クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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バリアン組の動き 下

「先攻は私だ、私のターンドロー、カードを伏せて2枚せてターンエンド」

 

守護者場   

LP4000  

手札4    伏せ2

 

ギラグ場    

LP4000    

手札5      

 

「俺のターンドロー、ナイトショット、右の伏せを破壊する」

 

 破壊するのはスター・ライトロード。

 守護者のデッキはモンスターやカードを維持してアドバンテージを得続ける長期戦になると厄介なタイプだ。

 スターライトロードが破壊できたのは僥倖だろう、そうギラグは胸中で呟き、

 

「サイクロン、最後の伏せを破壊し、俺はファイアー・ハンドを召喚」

 

 赤々と燃えたぎる炎の拳を持つモンスター、それをギラグは肩に装備、そして自分自身とともに相手へと走り拳をたたき込む。

 

「ファイアー・ハンドで直接攻撃だ!」

 

「ぐうっ」

 

守護者LP4000→2400

 

 巨大なモンスターのボディブローが炸裂、男は吹っ飛ばされ観客からはブーイングが沸き起こる。

 

「だが、だがこの瞬間、私の手札にあるゴーストリック・マリーのモンスター効果が発動する。このカードを手札から墓地に捨てデッキよりゴーストリックモンスター、ゴーストリック・キョンシーを裏側守備で特殊召喚する」

 

 プロ相手にアドを稼ぎ続けた片割れが姿を見せる。

 ゴーストリックと呼ばれるカード群をギラグは知らなかった。

 しかし裏側守備に関する効果を多く持ち、サイクルリバースモンスターによるデッキであることは先ほどのプロとの決闘から分かっている。

 そしてギラグの手札にはサイドデッキから投入した相手の動きを妨害するカードがある。

 

「ちっ、もう出やがったか。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

ギラグ場    ファイアー・ハンド ATK1600

LP4000   

手札2     伏せ1

 

守護者場   セットモンスター(ゴーストリック・キョンシー)

LP2400  

手札3    

 

「私のターン、ドロー。サイクロンだ、貴様の伏せを破壊する!」

 

 砕かれるのはメタカード、暗闇を吸い込むマジック・ミラーだ。

 決まれば楽に勝てる、そう踏んでいたギラグの目論見は即座に崩れ去る。

 

「くっ!?」

 

 1枚伏せていただけなので破壊されるかもしれないとはギラグは心のどこかで予想していたが破壊カードを実際に引き当てるとは相手も凄腕の決闘者なのだとギラグは痛感させられる。

 

「私はキョンシーを反転召喚、キョンシーのリバース効果でデッキよりレベル1のゴーストリック・スペクターを加える。そしてフィールド魔法、ゴーストリック・ハウスを発動」

 

 お化け屋敷と言ってもいいだろう、薄暗くおどろおどろしい雰囲気が漂う洋館が周りに展開する。

 

「そしてゴーストリック・シュタインを通常召喚する、そして永続魔法闇の護封剣を発動、相手の場のモンスターを全て裏側守備表示に封印する!」

 

 裏側になり表示形式が変更できないようになってしまったファイアーハンド、ギラグの肩に装備されたままなので肩パッドに見えなくもない姿になる。

 しかし幽霊軍団に防具など意味を持たない。

 ギラグは非常に焦っていた。

 自分のモンスターが裏側守備にされてしまったためにゴーストリック・ハウスの効果で直接攻撃が炸裂してしまう状況だからだ。

 

―――まずい、これは非常にまずい。

 

「ハウスの効果で場の裏側守備のモンスターのみの場合、相手に直接攻撃ができる。キョンシーとシュタインで直接攻撃!」

 

「ぐうあああ!?」

 

ギラグLP3600→2000

 

「戦闘ダメージを与えたこの瞬間、シュタインのモンスター効果を発動。デッキよりゴーストリック・パニックを加える。そしてシュタインとキョンシーの効果発動、これらを裏側守備にし、カードを伏せてターンエンドだ」

 

 2体のアンデットはギラグを指さし笑いながら伏せへと逃げ込む、そして再び驚かす時を今か今かと待ちわびる。

 

守護者場   セットモンスター(ゴーストリック・キョンシー)

LP2400   セットモンスター(ゴーストリックシュタイン)

手札1    闇の護封剣

       ゴーストリック・ハウス

       伏せ1

 

ギラグ場   セットモンスター(ファイアー・ハンド)

LP2000   

手札2     

 

―――これが厄介なんだよな……!

