クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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バリアン世界と振り子

「えっ?」

 

最上の言葉、それは裕の動きを止める。

最上はとりあえず分かっているところまで話し終えその上で自分の推論を言おうと決め、さらに口を開く。

 

「奴は言ったな、全部返してくれと」

 

 その言葉に裕は頷く、それは二人の耳にした言葉であり偽りではない。

 その言葉の中身にどのような思いが込められ、それが嘘偽りがあるかはわからない。

 

「問題はどこまでかだが、今まで集めてきたカード、これはお前がこの世界に来てから手に入れたカード全てを指すんだと思う。そして未来全てを返せとも言った。ここからは証拠らしいものと言えばお前の手に持ったカードが変な力によって消えた事だけだが」

 

 最上は先程の赤黒の光を思いだし、裕の手を指さし、

 

「未来全て、この言葉には俺が未来で拾う筈だったカードも入ってるんじゃないかと思う、未来だの運命ってのが決められているかは分からないが、お前が拾ったカード全ては本来の体の持ち主であったあいつのもとに転送、じゃなくって言葉を借りるならば返っていくかな」

 

「なんだよそれ、なんなんだよ、それ!」

 

「私に言うな、めんどくさい。お前が叫んだところで状況は変わらない、祈ったところで救われないってのは知ってるだろ、じゃあ何をするべきか、自分で考えろ」

 

 しばらく呆然としていた裕は座り込む。

 それを見ていた最上は僅かに悩み、過去に自分がしてきた事とかけた言葉を思い出し決める。

 

―――とことん落とすべきか、ここで甘い言葉を駆けなければ立ち上がれない様な奴ではないだろうし。

 

 最上は自分の趣味と今後の事を考えさらに追い打ちをかける。

 

「だからデッキの半分以上が消え、エクストラデッキからもフォノンやクラウソラス、トリシュにレッド・デーモン無くなった。人から譲渡されても消え、拾っても消える。ナンバーズは……バリアンの力で戻っていくのかもしれないから抵抗ぐらいは出来るかもしれんが分からないが全てあいつのもとに返ってしまう、つまりお前は人間世界に帰らなければまともな決闘は出来ない、さてどうする?」

 

 からかう言葉に反応は返ってこない。

 最上はそのまま考えるのは現状だ。

 自分はサイドデッキしか手持ちにない。まともなデッキになる訳が無く、そもそも戦う主力たるカードがない。

 裕のデッキはクイック軸のクェーサー特化デッキ、事故率が高く安定性も無く、尚且つ防御力は紙に近く、最上からすれば非情に使いたくはないというのが本音だ。

 だが、 

 

「決闘で全てが決まる世界に叩き込まれてデッキなしってのは無理だしな。そっちの半壊した初期デッキとこちらのサイドデッキからカードを詰め込んで全ドローがデスティニードローになるバリアン人達と戦うしかないって事だ、はっきり言えば原作状況もまずいが私達個人も非常にまずい状況だ」

 

 沈黙が下りる。

 最上は取りあえず整理させる時間を与えるべく腰をおろしサイドデッキから使えそうなカードを探し出す。

 まずは低レベルのカードを中心に選ぶ、その上で防御カードを出来るだけ詰め込むしか今、道はない。

 そんな事故率が高すぎて勝たなくてはいけない。

 

―――勝てる気がしないなぁ。

 

 ため息をつきつつ周りを観察する。黒と赤の気が滅入りそうな世界だ。

海の様な物がありあそこに〇〇〇〇〇〇〇〇が居たのだろうと思考し、最上は記憶に穴が開いている事に初めて気づいた。

 

「あーそういや原作知識を奪われたんだっけ」

 

 最上が思い出せるのは大分遠くなった現世の記憶、思い出したくもない記憶ばかりだ。

 そうしている間にも裕はうつむき、何かを呟き立ち上がる。

 眼には弱く、微かな光がある。

 

「さて、整理はついたか?」

 

「…………ああ。そういやお前はデッキどうするんだ、しばらくは合作デッキを使うとしても人間世界に戻れたら何デッキを使うんだ?」

 

 最上のデッキは黒原によって失われてしまった。

 あれだけの楽に勝てるデッキは頑張って探さないと現れないだろう。

 

「それを考えていたんだがな、全ドローが最強ドローする奴に勝つためには⋯⋯相手にドローすらさせず先攻フルバーンで焼き切る、とかいろいろ考えてはいるんだが安定感がないんだよなぁ、あとは後攻でワンキルに特化するだけなら楽なんだが、もうちょっとこう、まともなテーマが無いかって考えてる」

