クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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サルガッソ 下

 遊馬が意識を取り戻したのはカオスの力に取り込まれたアストラルと無理矢理にゼアルしたすぐ後のことだ。

 

「ここは?」

 

 見渡す限りの砂漠、そして巨大なアストラルの石像がある。

 

「そうだ、俺はアストラルに取り込まれて」

 

 ゼアルできなかったのは自分の責任だ。自分がアストラルに全てを話していれればこんなことは起きなかったと後悔し、そこからまず立ち上がろうとする。

 

―――アストラルに謝んなくっちゃいけないな。嘘ついたこと、騙していたことも全てを。

 

 遊馬は明らかに何かありそうなアストラルの形をした石像へと歩いていた。

 内部会談があり、そこを遊馬1段飛ばしで駆け上がっていく。

 上を見れば光があり、広くなっている空間が見える。

 謝る、その感情は背中を押し、足を更に速く動かし、その空間へと入った。

 

「アストラル!」

 

 遊馬がたどり着いたのは最上階、アストラル石像の頭に位置する場所だ。

 思考と感情を司るそこにアストラルはいた。

 何しに来た? と問いかける様にこちらを見るアストラルに遊馬は歩み寄り、おのが感情に従って口を開く。

 

「アストラル、俺はおまえに謝ろうと思って」

 

「謝る? 何をだ」

 

 心底何を言っているのかりかいできないという表情をとりアストラルはこちらへと近づいていく。

 空中を滑り来るアストラルの白い体に徐々に黒が混じり始める。

 

「君は私を裏切った、私は君を信じる心を失った・だが私は新しい力を得た。悪だ!」

 

 言葉の途中より感情が篭り始め壮絶な笑みを浮かべるアストラルは遊馬へと手を伸ばす。

 もっと力を、感情をよこせと言わんばかりに少しずつ近づきながら、

 

「知らなかったよ、悪が、憎悪が感情がこんなにも力を与えてくれるなんて、怒りが憎しみがこんなにも私に力を与えてくれるなんて、ああ、すばらしいぞ、力がどんどん溢れてくる!」

 

 ついにはアストラルの体は白と黒の半々になる。

 それだけでとどまらず、黒の部位は白を更に侵食しようと手を伸ばしていく。そしてその侵食に踊らされる様にアストラルは遊馬へと手を伸ばす。

 もっと感情を寄越せ、そう伸ばしてくる手、いつも理性的なアストラルの瞳に映るのは熱に浮かされたような色だ。

 

「もっとだ、もっとこの力をよこせ、遊馬」

 

 遊馬は人間だ、その心理の奥底にはカオスの力がある。

 アストラル世界の力と正しく制御されたカオスの力、その二つがちょうどよく交わったのがゼアルであり、今のダークゼアルは遊馬からアストラルがカオスを抜き出し続けて暴走しているのだ。

 

「俺のせいだ、俺のせいで、アストラルが……」

 

 アストラルは黒が全身に広がっていく。

 皇の鍵のなかにあった飛行船を動かす際に解き放たれたNo.96の様に黒に染まっていくアストラルを遊馬はなんとしても止めようと走る。

 そして遊馬のカオスをさらに吸収しようと触手を作り出し、アストラルは遊馬を取りこもうとする。

 

「遊馬、君には感謝している。この力をもたらしてくれたのは君だ、君の嘘だ、全身を満たす憎悪が全てを壊す力を与えてくれる!」

 

「止めろぉ!!」

 

 一度の嘘で全てを信じないと言い続けるアストラルを止めなければいけない、そう遊馬は考える。

 人は感情と意志で動く生き物だ。

 すれ違いぶつかり合うこともあるだろう。だが過ちを認め、過去を許していくことが出来るのも人というモノだ。

 父から教えてもらったことは確かに遊馬の胸に輝く。考古学より得られた過去の過ちと成功を、教訓をどう生かすか、歴史的に見れば許さないという判断も必要だ。だが許すという決断も必要だ。

