クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第八試合 下

 机の上に降りた人頭を持つ蠅にベクターは驚くように目を開き、

 

「ハートランドじゃねえか」

 

「こいつを知ってるのか、ベクター?」

 

ドルベの質問にベクターは頷く。

 

「ああ、こいつは俺がフェイカーと手を組んでいた際に一緒に居た小悪党だ、確かスフィアフィールド砲を撃つときにバリアン世界に落ちたはずだが⋯⋯どうしてこいつがここにいるんだ?」

 

 ベクターの問いかけにあからさまに焦った様子を見せるも蠅は前足を振り、

 

「い、いえ、私の事はどうでもいいんです、私は貴方様達の話に合った遺跡について心当たりがあり、声をお掛けしただけで」

 

「はっ何を言っている、というか貴様、盗み聞きしてたな、おい、こいつをつまみ出せ」

 

 ミザエルが部屋の前で待機していた兵達を呼ぶ。

 古めかしい装備を付けた男二人が走ってきて、机の上に載っている蠅へと手を伸ばす。

 

「えっ、ちょっとお待ちを!? 話を聞いてくださーーいっ!」

 

 ゴキブリ並にわしゃわしゃと足を動かし机を這い回り、自分を捕まえようと伸びる腕から逃れ続けるその様子を見て、ベクターは軽く馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、

 

「ちょっと待てよ、面白いじゃねえか。こいつの話を聞いてみるだけ聞いてみようぜ、だがハートランド、この場所まで来て俺達に嘘を吐いたらどうなるか分かるよなぁ」

 

 動きを止めた兵の手に摘ままれたままハートランドは頭を下げ、

 

「ありがとうございます、ベクター様。私がフェイカーの下についていた時、彼の資料室で九十九一馬の調査した遺跡を見つけました。遺跡の数は23、そのどれかにナンバーズが隠されているのではないかという事です。点で記した場所が遺跡のある場所です」

 

 ハートランドの言葉に空間に人間世界が投影される、そして全世界にバラバラに散らばる点が確かにあった。

 真偽は確かではない情報、だがそれが本当ならば無数にある出向くべき遺跡は減る、ミザエルやギラグ、ドルべは考えつつ、話を切り出したベクターを見る。

 

「どうするベクターこいつの話を信じるのか?」

 

「そうだなぁ、こいつが嘘を言ってる可能性がある、俺様が遺跡に直接出向いてナンバーズが発見できたら信じてやるってのは、どうだ?」

 

 ドルべはその言葉に僅かに考える。

 遺跡にナンバーズがあればベクターが独り占めする可能性はある。

 ベクターはバリアン七皇の大切な一員だが自分の利益を優先させる節がある。

 時たま行動に問題もあるし、兵達や七皇に悪戯をすることもあるがその態度は暗くなりがちな七皇のムードメーカーに一役買っており居バリアン七皇には必要な人材だ。

 

―――最近はベクターだけに人間世界で働きっぱなしだった、そこは感謝すべきところだ。そして自分の策略で手に入れたナンバーズをこうして皆に渡した事も非常に評価できる。少しぐらいならば独断行動をさせてもよいのではないか、最終的にバリアン世界を救うという行動をとってくれればそれでいいか……。

 

 そう考えドルべはリーダー不在の現状で皆を引っ張る役割から決定を下す。

 

「すまない、君だけに手間ばかり取らせてしまう、それと真実かどうか判明するまでハートランドをきっちり閉じ込めておけ」

 

 ドルべは兵に指示を出す。

 しかし蠅を閉じ込めておく部屋が無いバリアン城のどこにこいつを閉じ込めるべきかをドルべが考えていると、

 

「俺が人間界で買ってきたゴキブリホイホイを使って拘束するか。あっ、それか俺様が趣味で作った触手部屋に閉じ込めても良いぜ」

 

「…………ベクター、ゴキブリホイホイを何のつもりで買ってきたんだ?」

 

 ミザエルの冷静なツッコミに黙り込んだベクター。

 バリアン世界にだって生物は存在する。

 虫や獣、魚や竜と言った様々な生物がいる。だがゴキブリホイホイに引っかかるサイズの虫でも何らかの力を備えたバリアン世界の生物の前ではただの紙でしかない。

 とすればいつも通りよからぬ悪戯に使うつもりだったのだろう、というか触手部屋なんてどうやって趣味で使うつもりなんだ? という疑問と認識がベクターを除く4人と兵士達の間には広がる中、ベクターは視線を僅かに外に向け、

 

「じゃ、俺はこの1番怪しそうな海の中に行って来るぜ」

 

 その場から全力で逃げ出した。

 

