クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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最上と裕 上

「行け! 機皇帝ワイゼル、モリフェンを攻撃!」

 

「更地になれ、甲虫装機エクサビートルで直接攻撃」

 

 追ってきた2人の洗脳決闘者は走行決闘の敗北によりDホイールは停止し背後に消える。 

 ひたすらに距離を稼ぐためにかなりの速度で走るバイクに立ったまま決闘をしていた最上は離れていく決闘者達を見届け、満足そうに頷き腰を下ろした。

 

「……相変わらず、すげえな」

 

 裕が呆然とした表情で呟くのを聞き、最上は優越感に酔いながらなびく髪をかき分ける。

 

「私を褒めるのはいいがどっちの話だ? 立って決闘するのは決闘者として普通だろ」

 

「いや、この速度で走行しているバイクの上で立って決闘するってのも凄いけど魔法カードを使わずに相手を瞬殺するとはな」

 

 どちらも褒めていた事に素直に最上は喜び、そして背後をもう1度だけ見る。

 

「何を言っている? 魔法カードを使わなくたって征竜か甲虫装機を使えば全て更地にするのは楽勝さ」

 

 最上が先ほどまで行ったのは限定条件下での走行決闘だ。

 多すぎる追手にしびれを切らした最上は制限付きの走行決闘を追手達に仕掛けた。

 自分のスピードカウンターはたまらず通常魔法は使わないという縛りの中でも彼女のデッキは確実に相手の場を駆逐し叩きのめしていった。

 裕からすれば明らかに頭のおかしい状況かも知れないが最上からすれば日常茶飯事だ。

 

「見えてきたぞ」

 

 菅原の言葉に前を向けば、走る先、町が見える。

 遊馬達の住んでいるハートランドシティだ。

 

「アジトってどこだよ?」

 

「ちょっとした平屋建ての一軒家、プロ組の藤田からちょっと借りてる。多分式原もついている頃だろ」

 

 アジトにいったん集まり、最上はこの原作の危機という非常にまずい現状と周囲の確認をしようと思っていた。

 

―――今使える仲間を確認しないとなぁ。

 

 気になるのは黒原、そしてドン・サウザンドだ。

 遊馬達が出発してすでに数時間が経過している、となれば向こうでの時間とこちらの時間の流れが一緒かどうかは分からないがベクターの精神攻撃フェイズに衝撃の真実が明かされ、カードを書き換えてベクターがぶった切られて終了している可能性もある。

 そしてドン・サウザンドが九十九遊馬との決闘で深手を負ったベクターによってドン・サウザンド本体の封印が解かれ復活していたら、

 

「私達は間違いないく詰む」

 

 最上の危機感を混ぜ込んだ呟きはバイクの風に消えた。

 

                    ●

 

 大急ぎで住宅街に身を隠しとある一軒家に入った最上を待っていたのは式原と片手で数えるほどしかいない人影だった。

 暗くなっている雰囲気より最上は嫌な予感を受ける。

 最上は遊馬達の出発に立ち会う前に両手の指では数えきれないほどの多くの決闘者に声をかけてきた、だが部屋に居るのは最上の予想よりもはるかに少ない数である。

 提示される事実に頭を抱えつつ最上は式原に聞く。

 

「……他は?」

 

「大部分は昨日からの解放作戦中に負けてあちら側に取り込まれました。幸いこの場所を教える前だったのでここの情報はばれてませんわ」

 

「そうか⋯⋯事態は急を要するため今から状況確認を始める」

 

 最上の言葉に部屋の中でデッキを組んでいた皆が集まってくる。

 皆が疲れ切った顔をしており鋭気もない。それらからも今の状況が暗く切迫している状況だと言う事は理解できた。

 

「さて分かって入るだろうが状況をまとめよう。現状市内の半分以上の決闘者が敵の手に落ちている。実力は人それぞれだが仲間を呼ばれ囲まれたら非常にまずい、そして勝ったら洗脳解除、負けたら洗脳ブレインコントロールという状況だ、質問は?」

 