 

 プロ決闘者を生贄に使い得た情報は裏側に封印され、魔法や罠によって封殺され、フィールド魔法によって直接攻撃を受けるという物だけだ。

 固く、そして面倒な手札誘発を握る敵をどう切り崩すか、ギラグはそう考え、まずカードをドロー、それを見て、悩んでいるのが馬鹿らしくなった。

 

「良いカードだ。大嵐を発動、場の全ての魔法罠カードを破壊する!」

 

「おのれ、妖術師め!」

 

 憎しみを込めた声を上げるも吹き荒れる嵐は揺るがいない、お化け屋敷も炎の腕を押さえつけていた黒の剣もドッキリ装置も全てが破壊されていく。

 

「ファイアー・ハンドを反転召喚、さらに俺はアイス・ハンドを召喚するぜ!」

 

 氷の拳を反対の肩に装備し、ギラグは再び攻撃を仕掛ける。

 

「バトルだ! 裏側守備のファイアーハンドにゴーストリック・シュタインを攻撃!」

 

アイスハンド ATK1400 VS ゴーストリック・シュタインDEF0

破壊→ゴーストリック・シュタイン

 

 ギラグの拳の動きをトレースし放たれる氷の拳の一撃は人造人間を砕く。

 得意げに笑うギラグの前に突然現れた布を被ったポピュラーなお化けモンスターがギラグを笑い返す。

 

「だがこの瞬間、手札のゴーストリック・スペクターのモンスター効果を発動する。ゴーストリックモンスターが破壊されたとき手札よりこのカードを裏側守備で特殊召喚し、そしてカードをドロー!」

 

「ちっ、スペクターをファイアー・ハンドで攻撃」

 

 ギラグは炎の拳を振り上げお化けの風体のモンスターへと殴り握りつぶした。

 

ファイアーハンド ATK1600 VS ゴーストリック・スペクター DEF0

破壊→ゴーストリックスペクター

 

「くっ、だが再び手札のゴーストリック・スペクターの効果発動、このカードを裏側守備表示で特殊召喚しデッキから1枚ドローする」

 

 途切れることなく現れるモンスターにギラグは煩わしいと思うも、それら全てを破壊することは出来ない。

 

「くっ、メイン2、俺はレベル4のファイアー・ハンドとアイス・ハンドでオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 焔と氷、相反する力が牽制するようにひしめき合い渦へと我先へと飛び込んでいく。渦は爆発しその熱は観客駅にまで届く。

 オーバーハンドレッドナンバーズである106という刻印が輝き、炎と氷で錬磨された巨岩で作られた手甲が飛び出す。

 全てを掴むと言わんばかりに大きく広げられる五指、機械で強化された指先に全てを見通す瞳が開く。

 

「この世のすべてを握りつぶせ、No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド!!」

 

「現れたか忌々しい妖術師の力の結晶よ、貴様のその魂を親友の我が墓前に捧げてやろう!」

 

 恨めしい、と吠え叫ぶ男に周囲からも同じような声が上がり、死人の大合唱へと変貌する。

 ギラグは片手で耳を塞ぎつつ、その大合唱から逃れようとする。

 

「俺はカードを伏せてターンエンドだ」

 

ギラグ場    No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド ATK2000 (ORU2)

LP2000   

手札0     伏せ1

 

守護者場   セットモンスター(ゴーストリック・キョンシー)

LP2400  セットモンスター(ゴーストリック・スペクター)

手札1    

 

「私のターン、ドロー。私はゴーストリック・スペクターを反転召喚、そしてキョンシーの反転召喚、キョンシーの効果で」

 

「……」

 

 その言葉にギラグは考える。

 相手の場にジャイアントハンドを裏返せる効果を持ったモンスターは居ない、そしてこの状況でキョンシーの効果でサーチされるのはレベル1か2のゴーストリックモンスターだ。 

