クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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情報収集と転生者同士の決闘 上

 ハートランドシティの公園から走りだした裕は教えられた道を通って、稀に迷いながらも家のある隣町、ハートサイドシティにたどり着く。

 そこから更に迷いながらも裕は目玉神によって飛ばされる前の世界と全く同じ形の家にたどり着いた。

 

―――家は別に変わってる様子はないな。だけど。

 

 自分が居た世界と一緒ならば、ちょっと過保護な母と事あるごとにちょっかいをかけてくる父親が居る筈だ。

 筈だ。ともう一度思い、扉に手をかけ、裕は家に入るのを躊躇する。

 

―――俺はどう振る舞えばいいんだろ?

 

 自分がどういう状況なのかは分からない。

 もしも、自分がこの体を乗っ取ったりしているのだとすれば中身は別人である。

 そんな自分がこの家に入っていいのかと考える。

 だが自分の子供が帰らなければ親は心配し警察沙汰になるだろう。

 そうした場合、どのように説明すればいいのかが分からない。体は本物ですが精神は別人ですなんて言えば精神病院にでも叩き込まれてしまうかもしれない。

 そして、そう考えれば考えるほど別のを思いつきが産まれる。

 この世界の自分の居場所を乗っ取ってしまったんじゃないか、という罪悪感を誤魔化すために何度も適当なことを思いついては悩み、誤魔化し続けるしかないという結論に達し、裕は扉を開いた。

 開いた先、友達の部屋を片付けに出た家の玄関と全く変わりがなかった。

 家の匂いも光景も少し先の台所で母親が夕飯の準備を行なう音が聞こえてくる。

 前と変わらない光景、だからこそ普段から前に居た世界で行なっていた行動をとる。

 

「ただいま」

 

 声はなんとか硬さを出さず普段通りの声が出すことができ、裕はほっと肩を撫でおろし、そしてその声に対し家の奥より軽い声が返って来た。

 

「おかえりー」

 

                  ●

 

 裕は緊張し心臓の鼓動を早めながらも、普通の生活を送ろうと努力する。

 そう身構え続けて、夕飯にカレーがでてきた。そして父親は仕事で少し遅くなるから2人でカレーを食べる事になり、昼から何していたか等の会話をした。

 カレーの味が分からなくなるほどに緊張しつつも裕はなんとか完食し風呂へと逃げ込むように向かう。

 風呂から上がり、今に戻ればそこにはテレビがついており、DホイールのCMをやっていていたり、野球などの変わらない光景があったかと思えば、

 

「野球中継の途中ですが臨時ニュースです。本日7時ごろ新しいカードが発見されたと当局で発表がありました。当局の発表によりますとDホイールで市内を走行中のジャックさんがトレジャーカードを発見し当局に持ち込みが行なわれたという話です、また報酬金の値段は分っておりませんがかなりの値段になるという見方も有ります」

 

 裕は風呂上りの牛乳を噴き出しかけ咳き込んでしまった。

 

「はぁっ!?」

 

「あらあら凄いわねー」

 

 頬に手を当て軽く言う母の様子から宝くじにでも当たったようなものなのだろうか、と考えつつテレビを見れば、

 

「発見の現場に居合わせた人の話によると光るカードが空から降ってきてDホイールに直撃し投げ出されたジャックさんはかなりの速度で道路を転がったらしいのですが軽傷ですんだようです。発見されたカードの枚数は分かってはいませんがこれによって新しいトレジャーパックの発売が期待されます」

 

―――さすがは決闘者、走行中のバイクから投げ出されても軽傷で済むとは……!

