クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
遊馬は呆気に取られていた。
発動された鏡の盾、そして邪悪な笑みを浮かべる真月の姿に。
そして凌牙もカイトも飛行船で待つナンバーズクラブの皆もそれと同様に言葉を失う。
「し、真月? まだ操られてんだよな?」
恐る恐る問われた遊馬の言葉に新月は苦しそうに呻き首肯する、
「はっ、すいません、一瞬だけ意識を」
様子だけを見せ、
「なんて言うと思ったか!」
羽交い締めにしているベクターを捨てる、捨てられたベクターの体は糸の切れた操り人形の様に身動き、言葉も無く崩れ、赤黒の粒子へと変わった。
その様子に遊馬は言葉を失い呆然と立ちすくむ。
決闘盤がチェーン発動を問う音のみがサルガッソに響く中、真月は、いや真月の顔をした何かは腹を抱え、笑い声を挙げる。
「くっくっく、おかしくって腹痛いなぁ、まだ気づかねえのか真実によぅ!」
「まさか」
アストラルのつぶやき、それににんまりと真月の顔をしたなにかは笑い、
「ならもっとおもしろい物を見せてやろうかぁ、ゆぅうううまぁあああ!!」
空気全てを揺らすほどの威圧感を放ち真月は紫色の光に包まれる。
「バリアルフォオオオオゼぇええええええ!!」
真月の顔をした何かの背中からは翼が生え、肌色だった肌が灰色の固そうな皮膚へと書き換えられる。
そしてオレンジ色の髪は灰色の髪へと変わっていく。
その姿は先ほどまで遊馬が敵意を向けていた敵に瓜二つだ。
「ベクター!? 真月に化けてやがったんだな、じゃあ本物の真月はどこだ!?」
「本物? 真月ぅ~? 誰それ? 俺、べくたー。鈍いなぁ、俺が真月だよぉ!」
おどけた様子で首を振りとぼけた様子から一転、ベクターは叫ぶ。
「そ、そんな、だってさっきや今だって真月を後ろから操って」
「まだ分からねえのかよ、今まで決闘してたのは俺が生み出した分身だよ。本物の俺はお前の親友、真月零に化けてたんだよ、じゃーんじゃん、今明かされる衝ー撃の真実ぅ!!」
遊馬の眼前へと態々近寄り煽り続けるベクター、そして遊馬が掴みかかろうとする手を避け距離を開けると、
「大変だったぜ、間抜けな転校生を演じて詰まらねえ協力までしてさぁ。だいたいがよぅ、おかしいと思わねえのかぁ? 敵がべらべらと洗脳しているやつの解除方法を喋るかっての、敵から言われた事を素直に信じちゃうなんて子供なんでちゅねー。その上正体を隠して近づいてきた怪しい奴の言葉をホイホイと信じてしまうなんてなぁ、楽しかったぜぇ、お前とのゆぅじょぉごっこはよぉ!!」
遊馬の場合、裕というナンバーズを破壊したあと正気に戻った前歴があったため余計にベクターの策にはまってしまった。
無論、ベクターは黒原からそのことを聞いておりそれを策に織り込んだのだが。
「ふざけんな! お前が真月の筈が無い!」
「だったら言ってやろうか、お前がバリアンのカードをデッキに入れているか、どうやってリミテッドバリアンズフォースを手に入れたのか」
おどけたように笑いながらベクターは笑う。バカめと、罠に引っかかった遊馬達を笑う。
「お前が持っているそれはリミテッドバリアンズフォースは2枚、真月から貰った物でVサラマンダーも真月から貰った物だよなぁ」
「待て、君は真月がバリアンだったことを知っていたのか!?」
その言葉に真実を隠して自分を騙していた遊馬へとアストラルは詰め寄る。
それに対する遊馬の返答は否定も肯定も無い。
罠に嵌められた事、真月がベクターだという事実を必死で否定しようとし、だが目の前のベクターが全てを物語っている。それでも認めたくない。
遊馬の思考はバラバラになり、遊馬の口から洩れるのは意味の無い言葉だ。
「アストラル、俺は…………」
「言えるわけねえよなぁ、お友達の、真月の頼みなんだからなぁ、あっはっはっは!」
