クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第七試合 下 + 第八試合 上

 最上の自己愛がぶちまける負けろという意思、それは会場にいる者に平等に叩きつけられる。

 その中で裕は目を閉じていた。    

 

―――本当に自分が嫌になる、本当に俺はギリギリの綱渡りしかできない……。

 

 ここまでデッキにおぜん立てをしてもらって神がかったドローをしておいて勝てない。そして最後の最後で勝敗を自分の力ではなく相手任せをしなければいけないことに不甲斐ないと、本当に不甲斐ないと裕は拳を強く、砕けそうになるほど強く握りしめ怒る。

 今、伏せたカードでフォーミュラ・シンクロンを蘇生させれば勝てるかも、しれない。

 裕の手札に残るのはクイック・シンクロン。

 そしてクイックから今のエクストラの中から出せるのはジャンク・ガードナーとジャンク・ウォリアーのみ、そしてもう裕のエクストラに残されたモンスターは残り少なく、この状況を突破されてしまった場合敗北に直結する。

 死者蘇生も大嵐も使った。

 今、裕にできるのは目を閉じ祈る事だけだ。

 目をしっかりと閉じ、信じ祈る。 

 

―――頼む。

 

 最後の所は運任せ、その言葉が自分の不甲斐なさを一層際立たせ、その不甲斐なさは裕の脳裏に強く残る。

 そして裕の祈る様子を見て、最上はドローよりも先に考えをまとめていく。

 場のモンスターは何も妨害をしてこないしダンセル召喚で終わる雑魚なので考えるまでもない。

 問題は手札と伏せカード1枚なのだが裕の表情、ターンエンドを宣言した際の呟き、積み上げてきた過去の経験から伏せカードに全てを託しているのだろうと推察する。

 

―――場のシンクロモンスターのレベル合計は10、あの踏みにじりがいのある表情は何かを狙って居る筈。

 

 最上は裕が狙っているであろうことを読み切り、それを砕こうと手を伸ばす。

 願いも希望も、裕のここまでの頑張りと願い、全てを踏みにじり楽しく勝ちたい。その感情を乗せた手はデッキへと乗せられ、

 

「ドロー!」

 

 引く。

 カードを見た最上の表情は喜びの顔だ。

 ここで引き当てた自分を誇り、蹂躙してやるという笑みを浮かべる彼女は高らかに笑い、

 

「サイクロンだ、お前の伏せを破壊する!」

 

 そして裕は、

 

「だよな、そうだよな、お前はこの状況でそのカードを引くよな……」

 

 終わった、そう言う様に肩を落とし、俯く。

 肩が細かく震え、泣く様に動き、漏れるのは怒るように、惜しむような声だ。

 その様子に勝ったと最上は確信する。

 

―――伏せが和睦や威嚇でもヴェルズ・ビュートで全てを叩き割って次のターンに攻撃すれば勝てる。それ以外なら適当なランク5を下敷きにガイアドラグーンを出してレベル・スティーラーを攻撃すれば私の勝ちだ。

 

「藤田プロの時もそうだったけど、最後は運に任せるってのが嫌になる。なんで自分の結末を他人に左右されなければならないのかって本当に思う、悔しいよ、本当に悔しい⋯⋯」

 

 拳を握り振り絞る声、その内容はただの負け犬の遠吠えの様に最上には聞こえる。

 

「だからこの状況でなにを言っている……まあいい、この勝負、私のぉ!」

 

 勝利宣言をしようとする最上へずっと顔を落としていた裕が顔を上げる。

 

「本当に運試しの連続で嫌になるよ、でもお前のその行動でこの勝負、俺の勝ちだっ! 永続罠発動、強化蘇生っ!!」

 

「はあっ? それでどうやっ、て…………ッ!?」

 

 眉をひそめる最上はそのカードの効果を考え一瞬だけ悩み、それを理解したとき最上の目は大きく開かれる。

 

「まさか!?」

 

「甦れ、フォーミュラ・シンクロンっ!!」

 

 罠より呼び出されるは機械の体を持つモンスターの姿だ。

 回転し始めたタイヤから火花が散りそしてそれと同時に最上のエクストラデッキから光が溢れ空気すらも震わし風が炸裂する。

 最上の腰より光と風がぶちまけられ、エクストラに封印されていたカードが、主の元へ帰りたいと叫ぶように咆哮する。

 

「強化蘇生は破壊されフォーミュラ・シンクロンのレベルは元に戻る!」

 

