クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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学校での決闘 上

 裕は寝不足で眠い目を擦りながらも起床し、朝食を食べ終え、制服に袖を通しながら昨日の事について考える。

 

―――昨日は散々だったなぁ。

 

 トレジャーシリーズを見つけるために町へと繰り出し、その中で町の重要そうな場所はあらかた覚えたまではよかった。

 だが肝心のトレジャーシリーズは丸一日捜索したものの何も見つからなかった。

 しょうがなくカードショップでストレージより今の所持金で買えるカードを買ったはいいがその枚数は少なく、帰り道で最上に宣戦布告をしたはいいがいつになったらあの甲虫装機と正面からぶつかることができるデッキができるのかを考えれば、裕の気が重くなる一方だ。

 

―――さて、昼飯も入れたし、あとはデッキか。

 

 裕は昨日デッキ調整したまま机の上に広げっぱなしのカードを集める。

 その中で目に止まったのはスクラップ・ドラゴンと波動竜騎士ドラゴエクィテスだ。

 したい事と安定性などを考えるとドラゴエクィテスを抜くべきなのだが、自分が小遣いで買ったパックで初めて当たったホログラフィックレアであり、思い入れが大きく抜きがたい。

 

「まあトップミラクルシンクロフュージョンで形勢逆転できるし、入れてていいだろう。うん」

 

 言い訳のように呟きエクストラデッキに入れ、次に手に取るのはスクラップ・ドラゴンだ。

 前の世界ではスクラップ・ドラゴンは買うと裕の小遣いの半分以上が消えるぐらいの値段であり、裕は買うのをあきらめていたのだが誕生日祝いと言って大田からもらった大切なカードだ。

 普段からいらないカードを売っていた友人だったが、ときたま光るカードをくれたり、大会に無理矢理引っ張っていかれたりと今思えばかなり優遇されていたのではないかとも思う。

 そこまで思い出し、大田の事を考えると猛烈に会いたいと感じる。そしてどうにかして帰れないものかと考えてしまう。

 

―――そもそもカードを奪う決闘なんておかしいよな。俺がしたいのは和気藹々とした決闘だ。買っても負けても楽しいだけでいいのに、どうして負けに怯えなくてはいけないのか、なんでこんな事になってしまったのか。

 

 元凶は目玉神なのだろうと考え付くがどうやって合えばよいのかも分からない。

 

「結局、何を考えたところで俺は普通で何も出来ないしなぁ」

 

 諦めの言葉を吐き、裕は若干足取り重く家を出る。

 同じ制服を着る生徒の後を追い裕が投げるのはこの世界で自分がどうするかだ。

 決闘で負ければクェーサーと離れる事態が起こるかもしれない、という裕にとって重要な問題、自分がこれからどうするかそればかりを考え、裕は何も気づけなかった。

 靴箱を探し大分時間を食ってしまい、そして学校を探し回り生徒手帳に記されたクラス番号を見つけたのはHRが始まるギリギリの時間だ。

 そして裕が教室に入った瞬間、クラスの会話が急に途切れ、そして周りの生徒達が裕と目を合わせないようにするかのごとく、目を背けた。

 

―――なんで?

 

 疑問に思うも、靴箱にあった出席番号と出席番号順に並んでいる席を前から数え、自分の席と思われる場所に座り裕は周りを見る。

 露骨に目を逸らされた。

 何か話しかけようと裕が立ち上がれば少し離れた場所にいた生徒達が席を離れる。

 それは言葉はないが話す気などないという拒絶の意思表示だ。

 

―――とりあえず露骨に避けられている理由を聞くか。

 

 裕は避けられていることを無視し、なぜ避けるのかを聞こうと近寄るも、チャイムの音と同時に入ってきた教師によってタイミングを逃した。

 HRで教師が明らかに裕を見て驚いた表情を見せたので、裕はHR後に教師を廊下で捕まえ話を聞いてみると、とある生徒に暴力をふるい1週間の停学処分を受けている事が分かった。

 そそくさと歩き去る教師を見送りながら裕は先ほど得た情報を整理する。

 

―――もう停学処分期間は終わっている。でも周りのクラスメイトから、水田裕が暴力をふるったから周りから危ない生徒だと思われて、避けられている⋯⋯って状況だよな。

 

 ううむ、と顎に手をあて考えるのは次にどういう行動をとるのかだ。

 