ベクターは台詞の途中より堪えきれなくなったのか笑い声に変わる。
それを見て、遊馬のぐちゃぐちゃになた思考はたった1つの事に集約される。
ベクターが全て悪い、ベクターを倒せば、全てが解決すると。
「ベクターっ!!」
「ミラーフォースの効果でお前の希望は全て破壊される。あとは俺様が止めを刺せば!」
「おおおおっ! 罠発動、ガードロー! ホープを守備表示にしデッキから1枚ドローする!」
ホープは剣を放り投げ腕で身を守り鏡の盾による反撃を耐える。そして守り切れなかったガントレットシューターは破壊される。
「ちっ、防ぎやがったか! まああいい、せいぜいあがいてみせろや! どの道全員ここから生きては戻れねぇんだからっ それもこれも遊馬、お前が招いた結果なんだよ! 関係ねぇ奴らまで巻き込んでなぁ!」
「っ…………俺は貪欲な壺を発動、ガガガマジシャン、ゴゴゴジャイアント、エフェクトヴェーラー、ゴゴゴゴーレム、ガガガシスターをデッキに戻し2枚ドロー! 俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」
遊馬 No.39希望皇ホープ DEF2000 (ORU2)
LP4000
手札0 伏せ2
真月→ベクター場
LP3000
手札0
「俺のタ~ン、ドロー! 俺は魔界発現世行きデスガイドを召喚、そしてそいつの効果でデッキからレベル3の悪魔族モンスターを効果を無向にして特殊召喚する! 現れrインフェルニティ・ネクロマンサー! そして俺はレベル3のデスガイトとネクロマンサーでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ、虚空海竜リヴァイエール!」
バスより現れたフード姿の悪魔と一緒にバスガイドの少女は渦へと飲み込まれ、異次元の荒波を泳ぎ渡る海竜が姿を現す。
その海竜が咆哮すれば異次元への裂け目が発生する。
「リヴァイエールの効果発動、オーバーレイユニットを使い除外されているインフェルニティ・デーモンを特殊召喚する! そして、そしてインフェルニティ・デーモンが特殊召喚された時、デッキからインフェルニティ・ガンを加えセット」
怒りに燃える遊馬はそれを見ても表情を変えない、その代わりに表情を変えたのはアストラルだ。
テレビで遊馬がインフェルニティ使いのプロ決闘者の試合をアストラルも一緒に観戦した際、あのカードより大量展開が始まった事をすぐさま思い出したのだ。。
「ガンの効果発動。手札が0枚の時、このカードを墓地に送りインフェルニティモンスターを2体、墓地から特殊召喚する。甦れインフェルニティ・デーモン、インフェルニティ・ネクロマンサー! デーモンの効果でデッキからインフェルニティ・ブレイクをサーチ、そしてセット」
手札は0になりさらにベクターのデッキは回転を始める。
「インフェルニティ・デーモン2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ鳥銃士カステル! カステルの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使い希望皇ホープをエクストラデッキへと戻す! 更に手札が0の時、ネクロマンサーの効果で墓地のインフェルニティ・デーモンを特殊召喚する、さらに俺はインフェルニティ・バリアをデッキからサーチ、セット」
サーチ、セットの繰り返し、それによって手札も場も0枚だったベクターの場が埋まり、強力な罠カードが敷き詰められていく。
「カステルで直接攻撃だ!」
「俺はエクシーズ・リボーンを発動、ガントレット・シューターを特殊召喚する!」
遊馬に1ターンキルを狙われた仕返しにベクターも1ターンキルを仕掛けようとするが遊馬が発動した罠カード1枚によって阻まれる。