 レベル1のゴーストリックモンスターは直接攻撃を防ぐ手札誘発、レベル2は相手を裏側守備にする効果を持つモンスターで構成されている事をギラグは先ほどの決闘より知っている。

 だが相手の手札は2枚、どのようなカードが来るかもわからない、ギラグは迷い、決断した。

 

「俺はジャイアント・ハンドの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使い相手のモンスターを無効にし、表示形式を変更できなくさせる、秘孔死爆無惚(ひこうしばくむほう)!!」

 

 キョンシーが仲間を呼ぼうとデッキへと駆け寄る、それの前に巨岩掌は立ちふさがり、指先にドリルを構築、キョンシーの腹に突き刺した。

 動いを止めたキョンシーを見て男はニヤリと笑い、

 

「ならば他の手段をとるまでだ、私は金華猫を召喚。金華猫のモンスター効果で墓地のスペクターを特殊召喚する、そして貴様のジャイアントハンドに装備魔法、魔導師の力を装備させる」

 

 攻撃力が上がった自分のオーバーハンドレット・ナンバーズを見上げ、ギラグは訳が分からないと目を白黒させる。

 

「何をするつもりだ!?」

 

「すぐに分かる、私はレベル1のスペクター2体と金華猫の3体でオーバーレイ」

 

 白猫と白いフードのお化けが吠える、そして現れるは渦だ。

 しかしいつもの渦とは様子が違う、今から出現するカードの力なのか真紅の渦が吹き上がる。

 それへと飲み込まれるモンスター達、最低のレベルを持つ3体が渦に入り爆発する。

 

「不屈の闘志と傷つく覚悟を持って巨悪を、民を惑わす者をその反骨と不屈の精神をもって打ち砕け、熱くたぎる情熱を持ちこの場に姿を見せよ、我が親友のカードよ!」

 

 血管が付いた心臓のようなモニュメントから赤い糸が伸びる。

 結び、絡まり拳が真っ先に構成されチャンピオンの様にベルトが、手甲が作り上げられる。

 最後に獅子の頭部を持ち半人半獣の姿へとなる。

 

「No.54、反骨の闘士ライオンハート!!」

 

 ライオンハートの登場に更にヒートアップしていく観客達。

 口にするのはギラグを通してギラグではない誰かを見、そして恨めしいという感情、そしてライオンハートの登場を心の底から待ちわびていたような歓声だ。

 

「これがこの遺跡のナンバーズ!」

 

 歓喜と恨みの大合唱はギラグの耳を打ち鳴らし一種のうねりとなって駆け巡る。

 

「バトル、ライオンハートでジャイアントハンドを攻撃。フルカウンター・アタック!」

 

「なっ、攻撃力の低いナンバーズで攻撃だと!?」

 

 ギラグは迷う、バリアンとアストラル世界の反発し合う力のためか相手のモンスターのテキストが表示されないのだ。

 観客は興奮しては騒ぎまくり守護者の男も叫ぶように攻撃宣言をしたこの状況、今更この決戦風な空気が蔓延している場面で、すいません効果が分からないのでテキスト確認いいですか、とは口が裂けても言えない。

 言ったら亡霊に憑り殺されそうである。

 ギラグは迷った末に伏せていたカードを発動させる。

 

「……サイクロン、魔導師の力を破壊する!」

 

「ちっ」

 

 露骨に舌打ちされたのを見てギラグは自分の判断が間違っていないのだろうと確信する。

 

「まあいい、ダメージステップ、ライオンハートの効果発動、このカードのオーバーレイユニットを1つ使い、このバトルで私が受けるダメージは相手が受ける、私が受ける筈だったダメージは1900、貴様は自分の力で砕け散れ!」

 

 巨大な岩でできた拳とオーバーレイユニットの力を得たライオンハートの小さな拳が激突する、その迫力はすさまじくコロシアムに亀裂がはしり爆風が吹き荒れる。

 一瞬だけ、ライオンハートとジャイアントハンドが打ち合った瞬間、ギラグは見た。

 誰かが俯いてコロシアムの中央に座らされるのが、足枷、そして両手も宅縛られている男の姿を、そして近づいてきた処刑人らしい男が斧を振り上げるのを。

 

