クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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機殻の襲撃 上

 裕とプラネタリーが何度か適当な話をしていると、頭を抱えながら最上とトロンが入って来た。

 椅子に座ると倒れ込むように机に突っ伏す最上、明らかに途方に暮れた様子であり、その非常に珍しい様子に裕は隣に座ったトロンに聞く。

 

「最上がなんか変な事しましたか?」

 

 そこで最上と出るあたりが裕が最上にどのような印象を持っているのかを察することが出来る。

 

「いや、特に変な事はしてないよ。ただ、ペンデュラムモンスターについてはおおむね分かったんだが、なにぶんこの村にあるカードに種類が無くてね。まともなデッキが作れないって嘆いてたようだ」

 

「そうなのか?」

 

 最上に審議を確かめれば、最上は体を机に預けたまま、唸る様に答える。

 

「あー、まあそうだな、昔のカードが多くかったりチューナーとか面白そうなカードシリーズはあったんだが、エクストラデッキが足りない。専用構築が出来るだけのカードも足りない。ラヴァルはあったのに爆発が無いとかそういう感じでどうにもならん、しばらくはこいつを使うしかないか」

 

 最上は裕のデッキに手を置きつつぼやく。

 そして水差しに手を伸ばしコップに水をくむと一気に煽る。その様子は酒場で愚痴を垂れながら自棄になって酒を煽る大人の様子であり、とても十代後半の少女がする様子ではない。

 最上はそのまま頭を掻きながら、

 

「やっぱ、何がなんでも人間世界に戻るほうがいいな、このままじゃどうにもならん。なんか方法無いの?」

 

 ちらりと最上はプラネタリーを見る。

 リペントが人間世界に来た方法とは違う何かは無いかという問いに、

 

「戻る方法か、一応方法はあるんじゃが」

 

「じゃが?」

 

「えっ、あるの?」

 

 最上と裕は立ち上がる。

 裕は家に帰ってとりあえずまともなデッキを作りたい。

 最上は不安定なシンクロンデッキを使って、負けたら自分が消滅するこの世界から抜け出したいという感情から必死の形相でプラネタリーに詰め寄る。

 

「方法はたった1つ、アポクリファを倒して世界を移動する力を手にするしかないのう」

 

 シンクロともエクシーズとも違う新しい召喚方法を編み出したアポクリファ、それに勝てと言う。

 だが最上の表情は優れない。

 

「ペンデュラム召喚の始祖か、当然使うデッキもペンデュラムだよな?」

 

「あいつと決闘した者は全員、敗北し奴に吸収された、デッキタイプすら分からんのじゃ」

 

 最上はトロントの決闘で試した事を思い出すように目を閉じ、頭を抱える。

 それを見て、裕はどうすることも出来ない歯がゆさに襲われる。

 決闘を出来ない人間はこの世界では餌以下、奴隷よりも下でしかない。目の前の出来事に立ち向かおうにも対抗する手段がないのだ。

 

「あーめんど、もうちょっとまともなカードがあれば勝てるのになぁ」

 

 腕を組み気だるげに言う最上、それは自分の命を懸けた決闘をする以上、勝てるデッキを使いたいという最上の願いは至極当然の願いだ。

 だが裕のデッキやプラネタリーがくれたカードをバカにしているようにも聞こえてしまう。

 目の前にカードをくれた人がいるのに馬鹿にするような言い方を取る最上へ注意をしようと裕が口を開くと、それを察知したように、

 

「ちょっと気晴らしに外歩いてくる」

 

「あっ、ちょ」

 

 しばらく何かに悩んでいたような様子を取っていた最上は、立ち上がると部屋から出ていった。

 

                        ●

 

「どうするかなぁ」

 

 村を適当に歩き回り、最上は時折行われる決闘を見ていた。

 装備カードを使った攻撃力至上主義の初心者が使うデッキやマシュマロン等の戦闘破壊されないモンスターを並べてのバーンデッキを使った可愛らしい決闘がそこにはあった。

 大人も子供も共に肩を並べて決闘する姿は人間世界と何ら変わらない。

 

―――元が一緒の様な物だから当たり前か。

 

