クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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静かにゆっくりと 下

裕はのんびりと歩いていた。

何気ない足取りでカードショップに入り全てのストレージを念入りに見てめぼしいカードを発見、そして購入する。

上機嫌のまま強いカードを探すため裏路地へと入っていった。

 

                     ●

 

 遊馬達はいつもの公園で裕と凌牙を待っていた。ナンバーズクラブは前回のプールとは違い今回1人の欠席もしていない。

 そして遊馬の傍らにはアストラルがいる。

 補填大会の後、新たに手に入れたナンバーズから記憶を蘇らせ整理していたらしい。いきなり授業中に姿を現したアストラルに遊馬が飛びつき、すり抜けて派手に転んで先生から注意された。

 そして遊馬が知りたかったアストラルの使命がバリアン世界を滅ぼすことなのかを切り出す事は出来なかった。

 いつか聞かなくてはいけないなと遊馬はぼんやりと考えていると凌牙達が見えた。

 

「あれ裕は?」

 

「来てないみたいね」

 

 遊馬の言葉に小鳥は周囲を見渡すも裕の姿はない。

 いつも時間通りに行動する裕が来ていないことに遊馬は疑問を感じ、裕へと電話をかける。

 しばらく電子音が鳴り続けるも出ず電話を切ろうかと遊馬が思った矢先、がちゃっと音がした。

 

「あっ、裕か、どうしたんだよ、今日もプール行くって約束……ん!?」

 

 電話口から微かにうめき声が聞こえる、しかも複数だ。

 それを聞き逃さず、遊馬は焦る。

 

「おい、裕、大丈夫か!?」

 

 焦る遊馬と対照的に電話口の裕は平穏そうなのんびりとした声で、

 

「いや映画だよ。ちょっと夏風邪引いたみたいで学校休まされて、暇だからデッキいじってたら母さんに寝ろって怒られちゃって、でも寝れないからパソコンで映画を見てただけなんだ。ほらこの前出たばかりの機械軍団襲来、迫りくるマシニクルの恐怖、プラシド危機一髪! ってやつ、先輩に勧められたんだけど面白いんだ、そんで今結構ピンチなところでなぁ」

 

 ちょっと音量を下げたのか、小さくなっていく呻き声に遊馬は安心し、笑顔になる。

 

「なんだ、もっと早く連絡しろよな、心配しただろ」

 

「ごめん、ごめん。ちょっと面白くては熱中して連絡を怠ったんだ、すまん」

 

「そうか、じゃ、しょうがねえな、早く治せよ。また今度遊べるときに連絡してくれ」

 

 遊馬は通話を終えると、Dゲイザーを収納し、

 

「なんか裕も風邪引いたみたいだぜ、しょうがないな」

 

 心の底から安堵した遊馬の様子、それを見た真月は周りを見回し、遊馬へと近づき、

 

「……遊馬君は水田さんの事どう思っているんですか」

 

 真月が思い詰めた表情で聞いてくる、それを遊馬は意外そうに見て、

 

「どうしたんだよ真月、学校でも同じ事ばっかり聞いてきてさ、なんか変だぜ?」

 

「実は水田さんにはよくない噂があるんですよ」

 

「えっ!?」

 

 陵牙や小鳥、アストラルまでもが彼の言葉に目を見開く。

 

「なんか突然空中に向けて祈り出したりしてますし……」

 

「えっ、と。それは、ほら、いつもの事だろ?」

 

 ナンバーズクラブの中で裕の今まで積み上げてきたイメージはクェーサー至上主義、決闘好き、時々変な行動をする、である。

 

「あと、ここ最近の話なんですが……路地裏でいきなりアンティ決闘をして他人からデッキを奪ってるって話もあるんです。しかもあまりにも残忍な攻撃をしているようで被害者が皆口を噤んでいるとか」

 

 そんなことは有り得ない、話を聞き裕を知っている者ならば即座に否定する話だ。

 

「待て、確かにあいつはクェーサーバカで奇行に走るがあいつは他人のデッキを奪うような奴じゃない」

 

 凌牙の言葉に遊馬も頷く。

 

「そうだぜ、それにどうせネットの話だろ、あいつがそんなことする訳ないって」

 

「待て遊馬、その話調べた方がいいのでは?」

 

 アストラルが口出しするも

 