                     ●

 

「ふんっふんぬーっ」

 

 ハートランドが全身に力を入れるもゴキブリホイホイの粘着力強く、剥がれる気配はない。

 べっとりと体や四肢に張り付くネトネトは不快ではある。

 だが力を放出して破壊でもしようものならば自分がどうなるか分からない。

 そこでハートランドはバリアン世界に落ち、バリアン世界の住人に追われ続ける日々から救い出してくれた恩人へと助けを求める。

 

「ドン・サウザンド様これでよかったのでしょうか?」

 

 ベクターの言った触手部屋とは暗くひたすらに同じ光景の続く閉鎖世界だ。そこで呟いたところで誰も声を返すはずは無い、だが彼の耳にはしっかりと聞こえる。

 

「ああ、上出来だ、お前はそのままでいろ。くくっ、これでベクターが動き出したか、少しだけ奴の手伝いをしてやろう、あのくだらない強欲と傲慢、そして我に比べればちっぽけな野心、せいぜい我のために役に立て、お前の存在など我の為に動く事のみなのだからなぁ」

 

 ハートランドは目を閉じれば彼が口元を歪ませ笑っているのが予想できた、そのまま彼の声は届かなくなり、ハートランドは抵抗することを諦めた。

 

                    ●

 

 第8試合ともなり徐々に日が傾き始めるスタジアム、その中で観客が歓声を響かせている。

 遊馬と堺の決闘は中盤へと差し掛かっていた。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はガガガマジシャンを召喚、そして伏せていた装備魔法、ガガガリベンジを発動。墓地のガガガシスターを特殊召喚し、ガガガマジシャンのモンスター効果でガガガマジシャンのレベルを3に、そしてガガガシスターの効果でガガガマジシャンとガガガシスターのレベルを5にする」

 

 遊馬のデッキの定番とも呼べるコンボ、そして新たに呼び出すはこの決闘を終息させる力を持つ必殺のカードだ。

 

「行くぜ、レベル5になったガガガシスターとガガガマジシャンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろZW―獣王獅子武装!」

 

 渦を切り裂き走り来るは黄色と赤の鎧をまとった皇に傅く戦鎧獅子だ、巨大な力を秘め吠えるその姿に竜に乗った戦士や銃士は身構える。

 

「そして墓地に送られたガガガリベンジの効果で俺の場のホープ達の攻撃力は300ポイントアップする! そしてZW―獣王獅子武装の効果発動、オーバーレイユニットを使いデッキからZWと名の付くカード、ZW―風神雲龍剣を手札に加える」

 

 獅子の咆哮が轟き、遊馬のデッキより1体の龍が飛び出してくる。

 風を纏うそれは遊馬の伸ばした手へと降り立ち、1枚のカードと成る。

 そのカードの効果を観客たちは知っている。

 獣王獅子武装と共にWDC決勝戦で活躍したカード達だからだ。

 

「そして手札よりZW―風神雲龍剣のモンスター効果発動、このカードを装備魔法扱いで希望皇ホープに装備させる、これでホープはカード効果の対象にはならなくなった!!」

 

 赤と緑の体をした龍が空ヘ竜巻と共にと昇り、一振りの大剣へと変形し落ちてくる。それを掴み取ったホープは竜巻の援護を受けて竜騎士を肉薄する。

 

「バトル、希望皇ホープでガイアドラグーンを攻撃、ホープ剣・トルネード・スラッシュ!!」

 

 ホープの繰り出した攻撃を受け止めようと竜騎士が槍を構え打ち合うもホープが風を纏う赤と緑の龍の意匠の剣に込められた一撃を受け止められない、防御した槍ごと竜騎士は切り裂かれる。

 

No.39希望皇ホープATK4100 VS  迅雷の騎士ガイアドラグーン DEF2100

破壊→迅雷の騎士ガイアドラグーン 

 

「そしてZW―獣王獅子武装でガイアドラグーンを攻撃」

 

 主に続けとばかりに獣は走り出し竜騎士を噛み砕く。

 

ZW―獣王獅子武装 ATK3300 VS 迅雷の騎士ガイアドラグーン DEF2100

破壊→迅雷の騎士ガイアドラグーン

 

「メイン2、俺はZW―獣王獅子武装を希望皇ホープに装備する!」

 

 吠え、体のパーツを分離しながら自身の力を凝縮し戦鎧獅子は巨大な一剣となる。

 強大な推力を与える脚甲、自身の身の丈ほどもある剣を楽々と触れる様に絞り上げられた手甲、胸と背中に新たる鎧を纏う。

 宙に浮かぶ巨大な剣を鎧によって強化された腕が掴み取る。

 

―――ライオホープなら、押し切れる!