 永続罠、強化蘇生はレベル4以下の墓地のモンスターの攻撃力を100上げ、レベルを1つ上げて特殊召喚する効果だ。

 その効果に類似するリビングデットの呼び声があり、だがたった1つだけ違う箇所がある。

 リビングデットの呼び声などの墓地のモンスターを蘇生させる永続罠カードは罠本体が破壊されれば蘇生したモンスターは破壊される。

 だが強化蘇生は違う。

 強化蘇生が破壊されても蘇生させたモンスターのレベルが下がり、攻撃力が元に戻るだけ、モンスターは破壊されない。

 裕は元々はジャンク・シンクロンとドッペル・ウォリアーとこのカードでクェーサーを出そうと企み入れていたカードがここにきて真価を発揮した。

 

「なん、で……?」

 

 最上は信じられないと呟く。

 裕がリビングデットの呼び声が無事に通ってくれと祈るのならば理解できる。

 裕がなんとかモンスターを残ってくれと和睦の使者に祈るならばまだ理解できる。

 だが、だが強化蘇生になんの祈りを込めるというのだ、と。

 

「お前は、お前はそのカードに何を祈ったっていうんだ!?」

 

 最上の声を枯らすような叫びに裕は顔を上げ真っ直ぐに最上の眼を見つめ返す そのどこにでもいるような平凡な矮躯の中に溜めに溜め込んだ怒りが今、最上へと放たれる。

 

「俺はお前を信じて祈ったんだ」

 

「私を、信じた?」

 

 敵を信じる裕を、カードに、デッキに、他人を信じず自分だけを信じる最上は裕の言葉を理解できない。

 

「私の何を信じたっていうんだ!?」

 

「お前の決闘は敵を叩きつぶし絶望する相手の姿を見て自分が楽しむためだけの決闘だ。そしてお前は勝利に繋がるカードをここぞとばかりに引き当てる、そういう力を持った奴だから。この状況なら伏せを破壊すれば俺が絶望するって! お前なら俺の様子を見てそれを確信して引き当てる、俺はそれを信じた、そうなれって祈ったんだっ!!」

 

 子供の様に気に食わない、気に食わないと地団太を踏み、

 

「俺が一番大っ嫌いな、オカルトじみた力に勝敗を賭けるしかなかった、俺だって悔しいよ、こんな馬鹿げた力に頼らないと、相手の事を信じないと勝てない俺が不甲斐ない。今この瞬間まで力を貸してくれたデッキにだって申し訳ない気持ちで一杯だ。だけど! だけど俺は賭けに勝ったっ、これで俺の勝ちだっ!!」

 

 叫ぶ。

 裕は今までに溜まりに溜まった様々な感情を吐き出し、笑う様に泣く様に叫び散らす。

 最上は顔を真っ赤に染め、歯を食いしばりながら言葉を漏らす。

 

「メインフェイズっ……!」

 

「フォーミュラ・シンクロンの効果発動! このカードを素材とするシンクロ召喚を相手のターンに行うことができる! 俺はレベル4となったTGハイパーライブラリアンとレベル6となったジャンク・バーサーカーにレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベルマックスっ!!」

  

 10の星は天へと昇る。

 それをまとめるように二つの黄金の輪が飛翔し束ねる。

 目を見張るほどの巨大に力強く脈動するように輝く10の星、それを束ねる2つの金色の輪、そしてそれを戒める物はどこにもない。

 最上のエクストラデッキが内側より弾け納められた裕のカードが独りでに浮き上がる。

 それを掴まず、最上は裕が言った言葉全てが理解できないと吠え叫ぶ。

 

「ふざけるな、ふざけるなっ、私がサイクロンを引く事を信じた? そんなことあり得るわけがない。そんな運まかせの頭のおかしい願いに私が負けるって? そんな事認められる訳が無い! 口から出まかせを言うなぁあああああああああッ!」

 

 カードを拘束していたはずの鎖に罅が入っている、さらに強くなる風に押されるように鎖の罅は大きくなりパキンという音とともに砕け散った。そこに閉じこめられていた何かは裕の取り出した白枠のカードへとまっすぐに飛ぶ。

 

「神羅万象、遍く全てを飲み込み一際輝く至高の星よ、今こそ俺のデッキの全ての力を結集し至高の龍をこの場に降臨させろ。俺の相棒、最も輝く龍の星! 来やがれ。シューティング・クェーサー・ドラゴンッ!!」

 

