クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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ベクター襲来 下

 場には強力なモンスターエクシーズ、そして2人の行動を縛る永続罠がある。

 だがそれで遊馬は足を止めたりなんかしない。

 絶対に助けるという意思を瞳に宿し、かっとビングの精神は指先に宿し、カードを引く。

 

「真月、絶対助ける! 俺のターン、ドロー! 俺はガガガシスターを召喚、そしてデッキからガガガボルトを加える、そして魔法カード、ガガガボルト発動、マスターキービートルを破壊する!」

 

 ピンク幼女の手から放たれた雷撃は黄金の甲虫へと向かう。

 そして黄金甲虫を守る様に虚無空間が前に展開される。

 

「僕はマスターキービートルの効果発動、虚無空間を墓地に送り破壊を免れます」

 

「だけどこれで虚無空間は無くなった、これで私達はホープを呼べる!」

 

 アストラルは冷静に場を観察しながらそう呟き、アストラルは遊馬の手札を見る。

 見慣れないカードがあった。

 アストラルは遊馬が拾ったカードをデッキに入れる癖があるのは知っている。

 効果がかみ合っていなかったり能力が微妙なものまで入れてしまうのだがそれが稀に役に立つことが在りアストラルも本気で注意はしない。

 だがそのカードを見るとアストラルの心は妙に心がざわつくのだ。

 嫌な感じを受けるそのカードを遊馬がいつ入手したのかアストラルは聞きたくなったが今は決闘に集中すべきだと判断し聞かなかった。

 

「俺は愚かな埋葬でデッキからガガガマジシャンを墓地に送る、そして装備魔法ガガガリベンジを発動、墓地よりガガガマジシャンを特殊召喚する!」

 

 場を眺めていたベクターは舌打ちをし露骨に嫌そうな態度を取る。

 

「ちっ、来るか」

 

「ガガガマジシャンのレベルを2に変更、ガガガシスターの効果でレベルを4に統合、そしてレベル4のガガガシスターとガガガマジシャンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ。No.39希望皇ホープ!」

 

 掛け声とともに現れる遊馬のエースモンスター、そして足元に沈んでいく棺から光が溢れ出す。

 

「ガガガリベンジの効果で攻撃力が300ポイントアップするぜ! これでホープの攻撃力がマスター・キー・ビートルを上回った、バトルだ! ホープでマスター・キー・ビートルを攻撃! ホープ剣スラッシュ!」

 

No.39希望皇ホープ ATK2800 VS No.66覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル ATK2500

 

「ちっ」

 

 棺の残していった力を受けたホープの一撃は黄金甲虫へと突き刺さり爆発する。僅かだが余波は真月とベクターを襲う。

 

破壊→No.66覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル 

真月LP4000→3700

 

「俺はこれでターンエンドだ!」

 

遊馬     No.39希望皇ホープ ATK2800 (ORU2)

LP3500  

手札1    伏せ1

 

真月場      

LP3700    

手札1    伏せ1

 

 爆風に吹き飛ばされた真月が、よろよろと立ち上がる。

 その額にあったバリアンの紋章は欠けており、真月の眼には理性が感じ取れる。

 

「っ、遊馬、君」

 

「真月!? 真月なのか!」

 

 真月の額にあったバリアンの紋章が欠け表情に苦悶が混じる。

 それでも僅かながら洗脳が解け始めた事に遊馬は手ごたえを感じ手を握る。

 

「ちっ、洗脳の核にしたマスター・キー・ビートルが破壊されちまったから本人の意識が戻って来たか、面倒だな⋯⋯だぁがっ!」

 

 ベクターより放たれる紫色の力、それは真月の額にあるバリアンの紋章を修復させる。

 修復されるに従って真月の表情が抜け落ちていく。

 

「止めろっ! 俺達が目的なんだろ、だったら正々堂々と俺と戦え!」

 

「はあ? 何言ってんだ? 俺はお前らが気に食わねえからちょっとちょっかい出してるだけだろ、そう熱くなんなって」

 

 手を振り小首を傾げながらベクターは嘯く。そして急に真面目な顔をして、

 

「しょうがねえな、じゃあ楽しませてやるよ」

 

 遊馬の心臓へと伸ばされた指先、それをなぞる様に、真月は再び感情を感じさせない声、虚ろな瞳で遊馬を見据える。

 