 許すという行為は非常に難しい。

 何度も裏切られるかもしれない、ぶつかり合うこともあるだろう、だが最後は決闘を通じて皆が仲良くなれる道はきっとある、そう遊馬は信じている。

 アストラルを止めるために駆けだした遊馬はアストラルをしっかりと抱きしめる。

 一瞬だけ動きを止めた瞬間、遊馬から光が放たれる。

 それはゼアルになる際の残滓が形になった物で、その力はアストラルの中で荒ぶる感情を制御していく。

 そして突進した勢いを止める事はできず背後のステンドグラスを突き破り外へと飛び出した。  

                

                   ●

 

 ベクターはバリアンの力をまき散らし始めたダークゼアルを満足げに眺めていた。

 

―――ここまで策がはまるとすがすがしいぜ、このまま押し切ってナンバーズを手に入れることができれば…………ん?

 

 そのように考えていたベクターだったがダークゼアルの中心から放たれた光を見て顔色を変えた。

 

「なんだこれは!?」

 

 今まで安定してカオスをまき散らしていたダークゼアルが苦しみ始めたのだ。そのまま光はさらに大きくなり遊馬とアストラルの2人へと分かれた。

 

「ちっ、分かれやがったか、まあもう遅い、お前らはここで終わる、もう諦めちまえよ!」

 

「嫌だ! アストラルもみんなも俺の大事なものみんな、これいじょう傷つけさせねえ!」

 

 遊馬はカオスとアストラル世界のエネルギーの摩擦でボロボロになりながらも、立ち上がり、息も絶え絶えにベクターを見る。

 アストラルもその姿を見上げるモンスター、アストラルの体は指1本、動かせない。

 

「はっ、俺のターン、ドロー!!」

 

ダークゼアル→遊馬場      

LP3000   CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600(ORU2)

手札0     伏せ1  

 

ベクター場        

LP2200   No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 (ORU2)

手札0    鳥銃士カステル ATK2000 (ORU0)

       伏せ1

 

 べくたーはドローしたカードを見ずに発動する。

 RUM―バリアンズ・フォースは強力な力を秘めており、バリアン七皇からすればデッキに近くなれば近くなるほど感知しやすくなっている。

 だからこそRUMバリアンズ・フォースをドローしたのは必然だ。ブラフである伏せカードしかない状況ではこのカードがカギとなる。

 そしてベクターはもう1つ気づいたことがあった。

 遊馬のデッキに残る最後のリミテッド・バリアンズ・フォースが遊馬のデッキの上から2番目に来ている事を。

 次のドローカードが分からない状況、そして次のドローカードを意味のないものにすれば勝ちは動かない。

 勝ちを確信し、その価値を清々しいものに変えるために行う行動は1つだ。

 

「俺は仮面魔踏士シャイニングの効果発動、相手のデッキトップの一番上のカードを墓地に送る!」

 

 これにより遊馬のデッキトップはRUM―リミテド・バリアンズ・フォースに確定する。

 もしもこのターンを遊馬が凌ぎきっても遊馬がドローするのはリミテッド・バリアンズ・フォース、墓地にスキル・プリズナーがあるこの状況でホープレイV出したところでベクターの勝ちは揺るがない。

 

「そして見せてやる、俺の真の力を。俺はRUM―バリアンズフォースを発動、このカードは自分の場のモンスターエクシーズをランクアップしカオス化させる、俺はランク

4のNo.104仮面魔踏士シャイニングでオーバーレイネットワークを再構築、カオス・エクシーズチェンジ!!」

 

 扉を砕き噴き出した全てを塗り潰す赤黒の力は光り輝く野望の象徴をさらに強固なものに塗り潰す。

 モニュメントは姿を変えコウモリを模した赤い翼を持つ球状の物体の姿へと変わ、血のように真っ赤な手、体全てが鮮血で染まっているようなカラーリング。

 振り上げられるのはシャイニングのモニュメントと様な同じ赤黒の球を掴んだ物だ。

 

「現れろ、CNo.104! 混沌より生まれしバリアンの力が光を覆うとき、大いなる闇が舞い踊る。仮面魔踏士アンブラル!」

 

 頭部に被る修羅のような仮面にナンバーズの刻印が施され影の仮面魔踏士が立つ。

 

「そしてバリアンズ・フォースの効果だ、お前のカオス・オーバーレイ・ユニット、希望皇ホープレイを奪う!」

 

 ホープレイVの効果を発動させるときわざわざホープを墓地に送った行動からベクターは伏せカードを看破していた。

 九十九遊馬のお得意のホープを維持し続ける戦術であり伏せカードはエクシーズ・リボーンの様なオーバーレイユニットを持ったままホープを蘇生させるカードだろう。

 

―――だが墓地にスキル・プリズナーが在ればホープレイVなどただの意味の無いカスカードでしかない、これで俺様の勝ちだ!

