クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
「そういえばナンバーズって何なんだろうな?」
切っ掛けは些細な裕の疑問だった。
控室、休憩時間にこの大会の裏にあるナンバーズ争奪戦を考えているうちに裕が疑問を口にしたことだった。
「何って、モンスターエクシーズで、アストラルの記憶の欠片だろ」
「いやそうじゃなくって、なんでカードの力で世界を壊せるんだろうなって話」
「ああ、あのリペントが言っては話か、正直あれを信じるべきなのかどうか悩んでいる」
カイトは今はいない少女を思いだし呟く。
「というかなんでカードにそんな兵器みたいな力が宿ってるんだ?」
決闘は楽しく、そして普通に楽しむものであり、能力者バトル物でも奇人変人人外と決闘する物でも無いというのが信条の裕にとってはあまり信じたくない物だ。
それなのに裕は今、大舞台に立ち引き抜かれた魂のカードとやらを取り戻すために闘っている。本人的にあまり信じたくはないがそれを引き抜かれて以降、真面目な決闘でクェーサーを出すことができなくなった以上信じるしかないが、それでもやはり疑問は残る。
「昔からそういうオカルトめいた神話とも呼べる逸話はどこにでも転がっている、世界各地にそういう神話や石板が残されていることからもデュエルモンスターズのカードにはそういう物が宿りやすいと考えるのが妥当じゃないか」
カイトは父親の資料室に置いてあった膨大な資料の山を思い出す。
世界各地にある遺跡、それらに描かれた文字や絵にはトレジャーシリーズのイラストと非常によく似た姿のモンスター達がある。
それらがどのような関係があるのかはまだ分かっていないが遥か昔よりデュエルモンスターズと人とは密接な関係があるのは事実だ。
「もし、もしもリペントの話を信じるならナンバーズを百枚集めれば一つの世界を壊すことができるんだよね」
「……あの話を信じるのならば、そういう話になる」
「だったら、一枚辺りのエネルギー量はどれくらいだ? 世界が1つ消し飛ばせるような』エネルギーを百分割しても1枚で都市丸ごと消し飛ばせるぐらいはあるだろ、だとしたらそんなエネルギーの塊を人間が使った瞬間に蒸発するんじゃねえの?」
「いや、カードによってエネルギー量が弱いものがあるのかもしれん。それに決闘者の優れた精神力と無意識のうちにナンバーズの力を制御しているからこそ今まで大惨事が起きなかった、そう考える事もできるんじゃないのか」
常識的な考えに近い立場から言う裕と歴史等の様々な部分を交えて話すカイトの会話に遊馬は微妙についていけなくなる。
「と、とにかく、もうちょっとで休み時間が終わるし、俺と裕の二人で残りのプロを倒さないといけないんだぜ、その対策でも練ろうぜ」
遊馬が話題を切り替えようと提案し、それと時を同じくして、
『決まりました! 第六試合は九十九遊馬選手と氷村麗利プロです」
次の対戦カードが発表された。
●
『第六試合、九十九遊馬選手と氷村麗利プロの決闘が始まるぞ、それでは選手の入場だぁ!』
前回とは打って変わって麗利の服装は白い帯が中心に走り、黒一色の巫女服だ。
控室で堺より響子に取り憑いたナンバーズを回収したと言われ、彼女の目的は達成されており、ゆっくりと歩く彼女の足取りは軽い。
『最初に登場するは第二試合で神代凌牙選手と激戦を行った氷村麗利プロ、今回はどのような激戦を繰り広げるのか!?』
手を上げ観客の声援に応える麗利、そして反対側より真面目な顔つきでこちらへと歩いてくる少年。
『そして対するはWDCチャンピオン、九十九遊馬選手、どんなピンチな状況だろうとも諦めない心、まさに不屈、さあ今回はどんな決闘をしてくれるのか楽しみです』
