クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
門の奥、建物の中に入ったカイトはナンバーズの守護者、ジンロンと出会い、決闘を始めていた。
決闘の合間、語られるはミザエルという聞き覚えのある因縁の相手、そして龍と彼の悲しき伝説だ。
それはカイトが飛行船内部に残されていた謎の資料と一致した。そして同時にカイトは以前行ったコロッセオ遺跡で調べていた事実を思い出す。
そして1つの仮説にたどり着いた。
もしもバリアン七皇たる人物たちは遺跡のナンバーズに関係があるのではないか、遊馬は気づいていなかったがドルベがオーバーハンドレット・ナンバーズを召喚した際、遊馬のエクストラデッキから黄色い光が漏れていた。ギラグのオーバーハンドレットナンバーズの召喚時にも同じように発光現象があったと聞いている。
遺跡のナンバーズと九十九一馬の残した資料にあった事と遺跡に残されていた記述が食い違っていたのはドン・サウザンドによって改変されたからではないかと、そのような仮説へとたどり着いた。
●
イリス&アビス場 デプス・ガードナー ATK2800
LP2800 No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK2400 (ORU1)
手札2
手札1 伏せ4
凌牙&璃緒場 FAブラック・レイ・ランサー ATK2300 (ORU1)
LP2900
手札0
手札5 伏せ1
アビスから告げられた言葉に動揺を隠せない凌牙、それをちらりと見て、璃緒も自分の見ていた光景を思い出す。
凌牙と同じような姿の男へと親しげに話しかけるメラグという少女、それを後ろから眺めていた。
そして少女は邪悪な者によって召喚された海神を沈めるために馬を走らせる。
そこで映像は終わった、その先に何があるか、薄々予感はあったが、璃緒は手を休めない。
「私のターン、ドロー。サイクロンを発動、一番左のカードを破壊します」
璃緒の発動したサイクロンは運良くスターライト・ロードを破壊する。
そしてアビスの顔が悔しげに歪んだのを見て、璃緒は顔を綻ばせ、
「凌牙、すいません、折角伏せてくれたカードを破壊します、私は大嵐を発動しますわ!」
「させるか、我はカウンター罠、神の宣告を発動!」
「なら私はエクシーズ・トレジャーを発動、デッキから2枚ドローします……凌牙、いいかしら?」
「……ああ」
兄妹だからこそ通じるたった一言の会話、常人ならば何もわからないであろうこの問いかけに凌牙は即座に頷く。
了承をもらった璃緒は墓地から凌牙が後々に使いそうな切り札のみを選び、
「ありがとう。私は貪欲な壺を発動、墓地のハンマーシャーク、バハムートシャーク、ビッグ・ジョーズ、シャーク・サッカー、ブラック・レイ・ランサーをエクストラデッキに戻し2枚ドロー、そして永続魔法、黒い旋風を発動しBF―蒼炎のシュラを召喚。そして旋風の効果でデッキから」
蒼色の燃えるような体毛の鳥が姿を現す。
そしてそれに呼応する様に璃緒の場の黒い渦が大きく強くなっていく。その中へとシュラは手を突っ込み中より仲間をつかみ取ろうとするが、
「我は召喚成功時、奈落の落とし穴を発動、シュラを除外してもらいます」
「っ!? 速攻魔法、禁じられた聖槍をシュラに発動します」
攻撃力を下げてはゲイルやカルートを加えることは出来ない、だがここで除去されては勝機は無くなってしまう。
璃緒はサイクロンで神の宣告を破壊できなかったことを悔やむも、どうする事も出来ずない。
「……旋風の効果でBF-熱風のギブリを加えます、そしてBFと名の付くモンスターが場に存在するとき手札よりBF―黒槍のブラストを特殊召喚します」
璃緒は当初はシュラを召喚、カルートをサーチからのデプス・ガードナーを戦闘破壊する事を目論んでいたのだが、それが使えなくなったために別の手段を取った。
