クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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バリアンの進撃 上

 裕は決闘庵を目指し石畳を上っていた。

 夏風邪は寝ているだけで治ったのか一日で体調は元に戻り遊馬へと電話をかけたのだが繋がらない。

 暇であり、何かないかと決闘庵にカードを探しに来ていた。

 決闘庵では何故か強いカードがよく見つかる、遊馬達は補填大会前にこの場所で多くのカードを手に入れることが出来たのもWDC補填大会での勝因といっても過言ではない。

 

「よっし、とりあえず全力で探すぞ!」

 

 叫び、本殿へと入るも人の気配はない。しばらく山の周囲を探索していると強力なカードが手に入った。

 以前から拾い集めていたカードと組み合わせるとクェーサー特化の凄いデッキができるなと本殿に腰を下ろしデッキを構築していると何か固いものが割れたような音がした。

 

「……泥棒かな?」

 

 決闘庵の主、六十郎はとても強く気前の良い爺さんだ、強いと言うのは決闘面だけではなく物理的にも強い。

 そんな事が周知の事実であるが命知らずな泥棒もいたものだなぁ、と考えつつ音のした方角へと歩き、音の出所らしい蔵を覗くと隠し階段らしきものがあり、その奥には石像らしき破片があった。

 無理矢理叩き割られたように粉々になった石像の中心、1枚のカードがある。

 カードは裏になり内容は見えない。とりあえず手に取り、裕は、

 

「げえ!?」

 

 悲鳴にも似た声を上げる。

 Noと書かれたそれを再び手にしてしまったからだ。

 オカルト的な能力を発揮するそれは遊馬達と引き合わせてくれたカードであり、そして忌まわしいカードでもあった。

 そして遊馬の話によるとバリアンと名乗る集団はこれを狙ってきている。

 

「これを持ってたらなんか異常者におい、決闘しろよってなるんだよな。よし遊馬を見つけてこれを渡そう、厄介ごとに巻き込まれてたまるか、俺は普通の決闘がしたいんだ!」

 

 普通の安寧のデュエルを求め、蔵を出て1歩、裕は赤いカード群に襲われた。

 よくは分からないが捕まるとまずそうだと裕は一瞬で判断し、

 

「うぉおおおおお!」

 

 全力で跳ねる、カード群が自分を包もうとする包囲網を潜り抜け、決闘庵の門が見える。

 

「やった出口だ!」

 

 喜んだのもつかの間、誰かに背後から手を掴まれた。

 えっ、と振り向くとその空間は何もない、だが確か握られている感覚がある。

 そして足を止めた裕に赤いカード群が群がり上空に展開されている赤い球状のエネルギー体へと吊り上げられ、決闘庵上空に展開する赤い球体の中に取り込まれる。

 その内部に居た金髪の少年が裕を見ていた。

 

「貴様は…………人間、そのナンバーズを賭けて私と決闘しろ!」

 

 名前を思い出そうとしているのか、僅かに間が空き金髪の少年は決闘を申し込んできた。

 それらの様子を見て裕は既視感を覚える。

 かっこよさげに登場したはいいが非常にダメな印象、

 

―――ああ、誰だっけ。近くにこういう人がいたような……カイトか。

 

 かっこよく決めるところは決めるが決めれない所は本当にダメダメな印象を与えるカイトと何故か被ってしまう。

 

「俺の名前は水田裕だ、それでこのナンバーズが欲しいのか?」

 

「ああ、貴様をここに引き込んだ理由を分かっているはずだ、さあ私と決闘しろ!」

 

「全く身に覚えがないし分からないんだけど⋯⋯! でもこれはあいつらの大切なもんだ。勝手には渡せねえな」

 

 普段の裕ならばここでカードを差し出していたかもしれない、だがその選択肢を裕は思いつかなかった。

 ナンバーズが最後の足掻きとばかりに光を僅かに放ち裕へと微妙に力を送り込んでいた。

 それに気づかず裕はデッキを取り出し決闘盤へ装填、手にしているナンバーズを見てエクストラデッキから1枚カードを抜きだし代わりにナンバーズを入れる。

 

「ふっ、ベクターからの資料を見たときお前とも戦いたいと思っていた。シンクロドラゴン使い、貴様の最強のドラゴンと私の最強のドラゴン、どちらが最強なのかこの決闘で証明してやろう!」