凱旋歌のようにシンバルやドラムが打ち鳴らされ、観客は興奮した様に叫ぶ、皆が先ほどの決闘で八百長でも何でもない、彼は彼の実力でWDCの決勝まで勝ち上がったのだと思い知らされていた。
麗利の前に立った遊馬は決闘盤を展開する。
片や全ての懸念材料を捨て自由な決闘が出来る麗利、片や仲間たちの分まで戦うと決めている遊馬、2人はお互いに相手を見、
「シャークのナンバーズ、返してもらうぜ!」
「ふふ、その意気だよ、ではさくっと終わらせるよ!」
それぞれ身構える二人を見て、司会者は大きく息を吸い、
『ではみなさんご一緒に、3、2、1!』
「「決闘!」」
●
「俺のターン、ドロー、ガガガマジシャンを墓地に送り俺は魔法カード、オノマト連携を発動、ゴゴゴジャイアントとガガガシスターを手札に加える」
手札を見て僅かに顔をしかめた遊馬は僅かに悩んだ様子を見せるも動き出す。
「そして俺はガガガシスターを召喚、ガガガシスターの効果でデッキから装備魔法、ガガガリベンジを加え、そして装備魔法ガガガリベンジ発動、蘇れガガガマジシャン!」
墓地より現れた棺桶から不良の魔法使いが出現する。
「ガガガマジシャンの効果で自身のレベルを2に変更、そしてガガガシスターの効果でガガガマジシャンとガガガシスターのレベルを4にする。俺hレベル4となっているガガガシスターとガガガマジシャンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、No.39希望皇ホープ!」
現れるのは遊馬のエースモンスター、白と金の鎧を纏った戦士だ。そして墓地に送られる棺桶から光が漏れ出し、希望皇ホープへと力を与える。
「墓地に送られたガガガリベンジの効果発動、俺の場のエクシーズモンスターは300ポイント攻撃力をアップする、そして俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
遊馬場 No.39希望皇ホープATK2800 (ORU2)
LP4000
手札4 伏せ1
麗利場
LP4000
手札5
序盤の出だしとしては遊馬の動きは悪くない。
攻撃力2800、更に攻撃を無効にできるホープは面倒といえる。だが面倒なだけであり、厄介でも、強敵でもない。
「ドロー!」
場をちらりと見て、麗利はニヤリと笑う。
「海皇の竜騎隊と海皇の狙撃兵をコストに水精鱗-メガロアビスの効果発動」
「させるか、ホープのオーバーレイユニットを1つ使いカウンター罠、エクシーズ・ブロック発動! メガロアビスの効果を無効にし破壊する!!」
ホープの周囲を回るオーバーレイユニットを掴みホープは麗利の手にある蒼く輝くカードへと投げつける。
オーバーレイユニットに弾かれたカードを見、一瞬だけ悔しげに遊馬を見るモンスター、麗利の動きは止まらない。
「でもこの瞬間、墓地の海皇の竜騎隊の効果発動、デッキより深海のディーヴァを加え、深海のディーヴァを召喚。召喚時効果でデッキより海皇の狙撃兵を特殊召喚しレベル3の海皇の狙撃兵にレベル2の深海のディーヴァをチューニング、シンクロ召喚、A・O・Jカタストル!」
第二試合でも姿を現しシャークのエースモンスターを破壊した白と黄色のラインの入った破壊兵器、その効果を遊馬は知っている。
オーバーレイユニットが1つしかない状況では心もとないためホープを守る効果は一度しか使えないことに危険を感じていると、麗利は更に笑いながら手札よりカードを抜き放つ。
「更に、更にぃ! 墓地水属性が5体、これがこのカードの特殊召喚条件。来なさい、氷霊神ムーラングレイス!」
墓地を示す地面の黒穴から水が吹き上がる、そしてそれは瞬時に凍り付き巨大な氷の塔となる。
そしてそれは音を立て崩壊する。氷の塔の中より美しいステンドグラスのように乱反射する氷の破片を振るい落とし牡鹿のような角を持ち白と金の鎧を纏った強力な力を秘めた海竜が姿を現す。