 

「流石だな。俺は、どうするべきかな……」

 

「なんだ、あいつに言われた事がそんなに気になるのか、さっさと決めろ、めんどくさい」

 

 うじうじとした態度に最上はイラッと来た。

 声をかけて欲しそうな裕の様子に本位で苛立ち、頭を掻く。

 このまま見捨てて行こうかとも考えるのだが、裕の持つ能力が役に立つことがある事を分かっている以上、ほって置けない。

 最上が自分がそうなったら、などと言う裕の目線に立つ機は無い。

 

―――私は私であり、私以外の誰でもない。だから他人の立場なんて分からない、分かる気も無い。

 

 結局口にできるのは最上の持論だ。

 

「気に食わないならぶん殴る、本当だからしょうがないって諦める、とりあえずやばそうだから殴る、もう現実が嫌だから決闘を止める、この中から選べ」

 

「なんでそんなアホみたいな答えしかないんだ……!?」

 

 めんどそうな問いを無視、最上は1番のお勧めを口にする

 

「私は当然1番だ、私だってあのバカどもには腹が立ってるんだ、私のデッキ全部燃やしやがって」

 

「最上……」

 

 裕からすればそれは思いがけない言葉だろう。

 最上がデッキを大切にしていたような言葉に眼を開きその言葉を確かめようと口を開き、それを遮り最上は更に言葉を進める。

 

「1つデッキが残ってれば簡単なんだが勝てる次のデッキを作るの面倒なんだけどなぁ」

 

「っ、最上、お前、自分のデッキを何だと思ってやがる! デッキに愛着は無いのか、一緒に今まで戦ってくれた仲間だろうが!」

 

「うん? お前はバカか? 私みたいなのからすれば強すぎるカードが規制されたら新しく強いデッキに乗り換えるだけだよ。そんな事も分からないのか? 虫にせよ、魔導にせよ、征竜にしてもそうだ。全部規制されて新しく強いデッキが出たらそっちに乗り換えるだけ、使えなくなったデッキに愛着なんて……少しだけしか持たない」

 

 それも最上の紛れもない本音だ、それは淀み無く流れ続ける。

 

「元々、お前との決闘でやり過ぎた感はあったんだ。強すぎる力を大観衆の中で見せすぎた。ナンバーズの事があったからってそれを見逃すような連中は居ないだろうし、いつかは規制がかかってたさ、それは覚悟していたが……な」

 

 最上が手をかざすもトランクケースは召喚されない、その事に諦めを覚え止め、

 

「この世界で勝てるデッキを作るのにどれだけ手間がかかるか、強くなければ勝てなければ意味がないってのに、めんどくさい、本当にめんどくさい」

 

「違うだろ、だからそういう事を聞いてるんじゃなくて」

 

「違わない、私からすればカードもデッキも勝つための時間制限付きの玩具で、お前からすれば仲間だろ、ただ価値観の違いだ。交わらない、分かり合う事の出来ない深い溝がお前と私にはある。だが今回は手を貸してもらう。私のサイドを合わせてもまともなデッキにはならないしお前のデッキは枚数が足りない。それに私にもあいつらを倒す理由がある。私はあいつらを許さない」

 

 今までと違う言葉に秘められた感情に裕は気付いたのか最上にもう一度聞いてくる。

 

「自分のカードを燃やしたからか?」

 

「それもあるが、曲がりなりにも環境を考えてデッキを弄ってたんだ、規制されたらそのきれいな思い出と一緒に棚にでも置いてやろうと思ってたんだがなぁ」

 

「最上」

 

 裕が何やら悲しそうな顔をしてこちらに手を伸ばしてくる。

 その表情には哀れみがあり、そして僅かに希望が見え隠れしているのが見て取れた。

 裕の手が伸びてきてもが身の手を掴もうとし、そのときだった。

 背後から足音が聞こえてきたのは、

 

「おっと、そこにいるのは人間か」

 

 振り返る二人が見たのは赤と黒の肌をした人形が居た。

 口は無く髪は全体的に赤黒の人型、眼は更に黒みのました赤で染まっており獣のような雰囲気を漂わせている。

 手には鍬上の決闘盤が握られており農夫決闘者なのだろう。

 その姿を確認した最上は裕から半壊したデッキを奪い取る。

 裕のデッキを手にした瞬間、バチリとデッキを持った最上の手に火花が走った。

 

「へえ、そういう態度取るんだ……」

 