 

「どっちが強いかって、そりゃ俺のクェーサーだよ!」

 

「私の銀河眼こそが最強だ!」

 

「いや! 俺のクェーサーのほうが最強だね!」

 

「ほう、そこまで言うのならばその力を見せて見ろ! この私と銀河眼で打ち砕いてやる!」

 

「ああ見せてやるよ、俺の最強のデッキとクェーサーの力をよ!」

 

「「決闘!!」」

 

                     ●

 

「私の先攻、私のターン、ドロー」

 

 裕の決闘盤に表示されたのは後攻だ、僅かにノイズの走る画面を見て故障か? と疑問に思うも少年の様子を見る。

 

「私は竜の霊廟を発動、デッキより通常ドラゴン族モンスターの青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を墓地に送り、更に通常ドラゴン族モンスターが墓地に送られた事により、更にドラゴン族の伝説の白石を墓地に送る。そして白石の効果でデッキより青眼の白龍を加え、青眼をコストにトレード・インを発動、デッキより2枚ドロー、行くぞ、私は青き眼の乙女を召喚」

 

―――ブルーアイズデッキ?

 

 裕は乙女の効果テキストに目を通し厄介な効果だと考えていると、

 

「そして私はワンダー・ワンドを乙女を対象に発動、そして乙女の効果発動、デッキより現れよ! 青眼の白龍!」

 

 白に輝く巨体、そして青くサファイアの様に輝く青い瞳の龍が姿を現す。

 

「ワンダー・ワンドの効果で乙女とワンドを墓地に送り2枚ドロー、私はカードを4枚伏せてこれでターンエンドだ」

 

少年場     青眼の白龍 ATK3000

LP4000  

手札2     伏せ4

 

裕場

LP4000

手札5

 

「俺のターン、ドロー」

 

 手札を見て裕は僅かに迷う、伏せカードが分からない状況で動くべきかを、

 裕のデッキは今回の捜索で集まったトレジャーシリーズを主軸にクェーサー特化デッキとなっている。

 聖槍とサイクロンをガン積みしているが相手の伏せが4枚と言うこの状況でどうなるか分からない。

 激流葬でも踏もうものならば敗北が必須な状況だが、動かなければ相手の引き次第では敗北が確定する。 

 大きく息を吸い込み、裕は決意する。

 

「行くぜ、調律を発動、クイック・シンクロンを加え、デッキトップを墓地に送る」

 

 墓地に送られるのはライトロード・ハンター ライコウだ。

 

「おろかな埋葬を発動、デッキからレベル・スティーラーを墓地に、そしてジャンク・シンクロンをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚する、そしてマスマティシャンを召喚」

 

 裕は手に入れたばかりの強力なカードを召喚する。

 

「マスマティシャンの効果でレベル4以下のモンスターをデッキより墓地に送る。俺が送るのはライトロード・アーチャー フェリスだ。そしてモンスター効果で墓地に送られたフェリスの効果発動、墓地より特殊召喚する」

 

 連打されるモンスター達、それらが現れようとも、少年は動かず、こちらの動きを見つめたままだ。

 その目には期待するような色があり、裕は気付く。

 裕が相棒を特殊召喚するのをこの少年は待っているのだと。

 

「なら、その期待に応えなくっちゃな! クイックのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚、レベル1のレベル・スティーラーにレベル4のライトロード・アーチャー フェリスをチューニング、レベル5、TGハイパーライブラリアン! そしてライブラリアンのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚する」

 

 連打される星と輪、それらが巻き起こす風が少年の長い金髪を揺らしていく。

 

「レベル1のスティーラーとレベル3のマスマティシャンにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング、レベル8、ロード・ウォリアー! ライブラリアンの効果でドローしロードの効果でデッキよりアンノウン・シンクロンを特殊召喚する、そしてロードのレベルを下げてレベルスティーラーを特殊召喚」

 

 過労死するのではないかと思うぐらいに墓地からよじ登り続ける天道虫、そして、

 

「レベル1のスティーラーにレベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング、レベル2、フォーミュラ・シンクロン! フォーミュラとライブラリアンの効果でデッキから2枚ドロー、ロードのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚する」