 

 などと自分がいた世界とのギャップに驚きつつも、新しくテレビで言っていたパックの事が気にかかりそれとなしに聞いてみる。

 

「母さん、トレジャーパックってなんだっけ?」

 

「結構高い値段のパックよ、買いたいの?」

 

「うーん、興味あるけど考え中なんだよね、友達と一緒に買うのもありかもしれないって考えてるけど」

 

 裕の言葉に皿洗いをしていた音が止まった。

 何か変な言葉を言ってしまったのかと焦って裕は振り向くも母はこちらに背を向けて顔を見ることは出来ない。

 少しだけ気まずい沈黙が流れどうしようかと裕が混乱していると母が口を開く。

 

「…………そ、うなの。家事を手伝うのなら少しくらいならお小遣いを奮発しても良いわよ」

 

「あ、あー、じゃ今度手伝わせてよ」

 

 他にも聞きたかったがこれ以上変な事を口走るほうがまずいと思い、裕は部屋を出る。

 自分の世界とあまり変わっていないのなら自分の部屋も同じ場所にあるだろうと考え2階に上がり見慣れた扉の前に立ち、開く。

 自分が使っていた部屋と同じ間取り、家具がある。

 

―――ここは普通かぁ、やっぱり別世界に飛ばされてこの世界の俺に憑依したって感じなのか?

 

 何も変わった様子がない事に安堵の息を漏らし、裕はベットに寝転び携帯でこの世界の歴史やもう一人の自分の事、洗いざらい全てを調べる事にする。

 そこで分かったのはトレジャーシリーズとは人の手によって拾う又は発見され、カード発売元であるOCG当局に発見者が持ち込んでようやく一般人が入手できるシリーズのことを指すことが分かった。

 トレジャーシリーズはどこで発生するのかは不明であるるが発見者によると空より落ちてきたり、道端に落ちていたりする。中には赤黒く光るなどと言う意味不明な目撃情報があるぐらいに謎に包まれたものである。

 それらがまとめて発売するトレジャーパックは貴重で強力なシンクロモンスターや融合モンスターが収録されるがそれらが当たる可能性が非情に低く、更に値段が高い割に1パック5枚しか入っていないためデッキを組もうとすると非常に金がかかる事からネット上ではゴミパックとも呼ばれたりしている。

 

「ああ、なるほど。これはお金になるなぁ、見つかればだが」

 

 公園で探していた連中の事を思いだし裕は彼らが本気で探していた理由を理解した。そしてパックやストラクチャーデッキを見ているうちにプロ決闘者と呼ばれる職種も存在することも分かった。

 その他にも物理的にカードが奪われたり海に流されたりする事件も発生しており、ある意味で世紀末ともいえる状態だ。

 オークションを見ればクェーサーは1つしか出品されておらず家が一軒立てれるほどの高額で落札されている。

 シンクロチューナーであるフォーミュラ・シンクロンなどを見ればこれまた高額になっており、この先も狙われる可能性は十分にある。

 

「これってつまり他人に見せたり負けたら危ないってことだよな……なんでだよぉ」

 

 命や世界を賭けてる訳でもないのに決闘に負けたら危険である状況がそこにはあった。

 裕からしてみればただ動いているクェーサーが見たいだけであり、だが動いているクェーサーを見るためには他人と決闘をしなければいけない。

 つまりは他人に裕が高額のカードをたくさん所持していると宣伝している様な物である。

 だからといって決闘をしないでこのままクェーサーを額縁に入れるというのも嫌なのだ。

 つまり裕は楽しく決闘しクェーサーを召喚し勝つことを目指すだけの、ただのクェーサー厨の決闘バカなのだ。

 その上で先程行なわれたエヴァとのギリギリの決闘や最上と呼ばれた少女に負けたことを思い出し、裕は気を引き締める。

 

「よし、デッキを組みなおすか」

 

 ポシェットを開きメインデッキ40枚と大会用に組んでいたサイドデッキを取り出す。そしてポシェットの奥を改めて探ってみるとカードが出てくる。

 ほとんどは友人から貰った物や自分で走り回ってストレージを漁って買ったものであり、それに触れていると懐かしくなってきてしまう。

 懐かしみ、そして色々な事を思い出し、気分が暗くなってきた裕は気分転換にと携帯で禁止制限を見直してみる。

 

―――何枚か名前も知らないカードが出てきたなぁ、まあそれは後で調べる事にして、まず入れたいカードを選び出すか。

 

 裕は時間が経つのも忘れてベッドの上でカードを広げ、その上で携帯とにらめっこして一人で回しているうちに窓の外は明るくなってきた。

 