「ちっ、俺はこれでターンエンド」
ベクター場 虚空海竜リヴァイエール ATK1800
LP3000 インフェルニティ・デーモン ATK1800
手札0 インフェルニティ・ネクロマンサー DEF2000
鳥銃士カステル ATK2000
伏せ2
遊馬場 ガントレット・シューター ATK2400 (ORU1)
LP4000
手札0 伏せ1
「俺のターンっ、ドロー!」
怒りに身を任せ、遊馬は力いっぱいカードをドローする。
そしてガントレット・シューターの効果を叩き込もうとするも、ベクターが先手を打つ。
「スタンバイフェイズ、俺はインフェルニティ・ブレイクを発動、墓地のインフェルニティ・ブレイクを除外しガントレット・シューターを破壊する!」
インフェルニティ・バリアは攻撃表示のインフェルニティモンスターが居ないと発動できない、そのためベクターはこのタイミングで破壊効果を放つ。
「俺はカウンター罠、ギャクタンを発動、その効果を無効にしデッキに戻す!」
「ちっ、させるか、インフェルニティ・バリアを発動、その効果を無効にする!」
ガントレット・シューターを残しておけばインフェルニティ・バリアはどうせ意味の無いカードとなる。それぐらいならばとベクターはバリアを使いきる。
これによってベクターの伏せカードは無くなり、遊馬は安心してモンスターを展開できる。
「俺はエクシーズ・トレジャーを発動、デッキから2枚ドロー! さらにもう1枚エクシーズ・トレジャーを発動、デッキから2枚ドローする」
連続ドローソースを引き当て発動、そして遊馬は手札を見て、
「俺はガガガマジシャンを召喚、そしてカゲトカゲを特殊召喚する、ガガガマジシャンとカゲトカゲでオーバーレイネットワークを構築、再び現れろNo.39希望皇ホープ!」
遊馬のエースモンスターが再び姿を現す、そして遊馬は僅かに迷った後、
「そしてホープで……ネクロマンサーを攻撃する! ホープ剣・スラッシュ!」
No.39希望皇ホープ ATK2500 VS インフェルニティ・ネクロマンサー DEF2000
破壊→インフェルニティ・ネクロマンサー
遊馬の手札ではこれ以上の攻撃は出来ず、1番厄介なネクトマンサーを攻撃するぐらいしかできない。
「俺はこれでターンエンドだ!」
遊馬 No.39希望皇ホープ ATK2500 (ORU2)
LP4000
手札1
ベクター場 虚空海竜リヴァイエール ATK1800
LP3000 インフェルニティ・デーモン ATK1800
手札0 鳥銃士カステル ATK2000
怒り狂う遊馬とは対照的にベクターはいかにも楽しいというような笑みを浮かべながらデッキへと手を置く。
「俺のターンドロー! お、一応入れておいたこいつを使うとは、事故りませんよーにってなぁ! 俺はエクシーズ・トレジャーを発動、場には3体のモンスターエクシーズがいる。よって3枚ドロー。そしてリヴァイエールの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使って」
「俺は増殖するGを手札から発動する!」
「ちっ、除外されているヘルウェイ・パトロールを特殊召喚、そして終末の騎士を召喚、デッキからインフェルニティ・リベンジャーを墓地に落とす。そして俺はレベル4のインフェルニティ・デーモンとヘルウェイ・パトロール、終末の騎士でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
渦より現れるは全てを掴むという野心を掲げる男のナンバーズ、それは野心を象徴するように黄金の掌だ。
外装は翼の様なマントが展開、3つの金属のジャグリングを鳴らす。それはまるで登場の拍手を誘うように連続でリズムよく打ち鳴らされる。