―――このまま避けられ続けるというのも辛いしとりあえずコミュニケーションでもとってみるか。

 

 そう考えた、まではよかった。

 だが1時限目の授業を終え、隣の生徒に話しかけようとすれば逃げられる。

 トイレに行けば露骨に背中を向けられる。

 しかも背後からじろじろ見るような視線を裕は感じ、これは別の何かがあるんじゃないかと本気で考え始めた。

 休み時間に情報収集のために裕は色々な手を取るが、どれも空振りに終わり、別の行動をとるべきかを考えている間に昼食、昼休みになった。

 

―――ここで目立たないけど、こう、なんかを状況を好転させる何かをするぞ!

 

 このよくわからない状況を打破すべく行動を起こそうと思い立ち、裕は席から立ち上がる。

 と、そこへタイミングよく教室に黒髪を左側を上に尖らせ右側を幾房かに固めた独特な髪型の男子生徒が入ってきた。

 明らかに誰かを探している様子、そして裕を見て、腕に付けているDパッドとこちらを見比べるような動きをし、歩み寄ってくる。

 その人物を見て、クラスの中がざわめき始める。

 

「あっあれって3年の菅本先輩じゃないか」

 

「なんでアイツに近づくんだ?」

 

 周囲のざわつきを無視し、真っ直ぐにこちらに歩み寄ってきた男子生徒、菅本は裕の目の前に立ち、

 

「お前が水田裕だな、決闘しろ」

 

                  ●

 

―――どうしてこうなった。

 

 そう思う様な状況がそこにはあった。

 中庭、広い決闘場が作られており生徒が授業や休み時間に利用できるようになっている、その場所は生徒で満杯に埋まっていた。

 

「光栄に思え、この学園で上位ランクであるこの俺が直々に相手をしてやろう」

 

 偉そうな態度に裕は小首を傾げ問う。

 

「…………その上位ランクの先輩に俺、なんかしましたっけ?」

 

「いや、お前は色々有名人のようだが俺とは何も関係ない。ただ生徒会長にお前に勝ったら部費を増額してくれると言われてな、俺のDホイール製作部は部費に困っており下級ランクのお前に勝つだけで部費が増えると聞いては飛びつくしかあるまい。お前にそれほど手間は取らせん。すぐに終わる」

 

 その生徒会長とやらが誰なのかは知らないが、その人物に対して裕は不快感を覚える。

 何が目的なのかは知らないが、教室でのストレスが溜まりに溜まっている裕は不快感を隠さずに、目の前の先輩へとぶつける。

 

「舐められてますね!」

 

「そうだ」

 

 きっぱりと断言され、更に裕の中で怒りの感情が膨れ上がる。

 昨日買ったカードを入れ強化されたデッキで勝ってやる、と拳を握りしめ、

 

「デッキの改良初試合、試させてもらいます!」

 

「そうか、ならばこの俺を楽しませてみせろ」

 

 決闘盤をともに構え、Dゲイザーをつけ、2人は叫ぶ。

 

「「決闘!」」

 

                    ● 

 

「ハンデだ、先攻はお前にやる」

 

「ありがとうございますっ、ドロー、…………むう」

 

 ドローしたカードを見、苦悶の声を裕は漏らす。 

 負けない事に重点を置き、防御カードを多く積んだために今の裕の手札でできることはあまりにも少ない。

 

「モンスターをセット、このままターンエンド」

 

裕場       セットモンスター

LP4000

手札5

 

菅本場

LP4000

手札5

 

「ドロー、ふむ、こういうときがあるのだな、会長の言った事、あながち間違いではないか、俺はギアギアングラーを召喚」

 

 菅本の場に黄色の歯車に目玉の付いたモンスターが乗る巨大なドリルが現れる。

 その効果を決闘盤で確認し、だが裕はどうする事も出来ず動かない。

 

「このカードの召喚時効果でデッキからギアギアと名のつくカード、ギアギアクセルを手札に加える。この効果を使ったターンは私はバトルフェイズを行うことが出来ない」

 

 強烈なデメリット効果であるが菅本の表情は余裕に満ち溢れており明らかに裕を格下に見ている事が分かってしまう。

 

「場にギアギアと名の付くモンスターがいるとき、ギアギアクセルは手札より特殊召喚できる、そして機械族レベル4モンスターのギアギアクセルとギアぎアングラーでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、ギアギガントX(クロス)!!」