「なんだ、これは⋯⋯? ぐぅううううっ!?」

 

ギラグLP2000→100

 

 ギラグは爆風に飛ばされる、転げるその姿を見て観客は湧き立ち踊る様に腕を振る、誰もがギラグの負けを願っている。そしてあと一歩のところまで来た事を歓喜し、笑い狂った。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

守護者場   ゴーストリック・キョンシー ATK400

LP2400  No.54反骨の闘士ライオンハート ATK100 (ORU2)

手札0    

 

ギラグ場    No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド ATK2000 (ORU0)

LP100   

手札0     

 

 よろめきながらもギラグは立ち上がる。

 一瞬だけ見えた光景に困惑するも、一度頭をふってアジャスト。そして場を見て、墓地を確認する。

 状況としては厳しいの一言に尽きる。それでもギラグにも負ける訳にはいかない理由がある。

 親友のため、仲間のため、そして自分の世界の滅亡を救うためにナンバーズの力が必要だからだ。

 自分の敗北は二の次に置き、ギラグは仲間の為だけに闘う。

 空を見れば月が出ている。

 この空の下アリトも任務に就いているのだろうと思いを馳せる。

 アリトが嘘や騙し合いが嫌いな性分なのは分かっている、だがそれでもアリトはアリトなりに任務を遂行しようと努力するだろう。

 

―――アリト、お前も使命の為に全力を尽くしてるんだろう……。

 

                      ●

 

「ふはははっ、さあ堺さん、クェーサー地獄の始まりだ、クェーサーでデュランダルを攻撃!!」

 

 賑やかな宴会というべき広い部屋、そこで繰り広げられるのは勿論、決闘だ。

 

「はあ、君という遊馬君といいどうしてそう不用心に攻めてくるかな、まあいい、ダメージステップ、何かあるかな」

 

「こっちはない!」

 

 裕は堺にも最上と同じくクェーサーの攻撃を叩き込もうと決闘を挑み、今、クェーサーが攻撃をぶち込もうとしていた。

 だが、

 

「私はある、オネストだ」

 

 堺の手札より光が炸裂する。

 

「はっはっは! クェーサーの効果で無効にする! これで!」

 

「残念、もう1枚、オネストだ」

 

「なぁっ!?」

 

 打ち砕く最強の光を更に塗りつぶすように光が剣より発せられる、裕にそれを防ぐことはできず、

 

「ちくしょおおおお!」

 

 直撃した。

 ライフが0になった裕は悔しげに、だが楽しげに笑う。

 平穏だ、裕はそう思った。

 決闘に負けたがそれを悔しいと思うだけの決闘、それが単純に純粋に嬉しかった。

 負けても勝っても楽しい決闘、それを裕はずっと待ち望んでいた、凌牙やカイト、堺や藤田、遊馬がたまにドローからドローソースを引き続けて逆転してくるので、おい普通の真面目な決闘しろよと言いたくなるが、それは置いておき、

 

「ちっくしょう、負けたーー! 堺さんをクェーサーでぶったおすって決めてるのにっ……!」

 

 負ける事が許されるというのは良い事と思う。だが負ける事が許されない決闘はいつか来るはずだ、だからそのために強くなろうと決意し、裕は起き上がる。

 

「いやはや危なかった、手札にオネスト2枚きたときはどうしようかと悩んだものだがうまく炸裂してよかったよ」

 

「もう1回、もう1回だ、今度こそクェーサーで勝ってやる!!」

 

 叫ぶ裕の背後を一人の少年が駆け抜ける。

 褐色肌の少年だ。

 黒髪をツンツンに尖らせた少年の瞳は何やら嫉妬の様な感情がたっぷりと詰まっていて、藤田プロとの決闘の終わったばかりの遊馬に真っ直ぐに向けられている。

 

「おい、九十九遊馬! 俺と(小鳥さんをかけて)決闘しろ!!