 

 風と光が裕達の周囲を覆う赤いカード群を揺らしていく。

 今より現れようとしている龍の気迫は相手を威嚇する。気迫を受けてなお少年の顔に壮絶な笑みが浮かぶ。

 

「これで場のシンクロモンスターのレベル合計は12、来るか、お前の最強のドラゴンが!」

 

「おう! これが俺の最強の相棒だ、レベル4となったTGハイパーライブラリアンとレベル6となったロード・ウォリアーにレベル2のフォーミュラシンクロンをチューニング、レベルマックス!」

 

 黄金に輝く我が、光り輝く星が天へと上る、そして赤いカード群を蹴散らし降臨するは巨大な光り輝く龍だ。

 

「全てを制圧しろ最強の龍よ、最も輝く龍の星よ、来やがれ! 俺の相棒、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 その光輝く姿に心打たれたように笑みを見せ少年は叫ぶ。

 

「おお、これがお前の最強のドラゴン、なんと美しい姿だ、これならばカイトの前哨戦としてふさわしいっ!」

 

「ありがとよ、相手がクェーサーを褒めてくれるのは久しぶりだ、なんつうかこう、すげえ嬉しいな」

 

 決闘中に出すと何かと嫌な顔ばかりされていたため、褒めてくれる少年の心がけが非常に嬉しく裕も笑顔を見せる。

 互いに満面の笑みを浮かべる中、恒星龍が動く。

 

「さあ来い!」

 

「バトル、クェーサーで青眼を攻撃!」

 

 掌の光剣が振りかぶられ赤黒の壁を削りながら青眼の白龍へと叩き込まれる。

 爆散する白龍、その爆風は少年の体を叩いていく。

 

「そして2回目の攻撃、クェーサーで直接攻撃!」

 

「罠発動、リビングデットの呼び声、対象は墓地の青き瞳の乙女だ」

 

「させるか、クェーサーの効果で無効にする!」

 

「ふっ、もう1枚リビングデットの呼び声だ! 対象は当然、青い眼の乙女!」

 

 特殊召喚される乙女の姿に恒星龍は光剣を振り下ろすのを止め、裕を見る。

 蒼き瞳の乙女には対象になった際に発動する効果とは別に自身への攻撃を無効にし青眼の白龍を特殊召喚する効果を持っている。ここでクェーサーで攻撃仕掛けるメリットは裕にはない。

 

「くっ……クェーサーの攻撃中止、メイン2、カードを3枚伏せてターンエンド」

 

「お前のエンドフェイズに私は乙女を対象に罠発動、スキル・プリズナー、さらに乙女の効果でデッキから青眼を特殊召喚する!」

 

裕場    シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

LP4000   レベル・スティーラー DEF0

手札2     伏せ3

 

少年場     青き目の乙女 ATK0

LP4000   青眼の白龍 ATK3000

手札2     伏せ1

 

「私のターン、ドロー! 私は墓地より乙女を対象にスキル・プリズナーの効果を発動、さらに乙女の効果で墓地の青眼を特殊召喚する⋯⋯むっ」

 

 少年が何かに気づいたようにとある方向を向く。裕も見習ってその方向を見るが何もない。

 

「この力、アリト、奴もついに動き出したか。ならば私も全力で行かせてもらう。レベル8の通常モンスター、青眼の白龍2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろサンダー・エンド・ドラゴン! サンダー・エンドの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使いこのカード以外の場のモンスター全てを破壊する!」

 

「くっ、クェーサーの効果発動、その効果を無効にして破壊する」

 

 青眼の白龍に似た雷撃を体に貯めた龍が内部の雷撃を周囲へとぶちまけようとするのを恒星龍が打ち消す。

 だがそれは、

 

「そうだ、お前はそうしなければいけない。そしてお前のエースはもう私の行動を戒めることは出来ない! 私は墓地の青眼3体、サンダー・エンド・ドラゴン、伝説の白石を対象に貪欲な壺を発動、デッキに戻し2枚ドローする、お前の場の相手の場に攻撃力2000以上のモンスターが存在しているときこのカードを特殊召喚することが出来る、現れろ限界竜シュバルツシルト! そして私の場にレベル8のモンスターが居る時、星間竜パーセクをリリース無しで召喚出来る」