 

 トロンさえも倒した遊馬の現時点での最強カード、ライオホープ、その攻撃力は7100と非常に高く、更にカード効果の対象にならない。

 遊馬とのフリー決闘、響子との試合を見る限り、堺は対象に取るモンスターや効果ばかりを使うため、このまま押し切れる、そう遊馬は確信していた。

 

「俺はターンエンドだ!」

 

遊馬場     No.39希望皇ホープ ATK7100 (ORU0)

LP200     ZW-獣王獅子武装 (装備魔法)

手札2     ZW-風神雲龍剣 (装備魔法)

 

堺場     ガガガガンマン DEF 2400 (ORU0)

LP4000

手札1    

 

「私のターン、ドロー」

 

 自慢げに胸を張る遊馬を見て、少し考えたのち堺は意地の悪そうな顔を浮かべ、

 

「ふむ、対象に取られないからって安心しているようだがそれならば甘い、先史遺産ネブラディスクを召喚、ネブラディスクのモンスター効果で先史遺産都市バビロンを加え発動、その効果により墓地のネブラディスクを除外し同じレベルのゴールデンシャトルを特殊召喚、レベル4のネブラディスクとゴールデンシャトルでオーバーレイネットワークを構築」

 

 だが遊馬は堺のデッキが持つ厄介さをまだ理解しきれていない。

 バカみたいな攻撃力はオネストを使えば返り討ちに、カード効果の対象にならないのならば、

 

「現れろ、ランク4、励輝士ヴェルズ・ビュート」

 

 全てを破壊するまでだ。

 正なる力をまといさらなる進化を遂げた悪魔が白い外套をはためかせ登場する、オーバーレイユニットを握りつぶしそのエネルギーを取り込む。

 放たれる光の洪水、それはまるで銀河のように輝き場の全てを飲み込んでいく。

 

「君の場、手札にあるカードの合計は5枚、私の場のカードの合計は4枚。これによりヴェルズビュートの効果が発動できる。オーバーレイユニットを使い、このカード以外の場の全てのカードを破壊する!」

 

「なっ、ライオホープが!?」

 

 巨大な都市も耐性を身に付けたライオホープも全てが光へと飲まれ、爆発も何も起きない圧倒的な光の中で全ては崩壊していく。

 後に残るのはまっさらになった大地のみだ。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

堺場     ヴェルズビュート DEF0

LP4000  

手札1    

 

遊馬場     

LP200   

手札2     

 

「くっ、俺のターンドロー!」

 

 ホープレイもライオホープは遊馬が強敵を打破してきた仲間だ。だがその力が通用しない相手が目の前にいる。

 罠やモンスター効果を上手く使い、遊馬の渾身の攻撃全てを打ち消してくる堺を遊馬は純粋に強いと思う。

 だからこそ倒したいと強く思い手札よりモンスターを引き抜き決闘盤へ置く。

 

「よし! 俺はゴゴゴジャイアントを召喚、ゴゴゴジャイアントのモンスター効果で墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚。レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ交響魔人マエストローク!」

 

 新しく登場した魔人オーケストラの指揮者がくるりとその場で回転、観客へ一礼する。

 

「更にエクシーズ・トレジャーを発動、場にいるエクシーズモンスターは2体、よってデッキから2枚ドロー、バトルフェイズ、マエストロークでヴェルズ・ビュートを攻撃」

 

「ほう、ならばオーバーレイユニットを1つ消費してもらう、私はヴェルズビュートの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使いこのモンスター以外のカード全てを破壊する」

 

 ヴェルズ・ビュートの放つ光にマエストロークは飲み込まれる。

 だがマエストロークにはオーバーレイユニットを使う事で自身の破壊から逃れる効果がある。

 

「マエストロークの効果、魔人と名の付いたモンスターエクシーズが破壊される場合、オーバーレイユニットを1つ使い破壊を免れる、そしてバトル続行だ!」

 指揮者が槍の様に突き出したタクトによって貫かれたヴェルズ・ビュートは爆発した。

 だが守備表示の為にダメージは入らない。

 遊馬が全力を振るっても未だにノーダメージで立っている堺、その姿はまさしく一般決闘者から尊敬を集め、お手本となるべきプロ決闘者に相応しい強さがある。

 

「へへっ、だけど俺だって色んな奴らと決闘してきて強くなったんだ! まだ諦めきれっかぁ! 俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

遊馬場     マエストローク ATK1800(ORU1)

LP200   

手札0     伏せ2枚   

 

堺場     

LP4000  

手札1   

 