 菅本が手を上げ、口を開く。

 彼がこの事態に今さっき関わったばかりなのだから当然の話だ。

 予算アップの話に釣られてきたはいいが今この現状がどういうまず状況かを理解していない彼がこの中で1番、最上の話を冷静に聞いていた。

 

「敵っていうのがよく分からんのだが、誰が何の目的でこんなことをしている? というよりは今の話し方からして最上が何をどこまで知っているのかそれが非常に知りたい」

 

 最上は少しだけ考える。そして口を開いた。

 

「敵は、そうだな……特殊なカードを使って世界を手に入れようとする危険な集団、かな。私がそれを何で知っているかと言われればWDC補填大会でちょっと連中に利用されてそこから式原にも手伝ってもらって色々調べたんだ」

 

「分かった。そういう事にしといてやる」

 

 元々、いろいろな騒動に巻き込まれて最上と長い付き合いである菅本は今の答えに納得できない様子だったが、最上が重要な事を話すつもりがないと菅本が理解し、不承不承といった様子で座り込む。

 

「さて、他にないな? よし、現状では私達しかまともに行動できるものは居ないだろう。警察やら行政は洗脳決闘者によって陥落一歩手前だし、今しがた連絡してみたがプロ決闘者にも被害が出ている。この町から逃げてもいいけどこの状況はいずれ悪化していくだけだ、だから私達が出来る事を頑張ろう、頑張って時間を稼げばそのうち助けは来るからそれまでの辛抱な」

 

「誰が助けに来るのか、そして本当に来るのか」

 

 眼鏡をかけた少年のもっともらしい質問に同調する様にマドルチェ使いの少女が恐る恐る手を上げてくる。

 

「ん? どうした?」

 

「援軍とか来ないんですか? 正直な話、この状況だとジリ貧すぎて勝てる気がしないんですけど」

 

 言葉に部屋に集まる皆は頷いたり沈黙する。

 それは当然だろう。

 なにせ相手の物量が多すぎる。

 そして自分達は普通よりも少し特殊な能力を持っているがそれでもいつかは体力が尽きる。そのとき洗脳決闘者の群れの中に居ればいつかは敗北してしまう。

 

「一応、助けに来るってプロ組は言ってたけどいつ来るか不明なんだよな」

 

 最上の言葉にさらに不安度は増していき、室内は騒がしくなっていく、それを助長する様に式原が口を開く。

 

「状況をさらに悪くさせるようで悪いですが私が集めた情報では炎星、森羅、カウントダウン、キュアバーン等、非常にまずいデッキを持った決闘者があちらの仲間になっています。紙束やロマンデッキに交じっていわゆる地雷デッキが来る可能性もありますので決闘の際は注意してください」

 

「カオポループとかなぁ」

 

 最上がニヤリと笑いながら口にする言葉に裕は睨みつけてくる。

 しかし皆笑わない。

 勝負が始まってからデッキタイプが分かる決闘では気付いたら負けという初見殺しもありうるのだ。しかも一度でも負けてはいけないこの状況下でそれが誰にでも起こりうる、それがどれだけ恐ろしい事か皆がよく分かっていた。

 そして皆学生である。

 アンティ決闘ぐらいはこなしてきても、自分の命を賭けた決闘を行ったことは無い。 洗脳された仲間の様子を見てひたすらに悲惨な想像を膨らましていき、不安は伝播していく。

 最上はそんな状況を分かっていた。

 だからこそ一旦休息を取らせるべきだと判断し、

 

「まあとりあえず今日は一旦休み、とりあえず飯でも食って寝る事。この家から出るなよ、出て洗脳決闘者の餌食になっても知らんぞ」

 

                      ● 

 

 食事が終わり最上は式原と共にいた。

 少し離れた場所ではこのような状況にもかかわらず裕を筆頭とした男子組が全力で決闘を楽しんでいる声が聞こえてくる。

 こんなときでも裕は決闘バカは決闘バカだが、明るい決闘バカで助かったな、空気が微妙に変わってくるし、などと貶すような褒めているようなことを考えながら最上は自分の部屋に着くと式原の持ってきた資料に目を通していた。