 

 アリトだった。

 乱入してきた見知らぬ少年に遊馬も周りも目を白黒させるも、いち早く正気に戻った遊馬が笑いながら決闘盤を構える。

 

「えっ!? なんだかよく分かんねえが売られた決闘は買うだけだぜ!」

 

 遊馬は困惑しながらも笑顔を現し決闘盤を構える。

 

「「決闘!」」

 

                      ●

 

―――アリトは不器用だが、熱い男だ。ドルべの命令を守り、陰ながら九十九遊馬を見張り勝機を見出すだろう、任務を頑張れアリト、遺跡のナンバーズ探し頑張れバリアン七皇、俺も、

 

「頑張る! 俺のターンドロー! 来たぜ、来たぜ、お前を倒すカードが! 俺は魔法カード、RUM(ランクアップマジック)―バリアンズ・フォースを発動!」

 

 バリアン七皇のみが持つ事を許された特別なカードRUM、月へと伸ばすように翳された手にあるカードより赤黒の塗りつぶしの力が吹き出し、世界を、そしてオーバーハンドレット・ナンバーズを塗り潰していく。

 

「このカードはジャイアント・ハンドをランクアップさせカオスエクシーズを特殊召喚する、俺はランク4のジャイアント・ハンドでオーバーレイ、1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築、カオス・エクシーズチェンジ!」

 

 塗りつぶしの力に人間世界は悲鳴を挙げ、ギラグの背より巨大な門の扉が構築、開門し黒と赤の力が爆発する。

 黒赤は全てを塗り潰し巨岩掌は更なる力を持った存在へと再構築される。

 オーバーハンドレッドナンバーズの刻印が禍々しく輝き、溶岩を内包した巨大な球体が姿を現す。

 そしてその球体より熱と溶岩が四方より吹き出した。

 球体には角を構築され、そして赤黒のエネルギーラインを中心にし溶岩を巨岩を纏い全てをつかみ取る掌が構成される。

 熱波が客席全てを焼き尽くし辺り一面を火の海へと塗り潰す。観客である亡霊はその焔に焼かれ悲鳴を上げるのをBGMにギラグは叫ぶ。

 

「現れよ、CNo.106! 混沌なる世界を掴む力よ、その拳は大地を砕き、その指先は天空を貫く、溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド!」

 

 月光をも塗り潰すような焔獄が展開し、眼に見える全てが炎に塗り潰されていく。

 その中で無傷で立っているのは男とギラグのみ、他の亡霊は全て、炎を絶やさぬ松明と化す。

 

「さらにバリアンズ・フォースの効果発動、相手のオーバーレイユニットを1つ奪う、カオス・ドレイン!」

 

 ライオンハートのオーバーレイユニットが吸い込まれバリアンの力によって塗りつぶされたオーバーレイユニットは菱形の赤と黒の光を内包するカオス・オーバーレイユニットへと変化する。

 

「バトルだ、ジャイアント・ハンド・レッドでライオンハートを攻撃!」

 

「馬鹿め、ダメージステップ、ライオンハートの効果発動、これで貴様は終わりだ!」

 

「それはどうかな! 俺はジャイアント・ハンド・レッドの効果発動! このカードがNo.モンスターをオーバーレイユニットにしている限り、カード効果を発動した時、カオスオーバーレイユニットを1つ使い場の全ての表側のカード効果をこのターン終了時まで無効にする、紅漠無惚(こうばくむほう)!」

 

 溶岩掌はカオスオーバーレイユニットを巨大な掌で握り潰し内包していたエネルギーを全方位へと放つ。

 光を纏っていた拳から光は奪われ、その戦闘耐性も親友を守る力も失われる。

 

「なんだと!?」

 

「これで終わりだ、ジャイアント・ハンド・レッドよ、遺跡のナンバーズを打ち砕けっ 万死紅掌(ばんしこうしょう)!!」

 

 関節などない溶岩で構成された腕は回転し超高温の必殺の一撃へとなりライオンハートに迫る。

 ライオンハートはその場から逃げず拳を真っ直ぐに振りぬく、攻撃力の差があるとは思えないほどの大迫力で振り抜かれた拳は真っ赤な溶岩に突き刺さり爆発を起こす。

 爆発の中、ギラグが見たのは先ほどの光景の続きだ。

 斧が振り上げられた瞬間、顔を上げた処刑される男の顔、それをみたギラグは衝撃を受けた。

 暗く憎しみと絶望に染まる瞳、憔悴しそして上にいる誰かを見上げるその顔は、自分の親友の姿そっくりだった。

 