 光の奔流が放たれる。太陽の光すらも覆い尽くすほどの光は空を金色に彩り吹き上がる爆風は全てを揺らし、そして出現するのは神々しく光り輝く巨大な龍だ。

 ようやく戦えることを喜ぶように、最上へと怒りの声を上げるようにクェーサーの大咆哮が場を、観客席に轟く。

 

「……ふざけるなっ、そんな事、認められるか!? 引きは最高だった、プレイングも最後のミスを除いて何一つ間違ってない、なのに、どうして私が負けるっ!!」

 

 最上の言葉は終わらない。

 私が間違う筈が無い。こんな運任せのプレイングに私が負けるなんて間違っている。私が、私がこんな奴に利用されるなんてありえない、口から出まかせを言ってるに過ぎない。

 そう自己愛は吼え叫ぶ。

 

「お前が相手を叩き潰すことに拘り過ぎたからだ。俺の場のシンクロモンスター2体のレベルの合計は10、そして俺の様子からリビデがあるだろうと予想したお前はブラックホールやナイトショットではなくサイクロンを選んだ。俺が祈り願ったことを踏みにじろうと思ったから、そんな歪んだお前の願い、それがお前の敗因だ。さあ、お望み通りのクェーサーだ、突破できるものなら突破してみろよ、その手札にある最強カードでっ!」

 

「っ……くっそたれぇえええええ!」

 

 裕の煽るような言い方に最上は屈辱を感じない。屈辱に感じるのは自分の行動でクェーサーの召喚を許したことだ。

 表面上だけ見えていてそれの裏に隠された思惑を理解しようとせず、安直に乗りそしてこの現状を招いた。

 自分の楽しみを逆手にとられた怒り、それら全てが最上の人生における最大の屈辱だ。 

 しかしダンセルをセットしようとも2回攻撃のできるクェーサーを前にどうすることもできない。

 まさに手も足も出ない状況、屈辱と自責の泥のようにへばり付く感情を胸に愛ができるのは1つしかない。

 

「ターンエンドだ……」

 

最上場      

LP1300   

手札1     

 

裕場      シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

LP2000       

手札1     レベル・スティーラー DEF0

 

「ドロー、バトル、クェーサーで最上に直接攻撃だ!!」

 

 クェーサーの掌から光が溢れ出す。全てを砕く光の柱が最上の頭上より叩きつけられた。

 

最上LP1300→0

勝者 裕

 

                    ●

 

『決まったー!激しい攻防を制したのは水田裕選手だ!』

 

『あれは予測できない、僕でもあの状況でサイクロンを引いたら迷わず打ちますね』

 

 たった1ターンにおけるわずか数秒の心理戦、それを制した裕は崩れ落ちた最上の前に立ち手を差し伸べる。

 

「ありがとうございました。面白かったけど最後の結末が気にくわなかったから、いつかもう1回やろう、そん時も俺がクェーサーを出して勝つからな」

 

 呆けた顔でその手と言われた言葉の意味を考え、ため息を吐き最上はそれを握る。

 その上でエクストラデッキに入っていたクェーサーを裕へと差し出し、

 

「……ありがとうございました、だけど1つ間違ってる、次は絶対に、私が勝つ」

 

 立ち上がると控室へ歩き出した。

 

                    ●

 

「あー疲れた……またもう1回あれをやれって言われても絶対に無理だ、相手のドローに全てを賭けるなんてありえねえ、狂人のする所業だ」

 

 裕が控室に戻り発した第2声だ。

 1言目は皆への感謝の気持ちを伝えた。

 自分一人で勝ちたいからと言って借りていたカードを持主へと返し、自分でデッキを考えた独りよがりを認め、背中を蹴りだした皆への感謝の気持ちを正直に話し裕は椅子に崩れ落ちる。

 自分の行動を思い返すと頭のおかしい行動ばかりだった。

 ドロー運が良すぎるのはデッキやクェーサーが力を貸してくれたからだとは思うが最後の相手を信じる行動は思い返すとギャンブル要素が強すぎた。

 試合中に言った通りナイトショットを食らうかもしれなかったし、月の書やブラックホールを引かれていた可能性もある。

 それをサイクロンを引く事を祈り、託して、そして実際にそうなってしまった事を恥じるべきだ。と裕は考え、次に戦う時はそう言った運要素を抜きにして勝つと心に決める。

 

『さあて次の試合は……九十九遊馬選手と堺プロだ! さあ最後の一人となった堺プロどのような試合を見せてくれるのか楽しみです!』

 

 デッキをいじり始めた遊馬へ裕は近寄り、ある伝言を頼んだ。

 

                     ●

 