「なんとか出来たな、俺の新しいデッキ」

 

 裕は眠い目をこすりつつも負けないための防御カードを積み、クェーサーを召喚し勝というコンセプトのデッキが完成した。

 やりたいことを突き詰めその上で安定性を求めると、どうやってもやりたい事と入れたいものが抜けていく状況だったがある程度は妥協し、その上で欲しいカードも見つかった。

 問題はそのカードが手に入るのかという問題だが、

 

「そういえば所持金幾らだっけ?」

 

 財布を見直してみる、合計320円、普通に発売しているパックの値段が400円、ストラクチャーデッキが2500円、一般的なストレージが1枚60円でありとりあえず目についたカードは10枚以上ある。

 ここまで考え、裕はベッドより立ち上がり着替えを始める。

 

「…………これはお宝カードを探し出すしか無いな、よし! とりあえず探すぞ!」

 

                    ●

 

 朝、最上愛はフカフカの高級ベッドで目覚めた。

 うーんと伸びをし、とりあえずテレビをつけて不審な言動をする輩が事件を引き起こしてないかをチェックする

 ニュースはある、だがそこにNo.という名前のカードが登場することは無い。

 一応、ネットでニュースを確認するもそれらしいものは無く、毎朝の日課であるシャワーを浴びるべく服を脱ぎはじめる。

 最上愛は転生者だ。

 彼女は神から自分が使っていた征竜、魔導、甲虫装機を持っていく事と、デッキをアンティ決闘では奪われない様にし、そして好きなカードを好きなタイミングでドローできる力を貰い、遊戯王ZEXALの世界とよく似た世界に転生した。

 朝起きてシャワーを浴びる彼女は画家が絵画に描きたくなるほどの美しさがあり、水に濡れる黒髪も、くすみの無い白い肌も長い手足も、水が横に逸れない程度の薄い胸も美術館に展示される彫刻の様である。

 彼女はシャワーを止め、顔に張り付く神を掻き揚げ、気だるげに息を吐き、

 

「さて用意するか」

 

 歩き出した。

 最上は高校生3年の身でありながら魔王と言う異名を持つプロ決闘者というハイスペックな少女である。

 容姿は良く、文武両道といえばなんとなくだが人気があるようなイメージを持つが容姿やイメージだけで人気に繋がるものではない。

 むしろ恐れられたり嫌われていたりする。それは内面に凄まじい問題があるからだ。

 彼女は自分のみを愛している、自己中心的な人間だ。

 努力している他人に楽して勝つ自分が素晴らしい。

 自分が理解できない考えは塵以下だ。

 そんな事を考える雑魚共は私の遊び道具にでもなってろ。

 そうプロデビュー戦で言い放った少女の姿は放送事故を通り越し、もはやネット上での伝説になっている。

 対戦相手が初心者であろうがドラゴサックと光と闇の龍(ライトアンドダークネス・ドラゴン)ぐらいは平気で並べ、自分が楽しむためならば他人全てを平気で使い潰しそれをする自分に酔いしれるだけの最低の決闘者だ。

 そのような屑である。 

 その性格であるが故に一般決闘者やプロ決闘者が彼女を最低最悪のプロ決闘者と呼び、魔王などと言うあだ名がつけられているほどに彼女は強かった。

 最上の使うデッキは3つ、それを選んだのも彼女なりの理由がある。

 勝ちすぎて規制されでもしたらデッキを作るのが面倒だ、という理由から混黒や混沌、八咫ロックな全盛期カオスデッキを神に頼まず、対戦相手に上手くメタを張られれば負けるかもしれない征竜、魔導、甲虫装機を使い、勝手気ままに大会に参加しては賞金を掻っ攫う日々を快適に過ごしていた。

 

「朝か⋯⋯」

 

