クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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情報収集と転生者同士の決闘 下

「僕のターン、ドロー。カードを5枚セット、このままターンエンド」

 

 黒原はカードをドローし、即座にカードを伏せるだけでターンを渡してくる。

 

―――これはヴェルズじゃないな。別のデッキだ。

 

 黒原の不敵な笑みを見て最上が考えるのは相手のデッキだ。

 仮定ではあるが、自分と同じような能力を持つ黒原に手札事故など起こる訳が無い。

 とすれば黒原のデッキは何なのか、それを考え、5枚伏せられたカードを見て最上の脳裏に嫌な想像が浮かんでくる。

 

―――待て、もしもそれだとしたら私の負け!?

 

 どうすればいいかを考え、最上は手札を見る。

 このままではまずいのではないかと頭で警鐘が鳴っている。だが最上の予想通りならばもうすでに最上の負けは確定しているも同然だ。

 

「くっ、ドロー。じゃあメイン、魔導教師システィを召喚」

 

「なーい、なーい、何も防ぐのカードないからどーんどーん好きに回してくださーい」

 

 おどけたように手を振る黒原の顔に苛立ちと無気味さを感じながらも最上は現状での手札で出来ることをこなす。

 

「ちっ、魔導書の審判を発動、そして永続魔法、エトワールの魔導書を発動し、更にグリモの魔導書を発動」

 

 妙齢の緑のマントを羽織った女性が現れ、それを取り巻くように星のように瞬く広間が現れ、宙には色鮮やかなオブジェクトが浮かび、最上が魔導書と名の付いたカードを使うたびに光を放ち始める。

 魔導、それは最上の前世で短い期間、猛威を振るったデッキであり審判からの魔法カードのサーチを繰り返しエンドフェイズに審判で膨大なアドバンテージをとるデッキを言う。

 その中でもシスティは主力をデッキからサーチしてくる重要な役割がある。

 だがそのカード達ではこの状況を打開できないかもしれない。

 

「グリモの効果でデッキからセフェルの魔導書を加え、さらにゲーテの魔導書を見せてセフェルの魔導書を発動。墓地のグリモの魔導書の効果を得る。その効果で魔導書院ラメイソンをサーチ」

 

 どんどんデッキが薄くなり、手札へと加わる魔導書カード、それらが魔導デッキの一番の特徴だ。

 だが、黒原の笑みは失われない。最上は半場諦めを持ちながらも手を動かす事を止めない。

 

「フィールド魔法、魔導書院ラメイソンを発動、ここまで魔導書は3枚使用した、よってエトワールの効果で魔導カウンターが3つ乗る、それに伴いシスティの攻撃力は300ポイントアップする」

 

魔導教師システィ ATK1600→1900

 

 黒原がモンスターをセットしていればヒュグロを加えた上で攻撃し、破壊からのサーチにつなげるのだが現状それを望めないため、最上はバトルフェイズに入る。

 

「システィで直接攻撃宣言時」

 

「何もないよ」

 

黒原 LP4000→2100

 

「カードを2枚伏せて」

 

―――伏せたのは和睦とゲーテ、最上の予測が正しければ黒原の勝ちを妨害する事は出来ない。

 

 そう考えた最上、その策を実行に移すべくエンドフェイズ宣言をしようと口を開き、

 

「ターン」

 

「まだだ、エンド前にぃ、ジョウゲンが来るかもしれないから。罠カード、おジャマトリオを発動!」

 

「っ!?」 

 

「ターンエンドする?」

 

 無邪気に笑うその顔にはこちらをバカにするような笑みがある。

 そしてこのタイミングで発動されたカードを使うであろうデッキを最上は知っている。

 

「やっぱりそのデッキ、チェーンバーンか!」

 

「さーねー、でも誰もヴェルズを使うなんて言ってないよ、どんなデッキなのか分ぁかぁらぁないのが決闘の楽しみじゃなぁいかな、強いからって脳筋3デッキばっかり運用してたら運が良い人間にやられちゃうよー」