 最上は黒い笑みを浮かべデッキに唇を寄せ、囁き始めた。

 

「ええっ?」

 

 手に持ったデッキを引っ手繰られた裕は驚きの声を上げつつ、最上に掴みかかろうとするが、

 

「動くな! 魔法カード発動、地砕き!」

 

 鍬を振り下ろした瞬間、緑の力が最上と裕の間に走り、それをなぞる様に地割れが発生する。

 それを見ていたもが見は冷静に呟く。

 

「サイコ決闘者かよ!?」

 

「はっ、嬢ちゃん、古い言葉を知ってるねえ。カードの実体化能力はバリアン人ならば誰でも出来る簡単な力さ」

 

「ええっ!?」

 

「当然だな、だがこのまま物理的手段で私たちが黙ると思うか」

 

 カードが実体化するというよくある訳がないがよくある事に翻弄される裕をほって置いて最上は決闘盤を取り出し男へと向ける。

 男は腕に付けられた決闘盤に目を向け、ニヤリと笑う。

 

「おっ、嬢ちゃん、決闘者か、決闘盤を向けられてしまってはしょうがない、適当に嬲ってその下らねえ心意気をへし折ってやる」

 

 鍬を持ちながらこちらへ向け近づいてきた男、じりじりと後ろへと下がりながら最上も好戦的な笑みを向け、

 

「嫌だって言ったら?」

 

「ははっ、元気な嬢ちゃんだ、前にここに落ちてきたやつとは大違いだな!」

 

 男はデッキを取り出し鍬形決闘盤に装填する。

 男の言葉に気にかかる単語が聞こえたが最上はそれを意識の外に置き、デッキに囁き続ける。

 何度も何度も呪詛のようにデッキへと呟き脅しをかけ、その上でサイドデッキから選んだカードを混ぜ構える。

 

「お祈りは済んだか?」

 

「あー、脅し足りないけどまあ、充分だろ」

 

「「決闘」」

 

                     ●

 

「私の先攻だ、ドロー……ん?」

 

 最上の決闘盤に表示される場の様子がいつもと違っている。

 墓地とデッキ、エクストラデッキとフィールド魔法の間に新たに枠が作られてている。

 表示ミスを疑い魔法罠ゾーンを数えてみるが数はあっている。

 解消されないがいまは考えても仕方がないと切り替え、手札を見てため息を吐く。

 

「あー、もうこれだから爆発力が高いからって事故率も高いデッキを使うのは嫌なんだ。ご主人様のピンチだってのに全く、私の手をかけさせるなよ、もっと脅しとけばよかった。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

最上場     

LP4000   

手札5     伏せ1

 

男場     

LP4000  

手札5       

 

「俺のターン、ドロー。ははっ、流石少し前から調子がいいとは思ったがこれは最高の手札だな、サイクロンを発動、貴様の伏せを破壊する!」

 

「和睦の使者を発動」

 

 最上の前に光る膜が展開する。

 これによってこのターンでは最上は負けにくくなった。

 

「ほう、だがもう伏せは無い、俺はペンデュラムモンスター、スケール8の時読みの魔術師とスケール4のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 男の背後に光の柱が出現する。二つの世界を跨ぐ様に現れたそれに裕と最上は言葉を奪われ見とれる中、2柱の中に上り上がるは銀の外套を羽織った魔術師、そしてダーク・リベリオンよりも肉厚で真紅の体のドラゴンだ。

 その光景に目を奪われつつ、聞き覚えの全くない言葉を裕は口の中で転がす。

 

「ペンデュラム、スケール?」

 

「ペンデュラム⋯⋯? そういや次のアニメに出る新しい召喚方法だっけ? 結局私は知らなかったけど敵が使ってきたか」

 

「えっ? 何それ」

 

 完璧に観客になっている裕を置き決闘は進んで行く。

 

「これで俺は手札よりレベル5からレベル7のモンスターが同時に特殊召喚が可能となった。さあ見ろ、アポクリファ様の開発したアストラル世界とバリアン世界の力を融合させた新しい召喚方法を!」

 

 叫ぶ男の声を見て冷静に最上は手札よりカード効果を発動させる。

 

「……特殊召喚する、ねえ、手札より増殖するGの効果発動」

 

「ちっ、だが見るがいい、これが新たな力、揺れろ、魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク!」

 