「いでよ! No.104!そのまばゆき聖なる光で、愚かな虫けら共をひざまずかせよ! 仮面魔踏士シャイニング!」
ナンバーズの刻印が刻まれた男がマント状の翼をを打ち付け、嘲笑を上げながら姿を現す。
「これがベクターのオーバーハンドレッド・ナンバーズ!」
アストラルの警戒する声にベクターは自慢するように胸を張りながら答える。
「ああ、そうさ! バリアン七皇の1人、之こそがベクター様のオーバーハンドレッド・ナンバーズだぁ! シャイニングでホープを攻撃!」
No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 VS No.39希望皇ホープ ATK2500
眼前へと迫る魔踏士、攻撃力は負けており遊馬はホープの効果を発動させるべくオーバーレイユニットに手を伸ばす。
「ホープの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い攻撃攻撃を無効にする! ムーンバリア!」
「ばぁかめ! シャイニングの効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスターがバトル中発動した効果を無効にする! 更に更にぃ!豪華特典として相手プレイヤーに800ポイントのダメージだ!」
ホープの前へ展開された翼盾へと投じられた黄金の輪は翼盾を砕き遊馬を直撃する。
遊馬LP4000→3200
「そのまま戦闘続行、やれシャイニング!」
「くっ」
もう一つ、金属の輪をジャグリングを分離させホープへと叩きつける。
破壊→No.39希望皇ホープ
遊馬LP3200→3000
「さらにカステルで直接攻撃!!」
「俺は手札から速攻のかかしの効果を発動、このバトルを終了させる」
銃撃をその体で受け止めたかかしをベクターは忌々しげに見送り、
「俺はカードを2枚伏せてこれでターンエンドだ」
ベクター場 虚空海竜リヴァイエール ATK1800 (ORU0)
LP3000 No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 (ORU2)
手札0 鳥銃士カステル ATK2000 (ORU0)
伏せ2
遊馬場
LP3000
手札1
「俺のターン……なんだっ!?」
遊馬が立っている足場、そしてサルガッソ全てが鳴動する。
遊馬が周りを見て、眼に捉えたのは黒い球体、ブラックホールに吸い寄せられる飛行船だ。
「なんだあれは!?」
ブラックホールの吸い込みは遊馬達の所にまで及ぶ。それを必死で踏ん張り、にやにやと非常に楽しそうな笑みを浮かべるベクターに叫ぶ。
「ああ、あれかぁ。あれはブラックホールだ、時々発生するんだよなぁ。ここサルガッソの中で」
そうしている間にもブラックホールが大きくなり全てを吸い込み始める。
飛行船も遊馬達も全てを吸い込み始める。
飛行船の中で慌てふためく声、しかし遊馬にはどうする事も出来ず立ち尽くしているとベクターは口元に手を当て、
「あの穴、ふさいでやろうかぁ? たーだーしーそれなりの見返りをもらうぜ、お前のナンバーズ全てを俺にくれよ」
「っ!? そんな事……」
「出来るわけねえよなぁ、大切な相棒が大変なことになっちまうもんなぁ。選べよ、大事な相棒を捨てて大切な大切な仲間を取るか、お友達全てを見捨てて相棒を生かすか?」
突きつけられる2択、遊馬は言葉を失い、ナンバーズクラブのみんなか相棒のアストラルを天秤に乗せる。
だが、上下に浮き沈みするだけで止まらない。
「俺は、選べねえ、小鳥たちもアストラルもどっちも大切なんだ!」
焦り、なんとか答えを出そうとするもどちらも選べない遊馬へとアストラルは1度冷静になれと諭す。
ただでさえ、真月に裏切られ怒りで頭がぐちゃぐちゃになっている所に突き付けられた2択、答えがすぐに出せるなんて論外であり、まともな思考をするのも難しいだろう。