「いや、だって電話してあいつの普通そうだったじゃん、大丈夫大丈夫、さあ、みんなで今日も決闘だ!」

 

 遊馬がそれを笑い飛ばし不安を吹き飛ばすように走る、それを皆が追う。

 アストラルはそれを眺め、ため息を吐く。

 

「遊馬、我々は人が豹変する原因を知っている、それなのにどうして疑おうとしないん

だ……?」

 

 ため息を吐くも相棒である裕は一度決めたら梃子でも動かない頑固な性格をしている。

 こうなったら何を言っても聞かないだろう、諦め、何もなければいいがと祈りながらアストラルは遊馬の後を追う。

 そしてその様子を見ていた真月が笑みを浮かべた事に気付かなかった。

 

                    ●

 

「さてと。あ、終わったから、決闘の続きでもするよ」

 

 Dゲイザーの通話モードを終え、水田裕は笑顔のまま振り向く。

 いつも通り、平凡の笑みだ。

 異常な物などどこにもなくただ普通の笑みを向ける。

 そして足下には数人の男達が倒れ伏している、呻き声をBGMに裕は手を広げ笑う。

 

「さあ俺のターンだ」

 

「どうしちまったんだよ裕!」

 

 相対するエヴァは叫ぶ。

 いつもと同じ笑顔で、笑いかけながら仲間を倒していった裕を、異常な状況、エヴァはそれに心当たりがある。

 

―――ナンバーズか、ボスと連絡がつかないっていうのに、面倒な!。

 

 1つ気になるのは、裕の体にナンバーズの刻印が浮かび上がっていない事だが召喚するまでは浮かび上がらないのかもしれないな、と自分で結論付け、エヴァは場を見る。

 

水田裕場      

LP1400   

手札3     

 

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

LP1700   エヴォルカイザー・ラギア  ATK2400 (ORU0)

手札0     伏せ1 

 

「どうもしないよ、俺は俺だ。ドロー!」

 

 一瞬だけ裕の瞳に赤い光が走ったように見えた。

 だがそれは一瞬で消え、エヴァは本当に何かがおかしいと確信した。

 

「俺は貪欲な壺を発動」

 

 発動されたカードにエヴァは懐かしいと一瞬だけ思ってしまうそして始めて裕と決闘したあの夜の事を思い出す。

 

―――あの時もこんな状況だったな……。

 

 違うのはお互い立場が逆だと言う事だ。アンティを仕掛けたのが裕で、仕掛けられたのがエヴァだ。

 

「ラギアの効果だ、その発動と効果を無効にする!」

 

「墓地の闇属性、暗黒竜コラプサーペントを除外し輝白竜ワイバースターを特殊召喚する」

 

「またそいつか」

 

 裕が白黒と縮めて呼ぶそのカード達は先ほどから強力なシンクロモンスターを連射するシンクロ素材として猛威を振るっていた。

 ジャンク・シンクロンからの墓地のヴェーラーを特殊召喚し、レベル5のTGハイパーライブラリアンとレベル7のジャンク・バーサーカーの強襲によりエヴァは1ターンで大きくライフを減らしてしまった。ワンキルされなかったからいいものだが手札消費2で損失無しで繰り出されるシンクロモンスターにエヴァは危機感を抱く。

 

「だが甘い、奈落の落とし穴だ! これで厄介なシンクロ素材は消えた!」

 

「ならばデッキより3枚を墓地へ落とし光の援軍を発動。俺はデッキよりライトロード・アサシン ライデンを加え、そのまま召喚」

 

「チューナーか……だが召喚権はもう使った、何をする気だ!?」

 

「ライデンの効果発動、デッキから2枚を破棄する。そして死者蘇生を発動、墓地よりライトロード・アサシン ライデンを特殊召喚」

 

「なんだと?」

 

 死者蘇生を使った瞬間、エヴァは墓地に落ちたサポーターを特殊召喚しカタストルをだすのだろう、そう思っていた

 だが宣言されたモンスターも場にいるモンスターもチューナーである。

 レベルは同じ4、そう気づき、エヴァは身構える。

 

「来るか、ナンバーズ……!」

 

「レベル4のライデン2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 黒の渦が出現する。全てを塗り潰す渦へと戦士2体は飲み砕かれそれを構築する基礎となる。

 

「全てを砕け黒の覇道。相対する者を消しつぶせ、反逆を誓う黒星の龍よ、現れやがれ!」

 