「私のターンドロー、なるほど。さて遊馬君、そろそろ私のナンバーズを君に見せようか」

 

 観客はその言葉に湧き立つ。

 遊馬と観客の脳裏には響子へととどめを刺した巨大なモンスターエクシーズ達の姿がある。

 

「手札より先史遺産―クリスタル・ボーンの効果発動、このカードを手札より特殊召喚する、そして先史遺産―クリスタル・スカルを墓地より特殊召喚」

 

 動く気配の無い遊馬を見、堺は口元に手を当て少しだけ考え、

 

「手札よりゴールデン・シャトルを召喚、墓地のネブラディスクの効果発動、私の場が先史遺産モンスターのみの場合、このカードを特殊召喚する。そしてゴールデンシャトルの効果で先史遺産モンスター全てのレベルを」

 

 出現したモンスター、それは第三試合で見せた必殺のコンボだ。

 それを防ぐべく遊馬はクリスタルボーンの時は発動できなかった罠を発動させる。

 

「そうはさせるか! 俺は罠カード、もの忘れを発動! 攻撃表示のゴールデンシャトルを守備表示にし効果を無効にする!」

 

「ならば別の手だ」

 

 必殺のコンボが止められるも堺の顔に浮かぶは子供のような笑みだ。

 ワクワクしていると言わんばかりに口元を緩ませ大きく手を広げる。

 

「レベル4の先史遺産モンスター、ネブラディスクとゴールデンシャトルでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、我が前に立ちはだかる障害を砕き給え、その力は全ての相対を阻むもの、物言わぬ城塞の上より全てを総べよ。ランク4、我が魂のカード、No.44先史遺産超機関フォーク=ヒューク」

 

 現れるは相対する者の力を削ぎ落とす戦いにおいて不落の城塞、そして、

 

「レベル3岩石族モンスター、クリスタル・ボーンとクリスタル・スカルでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 見る物を砕け呪われし過去の石像よ、今こそ現世へと蘇りその猛威を振るえ、ランク3、ゴルゴニック・ガーディアン!」

 

 渦より現れるのは岩石でできた壺だ。

 ぞぶりと生理的に受け付けない音を立て躰と尻尾、そして腕や顔を生やし、赤と青の瞳が2体のモンスターを獲物に見定める。

 ゴルゴニック・ガーディアンより発せられる瘴気と言ってもいいぐらいの嫌な波動に遊馬は顔をしかめる。

 

「なんだ、このモンスターは……!?」

 

「ふむ、君にも分かるのか、これはとある海域にある海流の流れが速すぎて立ち入る事の出来ない海底遺跡、その周辺で発見された石板がカードに変化した物だ。私はそれを運良く手に入れる持ち帰ったのだがどうもこれには何か良くない物が憑りついているようでな、分かる人間には分かる言ってみれば曰く付のお宝だ」

 

 朗らかに笑う堺、少しだけ苦笑しつつも海底遺跡というワードに興味をそそられてしまう遊馬は後で少しだけでも話を聞けないかと考えていると堺がわざとらしく咳払いをし、

 

「ゴホン、話が逸れてしまったね、ではこの攻撃をどう捌くかな、バトルだ、フォーク=ヒュークでマエストロークを攻撃」

 

交響魔人マエストローク ATK1800 VS No.44先史遺産超機関フォーク=ヒューク ATK2000

 

 遺跡より青い砲撃が乱射される、光の柱が場に突き刺さり炸裂していく中、マエストロークは走って逃げ続ける。

 

「罠、発動ガードロー! マエストロークを守備表示にしカードを1枚ドローする! これで返り討ちだ!」

 

 マエストロークへ攻撃が一切当たらないことに腹を立てたのか砲撃が収束、大規模な光の柱がマエストロークへと放たれる。それを待っていたかのようにマエストロークは指揮棒のような細身の剣をを振り上げ放たれた柱を打ち返した。

 柱は真っ直ぐにフォーク=ヒュークへと跳ね返り直撃、軽い爆発を起こす。

 

交響魔人マエストローク ATK1800→DEF2300 VS No.44先史遺産超機関フォーク=ヒューク ATK2000

堺LP4000→3700

 

 微々たるものだが堺へと与える初ダメージだ。

 遊馬はここから逆転の糸口を掴もうと意気込みを見せる。

 

「逃れたか、メイン2、このままターンエンドだ」

 

堺場    No.44先史遺産超機関フォーク=ヒューク ATK2000 (ORU2)

LP3700  ゴルゴニック・ガーディアン ATK1600(ORU2)

手札0    

 

遊馬場     交響魔人マエストロークDEF2300(ORU1)

LP200    

手札1    

 

 状況を見れば遊馬はかなり追い詰められている状況だろう。

 相手の場には極めて強力なモンスターエクシーズが並んでおり、遊馬の今持つ手札では逆転できない。

 負けるかもしれないという恐怖が遊馬の脳裏をよぎり、だがそれにから逃げ出さずに踏みとどまり、遊馬は1歩踏み出した。

 

「カットビングだ! 俺ぇっ! ドロー!」

 

 ドローしたカードを見て、遊馬は墓地を見る。

 

―――墓地には最後のブレイクスルー・スキルがある、これとマエストロークの効果を使えば!