「アリト、だとぉ!?」

 

CNo.106溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 VS  No.54反骨の闘士ライオンハート ATK100

破壊→No.54反骨の闘士ライオンハート

守護者LP2400→0

勝者 ギラグ

 

                    ●

 

 決闘が終わり徐々に砕けていくと男、その男へとギラグは走り寄る。

 襟首を掴み、必死で問いかけるモンスター、男の口から答えが語られることは無い。

 

「今のは何だ!?あの光景はっ!」

 

「そうか、貴様も」

 

 力なく男は呟く、すでに上半身は消えかかっている。

 消失は喉へと近づき、声は途切れ途切れになり、そしてギラグを見る男のその顔に浮かぶのは全てを理解してしまった故の憐れみがある。

 

「可哀想、に」

 

「貴様いったいなにを知っている!?」

 

「貴、様を守ろう、お前の、親友を守っ、てく」

 

 口元も全てが消える、観客の消え去ったコロシアム、1枚のカードと共に1人残されたギラグは拳を打ちつける。

 

「遺跡のナンバーズ、これにはいったいなにが隠されているっ!? なぜナンバーズが衝突した瞬間、アリトが出てきたっ!? どうしてあいつは俺を可哀想と言ったっ!? どうしてっ!?」

 

 問いに答えなど返らない、答えの大半を知っている亡霊は守護者を追う様に地の底へと沈みんだ、だからギラグは立ち上がる。

 

「分からねえ事だらけだ、だが遺跡のナンバーズを探していけばその答えは見つかるかもしれねえ」

 

 固く決意し、次の場所へと移動すべく走り出した。

 

                     ●

 

 焔が消え、人が全く居なくなったコロシアム遺跡、そこに1人の少女が立つ。

 周りを見渡し何の力も感じられないこと、そして濃厚な敵の力を感じ目尻に涙を浮かべる。

 泣き始めた少女の肩を優しく叩き、傍らのフードを被った人影が優しく抱き寄せる。そのまま背中をさすり少女が泣きやむのを待ち、少女が泣きやむと2人は移動を始めた。

 

                     ●

 

 男が地に引きずり込まれた先は地獄だった。

 赤く黒が空をのた打ち回る様に踊り、時折流星が逆さにあがり、人の形をしただけの地獄の住人達が走り回る、そのような世界に男は1人立っていた。

 周りに彼の民や臣下は居ない。

 

「なんだこの世界は……?」

 

「気に入ってくれたかな、亡国の皇子よ」

 

 背後から聞こえた声、それは彼が探し求めた仇敵の声だ。

 男は振り返り腰の剣を抜く。

 そしてその目にその姿を焼き付ける。

 悪魔のように背から翼が生えた赤と黒の鎧のような衣装をまとった巨大な男が立つ。その姿は邪悪であり空間すらもが彼を拒むように歪んでいる。

 

「お前が、我を妖術にはめアリトを死刑にさせた張本人か!」

 

 応えは聞かない、魂がこいつがその張本人だと言っている。だからこそ差し違えてでも打ち取る。そう覚悟を決め男は雄叫びを上げながら仇敵へと走る。

 仇敵に 動きはない。

 動かない仇敵の心臓へと剣が確かに突き刺さる、男の手にもその手応えがあった。そして仇敵は、

 

「つまらん」

 

 こちらを上から見下し笑う。

 

「我に勝てると何故思う? 己惚れるなよ餌如きが。貴様ら人間も、全ては我の為に存在している事を何故分からぬ?」

 

 刺された場所より血は漏れない、それどころか剣が体へと飲み込まれていく。

 男は信じられない、信じたくないというように首を横に振り、剣から手を離す。

 

「貴様らは無駄に願って、無駄に叫んで、無駄に行動して後悔というカオスをまき散らして死んで我の役に立てばいいのだ」

 