 そして笑顔があった。

 皆が負けても勝っても笑っている。

 そこから目を離し、最上はその場から離れると人がいない方へと歩く。 

 暗い町はずれ、夜という概念があるのだろうか、周りは村に来た時よりも暗く空には星の様な物が見える。

 喧騒から離れ最上は歩く。

 

「めんどくさい、めんどくさい、めんどくさい」

 

 裕に聞かれたら面倒になりそうだから、そんな理由だけで最上は1人で愚痴を言葉にしている。

 思うのはこの状況全てに対する不満だ。負けてはいけない決闘が行われる世界で安定感の欠片もない出来を使わされる事、そしてまともなカードがあるかもという希望を与えられ蓋を開ければ微妙な物しかなかったと言う現実、その他諸々だ。

 

「あんな事故率の高いデッキでこのまま戦ってられるかっての、というかこのままじゃ、負けるしなぁ、負けるのは嫌なんだが、ああ、もうめんどい、逃げたいなぁ」

 

「そうか、ならばこちら側に来い」

 

 最上が1人だと思っていたところに声をかけられた、それも威圧感と共にだ。

 

「っ!?」

 

 最上が振り返ればそこにいるのはアポクリファだ。

 おそらく移動する力を使って移動してきたのだろうが、無音で現れた彼のと最上の距離はすでに決闘を仕掛けられてもおかしくない目と鼻の先だ。

 最上は一瞬だけ混乱するも、今し方かけられた言葉を思いだし考える。

 

―――こちら側に来い、そう言ってきた。まるで勧誘でもするような言葉だな。

 

「そう、勧誘だ。貴様は中々に見所がある、強いカードが欲しいかの? ならばくれてやろう。生きたいか? ならば私の下で生かしてやろう、私と神の下で存分にそのカオスをまき散らし戦うがいい」

 

 プラネタリーの話の中でアポクリファはあまり語られなかった。

 最上はその事が少し気になったので事情をある程度知っていそうなトロンに聞いた所こういう言葉が返ってきた。

 アポクリファを一言で表すならばドン・サウザンドの狂信者というべきだね、と。

 ドン・サウザンドを崇め、彼の復活のために全てを投げ打った者、1つの目的のために自分の大切な物、命すら全てを使い潰す事のできる、そういう厄介な性質をもつ者だと言っていた。

 トロンの言葉からはある程度、苦々しさがあふれ、以前からぶつかって来た敵の様なニュアンスが含まれている。

 

「どういう意味だ。私を取り込むのではなかったのか?」

 

「そうだ、貴様ら人間、いや、この村全てを取り込みあの方の復活させる糧にしようとしていたがあの方は自力で復活された。もう贄は必要ない。そして今度の作戦であの方はアストラル世界に直接踏み込み、あの世界を砕こうと仰っていた」

 

「作戦だと?」

 

「ああ、そうだ。アストラルはNo.96との戦闘で深手を負いアストラル世界に戻る。そして九十九遊馬という人間がアストラルと再び会うためにアストラル世界に行くと。我らは九十九遊馬がアストラル世界に通じるゲート開いた瞬間を襲撃し人間世界を踏み台としてあの地をもう一度踏むのだ」

 

 両の手を広げアポクリファは叫ぶ。笑みを浮かべ、高らかに叫ぶ。

 

「我らが神を認めない愚か者共を消し去る為に!」

 

「…………」

 

「あの世界を滅ぼすために多くの捨て駒が必要なのだ、力ではなく数が必要だ。最初の戦争では数も質でも負けていた。だから今度はこの数千年で掃いて捨てるほどに溜まったバリアン人を使い数で圧倒し、質の高いバリアン七皇を使ってあの世界を崩壊させる。お前からもあの戦いを望まない腑抜け共に勧めてくれ、我らの軍に加わり神の為に闘い、喜んで死ねと」 

 

「そんなの誰が加わるもんか」

 

 最上は笑いながら言う。

 自分の為ではなく神のために死ね、そのような戯言に手を貸すバカなどいる訳がないと、だが

 

「私の命令に逆らう者は全て取り込む、逃げても無駄だと知らせておけ、明日、我らが兵士と共に村に出向き、答えを聞く」

 

 言葉を投げかけ、一方的にアポクリファは消える。

 取り残された最上はため息を吐く。

 

「逃げようかなぁ」

 

                       ●

 

「という訳で明日、アポクリファが攻めてくるらしい」

 