 

「俺はマエストロークの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使いフォーク=ヒュークを裏側守備表示にする!」

 

「ならばフォーク=ヒュークの効果発動、オーバーレイユニットを使い、マエストロークの攻撃力を0にする!」

 

 オーバーレイユニットを吸収した両者は互いに攻撃を放つ。

 マエストロークはタクトより、フォーク=ヒュークは山頂にある水晶より光を放ち、互いに着弾する。

 

「墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動、墓地のこのカードを除外しゴルゴニック・ガーディアンの効果を無効にする! そして俺はガガガマジシャンを召喚、ワンダーワンドを装備する。バトルだ、ゴルゴニック・ガーディアンをガガガマジシャンで攻撃!」

 

ガガガマジシャンATK2000 VS ゴルゴニック・ガーディアン ATK1600

 

 魔法使い専用の杖を持った不良魔法使いは呪われた石像へと走る。

 拳が叩き込める距離までたどり着いたガガガマジシャンは手にした杖を邪魔だと言わんばかりに上に投げ捨て、腰の入った正拳付きを石像へと叩き込んだ。

 

破壊→ゴルゴニック・ガーディアン

堺LP3700→3300

 

「メイン2、ワンダーワンドとガガガマジシャンを墓地に送り2枚ドロー、俺はカードを

1枚伏せてターンエンドだ」

 

遊馬場     交響魔人マエストロークDEF2300(ORU0)

LP200    

手札1     伏せ1

 

堺場     セットモンスター

LP3300  

手札0    

 

 墓地にブレイクスルー・スキル、場にオーバーレイユニットを残したマエストロークがいる状況、堺はゴルゴニック・ガーディアンが倒されるだろうと踏んではいた。

 マエストロークの守備力をフォーク=ヒュークのみでは超えることが出来ず、だからこそ堺のドローに全てがかかっている。

 

「行くぞ、私のターンドロー、私はフォーク=ヒュークを反転召喚、そして一時休戦を発動」

 

「くっ……」

 

 堺と遊馬は黙ってカードをドローする。

 両者はほぼ同時に顔を挙げ、2人の視線が衝突し、火花を散らす。

 

「私は魔法カード、先史遺産技術を発動。墓地より先史遺産のクリスタルスカルを除外し上から2枚を確認し、そして1枚を手札へ加え、残りを墓地に送る」

 

 墓地に送られたのはスキル・プリズナー、遊馬はそれを確認し小さく呻き声を漏らす。

 

「そして私はエクシーズ・トレジャーを発動、デッキより2枚ドロー、カードを伏せ、モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

堺場   No.44先史遺産超機関フォーク=ヒューク ATK2000(ORU1)

LP3300  セットモンスター

手札0    伏せ1 

 

遊馬場     交響魔人マエストロークDEF2300(ORU0)

LP200    

手札2    伏せ1

 

「俺のターンドロー」

 

 遊馬のターンとなるも、戦闘ダメージを与えられない今の状況、せめてフォーク=ヒュークだけでも何とかしようと願いを込めるも、来ない。

 

「俺は……カードを伏せてターンエンドだ」

 

 堺は遊馬が伏せたカードへと目を移す。

 2枚伏せてある状態、激流葬でも伏せられようものならば堺の敗北は必須だ。だが堺は口元に笑みを浮かべる。

 罠を踏んで負けたならばそこにいたるまでに倒せなかった自分が悪い、除去カードを引き当てれなかった自分が悪い、だから次はもっとこうしようと考える材料となる。そして人は前に進むことができる。

 それが自分の持論だ。

 自分が生きてきたうえで信じてきたことであり、それは自分が死ぬまで変わらないだろう。

 

「私のターン」

 