 

「バトルだ、アンブラルでホープレイVを攻撃」

 

「俺は、伏せていたエクシーズ・リボーンを発動。墓地のホープを特殊召喚しこのカードをオーバーレイユニットにする⋯⋯!」

 

 今にも消えそうなか細い声で遊馬がホープを特殊召喚する。

 だがそんなカードに見向きもせずベクターは攻撃を仕掛ける。

 

「はっ、ホープレイVを破壊しろ!」

 

CNo.104仮面魔踏士アンブラルATK3000 VS  CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600

 

「ホープの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い攻撃を無効にする!」

 

「何度も何度もバカの1つ覚えに攻撃無効ばっかりかぁ! バカだろテメエぇ! ホープホープうるせえんだよ! 俺はアンブラルの効果発動、カオス・オーバーレイ・ユニットを1つ使い相手モンスターの発動した効果を無効にし、相手のライフを半分にし相手の手札を1枚捨てせる! まあお前が手札を持っていないからライフは半分にできないがなぁ、ダークプランダー!!」

 

 錫杖にエネルギーを貯めホープレイVへと放つ。

 途中新たに表れたもう1体の守り抜く希望が翼盾を展開させるも、仮面魔踏士が直後に放った封殺の力に翼盾は動きを止め、受け止められそうになったエネルギーはホープレイVを砕いた。

 爆発と共にホープレイVの鎧や外装がバラバラに砕け降り注いでいき、遊馬は爆風に吹き飛ばされ無様に地面を転がった。

 

破壊→CNo.39希望皇ホープレイV 

遊馬LP3000→2600

 

「ホープレイVの効果発動、このカードが破壊され墓地に送られた時、墓地のモンスターエクシーズをエクストラデッキへと戻す」

 

 たかがホープレイVがエクストラデッキに戻ったところで墓地にあるスキル・プリズナー、そして遊馬のデッキトップは変わらない。

 残された最後の希望に縋ったところでベクターの勝利は変わらない。

 

「メイン2、カステルを守備表示にし俺はこれでタァーンエンド」

 

ベクター場   CNo.104仮面魔踏士アンブラルATK3000(ORU3)

LP2200    鳥銃士カステル DEF1500 (ORU0)

手札0     伏せ1     

 

遊馬場      

LP2600   No.39希望皇ホープ DEF2000(ORU0)

手札0

       

                   ●

 

「どうしたその様子じゃドローも出来ねえんじゃねえか? はっ! 相棒との絆を葬られてもまだやるってか?」

 

 地面に転がったまま、立ち上がれず息をするだけで精いっぱい、満身創痍の遊馬をベクターは嘲笑う。

 

「ベクター⋯⋯確かにお前の策略によって俺とアストラルの絆は断たれちまった。でもな、例え汚ねえ手で墓地に送られても積み重ねた思いの力を信じている限り希望というカードは俺を助けてくれるんだぜ!」

 

「はっ、だがなぁ、お前の希望ってデッキの一番上のカードは俺と真月のゆーうー情の証のあのカードなんだぜ!」

 

 ベクターの言葉が真実であるかどうか遊馬には分からない。

 遊馬が出来るのは、たった1つの何か逆転のカードが来ると信じて、カードをドローする事だけだ。

 

「それでも俺はカードを引くしかねえ、希望を信じて引くしかねえんだ……!」

 