 ただ立ち笑うだけだ、嘲笑い、愉悦に酔うだけだ、それでも男はこの化け物に一矢報いたいと強く思う。

 この男が言う通り全てが仕組まれたとすれば、アリトと親友になったのも全てがこいつの策だということになる、それを認めるわけにはいかない。

 戦いの中で彼を認め彼に認められ友となった、それを誰かの策略の上なんて、

 

「信じれる訳ないだろうっ!」

 

 アリトと何度も打ち合った自慢の拳を彼の腹へと打ち出す。

 直撃、確かな手応えを感じるも敵の声に痛みも途切れもない。

 

「無駄だなぁ。貴様等、人間とは我に敵う事がないと分からぬ痴愚の群れか」

 

 拳が、手が引きずり込まれる。

 引き抜こうとしても引き抜けない、咄嗟に腰の小刀で腕を切り落とそうと振り上げる。

 しかし仇敵が男の腕を一撫ですると撫でられた腕が何もない空間に塗り潰される。

 元から無かったようにきれいな断面を晒し片腕は消える。

 

「なっ!?」

 

「お前の自慢の配下も同じように突っかかってきて貴様と同じ様に無駄な行動に出た、我の勝ちだ、家畜の群れの王よ」

 

 臣下も民も皆が同じ様に一矢報いようとしたことに男は感動を得る。

 それと同時にそれらすべてを嘲笑う仇敵の姿に、そして一矢報いることのできない自分へともっと怒りが沸き立つ。

 男は湧き上がる感情のままに渾身の力で腕を引く抜こうとする、引きちぎれても良い、仇敵の思い通りになってたまるかと足を踏ん張り背を倒し、そして、

 

「ぐがあああああっ!」

 

 腕を途中より引き千切った。

 断面より血は流れない、それでも痛みは強く荒い気をする男の様子を見て仇敵はわずかに不快そうに鼻を鳴らし、

 

「我に無駄な手間をとらせるか、まあいい」

 

 瞬きした次の瞬間、男の体は地面に落下していた。

 

「なにを!?」

 

 見れば足が消えている、先ほどの腕のように削り取られたと気づいたのは少したってからだ。

 

「これで逃げられない、そこでナンバーズが我の手中に収める瞬間でも見ていろ」

 

 仇敵はオーバーハンドレットナンバーズを通しギラグを操りバリアン世界に戻らせようとする。

 愉悦に酔うその笑みを僅かに歪ませる。

 違和感、オーバーハンドレッドナンバーズを通して暗示を送ろうとするも何かに邪魔される。

 

「まさか貴様っ!」

 

 背後ぼろぼろになり四肢を欠損した青年の口元が大きく歪む。初めて声色を変えた仇敵の様子を大きく見える様に口元を開け声をあげて笑う。

 遺跡のナンバーズは自分の、ドン・サウザンドの力の一部を封印している要石だ。

 その要石は取り除かれ彼の力は彼のもとへと戻っている。より一層強力になったはずの自分の力が届かない。

 ドン・サウザンドの力を邪魔しているのは彼の託したナンバーズともう一つの力だ。

 仇敵はそれを忌々しいと男を踏み潰し、魂を吸収し、呟く。

 

「忌々しいアストラルの力、そして本当の記憶め、我の計画の邪魔をするつもりか。だが今更、我の計画を止めることは出来ん。すでに七皇は動き出し、九十九遊馬達はその動きに気づいておらん。気づいたところでもう遅い。我がヌメロンコードを手に入れる事を阻止することは誰にも出来ん」

 

 笑う、嗤う、嘲笑する。

 全て、三界に蠢く皆の全てを、人間世界も、アストラル世界も、バリアン世界も、努力も、感情も、意思も、未来への夢も、過去の悔恨も、希望も、冀望も、生死すらも、全てを無駄だと笑う。

 

「我がヌメロンコードを手に入れ、全てに勝利する。全ては我に負けるために存在している事すらも気付けないとは、我以外の万象は愚かだ」

 

 自らの勝利を心の底より、一片も信じている男は次の遺跡のナンバーズを手に入れるべく、他の七皇を操りにかかった。


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