエナの前に戻ってくる。

 

「ありがとうございます」

 

「あっそうだ、アストラルの居場所を知らないか?」

 

「……アストラル様はエリファス様と共に王宮の最上階にいらっしゃいます」

 

「エリファス?」

 

 知らない名前に遊馬は首をかしげる、それを見たエナは、

 

「そうですね、では少しだけお時間をいただきましょう、どうぞ」

 

 遊馬の背後に椅子が用意される、遊馬はそれに腰掛けるとエナは話を始める。

 エナが語るのはアストラル人からみたアストラル世界だ。

 ドン・サウザンドたちを切り捨て、そしてその元凶であるカオスを切り捨てたアストラル世界は誰かを守りたい、誰かのために生きていたいという心もカオスとして捨ててしまった。

 そしてアストラル人から元始的な生命の源を失われ、アストラル世界は衰退を始めた。反対に切り捨てられたバリアン世界は徐々に力を強めていく

 

「ああ、そこまでは知ってるぜ、バリアン人のリペントから聞いたんだ」

 

「そうですか、あちらにもお友達がいらっしゃるのですね、それは心強いことです、さて、では続けましょう」

 

 日に日に強くなってきたバリアンの力を見かねたアストラル人はバリアン世界を破壊しこの世界を新たにランクアップさせる存在、アストラルを作り上げ、戦争を仕掛けバリアン世界の根源たるドン・サウザンドの封印に成功した。

 だがその戦いでアストラルは記憶と力の半分を失い、アストラル世界はさらに衰退を続ける。

 世界の衰退より逃れるためにアストラル世界はランクアップする事を目的としてエリファスを作り上げた。

 アストラル以上にカオスを排除するエリファスはアストラル人に僅かに残ったカオス全てを捨てさせた。

 

「正しいと信じている行動、実は間違いでした。誰かを守りたいと考える心も誰かのために行きたいという心も全てを悪い物だとして捨てたのです」

 

 強くそれを後悔するように、しかし感情の篭っていない声で彼女は訴えかけてくる。

 

「このままアストラル世界とバリアン世界の戦争が続けばどちらかが勝利するでしょう、しかしどちらの世界も歪んでいて必要な物が足りません、バリアン世界には感情を制御し欲望に負けない強い心が、アストラル世界にはどうして強くなるのかその理由がないからです、ひたすらにランクアップのみを繰り返してその先に何があるのか、何もないでしょう」

 

「じゃあ、どうしてランクアップに拘るんだ?」

 

「それしかないからです、昔は、カオスを捨てる前はもう少しだけまともでした。少なくとも目的があった、ランクアップし優れた我々が他の世界を導いていくと、しかし導くという感情は傲慢であり支配する欲望と戦いを生むだけだと判断されました」

 

 アストラル世界は何かを成す為にランクアップするのではなくランクアップすることが目的となり動機となる感情をを捨てた世界だ。

 

「カオスを捨てた後のアストラル世界は感情を持つ人間をより一層下に見るようになりました。感情から解脱した魂を持つ我々は特別だと、もはやカオスを持つ生き物を導くだけの価値はあるのかと、我々が穢れるだけではないか、カオスしか撒き散らさない彼らをバリアン世界と一緒に滅ぼすべきではないかという意見すらもあります」

 

 それこそ傲慢な意見だ。

 遊馬がそう思うのは当然だ。 

 

「そんなこと、自分たちの意見だけで決めて良いわけねえだろ!」

 

「そうです、だから貴方が最後の希望です、アストラル人やバリアン人がヌメロン・コードを手にすればどちらにも未来なんてありません、だからどうか、お願いします」

 

 バリアン世界が頂点となれば起こる未来は敗者必滅、輪廻転生の地獄の世界だ、それはただ一人の楽しさが続くだけで何も生み出さない世界だ。

 そしてアストラル世界が残ってしまえばバリアン世界の影響は薄くなりアストラル世界へと至れる魂があるだろう、だがそれは大量の人の上に成り立つものだ。

 アストラル世界はランクアップし続ける事を目的としている。

 その世界の影響が強くなれば最後に行き付く先は努力をし続ける事を至高とする世界だ。努力をしない者を不要だと切り捨てる、その未来にあるのも何も生み出せず自分以外全てを切り捨てる閉じた世界となる。

 誰でもかっとビングでき、一度間違えたからってやり直しが出来るそんな世界が良い物だと信じる遊馬はどちらの未来も欲しくはない。

 

「私達ではどうすることも出来ないんです、だからあの人を、エリファス様を止めてヌメロン・コードを人間である貴方が手にいれ、この戦争を終わらせてください」

 