 遊馬はデッキトップに手をかけるも手が震えて上手くつかめない。

 負けるのではないか、その恐怖は遊馬を襲う。

 もしも、何も来なかったら。

 自分が負けてしまったらみんなはどうするのか。

 もしも、ベクターの言う通りならば自分の敗北が確定する。

 それらの不安から遊馬の手は上手くカードを掴めない。

 そんな遊馬へと倒れたアストラルは手を伸ばす。

 1人で未来を恐れ、確かめることの出来ない遊馬の手に自分の手を重ねるアストラル、遊馬は顔を挙げ、アストラルを見る。

 真っ直ぐに2人の視線が交差していく中、アストラルは口を開いた。

 

「遊馬、私はもうこれまでの様に君を信じることは出来ない」

 

 アストラルの言葉に遊馬は肩を落とし、そして、

 

「だがどんな窮地に陥っても希望を信じる君を、私は信じたい」

 

「アストラル、嘘をついていた俺を許してくれるか?」

 

「……君達人間を観察して分かったことがある。大切なものを守るとき、人はその大切なものにすら嘘をつくことがある。だから、私も君を信じたい!」

 

 2人はお互いの目を見つめ手を合わせる。2人は同じことを願い光へと変わっていく。

 

「俺と」

 

「私で」

 

「「かっとビングだ」」

 

「貴様等ぁ!」

 

 ベクターは叫ぶもその言葉はもう届かない。

 アストラルは遊馬を信じたい、だが信じてもう一度裏切られないかとそう考えてしまう。

 遊馬はこの絶望的な状況で未来が本当に決まっているとしても信じた希望を、願いを貫きたい。

 2人の不安を共に乗り越えていこうと誓いまだ見えぬ未来へと一歩を踏み出した。

 

「行くぞ遊馬!」

 

「おう!」

 

「俺自身と」

 

「私で」

 

「「オーバーレイ!!」」

 

 遊馬のカオスの赤黒の力、アストラルの崇高な意思の青の力。二つの力は空を駆ける。

 

「俺たち二人でオーバーレイネットワークを構築!」

 

 赤と青の力はともに空を駆け巡り一つに重なる。

 

「「真の絆で結ばれた二人の心が重なるとき、語り継ぐべき奇跡が現れる!」」

 

 より強固になった絆が決闘鎧を新しい姿へと変える。

 何者への妨害も負けないという事を象徴するように新たな外装が装着され装飾や神には赤やオレンジが鮮やかに輝く。

 

「「エクシーズチェンジ。ゼアルⅡ!」」

 

 光を突き破り現れた新たな姿のゼアルにベクターは一歩引き、そして後退してしまった自分を叱咤する様に叫ぶ。

 

「だが今更進化してもおせえんだよ!」

 

「それはどうかな!」

 

「何?」

 

「俺のターン」

 

 デッキトップに手を置いたゼアルをベクターは笑う。

 その手の下にあるカードよりあふれ出るカオスの力、それはベクターの渡したカードである。

 

「バカめ、お前が次に引くカードはわかってんだよ、宣言してやる、次に引くカードはRUM-リミテッド・バリアンズ・フォースだ。だが! 俺の墓地には俺の場の対象を取るモンスター効果を無効にできるスキルプリズナーがある、いくらホープレイVにランクアップしたところで無駄だぁ!!」

 

「それはどうかな、最強決闘者のドローは全て必然、ドローカードさえも決闘者が創造できる、リ・コントラクト・ユニバース・シャイニングドロー!」

 

 遊馬の持つ感情とひたむきでまっすぐな心、アストラルの持つ崇高なる意志とともを許し信頼する。その二つが完璧な調和をとるとき新たな力が覚醒する。

 光を手に宿しデッキから引き抜かれたカードはそのカードに内包されていたバリアンの力は再構築される。

 元々が全ての者が、棄民だろうが庶民だろうが至高の願いを持つ者だろうが全ての者が平等にランクアップできるというバリアン人の冀う感情より生まれたRUMーリミテッド・バリアンズ・フォース、その願いを汲み取り、昇華させ二人は新たなカードへと再構築する。

 そしてナンバーズの源になった者が願った力が、その力の断片が現れる。

 その青白の輝きにベクターは叫ぶ、ありえないと、

 デッキトップから感じられた力は確かにバリアンの物だった、だがドローした瞬間バリアンの力は膨大な力を放つ何かへと変貌したのだ。

 まさしく書き換えられたように

 