「僕のターン、ドロー。僕は、エクシーズリベンジを発動、墓地のキー・ビートルを特殊召喚し遊馬君のホープのオーバーレイ・ユニットを奪います。そして僕はエクシーズ・トレジャーを発動、場には2体のモンスターエクシーズ、よってデッキから2枚ドローします。更に僕はジャンク・シンクロンを召喚、ジャンク・シンクロンの効果で墓地のアンブラル・ゴーストを特殊召喚します」

 

 裕の使うシンクロンデッキのクェーサーへ繋げる大事なチューナーが姿を現す。そしてこの状況で炸裂するのは、

 

「レベル2のアンブラルゴーストに、レベル3のジャンクシンクロンをチューニング、小さき物の力よ収束せよ、この一撃は万物全てを砕く、必殺の拳なり、シンクロ召喚、現れろジャンクウォリアー」

 

「なんでこの状況でジャンクウォリアーを!?」

 

 遊馬はてっきりカタストルでも来るのだろと予測していた、だからこそ、どうして?と疑問が漏れ出す。

 その様子をおかしそうに笑っていたベクターは、得意げに指を立て、

 

「うちのミザエルがこの前、人間に同じ様な事をされたって聞いてな、そのやり返しみたいなもんだ。まあ、嫌がらせが主なんだがなぁ! やれ真月!」

 

「ジャンク・ウォリアーの効果発動、そしてその効果に追加でキー・ビートルを対象に罪鍵の法―シン・キー・ローを発動、アンブラル・ミラージュ・トークン3体を特殊召喚する」

 

 人面の紫色の鍵が3つ浮かぶ。投影されるは小型の鍵甲虫だ。

 そして小さな3体の甲虫がたった一つの拳に集う。

 それは巨大でまさしく必殺の拳だ。

 全てをこじ開ける万能鍵の切っ先が三角錐となり拳を凶器へと変貌させる。そして己のみが強くなればいい、その想いが全てを滅ぼす拳へと変わる。

 

「そしてアンブラルミラージュトークンのレベルは1、そしてその攻撃力はマスター・キー・ビートルと同じ2500ポイント、それが3体分、ジャンク・ウォリアーの攻撃力は7500ポイントアップする! よってジャンク・ウォリアーの攻撃力は9800だ!」

 

「だけど、ホープには攻撃を無効にする効果がある、いくら攻撃力を上げても俺は倒せない!」

 

「そ・れ・は、どうかなぁ!」

 

「キービートルの効果発動、オーバーレイ・ユニットを1つ使いジャンク・ウォリアーを選択しあらゆる破壊から守ります、そしてバトル、ジャンク・ウォリアーで希望皇ホープを攻撃」

 

ジャンク・ウォリアー ATK9800 VS No.39希望皇ホープ ATK2800

 

「ホープの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い戦闘を無効にする! ムーンバリア!」

 

 けたたましい笑い声を上げながらベクターは笑い、指示を出す。

 

「甘いって言ったぜ!」

 

「僕は手札から速攻魔法、禁じられた聖杯をホープに発動します。穿て、撃滅のジェノサイド・フィスト!」

 

 展開されようとしていた翼盾は聖杯の持つ力を封じ込める効果により止められる、そしてそこへ殴り込むのは回避不可能の必殺の拳だ。

 

「!? まずいぞ遊馬、このままでは」

 

「分かってるよ! 罠発動ガードロー、ホープを守備表示にしデッキから1枚ドローする!」

 

 とっさに腕で体を守ったホープは腕ごと体を貫通、爆散した。

 

ジャンク・ウォリヤー ATK9800 VS No.39希望皇ホープ ATK2800→DEF2000

破壊→No.39希望皇ホープ

 

「マスター・キー・ビートルで直接攻撃って行きたいんだけどぉ、ライフ1000にしちまうとご自慢のホープレイワンキルとかされたら困るからなぁー」

 

 腕を組み考え込む様子を見せるベクター。その姿は非常に芝居がかっており遊馬やアストラルに苛立ちを与えるには十分だった。

 

「決めた! 俺はこれでターンエンドだ」

 

真月場     ジャンク・ウォリアー ATK9800

LP3700    No.66覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル ATK2500 (ORU0)