 

 お道化た(おどけた)雰囲気で言う黒原、そして雰囲気が急に変わる。

 相手をバカにするような笑みで、見下した目で最上を見て、

 

「何時かのようにねぇ」

 

「ちっ、何も無い」

 

 あからさまに見下され、煽る言い方に神経が逆撫でされる。だがそれを止める手段は無く苛立ちのみが最上の中に溜まっていく。

 

「じゃ、そっちの場に3体のおジャマトークンを特殊召喚するよ」

 

「…………エンドフェイズ」

 

「まず審判でサーチしろよ」

 

 その言葉に最上は黙り込む。

 最上の頭にあるのはどうすればこの状況を乗り切れるかという事しかない。

 チェーンバーン、その名の通り罠を連続して発動させ火力を高めるデッキの名称である、サイドから対策をしていないと大会で当たった際、何も出来ないで敗北する可能性があるデッキである。

 そして最上が1番恐れているのは仕込みマシンガンや自業自得といったフィールドの数や手札を参照するものであり、今、審判の効果で手札を増やすとどうなるかを必死で考えている。

 最上の場にはモンスター4枚、魔法罠ゾーンにはセットカードが2枚、ラメイソンとエトワールの合計4枚、合計8枚のカードが存在しておりこの状況でそれらを両方をくらうとLPは400しか残らない。

 そして審判の効果でデッキから2枚以上加えてしまうと愛は敗北する可能性が強まるのだが審判を発動したターンに発動した魔法カードの枚数分まで手札に加える必要があるのでデッキから0枚を手札にということは出来ない。

 

「1枚、ゲーテを加える、その上で特殊召喚はしない」

 

「どうぞ」

 

「更にシスティの効果の前にゲーテを発動、コストで墓地の魔導書3枚を除外する、効果でおジャマトークン1体を除外、そしてシスティの効果で自身を除外しアルマの魔導書とジュノンを加える。こちらはもうする事はない」

 

「じゃ、自業自得、仕込みマシンガン、連鎖爆撃(チェーン・ストライク)、仕込みマシンガンを発動、そっちはぁ?」

 

 発生する合計ダメージを最上は頭の中で計算する。

 5400、最上のライフを削るには十分であり、最上の負けだ。

 

「サレンダー」

 

「サレンダーなんて認めない、ないんなら逆処理な」

 

「サレンダーだっ」

 

 怒りと共に黒原を睨み付けるもそんな事を気にも留めず、黒原は、

 

「仕込みマシンガンの効果で1600、連鎖爆撃で1200、仕込みマシンガンで1600、自業自得で1000のダメージ、つーまり、そっちの負けだ!」

 

 表になった4枚のカードから発生した衝撃は順番に愛の体を打撃する。

 並の人間ならば倒れてしまう衝撃だが最上はそこから一歩も動かず、この敗北を忘れないというように唇を噛み、ニヤニヤと笑う黒原の顔を睨みつけ、全てを受け止めた。

 

最上 LP4000→2400→1200→0

勝者 黒原遊里

 

                    ●

 

 最上の体を打撃したのは立体映像であり現実にはダメージはほとんど無い。最上はすぐさま動き出す。

 腹の中に溜まる苛立ちを地面に打ち込むように足音を強く響かせ、唇を真一文字に結び、黒原達に背を向け出口へと向かい、その背中に声をかけられる。

 

「次の決闘やらないのかい?」

 

「今日は止めて置く、しかしそんなデッキまで持ってるなんて思ってもみなかったよ」

 

「このデッキ下手すりゃこの世界最強だろ、使わない馬鹿がいるかって……目の前にいたなそういや、ぷっ、そんなんで魔王とか名乗るなんてだせー 、あっはっはっはっはっは」

 

嘲笑いの声を室内に響かせる黒原、それを睨み付け、最上は吐き捨てる。

 