 マンションの最上階を全てを貸切にしており上や横から他人の出す騒音も聞こえない。

 軽くシャワーを浴び、朝食を取り、学校が無い日の日課である町へと繰り出す。

 その際、帽子にメガネをかけ少しだけの変装を施しておく。こうしないと誰も決闘を挑んでこなくなってしまうからである。

 普段の目的はあくまでもカード探しだ。

 遊戯王ZEXALに似た世界だがリアルにカードは拾った、と言えるような変な世界であり、拾えるカードには種類がある、

 極めて稀にカオスエンドルーラーのようなぶっ壊れを遥かに超越したアニメ産のカードが見つかるトレジャーシリーズ。

 転生前の世界でデュエルターミナルやばら売りでしか手に入らない氷結界、A・O・J、ラヴァル等をまとめて総称したハンドレットシリーズ。

 そして原作通りばら撒かれたナンバーズ、と上げればきりがないのだが、今の彼女の目的は他にある。

 

―――今日こそ、勝たせてもらうぞ。じゃなきゃこのデッキを使えない。

 

 最上は1週間前とあるデュエリストとアンティ決闘を行い完封され完敗し、デッキを奪われそうになった。

 だが神様権限のためかその相手は奪う事ができず、代わりにそのデッキの使用禁止を命令されてしまった。

 今の最上の目的は2つ。

 1つ目はデッキの使用禁止を解かせる事。

 2つ目は1度負けた相手を完膚なきまでに叩きつぶす、ただそれだけだ。

 昨日になってようやくその人物の居場所を突き止め、最上はそいつの居る場所へと乗り込もうとしていた。

 本命と戦う前の軽いウォームアップのつもりで相手を探し、街を歩いていると、昨日瞬殺した少年を見かけた。

 

―――アレは昨日の、あいつもトレジャーシリーズを探しているのか?

 

 この町の人間が浮き足立っているのには理由がある。

 すぐ傍の原作舞台であるハートランドシティでワールド・デュエル・カーニバル、縮めてWDCが行なわれること。そして全市民の決闘盤に届いた差出人不明のメールの一文。

 

「この街には沢山のお宝が眠っている」

 

 この二つの条件が重なりあい、子供よりも大人の方が沸き立っている。

 仕事よりも会社の人間をフルに使いリアル人海戦術を取ったり、ペットを使って町を探したり、カードの精霊の力を使って探したり、裏路地を歩き回って見つけた人間とアンティ決闘して持ってるカードを見せてもらって鮫トレしたりもする。

 そんな凄まじい世界だが、決闘者の実力は高い。

 アニメの世界の様な温い決闘とはレベルが違うのだ。

 そうなった原因に最上は心当たりがある。というか自分が原因だろうと予測している。

 彼女がプロ決闘者になってから初出場の開幕戦でガードブロック等のサイクロンを引いたら意味もなさないようなカードを使っている相手を貶して蹴散らし、コンボを前提としたカードやアイドルカードを使う連中を心を手折るように念入りにじっくりと蹂躙し、その大会で圧倒的な実力を見せつけ優勝してしまった。

 当然、お前は初手でサイクロンを握っているのか、やらの最上のプレイスタイルに対して反論はあった。

 だが最上はそれを当たり前だと、初手で大嵐や手札誘発カードを握れないような奴は負けても文句をいうなと言い切ったのだ。

 

「あれは面白かったな、またやろっかなぁ」

 

 大会などで結果を残した者のデッキ、それは勝つ事すらも知らない初心者や勝てない人間が勝つ楽しみを得るためにまず、真似をするものだ。

 その結果、小学生がデッキにガードブロックやマジックシリンダーを入れず、強脱や奈落を入れてたり、チェーンを理解してたり、場合と時を半分以上把握していたり、シャカパチしてきたりとするような世界になってしまった。

 そんな世界が正しくない、いやそれはおかしいんじゃないか、と言う者は居る、だがそれを彼女は、

 

―――口だけならなんとでも言える、そんなに言うんならガードブロックみたいな雑魚カードを使って私に勝ち続ければいい、まあ無理だけどねぇ。

 

 笑い飛ばす。

 そのようなことを考えていると、路地を歩き回れば自販機の裏を覗いている男の姿が見えた。

 男の手には違法改造が施されてそうな巨大決闘盤がある。

 最上はその厚みから決闘アンカーに衝撃増幅装置まで取り付けた代物だろうと推測し、距離を詰める。

 衝撃増幅装置とは決闘で発生する衝撃波を増幅し痛覚を増幅させるものであり、決闘初心者や中級者の心をへし折る程度の痛みがある。 

 衝撃増幅装置と決闘アンカー、それだけアンティ決闘に特化してる連中は強そうなカードを持って居る可能性があり最上の試運転には十分すぎる相手だ。

 