「ムーラングレイスの効果発動、相手の手札2枚をランダムに選択し墓地に送る!」
「なっ!?」
禁止カードの効果を内蔵したムーラングレイスから放たれた吹雪に遊馬の手札2枚が弾き飛ばされる。
「そして死者蘇生を発動、あなたの墓地のガガガマジシャンを特殊召喚する」
遊馬の墓地より不良が引きずり出される。
「俺のガガガマジシャンが!?」
「そしてガガガマジシャンの効果発動、レベルを8にする、大崎ちゃんにぶっ倒しとけって怒られちゃったから真面目にずどんと殺しに行くね! レベル8のガガガマジシャンとムーラングレイスでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
糸が伸びる、シャドールとは違う実体を持つワイヤーが渦から巨大な人形のパーツで構成された心臓を引き吊り上げる。
心臓へと渦の中より黒いパーツが飛びつき合致し歯車を噛み合わせ巨大な人形へと姿を変える、無表情で白目をむいていた人形は眼球を動かし場のホープを見据える。
「砕け砕け、壊せ壊せ、全てを破壊し給え破壊人形よ、No.15! ギミックパペット・ジャイアントキラー!」
「このナンバーズはⅣの使ってきたナンバーズ!?」
遊馬の脳裏に描かれるのは初めてジャイアントキラーを見た決闘、そしてⅣとⅢのタッグ決闘の際に同じように守るカードがない状態で出現し大ダメージを受けた決闘だ。
「ジャイアントキラーの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い相手モンスターを破壊しその攻撃力分のダメージを相手に与える、デストロイ・キャノン!」
「くっ、ホープが⋯⋯!」」
ホープはぽっかりと口を開けた破壊人形の胸に飲み込まれ轢かれエネルギー砲弾へと変わらされる、そして胸から延びる砲台から遊馬へと射出された。
「ぐっ、うわっぁあ!?」
遊馬LP4000→1500
「バトルフェイズ、カタストルで直接攻撃!」
「くっ、手札より速攻のかかしの効果発動、攻撃を無効にしバトルフェイズを終了させる!」
裕から渡されていたカードを使い、遊馬もせまり来る敗北の魔の手より切り抜ける。
「凌がれたか、運がいいね。私は本命のカードを伏せてターンエンド!」
『おっと麗利プロ、第二試合で自分がハンデスされたからってハンデスし返すことないだろうにと言いたくなるほどの猛攻だ!』
『氷霊神のデメリットもエクシーズ素材にしてしまえば無いに等しいですかね、カタストルに除去バーン効果を持つエクシーズモンスター、しかも守備力も高めとは、遊馬選手がどう来るか楽しみですね』
麗利場 A・O・Jカタストル ATK2200
LP4000 No.15ギミックパペット・ジャイアントキラー DEF2500 (ORU1)
手札0 伏せ1
遊馬場
LP1500
手札1
「俺のターン、ドロー! よし、俺はゴゴゴジャイアントを召喚、ゴゴゴジャイアント、そして手札からカゲトカゲの効果発動。手札からカゲトカゲを、墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚する」
すぐさま並び立った3体のモンスター、それらのレベルは4である。
遊馬がどのようなモンスターを召喚するのか麗利は考えを巡らせるも思い当るナンバーズは居ない。
「4が3体か……結構重いな、なんか居たっけ?」
「ああ、居るぜ! レベル4のゴゴゴジャイアント、ゴゴゴゴーレム、カゲトカゲの3体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、隻眼のスキルゲイナー!」
「はあっ!?」