 水田裕に関する資料だ。

 いくら遊戯王の世界において観客の民度が低いからって大会で良い成績を出してきた相手を攻撃し続ける人間が減らない事に違和感を感じた最上だったが。裕が憑依系なので本人の記憶が使えない以上、他人の力を借りるしかないため、式原に調査を依頼していたのだった。

 

「ああ、やっぱりそういう事か、だからあんな噂が立ったのか」

 

 式原より渡された資料に目を通し納得し最上は椅子に座り込む。口元に手を当て考えるのは裕の噂、そしてこの状況だ。

 

―――もしもこれ全部が繋がっているとしたら、

 

「誰がこんな変な策略を立てた、黒原か? だとしたらあいつはえげつねえな」

 

 ため息を吐きながらも窓の外を眺めるも夜の闇に動きは無い、月明かりのない外を見ていた最上の肩に式原は手を置き、

 

「ねえ、最上さん、私と決闘しませんか?」

 

「何?」

 

「先ほど新しいカードを拾ったもので、そのデッキの調整もかねてなんですけど、どうでしょうか?」

 

「ふうん、良いよ、久々に決闘するか」

 

―――そういえば式原との決闘は久しぶりか。

 

 最上は立ち上がると決闘盤を装着する。

 幼少の頃からの長い付き合いである式原が取り出したのは白いデッキケースだ。

 

「おっ、今日は天使か」

 

「ええ、誰にも負けないデッキに仕上げてきました」

 

 最上と決闘する際にいつも口にする負けないと言う言葉、それに最上はいつもの挑戦的な笑みを浮かべ、

 

「私にも勝てるってか、言うじゃないか」

 

「ええ、今日こそは勝たせてもらいます」

 

「「決闘!」」

 

                     ● 

 

「私が先攻ですか、ドロー、私はフォトン・サンクチュアリを発動します。このカードの発動後、私は光属性モンスターしか特殊召喚できなくなりますわ」

 

 式原の発動したカードより2体のフォトントークンが発生する。

 そんなのはどうでもいい最上は手札を見、顔をしかめる。

 

―――手札が悪いな、水田が近くにいるせいか?

 

 初手を見て最上は疑問に思いつつも防げる手札誘発カードがないため展開を待つ。

 式原のデッキは2つある。

 1つはデミス・ガイア、ライフ4000の世界において出された瞬間に敗北する可能性が濃厚となるデッキだ。

 そしてもう一つのデッキは儀式モンスター、神光の宣告者(パーフェクト・デクレアラー)を主軸としたパーミッションデッキだ。

 だが今しがた特殊召喚されたトークンのレベルは4、クリスティアのアドバンス召喚にでも使う気なのだろうかと最上は軽く探りを入れると、式原は首を横に振り否定する。

 

「いえ、これは帝の生贄です、フォトン・トークン2体をリリースし轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚しますわ!」

 

 巨大な稲光が部屋を揺らす。

 稲光の落ちた爆心地より現れたのは帝シリーズの中で仲間からハブられているようにレベルが1つ下である雷帝ザボルグの進化した姿だ。

 立派になった鎧を纏い虎縞の褌を穿いた最上位帝、本人の雪辱戦も兼ねているのかその効果は現在する最上位帝の中でもトップクラスに強力でありとても出しやすい。

 

「この効果は!?」

 

 テキストを読んで僅かに顔をしかめた愛、そして轟雷帝の一撃が炸裂する。

 可能性を砕き散らしていくその1撃、最上のエクストラデッキが独りでに浮かび上がり提示させられる。

 

「ザボルグの効果で光モンスターであるザボルグを破壊、そしてお互いのエクストラデッキからザボルグと同じレベル分、8枚を墓地に送ります、そして光モンスターをリリースしアドバンス召喚に成功した轟雷帝ザボルグの追加効果発揮、最上さんのエクストラデッキより墓地に送るモンスターを私が選ばせてもらいます」

 

 その言葉に最上はため息を吐く。

 それは安堵のため息だ。

 