 2つの柱を往復するように揺れるは巨大な振り子だ。

 それは空中に銀のラインを描き出す。

 何度も、何度も、揺れ続け幾線もの光のラインより描かれた中心より光が漏れ始め、全ての常識を覆すゲートが構築、そしてそのゲートを潜り抜け黄緑色の光が3本落ちてくる。

 

「ペンデュラム召喚、現れろ、俺の(しもべ)のモンスター、レベル7の霧の谷(ミスト・バレー)巨神鳥(きょしんちょう)、3体を特殊召喚だぁッ!!」

 

 稲光が場を揺らし黄緑の光は黄色の羽毛の塊へと姿を変える。それは羽で頭を守るように丸くなった巨大な鳥だ。

 それは深い眠りから覚めたように羽を広げ砂埃を巻き上げながら羽ばたき、稲妻のように巨大な咆哮を響かせ太く肉厚な脚を広げ地面に降り立った。

 そしてその光景に裕達は驚きを隠せない。

 墓地から蘇生させるわけでもなくデッキから特殊召喚したわけでもない、手札からの特殊召喚だが1度に3体の巨大な鳥が並ぶ光景に裕たちは圧倒される。

 

「はあ!? モンスターを手札から同時に3体も?」

 

「決闘盤にエラーが表示されないってことは不正じゃない、俺が考えたオリカ的な物じゃないのか⋯⋯Gの効果でドローする、って1枚だけか?」

 

「ペンデュラム召喚は1度に手札のモンスターを同時に特殊召喚する、よって増殖するGの効果でドローできるのも1枚だけだ」

 

 勝ち誇り、自慢げに説明する男、それは圧倒的な優位における慢心か、それとも教えてやろうという強者が持つ余裕の表れかは分からない。

 だが情報を喋り続ける男の存在は最上にとってありがたい。

 

「ふーん、つまり特別なモンスターカード2枚を永続魔法みたいな扱いで発動して、手札からスケールって奴の中間のレベルのモンスターを特殊召喚する? 手札消費2で手札からモンスターを可能な限り特殊召喚するって消費が激しすぎる気がするけど、まだ何かありそうだなぁ」

 

 先程目に付いた新しいゾーンに展開した2体のモンスターのイラストを見る。

 絵は横に長く効果テキストの上に新しく表示枠が追加されている。

 赤と青の振り子のような絵のしたには数字が記されておりこれがスケールというものなのだろうと最上は推測する。

 

「さあバトルフェイズだ」

 

「ダメージは受けないのにバトルフェイズだと?」

 

「ああ、ちょっとばかしこの世界のルールって奴を教えてやるよ、巨神鳥で直接攻撃!」

 

 けたたましい叫び声をあげ、巨神鳥が最上に迫る。

 その巨大な翼を羽ばたかせ自在に空を駆け最上の顔に当たる寸前の所を飛翔する。その巨体が通り過ぎた後、来るのは吹き返しの風だ。

 殴られたように全身に風を叩きつけられた最上の体は宙を舞い地面を転がる。

 それを受け、最上は男が何をしようとしているのかを理解する。

 

「くっ、この」

 

「ははっ、まだ立ち上がるか、2体目の巨神鳥でさらに追撃だ」

 

 空を舞う鳥を追いさらに巨鳥が空を駆ける。再び倒れた最上の体を何度も何度も風が殴打し、その度に最上の体は木の葉のように転がされていく。

 元より転がされるは岩だらけの足場だ。薄いパジャマ姿の最上は後いう間に全身に打撲を負い、顔や手や片足などは引っ掻き傷が覆う。

 

「さあ、最後だ、3体目で直接攻撃!」

 

 1体目の巨鳥が嘴を開き発生させたエネルギーが地面を砕き砂と岩を巻き上げ、残りの2体がそれを風に乗せて巻き上げ最上の肌を、服を鑢の様に削ぎ、殴打していく。

 

「くぅっ!」

 

「そろそろ良いだろう、この世界のルール、モンスターの攻撃は実体化する、よく分かってもらえたかな?」

 

 転がされた拍子に唇を切ったのか、顔面を岩で殴打したのか最上は口から砂と唾と血の入り混じった物を吐き捨て鳥を操った男を睨みつける。

 視線と殺意だけで人が殺せるならばこのような表情なのだろう。

 1人の少女が浮かべてはいけないような憎悪で満ちた表情を浮かべる最上。

 

「ああ、充分、分かった、ありがとよ」

 

「はっ、強がりを、どうせこの布陣は突破できまい、降参しろ、そうすればこの決闘を止めてやってもいいぞ。俺はエンドフェイズに移行する、そしてペンデュラムゾーンのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの効果発動、このカードを破壊しデッキより星読みの魔術師を加える、そしてターンエンドだ」