 外出から戻ってきて開口一番に最上は爆弾発言を叩き込んだ。

 誰もが呆気にとられる中、最上はアポクリファから持ち掛けられた話を全て話し終え、プラネタリーは腕を組み、表情を暗くする。

 ずっと疑問に思っていたのだろう、裕は分からないという表情で手を挙げ、

 

「ドン・サウザンドは何がしたいんだ? アストラル世界を滅ぼすはあれだろ⋯⋯えっとバリアン世界とアストラル世界が衝突して自分が死にたくないから滅ぼすって理由は分からんでもないけど、ヌメロンコードを手に入れるって理由はよく分からないんだけど」

 

「あいつは昔から思い通りにならないと気に食わない傲慢な性格じゃったからのう。多分ヌメロンコードを手に入れて全てを自分の思い通りになる世界に作り替えたいんじゃろ」

 

 プラネタリーは過去を思い出す様に目を閉じ両手で頭を支え俯きながら喋る。

 つまり駄々っ子か、と裕は納得したように頷き座る。

 

「文字通り世界征服が望みってか、くだらないなぁ」

 

 最上もある程度納得し両手を後ろで組み、上を見ながらアポクリファの言われた事を反芻する。

 そして顔を挙げたプラネタリーは皆を見て口を開く。

 

「……逃げても無駄だという事はすでに周りを包囲されているのじゃろう」

 

 どうしようもできない、とれる道は従順か魂だけの存在に堕とされるか2つに1つだ。

 元より村の決闘者のレベルは兵士を除けばとても低い。

 アポクリファの兵士のレベルがどれほどの物かは分からないがとても抗えるものではない。戦えるのはトロン、最上、プラネタリーと数人の兵士だけだ。

 だが捨て駒にされるのを黙って認められることも出来ない。

 アポクリファはたった1つ、神を認めない者全てを滅ぼすという願いの為に子供も大人も全てを使い潰す気だ。

 使い潰される側からすれば了承できる話ではない。

 

「逃げれないって言うんなら僕は戦うよ、一泊どころじゃないほどこちらとしては恩があるんだしここから逃げる訳にはいかない」

 

 トロンの言葉に裕が続く。

 

「決闘は出来ないけど、他の事なら手伝います」

 

 握り拳を見せる裕、笑顔のトロン、その様子を見てプラネタリーは涙を僅かに見せ、

 

「すまない、恩に着る。儂も最後まで戦おう、協力してくれ」

 

「おう!」

 

 最上はあまり発言をせず黙って事態を見守る。

 アポクリファの力を使えば奇襲はほぼ百パーセントの確率で成功するだろう。それでも被害を最小限に留める為にそうすべきだろうと決まり、裕、プラネタリー、トロン、最上と順番で村を回る事が決まった。

 まずは何もできないがやる気だけはある裕が出て行った。

 最上は一人で部屋に残ってデッキを組んではいた、だが心は迷っていた。

 

―――どうするべきかな。

 

 アポクリファの下に着くというのもある意味、悪くはないとも、思えてしまう。

 だがそうしてしまえば強いカードが貰え、生かしておいて貰えるかわりにアポクリファの下で戦う事となる。

 このままアポクリファと戦うというのも選択肢の1つだ。だが決闘に負ければ体は消滅しバリアン世界を彷徨う事になる。

 どちらが賢明かと言われれば前者だろう。最上だって死にたくはない。たかがカードゲームごときに命を賭けていられない、のだが誰かの下で戦うという事が最上は気に入らない。

 だが死にたくはない。死にたくないからしょうがないと諦めるか、気に食わないからバカみたいな数と戦い更にラスボスを倒すか、逃げる事など許されていない。

 たった1つを決める事が最上には出来ない。

 めんどくさいと切り捨て、楽な事ばかりをしてきた最上はそれが決められない。

 ふと最上の脳裏に映るは自分が散々馬鹿にしてきた裕の姿だ。

 絶対という訳では無かったにしても皆無と言っていいほどの実力、能力の差があったにもかかわらず挑んできた裕、1番に手伝うと言った現状で全く役に立たない姿。

 

「こういうとき、あのバカみたいな馬鹿思考回路が欲しいな」

 

「誰が馬鹿思考回路だと?」

 