「……あぶね、魔導デッキでよかった、他のデッキだったら負けてたな」

 

 最上のエクストラデッキから8枚のカードが墓地に送られる。

 そして式原のエクストラデッキからも8枚のカードが墓地に送られる。

 問題はその中身だ。

 ナチュル・エクストリオなどの凶悪な融合モンスターの素材が全て墓地に揃ってしまいミラクル・シンクロ・フュージョンを発動された暁には最上のデッキは敗北必須となる。  

 式原の墓地より虹色の光が3筋放たれる。

 

「そして墓地に送られた虹色の宣告者(アーク・デクレアラー)3体の効果発動、デッキより儀式モンスター、または儀式カードを手札へと加えますわ。私が加えるのは崇高なる宣告者を2枚、そして高等儀式術です!」

 

 自分が聞いたことのないレベル12の儀式モンスターに最上が目を見開いていると、その様子を式原が得意げに笑い返す。

 

「では参りますわ。儀式魔法、高等儀式術を発動、デッキより通常モンスターを儀式モンスターのレベルと同じだけリリースします!」

 

 墓地より現れるもけもけ、雲魔物スモークボール、神聖なる球体、合計9枚の魂が虹色に、黄色に、緑、紫、オレンジ、白に輝き交じり1つとなっていく。

 虹色を超えた光の中、現れるはあらゆる穢れが触れる事を許さない白き躰。光り輝く翼、今まで体だけだったその姿に新たに加わった腕と足のパーツが合致していき、更なる輝くが放たれる。

 

「其の宣告は絶対であり、あらゆる反論を許さない、万物を払い清め砕き給え、降臨、崇高なる宣告者(アルティメット・デクレアラー)

 

 現れた巨大な天使の姿に最上は一瞬だけ言葉を失う。

 内蔵されているのは手札の天使族をコストとする特殊召喚も無効、または神の宣告という凄まじい効果であり、守備力は3000という出されたら対処の面倒なカードだ。

 

「パーデクじゃなくてなんかすごいのでたな、これがお前の新しい切り札か」

 

 目を奪われ呟かれた言葉に式原は誇らしげに笑い、

 

「ふふっ、カードを3枚伏せてターンエンドですわ」

 

式原場     崇高なる宣告者 DEF3000 

LP4000   

手札2     伏せ3  

 

最上場        

LP4000   

手札5       

 

「私のターンドロー」

 

 最上は式原の手札をまず見る。

 式原の手札は2枚、よって2回分の効果を発動指せ、破壊すればいい。そう考え、

 

「この瞬間、罠カード、補充部要員を発動します。墓地の攻撃力1500以下の通常モンスター3体を手札に加えます。そしてもう1枚の補充要員を発動、さらに3枚を加えます、よって私は墓地から神聖なる球体3体、もけもけを3枚加えます」

 

 これによって式原の手札は8枚にまで跳ね上がる。

 それだけでは無い。この効果によって最上は7回までカード効果を無効にされるのだ。

 手札が6枚しかない最上に出来る事など1つしかない。

 

「きついってレベルじゃないな、カードを4枚伏せてモンスターをセット、ターンエンド」

 

最上場      セットモンスター

LP4000   

手札1      伏せ4

 

式原場     崇高なる宣告者 DEF3000 

LP4000   

手札8     伏せ1  

 

                 ●

 

 騒がしい物音に裕が気づいたのは風呂に入って布団に横になってからすぐの事だ。

 皆が不安を紛らわせようとするように決闘をしていたが眠さの方が強くすぐに横になっていたがどうも騒がしいのだ。

 誰かが決闘していたのには気づいていたがそれにしては騒ぎは大きい。

 悲鳴のような声が聞こえてくる。

 明日の為にも早く寝るべきだと注意しようと考えた裕は起き上がりドアを開ける。

 

「おい、お前ら何やって」

 

「ぐぅああああ!?」

 