「さっきみたいに確実に先攻が取れる保証が無い、サイドでメタをすれば楽勝に封殺できるかもしれない、そんなデッキなんて使えるかっ!」

 

 黒原のうっとおしい笑い声がぴたりと止んだ。

 そして黒原の目に、何言ってんだこいつ? と言う困惑が浮かび、そして最上が1番嫌いな他人が自分を見下す表情へと変わった。

 

「ああ、なるほど。お前はその程度か。そうだよな、お前と僕じゃ格が違うんだから当然だ」

 

 ようやく黒原の中で理解し終わったんだろうか、笑い声が再び黒原の口より漏れる。

 先ほどよりもずっと嘲笑いの感情を深く、強くし、人差し指をこちらに向け、腹を抱えて床を転げ回る遊里の姿を愛は睨みつける。

 負けたのも事実であり、何も言い返せず笑い終わるまでずっと黙っていた。

 

「あー、笑った、笑った。こんなに笑ったのはどっかのバカが征竜でヴェルズにケンカ売ってきて以来だぜ、で次はどこでいつやる?」

 

「こっちから出向くから首を洗って待ってろ!」

 

―――もう話す必要はない。この場に居続ければ私がイライラするだけだ。

 

 最上は一方的に言い放ち、黒原に背を向け歩き出した。

 

                   ●

 

「チェーンバーンかぁ」

 

 帰路、最上は今回の敗因を考えていた。

 ヴェルズで完封された際は怒りを抑えきれなかった。どうして俺を気持ちよく決闘させてくれないんだと未来の台詞を言いもした。

 最上が踏み込んだプロの世界でバーンだろうがロックだろうが外道ビートだろうがエグゾやカウントダウンを使ってくる人はいる。

 負けることもあったがここまで強烈な敗北は今までに無かった。

 

「あー、これは」

 

 最上愛は努力するのは嫌いである。

 少しの努力でも面倒くさく感じ、どうすれば楽が出来るかを考える性格であり、だが他人に勝ちたいという思いも強く持っていた。

 だから前世では強いカードを買いルールを覚えさえすれば、大して努力もせずに他人に勝てるようになる事が楽しかった。

 カードゲームのそんな部分が好きだった。

 

―――どこに行きたい?

 

 そう転生の時に言われた時にまず考えたのは自分が楽に楽しく生きることだ。

 自分が何も努力しないで笑って楽しく生きれればいい、と。

 努力をして敵に勝ち得られる充実感はいらない。

 楽して勝って楽しければ何でも良かった。そして痛く面倒な思いもしたくなかったので遊戯王の世界に転生したのだ。

 アニメや漫画では遊戯王というカードゲームを中心に世界は回っていた。それは日常の些細なことから世界の危機まで全てに及ぶ。

 つまりは最初から強いカードを持ち、ある程度戦略を持ってさえいれば人生を努力無しで楽に楽しく生きれる、と考えていた。

 

「面倒だなぁ……」 

 

 実際に勝ち続けた結果、プロになれたし適当に楽に生きてこれた。原作開始までのちょっとした暇つぶしで始めたカード狩りだって飽きれば辞めるつもりだった。

 だが最上の今の立場は非情に厳しいものとなっている。

 

「逃げようかな」

 

 この世界で始めての兎ヴェルズ、そして黒原の持つデステニードロー並みの引きによる完敗の印象が強すぎて、相手はただ運が良いだけのヴェルズデッキで負けたのはデッキの相性が悪かっただけであり、五分五分に近い相性のデッキならば勝てる、と戦いを挑み負けたのだ。

 

「相手のあの引きの良さが能力だとしても、私が使うデッキがばれていて、奴の残りのデッキがなんなのかが分らない事、これもうどうしようもないんじゃ……」

 

 しかし前世とこちらの世界では常識が違っていたことを忘れていた。

 

―――黒原のドローが全て思い通りになる、程度ならば私だって勝てる。

 

 だがそれだけが負けた敗因ではないとするならば、と最上は考える。

 