 

「レベル8が2体並んだか!」

 

「私はレベル8のシュバルツシルトとパーセクでオーバーレイ!」

 

 両手をかざし懇願するように、鼓舞するように、少年は叫ぶ。

 少年の背後より出現した渦は光を放ち、その底より銀河の様に煌めきながら膨大な光をまき散らしモニュメントが現れる。

 四角錐のモニュメントだ。

 赤と青の宝石がはめ込まれるそれは変形を始める。

 

「宇宙を貫く雄叫びよ、遥かなる時を溯り銀河の源より甦れ! 顕現せよ、そして我を勝利へと導け!」

 

 尻尾が伸び、翼が空間で一枚一枚構築、金属音を響かせながら連結される。

 そして手脚がパーツと共に構成され本体へと合致、竜を示す顔のパーツがそれと共に出現し、ナンバーズであることを示す刻印が、オレンジ色の瞳が煌めきその機械竜は姿を現す。

 

「No.107 銀河眼の時空竜(ギャラクシー・アイズ・タキオン・ドラゴン)!」

 

「かっこいい! 機械の龍、すっげえカッコいい!! って銀河眼?」

 

 裕はモニュメントから変形した竜の姿に見とれ、テキスト確認を碌にせず興奮し叫び、そして聞きなれた名前に首を傾げる。

 

「そうだ、天城カイトの持つ銀河眼の光子竜と対になるカード、このカード達を所有する者は莫大な力を手にすると伝承に残されている」

 

「えっ?」

 

 裕はその言葉に疑問を持つ。

 

「カイトから聞かされた話では光子竜(フォトン・ドラゴン)は人間世界の最新技術で作り上げたとか言ってたしカイトの光子竜にそんな歴史ないはずだよ、そっちの話って嘘なんじゃないのか?」

 

「いや、そちらの話も本当だろう、私の時空竜(タキオン・ドラゴン)はバリアン世界の昔に何処かからか迷い込んだ竜がバリアン世界の力を受けさらに強力になったものだ。そして人間界の最新技術によりアストラル世界に存在した崇高なる竜皇の力を簒奪した物がカイトの持つ光子竜だ」

 

 少年は目を細めカードを愛おしげに撫で、

 

「過去へと回帰するバリアン世界のドラゴンと未来へと進むアストラル世界のドラゴン、それらバリアン世界とアストラル世界の対戦で何度も目撃されていた。そしてその2体のドラゴンを手中に収めることが出来たならばバリアン世界の崩壊を止められるかもしれん」

 

「バリアン世界の崩壊?」

 

「まあ、そんな話をお前にしたところで無駄だがな、見ろ人間、これがバリアン七皇の本当の力だ、バリアルフォーゼ!!」

 

 少年の体から光が発せられる、思わず裕は手で顔を覆い光から逃れ、そして光が収まり少年の代わりに立っていたのは、羽の様な仮面をつけ、腰にタオルの様な褌をし、黄色いタイツスーツのようなものを身に纏った金髪サラサラヘアーの人型だった。

 

―――まさか、あれがさっきの金髪? いや、それは無いだろ、なんで決闘をするのに変身しないといけないんだ⋯⋯?

 

「あの、そのぉ……変身、する意味は?」

 

「私が本気を出すからだ、私は時空竜を対象にRUM-バリアンズフォースを発動!」

 

 ミザエルの手に輝く魔法カードよりバリアンの紋章が輝き、そして時空竜へと赤黒のカオスを放っていく。

 

「このカードは私の場のオーバーハンドレッドナンバーズをランクアップさせる!」

 

 ランクアップと言われても意味が分からないが、エクシーズモンスターにはランクと言う概念がある。言葉通りに受け取るならばランクが1つ上のモンスターを特殊召喚する的な言葉になる。

 

「…………ん? 対象に取る効果、あくまでも魔法の効果でエクストラデッキから特殊召喚するってことは⋯⋯禁じられた聖槍を銀河眼の時空竜に発動!」

 

「なっ!? 貴様っ!」

 

「へへっ、どうやらこの行動が正解のようだな、これでお前のエースモンスターは進化できない!」

 