「俺はRUMーヌメロン・フォースを発動、俺の場のモンスターを新たなランクへとランクアップさせる! 俺は希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築、ランクアップ・カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 

 ホープは光になり空へと昇る。

 ヌメロンの力、青白の塗り替える力によって破壊の希望であったホープレイVの外装が鎧が浮き上がり、希望を勝ち取るための力へと変わっていく。

 手足が、胸当てが、頭部が、空中で再構築されたホープレイVの鎧が火花を散らし合致していく。

 赤と白と黄色の明るいカラーリングとなり更なる力を得た希望は背中の翼を展開しアンブラルへと飛翔する。

 

「現れろ、CNo.39! 未来に輝く勝利をつかめ。重なる思い、つながる心が世界を変える! 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!!」

 

「だがアンブラルの方が攻撃力は上。その上、アンブラルの効果でモンスター効果を封じられたこの状況で何が出来る!!」

 

「それはどうかな! 行くぜ、ホープレイ・ヴィクトリーで攻撃! この瞬間、オーバーレイ・ユニットを1つ使いホープレイ・ヴィクトリーの効果発動!」

 

「馬鹿め、アンブラルの効果を忘れたか! アンブラルの効果発……なッ!? なぜカード効果が発動できない!?」

 

 オーバーレイユニットを胸で受けたホープレイ・ヴィクトリー、その宣言にベクターはアンブラルの効果を発動しようとする。

 だがいつになってもアンブラルは動かない。

 

「ヌメロン・フォースの効果でエクシーズ召喚に成功したとき、場の表側で存在する全てのカード効果は無効になっている!」

 

「な、なん、だとぉおおおおお!?」

 

「これでヴィクトリーの効果を妨害する者は居なくなった! 相手モンスターの攻撃力をホープレイ・ヴィクトリーに加える。ビクトリー・チャージ!」

 

 オーバーレイユニットを胸に受けたホープレイ・ヴィクトリーの外装は変形していく。

 背中の兵装より抜き放たれる腕の下より突き出す2刀、上段にせり上がる2刀、合計4刀、前方の腕は後ろへとスライドし新たに作られた仮想腕が、元よりあった腕が抜き放つ。

 その身に宿るは戦に置いて常勝無敗。

 剣に宿るは希望へと立ち塞がる全ての艱難辛苦に打ち勝つ希望と願いだ。

 

「攻撃力5800! うわぁああああ!?」

 

 ベクターは逃げようと背中を向け走りだし、

 

「これが俺達の絆の力、いっけえ、ホープレイ・ヴィクトリー! アンブラルを、ベクターをぶった切れ、ホープ剣・ダブルビクトリースラッシュ!!」

 

 下より切り上げられる2刀が防御するために前面に押し出された錫杖を打ち払い、上段より放たれる2刀が仮面を体を叩き撃つ。

 2つのVの字を刻み付けられた仮面魔踏士は苦悶の声を上げ爆散する。

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリーATK5800 VS CNo.104仮面魔踏士アンブラルATK3000

破壊→CNo.104仮面魔踏士アンブラル

ベクターLP2200→0

勝者 遊馬

 

                      ●

 

 爆散したエネルギー、そして放たれた斬撃によってベクターの翼は砕け散り勢い良く転がっていく。

 転がった先の段差で更にバウンド、さらなる回転を加え転がっていくベクター。そしてそれを見届けるゼアルは2人へと分離する。

 それを見届けたドルベは舌打ちし、神代陵牙へと光天使ブックスでとどめを刺しベクターを救出しようとし、足場としている空母の甲板、亀裂が走ったのを見た。

 

「何!?」

 

 ヴィクトリーとヌメロン・フォース、そしてゼアル達が放った膨大なエネルギーが空母やその他諸々、この場にある全てへと深刻なダメージを与えたのだ。

 機械の悲鳴があちらこちらで挙がり、更に連続して発生するのは不安に掻き立てる地響きと光の嵐だ。

 ドルべの判断は一瞬だった。

 神代凌牙の実力を把握し、ミザエルも自分と同じくとどめを刺す寸前だったのを眼で確認し、ミザエルへと撤退命令を下す。

 