―――まさかとは思うけど相手にまで干渉するタイプか、そういう能力を持ったプロが居ないわけじゃないし戦った事だってあるけど、もしも相手が私と同じような神様転生でこの世界にきたんなら誰も勝てないレベルのチートの可能性もある。

 

 思い出してみるとヴェルズのときも今回もサーチカード1枚も使わずにすべて手札にあった、そして最上の手札に黒原の動きを阻害できるようなカードは無かった。

 まだ2回しか決闘を行っていないのだから偶然と言い切れる、訳が無い。転生者同士の決闘で偶然なんてあり得る訳が無い。

 

―――相手に干渉するタイプなら私はどうやって勝てばいいんだよ、私じゃ勝てないのかなぁ。

 

 使用者の運が必ず良いヴェルズならばナンバーズ無しの甲虫装機でもメタを積んだ征竜でもなんとかなる。

 だが使用者の運が必ず良いチェーンバーンはどのデッキでもかなりきつい。

 どんなメタを積もうが先攻を取られれば負けるし、自分がメタカードを引けなくては意味がない。

 そして最上が最も恐れるのは、チェーンバーンのメタを積んで決闘に挑んでカウントダウンやエグゾ等、更に別のメタカードが必要なデッキを使われたら今の現状ではどうにもならない事だ。

 

―――ルーラーがあれば少しだけましになるんだけどなぁ、それとも別の町に逃げるかだな。考えてみるがあいつのデッキに勝てるビジョンが浮かばない。いっその事、このまま魔導デッキを封印して逃げるか、いや、でもやられた借りは返したいなぁ。

 

 あれこれ一人考えているとショップから出てきた人とぶつかりそうになった。

 

「おっと、スマン、ちょっと考え事としてて」

 

「いや、こっちもすいません、悩み事が、って最上か!」

 

 よくよく見れば朝に見かけた同級生である。

 手にはレシートが握られており何かのカードを買ったのだろうと見て取れる。

 

「ああ、昨日の」

 

「昨日の、じゃない! 次やるときは絶対クェーサー地獄を味合わせてやるからな、それまで負けんじゃねーぞ!!」

 

 捨て台詞を言い残し、走っていってしまった。

 

―――私、今日負けたばっかなんだが。

 

「ん? それよりも前に合ったとき、あんな性格してだったか?」

 

 最上の記憶にある姿と先ほどの様子が一致しないことに疑問を感じ少しだけ立ち止まる。

 1週間前、とある生徒とけんかになり暴力を振るったとして生徒会長である自分が彼に書面ではなく実際に向き合って停学1週間を言い渡した。

 その時に顔を合わせた事があったがその時はもっと無表情だった気がする。

 それにシンクロン系デッキを使っていたがクェーサーのような高額のカードを持っている筈がなかったし、昨日の戦いでもエヴァに辛勝ながらも勝ちをもぎ取った。

 エヴァは裏路地を歩く人間の中ではそれなりに有名なデュエリストであり、最上が生徒会長を務める学園の上位ランカーとも互角に渡り合えるだけの引きを持っていた。

 膠着状態になれば強脱やブラックホール、相手が伏せればナイトショットやサイクロンを引き当てるだけの能力、実力があり、最上の知る水田裕如きでは勝てる訳が無い相手である。

 キャラだけなら停学をきっかけにはっちゃけた可能性も捨てきれないがそれにしても言動が違いすぎる。

 

「となると、アレは……憑依したとかそういう転生者? だったら使えるかもしれないな」

 

 その上で思い出すのはエヴァと水田の決闘だ。まるで普通の、前世で行われていたフリー決闘のような状況を思いだし、

 

―――もしかしたら何か能力持ちかもしれないな、ちょっと確認してみるか。上手く行けば黒原の対抗手段になるかもしれない

 

 最上は彼が何かを持っているのか持っていないのかを確かめるためにどうすべきか策略を練り始め帰路に着いた。


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