 

男場     霧の谷の巨神鳥 ATK2700

LP4000    霧の谷の巨神鳥 ATK2700

手札1     霧の谷の巨神鳥 ATK2700      

時読みの魔術師(スケール8→4)

 

最上場     

LP4000   

手札5     

 

 スケールの変化した時よりの魔術師を見上げ、最上は場に居座る3体の巨神鳥を睨み付ける。

 あのモンスターが居る限り3回までカード効果は無効にされる。

 その際に巨神鳥は持ち主の戻るのだが、相手には手札からモンスターを特殊召喚するペンデュラム召喚がある。

 つまりは最上は3回ほど巨神鳥に効果を使わせ、その上でペンデュラムゾーンのカードを破壊しないといけない、のだが。

 

「ドロー!」

 

 最上は溶岩の様にドロドロとした負の感情と全身を苛む打撲と擦過傷の痛みの中、未知の召喚方法を冷静に分析する。

 未来というよりは別のアニメの召喚方法がなぜここにあるかは分からないがとりあえず目の前の決闘者が使って来て決闘盤が認識している以上、違法ではないことは明らかだ。 最上は決闘盤を操作しまずは墓地を見る。そして次にデッキの枚数を見、エクストラデッキの枚数を確認する。

 

「つまりペンデュラムモンスターは破壊されるとエクストラデッキに行く、そして魔法扱いのあのカードをサイクロンで破壊すればいいのか……ペンデュラム召喚って1ターンに1度だよな」

 

「ああ、つまり俺はお前の発動した効果をあと3回無効にでき、巨神鳥達は手札に戻る、つまり1ターンに3回の神の宣告が発動できるって事だ、さあどうする? 降参するか?」

 

 敵の言っている事は鬼畜と言うレベルにとどまらない。

 自分のターンが回ってくる度に3度神の宣告もどきが炸裂する、そして打点も中々にあり並の防御手段では死んでしまう。

 だが最上は焦らない。

 

―――デッキタイプは分からないがあんなクソ重いカードを3詰みってことはある程度巨神鳥が出せるギミックが在る筈、という事は忍者系を取り入れてあの鳥を連射してくるデッキにペンデュラムとやらを入れた感じかな、でもこれだけじゃ情報が少ない。

 

 最上が見た感じで分かっているのはペンデュラム召喚と宣言した瞬間、決闘盤に何かチェーン在りますかと表示されない事からチェーンブロックを作らない召喚方法であることが分かる。

 そしてエクストラデッキに表側になっているオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンにも何かありそうだがそれは置き、最上は手札を見る。

 そして困っている表情を作る。眉をハの字に下げ口元を真一文字に結び出来るだけ努力する。

 いつもの最上を知る者からすれば初手エグゾを食らったよな表情を取るだろう。

 今現在、横で最上の表情を見ている裕が筆舌しがたい表情をしているのが何よりの証拠だ。

 

「まずいな、このままじゃ負けちまう、とりあえず壁モンスターをセット、くっ、カードを3枚伏せて、ターンエンドだ……」

 

最上場     セットモンスター 

LP4000   

手札2     3伏せ

墓地3

 

男場      霧の谷の巨神鳥 ATK2700

LP4000     霧の谷の巨神鳥 ATK2700

手札1      霧の谷の巨神鳥 ATK2700      

時読みの魔術師(スケール4)

 

「はっ、なす術がないって顔だなぁ、俺のターンドロー、忍者マスターHANZOを召喚!」

 

 ボロボロの体を何とか動かし焦りを表情に出しているように見える最上の姿、その様子を見て男は笑みを深める。

 

「俺は忍法 超変化の術をデッキからサーチする、さあ、その面を引っ叩いて泣かしてやるよ、バトルフェイズに入る」

 

「待った、メイン終了前にエフェクト・ヴェーラーを使用する、1体目の巨神鳥の効果を無効にする」

 

「無駄だ、巨神鳥の効果発動、このカードを手札に戻し魔法、罠、効果モンスターの効果を無効にし破壊する!」

 

「更にサイクロン、お前のペンデュラムカード、時読みの魔術師を破壊する」

 

 ペンデュラムカードは2枚揃ってこそ真価を発揮するカードだ。ここで時読みの魔術師を破壊しておけば巨神鳥は出せなくなる、つまり男は最上の予測どおり巨神鳥で守るしかない。

 