 吹き上がるのは黒い靄だ、そしてその黒は徐々に形をなしていく。

 翼は骨と皮ばかりで、四肢も細く肌はカサカサで生気がない。それは何もかも奪われたようにやせ細った龍だ。

 そして左右の色の違うオッドアイには復讐の焔が燃えている。

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」

 

「なんだこのモンスターは!?」

 

 予想していたナンバーズではなく、異常な龍から発せられる殺気に気圧されエヴァは一歩下がってしまう。

 

「ダーク・リベリオンの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使い相手モンスターの攻撃力半分を簒奪しダーク・リベリオンの攻撃力に加える」

 

 反逆龍の叫び声に気圧されラギアは一歩下がってしまう、そして反逆龍は一気に距離を積めるとその体を殴りつける。

 翼も四肢も体に宿る異能も全てが妬ましいと言わんばかりに殴打していく反逆龍、ラギアの悲鳴を喜ぶように裕は口元を緩める。

 そして反逆龍がオーバーレイユニットを噛み砕き、掌でラギアの羽を掴むと、

 

「ッ!?」

 

 食い千切った。

 行われる暴虐の限りを尽くす攻撃からさらに悪化、補食が始まる。

 弱り切ったラギアへと顎を開き、翼も手足の筋肉も全てを食い散らかしにかかる、そして骨と皮ばかりだった反逆龍の四肢は筋肉を取り戻し、翼が膜を広げる、ガリガリだった皮膚は煌めきを得る。

 それはエヴォルカイザー・ラギアの姿を借りる、もしくは姿を奪い、力強く咆哮する。

 

「止めろ! 何でラギアにそんな事をする!?」

 

 力を奪い姿を借り、そして止まない暴虐の嵐。エヴァは自分のエースもモンスターが苦痛の声を上げ続ける状況を看破できず叫ぶ。

 そしてそれを笑う裕の瞳は赤黒の光が煌めく。

 暴虐するそれを楽しむように、弱者を嬲る暗く邪な感情を楽しみ、酔い、堪能したとでもいう様に吐息をし、

 

「そうだな、これでは一方的な蹂躙だ、ならば次は殲滅だ。バトル、ダーク・リベリオンでラギアを攻撃、リベリオン・パニッシャー!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンATK3700 VS エヴォルカイザー・ラギア ATK1200

 

 上からラギアを踏みつけたまま龍は口を開く、その口には煉獄のように真っ黒なエネルギーが溜まり放出の時を今か今かと待ちかまえている。

 そして炸裂する。

 超至近距離より放たれたそれはラギアを貫通し場をも爆砕しプレイヤーであるエヴァにまで爆風で吹き飛ばした。

 

破壊→エヴォルカイザー・ラギア 

エヴァLP1700→0

勝者 水田裕

 

                    ●

 

「ゴフッ!?」

 

 爆心地となった路地裏、エヴァはそこから少し離れた壁際に吹っ飛ばされていた。

 普通のARヴィジョンの決闘の中での攻撃の筈だった。

 だが僅かに動く視線を動かすと攻撃が叩き込まれた場所は爆弾でも爆発したように大きく抉れ、裕の足元に倒れていた仲間達もエヴァと同じように吹っ飛ばされ倒れている。

 

「なんで、ARヴィジョンの筈、ダメージが実体化してるだと……!」

 

 エヴァの仲間にカードの精霊を召喚し操る決闘者がいる。

 ピケルとクランを愛用するその男は決闘の度にピケルの回復呪文を幸せそうに浴び、クランの鞭を良いなと言わんばかりの表情で眺めたりする変態で、攻撃が実体化してしまう事から一部の仲間からは神として崇められ、そして大半からは微妙に距離を置かれる存在だ。

 だがここまでの大規模な破壊が出来ない。

 何か別の要因、ナンバーズか何かの力だろう、そうエヴァは確信し、近づいてくる裕に問う。

 

「裕、どうしてお前が、こんな事……!?」

 

 笑みを崩さずデッキへと手を伸ばしてくる裕、そしてエヴァの意識は途切れた。

 

                   ●

 