 慌てたような素振りを見せる少年へと裕は得意げに笑いかける。

 だがその笑みも長くは続かなかった。

 

「それはどうかな。私は手札からカウンター罠、タキオン・トランスミグレイションを発動する!」

 

「手札からカウンター罠!?」

 

「私の場に時空竜が存在するときこのカードは手札から発動できる、そしてこのカードの発動時、発動していた相手のカード効果の発動を無効にしデッキへと戻す!」

 

「なっ!?」

 

「そして銀河眼の時空竜1体でオーバーレイネットワークを再構築、カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

 回帰するようにモニュメントに戻っていく時空竜、そして空間に現れた扉に衝撃が走る。

 鎖と錠で封じられたその扉は内側からあふれる赤黒のエネルギーによって押し開けられる。

 赤黒は塗り潰しの力をまき散らしながらモニュメントを塗り潰し、再構築、姿を現すは金色に輝く巨大な四角錐だ。

 

「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ。永遠を越える竜の星!」

 

 そのモニュメントの大きさは時空竜を超える、そして変形が始まる。

 折りたたまれていた脚が開かれていく。

 閉じられていた羽が展開、尻尾が幾重にも分離、胸の装甲がスライドし赤のエネルギーが金の装甲の隅々までいきわたり三つ首の龍が吠える。

 

「顕現せよ、CNo.107 超銀河眼(ネオ・ギャラクシー・アイズ)時空龍(タキオン・ドラゴン)!」

 

 出現した金色の暴君龍に気圧され裕は効果を見ようとし、そして渾身で、全力で叫ぶ。

 

「テキストが読めない!?」

 

「そうか、バリアン世界のオーバーハンドレッドナンバーズとアストラル世界の力であるナンバーズの力が反発し合い読めなくなっているのか」

 

「何を当たり前みたいに言ってんだ!? ジャッジ!? ジャッジはどこかにおりませんか!? テキストが読めないとかふざけてるんですけどっ!?」

 

「私は時空龍(ネオ・タキオン)の効果発動、カオスオーバーレイユニットを1つ使い相手の場の全てのカード効果をこのターンの終了時まで発動できなくさせる、タイムタイラント!」

 

 時を支配し全てを塗り潰す様に炸裂する金色龍の咆哮、裕の場に伏せられていた伏せカードが、恒星龍が色を失おうとしている。

 

「ちょっ、えっ、待って! 人の話を聞けよっ!? って決闘盤が何か発動しますかって聞いてきやがる! なんなんだよこの状況!?」

 

 意味が分からないと、混乱する裕だが条件反射的に体を動かし、

 

「だけどクェーサーだけは破壊させない! 禁じられた聖槍、超銀河眼の攻撃力を下げる!」

 

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500→3700

 

「これで超銀河眼の攻撃力はクェーサーの下になった、戦闘破壊はできないぜ!」

 

「それはどうかな」

 

「えっ!?」

 

 再び言い放たれる台詞に裕は固まる。

 

「私は伏せていた罠、エクシーズ・リボーンを発動! 蘇れ、No.107銀河眼の時空竜!」

 

 オーバーレイユニットとして墓地に送られた時空竜が復活する。裕はその光景を目に死、始めて遊馬と決闘した日を思い出していた

 

「あれ? なんか凄いデジャブ、遊馬にはじめてあった時にこんな感じのコンボを食らったような……」

 

「そしてバトルフェイズに入る、この瞬間、時空竜の効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い、場の表側カードの効果を無効にし、全てのモンスターの変化していた攻撃力は元に戻る! タキオン・トランス・ミグレイション!!」

 

「なっ!?」

 

「これで私の時空龍はお前のドラゴンを上回った、バトル、時空龍でクェーサーを攻撃、アルティメット・タキオン・スパイラル!!」

 

 三つ首の放つエネルギーは体の前で収束する。クェーサーも対抗しようと拳に光を集めるも霧散してしまう。

 そのまま対応することが出来ず恒星龍は大砲撃に飲まれ砕かれた。

 

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500 VS シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

破壊→シューティング・クェーサー・ドラゴン

裕LP4000→3500

 

「クェーサー! だけど墓地からクェーサーの効果発動、エクストラデッキからシューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚する、これでお前の攻撃は……」