 眼鏡をかけた男子生徒が吹っ飛んでくるのが見えた。

 裕は思わずそれを受け止める。

 汗ばんだ背中から温い体温と湿り気を感じ、そして廊下の向こうに立つ人物に目を向けて裕はとんでもない状況になっている事に気づいた。

 ここに居る筈のない人物、黒原が立っていた。

 決闘盤を裕へと向け、こちらへと歩いてくる。

 

「なんでここに!?」

 

「おっとお前もここにいたか、じゃあ」

 

 黒原が言い終わる前に扉を閉め、机で即席のバリケードを作り、メガネの男子生徒を担ぎ上げると裕は最上のいるであろう部屋に向かう。

 どのような手段を使ったのかは知らないが黒原によって居場所がばれており、すでに攻撃を受けている。

 

―――とりあえず最上にこの事を伝えないと!

 

 走る廊下の奥、最上の部屋が見える。

 決闘をしているのか僅かに騒がしく、決闘の邪魔をしてもいいのか、とふと思ってしまったが迷っている暇はないと考え部屋の中へと飛び込む。

 部屋の中ではパジャマに着替えた最上と式原が向かい合っていた。

 ノックもせずに飛び込んできた裕を見て冷静に最上は呟く。

 

「夜這いか?」

 

「絶対に違う! 黒原が攻めて来てる、とりあえず決闘止めて逃げよう」

 

「どうやってばれたんだ? おい式原、一旦」

 

「止める必要はありませんわよ」

 

 言葉、そして式原の決闘盤によりアンカーが飛び出し最上の手首を拘束する。

 それと同時に廊下の暗がりよりアンカーが飛んできて裕を拘束した。

 ニコリといつも通りの朗らかな笑みを見せ式原はこちらに近づいてくる。

 

「あなた達はここで終わりですから」

 

「そうそう、使えない役者には退場してもらわないと、最上はデッキと原作知識、水田は跡形残さず消えてもらう」

 

 廊下の奥より悠々と黒原が歩いてくる。

 その姿を見て、式原を見ると納得がいったと言う風に最上は頷き、

 

「なるほど、最初から式原が洗脳されていたか」

 

「ああ、そうだ、ドン・サウザントが復活して魂を弄ったり強力な洗脳が出来る様になってね、個人の能力をコピーして与えることが出来るようになったんだ。おかげでそこの彼女は僕より弱いけどドロー全てが思った通りの物が引けるって能力持ちさ」

 

 言葉の意味を受け取り真剣な表情を取り始めた裕と最上。

 それは当然の反応だ。

 望んだカードをドローできる、それはどんなロマンコンボも強固すぎるロックを賭ける事も制圧することも可能とする最強の能力だ。

 裕も状況を把握し決闘盤を黒原に向ける。

 

「さっさと決闘盤を構えやがれ」

 

「ああ、違う。お前の相手は僕じゃない。彼がするんだ、いやぁさっきは彼が邪魔してくれたおかげで君を消しそこなったからね、確実に殺すだろうし楽しみにしておくよ」

 

 黒原の言葉に暗がりから現れたのは黒いフードをかぶった男だ。

 手に付けている決闘盤から延びたアンカーは裕の腕に巻き付いている。

 

「誰かは知らないけどいいぜ、相手してやる」

 

「……」

 

 フードの男は口を開かず、そして決闘が始まる。

 

「「決闘!!」」

 

                     ●

 

「俺が先攻だ、ドロー!」

 

 勢いよくカードを引き抜いた裕、そして手札を見る。

 

「おろかな埋葬を発動、デッキからレベル・スティーラーを墓地に落とす。そして幻獣機オライオンをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚する、オライオンの効果で幻獣機トークを特殊召喚、そしてクイックのレベルを下げてレベル・スティーラーを墓地から特殊召喚!」

 

 現れるはクイック・シンクロン軸におけるキーエンジン、黄金の甲冑戦士だ。

 

「レベル3の幻獣機トークンとレベル1のレベルスティーラーにそしてレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング、レベル8、ロード・ウォリアー、そしてロードの効果で」

 

「エフェクト・ヴェーラーの効果発動」

 

「ん? ロードのレベルを下げてレベルスティーラーを特殊召喚して、俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 男の声は若い、自分と同じぐらいの年だろうか、と裕は考え、そして違和感を持つ。

 

―――この声、どこかで聞いたような?