 

 眩い銀河より浮上するは色とりどりの歯車だ。

 それらは互いに合致し一体の機械仕掛けの巨人を作り上げた。

 そのままどこからともなく飛んできた2つの歯車型モンスターが胸に収まり裕へとファイティングポーズをとる。

 そして歯車で出来た巨人は周囲に回る黄色の2球の内の1つを握り潰す。

 

「オーバーレイユニットを使いギアギガントXの効果発動、デッキからレベル4以下の機械族モンスター、マシンナーズ・ギアフレームを手札に加える、そして俺はカードを1枚伏せターンエンド」

 

裕場     セットモンスター

LP4000

手札5

 

菅本場    ギアギガントX ATK2300 (ORU1)

LP4000   伏せ1

手札5

 

 裕は相手の場に居座る巨人を見、その効果で加えたカードを思い出す。

 

―――ギアギアとマシンナーズを混ぜたデッキかぁ。持久力があるから速めに決めないときついな。

 

 いくら防御カードを積もうとも、瞬間火力に特化したデッキであり持久力など無い。

 それに対して相手は安定性、持久力、瞬間攻撃力も出そうと思えば出せるデッキであり長期戦に持ち込めば敗北は必須だ。

 

「ドロー、セットモンスターを反転召喚、ライトロード・ハンター・ライコウのリバース効果発動! ギアギガントXを破壊する」

 

「ふむ…………させん。ギアギガントを対象に罠カード、スキルプリズナーを発動。このカード効果を受けたギアギガントはこのターン、ギアギガントを対象とするモンスター効果を無効にする。よってライコウの効果は無効になり、墓地肥やしもできない!」

 

 カードの裏側より放たれた猟犬がギアギガントの喉元へと迫る。だがその効果は十分な効力を発揮する前にギアギガントを守る膜によって阻まれる。この膜のせいでライコウはカードを墓地に送る事すらも出来ない。

 スキル・プリズナーは裕が欲しいと思っているカードの一つだ。

 自分の場にあるカードを対象にするモンスター効果を無効にし、墓地に送られても墓地のスキル・プリズナーを除外する事でもう一度発動する事が出来、厄介すぎるモンスター効果からクェーサーを守りたい裕からすれば喉から手が出るほど欲しい物だ。

 だが持ってない。

 

「でも罠は消えた、これで展開できる! 俺はガスタ・グリフをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚、そしてグリフの効果発動、デッキからガスタ・コドルを特殊召喚、そして俺はジャンク・シンクロンを召喚、ジャンク・シンクロンの召喚時効果で墓地からガスタ・グリフを特殊召喚」

 

 手札消費が激しい代わりに爆発力のみを見ればシンクロンデッキはトップクラスの性能を誇る。

 あっという間にモンスターゾーンを埋めた裕、周囲にいた生徒はその裕の動きに驚き、ざわめく。

 

「行くぜ、レベル2のライトロード・ハンター・ライコウにレベル3のジャンク・シンクロンでチューニング、シンクロ召喚、レベル5、TGハイパーライブラリアン」

 

 現れた裕のデッキで数少ないドローソース、シンクロ召喚を主軸にするデッキでレベル5を出せるならば必須とも呼べるカードだ。

 それを目にし、菅本の余裕に満ちた目の色に僅かに警戒の色が混じり始める。

 

「そしてレベル3ガスタ・コドルにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 今出せるレベル8のシンクロモンスター、ジャンク・デストロイアーがある。

 だがスキル・プリズナーの効果により対象に取られないため出す利益は無い、この状況で出すならば次の裕のターンまで生き残れば大きい利益をもたらすカードだ。

 3つの星は5つの輪によって分解、調律され光を放つ。

 その光を切り裂き、軽やかに躍り出るは騎士だ。

 

「シンクロ召喚、レベル8、フルールド・シュバリエ! そしてシンクロ召喚に成功したためライブラリアンの効果で1枚ドロー! バトルだ、シュバリエでギアギガントを攻撃!」

 

 5つの輪の中を花びらを散らし乍ら現れるは騎士の姿だ。

 レイピアを煌めかせシュバリエは機械の巨人へと接近する。

 菅本の場にはカードがなく、騎士の攻撃を妨害、迎撃する手立てはない。

 騎士の放つ斬撃に切り刻まれ機械の巨人は爆散する。

 