『さあて最後の勝負となってしまうのか第八試合、九十九遊馬選手と堺プロの試合が始まろうとしています。さあプロ組最後の1人、堺プロの入場ですっ!!』

 

 剣と錫杖、そしてオーパーツが空中を踊り、その中央を堺が歩く。

 笑みを浮かべ、今から行われる戦いを楽しみにするように軽い足取りで来る。

 

『そしてWDC優勝者、九十九遊馬ぁああああ!』

 

 遊馬の相棒はいまだに姿を現さない、その事に一抹の不安を覚えつつも遊馬は走る。全力で駆け抜ける。

 不安もある、相手もかなりの強敵だ、だけどそれはいつもの事であり諦める理由にはならない、かっとビング精神を忘れず何事にも挑戦する。

 裕は大会が始まる前はテレビ局の人間や周りから勝つのは不可能だと言われていた、それでも裕は挑戦し不可能を可能にした。

 もう一度やれと言われてもできるかもわからないような細かくか細いチャンスをひたすらに挑戦し続けたあの姿をかっこいいとも遊馬は思った。そして自分も彼の様に挑戦しようと考える。

 こちらを見る堺は帽子を取り一礼を見せ、

 

「ああ、遊馬君、あとで彼に伝言を伝えてくれないか、すまない私は君を見くびっていた、私が間違ってた、と」

 

「そういうのは自分の口で言うべきだと思うぜ、あと裕からの伝言がある。後でクェーサー地獄に叩き込むから逃げるなって」

 

 堺はそれが目に浮かんだのだろう、軽く苦笑をうかべながら、

 

「はは、それは怖いな、だがそうだな⋯⋯では始めよう私と君のナンバーズをかけた決闘を」

 

『さあ、始まります第八試合、いよいよ決闘開始です、3、2、1!』

 

「「決闘!」」

 

                   ●

 

「俺のターン、ドロー、カード・カーDを召喚!」

 

 大量のアーティファクトに妨害の罠を伏せる堺を相手に先攻を取れたことは非常に大きい。

 

「カードを2枚伏せてカードカーDの効果でこのカードをリリースし2枚ドローし、ターンエンドだ!」

 

遊馬場      

LP4000   

手札5     伏せ2    

 

堺場     

LP4000       

手札5        

 

「なるほど、良い滑り出しだね。私のターン、ドロー。では大嵐を発動する」

 

「げえ!?」

 

 遊馬は苦い顔をし、しかしカードを何も発動させず墓地に送る。

 

 破壊されるのはブレクスルー・スキルとスキル・プリズナー。

 どちらも墓地からも発動出来るカードであり堺は少しだけ眉を寄せるも、

 

「先史遺産―ネブラディスクを召喚、デッキから先史遺産―クリスタル・スカルを加え、先史遺産―クリスタル・スカルの効果で先史遺産―クリスタルボーンを加える。バトルフェイズ、ネブラディスクで直接攻撃」

 

 笑っているような顔に見える円盤が遊馬へと突進を仕掛けてくる。遊馬はそれを防ぐことはできず直撃、吹っ飛ばされる。

 

「うぁああああ!?」

 

遊馬LP4000→2200

 

 手札誘発のカードで防御されるのだろうと推察していた堺は驚き目を見開く。

 

「おや、まともにダメージが入ったか⋯⋯メイン2、カードを4枚伏せてターンエンドだ」

 

堺場     先史遺産ネブラディスク ATK1800

LP4000  

手札1    伏せ4

 

遊馬場         

LP2200   

手札5     

 

 頭をさすりながら立ち上がると遊馬は勢いよくドローする。

 

「痛てて、俺のターン、ドロー! ゴゴゴゴーレムを墓地に送り魔法カード、オノマト連携を発動。デッキからガガガシスターとゴゴゴジャイアントを加え、ゴゴゴジャイアントを召喚。ジャイアントの効果で墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚し、レベル4のゴゴゴジャイアントとゴゴゴゴレームでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろNo.39希望皇ホープ!」

 

 渦より上るモニュメントは変形し白と黄色の鎧を纏う戦士へと変わる。そして腰の一刀を抜き放ち円盤へと飛ぶ。

 

「バトルだ、希望皇ホープでネブラディスクを攻撃!」

 

「させないよ、罠カード、アーティファクトの神智を発動、そして速攻魔法、アーティファクト・ムーヴメント、私の伏せを破壊しデッキよりアーティファクト・ベガルタをセットする」

 

 風を含んだ黄金の歯車が鳴動し堺の伏せを巻き上げ堺の伏せカードへと変わる。堺の背後より宝物庫への扉が開き錫杖が突き刺さる。

 