 

裕場    ロード・ウォリアー ATK3000 

LP4000  レベル・スティーラー DEF0 

手札2     伏せ1 

 

フード場        

LP4000   

手札4       

 

 裕の考え事をよそに置き、フードの男は流れるような手つきでデッキよりカードをドローする。

 

「俺のターン、ドロー。サイクロンを発動、伏せを破壊する」

 

 破壊されたのはブレイクスルー・スキル。それを確認した男は手札よりカードを抜く。

 

「俺は調律を発動、デッキよりジャンク・シンクロンを加え、そしてデッキトップより1枚を墓地に送る」

 

「ジャンク・シンクロン? 俺と同じシンクロン系か」

 

 裕の言葉に頷きもせずフードの少年は淡々と決闘を進めていく。

 調律で墓地に送られた輝白竜を墓地より抜き、入れ替わる様に手札より場に置くのは、

 

「墓地の白を除外し黒、暗黒竜コラプサーペントを特殊召喚。ジャンク・シンクロンを召喚し墓地のエフェクト・ヴェーラーを特殊召喚する」

 

 墓地より放たれる光を食らい闇が竜の形を取る、それは永劫に互いを食い合う2頭の幼竜だ。

 そのサイクルは今の裕には止められない。

 

「レベル4の黒にレベル1のヴェーラーをチューニング、シンクロ召喚、レベル5、TGハイパーライブラリアン、そして墓地に送られた黒の効果でデッキから白を加える」

 

「これって非常にまずいんじゃ!?」

 

 まだ素材が墓地に居て、チューナーがいる状況、裕は顔色をさらに悪くする。

 

「墓地の黒を除外し白を特殊召喚、レベル4の白にレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、レベル7、月華竜ブラック・ローズ。ブラックローズのシンクロ召喚成功時、ハイパーライブラリアン、月華竜ブラック・ローズ、墓地に送られた黒の効果発動」

 

 カード効果が連打されていく。

 防ぐ事も妨害する事も出来ない中、竜達の方向が連打されていく。

 

「逆処理を行う、黒の効果でデッキから白を、ブラック・ローズの効果でお前の場のロード・ウォリアーをエクストラに、そしてライブラの効果で1枚ドローする」

 

 あれだけの展開を手札2枚で行いそして場には2体の強力なシンクロモンスター、裕が顔をしかめ、そして2体のシンクロモンスターの攻撃が始まる。

 

「バトルフェイズ、ライブラリアンでレべル・スティーラーを攻撃。そしてブラック・ローズで直接攻撃!」

 

「ぐぅうあああ!?」

 

裕LP4000→1600

 

 月華竜の放った植物の鞭によって裕は跳ね飛ばされる。

 体を撃つ衝撃に裕は肺の空気全てが押し出され壁に叩きつけられる。

 

「メイン2、カードを3枚伏せてターンエンド」

 

フード場  月華竜ブラック・ローズ ATK2400     

LP4000  TGハイパーライブラリアン ATK2400

手札2   伏せ3

 

裕場     

LP1600   

手札2     

 

 WDC補填大会を思い出すようなダメージによろよろと体をよろめかせつつ裕は立つ。

 朝からずっと決闘して積み重ねたダメージ、そして黒原によるジャックポットワンキルによるダメージは確実に裕を蝕んでいた。

 それでも裕は立ち上がりカードを引く。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は死者蘇生を発動、墓地のクイック・シンクロンを特殊召喚する」

 

「ブラック・ローズの効果発動、レベル5以上のモンスターが特殊召喚された時、特殊召喚されたモンスターを手札へと戻す」

 

 クイック・シンクロンは裕の手札へと戻る。

 強制効果であるブラックローズの効果は使い果たされ、そして残るはライブラリアンだけだ、そう裕は考え墓地に手を伸ばす。

 