「レベル4の鳥獣族モンスター、ブラストとシュラでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れなさい、零鳥獣シルフィーネ」
シルフィーネの持つ相手の全ての表側カード効果を無効にする効果が使えれば効果を攻撃力が1番高いデプスガードナーはただの罠カードとなり墓地に送られ、アビス・スプラッシュも効果を使えないただのバニラモンスターになるだろう、そう璃緒は確信していた。
だが、
「この瞬間、我はエクシーズ・リボーンを発動、墓地のゴルゴニック・ガーディアンを特殊召喚する」
「っ!?」
再び現れるは見た者を無害な石像へと変える蛇石像。それは腕を組み自分を守る守備表示だ。
璃緒は一瞬だけ悩むも、
「シルフィーネの効果発動、オーバーレイニットを1つ使い相手の場のカード全ての効果を次のスタンバイフェイズまで無効にします! パーフェクト・フリーズ!」
「我はゴルゴニック・ガーディアンのモンスター効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い相手のモンスターの効果を無効にし、攻撃力を0にする!」
シルフィーネの起こした羽ばたきより生まれたブリザードは蛇石像の光線を受け石になる、更にその光線の威力は収まる事を知らずシルフィーネすらも石像に変えてしまった。
1瞬だけブラック・レイ・ランサーを守備表示にしようかとも考えたが手札にある2枚のカードを見て、
「くっ、バトルです、ブラック・レイ・ランサーでゴルゴニック・ガーディアンを攻撃!」
FA―ブラック・レイ・ランサー ATK2300 VS ゴルゴニック・ガーディアン DEF1200
破壊→ゴルゴニック・ガーディアン
叩きつけられた槍、石像が爆散した爆風が凌牙達にまで届く。
そして、凌牙達は過去の続きを見た。
海神たるアビス・スプラッシュを呼び出したベクターの猛攻によって多くの民を喪い、妹のメラグの生贄によって新たなる神を呼び出し海神を鎮めた事。
凌牙は璃緒と全く同じ姿をした少女を喪った事を他人事だと思えないくらいに嘆き悲しんだのは、同じ顔だからなのだろうか、それとも本当に自分がナッシュだとでもいうのだろうか。
妹を喪った王、そしてその敵討ちを望む憎悪の感情、何度も追い詰めては逃げ延びるベクター。
逃げた先にある町々で全てを奪い。犯し、壊していくその凶行を、その町で璃緒に似たイリスと名乗る少女を保護した事。
過去の全てを凌牙は見て、体感して共感していく。
共感してしまう事、それが誰かの思惑の上だと知らず、凌牙と璃緒はその記憶を体感し抗おうとし行動していく。
凌牙達の体感からすれば膨大な時間、だがそれは現実では一瞬の出来事だった。
何が真実で何が嘘なのか、見ている者が本物なのか、嘘なのか、全てがあいまいになっていく中で璃緒は我に返って、
「……私はカードを2枚伏せてターンエンドです」
凌牙&璃緒場 FA―ブラック・レイ・ランサー ATK2300 (ORU1)
LP2900 零鳥獣シルフィーネ ATK2000 (ORU1)
手札0
手札1 伏せ2
イリス&アビス場 No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK2400 (ORU1)
LP1400 デプス・ガードナー ATK2800
手札2
手札1
あれは何なのか、そう問いかけたとしても答えは返ってこない。
記憶という映像、いや凌牙が選択し体感していく全ては現実を塗り潰していく。すでにダメージを与えられなくとも見えてきてしまう。
王の後悔、嘆き、苦しみ、怒り、全てが流れ込んでくる。
自分の物では無い筈なのに共感し、兵士を重し出すたびに懐かしいと思ってしまう。
―――何なんだこれは……!!