―――まあこいつでいいか。

 

 最上はその男の前に1枚のカードを見えるように差し出す。

 男はそのカードを見るとすぐさま最上に驚愕の視線を向けて来る。

 

「それはっ! 売れば何千万にもなるトリシューラ!? 何でお前みたいなのが持ってるんだ!?」

 

 とある大会で行なわれた蟹下プロや鬼野プロによるトリシュ連射があまりにも凄まじ過ぎて市場に出た瞬間完売することで有名なトリシューラという凄まじい餌、このカードを眼の前にして欲しいと思わない人はほとんどいない。

 ましてやアンティ決闘が頻繁に行われる裏路地でこのカードを見せればどうなるかは男の反応を見ればすぐに分かる。

 男は最上へと決闘盤を向け、その内部より決闘アンカーを射出してきた。

 分厚いマッジクハンドの様に広がったアームが最上の決闘盤に巻き付き腕を切り落としでもしない限り逃げる事が出来ない様に拘束する。

 

「どこの誰だか知らねえが、俺と決闘をしないか」

 

―――逃げられないように拘束して何を言うか。

 

 心の中で嘲笑いつつ最上は口元を歪める。

 最上の決闘盤に表示されるのは決闘の申し込みと、はい、いいえだ。

 

「いいよ、私に勝てたらこのカードをくれてやる」 

 

 最上は迷わず、はいを選択肢を押し、男を見る。

 相手の眼にはこちらを獲物とでも認識してるように楽勝だという余裕がある、だがそれが変わるのには1分もいらない。

 最上がはいを押した時点でどちらが獲物なのかは決定している。 

 

「「決闘!」」

 

                    ●

 

 勝負は1ターンで終わった。

 倒れた男のデッキと所持品を見るも、

 

「外ればかりか、誰もまともなトレジャーシリーズ持ってないし使えないなぁ。私の役に立てよ、まったく」

 

 10人ほど強制デュエルを挑んでみたがめぼしいレアカードは無い、最上は諦めて指定された倉庫へと向かうことにした。

 足を動かしながら考えるのは今日決闘する敵が使ってきたデッキだ。

 

―――前回の相手の初手は神宣、大革命返し、禁じられた聖衣、スキル・プリズナー、ヴェーラーと兎。初手オピオン5伏せエンドしてくるなんて思わなかったな、征竜なんて使うんじゃなかったかなぁ。

 

 戦った際に最上の印象に残ったのは驚異的なドロー運である。

 戦う前の言動から自分と同類であるかもしれないとは思っていたが積み込みを疑うレベルの初期手札から推測できるのはあの男の持つ能力だ。

 

―――恐らくデステニードロー関係を持っているのだろう、それかただ単純に運が良いのか、だな。だがヴェルズが相手ならば魔導で十分のはずだ。先攻を取れれば勝機は十分にある。それにまだ私には甲虫装機がある。

 

 そう考えているうちに目的地が見えてきた。

 入り口らしい場所には男がだるそうに座っている。

 

「ちょっといいか?」

 

「ああん、なん、っ」

 

 ダルそうに扉の横に座っていた男がこちらの顔を見た瞬間飛び上がった。

 最上は覚えていないが変装しているも最上の顔を見て驚くことから路地で狩った経験のある男なのだろう。

 

「ボスー、魔王が来ましたぁっ! 助けてくださーぃい! こいつの胸のように更地にされます!」

 

「おい決闘しろよ、更地にしてやる」

 

「君の目的は僕でしょ、全く、部下をあんまり苛めないでよ」

 

 激怒しかけた最上をたしなめるように第三者の声が響く。

 扉を開け出てきたのは小柄な少年だ。

 黒い髪に学ラン、一般的な学生姿であり普通の一般人に見えるこの少年こそが最上を完封し、バッドボーイの集い、自称BB団のボスを務め、そして最上が転生者ではないかと考える、黒原遊里(くろはら ゆうり)である。