「続いてライブラリアンで直接攻撃!」

 

 2体のモンスターの攻撃により一気にライフを2800も失う菅本。

 それを見た周りからは信じられないだの、菅本が手加減しているんじゃないかといった驚きの声が聞こえてくる。

 その声に裕は気分が少しだけ楽になり、大きく明るい声で、

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

裕場       フルールド・シュバリエ ATK2700 

LP4000     TGハイパーライブリアン ATK2400

手札1      ガスタ・グリフ DEF300

         伏せ 2

菅本場       

LP1200   

手札5

 

「どうです、先輩。楽しめてますか?」

 

「ああ、そうだな。意外と楽しめるようだ。俺のターン、ドロー⋯⋯ふん、ここまでやるとは確かに以前とはまるで別人だ。俺はマシンナーズ・ギアフレームを召喚、効果発動!」

 

「させません、罠発動、ブレイクスルー・スキルをギアフレームに発動! その効果を無効にします!」

 

 裕はこちらに来る前に持っていたカードを使う。

 発動したカードより白い竜のような腕が現れ仲間を呼ぼうとしていたオレンジ色の機械を押しつぶした。

 

「ならばこのカードは手札の機械族モンスターをレベルの合計が8以上になるように捨てて、手札または墓地から特殊召喚する事ができる! 手札のレベル4のカラクリ守衛参壱参とレベル7のマシンナーズ・フォートレスを捨て、マシンナーズ・フォートレスを墓地より特殊召喚、更に魔法カード、死者蘇生を発動、墓地のカラクリ守衛参壱参を特殊召喚する」

 

 墓地より上り出るは青色の船社の様なモンスターと木で作られた番犬のようなカラクリだ。 

 その番犬は墓地から上り出るや否や軽い駆動音を響かせながら空へとジャンプし、それにつられるようにオレンジ色の機械モンスターが星となり追った。

 

「レベル4、機械族のマシンナーズ・ギアフレームにレベル4のカラクリ守衛参壱参をチューニング、シンクロ召喚!」

 

 空に上った輪の中に入った星は光となり新しい機械の巨人を作りあげる。

 それは棘の付いた鎧を纏うカラクリ武者だ。

 肉厚の太刀を2刀、腰より抜き放ち、大将軍の名に恥じない巨大なそれは空より地響きを響かせ菅本の場に降りてきた。

 

「古き時代に作られしカラクリの長よ、その身に宿りし力で敵を粉砕せよ、レベル8、カラクリ大将軍無零怒!」

 

 わっと沸き立つ周囲、それを気にせずユニットは叫ぶ。

 

「シンクロ召喚に成功したのでハイパーライブラリアンの効果でドローします!」

 

 ライブラリアンの効果は相手のシンクロ召喚成功時にも発揮される。それは菅本ならば知っているはずだ。

 定石ならばマシンナーズ・フォートレスでライブラリアンを攻撃し、メイン2でシンクロ召喚を行えい裕にドローされないはずである。

 それをしないという事は、と裕は考え、

 

「このターンで決める気ですか!?」

 

 問い質すも答えは返ってこない。

 

「ふっ、シンクロ召喚成功時の大将軍の効果だ、デッキよりカラクリモンスター、カラクリ忍者九壱九を特殊召喚する」

 

 大将軍が自ら戦の始まりを告げるホラ貝を吹き鳴らせばその音色に惹かれるように姿を現すのはカラクリ仕掛けの忍者モンスターだ。

 

「バトルだ。マシンナーズ・フォートレスでフルールド・シュバリエに攻撃宣言、このときなにかあるか?」

 

 その聞き方に裕はどちらであるかを考える。

 マシンナーズ・フォートレスには戦闘で破壊されたとき、相手の場のカードを破壊する効果がある。

 それを狙っているのか、あるいはあのカードがすでに手札にあるのかだ。

 

「自縛特攻か、それとも……!?」

 

「ならば行くぞ、ダメージステップ、手札より速攻魔法、リミッター解除を発動! 俺の場の機械族モンスターの攻撃力を全て倍にする!」

 

「やべっ、リバースカード、禁じられた聖槍をマシンナーズ・フォートレスに発動する!」

 