手札0     アンブラルミラージュトークン ATK2500

墓地9     アンブラルミラージュトークン ATK2500

        アンブラルミラージュトークン ATK2500

 

遊馬     

LP3500  

手札2    

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 アストラルは見た、見てしまった。遊馬が引いたカードを。そして遊馬の口元が緩むのを。

 

「来たぜ、真月、お前を元に戻すカードが!」

 

「待て、なぜ君がそのカードを持っている!?」

 

 アストラルは決闘の最中にもかかわらず遊馬に食って掛かる。ドローしたのは小規模ながらもバリアンの力を秘めたカードだからだ。

 

「そ、それは…………そう、お前が消えた後、ギラグを倒してギラグからぶんどったんだよ」

 

「だがなぜ、君がそのカードをデッキに入れている!? そんなカードをデッキに居れればどのような事態が引き起こされるか分かったものではない。それは君だって分かる筈だ!」

 

「と、とりあえず今はこのカードを使ってあいつに勝つ、勝たないといけないんだ! 俺はVサラマンダーを召喚!」

 

 疑惑の声を振り切り遊馬は真月から貰った新しい力を使う

 炎をまとい現れるは鎧に宿る炎の蜥蜴だ。

 

「そして召喚に成功したVサラマンダーのモンスター効果で墓地から希望皇ホープを特殊召喚できる!」

 

 蜥蜴の叫ぶ声が響き渡り墓地よりホープが蘇ってくる。

 

「俺はRUM-リミテッド・バリアンズ・フォースをホープレイに発動、希望皇ホープをランクアップさせる! 混沌の力纏いて勝利を目指せ! 進化した勇姿が今ここに現れる! 現れろCNo.39 希望皇ホープレイV!!」

 

 現れるのはバリアンの力により進化した赤黒の戦士だ。

 アストラルは初めて目にする希望の新たな形に目を見張りそれを凝視する。

 

「だが甘い、ジャンク・ウォリアーは効果では破壊されない!」

 

「だけどキービートルを破壊すればその効果は無くなる! 行け、ホープレイV、マスターキービートルを攻撃、ホープ剣Vの字切り!」

 

CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600 VS No.66覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル ATK2500

 

 両手に握られた剣でホープレイVは黄金甲虫へと斬撃をぶち込む。

 防ぐことのできない1刀目で右上から、2刀目で左上より振り下ろされたそれらはVの字を描き、黄金甲虫を3等分にした。

 

真月 LP3700→3600

 

「だがマスター・キー・ビートルの効果で、ジャンク・ウォリヤーを墓地に送り破壊を免れる!」

 

 ジャンク・ウォリヤーをVの字を描かれる寸前に盾にし黄金甲虫は破壊から免れる。

 そしてベクターは叫ぶ。

 

「アンブラル・ミラージュ・トークンはモンスターエクシーズがいなくなると破壊されるからなぁ、だが真月のライフはまだ残る、次のターンに終わらせてやる!」

 

「それはどうかな! メイン2、俺はVサラマンダーの効果発動、ホープレイVにこのカードを装備させる、サラマンダー・クロス!」

 

 赤鎧型の蜥蜴は炎へと変化し、覇王の強化外装となる。

 背中へ増築されるは覇王の身に宿る破壊の力をその威力を減衰させることなく拡散させるための5本の砲台だ。

 

「Vサラマンダーの効果発動、カオス・オーバーレイ・ユニットを1つ使い相手モンスター全てを破壊し破壊したモンスターの数×1000ポイントのダメージを相手に与える、真月の場には4体のモンスター、よって4000ポイントのダメージだ!」

 

「バカな!? この俺様の完璧な策略が負けるだと!?」

 

 こんな事、あってはならない、そのような感情を滲ませ、ベクターは叫んだ。

 遊馬はそのベクターの卑劣な悪意ごと、燃やし尽せとホープレイVへと命令する。

 

「いっけえホープレイV、Vサラマンダー・インフェルノ!!」

 

 カオスオーバーレイユニットを鎧が吸収、ホープレイは構える。必殺の剣を放つのではなくその力を身に貯え、背中の砲台より放つ。

 空を裂く赤紅の五線砲撃は4体のモンスターを貫き爆散させる。

 

「ぐぅあああああ!?」

 