「2体目の巨神鳥の効果だ、このカードをバウンスしその効果を無効にし破壊する!」

 

「まだだ、更に禁じられた聖杯、2体目の巨神鳥の効果を無効にする」

 

「3体目の効果だ、その効果を無効にし破壊する」

 

「凌がれたか⋯⋯!」

 

 最上は残念そうに表情を作りつつ相手の様子を窺う。

 相手はすでに勝ちを確信しているのか余裕の表情を浮かべている。

 そして最上はすでに準備は整っている。最上の予測が正しければこの一撃で敵に壊滅的な被害を与えることが出来る。そう考えていた。 

 

―――成功するさ、私の勝ちは揺るがない。そしてぶっ殺す。

 

 勝算と敗北したときのことを考えつつ、最上は相手が動くのを待つ。

 

「使ってやるよ、俺は時読みの魔術師を配置、そして再びペンデュラム召喚、現れろ」

 

 振り子が再び現れ動き出す。

 新たに配置されたのは黒の街頭を羽織った魔法使い、そのスケールは1であり、相方のスケールが4だったのが8に変化したのを皮切りに、2から7のモンスターが特殊召喚できる状況へと変化する。

 そしてそれは最上が予測した状況でもある。思惑通りの行動をとった獲物に最上は伏せてあった最後の罠を叩き込んだ。

 

「カウンター罠、神の宣告、ペンデュラム召喚を無効にする、死にやがれクソ鳥ども」

 

最上LP4000→2000

 

 振り子は神の指差し強く一括によって生まれた波動により動きを邪魔され砕け散った、と同時にゲートより現れようとしていた黄緑と赤が振り子の崩壊に巻き込まれる。

 

「なんだとっ!?」

 

 男の持つ手札3枚、巨神鳥達が、そしてエクストラデッキより特殊召喚されようとしていたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンがまとめて墓地にぶち込まれた。

 

「なるほど、なんか使われるだろうと思ってたけどこういう使い方か。あんたも悪人だね、重要な情報を黙っておくなんて。ペンデュラム召喚は手札からモンスターを特殊召喚でき、それと同時にエクストラデッキからペンデュラムモンスターを特殊召喚する召喚方法である、か。そして私の予想通り特殊召喚を無効にすると全部吹っ飛ぶんだな」

 

 先ほどまでの渋面アド最上の表情にはない。

 清清しいまでの敵意に溢れた笑みのみがある。

 

「なっ……お前、俺のペンデュラム召喚を、あの一瞬で理解したってか!?」

 

「それぐらいの事、普通の決闘者ならばお前の説明で分かるっての、私を舐めるな」

 

 年端も行かない少女の気迫に気圧され、男は後ろに下がる。

 そしてそれに気付いた男は顔を憤怒に染め、叫ぶ。

 

「っ、まだだ、俺はバトルフェイズに入りお前のセットモンスターに攻撃!」

 

忍者マスターHANZO ATK1800 VS ライトロード・ハンター ライコウ DEF100

 

 苦無を投げ放つ忍者の喉笛目掛け走り込むは純白の猟犬だ。

 苦無が空に刺さるのも厭わず猟犬は喉笛に牙を突き立て首を捻る。

 

「馬鹿だなぁ、ライトロード・ハンター・ライコウ、効果発動、HANZOを破壊しデッキトップから3枚を墓地に送る」

 

 猟犬は最上をちらりと一瞥、不満げに鼻を鳴らし忍者と共に爆散した。

 希望のカードを失った男は絶望の表情を見せ座り込む。

 それは当然だ。

 手札には忍者と名の付いたカードが無ければ意味のない罠カードのみ、エクストラデッキにも不死身のペンデュラムモンスターはおらずデッキのキーカードたる巨神鳥は全て墓地にある。

 しかし苦い顔をしているのは男だけではない、最上も苦渋の表情を浮かべていた。

 墓地に送られたカードはサイクロン、死者蘇生、大嵐と全て必須ともいえるようなカードばかり、まさしくデッキに嫌われているような落ち方に最上は気に食わないといった様子で眉を上げる。

 

「馬鹿な、そんな馬鹿な!?」

 

「さあ、続けよう、お前のターンだ」

 

「…………カードを1枚伏せターンエンド」

 

男場        

LP4000    

手札0      伏せ1      

時読みの魔術師(スケール8)           星読みの魔術師(スケール1)

 

最上場      

LP2000   

手札1     

 

「このままだと負けるぞ、いいのか? 負けたらご主人様とは一生会えなくなっちゃうぞ」

 