凌牙の混乱を置き、イリスはデッキに手を伸ばす。
「私のターン、ドロー、私は墓地の岩石族モンスターエクシーズ、ゴルゴニック・ガーディアンを除外し魔法カード、ゴルゴニック・リチューアルを発動。私の墓地の岩石族モンスター、ゴルゴニック・ゴーレムとガーゴイルを特殊召喚、そして岩石族モンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚、三度現れろ、ゴルゴニック・ガーディアン」
「くっ」
三度現れた蛇石像、その厄介すぎる効果をもった姿に璃緒は身構える。
「ゴルゴニック・ガーディアンの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い相手の場のモンスターの攻撃力を0にします、私が選ぶのはFA-ブラック・レイ・ランサー、そしてゴルゴニック・ガーディアンのもう1つの効果発動、相手の場の攻撃力0のモンスターを破壊します!」
再び現れた蛇石像の放った光線は武装した槍術師を石像へと変え、そして砕かれた。
だが璃緒の表情は優れない、墓地に送られずっと効果を発動しなかった厄介なカード、それが自分の伏せのどちらかを選ぶかで勝敗が決する可能性もあったからだ。
「更に墓地に送ったゴルゴニック・ゴーレムの効果発動、相手の場の伏せカードを選択し発動できなくさせます。私が選ぶのは主、ではなく神代莉緒さん、貴方の伏せた右のカードです!」
墓地より現れた呪われた石像が伸ばす手が伏せていたカードへと触れた瞬間、カードの表面に薄く石が張っていく。
璃緒は渋面を崩さずその様子を見届ける。
「アビス・スプラッシュの効果発動、攻撃力を倍にします」
アビス・スプラッシュの錫杖へとまたしても水が集まり、巨大なメイスを構築する。
戦闘ダメージが半分になるといっても攻撃力は4800とかなり高く、ほとんどのモンスターが戦闘破壊される数値だ。
「更に墓地のゲイザー・シャークの効果発動、このカード以外の水属性レベル5のモンスターを2体、特殊召喚しエクシーズ召喚を行います、現れなさい、イーグル・シャーク、パンサー・シャーク」
蒸気を噴き出す、ずんぐりした体形の鮫に導かれ2体の鮫が墓地より躍り出る、そのままゲイザー・シャークはアビス・スプラッシュの現れた蒼い渦を作り上げる。
「そしてレベル5の水属性モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れなさい、No.94!」
蒼の渦を凍らせ現れるは雪の結晶のモニュメントだ。
纏う冷気が周囲の渦を体へと変えモニュメントは人型へと変わっていく。
細身の剣、華のように広がったスカートは水のような膜が広がり、踊る様に回る。現れるは凌牙達に見せた過去において海神を沈めた巫女。
「氷の心をまといし霊界の巫女、澄明なる魂を現せ! 極氷姫クリスタル・ゼロ!」
現れた2体目のナンバーズの美しい姿に凌牙達h亜言葉を一瞬、失う。
ひらりひらりと巫女は舞い、自らの発する冷気で氷剣を生成し凌牙達へと踊りかかった。
「これでギブリで1回目の攻撃を防がれたとしても直接攻撃で終わりです、バトル、ゴルゴニック・ガーディアンでシルフィーネを攻撃!」
ゴルゴニック・ガーディアン ATK1600 VS 零鳥獣シルフィーネ ATK2000
璃緒にはクリスタル・ゼロの効果は分からないはずだ。
決闘盤におるテキスト表示は出来ない。だが璃緒には何故か確信があった。それは過去の映像を見たからかもしれないし、本当に自分が知っているのかもしれない。
それはどちらなのか分からない。だがこのままでは負けるという確信が利緒にはあった。だからこそゴルゴニック・ゴーレムの効果を免れた伏せカードを発動させる。
「私はこの瞬間、シルフィーネを対象に罠カード、ガードローを発動します、シルフィーネを守備表示に変更し1枚ドローします」