 返答があった。

 入り口を見れば裕が立っていた。別に体が透けていたり恐怖に顔を歪めていない普通の裕だ。

 ゆっくりと歩きながら椅子に腰かけると疲れたようにため息を吐き、水を飲む。

 

「異常は無かったのか?」

 

「ない、どうせ明日の朝ぐらいに堂々と来るんじゃないかってプラネタリーは言ってたけど、どうなんだろ?」

 

「知らんなぁ」

 

 しばらく互いに喋らない時間が流れ、デッキが完成したと思った最上は切り出した。

 

「お前がさ、この状況でデッキを持ってたら戦う?」

 

「当たり前だろ、ここまで色々良くしてもらったんだぜ、助けるに決まってる」

 

 それは最上の想定内の言葉だ。

 

「数は膨大、勝てる見込みはゼロ、そんな状況で戦うのか?」

 

「勝てる見込みはゼロじゃないだろ、決闘で全てが決まるんだからデッキがあってライフが残ってターンが回ってくれば勝てる可能性はある、最後の最後まで諦めるもんか」

 

 拳を握り、裕はこちらを見て言う。

 

「俺は決めたんだ、もう1人の俺に言わないといけないことがある、だから俺は人間世界に戻ってデッキを作ってあいつの前に立つ、絶対だ」

 

 前を見て裕は言う。

 自分が決めた事は梃子でも曲げないその姿に最上は少しだけ考える。そして苦笑いを浮かべ、

 

「そのために私にアポクリファに勝てって激励か、私にそういう圧力をかけるとは良い身分だなぁ!」

 

「あっ、違う、そういう意味で言ったんじゃないぞ。というかどうせお前の事だから逃げようとか考えてるんだろうから先に言っておく、投降したいって思ってんならお前は逃げてもいいぞ、最悪の場合、みんなでトロンの力で時空の狭間に突入するって話になってんだから」

 

 最上が居ない場所で決まったのだろうか、初耳の情報である。

 そして目的の為ならば自分の全てを賭けれる馬鹿の姿を見て、最上も決意を固めた。

 

「全く、バカの姿ばっかり見てるとバカがうつるな」

 

                       ●

 

 アポクリファは堂々と赤い太陽のようなものが昇ってくると同時に歩いてきた。

 背後には大勢のバリアン人が歩きこちらへと向かってくる。

 子供や女性を後ろにし裕達は村の出口でアポクリファを待ち構え、アポクリファがこちらへと来た。

 プラネタリーは皆の前に立ち足を止めたアポクリファと向かい合い、

 

「さあ、答えを聞かせてもらう」

 

「貴様らの捨て駒になりたくはない、じゃが儂的には古い友を消したくはない。この村を見逃せ、さもなくば儂が相手となる」

 

「ほう、それが最後の言葉かプラネタリー、貴様の相手は面倒なのだがな、だがしょうがないか」

 

 デッキを手にしたプラネタリーとアポクリファが向い合う、二人の間に挟まれた大気は2人が発するエネルギーに押され暴風となって吹き荒れ地面は割れる。

 決闘盤を構築しようとする二人、その間に最上は走り込む。

 

「むっ?」

 

「ほう」

 

 2人は間に割り込んできた最上を注視する。

 最上の顔には笑みが浮かび、敵意は感じられない。

 

「どいてな、私はこいつと話があるんだ。アポクリファ、お前言ったよな、私がお前らの仲間になるか、だっけ?」

 

「ああ、そうだ、そうすればあの方より貰った望むものを引く力と貴様の望むデッキを与えよう、お前はもっと強くなれる筈だ」

 

 その言葉に最上は目を細め、口元に笑みを浮かべ、

 

「レアカード、狙ったカードを引き当てる能力、確かに欲しいね」

 

「最上!」

 

 裕は最上の横に駆け寄りいつもにない剣幕で叫ぼうとする、それを黙らせるために最上は裕の腕を取り、治っていない腕の傷を握る。

 

「っ痛ぇえええ!?」

 

 苦悶の声をあげ転げまわる裕を投げ捨て、最上はさらに言葉を続ける。

 

「だけど、勘違いしてる」

 

 勘違い、3人は同時に呟く。

 

「私は確かに勝利以外何もいらない、前しか見ず、後ろは見ない」

 