 菅本の場に居る全てのモンスターが悲鳴のような軋音を響かせながら裕の場に居るモンスターへと走り寄ってくる。

 その中で先陣を切った起動要塞は裕の発動したカードより放たれた黄金の槍によって貫かれ動く速度が劇的に減少した。

 そこへと切り込む騎士、フルールド・シュバリエ、その花びらを散らしながら疾走するその姿はまさに戦の誉れを立てんとする騎士の姿だ。

 動きが遅くなった要塞のキャタピラを一閃、動きを完全に止めた後、上段からの一撃で両断した。

 

マシンナーズ・フォートレスATK2500→1700 VS フルールド・シュバリエ ATK2700

破壊→マシンナーズ・フォートレス

菅本LP 1200→200

 

「くっ。俺の攻撃をかわしたか、だがこの瞬間、戦闘破壊されたフォートレスの効果発動、相手の場のカードを1枚破壊する。俺が破壊するのはフルールド・シュバリエだ、そして無零怒でライブラリアンに攻撃!」

 

 爆散する寸前、立ち去ろうとしていた騎士を巨大なアームによって掴みとり要塞は自爆した。

 その爆発の横を走り抜けるは大将軍だ。

 駆動部からは焦げ臭い臭いと火花を散らしながらも走り来る大将軍はライブラリアンの前に立つと手に持つ2刀をめちゃくちゃに振り回しライブラリアンを細切れにする。

 細切れにされたライブラリアンは爆発し裕はその爆風に飲まれる。

 

カラクリ大将軍無零怒 ATK5600 VS TGハイパーライブラリアン ATK2400

破壊→TGハイパーライブラリアン

裕LP 4000→800

 

 ライブライアンが爆発した爆風は立体映像である、だが多少は衝撃が発生するようになっており裕の体は軽く吹っ飛び何回か回転した。

 

「カラクリ忍者九壱九でガスタ・グリフを攻撃」

 

カラクリ忍者九壱九 ATK3400 VS ガスタ・グリフ DEF300

破壊→ガスタ・グリフ

 

「そしてモンスターを戦闘破壊した九壱九の効果発動、墓地のカラクリモンスターを守備表示で特殊召喚する。カラクリ守衛を守備表示で特殊召喚。そしてメイン2、レベル4の機械族、カラクリ忍者九壱九とカラクリ守衛参壱参で再びカラクリ大将軍無礼怒を守備表示でシンクロ召喚」

 

 再び降りて来る大将軍、そしてこれから起こるであろう事を想像し裕の顔色が変わる。

 

「更に無零怒の効果でデッキからカラクリ参謀弐四八を守備表示で特殊召喚、カラクリ参謀の召喚時効果で参謀を攻撃表示に変更する、そしてカラクリモンスターの表示形式が変更されたためカラクリ大将軍無礼怒、2体の効果で2枚ドローする」

 

 ドローしたカードを見て嬉しそうに笑う菅本、その姿に裕は切り札か何かを引いたのではないかと不安を覚える。

 

「やっと来たか、俺は一時休戦を発動し互いに1枚ドロー、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 その言葉とともに菅原の場にいたカラクリ大将軍はリミッター解除のデメリットによりバラバラに爆散する。

 

菅本場   カラクリ大将軍無零怒 ATK2800 

LP200   カラクリ参謀 弐四八 ATK500

手札2    伏せ1  

 

裕場        

LP800   

手札2         

 

 菅原が発動した一時休戦の効果でこのターンのエンドフェイズまでお互いにダメージを受けない。

 相手の伏せカードはあるがこの状況を打破しないと勝てないだろう。

 

「俺のターン、ドロー! 調律を発動、クイック・シンクロンを選択!デッキから一番上を墓地に、って調律かよ!?」

 

 よくあると言えばよくあるのだが調律で調律を落とすという運の悪さに僅かに肩を落とすも、裕は気を取り直して動く。

 

「そして貪欲な壺を発動、シュバリエ、ライブラリアン、ガスタ・グリフ、ジャンク・シンクロン、ガスタ・コドルをデッキに戻し2枚ドロー。手札のライトロード・ハンターライコウを墓地に送りワン・フォー・ワンを発動、デッキからレベル1のレベル・スティーラーを特殊召喚する!」

 

 裕の場にころりと転がり出るはシンクロンデッキの潤滑油であるといっても過言ではない天道虫だ。

 

―――手札は良い。だったら踏み抜く!