「続いて神智の効果でデッキよりアーティファクト・カドケウスを攻撃表示で特殊召喚、破壊されたモラルタの効果により墓地より攻撃表示で特殊召喚しカドケウスの効果で1枚ドロー、更にモラルタの効果発動!」

 

 連打する金属音、それを止めるべく遊馬は墓地よりカードを抜く。

 

「させねえ、墓地からブレイクスルースキルの効果発動、このカードを除外しモンスター効果を無効にする!」

 

「ならばさらに2枚目のアーティファクト・ムーブメントを発動、私の伏せを破壊する」

 

 再び巻き上がる伏せカード、それは先ほどセットされたばかりのカードだ。

 

「破壊されたベガルタを特殊召喚しカドケウスでドロー。そしてベガルタの効果で私の伏せ1枚を破壊する」

 

 黄色い錫杖が光を放ち、そして赤い剣が地面に突き刺さると鋭い切っ先が堺の伏せてあった1枚のカードを砕く。

 

「私の破壊された伏せはアーティファクト・ベガルタを攻撃表示で特殊召喚、カドケウスの効果で1枚ドロー」

 

「なら俺は……攻撃表示のベガルタを攻撃だ。これで少しはダメージを!」

 

 今遊馬の傍に相棒がいれば頭を抱えているだろう、攻めに急ぐ遊馬へ、僅かに呆れを堺は見せ、

 

No.39希望皇ホープ ATK2500 VS アーティファクト・ベガルタ ATK1400

 

「甘いよ遊馬君、君のその行動は迂闊すぎる、ダメージステップ。手札からオネストのモンスター効果を発動」

 

「へっ?」

 

「私の光属性モンスターが戦闘を行う際に手札のこのカードを墓地に送る事で君のホープの攻撃力をベガルタへと加える!」 

 

No.39希望皇ホープ ATK2500 VS アーティファクト・ベガルタ ATK1400→3900

遊馬LP2200→800

 

 光の筋肉隆々の男が赤い剣の背後に立つと、剣を構えホープを思いっきり打撃する。打撃されたホープは遊馬へと飛び遊馬を巻き込んで転がる。

 立ち上がると遊馬のライフは800となっておりレベル4モンスターが1体、そして以前フリーで対戦した時と同様の光属性レベル5モンスターが4体並ぶ、遊馬は焦り顔を曇らせると、

 

「くっ、俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ!」

 

遊馬場     No.39希望皇ホープ ATK2500(ORU2)      

LP800   

手札2     伏せ3

 

堺場     先史遺産ネブラディスク ATK1800

LP4000   アーティファクト・ベガルタ ATK1400

手札3    アーティファクト・カドケウス ATK1600

       アーティファクト・ベガルタ ATK1400

       アーティファクト・モラルタ ATK2100

 

「さあこの攻撃をどう凌ぐかな、九十九遊馬君。私のターン、ドロー」

 

 遊馬は息を呑む。

 これから起こるのは前のフリー決闘でも体験した事、いや更にそれよりも凄まじい猛攻だ。

 

「レベル5、光属性のベガルタとモラルタでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ。ランク5、セイクリッド・プレアデス!」

 

 2体の剣は渦の中へと突き進み二つの球を纏う星座の戦士を作り上げる。その門巣他効果は強力で遊馬も以前の決闘では苦しめられたことが印象深い。

 

「こんなにすげえモンスターがもう1体来るのか⋯⋯!」

 

「そうだ、プレアデスの効果発動、オーバーレイユニットを一つ使い」

 

「罠カード、ブレイクスルー・スキル発動、プレアデスの効果を無効にする!」

 

「ほう、ならば2体目を出すぞ、再び光属性のレベル5、カドケウスとベガルタでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。ランク5、セイクリッド・プレアデス! プレアデスの効果発動、君の伏せを1枚戻して貰う」

 

「くっ……!」

 

 2発目の効果を遊馬は発動させず手札へと戻す。

 そして遊馬がシャークより教えられたこの状況で1番警戒するモンスターエクシーズが来る。

 

「ふむ、先史遺産―ネブラディスクを召喚、効果で先史遺産ゴールデン・シャトルを手札へ、そしてレベル4のネブラディスク2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろガガガガンマン!!」

 

 映画で登場しそうないかにも荒野のガンマンという風体の男が現れ、遊馬へ銃を向ける。

 

「さあ、いくぞ、私は守備表示のガガガガンマンの効果発動」

 