ゴルゴニック・ガーディアンの持つ効果は守備力にまで干渉出来ない。
冷気を操るシルフィーネが作り出した氷の壁にゴルゴニック・ガーディアンはぶつかり弾き飛ばされる。
ゴルゴニック・ガーディアン ATK1600 VS 零鳥獣シルフィーネATK2000→DEF2200
アビス&イリス LP1400→800
反射ダメージを受けたイリスは、即座に攻撃を叩き込む。
「アビス・スプラッシュでシルフィーネを攻撃! ファイナル・フォール!」
No.73アビス・スプラッシュ ATK4800 VS 零鳥獣シルフィーネDEF2200
破壊→零鳥獣シルフィーネ
「更にデプス・ガードナーで直接攻撃!」
「手札からBF―熱風のギブリの効果発動、相手の直接攻撃宣言時、このカードを守備表示で特殊召喚します!」
「攻撃対象をギブリに変更、バトルです、デプス・ガードナーでギブリに攻撃!」
デプス・ガードナー ATK2800 VS BF-熱風のギブリ DEF1600
破壊→BF-熱風のギブリ
「そしてクリスタル・ゼロで直接攻撃!」
「あああぁああ!?」
凌牙&璃緒 LP2900→700
叩きつけられたブリザードをまともに浴びて璃緒は崩れ落ちる。
その様子を見て凌牙は一瞬だけ妹によく似た少女がアビス・スプラッシュを沈めるための生贄になった瞬間を思い出してしまう。
「璃緒……!」
凌牙は体が冷え切った璃緒を助け起こし、肩を揺さぶる。
弱々しげに目を開いた璃緒は凌牙を安心させよとするように薄く微笑みを返した。
「私はカードを2枚伏せてターンエンドです」
イリス&アビス場 No.73アビス・スプラッシュ ATK2400 (ORU0)
LP800 デプス・ガードナー ATK2800
手札0 ゴルゴニック・ガーディアン ATK1600 (ORU1)
手札1 No.94極氷姫クリスタル・ゼロ ATK2200(ORU2)
伏せ2
凌牙&璃緒場
LP700
手札0
手札1 伏せ2
アビスは自らの主に選択の強制はしなかった。
アビスが行ったのは記憶を与えるだけだ。
主より託されたのは記憶であり、決して使命も責任も次の自分に与えろとは命令しなかった。
現在、王の友にアストラル世界の人間がいる事をアビスはしばらく人間の姿で主の周りを探ったから知っている。
この記憶によってその友人と敵対するかもしれない、敵対せず共存の道を探すかもしれない、あるいは他の道を見つけるのかもしれない。
それらの決断は全て王が成すものだ。自分は王の下した決断に従おうと決めていた。
「…………」
だからこそアビスは待っていた、王の決断を。
そしてそれが王にどのような結末を迎えさせるかを考えずに。
それを知るすべがないアビスとイリスは王がどのような決断するのか待つ。
●
璃緒を優しく床に寝かせ、凌駕は激情を瞳に宿しながら、冷静にデッキトップへと手を置く。
「俺のターン、ドロー! 俺は璃緒の伏せていたカード、エクシーズ・リボーンを発動、墓地より現れろ、No.32海咬龍シャーク・ドレイク!」
現れるは凌牙の今の切り札、そしてそれを進化させる。
「俺は場のNo.32海咬龍シャーク・ドレイクをオーバーレイ素材としてカオス・エクシーズチェンジ! 現れろ、CNo.32海咬龍シャーク・ドレイク・バイス!」
白鮫龍に進化させ口元にエネルギーを貯め鮫のような形をしたエネルギーを放った。
「シャーク・ドレイク・バイスの効果発動、オーバーレイユニット1つ、そして墓地のモンスターを除外する事で相手モンスターの攻撃力を0にする! 俺は墓地の蒼炎のシュラを除外しアビス・スプラッシュの攻撃力を0にする!」
「私はゴルゴニック・ガーディアンの効果発動、相手の効果を無効にし攻撃力を0にします!」
当然のように放たれるのは無効化の光だ。