 ふとデッキトップに手を置き思い出すのは自分が氷村響子、いやその中に潜む者へと

言い切った言葉だ。

 自分のやったことに後悔などない、それは当たり前だ。

 自分の決断で受けた損得を後悔した所で過去は戻らない。出来るのは過去の自分の決断をどう活かすかだ。

 得を得たならば誇り笑えばいい、損を受けたならばどうして間違えたのかを考えもう一度立ち上がればいい。

 だが世の中にはそれができない者もいる。

 圧倒的な財力か戦略か運かカード性能か、それら全ての何かに負けてつまらない、楽しくない、くだらないと投げ出す者もいるのも事実だ。だからこそ堺は自分の研究の強行した。

 

「ドロー!」

 

 カードを拾える世界ならば資産を無くても皆がある程度強いカードを拾えれば、どうやってもどうあがいても勝てない、無理だと思わす事はある程度無くなるのではないか。

 そしてもう少しで勝てる、どうにかすれば勝てると、自分の決断による敗北から学び努力を促す空気が作り出せるのではないかと考えたのだ。

 そうすればきっともっと世界は、人は前に進めると信じている、自分はそのための遺産となろう。

 いずれ私を追い抜く者が私の所業を知り、失敗を笑い、そうならない様に努力しろと、それを知らしめるための物になろう、そう願っている。

 

―――だが遊馬君のように失敗を恐れすぎない猪突猛進はそれはそれで問題だがね。

 

 堺は引いたカードを見てカードとデッキへありがとう、と呟く。

 伏せを見なければヴォルカザウルスで焼くかマシュ=マックの効果を使えば勝てる。

 だが2枚の伏せ、ここまで粘りを見せた彼の実力で、あれらがそれを許すカードの筈が無い。

 ならばここは自分の魂のカード、一剣に全てを賭けよう、そう決めた。

 

「私は死者蘇生を発動、墓地のネブラディスクを特殊召喚する、そしてセットしていたゴールデンシャトルを反転召喚する」

 

 遊馬からすればフリーにおける敗北のキーカード、その効果発動の条件は整った。

 

「来るか……!」

 

 罠を発動させる動きを見せない遊馬、それを見て堺は手を握り、

 

「シャトルの効果で先史遺産モンスターのレベを1つ上げる、そして、レベル5となったネブラディスク、ゴールデンシャトルでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 全てを切り開け忘却された神話の剣よ、その力は全ての事象を書き換え、全ての策略を打破する、さあ現れよ我が魂に眠りしカード!」

 

 金属が打ち鳴らされる音が観客席まで響く。

 先史遺産としてモンスターの体を構成していた黄金と青銅は見えない何かの操る鎚によって打ち直され、その音が響くたび火花が散り歯車が鍛錬されていく。

 渦を巻くように無数の歯車は宙を飛び合致し、謳う様に、誇る様に、共に戦えることを喜ぶように歯車の音を高々と響かせそれは姿を現す。

 

「ランク5、アーティファクト・デュランダル!!」

 

 最後に光り輝く黄金の歯車が装填され、完成するは全てを書き換える最強の剣だ。

 アーティファクトを素材としていないためなのかラインは走っておらず、しかし金と青銅がパーツの至る所に見て取れる。

 

「ではいくぞ、アーティファクト・デュランダルでマエストロークを攻撃」

 

交響魔人マエストロークDEF2300 VS アーティファクト・デュランダル ATK2400

破壊→マエストローク

 

「そしてフォーク=ヒュークで直接攻撃だ」

 

「この瞬間、俺は手札からガガガガードナーの効果発動、ガガガガードナーを守備表示で特殊召喚する!」

 

 特殊召喚されるガガガガードナーの守備力は2000、フォーク=ヒュークの攻撃力と同じであり戦闘破壊できない。

 ガードナーの効果にデュランダルの効果発動させることも考えたが、発動した後でミラーフォースを踏んだ場合確実に負けてしまうため堺は悩み、実際に踏んでしまった過去の経験から発動させなかった。

 

「ふむ、何もない、メイン2、ターンエンドだ」

 

堺場    No.44先史遺産超機関フォーク=ヒューク ATK2000(ORU1)

LP3300  アーティファクト・デュランダル ATK2400 (ORU2)

手札0    伏せ1

 

遊馬場    ガガガガードナー DEF2000

LP200    

手札1    伏せ2

 

「俺のターンっ」

 

 遊馬は後ろへとバク天し走り、距離をとると思いっきり渾身の力で飛びこむ。 

 自分の持つかっとビング魂を、相手の今できる最強とも呼べるような布陣へと飛び込む意思を遊馬は自他共に全ての人へ見せる。

 未来を諦めない、見えない全てを怖がらない、不可能に思える事全てに挑戦する、そのような意思を持ちカードを引き抜く。

 

「ドロー!」

 

 引き抜いたカード、そして今できる最良を考え遊馬は決断する。

 

「俺はエクシーズ・トレジャーを発動!!」

 