「落ち着け遊馬」
「みんなが危ないんだぞ!!」
だがアストラルの言葉も今の感情をあらわにする遊馬には届かない。そしてその様子が楽しくて仕方がないと言う風にベクターは更に笑う。
「俺はただ大切な皆を助けたいだけなんだっ!」
どちらも助けたいと叫ぶ遊馬、その強欲さ、その欲深さにベクターの愉悦は止まらない。
「うーん、いいねえ、その面、俺の書いた筋書き通りに踊れ踊れ、地獄の底まで踊り続けろ、ひゃっはっはっはっは!!」
「何を迷ってるの遊馬!」
迷う遊馬の耳に飛行船の中より叱咤の声が響く。
小鳥だ。
飛行船内部からの強い願いのこもった言葉が遊馬の感情を鎮静化させていく。
「あたしたちは大丈夫だから、勝って、絶対にこの決闘に勝って、友達や仲間を大切にする気持ちを、貴方が間違ってないと証明して! かっとビングよ遊馬!!」
「小鳥」
小鳥の指揮とナンバーズクラブの必死な行動、そして飛行船に残っているオービタル7の活躍により、徐々に向きをかえブラックホールから抜け出し始めた飛行船を見て、ベクターは茶番だと吐き捨てる。
飛行船が安全な場所まで進んだのを見て、遊馬の思考はようやく冷静さを取り戻し、今まで必死に声をかけてくれたアストラルへと謝る。
「アストラル、俺、色々ごめん、迷って、みんなまで巻き込んで……」
「おやぁ、しけた面してどうしたんだ? 懺悔でもしようってか? 真月がバリアンで、でも相棒にも友達にも黙っていましたぁ? そんでもって怪しいカードをデッキに入れてました? 更に更にぃ罠と分かってて友達みんなを巻き込んで危険にさらしてすいませんでしたって? 真月として、お前の友達として言ってやる」
ベクターは最後の煽りをする。
顔だけを真月に変え
「許してやるよぉっ!!」
遊馬の沈静化したはずの怒りが再燃する。
歯を食いしばり、溢れ出す感情を抑え込みアストラルを見上げる。
「遊馬……絶対に勝つぞ、この決闘!」
「おう! 俺と」
「私で」
「「オーバーレイ!」」
赤と青の光となってサルガッソの空へと昇っていく2人、それを見てベクターは最後の仕上げに取り掛かる。
「アストラル! 本当に遊馬と一つになれるのか、お前は遊馬を信じ切れるのかぁ? お前は今、遊馬を心の底から信じているのかぁ?
「はっ!?」
アストラルはその言葉に目を見開く。
遊馬はカオスの根源とも言うべき感情を抑えきれていない。そしてアストラルにも遊馬に対する欺瞞や義憤が溜まっている。
遊馬の付いた嘘を表面上は許し、アストラルはゼアルになろうとしている。
人間の持つカオスをアストラルの持つ崇高な精神で制御し戦う力と成すゼアルだが二人の間には感情が占める比率は大きすぎる。
「遊馬が黙っていた事を許せるのか、お前は感じていた筈だ、純潔で裏切られることのない純粋なお前が、心の中に生まれたカオスの存在を、全てを乱す感情というカオスが!」
「ふざけんな! アストラルがそんなものに負ける訳がねえ!」
「忘れたか、リミテッド・バリアンズ・フォースがお前の手元にあるってことをよぉ!」
「なっ!?」
1つになろうとしていた2人は弾かれる。
小さなすれ違いから生まれた軋轢、それにベクターの使ったバリアンの力、それらが相互作用を引き起こしゼアルの力を弾いたのだ。
そしてアストラルの体に残留したバリアンの力はアストラルの中に芽吹いたカオスの欠片を増幅し膨れ上がった。
それの影響はアストラルの体にも及ぶ、白い純真な体は黒が混じり全身がはっきりと見えるようになる。
それを見ていたベクターは自分の策が思った以上に上手く行ったことに喜ぶ。
「ふ、ふははははは! こいつ暴走しやがった!!」
感情のままに力を求め、気に入らない物全てを破壊しようとするアストラルは遊馬の手を掴み引き寄せる。