「墓地のブレイクスルー・スキルを除外しハイパー・ライブラリアンの効果を無効にする! そして手札のレベル・スティーラーをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚、そしてジャンク・シンクロンを通常召喚、ジャンクシンクロンの効果で墓地の幻獣機オライオンを特殊召喚だ!」

 

 召喚を無効にされる訳でもなく、効果を無効にされないためカウンター罠は来ないと言う事は分かる、そしてジャンクシンクロンの効果が発動させたとき効果を無効にしなかったこと、腕が動かったことからブレイクスルー・スキルなどの無効にするカードは無いのだろうと予測できる。

 裕はそこまで考え、そして動く。

 

「クイックのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚、そしてレベル1のレベル・スティーラーに、レベル2の幻獣機オライオンをチューニング、レベル3、霞鳥クラウソラス! 墓地に送られたオライオンの効果で幻獣機トークンを特殊召喚する」

 

 場に大量のモンスターが並び墓地にレベル・スティーラーがいる状況で激流葬を放たれなかった時点で激流葬は無い、そしてチューナーばかりの状況でレベルスティーラーをバウンスしなかったことから強制脱出装置は無い。

 残る状況から考えられるのはブラフか、リビングデットの呼び声等の蘇生カードやサイクロン、聖槍等の切り札を通すために使われるカードだろうと裕は推測し、ぶん回す。

 

「クラウソラスの効果でブラック・ローズの効果を無効にし攻撃力を0にする、そしてレベル3の幻獣機トークンにレベル4となっているクイック・シンクロンをチューニング、レベル7、ジャンク・アーチャー! アーチャーの効果でTGハイパー・ライブラリアンを除外だ!」

 

「罠発動、スキル・プリズナー、ジャンク・アーチャーの効果は無効だ」

 

 これならとばかりに放たれたその矢はフードの男が拓く罠カードによって打ち消される。

 

「くっ、ジャンク・アーチャーのレベルを1つ下げてレベル・スティーラーを特殊召喚する、レベル1のレベル・スティーラーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、レベル4、波動竜フォノン・ドラゴン! フォノンドラゴンの効果発動、こいつのレベルを3に変更する」

 

 場を冷静に眺めていた男は困ったように頬を掻き、伏せていたカードを開く。

 

「このままだと負けるな、罠発動、ガードロー! ブラック・ローズを守備表示にしデッキから1枚ドローする」

 

「レベル3のクラウソラスとレベル6となったジャンク・アーチャーにレベル3となったフォノン・ドラゴンをチューニング、レベルマックス! 来やがれ俺の相棒、最も輝く龍の星! シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 鳥が、弓士が空へと上がっていく。3つの輪となった波動竜もそれを追いかける様に空へと上り光が炸裂する。

 現れるは白銀の体の龍、敵対する者には必殺の一撃を、味方には全てを守り砕く加護を与える恒星龍が姿を現し吠える。

 

「バトルだ、クェーサーでブラック・ローズを攻撃!」

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000 VS 月華竜ブラック・ローズ DEF1800

破壊→月華竜ブラック・ローズ

 

 叩きつけられた莫大な光量に月華竜は成す術もなく爆散し少年のローブを切り裂くように爆風が揺らす。 

 

「更にクェーサーでライブラリアンを攻撃!」

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000 VS TGハイパーライブラリアン ATK2400

破壊→TGハイパーライブラリアン

フードLP4000→2400

 

 巨大な光の一撃は全て物を揺らしていく。

 叩きつけられたその一撃は辺り一面を震わせ、衝撃を受けた少年は吹き飛ばされていく。

 

「痛てて、まったくクェーサーって奴は強力すぎるなぁ」

 

 少年は起き上がり体についている埃を払う。

 フードはクェーサーの1撃でボロボロに破けており、それを脱ぎ捨て、何事もなかったかのように笑顔を裕へと向ける。

 

「なん、で?」

 

 そして裕はその顔を見て呆然と立ち尽くしていた。部屋に居る式原と黒原は笑みを浮かべ、その事を予想していたのか最上もあまり驚いてはいない。

 裕が呆然としていた理由、それは少年の顔、自分と全く同じ顔、水田裕の顔がそこにあった。


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