 デッキへと囁きつつ最上はデッキへと手を伸ばす。

 裕からデッキを受け取った時から気づいていた。

 オカルトだといつもならば笑い飛ばすだろうがこの状況ではバカにできない重要な事、それはこのデッキが最上を嫌っているという事だ。

 普段ならば嫌われていてもどうということは無い、だがダメージが現実になるこの状況で怪我を負いたくはない最上は開始前よりデッキに囁き続け脅していた。

 手札には微妙なカードしか残っておらずこの状況では逆転の一手を引き当てないと相手がトップドローで何を引いてくるか分からないため敗北の危険が高まる、だからこそ入念に囁き引く。

 

「ドロー、調律を発動、デッキから……ジャンク・シンクロンを加え、デッキトップから1枚墓地に送る」

 

 墓地に送られたのはドッペル・ウォリアー、この状況で欲しかったカードだ。

 

「やればできるじゃないか、ジャンク・シンクロンを召喚、墓地からドッペル・ウォリアーを特殊召喚、そしてレベル4以下のモンスターが特殊召喚された時、TGワーウルフを特殊召喚する」

 

 並んだモンスター達に男は座り込み、後退る。

 それを最上hあハンティングゲームの様に笑顔を浮かべ、樹の代わりに決闘盤を持って追う。

 

「レベル2のドッペルウォリアーにレベル3のジャンクシンクロンをチューニング、シンクロ召喚、現れろ、ジャンク・ウォリアー」

 

 現れるは必殺の拳で幾多もの敵を屠ってきたシンクロン系デッキの繋ぎ役兼主力、ジャンク・ウォリアー。

 火力が足りない今のデッキにおいて一番簡単に大打撃を叩き込めるこのカードを最上は選択する。

 

「ジャンク・ウォリアー、ドッペルウォリアーの効果発動。ドッペル・トークン2体を特殊召喚、そしてその攻撃力の合計、800ポイントアップし3100のジャンクウォリアーだ」

 

 それを見た男が取ったのは逃走だ。

 後ろへと全力で走っていく男へと、最上は笑いながら命令する。

 

「バトルフェイズ、ドッペル・トークンで攻撃」

 

 2頭身キャラの持つマシンガンより銃弾が連射され、走り始めた男の脚へと容赦なく叩き込まれる。

 

「かっ、はぁ!?」

 

「もう1体のドッペル・トークンで攻撃」

 

 男の苦悶に満ち溢れた表情、そして服に空いた銃痕。それでも最上の怒りは収まらない、いや収まるわけが無い。

 

「ぐぅううう」

 

 更に連打していく。

 

「TGワーウルフで攻撃」

 

「ぐぁあああ!?」

 

 半分機械になった人狼による切り裂き攻撃で男の着込んでいた服が破け農夫らしい筋肉が露出する。

 ボロボロで息も絶え絶えな男の目に映るのは最上の笑みだ。

 ニコニコと笑いながらゆっくりと歩み寄る最上。一歩、一歩確実に近づいてくるその姿は悪鬼羅刹のようである。

 

「さて、ジャンク・ウォリアーで」

 

「止めろぉおおおお! 俺が悪かった、引き分けでどうだ! この決闘を引き分けにしてくれればなんだってするから許してくれっ!」

 

 男の土下座してまで懇願する叫び、それは本気で願う声だ。

 大ダメージを負った男の体に叩き込まれようとしている拳は男よりも大きく硬い。

 この状況でブースターを吹かせたジャンク・ウォリアーの一撃が叩き込まれれば腹に穴が開きかねない。

 最上はそれを笑顔で、

 

「ん? 今なんでもするって言った?」

 

「ああ、俺が出来る事なら」

 

「うん、じゃあ負けろ」

 

 拒絶した。

 ジャンクウォリアーはちらりと裕を一瞥しブースターを吹かさず男の目の前に来ると腹に拳を打ち込んだ。

 

男LP2300→0

勝者 最上

 

                      ●

 

 1撃を叩き込まれた男は地面を跳ね転がり止まる。

 心配になって駆け寄った裕が体を見るも幸いなことに男の腹には穴は空いてなかった。

 ジャンク・ウォリアーが手加減してくれたからだろうと裕は先ほどの様子を見て考え、すっきりした顔で歩いてくる最上に言う。

 

「最上、やり過ぎだ」

 

「あれでぐらいでいいんだって、そっちはあれだけ私をボロボロにしたんだぜ、それぐらいされて当然だろ……ん?」

 