「させるわけがない、そう分かってるはずだ! アーティファクト・デュランダルの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い相手の発動したカード効果を相手フィールドの魔法罠カードを破壊する効果へと書き換える、エフェクト・リライティング!」

 

 遊馬へと恩恵を与える魔法は神話の大剣より放たれる光によって効果テキストを魔法罠を砕く効果へと書き換えられる。

 

「更に罠カード、アーティファクトの神智を発動、デッキよりアーティファクト・モラルタを特殊召喚する!」

 

「くっ、俺はアーティファクトの神智を破壊する!」

 

「破壊された神智で私は⋯⋯遊馬君の伏せカードを、そして相手のターンに特殊召喚されたモラルタの効果でガガガガードナーを破壊する」

 

 遊馬の伏せ、ダブルアップ・チャンスが破壊される。

 これによって遊馬に残っているのは1枚の伏せカードと、手札のみだ。

 

「俺は貪欲な壺を発動、墓地のガガガシスター2体、マエストローク、ホープ、風神雲龍剣をデッキに戻し2枚ドロー、俺はゴゴゴジャイアントを召喚、墓地のゴゴゴゴーレムを特殊召喚しレベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴーレムでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、行くぜ! No.39希望皇ホープ」

 

 その戦士が現れるのはこの決闘で3度目だ。

 徐々にボロボロになっていくその姿に過労死しそうだな、と堺は考え、ネブラディスクやプレアデスを連射して置いてその考えはないかと自嘲する。

 

「ホープをエクシーズ素材としてカオスエクシーズチェンジ、CNo.39希望皇ホープレイ! そして罠カード、エクシーズ・リボーンを発動! 墓地のZW-獣王獅子武装を対象に、このカードを特殊召喚する!」

 

 再び現れる戦鎧獅子、今度こそ自分のフルパワーを叩き込むと吠える獣王の口にオーバーレイユニットが飛び込む。

 

「ZW―獣王獅子武装のモンスター効果発動、オーバーレイユニットを1つ使いデッキよりZWと名の付いたカードを加える。俺が加えるのはZW-風神雲龍剣だ。そしてZW―風神雲龍剣のモンスター効果発動、ホープレイにこのカードを装備する!」

 

「オーバーレイユニットを使い、フォークヒュークの効果発動! ホープレイの攻撃力を0にする」

 

 水晶より全てを押さえつける波動が放たれる。

 その波動を受け、ホープレイは1度は地面に膝をつくも、遊馬より投じられた風神雲龍剣を支えに立ち始める。

 

「これが俺の全力だ! 希望皇ホープレイの効果発動、オーバーレイユニットを全て使い、相手モンスター、アーティファクト・デュランダルの攻撃力を3000ポイント下げホープレイの攻撃力を1500ポイントアップさせる、オーバーレイ・フルチャージ!」

 

 上から押さえつけようとする輝き、それすらも塗り潰さんとホープレイは隠し腕を展開する。

 ギシギシと軋みを挙げながらも動く隠し腕は背負う大剣を抜き、オーバーレイユニットを使い光剣を作り上げた。

 

「そして獣王獅子武装の効果発動、このカードを希望皇ホープと名の付いたモンスターの装備カードとなる! 獣装合体ライオホープレイ!!」

 

 吠え、戦鎧獅子は再びパーツへと変わる。黒と黄色の二色だった戦士へと赤と白と黄色で彩られた脚甲と手甲、新たな鎧を変装、そして赤と緑の龍剣に新たなパーツが加わり全てを砕く超火力の一撃特化の戦士へと変わる。

 

「いっけぇライオホープレイ、アーティファクト・デュランダルを攻撃!! ホープ剣・トリプル・カオススラッシュっ!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ ATK5800 VS アーティファクト・デュランダルATK0

 

 莫大な加速と共に空へ上ったライオホープレイはデュランダルを肉薄する、負けないと言わんばかりに巨大な自身の体で貫こうとしてくる剣めがけライオホープレイは避ようとはせず背中の大剣、そして両手で握りこんだ龍剣を振りかざす。

 振り下ろされた両剣の一撃を受けても神話の通り、剣は砕けず、曲がらず、弾き飛ばされ地面に刺さる。

 聖剣は主の命に応えられない事を無念そうに黄金の歯車を僅かに動かし、動きを止めた。

 

破壊→アーティファクト・デュランダル

境LP3300→0

勝者 遊馬

 

                   ●

 

『きぃまったーー! 激戦、プレアデスの連打からのオネスト、そしてフォーク=ヒュークをかい潜り九十九遊馬選出の凄まじい一撃が炸裂ぅううううう!!』

 