「罠カード、ブレイクスルー・スキル! これでガガガガンマンの効果を無効にする!」

 

 800ポイントのダメージで決着しようと考えていた堺だが防がれる。

 ナンバーズ以外の戦闘で破壊されないホープを切り崩すことの出来ない堺は、

 

「ふむ、私も運がない⋯⋯カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

堺場     ガガガガンマン DEF2400 (ORU1)

LP4000   セイクリッド・プレアデス ATK2500(ORU1)

手札2    セイクリッド・プレアデス ATK2500(ORU1)

       伏せ2

 

遊馬場    No.39希望皇ホープ ATK2500 (ORU2)

LP800   

手札3    

 

「俺のターン、ドロー! ガガガシスターを召喚、デッキからガガガ・リベンジを加える。そして装備魔法、ワンダーワンドをガガガシスターに装備する」

 

 遊馬は堺の反応を窺うも何もしない。

 

「俺はガガガシスターとワンダーワンドを墓地に送り2枚ドロー、エクシーズトレジャーを発動、今のモンスターエクシーズの数は4体よって4枚ドロー! 俺は速攻魔法サイクロンを発動、右の伏せを破壊する」

 

「残念、大外れだ、対象となった伏せカード、アーティファクトの神智を発動。デッキからアーティファクト・モラルタを特殊召喚。そしてモラルタ、および相手のカード効果によって破壊された神智の効果が発動する。神智の効果でホープを破壊する!」

 

 伝説の武具のおさめられた部屋へと手を伸ばした罰として雷がホープへと落ちる。

 それを見た遊馬はホープを守るために温存しておきたかったカードを抜く。

 

「くっ、手札から禁じれた聖槍をホープに発動、そして墓地のブレイクスルースキルの効果発動、このカードを除外しモラルタの効果を無効にする!」

 

 遊馬より投じられた槍で雷を払いのけ、青い剣の放つ光は異次元より出現した白い竜の腕によって抑え込まれる。

 

「そして俺は希望皇ホープをエクシーズ素材としてオーバーレイネットワークを再構築、カオスエクシーズチェンジ! 現れろ、CNo.39希望皇ホープレイ!」

 

 渦の中へと沈むモニュメント、そして現れるのは黒と黄色の剣士だ。

 遊馬のエースモンスターの進化系でありライフが1000以下になると攻撃さえ通れば問答無用に相手を倒すモンスターが隠し腕を展開し背中の剣を抜き放つ。

 

「そして俺は希望皇ホープレイの効果発動、このカードのオーバーレイユニット全てを使いプレアデスの攻撃力を3000ポイントダウンさせ、ホープレイの攻撃力を1500ポイントアップする! オーバーレイフルチャージ!」

 

 巨大な光剣と腰より2刀を抜き、ホープレイがプレアデスを肉薄する。

 

「バトルだ、ホープレイでプレアデスを攻撃、ホープ剣カオススラッシュ!!」

 

「甘いと言ったぞ、罠発動、強制脱出装置、ホープレイを戻してもらう」

 

 ホープレイの必殺の斬撃が放たれるよりも前、ホープレイの足元が真上へと上昇し、ホープレイを遊馬のエクストラデッキへと叩き込んだ。

 このままターンを終えてしまえば遊馬の敗北が確定してしまう。

 

「なっ!? まだだ、まだ俺は諦めねえ! メイン2、俺はエクシーズ・リベンジを発動。このカードは墓地のモンスターエクシーズを特殊召喚し相手のオーバーレイユニットを特殊召喚したモンスターエクシーズのオーバーレイユニットにする!」

 

「ほう、ここでそのカードを使うか…………どうするかな」

 

 顎に手を当て悩みながらも、面白い、堺の表情はそれだけだ。

 油断でも余裕の表れでもなく純粋に決闘を楽しみ、次に相手がどのような手を使ってくるかをワクワクして待っているそのような表情をしている。

 エクシーズリベンジの効果の後半の相手のモンスターのオーバーレイユニットを奪う効果は対象を取らない、つまりどのモンスターのオーバーレイユニットを盗られるか分からない。

 

―――ガガガガンマンかプレアデスか。プレアデスの効果は相手の場にカードがない以上発動しても意味が無い、ならばこのまま効果は使わない。

 

「俺は墓地の希望皇ホープを特殊召喚し、プレアデスのオーバーレイユニットをホープのオーバーレイユニットにし、俺はプリベントマトを墓地に送りオノマト連携を発動、デッキからガガガマジシャンとゴゴゴジャイアントを加え、カードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