 真月とその背後に居たベクターを吹き荒れる爆圧が叩き打ち、吹き飛ばされていく。

 それと同時に真月のライフが0になり、決闘の終了を示すブザーが鳴った。

 

真月LP3600→0

勝者 遊馬

 

                       ●

 

 倒れ込んだ真月を遊馬は抱き起こす。真月達の背後にはベクターが倒れている。

 

「真月、おい、大丈夫か!?」

 

「遊馬君、ありがとう、はっ!?」

 

 真月は目を見開く、それは背後より放たれる力を関知したからだ。

 いつの間にか起き上がっていたベクターが自分と遊馬ごとバリアン世界に引きずり込もうとしている。

 そしてそれを防ぐためにはこうするしかないと理解した。

 

「真月?」

 

 真月は自分を抱き起こしている遊馬を思いっきり突き飛ばした。

 呆然とする遊馬の顔は何かに気づいたように目が開かれる

 アストラルが何かを叫んでいるように見えるが聞こえない。

 

「よかれと思って⋯⋯遊馬君、後は頼みました」

 

 呟き、真月はベクターの放った見えざる手に握り締められ再び、囚われの身となった。

 遊馬が急いでベクターを探せば、何時の魔に回り込んだのか、遊馬の背後、ベクターが立っている。

 その背後にはアリトが消えたときの様な渦が現れている。

 真月を取り戻そうとベクターに掴みかかろうと遊馬は走る、だがそれよりも早く2人の体は渦に吸い込まれていく。

 

「ベクター! 真月を離せ!」

 

「はっ、まだコイツには利用価値があるんでな、変わりにこれをくれてやる」

 

 ベクターより投げ渡されるはマスター・キー・ビートルだ。

 

「そいつが俺とお前等を引き合わせる鍵になる、待ってるぜぇええええ!」

 

 声は伸びて掠れ消える。

 2人が居なくなった後に残された遊馬は拳を地面に打ち付ける。

 前回の決闘で助けられた恩があった、そして約束もした。それなのに真月を助けられず、ベクターに連れ去られてしまった。

 遊馬は悔しさを隠さず叫ぶ。

 

「真月! 俺はお前を必ず助ける!」

 

                      ●

 

「来たか」

 

 最上は背を預けていた壁から離れ歩いてきた遊馬と向き合う。

 わずかに警戒する素振りを見せる遊馬をみて笑い、

 

「話がある、これからの話だ」

 

「何だよ急に、準備が出来たら出発するって時に?」

 

 カイトが海外より到着次第、遊馬達は皇の鍵の中で入手した飛行船を使い、バリアン世界に出発する手はずになっている。そのためにも皆で早く寝ようと言う話になっていた。

 そして遊馬が最上に呼び出されたのはすぐのことだ。

 

「いや、ちょっと水田を借りようと思ってな、バリアンの進行は予想以上に酷い。こっちの街は半数以上が洗脳されている、だからちょっと狩りに出る、だけど信頼できる人手が足らないから裕を借りるよ」

 

 実質あの場所に居ても役に立たないしな、最上は思っていたことを言わず遊馬の答えを待つ。

 

「……俺達が何かやれることは?」

 

「そっちはそっちで忙しいじゃないか。こっちも手当たり次第に暴れて洗脳された決闘者を叩きつぶして目覚めさせておく、そっちの出来事が終わって来れたら来て欲しい」

 

「裕本人には?」

 

「あとから話す、ついでに水田がアンティ決闘を挑んでるって変な噂もあるからそれの確認も一緒に済ましておく」

 

「分かった、みんなにもそう伝えておく」

 

 最上はもう1つの目的を言わず必要なことだけを伝える。

 

「そういえば決闘した奴とは分かり合えるとか思ってるらしいな」

 

「ああ」

 

「じゃあお前は私と分かり合えると思ってるのか、一方的に分かるではなく、互いのことを理解し合えると?」

 

「……できると思ってるぜ」

 

 僅かな間があったことを最上は指摘しない、口元に笑みを浮かべ、

 

「じゃあ絶対に分かり合えないような価値観を持った敵に出会ってもそう言いきれるのか?」

 

「…………できるさ。アリト達とは分かり合えた、人間だとかバリアン人だとかアストラル人だとかそういうのもみんな仲良くなれるそれが決闘だ!」

 