 マッハと名乗る遺跡のナンバーズの守護者である男より遺跡のナンバーズを回収したギラグはバリアン世界には戻らず、その足でハートランドシティに辿り着いた。

 目的はこの町のどこかにあるナンバーズの回収だ。

 相変わらず遺跡のナンバーズについて分かることは全く無い。

 ジャイアント・ハンド・レッドと遺跡のナンバーズの激突の際、見えたのはペガサスに乗り天空を駆ける騎士、そして裏切られ相棒であるペガサスと共に逝った光景だ。

 騎士の顔は見えたが誰なのかは分からない。

 ギラグは他のバリアン七皇の人間形態を知らないからだ。

 ギラグがアリトの人間形態を知っていたのはアリトとギラグは情報収集とナンバーズの調査で人間界に来た際に人間形態を見たからだ。

 だからこそあの瞬間にはっきりとあれはアリトだと確信してしまった。

 

―――もしも、俺の予測が正しければ、遺跡のナンバーズは俺達の前世に何か関係があるのかもしれない。

 

 城に務めるバリアン人の兵士、これらはバリアン七皇のリーダーであるナッシュを慕った者が多い。

 なんとなくだけどこの人についていこうという曖昧な物から、前世でこの人の下についていたから今回もこうするといった話があり、ギラグは正直、それをバカにしていた。

 人間が自分の前世なんて信じられないと思っていたが、あの光景を見た時からギラグの考えは180度反転する。

 前世はあるのかもしれない、そして遺跡のナンバーズには何か特別な役割があるのではないかとギラグは考えていた。

 そして今回のハートランドシティにあるかもしれないナンバーズを探しに来たと同時に親友であるアリトの様子を見に来ていた。

 ベクターが用意したセーフハウスに行ってみるとそこには褐色肌の少年が見える。そして手を振る九十九由真たちの姿も。

 それを見てギラグは全てを悟った。そして九十九遊馬達が見えなくなったのを見計らってアリトに声をかける。

 

「よう、アリト」

 

「おお、ギラグじゃねえか、どうした?」

 

 久しぶりに会った親友へと向けられる笑み、そこに居たのは自分の知っているアリトで、絶望し真っ暗な目をしていた姿ではない。

 それに僅かに安堵していると、ギラグのお腹が鳴った。

 

「げっ!?」

 

「はは、久しぶりに飯でも行くか」

 

                    ●

 

 コンビニに行くまでギラグが自分が遺跡のナンバーズを手に入れた事、そして数ある遺跡を回りリアルトラップで死にかけた冒険譚を身振り手振りで話す。そしてコンビニで食事を買ってきた後、ギラグとアリトは公園に来ていた。

 二人の手には熱々のカップうどんがあり、二人は並んでベンチに座り音を立ててすする、しばらく二人はしゃべらず、ただ食事の音だけが響く。

 ギラグは話しかけるタイミングを窺い、顔を上げ夜の星空を眺める、空に流れ星が流れる、その光景を見て、

 

「こっちでも流れ星に人は何かを託すんだってな、どこの世界でも一緒だな」

 

 自分達の世界でも流れ星へ願いを託し打ち上げる、方法や形式は違っても星に思いを託すのは変わらない。

 それとも根源が同じだから同じような行動に出てしまうのか、とギラグは考え、そして、

 

「どうだアリト、九十九遊馬達は?」

 

 ギラグは問う。

 

「……ああ、すっげーつええよ、他にもいっぱい強い奴がいて、本当に楽しい……って違うぜ、真面目に、そう、真面目にあいつらの仲間になったフリをしてだな⋯⋯」

 

「アリト」

 

 何とかして言い訳を探すアリトへとギラグは声をかける。

 分かっている、何も言うなと。

 

「ベクターの情報で、あいつらがすげー良い奴ってのは知ってる、お前が波長が合いそうな奴もいたよな、お前は、あいつらとダチになったんだよな」

 

「っ、ああ、そうだ」

 

 声は徐々に暗くなり、表情にも陰が落ちる。

 ギラグはそれをナンバーズの見せたなにかと照らし合わせてしまい、思わず声をかける。

 そしてそれを、親友の心遣いをアリトはありがたく思い、そして決意を固めた。

 

「分かってる、分かってるさ、俺は、唸る拳が神をも砕くバリアン七皇のアリトだ、他の何者でもないバリアン世界を救うために俺はここにいる」

 

「だがお前」

 

「いや、九十九遊馬達と楽しく遊んでいた、ただのアリトは今日で終わる、俺は、バリアン七皇のアリトとして明日、遊馬にナンバーズを賭けた決闘を申し込む」

 