 

 菅原の墓地にはスキル・プリズナーがありジャンク・デストロイアーの破壊効果は使えない、だとすれば裕が出すのは、

 

「手札のボルト・ヘッジホッグを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚、そして俺の場にチューナーが存在するため、ボルト・ヘッジホッグを自身の効果で墓地から特殊召喚、レベル2のボルト・ヘッジホッグと、レベル1のレベル・スティーラーにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚、レベル8、ロード・ウォリアー!」

 

 黄金の戦士が輪の中より姿を現す。その姿は王者の威厳を漂わせる。

 現れた新しきシンクロモンスターの姿に周りからは驚きの声がさらに上がる。

 それはまるで裕がシンクロモンスターを複数持っている事に疑問を持っているような声だ。

 

「ロード・ウォリアーの効果でデッキからレベル2以下の機械、または戦士族モンスターを特殊召喚できる。俺はレベル1のアンノウン・シンクロンを特殊召喚、そしてロードを対象に墓地のレベル・スティーラーの効果発動、このカードは俺の場のレベル5以上のモンスターを対象に発動できる!」

 

 ロード・ウォリアーの背より天道虫が転がり落ちる。

 そしてそれに伴い僅かではあるがロード・ウォリアーより発せられる威圧感が減る。

 

「墓地よりこのカードを特殊召喚し、ロードのレベルを下げる」

 

「これでレベル1のモンスターと非チューナーが揃ったか」

 

「レベル1のレベル・スティーラーにレベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚! レベル2、フォーミュラ・シンクロン、フォーミュラの効果でデッキから1枚ドローする!」

 

 デッキトップを手にし裕は祈る。

 

―――頼むからなんか来てくれ、じゃないと次のターンに返される危険性がある、というよりはトリシューラなんて持ってないからなんか来てくれないと非常に困る!

 

「ドロー!! よし! そしてロードのレベルを下げスティーラーを特殊召喚、ジャンク・シンクロンを召喚、効果で墓地からライトロード・ハンターライコウを特殊召喚する!」

 

 場にならんだモンスターを見て、菅本は興味深げに目を瞬かせ、

 

「これでレベルの合計は12、あのカードが来るか」

 

 菅本の呟きは多くの観客の耳に届く。

 それは皆の心にとあるモンスターを浮かべさせるのに十分だった。だがそのような超レアカードをコイツは持っていないだろうと誰もが考えがある。

 ありえないという否定ともしかしたらという期待はさらに大きなうねりを生み、場を沸かす。

 

―――このままアームズ・エイドをシンクロ召喚したらクェーサーが出せる。でも…………そもそもなんでこの人は俺のクェーサーを知っている?

 

「なんで。知ってるんですか?」

 

 なぜ知っているのか、誰かから教えられたのならば情報源は誰なのか。裕はそれを聞く。

 菅原からの返答はない。

 菅本は悩むような表情を浮かべ、ちらりと校舎を見上げる。

 わずかに考え込むような間があり、口を開いた。

 

「まあいい。俺は隠し立てをするような性分でもないしな。あのバカ会長がお前はあれを持っていると言っていた。俺も半信半疑だったがその様子を見ると本当らしいな」

 

 今の時点で裕の手札は0、菅原の妨害するようなカードを伏せることはできない。そして菅本の場には伏せカードが1枚ある。 

 ここで本当に出すべきはクェーサーだ。

 1枚だけの伏せカードならばクェーサーの効果で無効にできる。そしてシンクロ召喚に使用したチューナー以外のシンクロモンスターの数だけ攻撃が可能なクェーサーならばこの状況を打破できる。

 

「何を悩んでいるかはしらんが水田裕、貴様はここでどうする? こちらとしては別に負けてもらっても構わんぞ。貴様も俺も別に負けたところでデメリットはない」

 

 負けてもいい、その言葉は裕の心に火をつける。だが裕はそれを必死でかき消そうとする。

 

―――クェーサーを出したらまずい。こんな人気の多い場所で見せたらだれにアンティ決闘を挑まれるか分からない。だから、ごめん……。

 

 エヴァ達からアンティ決闘を挑まれた事、教室の雰囲気、それらを考えればこんな大人数の前でクェーサーを晒せば裕がクェーサーを持っているという話はあっという間に広がるだろう。

 それを防ぐためには、

 

「俺は、俺は、ロードのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚し、レベル2のライトロード・ハンターライコウにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、レベル5、ジャンク・ウォリアー!」