だが進化したシャーク・ドレイク・バイスはその上を行く。
「更に俺はシャーク・ドレイク・バイスの効果発動、墓地の黒槍のブラストを除外しアビス・スプラッシュの攻撃力を0にする!」
シャーク・ドレイク・バイスは同一チェーン上でオーバーレイユニットが在る限り何回でも効果を発動できる。
この効果さえ通ってしまえばあとはシャーク・ドレイク・バイスの1撃で決着がつく。
凌牙は感情をこもった叫びを叩きつけるも、
「罠発動、ブレイクスルー・スキル、シャーク・ドレイク・バイスの効果を無効にする!」
「なっ!?」
その一撃は届かない。
異次元より現れた龍の腕によって鮫光線が爆散した。
●
「うおぉおおおお!」
ドルベが最後の力を振り絞って右手の枷が砕けるもそれ以上は砕けない。
それでもドルベは諦めない。
ドルベは過去の映像が見える訳では無いので確証は掴めない。証拠はアビスと名乗った大男の言った言葉のみだ。
だがドルベはなぜか確証があった、神代凌牙はナッシュであると、そしてそのどこからともなく湧き上がる間違っていないという感情を強固にするために動いていた。
「この力は!?」
その感情に呼応するように限界だと思っていた体の奥から力が湧き上がる。
それは別の場所から注ぎ込まれているように無限に湧き上がり氷の枷も水の膜も破りドルベは宙へ飛び出した。
●
白鮫龍の放った一撃を砕かれた爆風を切り裂き、男が虚空より叫び声をあげながら現れる。その顔に凌牙は見覚えがある。
「なっ!? お前は、ペガサスに乗った騎士!?」
見覚えがあっても名前の分からない記憶の中の登場人物、凌牙はあり得ないというように否定の声を上げる。
凌牙が見ている人物、ドルベは人間形態と全く同じ姿の青年の姿だからだ。
だがその姿は徐々に変貌していく。
紫色の肌、灰色の髪となりドルベは本当の姿へと戻り、ドルベはバリアンの紋章を召喚する。
「ドルベ……だと、まさか、そんな馬鹿な」
凌牙は信じたくない真実を突きつけられ、凌牙は後退る。
「これはバリアン七皇、ナッシュの物だ。もしもこれが君の物ならば、真実を見せる筈だ」
ドルベが差し出すのはバリアンの紋章だ。それはバリアンの力によって洗脳されるかもしれない。
だが凌牙はドルベのその様子を見てそれは無いと確信していた。
何の根拠も無いまま凌牙は真実を知りたいと言う一心で、自らの意思でバリアンの紋章を掴んだ。
そして全てを見た。
「これは」
先ほどまで見ていたのと同じ状況、そして王の指令を待つ家臣たち。
最後の戦争を前に凌牙は決めかねていた。
戦争となれば皆が死んでしまう。すでに多くの犠牲が出ていて更に人が喪われる。
それぐらいならば新たに手に入れたアビス・スプラッシュを用いて自分が単身で乗り込んでベクターを打ち取ればいいのかと。
悩みに悩んだ末に凌牙は決断した。
単身でベクターの首を取るために動いた。全ては皆を思い失わせない様に大切に思う心からだ。
その王が行った事は過去と同じ事だ。王と凌牙は全く同じ事を考え、行った。
困難を打開しようと動き、妹を喪った悲しみを乗り越え怒りに変え、ベクターを打ち取ろうとした。
そして王と凌牙の選択は全く同じ結末を迎えた。
ベクターとの決闘と連動した戦争によってついてきた臣下を喪い、イリス達も喪った。援軍に来てくれた親友は自国の王からの命令で自国へと無理矢理に戻された。
ベクターを打ち取り迷宮を抜けて王の目の前に広がるは喪わせたくないと願い、大事に思ってきた仲間が物言わぬ死者となって彼を出迎えた。
王が仲間を思うように兵もまた王を大事に思い単身で乗り込んだ王に助太刀するために戦いに赴いたのだ。
「あ、あああ………………っ」
家臣を喪った
凌牙は必至でそれを止めようと手を伸ばすもそれを掴むことは出来ない。固く握った掌をすり抜け消えた。