『いや、いや、これは素晴らしい試合でした、プレアデス3連打とか普通に諦めそうなレベルなのにそれら全てを突破してあの一撃、そして彼等の楽しいそうな顔、素晴らしい、まさに俺が目指すエンジョイ決闘そのものじゃないか!』

 

『観客の皆さん、激戦を繰り広げた二人、プロ連合とWDC連合、五人の決闘者に拍手をお願いします!』

 

                    ●

 

 計画が上手く行かなかった事をベクターが知ったのは激流の渦巻く海の中だ。

 プロ組に渡した腕輪、自分の力を込めたそれからベクターは5人の得た情報をかすめ取って居た。

 そして今、最後の堺が負けた事を感じとり、やっぱり貧弱な人間は使えねえな、とぼやいた。

 それでもプロ達が集めたナンバーズを考えれば、フェイカーやトロンよりはまだマシな方だと自分を慰め、激流を突き進む。

 バリアン七皇は人間世界では全力が出せず、バリアン形態のままではいられない。

 だからこそ人間形態になり、他人を利用したり洗脳するしかできなかったのだが、ここ数か月の侵食の結果、全力とまではいかないがある程度までならば力を行使できるようになった。

 ベクターは人間形態のまま、周りの海水も膨大な水圧も無視して海の中を進む。

 来る者全てを拒む激流の壁を強引にぶち抜き、見えてくるのは巨大なシャボン玉のように空気を閉じ込めた空間だ。

 

「ほう、これは当たりだなぁ」

 

 人間世界の常識では考えられない光景にさっそく当たりを引いたことに喜びつつ、ナンバーズを回収したらどのような言い訳を使って自分の物にするかを考えベクターは空間の内部、遺跡へと降り立った。

 膨大な埃、そして潮臭い荒れ果てた遺跡だ。

 一番高い祭壇のような場所より周りを見回すと薄い巫女のような服を着た人影がこちらに背を向け泣いているのが見える。

 ベクターが先に思ったのは歓喜と危機感だ。

 人が来れるはずの無い場所にいる人間、そんな者が居る筈が無い。

 ナンバーズを守る番人か、それかナンバーズが実体化したのかどちらなのか、そう疑問に思いつつ、とりあえずカードを回収しようとベクターは今出せるフルパワーでエネルギー体の紫色の腕を伸ばす。

 正体は分からないがとりあえず握りつぶしてみよう、そういう安易な発想のもとに行われた紫色の手は空を切った。

 ベクターが疑問に思うよりも早く振り返った人間、ベールをかぶり口元だけ露出した少女と思しき人物はベクターの伸ばした腕をくぐりベクターへと接近、その加速の勢いを殺さずドロップキックをベクターの頬へ叩きこんだ。

 

「ぐべっ!?」

 

 これは主様の分、と少女は呟き、倒れこんだベクターの股間を踵で踏み潰す蹴りを放つ。

 ベクターは元々、リアルファイトができるタイプではない。よって裏から操るのが得意な彼は逃げ回るしかない。

 埃まみれになりながらも床を這い転げ、距離を開けるも少女は更にベクターを肉薄し、蹴りや手刀を用い攻撃してくる。

 

「くっそ、脳筋なミザエルやアリトと違って俺様は頭脳要員なんだって、言ってんだろぉ!」

 

 止まらない連撃に痺れを切らせたベクターは辺り一面に力を放出、少女を弾き飛ばした。

 素早い分、防御力は薄かったのか、それとも当たり所が良かったのか、緩慢な動きで起き上がる少女へとベクターは近寄る。

 

「へっへっへ、これで終わりだなぁ」

 

 下種な表情を浮かべ少女に近寄るとベクターは背後から殺気を感じる。

 ベクターが振り向くと立派な髭を蓄えた男が立ち、手に持つ錫杖で殴りかかってくるのが見える。

 大きく筋肉隆々の男だ。

 青い鎧を身に着け中世の恰好をした男は錫杖を横に薙ぐ。

 

「ひぃっ!?」

 

 ベクターが慌てて横へと逃げると男は錫杖を振り回した勢いと走る勢いを殺さず、そのまま少女を抱えると空へと飛び上がった

 どこからどう見ても人間ではない。

 

「あいつもナンバーズか! 待ちやがれ!」

 

 ベクターが追おうと空中へ飛び上がると髭の大男がこちらを向き、指を鳴らす。

 音が鳴り、変化は一瞬で起きる。

 水中に作られたドームがシャボン玉の様に割れたのだ。

 当然、押しのけられていた海水が全方向より流れ込み、ベクターの全身を打撃した。


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