溢れ出す感情に塗り潰されたアストラルは尋常ではないアストラルの様子に困惑と恐怖を隠せない遊馬を凄まじい膂力に引き寄せられ無理矢理吸収する。
「何ぃ!?」
ベクターは予想外の出来事に目を見開き事の顛末を見届ける。
黒と緑、発生した感情の力に塗り潰され引き起こした無理矢理のゼアル、それは二人を飲み込み新しい力を生み出していく。
ゼアルとは真逆の黒と赤、ホープレイVの様に暗赤のその姿はバリアンの力に塗り潰されるゼアルだ。
「これがゼアルだと、すっかり悪意に取り込まれているようだな」
その姿をダークゼアルと名付けたベクターは、ダークゼアルの指先に光が灯るのを見た。
「暗き力がドローカードをも闇に染める、ダークドロー」
遊馬が主導権を握っているゼアルとは違い、感情のままに闘うアストラルが主導となっているのだろう。声は冷淡で暗い笑みを浮かべたままダークゼアルは一回転し黒い光を宿した手でデッキトップからカードをドローする。
「ひゃはっはっは、ダークドローときたか」
それはまさに全てを塗り潰す力、バリアン世界の力でもあり、上手く行きすぎて予想外の方向へと進んでしまった事に僅かな恐怖を感じつつもベクターは笑う。
「エクシーズ・トレジャーを発動、デッキから2枚ドロー、私はエクシーズ・リベンジを発動、ホープを特殊召喚し、シャイニングのオーバーレイユニットを1つ奪う」
再び現れるホープ、そしてベクターには相手の手札の1枚が分かっていた。
濃厚なほどのダークゼアルがまき散らすカオスに反応し限定的なバリアンの力が鳴動しているのが感じ取れたからだ。
「ホープをカオス・エクシーズチェンジ、希望皇ホープレイ、そしてRUMリミテッドバリアンズフォースを発動、ホープをエクシーズ素材としてカオス・エクシーズチェンジ、現れろCNo.39希望皇ホープレイV」
現れた全てを壊す希望の象徴。その強力な力を知っているベクターだが余裕を崩さない。
「ホープレイVの効果発動、カオスオーバーレイユニットを1つ使い相手モンスターを破壊する、シャイニングを破壊だ! Vブレードシュート!」
「甘いんだよぉ! 俺は罠発動、スキル・プリズナー、シャイニングの破壊を免れる!」
運良くドローしていたカードを使い、敗北を凌いだベクター。
ダークゼアルは防がれた事にも表情を変えずに、命令する。
「私はホープレイVでリヴァイエールを攻撃!」
CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600 VS 虚空海竜リヴァイエール ATK1800
破壊→虚空海竜リヴァイエール
ベクターLP3000→2200
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
遊馬→ダークゼアル場
LP3000 CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600(ORU2)
手札0 伏せ1
ベクター場
LP2200 No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 (ORU2)
手札0 鳥銃士カステル ATK2000 (ORU0)
伏せ1
●
「さあ、次はお前だ」
残った最上へと黒原は迫る。最上の周囲の包囲網に穴はなく逃げることも許されない。
そして最上の力では黒原には絶対に勝てる訳が無く、あるのは敗北のみだ。
どうするべきかと悩む最上だったが、倒されたはずの裕を見て、目を丸くする。
「いててて」
負けたらバリアンに洗脳されるはずなのだが裕にはそういった様子はなく、まともな意思を残しているのだ。
黒原も同じように裕を驚きの表情で見守る中、裕は立ち上がる。
裕の挙動を観察していた黒原は不思議そうに首を捻り、