言葉にすらできない、漏れるは意味の成さない喘ぎにも似た嘆きの具現化だ。
それはあ、う、と続くだけの意味の成さない羅列だ。
「う、うわぁあああああああああ!」
凌牙は叫んだ。自身の行動を責める様に、喪った悲しみを吐き出すように。
暗転、そして次に見たのは戦争が終わった後の世界だ。
国は栄え、人々に笑いは戻った。
凌牙は戦争で喪った兵士全ての家族へと回り一人一人に頭を下げる。中には罵倒されたものがあったり、王を許す者もいた。
家族全てに共通して浮かんでいたのは悲しみだ。それを見て凌牙は更に自分の行動を悔やみ、病によって凌牙は死んだ。
●
「そうか、思い出したぜ、俺の本当の記憶を」
凌牙は一人呟く。
そこは赤と黒の世界だ。ここがバリアン世界なのだろう、自分は後悔して死んで今度こそ兵達、皆を幸せにするためにここに自分で堕ちてきたのだ。
「私も思い出しました、全てを」
璃緒はそれについてきた。
魂はカオスに穢れてなどおらずただ信愛なる兄とずっとともにいる事を望んだが為にこの世界に堕ちてきたのだ。
アストラル世界に登れるだけの正常なる魂、そしてバリアン人のカオスを両立させたこの少女は2つの力に敏感であり、ギラグの出現や銀河眼の事すらも察知できたのだ。
アストラル世界の意思とバリアンの感情の力、2つの力を担う巫女の少女は王の横に立つ。
「あいつらが戦う真の相手は俺だったなんてな」
凌牙の後ろ、バリアン人となったイリスや兵士たちがいる。
皆が王との再会を喜ぶ顔があり、王の名を叫ぶ。
凌牙は喪った人々との再会に涙を流し、そして周りを見る。
崩壊しようとしている世界、そして二度と失いたくない皆を見て、
「この世界を守るのが俺の使命……」
そして凌牙の嘆きや後悔を見て全てを理解したドルベが横に立つ。
「そうだ、例えそれが君と遊馬の絆を断ち切る事だとしても」
王様、王様、王様、王様と名を呼ぶ声は大きく、強くなっていく。
それが凌牙の決意をさらに固くしていく。
だからこそ気づかない、王様、王様と呼ぶ声が取り囲むように響いてくるのを、バリアン世界に堕ちた兵士たちが今、どのような姿になっているかを。
「アストラル世界とバリアン世界の戦い……俺なりのけじめをつけるのが、俺の運命」
夢だと切り捨てることもできたはずだ。だが凌牙にはそれが出来なかった。
それを理解した璃緒は涙を流し、
「凌牙、私は凌牙の運命に、どこまでもついていく」
「そうだ、君達はナッシュとメラグだ」
ドルベと璃緒が手を差し伸べていくる。
凌牙はそこで今なお戦い続けているであろう遊馬達を思う。
1度は仲間になり分かり合った、だがこうして今、自分は仲間達と敵対する道を取ろうとしている。
凌牙は1度、自分の手を見る。
敵対しようとも、凌牙が最後に目指すのは自分の大切な人達が共にある事だ。
それがどれだけ茨の道であろうとも、凌牙はそれを目指すと心に決めた。
ドルベと璃緒の差し出す手を取り、凌牙は踏み出した。
「遊馬…………行こう、お前達と共に」
●
「俺は、決めたぜ!」
自分の運命を定める宣言し、掌をかざす。
手に宿るはカオスの力、デッキトップを塗り潰すカオスの力だ。
「俺は貪欲な壺を発動、墓地の零鳥獣シルフィーネ、シャーク・ドレイク、エアロ・シャーク、FA-ブラック・レイ・ランサー、BF-熱風のギブリをデッキに戻し2枚ドローする。バリアンズ・カオス・ドロー!!」
紫の力の奔流は、全てを塗り潰す。それは遊馬と真逆で根幹を同じくする力だ。
それは今、No.96と激闘を繰り広げている遊馬達が新たなZWを創造したのと同じように、凌牙のデッキにないカードをカオスの力で構築し引き抜いた。
「俺は……俺はダブルフィン・シャークを召喚、ダブルフィン・シャークの効果で墓地からサイレント・アングラーを特殊召喚する」
呼ぶはレベル4のモンスターが2体。
凌牙は胸に手を当てる。