「引くぞ、ミザエル、ゼアルのもたらしたエネルギーでサルガッソが崩壊を始めている!」

 

「何!? だが、まだ」

 

「時空のはざまに取り残されてもいいのか!!」

 

 七皇を4度も失いたくはないドルベの感情的な叫び、それは超銀河眼同士が今まさに攻撃を放たんとするミザエルの心を動かした。

 

「くっ……分かった、天城カイト。この勝負一旦預ける!」

 

 ミザエルがバリアン世界へと帰り始めたのを確認、ドルベはため息を吐きベクターを見る。

 明らかに満身創痍のベクターも九十九遊馬とアストラルに捨て台詞を吐きバリアン世界に帰っていく。

 

「よし、私も……」

 

 帰ろうとした瞬間、ドルベは見た。

 九十九遊馬達の所有する飛行船の甲板よりずっとこちらを見つめていた璃緒が飛行船が大きく揺れた瞬間、バランスを崩しサルガッソの底へ落ちていくのを。

 そして神代陵牙が璃緒を追い底へ飛び込んだのを。

 

「待て!」

 

                        ●

 

「陵牙……」

 

 璃緒の目に映るのは飛び込んできた陵牙だ。

 オーバーハンドレットによる攻撃によってボロボロになりながらも彼は璃緒を追いここまで飛び降りてきた。

 そして璃緒を優しく守る様に強く強く抱く。

 親に抱き留められた子供の様に安らいだように目を閉じる璃緒は凌牙の胸元に顔をうずめ、

 

「不思議ね、ずっと前にもこうしてた時があった気がする」

 

「ああ、俺もだ。あと少しすれば遊馬達が助けに来る、もうちょっとの辛抱だ」

 

「ええ」

 

 様々な戦艦や飛行機の墓場、それら全てが壊れていく。

 緑黒の空は亀裂が走り全ては光へと変わる。

 光の瀑布に包まれる二人は共に同じ思いを得ていた。

 抱きしめられる璃緒も、そして陵牙も何故か懐かしい感情があった。

 物心つく以前、ずっとずっと前からこうした事があるような、そのような覚えてもいないはずの記憶だ。

 いつまでもそんな時間が続くかに思われたが飛行船を見上げていた凌牙は気が付いた。

 先ほどまで凌牙と決闘していたドルベが飛び降りてくるのを、

 

「まずい、奴ら俺らを人質にする気だ」

 

「なんですって!?」

 

                       ●

 

 ドルベは自分の取った行動に驚きを隠せなかった。

 2人を人質にすればいいという考えは全く頭になく、もう置いていかれたくはない。今、行かなければ後悔するという危機感にも似た感情だけがドルベを突き動かしていた。

 

―――なぜだ!? 私が神代璃緒をメラグと何か関わりがあると睨んでいるからか? それとも神代陵牙がバリアン七皇のリーダであるナッシュと志が、心の強さが似ていたからか⋯⋯?

 

 疑問に思いながらもドルベは頭の中で冷静に考え助けた後でゆっくり考えようと結論を出し彼女たちへと向かう。

 すでに周りは光に満ち九十九遊馬達の飛行船では間に合わない。故に助けようとドルベは速度を上げる。

 そしてドルベは背後でナンバーズの気配を感じた。遺跡であったメラグの力とよく似た力も共にいる。

 力の発生源を探るドルベの眼が飛行船の甲板にいるフードを被った2人組を捉えた。

 

「貴様達は!?」

 

 2人はドルベたちを追い、甲板より身を投げドルベたちを追う。

 大柄のフードはドルベよりも早く真っ直ぐに駆け降り、2人を掴み目の前に水球を発生され、その中に異次元へと繋がるゲートを作りだした。

 黒と赤、そして緑と白の入り混じるそのゲートの構成方法をドルベは知らない。

 バリアンの力もあるがそれ以上に何か別の力があるのを感じる。

 

「なんだ、なんなのだ!?」

 

 ドルベは混乱し声を荒らげ、小柄のフード、メラグに似た人物の上より叩き込まれた飛び蹴りによってゲートの中へと叩き込まれた。


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