 

 裕は隠し通したいカードを守るために負ける覚悟をした。

 分解された星と和の中より戦士が現れ、背のブースターを噴かせながら出現する。

 

「シンクロ召喚に成功したジャンク・ウォリアーの効果発動、場のレベル2以下のモンスターの攻撃力分、アップさせる!」

 

 場のレベル2以下のモンスターは攻撃力200のフォーミュラ・シンクロンと攻撃力600のレベル・スティーラーだ。

 それらより力を受けた戦士の拳に光が走る。

 

「バトルだ。ロードでカラクリ大将軍無零怒を攻撃!」

 

「そうか、残念だ」

 

 裕はその言葉を裕がクェーサーを出さないことを惜しむ言葉だと受けとった。

 だがそれは誤りだ。

 その言葉は、

 

「罠カード、聖なるバリアーミラーフォースを発動、攻撃表示のお前のモンスター全てを破壊する」

 

 違う意味を持つ。

 クェーサーを出していればまだマシになったという意味での言葉だ。

 

「あっ」

 

 爆散したジャンク・ウォリアーとロード・ウォリアー、それらが砕けていくのを裕は言葉を失い見ているだけだ。

 何もできない状況で裕が出きるのは、

 

「ターン、エンド……」

 

裕場     レベル・スティーラー DEF0

LP800    フォーミュラ・シンクロン DEF1200

手札0

 

菅本場   カラクリ大将軍無零怒 ATK2800 

LP200   カラクリ参謀 弐四八 ATK500

手札2    

 

 茫然自失している裕を見ず、菅原はカードをドローする。

 

「なるほど、つまらん。カラクリ参謀を守備表示に変更、そしてカラクリモンスターが表示形式を変更したことにより1枚ドローする」

 

―――俺の切り札が中々手札に来ないから少しは楽しめると思ったのだがな。

 

 裕が考えていることなど菅原には手に取るようにわかる。

 

―――この少年は不特定多数の人物が見ている中で不用意に出し、アンティ決闘を仕掛けらることを恐れたのだろう。

 

 実際戦ってみて裕の実力は分かった。

 弱い。

 このレベルではこの学園のランキング上位生徒にアンティ決闘を仕掛けられてしまえば敗北し奪われてしまうだろう。

 菅原は生徒会長である最上より話を聞き、少しだけ期待していた

 あの超レアカードであるクェーサーは裕と同じシンクロンデッキを操る蟹下プロも持っているカードだ。

 テレビに映るその姿を菅原は憧れ、いつか実際に見ててみたいと思っていた。そしてそのチャンスが訪れ、だが裕は出さなかった。

 いくら大切なカードを守るためとはいえども、裕の願いに裕のデッキが答えてくれたようなあのドローからの行動はさすがに菅原でも苛立ちを隠せない。

 

「魔法カード、ブラックホールを発動、場のすべてのモンスターを破壊する」

 

「何?」

 

 菅原の勝利はすでに決まったも同然、その状況でブラックホールの発動をすることに裕は小さく声を上げ、そして菅原の切り札を知るギャラリーからは口笛や歓声が上がる。

 

「刮目せよ俺が切り札の姿を、表側表示のモンスターがカード効果で破壊されたことにより手札からこのモンスターを特殊召喚する!!」

 

 ブラックホールの引き起こす破壊の嵐が全てを飲み込んでいく。 

 万物を吸い込みすりつぶす重力の嵐、それを切り裂き瞬くのは、白い五本の輝きだ。

 その輝きは生物を模した白い機械が放ったものだ。

 その5つは空中に浮かび、十字架を描くように集結し音を立て変形し、∞を象る胸を中心に左腕、右腕、両足、頭部が合体し一体の白い巨人へと変わる。

 

「現れよ、我が切り札、機皇帝ワイゼル(インフィニティ)

 

 菅原は裕をじっくり見据える。

 最上が何を考えて自分を有と戦わせようとしたのかは分からんがろくでもないことなのはいつもの最上の言動からすれば分かる。

 裕の切り札を大事にしたいという気持ちもアンティ決闘で奪われたくないという気持ちも理解できないわけでもない。

 だが、

 

「お前はいつまでもそうやって隠し続け、勝機を逃すのか!」

 