そして溢れ出すは青と赤黒の光だ。それは黒のエネルギー体となりカードの姿になる。
「俺はダブルフィン・シャークとサイレント・アングラーでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
手にするは黒のカード、過去のナッシュの切り札、バリアン七皇のリーダーたる最強の力だ。
2体のモンスターが吸い込まれ現れるは白い魂が泳ぐ青い渦。
そして死者の魂とカオスのエネルギー渦によって構築されていくは棺にも似た白い箱舟。そこに亡者の魂の守護者を収め箱舟は飛翔する。
「現れろ! No.101! 満たされぬ魂を乗せた方舟よ。光届かぬ深淵より浮上せよ! S・H・Ark Knight! Ark Knightの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使い相手モンスターをこのカードのオーバーレイユニットにする、エターナル・ソウル・アサイラム!!」
装甲の1部が変形し射出口が開き飛ぶは碇、それは氷の巫女を内部へと取り込もうと飛ぶ。
「まだです、まだ終わってません、私はクリスタル・ゼロの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い相手モンスターの攻撃力を半分にします、私は2つのオーバーレイユニットを使いシャーク・ドレイク・バイスとArk Knightの攻撃力を半分にします! ダブル・クリスタル・イレイザー!」
放たれた氷の刃は白鮫龍と箱舟に突き刺さる。それと同時に巫女は箱舟に取り込まれる。
だが凌牙の場に居るモンスターでは相手の場のモンスターは倒せない、このままでは勝負は凌牙の負けに終わってしまう。
「そう、そしてこれが、俺の決意の証、俺はバリアン七皇のナッシュだ! 俺はRUMーバリアンズ・フォースをNo.101 S・H・Ark Knightに発動、更に罠発動、フルアーマード・エクシーズをシャーク・ドレイク・バイスへ発動! バリアンズ・フォースの効果で俺の場のモンスター・エクシーズをカオス化させる、カオス・エクシーズ・チェンジ!」
箱舟の中より射出された守護者、それは黒の鎧を纏った騎士だ。箱舟は全ての人々の魂と共に菱形のエネルギーとなり守護者を追随し手足を構築していく。
黒と赤のラインの走る手足、鋭き眼光は眠りを妨げる全てを取り込みその手にした黒い槍で砕く。
「現れろ、CNo.101! 満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け! S・H・Dark Knight! そしてフルアーマード・エクシーズの効果発動、シャーク・ドレイク・バイスをDarkknightの装備カードとしシャーク・ドレイク・バイスの攻撃力分アップする!」
白鮫龍は槍へと姿を変える。
見た者全てに恐れと感嘆の吐息を吐かせるほど見事な装飾の白く大きな鮫の意匠の大槍だ。
守護騎士はそれをつかみ取り吠える。それと同時に体の鎧に白と紫が追加されていく。
黒い外装には白紫の強化砲塔、ブースターが装備され、頭にはシャーク・ドレイク・バイスの頭部を模した兜が装備される。
まさしく過去と今の凌牙とナッシュの融合した象徴したようなその姿に感嘆のため息を吐き、アビスはその場に跪く。
「CNo.101 S・H・Dark Knightの効果発動、ゴルゴニック・ガーディアンを吸収する、ダーク・ソウル・ローバー!」
蛇石像は吸収される。ダメージを優先させるならばアビス・スプラッシュを吸収すればいい。だが凌牙はそうしない。
まだ最後の記憶が受け取られていない。
何故、凌牙と璃緒が人間に転生したのかそれを確かめるため、最後の攻撃を行う。