 

「この馬鹿を更地にした後で良い?」

 

「うーん、タバコ吸ってたようだからちょっとだけならお仕置きして良いよ、その間にお茶でも入れとくね」

 

「ええ、7ターンぐらい苛めてからいく」

 

 遊里との決闘で使わない方のデッキを決闘盤に挿入、営業スマイルを浮かべ、

 

「安心しろ、アンティ決闘はしないでおく、ちょっと更地にして苛めるだけだ」

 

                      ●

 

「さて決闘の前に少しだけ、原作が始まったようだから作戦会議しようよ」

 

 外見はみすぼらしい倉庫だがきちんと補強され埃一つ落ちていない清楚で小ぢんまりした部屋に改装されていた。 

 その中で2人は湯気のでる紅茶入りのティーカップの置かれた丸テーブルを挟み向かい合っていた。

 まず口火を切ったのは最上だ。

 

「で、お前に聞くが隣町にいる主人公がナンバーズを集めるのに介入するのか? それともベクターの真似事でもするか?」

 

「いや、そっちは部下を当てようかなって思ってるよ、それに僕もナンバーズを欲しいしね」

 

「…………」

 

 最上の脳裏に思い出されるのはナンバーズがアニメ効果なのかという疑問だ。

 もしもアニメ効果だった場合、ぶっ壊れにもほどがあるカードのオンパレードであり喉から手が出るほど欲しい物である。

 

「ヴォルカ、ビッグアイ、ルーラー。あとはアニメ効果ならコート・オブ・アームズとか優秀すぎるカードは山の様にあるがこの辺りは君も欲しいんじゃないのかい?」

 

「その辺りは確かに、欲しいな」

 

 限定的とはいえ戦闘破壊耐性があるだけでも十分すぎるぐらいに脅威になるがそれらがもしもアニメ効果のまんまならば最上は何としてでも手に入れたい。

 それは最上としてお同意見だ。

 

「でも個人でバラバラに介入したら大変なことになるかもしれないし、僕らみたいな連中が他にもいるかもしれない、そういう連中を処罰するためにも僕らは組織を作ってそれらを管理すべきだと思うんだ」

 

「そして組織として強いものをトップにすべきだと」

 

―――実際に言われると胡散臭いし気持ちが悪い、だけど二次創作の転生物の王道だな。こいつは自分が原作とやらを管理したいわけか。

 

 最上は出された紅茶を飲もうと口をつけるも紅茶が思った以上に熱くびくっと口を離してしまう。

 黒原を見ればその様子を面白そうに観察されており、最上は絶対に更地にしてやると決意を固め、紅茶を冷ますべく息を吹きかける。

 

「そ、原作介入をするもしないもトップが決めるべきだ。互いの3デッキの使用権をかけて決闘して決めようじゃないか、勝負は互いのデッキの使用権を賭けてのアンティ決闘。どちらかがその3デッキを使えなくなった方の負けという事でどうだろうか?」

 

「…………征竜を解放してくれるというのならその話に乗ろう」

 

「ああ、あのときの約束は無しで良いよ、今戦いのルール決めをしたんだから先に一勝しとくってのも卑怯っぽいし、後で不正があったなんて言わせない為にも必要なことだ」

 

「それなら良いぞ、その方がこの世界らしい決め方だ」

 

 飲める温度になった紅茶を飲み干し、最上は立ち上がる。

 

「この勝負はお互いに何を賭ける? 僕はヴェルズだ」

 

「魔導」

 

 即座に最上は言い切り、それに黒原も乗って来る。

 

「よし、では先攻後攻はどう決める?」

 

「決闘盤に内蔵された機能でいいんじゃないか?」

 

「それにきーまり、スイッチオン!」

 

 遊里は表面にでたスイッチを押し二人の決闘盤の情報開示モニターが交互に光り始める。

 やがて光の移動が遅くなり遊里のモニターが光るのみとなった。

 

「じゃ僕が先攻で」

 

「「決闘!!」」


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