「ダメージが弱かったのか、それとも他の要因があるのか? まあいいや。僕に勝てる訳が無いんだから何度でも負かすだけだ」
再びデッキを構える黒原、裕もデッキを構えようと手を動かしそれを最上が止める。
「まあ待て、ちょっとはあいつの話を聞いたらどうだ」
「あいつの話?」
「具体的にどういうことがしたいんだろうなって疑問に思ってな。私は原作介入した暁にはナンバーズを手に入れてみんなからこいつは最強だって言われたかった。裕はそんなもん知るか、だろ。じゃあ黒原は何の目的があってナンバーズを手にれようと思ったんだ?」
危機的状況だろうが何であろうが最上愛のスタンスは変わらない。そしてその姿を見て蔵原はため息を吐き、
「ふうん、まあ君のそういう性格だからこそ僕は敵役にふさわしいと思ったんだよ」
「敵役?」
「そう、遊馬のナンバーズを狙う最強クラスの敵、自分の意志が固く、揺らがず、絶対に分かり合うことのできないクズい敵、それが欲しかったんだ」
黒原は言葉を続ける。
「相手がどんな最強カードを使ってきても、最低最悪の手遅れになった状況でも遊馬は諦めない、仲間を信じて立ち上がり勝利を掴む、その主人公の姿がかっこいいんじゃないか。でもさちょっと原作においてもうちょっと悪役がほしいって思ったんだ、もっと危機的状況になって最強レベルの敵が来ても遊馬は立ち上がる、その姿が見たいんだ」
黒原の言葉にしばらく考えた後、最上は理解できないけど大体わかった、と呟き、頭を掻く。
「言ってることは気持ち悪いけど、要するにお前はどんなくそったれな状況でも諦めずカッコ良く敵をぶったおす九十九遊馬がみたかったんだな」
「えっ?」
最上の口から語れた裕にとって納得出来る筈が無い言葉に裕は困惑を隠せない。
「そう、どんな困難だって、どんな敵が来たって遊馬なら勝てる、ついでnちょっとラスボスとかその他諸々が弱すぎるからね、すっごい魔改造してぶっ壊れカードを乱射して、それでも諦めない主人公が見たいんだ。だからお前の原作知識と覚えている原作カード知識が欲しいんだ」
ばっかじゃねえの、そう呟き最上は瞳に侮蔑の色を浮かべる。
「他人なんてどうでもいいだろうに、くっだらない。敵なんて白痴でいいじゃん、勝って楽しく蹂躙すればいいんだよ」
最上と黒原の見たい物、欲しい者は対極にある。
それ故に互いに気持ち悪いと言い放ち、理解などする気も無い。
「そういうところだけは欲望に真っ直ぐに傲慢な所だけは好きだよ、だから君を洗脳して九十九遊馬のドンサウザントに挑む前の中ボスにでもしよう」
決闘盤を構え近づいてくる黒原。ちらりと横に視線を動かすと最上は口元を緩ませ、
「残念だが時間切れだ」
「君達のいきる時間がかい?」
「違うぜ、この状況のだ!」
言葉よりも早く群がる決闘者を弾き飛ばして一台のDホイールが進む。
それにまたがっているのDホイール制作部の菅本だ。
白銀に輝く車体、そして緑色のラインの走るDホイールより伸ばされた手をつかむと最上は裕の体をつかんだままバイクの荷台へと跨る。
「じゃあな!」
裕は猛烈なGに襲われる中、黒原の命令する声を聴いた。
「追え、奴を決闘で拘束しろ!」
●
吹き飛んでいく風景、裕は後ろを向き誰も追いかけてこないのを確認し、菅原へと向き直る。
「どうしてここに?」
「最上から話を聞いてな、助けてほしいと言っていたから部費の増強を求めて助けた、それだけの話だ」
「言っただろ、信用できる決闘者が何人かいるって」
最上はDホイールに掴まりながら裕へと得意げに笑う。
「とりあえず状況を整理するためにも一度指定した場所に向かってくれ」
私の家と言わなかった事に裕は疑問を覚え、聞くが最上から返って来たのはバカにする微笑みだ。
「家はもうばれてて使い物になる訳ないだろ……全く面倒な話になってきたな」