遊馬が出したモンスターを見て麗利は素っ頓狂な声を挙げてしまう。
そのカードを見てまず思うのは素材が2体だったら入れたのに、だ。
とあるパックの所謂はずレアのカードをここでナンバーズも呼ばずに召喚したことに麗利が驚いたのも無理はない。
「スキルゲイナーの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスターの効果と名前を得る、俺はジャイアントキラーを選択する!」
「つまりスキルゲイナーは!?」
「そうだ、ナンバーズにしか戦闘破壊されずオーバーレイユニットを一つ使い特殊召喚モンスターを破壊できる、俺はスキルゲイナーの効果を2回発動し、カタストルとジャイアントキラーを破壊する!」
潰れた片目の部分に15の刻印を刻んだスキルゲイナーは両手に持つ2刀を振り斬撃を放ち2体のモンスターを砕く。
爆発したモンスターエクシーズのジャイアントキラーの余波、1500のダメージが麗利を襲うのを見てスキルゲイナーはガッツポーズをとる。
俺の力を見たかといわんばかりにアピールする戦士の姿に観客は呆気にとられる中、スキルゲイナーは麗利めがけて走り出す。
「更にスキルゲイナーで直接攻撃だ!!」
この攻撃が通ればジャストキルが成立する。
決まれ! おう思う遊馬、そして麗利は慌てた様子で決闘盤へと手を伸ばす。
「わわ、呆気にとられちゃったよ、罠発動、和睦の使者!」
「くっ、俺はこれでターンエンド」
仕留めきれなかったことに悔しさを感じつつも状況を逆転したことに手ごたえを感じ遊馬は笑顔を出す。
遊馬場 隻眼のスキルゲイナー ATK2500 (ORU0)
LP1500
手札0
麗利場
LP2500
手札0
「私のターン、ドロー、モンスターをセットしてターンエンドだよ」
麗利も遊馬も手札は0、互いにドローソースを引き当てた方が勝ちとなるであろうこの状況を観客は固唾を飲んで見守る中、麗利はドローしたカードをセットするだけで終わる。
『自分もスキルゲイナーは持ってますがここまで彼が活躍するとは思ってもみませんでした』
『ええ、自分もです、どんなカードでも状況次第では使い道があるんですね、面白いです、しかし彼女がこれぐらいで終わるものなのか、気になりますね』
遊馬のターンとなり、遊馬もカードをドローするも悔しげに肩を落とし、
「バトルだ、スキルゲイナーでセットモンスターを攻撃!」
隻眼のスキルゲイナーATK2500 VS 水精鱗-アビスリンデ DEF1000
破壊→水精鱗―アビスリンデ
「セットモンスターはアビスリンデだ、破壊されたこのカードの効果でデッキからリードアビスを特殊召喚する!」
デッキより呼び出されたのは水精鱗の中で攻撃力が高いモンスターだ。
リードアビスには自身以外の場に存在する水精鱗モンスターをリリースする事で相手の手札をランダムに1枚墓地へ送るという効果を持っており万が一水精鱗モンスターをドローされてしまえば遊馬の手札は無くなってしまう。
「俺は、カードを伏せてターンエンドだ」
遊馬場 隻眼のスキルゲイナー ATK2500 (ORU0)
LP1500
手札0 伏せ1
麗利場 水精鱗―リードアビスATK2700
LP2500
手札0
「ドロー! 貪欲な壺を発動。ムーラングレイス、竜騎兵、ジャイアントキラー、カタストル、アビスリンデを戻して、2枚ドロー⋯⋯バトルだよ、リードアビスでスキルゲイナーを攻撃!」
リードアビスの持つ青いサンゴのように尖っている型の大剣とスキルゲイナーの持つ2刀が撃ち合わされ火花を散らす。
連打される金属音が、モンスター達の雄叫びが周囲へと響く。
打ち合う2体の攻防は激しさを増し、終わりを告げる。
リードアビスの横薙ぎがスキルゲイナーをの胴体を捕らえたのだ。