                       ●

 

 エナの言う話ではアストラルは王宮の最上階にいるらしい、遊馬は父親の使っていた虹クリボーと共に塔を登る。

 そして最上階へとたどり着いた。

 きらびやかなクリスタルがあちらこちらにあるが殺風景に見える部屋だ。

 部屋の奥にある一際大きい推奨を見たとき、遊馬の目は大きく開かれ口元には喜びの笑みが浮かぶ。

 クリスタルの中にいるのはアストラルだ、だがその胸にはNo.96にやられた傷が残り黒い瘴気のような物が立ち上っている。

 

「アストラル!」

 

 遊馬が近づき呼びかけるもアストラルが呼びかけに応答することは無い。

 

「おい、アストラル!」

 

「無駄だ」

 

 自分と虹クリボー以外居なかったはずの最上階に凛とした男の声が響く。

 黄色の光が収束し男の姿を作り上げる、黄色の鎧をまとった男だ。

 アストラル人特有の青白の肌を眼にし、遊馬は聞く。

 

「お前は?」

 

「我が名はエリファス」

 

「お前が、エナから全てを聞いた、お前がアストラル世界の代表なんだろ、アストラルをこっから出せ!」

 

 それは出来ない、そう遊馬の言葉を否定しエリファスは言葉を続ける。

 

「アストラルはバリアン世界を破壊しこの世界を新たにランクアップさせる存在だった、カオスに汚される事ない存在にならねばならなかった、だがお前のカオスによって汚された、それによって情に流されたアストラルはカオスの攻撃からお前をかばい自ら傷を負った」

 

 思い出されるはNo.96の攻撃を受けたときのアストラルの顔だ、そして

 

「絆、そんな物、ランクアップには必要ない、カオスはランクアップしようとする意思を鈍らせるだけだ、全て、君達人間が抱くもの全て無駄でしかない、だから君達はいつまでもランクアップできない存在なんだ」

 

「確かにアストラルは変わったのかもしれねえ、だけどあいつ汚されてなんかいねえ! 泣いたり笑ったり時には喧嘩したり、だけど俺達は確かに共に戦ってきた、苦しくても悲しくてもずっと戦ってきた仲間なんだ、それは俺の確かな絆だ!」

 

 言い切って遊馬はエリファスを真っ直ぐに見つめる。

 

「俺がアストラルを助ける」

 

「君がか? どうやって?」

 

「決闘だ、アストラルはいつも言っていた、決闘こそが神聖なる儀式だと」

 

「では私と決闘にアストラルを賭けるのだな?」

 

 頷いた遊馬を見て、エリファスは満足げに頷く。

 

「ならば君が持つアストラルの記憶に関しても賭けて貰う、君が勝てばアストラルを助けるという君の言葉を信じよう、だが負ければ君のアストラルに関する記憶は全て奪わしてもらう、それでいいな?」

 

「…………ああ」

 

「よかろう、ならば儀式を開始する」

 

 差し出されたエリファスの手に決闘盤が装着される、翼のような真っ直ぐで黄色の決闘盤だ。

 エリファスの手に金色の光が収束しデッキを形作る。アストラル世界の力を集結させたそのデッキは凄まじい威圧を放ちながら決闘盤に装填される。

 

「よっしゃあ!」

 

 遊馬はいつも付けている赤いDパッドを変形させ、いつもの決闘盤を作り上げる、Dゲイザーも問題なく作動することを確認し、デッキに手をあて初手ドローする。

 

「見せてやろう、アストラル世界の決闘を」

 

 エリファスは初手5枚をドローする前に叫ぶ。

 それは一切手抜き無しで儀式を行なうことを意味する。

 とある特定の禁止条件が存在するもそれを破らず自分のできる能力全てを使い、さらにその限界を超える、それがアストラル世界においての儀式だ。

 

「最強決闘者の決闘は全て必然、ドローカードさえも決闘者が創造する!」

 

「そんな、この光はまさか!?」

 

 遊馬からすれば見覚えのある光がエリファスの手に集まっていく、それは全てを塗り替える至高の輝き、

 

「シャイニング・ドロー!」

 

 初手五枚のカードが金色に光り宙に金色の線を残す。

 それは遊馬とアストラルがゼアルになったときのみできる秘儀であり、

 

「アストラル世界の決闘、それは全てシャイニング・ドローで成り立つ決闘だ」

 

 遊馬のそばにアストラルはいない、つまりはゼアルになれず遊馬は常時シャイニングドローしてくる相手と戦わなければならない。

 

「さあ、始めよう」

 

「「決闘!」」


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