「そうだ、そうだろう、やはりお前はあの方によく似ている、ならばやはりこちら側に」

 

「だけどさ、私が欲しいのは、こんな光景じゃないんだ」

 

 最上の視線は周りに向けられる。

 敗者は消え勝者のみが残るその世界を見て、

 

「私は勝ちが欲しい。金が無いだの思い入れがあるだのくだらない理由で弱いデッキばかり使って、ちょっと苛めすぎたらピーピー文句ばかり言ってくる雑魚を倒して悦に浸って、一切価値の無く理解できないくだらないものを崇高する馬鹿どもを貶して打ち砕いて恐れられたい。ああ、ああ、そうだ、あの過去のドン・サウザンドを見たときに私も思ったよ、私もこう成りたいと」

 

 両腕で体を抱き、最上は語る。

 

「だけどね、敗者に消えろとは願わない、それに私が負けたら私が消える? そんなの認められる訳無いだろ。私はただ勝ちたいだけだ、私が楽しく楽に生きたいんだ! 負けたときにリスクなんてほとんど負わず、私が勝ってひたすらに得をする、ただそれだけでいい」

 

 最上が願うは敗者必滅の理の否定。

 アポクリファやドン・サウザンドに味方をする兵隊に指を指し最上は更に堂々と言う。

 

「お前らと戦えば私が勝つよ、だけど永遠に勝ち続けるのは無理だ。私だってミスはするし運が悪く手札事故だってあるだろう。だから負けたら相手に全てを奪われる世界なんて私が、嫌だ。たかがカードゲームごときで命なんて賭けてられるか。だから、だからくだらないルールを押し付けてくるお前ら全員、私に負けろ」

 

 その願いは独りよがりだ。

 自分、自分、自分、自分のみの得を願う自己愛の塊。

 その姿にアポクリファはドン・サウザンドとは違う別の何かを見て、

 

「傲慢もそこまでいくか。認めよう、君はあの方とは違う。他人なんて自分の思い通りになれと望むあの方とは違うのだな」

 

 その言葉に鼻で笑い、最上は更に語る。身振り手振りを加え劇場に居る一人の役者の様に声を張り、

 

「思い通りになる? 何を面白味のない事を言っている? 他人が私の思い通りにならなず、その心情を理解できないからこそ、叩き潰すのが楽しいんだろう」

 

 理解できない、何をバカな事を言っているんだお前は。

 そう言って最上は他人を倒し続けてきたのだ。

 己の信じている物が正しく、己の信じている物こそが常識であり、それから外れるような考えを持つ者をアホ、格下、低脳、ゴミ屑と馬鹿にして愉悦に浸る。

 それが最上愛だ。

 

「言ってる言葉の矛盾を突きつけ、見たくない真実と現実を叩きつけ、顔真っ赤にしてピーピー反論してきた馬鹿を嘲笑う。その私の楽しみに理解できない他人は必要なんだよ」

 

 その腕に決闘盤を装着し、その意思を示す。

 お前の言葉など聞かない、お前なんて嫌いだ、力だけ私にくれて何処かへと消えろと、

 

「思い通りにならない他人は必要だ。そうでなくては面白くない。カードゲームは自分と操り人形では出来ないんだから」

 

 それだけは裕から教えられた事だ、裕とのWDC補填大会での決闘の時、最上はどうしようもないくらいに昂ぶっていた。

 やり過ぎたら規制を食らうから手加減しようと思っていた事を忘れ、ひたすらに訳の分からない理論を振りかざすバカを叩き潰すことに集中していた。

 自分のラストターン、最後の伏せカードを予想し、それがどうだったら彼が絶望した姿を見せるかを考えるのが楽しかった。

 そして、読みを間違え彼女は敗北した。

 それは悔しかったし屈辱的だった。

 思い出すだけでも腸が煮えくり返る人生最高の汚点だが、負けた後、悔しいのにあいつに勝ちたいと思える決闘は後にも先にもあの決闘だけだ。

 あの日から最上は少しだけ変われた。

 あの日の前までは理解できない物がある事すらも許せず攻撃してばっかりだったがそれを許容できるようになった。思い通りにならない事を楽しめる様になった。そうでなければ最上は洗脳された決闘者を倒すなんてリスクの高い事に参加はしなかっただろう。