 最上が眉を寄せこちらに向かう歩みを早める。

 視線は真っ直ぐに男に受けられており、裕も見ると男の体が赤黒の炎に包まれていた。

 声も上げずのたうち回る男、衣服や決闘盤は燃えず残る中、ただ男の体のみが燃えている。

 

「えっ、なにこれっ!?」

 

 肉の焼ける匂いもしない、肉が体を焦がす臭いもしない。ただ人の体が燃えている。炎が通り過ぎた場所には骨も残らず黒い煤となって焼け落ちていく。

 最上も裕も言葉を失いその光景に目を取られていると、

 

「ほう、その様子だとこの世界で負けた者がどうなるか知らないのか人間」

 

 二人の背後より声があった。

 低く響くその声は男の声だ。威圧感を纏い見なくても凄まじい実力を持っていると分かってしまうほどのオーラを持っている。

 二人は恐る恐る振り返ると青い鎧を纏う筋肉隆々の男が立っている。

 バリアン人特有の赤黒の肌、そこに青と白の鎧が光り輝き先ほど倒した普通のバリアン人とは違う身分であることが窺い知れる。

 

「我が名はアポクリファ、バリアン世界の創世を知る3賢者が1人だ」

 

 二人の背後でカタンと音を立て鍬形決闘盤が落ちる。男の体が全て燃え尽きたのだろうが二人は動けなかった。

 圧倒的な覇気とも呼べる何かによって二人は身動きが出来なかった。動けば殺されるという本能的な恐怖が二人を縛り付けていた。

 

「バリアン世界には我らが神が定めた永久不変のルールが2つだけ存在する。敗者必滅、そして輪廻転生だ。バリアン人は決闘によって敗北すると力の全てを勝者に奪われ魂だけの存在と堕ちる。そして魂だけの存在のままバリアン世界を彷徨い、力を吸収しようやく人型に戻れ再び争い奪う事で名のある者になれるのだ、戦わなければ生き残れない世界、弱者必滅がこの世界の掟だ」

 

 アポクリファの言葉が暗に示すのは先ほどの男が燃え尽きたと言う事だ。

 そこまで聞いて裕はようやくあの男が負けるのを必死で止めようとした理由が分かった。

 そして死ぬ事も出来ず永劫的に奪われ奪う世界に落ちたもう一人の裕があれほどの恨みを向けてきた理由の一端を理解した。

 普通の一般人がこの世界に叩き込まれれば確実に魂だけの存在にされるか奴隷にさせられてしまう、その上で自分と同じ顔の人間が笑ったりしている状況を見せつけられ続けたら殺意の1つや2つ湧き上がって当然だ。

 

「その男には私が新たに作り出した力を貸し与えていたのだがこうも簡単に倒されるとはな、そいつを倒した君達に興味が湧いた。私の野望の礎になってくれ」

 

 男の取り出したデッキより重く軋む音が響く。永らく動いていなかった金属を無理矢理動かすようなその音は裕に恐怖を与えるには十分だった。

 

「さあ少女よ、決闘だ」

 

「……っ」

 

 最上は痛む体に鞭を撃ち、弾かれたように地面を蹴ると消えた男の決闘盤を掴みデッキを抜き、自分の決闘盤へと挿入した。

 

「ほう? 私が開発した力で私に向かって来るか、愚かな」

 

「そうそう、止めておいた方がいいよ」

 

 軽い嘲笑うような、しかし感情は入っていないと感じさせる矛盾した声の持ち主、その声の主は少年だ。

 裕達と同じ人間だ。

 エメラルドグリーンに濃い緑のラインの入った服、金色から色が抜け落ちたようにくすんだ髪、背丈は裕よりも下ぐらいの少年がいつの間にか裕達の横に立っていた。

 

「今の君たちじゃこの男には勝てない、あちらとこちらを行き来するアポクリファにはね」

 

「トロン、何しに来た!」

 

「ま、詳しい話はここから逃げてからねー」

 

 トロンと呼ばれた少年はアポクリファの叫びに耳を全く貸さず指を鳴らす、それと同時に足元に幾何学的な模様が浮かび紋章の形が作られていく。

 薄紫色で描かれた渦巻き状の花の紋章は光を放つと周囲の変化についていけない最上、裕とトロンを飲み込み光をまき散らし消えた。

 

「ちっ、逃したか、しかしなぜあの少年達にあいつが手を貸す?」

 

 一人残されたアポクリファは呟き、決闘盤を消すとトロンたちを追い歩き出した。 


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