「たかがカードゲームにそんな力ある訳ないけどなぁ⋯⋯まあいいや、その意気込みがこの後続けていけるのか私は楽しみにしておくよ」

 

 まだなにかを言いたげな裕に背を向け、最上は歩き始める。

 

「私が予言してやろう。絶対に分かり合えない、何を言われても折れず曲がらない信念を持った敵がお前の前に現れる。お前はそのときも今と同じセリフを言い続けられるか私は楽しみだよ」

 

 最上は知っている。

 これからどうなるかを、そして遊馬がどんな選択をするのかを。

 だがアニメとこの世界は違う。だからこそこの世界の九十九遊馬がどの様な行動を取るのか、少し、ほんの少しだけ最上は興味がある。

 遊馬に届かない暗がりを最上は歩き、誰にも聞こえないように最上は口元を歪め、呟く。

 

「予言するよ、どんなに殴り合っても、こちらがどんなに叫んでも分かり合えない敵はくる。それを前にしてお前が殴り倒すのか、それとも分かり合える努力をするのか、私は本当に楽しみだぁ」

 

                         ●

 

 皇の鍵より実体化した飛行船に遊馬達が乗るのを裕は見送っていた。

 最上の話によると自分たちの通う学校の生徒がバリアンに洗脳されているらしくそれを解除するために裕が必要なのだという。

 負けて敵になってもどうにかできるレベルであり実力もそこそこにあるからちょうどいいという話だ。

 あと理由としてはもう1つある。

 信頼できる生徒は何人かいるが洗脳されている可能性もあり、遊馬達と結構な頻度で遊んでいる裕が洗脳されてないだろう、と最上からは説明を受けていた。

 そして空へ上がり、消えた船を見送り裕は不機嫌そうに最上へと向き合い、

 

「で、俺は役に立つのか?」

 

「ん、そーだねぇ……まあ生徒の話は本当だし、どうにかしないと私が非常にまずいんでね、助けてほしいんだ」

 

「助けてほしい? 俺がお前を?」

 

「そうなんだ、どうやら私の持つ原作知識をドン・サウザンドに狙っているらしい」

 

 とんでもない爆坂発言をぶちまけ、最上はにこやかに、そろそろ行こう、と呟き、走り出す。

 裕もそれを追い、走りながら最上に聞く。

 

「それで原作知識を渡したらどうなるんだ!?」

 

「中ボスがラスボス風の風格を漂わせるだけだった話、全体の難易度がちょっとハードになる感じかな?」

 

「それって凄くまずい話なんじゃ!?」

 

 最上が何を知っているのかは分からないが裕はその言葉に一抹の不安を覚える。

 

「そう、だから私を守ってくれ、じゃないと世界が滅ぶ。それぐらいに面倒な敵だ」

 

「いやだったら遊馬達と一緒にいた方がいいんじゃ?」

 

「それも考えたしあの様子ならば頼めば乗せてくれそうだけど、今封印が4個解かれてるんだろ、だったらドン・サウザンドがどれだけの力を相手が持つか分からないからなぁ」

 

「えっ!?」

 

 裕からすれば全てが初耳の話だ。

 世界が滅ぶ、封印などと言う物騒な言葉が聞こえてきた。

 

「ドン・サウザンドっていうのが一応、ラス⋯⋯中? まあラスボスで、そいつが封印されてたんだけどが封印が解かれかけてる状況なんだ」

 

「……どうして遊馬にそれを伝えなかった?」

 

 怒りを脚と腕を動かす原動力に死乍ら、裕は怒鳴る。  

 それだけの事を知っておきながら何故、未然にそれを防ごうとしない。そう吼える。

 

「敵から言われた言葉を素直に信じるバカがどこにいる、私だったら耳を貸さない」

 

「おまえの意見が正しいなんてことは無い、遊馬なら信じたよ」

 

「そうかもな、まあ今回はそれで痛い目を見るんだがなぁ…………」

 

 最上の最後の言葉は、前より迫って来るバリアンの紋章を額に付けた大量の決闘者の叫び声によってかき消され、裕は最後までその言葉を聞き取れなかった。

 

                     ●

 

 そしてバリアン世界へと旅立った遊馬達もそれを見送っていた裕達も、それら全てを監視していた者も気付かなかった。

 飛び立つ飛行船に2人のフードを被った人影が入り込んでいた事を。


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