吹き飛ばされ壁に激突しぐったりとするスキルゲイナーへとリードアビスは大剣を突き立てようとジャンプし、
「罠発動、ガードロー! スキルゲイナーを守備表示にしデッキから1枚ドローする、そしてナンバーズとなっているスキルゲイナーはナンバーズモンスター以外の戦闘では破壊されない!」
スキルゲイナーは横に転がる事でそれを避ける。
距離を取った2体は互いに睨みあいを続け、それを見た麗利は惜しいという感情を声ににじませ、
「むう、ダメージすらないかぁ……メイン2、本命のカードを2枚伏せてターンエンドだよー」
麗利場 水精鱗―リードアビスATK2700
LP2500
手札0 伏せ2
遊馬場 隻眼のスキルゲイナー DEF2600 (ORU0)
LP1500
手札1 伏せ0
「俺のターン、ドロー、ガガガシスターを召喚! ガガガシスターの効果で」
「甘い、ブレイクスルースキルを発動、ガガガシスターの効果を破壊する」
ガガガシスターの効果は止められてしまい、更に次のターンにはスキルゲイナーの持つ戦闘破壊耐性も失われる事が確定し、遊馬は焦りを浮かべ、
「くっ! 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
遊馬場 隻眼のスキルゲイナー DEF2600(ORU0)
LP1500 ガガガシスター ATK200
手札0 伏せ1
麗利場 水精鱗―リードアビスATK2700
LP2500
手札0 伏せ1
「ドロー、深海のディーヴァを召喚、デッキより海皇の狙撃兵を特殊召喚し、墓地よりブレイクスルースキルの効果発動、このカードを除外しスキルゲイナーの効果を無効にする、そしてバトルフェイズ……あの伏せカードで防がれるとめんどいしアドを取りに行くか、リードアビスでスキルゲイナーを攻撃」
走り出したリードアビスの大剣が上段よりぶちかまされ、スキルゲイナーの翳した2刀ごと両断する。
水精鱗―リードアビス ATK2700 VS 隻眼のスキルゲイナー DEF2600
破壊→隻眼のスキルゲイナー
「スキルゲイナーが!」
「更に海皇の狙撃兵でガガガシスター攻撃!」
海皇の狙撃兵 ATK1400 VS ガガガシスター ATK200
破壊→ガガガシスター
遊馬LP1500→300
放たれた弾丸に怯えたシスターは自分の身を守るように丸くなり頭を抱えてしゃがみ込む、愛らしいその姿を見ても半魚人は標的から視線をずらさず銃弾を放ち、その一発がシスターを捕らえた。
「このカードが戦闘ダメージを与えたこの瞬間、狙撃兵の効果発動! デッキより海皇の竜騎隊を特殊召喚する、そしてこれでとどめだ、海皇の竜騎隊で直接攻撃!」
「させねえ! 罠カード、リビングデットの呼び声、俺は墓地より希望皇ホープを攻撃表示で特殊召喚する!」
「ありゃりゃリードでガガガシスターを殴ったら勝ちだったか⋯⋯でも竜騎隊の効果で深海のディーヴァは直接攻撃ができる、深海のディーヴァで直接攻撃!」
遊馬のライフが1000以下になった事に麗利は危機感を覚える。
だからこそ、今できる最大限の攻撃を叩き込むべく、声を張り上げる。
発せられる声色は冷たく澄み回り、遊馬の背筋に寒気が走る。
「メイン2、レベル4の海皇の竜騎隊、レベル3の海皇の狙撃兵にレベル2の深海のディーヴァをチューニング」
3体のモンスターが星となって天に上る。
ムーラングレイスの氷が巨大な塔だというならば新たに天から落ちてきたのは氷山だ。
巨大な質量を持つそれが地面に衝突し地響きと冷気を纏った砂煙を上げ、そしてそれに徐々に罅が入る、ぴしりきしりと音を立て膨れ上がっていく氷山の中より腕が、翼が、三頭が封を破るように氷山を突き破り現れる。
その身を縛る氷山をいともたやすく砕きその禁じられた龍はその姿を現す。