遊馬場     No.39希望皇ホープ ATK2500 (ORU1)

LP800   

手札2     伏せ3

 

堺場     ガガガガンマン DEF2400 (ORU1)

LP4000   セイクリッドプレアデス ATK2500 (ORU0)

手札2    セイクリッドプレアデス ATK2500 (ORU1)

       アーティファクト・モラルタ DEF1400

 

 堺はカードをドローしつつ、遊馬の墓地に送ったプリベントマトの効果を見、遊馬がプレアデスのオーバーレイユニットを奪ったのかを理解する。

 

「なるほど、プリベントマトがあったからガガガガンマンを残したのか、だが後続のために使ってもらう、ガガガガンマンの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い、相手に800ポイントのダメージを与える」

 

 ガンマンの銃口が再び遊馬へと向けられ、引き金が引かれる。

 

「俺はプレベントマトのモンスター効果発動! 墓地のこのカードを除外し効果ダメージを無効にする!」

 

 ガンマンの銃撃を墓地から飛び出したヘルメットをつけたトマトが受け止める。力なく転がっていくトマトを遊馬はすまなそうな表情で見送る。

 

「ならばプレアデスの効果だ、オーバーレイユニットを使い希望皇ホープを手札に戻してもらう」

 

「墓地からスキル・プリズナーの効果発動、このカードを除外しモンスターの対象に取るモンスター効果を無効にする!」

 

 空間より発生した光の膜がプレアデスの作り出した光の奔流を弾く、しかし堺は表情を崩さない、そこまでは予測済みのという表情を浮かべ、

 

 「ならば、私はジェネレーション・フォースを発動、デッキよりエクシーズと名の付いたカード、エクシーズ・トレジャーを手札に加え、エクシーズ・トレジャーを発動」

 

 遊馬の場も合わせ場には4体のモンスターエクシーズ、この状況でのドローは防ぎたい遊馬は伏せていたカードを開くしかない。

 

「させるか、ライフを半分払ってカウンター罠、神の宣告発動、エクシーズ・トレジャーを無効にする!」

 

「ほう、ならば先史遺産―ゴールデンシャトルを召喚、シャトルの効果で自身のレベルを1つ上げる、そして光属性のモラルタとゴールデンシャトルでオーバーレイ、最後のセイクリッド・プレアデスだ! オーバーレイユニットを使い」

 

「まだだ、罠発動、蟲惑の落とし穴! このカードはこのターン、特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、その効果を無効にして破壊する!」

 

 プレアデスの足元、無数の目が光る落とし穴が現れオーバーレイユニットを握りつぶしたプレアデスを飲み込んでいく。

 全力をぶつけ、3体目のプレアデスまで引っ張り出された、それでもなお倒しきれない九十九遊馬と言う強敵、その存在に堺は心が躍る。

 

「ならばこの攻撃をどう防ぐ! セイクリッドもであるセイクリッド・プレアデスをエクシーズ素材として私はセイクリッド・トレミスM7をエクシーズ召喚する」

 

 渦に吸い込まれるように銀河の様に輝く空間に身を沈め星座の戦士は新たな力を手にする、現れるのは星座の力全てを結集した機鎧龍だ。

 水を払う様に身を震わせると遊馬へと向き直り甲高い声で咆哮する。

 

「さらにもう1体のセイクリッド・プレアデスをオーバーレイ素材としてセイクリッドトレミスM7をエクシーズ召喚する」

 

 2体目の龍が現れる。そのまま機械竜は口元にエネルギーをため、

 

「バトルフェイズ、トレミスで希望皇ホープを攻撃」

 

「ぐううっ!?」

 

 放たれる光は宙を流星雨のように縦横無尽に駆ける。ホープは加速し逃げようとするも全ての方向から飛んでくる光線はよけきれず直撃する。

 

セイクリッド・トレミスM7 ATK2700 VS No.39希望皇ホープ ATK2500

遊馬LP400→200

 

「さらにもう一体のトレミスでホープを攻撃!」

 

 この攻撃が通れば遊馬の残りのライフは尽きる。

 それを防ぐために遊馬が取る行動は1つだ。

 

「俺は希望皇ホープのモンスター効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い攻撃を無効にする、ムーンバリア!!」

 

 ホープの翼が前面に展開しトレミスM7の放った光線を受け止めた。

 

「ならば……」

 