 

 裕の手札には調律がある。それを使いジャンクシンクロンを持ってくれば、クラウソラスを絡めてクェーサーへとたどり着ける、そう裕は確信していた。

 

「死してなお主を守るか、流石だ、だがまだだ! この瞬間、時空竜のもう一つの効果発動!」

 

「はあっ!?」

 

「私の時空竜が効果を発動したバトルフェイズ中に相手がカード効果を発動したとき時空竜の攻撃力は1000ポイントアップし2回攻撃が可能となる!」

 

「ええっ!?」

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000→4000

 

「時空竜でレベルスティーラーを攻撃!」

 

 両手の剣を振り回し強力な斬撃を叩きつける。そのまま時空龍のまき散らしたエネルギーを再び集め、

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK4000 VS レベル・スティーラー DEF0

破壊→レベル・スティーラー

 

「そして再び時空竜でシューティング・スター・ドラゴンを攻撃、殲滅のタキオンスパイラル!!」

 

 一回転し強化された紫電の砲撃は時空龍の発生させた特殊力場に捕まり逃げることが出来ない流星龍を直撃、爆散させる。

 

No.107 銀河眼の時空竜 ATK4000 VS シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

破壊→シューティング・スター・ドラゴン

裕LP3500→2800

 

「メイン2、私は乙女を守備表示に変更しこれでターンエンドだ」

 

少年場     CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500 (ORU2)

LP3000   No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000 (ORU0)

手札0     青き瞳の乙女 DEF0

      リビングデッドの呼び声

 

裕場     

LP2800  

手札2     伏せ1

 

 まともに効果テキストが確認できないこの状況に裕は思わず声を漏らす。

 

「おい、普通の決闘しろよ……! 俺のターンドロー、調律を発動、デッキからクイック・シンクロンを加え、デッキトップを墓地に」

 

 墓地に送られるのは死者蘇生、それを見て裕は呻くも加速は止まらない。

 

「そして光の援軍を発動、デッキから3枚を墓地に」

 

更に墓地を肥やそうとすれば落ちるのはブラックホール、輝白竜ワイバースター、ライトロード・アサシン・ライデンというなんとも言えない落ちだ。

 

「そしてデッキから……ん、そういえば?」

 

 エクストラデッキから取り出すのは先ほどのナンバーズだ、効果をしばらく読み、場を見る。

 

「よし、ライトロード・ハンター・ライコウを加え、ライコウを召喚」

 

「何をするつもりだ?」

 

 攻撃力200のモンスターの棒立ち、それを見てミザエルは疑問の声を挙げる。

 

「ふっふ、見て驚け! リビングデットの呼び声を発動、墓地よりライトロード・ハンター・ライコウを特殊召喚する、そしてレベル2の獣族モンスター、ライトロード・ハンター ライコウ2体でオーバーレイ!」

 

 いつもならばロードを蘇生させるところなのだが裕の手に浮かんだナンバーズの刻印がその選択肢を消していた。

 渦の中より現れるは茶釜だ。それは木の葉をまき散らしながら回転し、手足の生えた狸侍へと姿を変える。

 

「現れろ、No.64古狸三太夫!」

 

 復讐するとでも言いたげに薙刀を少年へと向ける。

 

「ナンバーズだと!? だがその程度の攻撃力で私の銀河眼を倒せるものか!」

 

「そうだぜ、このカード単体じゃ無理だ、だけどこのカード達がそれを可能とする! 仲間の力を収束させた一撃でお前を倒す、食らいやがれ! レベル・スティーラーをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚する、そして三太夫の効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い影武者狸トークンを特殊召喚する。このトークンの攻撃力は場で一番攻撃力の高いモンスター、つまりお前の超銀河眼と同じになる!」

 

 狸の置物が葉っぱを手にし頭の上に載せる、そしてコミカルチックな音を立て煙幕が発生する、そして煙幕が晴れると真っ白なカラーリングとなった時空龍がいた。

 

影武者狸トークン ATK?→4500

 

「なっ!? だがそのトークンはナンバーズではない、多少のダメージが在ろうとも次のターンで私の時空龍の攻撃で打ち砕かれる!」

 