「三界を蹂躙する禁断の龍王よ、今こそその身に秘めた力で希望すらも凍らせ、閉ざし給え、シンクロ召喚、レベル9、氷結界の龍トリシューラぁ!」
その咆哮と共に放たれたブリザードが遊馬の場も、手札も、墓地すらも氷に閉ざしていく。
「トリシューラの効果発動、君の場の希望皇ホープ、墓地のガガガマジシャンを除外する」
遊馬のデッキは墓地にモンスターを貯めて、手札誘発と罠カードでライフが0になる事を防ぎ、墓地や手札からのモンスターを特殊召喚しエクシーズ召喚を行うことに長けている。
ならば下手に墓地に送ったりバウンスするよりも除外する方が効果的だろう、そう麗利は考える。
「私はこれでターンエンドだよっ!」
遊馬場
LP200
手札0 リビングデットの呼び声
麗利場 水精鱗―リードアビスATK2700
LP2300 氷結界の龍トリシューラ ATK2700
手札0 伏せ1
遊馬の手札も場も何もカードが存在しない。
相手の場には伏せが1枚、2体の強力なモンスター、そして自分のエースであるホープは除外されている。
遊馬はその場を眺め、今は皇の鍵の中に入り傷を癒している相棒を思う。
あのとき遊馬がすぐに話せたのはアストラルが痛みを肩代わりしてくれたからだ。だからこそ小鳥に助けが呼べたし病院では少し休むだけで退院ができた、その相棒ならばこの状況を見てなんというだろうか。
遊馬は答えをすぐに思い付く。そう決闘はいつだって、
「どうな勝負でも諦めねえ! 俺のターン、ドロー! よし、俺は魔法カード、貪欲な壺を発動。スキルゲイナー、ガガガシスター2体、ゴゴゴジャイアント、カゲトカゲをデッキに戻し、2枚ドロー!」
祈るように目を閉じ、遊馬は大きくカードをドローした。
そして恐る恐る目を開き、少し悩み、何かを思いついたように目を開き口元に笑みを浮かべた。
「来たぜ! ZW―玄武絶対聖盾を召喚、このカードが召喚に成功したとき除外しているモンスターを特殊召喚する、俺は希望皇ホープを特殊召喚するぜ!」
その言葉と共に発生するのは黒く輝く渦、麗利はそれをみ、眼を細める。
「そして希望ホープをエクシーズ素材としてカオス・エクシーズチェンジ、現れろ、CNo.39希望皇ホープレイ!」
渦を割り現れた黒い剣士の姿に麗利は僅かに眉を動かし、そして余裕があるように笑顔で、
「どうせ墓地から復活させてホープレイになってワンキルしちゃうって分かってたから除外したのに、それが仇になるとはね⋯⋯流石にそれは予測できないなぁ、でもオーバーレイユニットは1つ、それじゃ私は倒せないよ」
「それはどうかな! 俺は手札からおろかな埋葬を発動、デッキからエクシーズ・エージェントを墓地に送る!」
「エクシーズ・エージェント?」
聞いたことのないカード名に麗利は眉を寄せ、カードテキストを確認し諦めたようにああ、と呟き肩を落としため息を吐く。
「そして墓地のエクシーズ・エージェントの効果発動、このカードを希望皇ホープと名の付いたカードのオーバーレイユニットとなる。俺は希望皇ホープレイの効果発動! オーバーレイユニットを2つ使い、氷結界の龍トリシューラの攻撃力を2000ポイント下げ、ホープレイの攻撃力を1000ポイントアップするオーバーレイチャージ!」
墓地より姿を現したサングラスをかけたスーツ姿の男の取り出した鞄よりオーバーレイユニットを現す黄色い球が飛び立つ。男はそのまま仕事が終わったとばかりに背を向け墓地へと歩いていくその男の背を光が照らす。
それの発生源は黒の剣士が放つ弱体と強化をもたらす莫大な光の剣だ。相対する氷の龍は威嚇するように吠えるもその声には先ほどの猛吹雪を呼び出すような力はない。
「バトル、希望皇ホープレイで氷結界の龍トリシューラを攻撃! ホープ剣カオス・スラッシュ!!」
莫大な光量を持つ巨大な剣が、両側より振るわれる刃がトリシューラの声も上げさせる暇もなく切り裂き、砕く。