 

「さあやろうぜ、クソ野郎」

 

 そして今、彼女はここにいる。

 補填大会の前ならば速攻で服従するか逃げ出すような惨状だが逃げたりせず目の前で理不尽な要求を突きつけてくる敵を前に立っている。

 自分が理解できない者がいる事を許し、思い通りにならない事があるのを許し、その上に自分という最上位の愛すべき存在がある。そして下にいる者を蹂躙し踏み潰す、それが最上愛の願いだ。

 故に敗者必滅を掲げる者を許すことは出来ない。

 ドン・サウザンドが勝てば世界の理は敗者必滅となる。それは自分が楽しめない世界だ。敗北する事に怯えなくてはいけない世界だ。

 

―――そんなのは嫌だ。私が楽しくないルールなんて壊れろ。逃げる事が出来ないのならば全て更地にするだけだ。

 

 その意思を最上はここに示す。

 適当に介入しようという遊びでもなく、この状況で皆を救えばヒーローになれるという感情でもなく、ただ自分が嫌な事に刃向い壊そう、最上の一人よがりで傲慢な人間らしい自分勝手な理由でここにいる。

 

「そうか、ならば君のその感情を、全ての逆境を踏み潰すその意思を、私が飲み込もう。魂すらも取り込ましてもらう!」

 

 アポクリファはその様子にもはや話すべきものなど存在しないと悟り、決闘盤を作り上げる。

 紅と蒼の宝玉が両端に着いた楕円形の決闘盤だ。内側にはDNA螺旋図のように金が織り込まれ側面より側面より扇状に放射される金の光の輝きが固形化し、モンスターゾーン、魔法罠ゾーンを構築した。

 

「やれるもんならやってみろ、お前のくだらないその考え、全部更地にしてやるよぉ!」

 

 灼熱のように燃え盛る意思を全身に滾らせ最上は叫ぶ。

 

「「決闘!!」」

 

                      ●

 

「私のターンドロー、ちっ、相変わらず引きが悪い、私はモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

最上場    セットモンスター

LP4000  

手札3    伏せ2

 

アポクリファ場     

LP4000      

手札5          

 

「私のターン、ドロー、私は大嵐を発動、場の全ての魔法罠カードを破壊する」

 

 当然のように炸裂するはワンキルの起点、大嵐。

 分かっていたとはいえ炸裂したそれに最上は顔を歪め、

 

「罠カード、スキル・プリズナー、場のセットモンスターをモンスター効果の対象から守る」

 

 残る伏せはサイクロン、ペンデュラム対策の良いカードが来たかと思えば効果を発動させることなく破壊されてしまった。

 

「ほう、ならば私は魔法カード、召喚師のスキルを発動」

 

「召喚師のスキル? なんでそんなカードを?」

 

 半上級、最上級の通常モンスターを手札に加える意義は薄い。

 サーチ先としてネオスが一応あげられるがそれならば他にいくらでもサーチ手段があり、態々入れるカードではない最上の常識からすれば屑カードだ。

 だがペンデュラムはそれらの常識を覆していく。

 

「デッキから通常モンスター、クリフォート・ツールをサーチ」

 

 デッキより抜かれるは上は黄色、下は緑のカードのペンデュラムモンスターだ。 

 効果のある通常モンスター、その矛盾した存在は過去に例がなく異質でしかない。

 

「ペンデュラムモンスターの筈だろ、通常モンスター扱いなのか!?」

 

「手札のスケール9のクリフォート・ツールとスケール4のEMトランポリンクスでペンデュラムスケールをセッティング、これで私はレベル8から5までのクリフォートモンスターをエクストラデッキ、手札から同時に特殊召喚できる」

 

 現れるは2つの光柱、その中にいるは背中をトランポリンのような薄い膜、シルクハットを被った猫、そしてアポクリファの決闘盤のように紅と蒼が両端にある機械だ。

 全ての基礎となるように輝く基盤、黄色に光る球を中心に収め輝くそれは静かに動き始める。

 そして2つの柱の間を振り子が揺れ始める。

 銀に輝くそれは、基盤のような模様をつけた振り子は赤黒の空にはっきりと光り輝く銀のラインを描いていく。

 