「それはどうかな! クイックのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚、レベル1のレベル・スティーラーにレベル4となっているのクイック・シンクロンをチューニング、現れろジャンク・ウォリアー!」

 

「ナンバーズでもないそんなシンクロモンスターでは私の銀河眼は倒せん!」

 

「確かにお前の最強の龍は倒せないな、だけどお前を倒せる。ジャンク・ウォリアーの効果発動、場のレベル2以下のモンスターの攻撃力をこのカードに加える」

 

「レベル2以下のモンスターなど⋯⋯はっ!」

 

「そう、影武者トークンのレベルは1だ、パワー・オブ・フェローズ! バトル、No107銀河眼の時空竜をジャンク・ウォリアーで攻撃」

 

 時空龍の放つエネルギーを拳に集束、拳を巨大化させジャンク・ウォリアーは突進する。

 その拳は真っ直ぐに時空竜へと突き刺さり発生した衝撃波は赤いカード群ごと砕く。

 

「必殺のスクラップ・フィスト!!」

 

ジャンクウォリアー ATK6800 VS No.107銀河眼の時空竜 ATK3000

少年 LP3000→0

勝者 裕

 

                       ●

 

 衝撃はにより穴が開いた赤黒の壁はゆっくりと下降しながら崩壊する。

 地面に降り立った裕は拳を突き上げ、ガッツポーズをしていた。

 

「よし勝った!」

 

 勝利を喜ぶ裕とは対称によろめきながら立ち上がる少年は、呆然としたような様子でぽつりと呟く。

 

「馬鹿な、この私がただの人間に負けるだと⋯⋯!」

 

「面白かったぜ、また決闘しよう。あっ、あと今度はテキスト確認させろよな」

 

 少年へと伸ばされた手、それを少年は見て、息を吐く。

 

「……私は人間の力を舐めていたということか、人間の力は侮れんな。名を聞かせてもらおう」

 

「さっき名乗ったんだがなぁ、水田裕だよ、お前は?」

 

「そうか、私の名はミザエル。水田裕、覚えておくがいい。次に決闘するとき私の銀河眼が貴様を葬る!」

 

「いつでも来い、でも今度はクェーサーは破壊させねえぞ、こいつが最強だ」

 

「ふっ、そのナンバーズは貴様に預けておく」

 

 渦巻きのような空間を背中に発生させ、ミザエルは姿を消す。

 居なくなって即座に裕は動き出す。

 目的は遊馬の探索だ。

 

「とりあえずナンバーズは遊馬に預けよう、ナンバーズなんてオカルトカード持ってられるか! ていうかテキスト確認も出来ないんじゃ初見殺しもいいところだ……!」

 

                    ●

 

「あれあれ、人間に負けるなんてイケてないんじゃないのぉ、みぃーざちゅぁん」

 

 バリアン世界へと戻って来たミザエルを出迎えたのは無言の手刀を打ち込みたくなるほど神経を逆撫でするベクターの台詞だった。

 感情を抑えることが出来ずベクターへと延びる手刀にベクターは一瞬だけ身をすくめ横っ飛びで回避する。

 

「まあ、まあ、カイトと戦える舞台を用意してやるから機嫌直せって」

 

「何? それはどういう事だ?」

 

 話に食いついてきたミザエルの姿に安心したのかベクターは手をおろし、

 

「サルガッソで奴らを出迎えあの3人組を倒し全てのナンバーズを回収する」

 

「そういえばあの場所で力を使ったのはお前だな、なぜ水田裕を洗脳しなかった?」

 

「あとあの水田って人間は別の作戦で使うからほっとけ」

 

「まだ何かあるのか?」

 

「……この計画が失敗するとは思えねえが、あいつらは俺の予想を上回ってくる、だからその時の保険だ」

 

 ベクターは眼下に広がる悪意の海を見る。赤黒で構成されたそれは所々沸騰している。

 沸騰しはじめたのは、バリアン世界全てに異常事態が起こり始めたのは最近の事だ。 アストラル世界が近づいてきているせいなのかそれとも他の要因があるのか分からない、だが明らかに世界が脆くなってきている、そう七皇は考えていた。

 

「あとはドルベにでも声をかけるか……」

 

 バリン世界の時間はあまり残されていない。

 急かされる様にベクターは歩き始めた。


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