CNo.39希望皇ホープレイ ATK3500 VS 氷結界の龍トリシューラATK700
麗利LP2300→0
勝者 遊馬
●
『トリシューラの効果を逆手に取り、九十九遊馬選手の強烈な一撃が炸裂しましたぁ! これで両チーム残るは2人となりました、さて次は誰と誰が当たるのか!』
話し続けるテレビの前で裕達は大きく安堵の息をを漏らしていた。
テレビに噛り付いて居たため体が硬くなっており、裕が大きく伸びをしたり腕を回していると遊馬が帰って来た。
「よく勝ったな、おめでとう」
「へへっ、ありがとよ、でもこれでお互いに2人か、裕はどっちと決闘をしたいんだ?」
「どっちもクェーサー地獄に叩き込むって決めてるからどっちでもいいが、やっぱり最上とやりたいな」
『決まったー! 第七試合は水田裕選手と最上愛プロだぁっ!』
控室は凍り付いた。
裕も動きを止め、顔は軽口を叩いた表情のままだ。
しばらくそのままの姿勢で固まっていた裕は油の切れたゼンマイの様にギギギと緩慢な動きで首を動かしテレビに表示された名前を見る。
「…………ははっ、来ちまったよ」
自嘲するように呟き裕は震える手でデッキを取り出す。
「と、とりあえず手札誘発を積んで、ヴェーラーと増G来ますように頼むしか⋯⋯あばばばっ」
自分の信頼して、今は囚われのカードへと祈り始めた裕の頭をカイトが軽く叩き、陵牙が軽く小突く。
「いい加減にしろ、祈ってもドロー運は良くならない、お前ができるのは何だ」
「俺ができる事……って」
カイトは微妙に不機嫌そうな顔つきになり、
「というよりも貴様、今の発言を総合すると俺があの女に負けたのはクリフォトン以外の手札誘発を引かなかったから負けたという風に聞こえるんだが、貴様それでも決闘者か、デッキを信じろってあれほど言っただろう!」
「分かってるけど、分かってるけど、あのデッキには嫌な思い出しかないんだよぉ! 手札誘発を引かない方が悪いって理不尽な言葉があのデッキのせいで生まれたんだぞ、意味分かんねえよ!」
「分かったから、ほら落ち着け、錯乱する気持ちは分からないがとりあえず落ち着け」
裕のトラウマから来るパニック症状にも似た動きに思わず陵牙がいつもは使わない言葉遣いになってしまうほど裕の様子は酷かった。
それでも陵牙やカイト、そして遊馬のカウンセリングで復活した裕がデッキを改造する、そして準備ができた。
デッキは組んだし精神状況も先ほどに比べれば大分ましだ。
一回戦で藤田に言われたことを思い出しつつ、遊馬達へ微妙に強ばった笑みを笑顔を向け、
「行ってくる」
控室を出た。
その様子を見た四人は顔を見合わせると立ち上がった。
●
「所長、やっと政府から遺跡の発掘許可が下りました!」
とある国の研究室、テレビでWDC補填大会の様子を観戦していた男は飛び込んできた部下の言葉を聞き、顔にきしょくを浮かべ立ち上がる。
「そうか! では準備が整い次第発掘作業に出発しよう」
複数の様々な国、とある大学や研究所、あるいは個人が遥か昔に作られた遺跡に対する調査が行おうとしていた。
それらは善意や野心、探求心から行われている事であり悪い事ではなく法律に触れるわけでもない。
だがそれらを利用しようとする者がいる。
ちょっとずつ。
ちょっとずつ。
忍び寄り、枕元に立ち、あるいは耳元で囁き、時には洗脳を施し膨大な数の遺跡より、特別な七つの遺跡を探し当てようとする動きだ。
それは悪意に満ち満ちた者の残滓であり、遠く遠くの異国で行われているとある試合の事の知っている。
体の主を庇い宿敵が深く傷ついた事、その傷を癒しかけている事も知っている。
だからこそ、それらは急ぐ。
邪魔をされず己の手にいれるべき全てをつかみ取る為に、ナンバーズを回収するために動く。