 堺はエンド宣言をしようとし僅かに迷う。

 トレミスM7がこのまま維持できれば次のターンがかなり楽になる。だが遊馬の必殺の切り札、希望皇ホープレイをエクストラデッキに戻してしまった事や今の自分の手札に伏せるカードがない事、自分のライフはあるが遊馬のデッキのZWによる瞬間火力、それら全てを総合して考えれば、

 

「いやこれはまずい状況か、ランク6のトレミスをエクシーズ素材としてエクシーズ召喚、迅雷の騎士ガイアドラグーンを守備表示で特殊召喚する、もう1体のトレミスもガイアドラグーンへ、ターンエンド」」

 

堺場     ガガガガンマン DEF 2400 (ORU0)

LP4000   迅雷の騎士ガイアドラグーン DEF2100(ORU2)

手札1    迅雷の騎士ガイアドラグーン DEF2100(ORU2)

 

遊馬場    No.39希望皇ホープATK2500(ORU0)

LP200   

手札2     伏せ1

 

                  ●

 

 見渡す限り黒と赤の広がる地平がある。それらは人間世界では見られない光景である。

 そこは人間世界とは別の世界、九十九遊馬とアストラルよりナンバーズを奪おうと画策し、攻撃を仕掛けていた者達が住んで居る世界、その名をバリアン世界という。

 人間世界に比べれば小さな世界だがそこに住まう者達は皆が強大な力を秘め、その中でも更に強力な力を持つ者達をバリアン七皇と呼ばれていた。

 

「そーいうわけで俺様がアイツらがまだ見つけていねえナンバーズを手に入れてきたってなわけだ」

 

 そのバリアン七皇をまとめる副リーダー、ドルベはベクターの人間世界での活動を聞いていた。

 眼の前で報告、というよりは己の功績を誇らしげに語るベクターをドルベはじっと見ていた。

 ベクターは人間世界での黒紫のフードを脱ぎ捨て、灰色の体色に薄暗い白髪、黒い堕天使のような羽を生やしており、中身の性格に難がある物のかなり使える人材である、とドルベはベクターを評価している。

 

「そこでだ、お前ら、俺を手伝ってくれねえか?」

 

 会議進行役のドルべはまたいつもの悪ふざけか、とため息を吐きつつ、

 

「なんだベクター唐突に」

 

「いやな、頭の良い俺様は気付いちまったんだよ。九十九遊馬達が50枚のナンバーズを持っているのは前の報告で言ったよな。んで今回の俺様のグレートな計画である程度のナンバーズは回収できたんだ」

 

 机代わりに使っている鉱石の上に皆に見えるようにベクターは収集したナンバーズを提示し、

 

「が、残りのナンバーズは見つからねえ、そこで俺様は考えたんだ。ナンバーズはまだ誰も見つかっていない場所にあるんじゃないかってなぁ。だからよぅ、お前らもナンバーズ探しを手伝ってくれないか?」

 

 いつもの冗談のように、軽い調子で聞いてくるベクター、それに真っ先に反応したのは普段はあまり発言しないミザエルだ。

 

「貴様の考えが正しいって保証はどこにある?」

 

「ないなぁ。だが俺達七皇だけが人間世界に出向ける以上、お前らに手伝ってもらうのが一番効率がいいと思うんだがどうだろうなぁ?」

 

 ベクター、そして人間世界の進出作戦は順調に進んでいる。

 すでにバリアン七皇であるベクターが実体を持ち進出できるほどに人間世界とバリアン世界の距離は縮まっており、もうしばらくすればバリアン七皇全てが通り抜けることが出来るようになるだろう。

 

「だがその人間達が立ち入れない場所は何百も何千も在る筈だ、どうやってそれを探し出す?」

 

「それはだなぁ……」

 

 珍しく考え込んだベクター、それをドルべは珍しいと思う。

 いつもならば自分の頭の中である程度纏まってから喋るはずのベクターが返答に困っている、いつもの彼からすればあまりしない行動に僅かに疑問を持つと、

 

「それについては(わたくし)めに心当たりがあります」

 

 胡散臭いと印象を与える声が玉座のある部屋に響く。

 聞き覚えのない声に真っ先に動いたのは、バリアン七皇で武闘派、悪く言えば脳筋のアリト、そして今まで考え込んでいたギラグだ。

 姿の見えない声の主を探そうと躍起になる二人、そしていつまでも現れない声の主にしびれを切らしミザエルが自分のナンバーズを具現化させようとカードに手を伸ばしたとき、それはようやく見つかった。

 

「ああ、すいません、バリアン七皇の皆様、申し遅れました。私はハートランドと申します」

 

 それは目を凝らさないと見えないほど小さな、人面のある蠅だった


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