 バリアンズ・スフィア・キューブを手に握りしめ、アリトは立ち上がる。

 

「いいのか、今ならまだ」

 

 何度も何度もギラグは聞く。今ならまだ引き返せると。

 

「いいんだ、お前がそんなになってまでナンバーズを集めてくれていたとき俺は九十九遊馬と楽しく全力で決闘してた、こんなんじゃ俺はおまえに顔が併せらんねえよ!」

 

 カオスが放出されるのを気にもせず、ここで心残りは全ておいていくと、その決意を込め、思いの全ての乗せた拳を背後の木へとたたき込む。

 木が中ほどより破砕、轟音を立て倒れていく。

 

「俺の本当の本当、全力全開であいつにぶつかってくる、俺の最強のオーバーハンドレットナンバーズとあいつの最強のナンバーズ、どっちが強いのか決着をつける!」

 

「そうか、ならば……これを持って行け」

 

 ギラグが差し出したのは遺跡にあったナンバーズだ。天馬の描かれたそれを渡し、

 

「これは御守りだ、この遺跡のナンバーズであいつをぶっ倒せ」

 

「ああ、ありがとよ、見てろよ遊馬、俺の最強のカウンター戦法を見せてやるぜ!!」

 

「本当にいいのか、あいつ等だっておまえを友達だと思ってるぞ、お前は」

 

 最後にギラグはアリトの本心を問う。

 

「いいんだ、いつか戦わなくっちゃいけない、近づいたのは偶然でも仲良くなっちまった。遊馬と裕は決闘バカでカイトや凌牙も強い決闘者だ、ナンバーズクラブの連中は弱いけど気持ちの良いくらいに良い奴ばっかで」

 

 アリトは鼻をすする。

 

「敵になるのがこんな辛い気持ちになるんなら、ながよぐなんでならなきゃよかったぜっ」

 

 ギラグはアリトの顔を見ない、

 そしてギラグは分かっていた、親友がどんな思いでこの決断をしたのか、いかなる感情があって捨てたのかを。

 小さな音を立てるアリトの足元を見ず、ギラグはコンビニの袋からカツサンドを取り出す。

 元よりとある目的から購入していたカツサンドの包装紙を取り、そしてパンだけを自分の口に入れ、具材であるカツをアリトのカップうどんへと入れる。

 

「おっ、おい!?」

 

「勝つ、この世界の人間は大事な勝負の前にゲン担ぎにかつ丼を食うらしい、コンビニにかつ丼は無かったがカツサンドはあった、カツうどんを食って明日は勝ドン!」

 

 一瞬、言ったギラグが死にたくなるほどの沈黙が支配する。

 何秒か分からないほどにギラグは焦り、言い訳を考え、こういうときに限ってまともな考えが浮かばない。

 

「……オッホン、明日の遊馬、いやダチと思いっきりぶつかってこい、そして勝て!」

 

「ギラグ!」

 

「アリト!」

 

 がしっと音を立てるほど熱く硬く腕を握られ握り男二人は食事を再開、しようとし騒ぎを聞きつけたオボットたちの群団に取り囲まれそうになる。

 

「どうするギラグ! 全部部壊すか!?」

 

「いや、これ以上騒ぎになるのはまずい、とりあえず!」

 

 アームを伸ばしていたオボットの一体を掴み、

 

「オボットを伏せてターンエンド、逃げるぞアリト!」

 

 地面に叩きつけ突破口を作りだし、一目散に2人は逃げ出した。

 

                   ●

 

 ベクターは公園の方から発せられたバリアンの力を察知し、公園を見る。

 大急ぎで逃げ出す2人の少年と大量のオボットがそれを追いかけている。

 

「全く、あいつらはよぉ……」

 

 ため息を吐く。

 

―――折角計画が上手く行っているというのに、あの二人は⋯⋯。

 

「まあいい、そろそろ頃合いか、最終段階に入ろう」

 

 ベクターは笑う。手には裕馬達を地獄へと招待する鍵となるナンバーズが握られている。

 

「さあ、覚悟しろ九十九遊馬、俺様が全てを手に入れてやる!!」

 

                  ●

 

 大量のオボットから逃げ切りセーフハウスに戻りデッキを組む、勝つための戦術を組み込み何度も議論し決闘し、そして完成した最強デッキをもってアリトは歩き出した。


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