「ペンデュラムゾーンのクリフォート・ツールの効果発動、ライフを800支払ってデッキからクリフォートと名の付くカード、クリフォート・ディスクを加え、そして永続魔法、冥界の宝札を発動」

 

アポクリファLP4000→3200

 

「アドバンス召喚に特化したテーマ……考えてみればペンデュラムカードを維持し続ければ毎ターン生贄要因が確保できるもんなぁ」

 

 冥界の宝札により相手がどのような戦略を主軸とするかを最上は看破する。

 そして、ペンデュラムの本気が牙を剥く。

 

「ペンデュラム召喚、現れろ、我がクリフォートモンスター、レベル6、クリフォート・アーカイブ、レベル8、クリフォート・シェル」

 

 振り子の描く円より現れるは黒と緑の球が中央に輝く金の基盤だ。

 それは周りよりエネルギーを集めると体を構築していく。

 シェルはその名の通り基盤を中心に灰色の貝殻のような形を作り黒緑色の棘を生やし、アーカイブは緑の球を目の様に光らせ白とオレンジの箱舟の様な姿を作る。

 そしてその2つの機殻達の攻撃力は変動する

 

「特殊召喚に成功したクリフォートモンスターの攻撃力は1800、レベルは全て4になる」

 

「妥協召喚みたいなもんか⋯⋯しかしこのスペック凄いな」

 

 クリフォートモンスターの持つ自分のレベル以下のモンスターの効果を受け付けない。それはつまりエフェクト・ヴェーラーなどによる妨害を受けないと言う事だ。

 激流葬や強制脱出装置などで妨害しても次のターンには湧いて出て来るペンデュラムモンスターの性能が組み合わされる事によってその厄介さは更に強化される。

 

「更にEMトランポリンクスの効果でペンデュラム召喚に成功した時、クリフォート・ツールを手札へ戻し、再びクリフォート・ツールをペンデュラムゾーンに配置。クリフォート・ツールの効果発動、ライフを800ライフを支払い、デッキから機殻の要塞を手札へ、そしてフィールド魔法、機殻の要塞を配置」

 

アポクリファLP3200→2400

 

 ライフを投げ捨てながらの連続サーチが行われ、アポクリファの周りに玉座のような巨大な建物が姿を現す。

 それは無数に砲台を取り付けた機械の要塞だ。それらはすべて最上に狙いをつけている。

 

「機殻の要塞の効果で私は通常召喚とは別にクリフォートモンスターを召喚出来る。私の場のアーカイブとシェルをリリースしクリフォート・ディスクをアドバンス召喚、ディスクの召喚時効果、デッキより現れよ、クリフォート・シェル、クリフォート・ゲノム、更に2体以上のモンスターをリリースしアドバンス召喚に成功したために冥界の宝札の効果でデッキから2枚ドロー」

 

 黒と緑は空へと上る、そして青い球がその光り輝く体を構築する生贄となる。

 落ちて来るはクリフォート共通の金の基盤、そして中央に輝くは青い球だ。

 2体のエネルギーを基礎に青は虹色の円盤状の体を作る、その身に秘めるは仲間を呼び出し更なる制圧を加える力だ。

 ディスクの下方に付けられた砲台より門を開き、呼び出したるは黒とオレンジの球だ。黒は再び貝殻の形となり、オレンジは金属の白と金の絡み合うコイルのような円柱状の体を作り飛翔する。

 冥界の宝札によって引き抜かれたカードからは威圧感が放たれる、それはアポクリファがドン・サウザンドから貰った望むカードをドローする力によって引き当てられた何かだ。

 そして場に現れた上級モンスター達の姿に最上は言葉を喪う。

 攻撃力は征竜並、しかもノーコストである。

 唯一の救いといえばクリフォート・ツールのクリフォートモンスター以外のモンスターを特殊召喚できないというデメリット効果だがそれでも打点が高く、総攻撃が通れば負けが確定する。

 更に言えば最上が伏せているのはライトロード・ハンター・ライコウだがクリフォートというこのカード群の前ではライコウでは役には立たない。 

 

「バトル、クリフォート・ゲノムでセットモンスターを攻撃!」

 

クリフォート・ゲノム ATK1800 VS ライトロード・ハンター ライコウ DEF100

 

「ライコウの効果で」

 