「見事です、我が主、受け取ってください、最後の記憶です、罠発動、オーバーレイ・コネクト。このカードをアビス・スプラッシュのオーバーレイユニットにします」
主の最後の記憶、それをナッシュの使っていた罠カードに乗せ自分自身へと乗せる。
「Dark Knightでアビス・スプラッシュを攻撃!」
鮫守護騎士はブースターを噴かせ飛翔する。
海神は大波を召喚し叩きつけようとするも白紫の砲塔より放たれた一撃によって砕かれる。
津波を抜ければ距離は至近距離だ。
「我はアビス・スプラシュの効果発動、攻撃力を2倍にする、ファイナル・フォール!!」
黒と白の鮫守護騎士の決意の一撃、海神の叩きつける必殺の一撃を砕き切り、返す刀で胴体を貫いた。
CNo.101 S・H・Dark Knight ATK5600 VS No.73アビス・スプラッシュ ATK4800
破壊→No.73アビス・スプラッシュ
アビス&イリス LP700→0
勝者 凌牙&璃緒
●
ドン・サウザンドはドルベを通じて全てを見ていた。
アビスは王の決断を尊重するために預かった記憶を与えたのみだ、それを与えられ凌牙は自分の過去を知ったのだが、彼の魂の奥深くに封じられたオーバーハンドレットナンバーズよりドン・サウザンドの力が流れ込んでいる事には気付けなかった。
ドン・サウザンドが行ったのは記憶を改竄ではない、ナッシュの記憶と凌牙をより深く同期させ、少しばかり凌牙達の決断がどれだけの悲劇を招いたかを凌牙に分かりやすく示し、そしてバリアン世界で王を思っていた兵達の姿を見せただけだ。
凌牙に自分の行いでどれだけの人間が失われ、多くの人々が悲しみに暮れたのかを分かりやすく見せつけ、そして後ろからドルベの口を使って囁いた。
このままではアストラル世界とバリアン世界の衝突によって彼らを再び失うと。
凌牙は失わせたくないと思った。思わされた。
何も罪のない人々を失わせたくないと感じ行動できる心は尊いものだ。だがそれを決心させる状況を作ったのはドン・サウザンドだ。
こんな筈ではなかった、そう思わせ、目の前の惨状を見せつけ、お前のせいだと呟く、それさえすればほぼ全ての人間は、こんなせいではなかった、こんなこと望んでいないと自分が起こした事を取り返したいと願い、行動する。
自分の意思で決めた事を何が何でも守り押し通す凌牙達の性格をしっかりと分かった上でドン・サウザンドは笑う。
凌牙も七皇全ても、プラネタリーもリペントも、全て過去を後悔して取り戻そうと行動する愚か者だ。そのような物に意味は無いのに、だが過去を公開する愚か者のだからこそ操りやすい。少し甘言を囁けば堕落する、そして思い通りになる。
ちょうどカイトとジンロンとの決闘を見ていたミザエルも自分が人間だと知って動揺した所だった。
守りたいものを必死で守り後悔し死んでいく。その姿、なんと愚かなのだろうと。
「さあ、洗脳した決闘者を引かせろ、ベクター」
「なぜだ? このまま押し込めば勝てるだろう」
No.96と九十九遊馬の決闘はNo.96の敗北に終わった。
だがNo.96の最後の一撃によってアストラル人として一番の禁忌たるカオスをその身に取り込まされアストラル世界に強制的に戻された。
突然の別れを悲しむ遊馬、そしてゴーシュとドロワもアリトとギラグに敗北し吸収されカイトが出てくるのを待っている。洗脳決闘者の数は途切れることは無く、このまま行けば全員を一網打尽にできるというのに、とベクターは問うも、
「まだ知らなくていい、それよりもお前らは北極に決闘者を集めさせろ、そしてこの場から逃げた方が良い」
「なんだと?」
「ナッシュが返って来た、それもお前が奴らを殺したと言う記憶も持っている」
「なっ!?」
「さあ、アストラル世界に攻め込むチャンスだ」
ただ1人この後起こる未来の出来事を知っているドン・サウザンドはアストラル世界に再び踏み入る為に行動を開始した。