 裕の驚き、口を開いていた表情は惜しさと後悔で歪む。 

 歯を食いしばり、泣き出しそうになる顔、それを見て菅原は少しだけ安堵する。

 

―――俯き、諦めで下を見ず、悔しいと思えるならばまだマシだ。この敗北を恥と思うならばその感情を力に変え、這い上がってくるがいい。

 

「その気持ちを持ち続けろ、次に会うとき、お前の切り札を見せれるだけ強くなっていろ」

 

 菅原の言葉とともに機皇帝はその手にあるブレードを振り上げ、裕へ叩き込んだ。

 

裕LP800→0

勝者 菅本リア

 

                      ●

 

「ごめん、クェーサー……」

 

 裕は漏らすように息を吐き、デッキに手を当てる。

 顔には後悔の色が色濃く残り、自分の力不足を痛感している。

 

―――クェーサーを守れるぐらいに強くなりたい、誰がアンティ決闘を挑んできても勝てるぐらいに!

 

 拳を握り締め、爪が手に食い込むぐらいに握りこむ裕の手を取ったのは菅原だ。

 その握りこんだ手を無理やりに開き、握手する。

 

「良いバトルだっだ。俺はお前の挑戦をいつでも受けよう。強くなったと思うならば俺と決闘しに来い」

 

 優しげにこちらを見続ける菅原の手を握り返し、裕は菅原の目をまっすぐに見返し、

 

「ありがとうございます。次に決闘するときは、絶対に強くなって、俺の相棒を紹介します」

 

                ●

 

「結局この茶番はなんだったんですか?」

 

 最上は決闘が終わったのを見て、窓枠から離れ椅子に座る。

 フカフカのそれに体を預けこの後、誰を差し向けるかを思案すると、共に決闘を眺めていた少女が聞いてきた。

 

「ん、なんだとは?」

 

「いえ、我が高でも上位ランクの菅本さんを使ってまで何を図りたいのかと疑問に思いまして」

 

「…………ふむ、そうだね、お前に話しておこうか。菅本リアは少し特殊な能力持ちだ。なぜか初手に機皇帝がくるという微妙な才能と、かなりのドロー運を持ち合わせた面白い人物だ」

 

 その少女も何度かナチュル・ビーストやパルキオン、そして罠を大量に伏せられたことがありそれぐらいは分かるのだろう、顔を引きつらせ頷いて見せる。

 

「ですがかなり、です。上位陣になればそれぐらいならば持ち合わせますわ、最上さんや私のように」

 

「そう、プロならほとんどの者が持ってる力だ、そしてそれはよほどの事が無ければ乱れることはない」

 

 窓の外、裕の奮闘の姿、そしてシンクロモンスターの連打による決闘を目にし、観客同士はで興奮気味に感想を交し合わせる中庭を見下ろし、

 

「だが今回、彼の手札にはワイゼルが多分、来なかった。対人戦において95%以上の確率でワイゼルが来て、ドローすると結構な確率で状況を打破したり、強固なものにするはずの引きも弱かったように見えた、彼も笑みを浮かべているが内心は胸を撫で下ろしているのだろう、部長が弱いと分ると下克上にも繋がるからね」

 

 菅原本人がこの場にいたならば即座に否定するような言葉を吐く。

 

「…………あの水田裕が我々とは違う種類の何かを持っていると?」

 

「そうかもしれない、と昨日疑問に思ったからちょっとけしかけてみたんだけど当たり、かな? 予想では、そうだね。相手の引きを悪くする系かキーカードを引きにくくする感じの力だな」

 

 相手に干渉する能力はかなり希少な物だ。

 だがその力は相手だけに作用するものが多く、自分には恩恵をもたらさないことがほとんどだ。

 そういう種類の力を持つプロもいるが、そういうプロは凡人と良い勝負を行ったりプロ決闘者とも良い勝負をするという見ていて面白い試合をする。

 

「では次は校内ランク2位の私に戦わせてください、彼の力が本当のものなのか少しだけ興味が沸きました、引きが弱くなるというのが本当であればさぞかし面白い決闘が行なえる事でしょう」

 

「…………どっちを使う?」

 

「天使か悪魔の好きなほうを彼に選ばせましょう、その彼が運が悪ければ何も出来ずに終わるのか瞬間的に終わるのではないでしょうか?」

 

「君の引き運と彼の力どちらが強いのか興味があるが、苛めすぎないように、式原副生徒会長」


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