「甘いぞ、私はダメージステップ、禁じられた聖杯をライコウに発動、これで効果は無効だ!」

 

クリフォート・ゲノム ATK2400 VS ライトロード・ハンター・ライコウ DEF100

破壊→ライトロード・ハンター・ライコウ 

 

 ペンデュラムゾーンのどちらかを破壊しようと白犬は跳ぶが、横から飛んできた聖杯によって無効化されゲノムの中心より放たれたオレンジ色の光線によって破壊される。

 爆発の余波だけでダメージもないのに最上は吹き飛ばされ、更に白犬を貫いただけでは収まらなかったオレンジ色の光線は周囲の地面を抉っていく。

 更に攻撃はやむ気配を見せない。貝殻は最上の上に来ると、

 

「さらにクリフォート・シェルで直接攻撃!」

 

 黒の球より放たれる光が最上へと向かう。それを最上は手札から1枚カードを抜き取り、

 

「手札から速攻のかかしを捨てる、バトルフェイズは終了だ」

 

 目の前に現れたかかしが光線を防いだ。舞い上がる砂埃が最上を砂まみれにしていく。

 それでもしのぎ切ったと顔に着いた砂を手で拭う最上、だが彼女は忘れている、まだこのターン、アポクリファはもう一回通常召喚できる事を。

 

「躱したか、メイン2、私は君の決意に免じて我が3神の内の1柱を呼ぼう、ディスク、シェル、アーカイブ、3体のモンスターをリリースしアドバンス召喚」

 

 アポクリファが片手を最上へと見せ付ける。

 カードより放たれるは膨大な圧力だ。そして唸り声が響き渡る。

 

「3体、だと」

 

 3幻神などを代表とする神、相手の場を全て破壊するバルバロス等の3体リリースして召喚するモンスターはいる。

 だが後攻とはいえ最上の場にモンスターは居ないこの状況で出したところで旨みは無いはず、そう考え、自分ならば何を出せば旨みがあるかを考える。

 

「まさか……!」

 

 そして思いつく。

 最上の目の前に広がるは3体の機械達が闇に沈む光景だ。

 黒ではなく影ではなく闇、全てを飲み込むその姿、それはまるで黒い水面のように静かだ。

 だが確実にそれはそこにいる。

 

「現れよ、相対する者の内側に眠るもう1つの姿を曝け出せ、その身の力を皆の魂と記憶に刻み込ませろ、邪神アバター、降臨っ!」

 

 闇の球が放つは全てを威圧する波動だ。その前ではいかなる魔法も罠も役目を失う。

 邪神が放つその波動はアポクリファの後ろにいる兵の一部を軽々と宙に跳ね飛ばし、村の入り口に近い住居は屋根がまとめて吹き飛ばされていく。

 身体能力的に考えれば人間に少し毛が生えた程度の最上も地に足をつけてられない。後ろへと弾き飛ばされる。

 出しただけで周囲に被害しかまき散らさないその姿はまさに邪神と表現するにふさわしい。

 

「邪神アバターの効果発動、君は合計3ターン魔法、罠を使えない。更に冥界の宝札の効果で2枚ドロー、私は2枚カードを伏せてターンエンド」

 

アポクリファ場    邪神アバター ATK0 

LP2400       冥界の宝札

手札0        機殻の要塞

墓地3        伏せ2

EMトランポリンクス(スケール4)       クリフォート・ツール(スケール9)

 

最上場    

LP4000  

手札2     

 

 弾き飛ばされた先ですぐさま起き上がり、最上はデッキからカードを引く。

 

「くっ、ドロー」

 

 魔法や罠を使えさえすればアバターは危険なモンスターではない。

 だが魔法罠を使えないと言う事は次のターン、罠や魔法を使わずに湧き出してくるクリフォート軍団の猛攻を凌がないといけないと言う事だ。

 引き抜いたカードで何とかしのげるかもしれない、だが次のターンに何とかしないと確実に敗北する。

 最上は祈るように目を閉じ、今引いたばかりのカードを伏せ、

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

最上場        セットモンスター

LP4000  

手札2          

 

アポクリファ場    邪神アバター ATK0 

LP2400       冥界の宝札

手札0        機殻の要塞

           伏せ2

EMトランポリンクス(スケール4)      クリフォート・ツール(スケール9)


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