クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
「あの様子に動く様子が見えない伏せはなんだ? 激流や神宣でもないようだし召喚反応系じゃねえな、攻撃反応系でもないようだし/ブラフか? だとしたらあのガキ終わったな」
控室のテレビを見ながら藤田がぽつりと呟く。
その表情にはまだ九十九遊馬が終わってないだろうという確信があり、大崎がそれをどう対処するかを見守る色がある。
「大崎のデッキって罠で敵を封殺するよりもスキドレを張り続けて半無限復活してくるグラファで殴り続ける脳筋デッキだからなぁ、サイクロンでも引けば状況は変わるかもしれない、まだ勝負は分からないよね」
最上は口元に手を当て考えるそぶりを見せる。
―――戦った感想からいえば回すためのカードばかり積んで罠と言えるのは激流とスキドレぐらいしか積んでないから割るカードを相手が引けなければ制圧力はある、スキドレを破壊されたら逆転はできる、って普通は考えるんだけど。
「あのデッキはめんどいんだよなぁ、とくにピーピングとハンデスがすっげえうざい、手札の主要パーツ全部叩き落としやがるからストレスしかたまらない……」
遊馬場 ガガガマジシャン DEF1000
LP4000
手札3 伏せ2
大崎場 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
LP3000 トランス・デーモン ATK1800
手札2 スキルドレイン
伏せ1
暗黒界の門
「私のターン、ドロー! 暗黒界の尖兵ベージを召喚」
現れた暗黒界の名を持つモンスター、そして墓地にはまだもう1体のグラファが残っている。
その事実に遊馬は焦りで歪ませる。
「くっ……!」
「場のベージを戻し暗黒界の龍神グラファを特殊召喚、バトルです! トランス・デーモンでガガガマジシャンを攻撃」
一切躊躇なく行われた攻撃宣言に遊馬は驚きの表情を見せた。そして、それと同時に控室を出る際に聞いた覚えておくべきことを思い出していた。
―――できるだけライフポイントを2500以下にするな、だっけ?
激流葬からの暗黒界モンスターを特殊召喚からのグラファの蘇生、そして直接攻撃、このパターンで大崎は最年少女子プロに成り上がったという話は有名である。
トランス・デーモンの効果も遊馬は確認済みであり、だが発動しないと負けるという状況で遊馬に残された道は1つしかない。
「罠発動、聖なるバリア ミラーフォース! これでお前のモンスターは全滅だ!」
「分かってるよ、今回のターンは殺せないから、場を固める事に決めたんだ、じゃ、破壊されたからトランス・デーモンの効果発動、除外されている暗黒界の術師 スノウを手札に加えるね」
鏡の盾によって突進を阻まれ体を砕かれた悪魔の腕が動き回り除外されているスノウを引きずりだし主へと献上し消える。
「メイン2、トランス・デーモンを除外コストに暗黒界の門の効果発動します。暗黒界の術師スノウを捨ててドロー、そしてスノウの効果でデッキより暗黒界の門を加え、新しい暗黒界の門を発動します」
大崎の背後にある門が崩れ落ち、再び地面より同じ形状の門が出現する。
これによって大崎は再びモンスターを墓地に捨てれるようになる。
「墓地の暗黒界の術師スノウを除外し門の効果発動、ブラウを捨ててドロー、さらに墓地に捨てられたブラウの効果でドローします」
大崎は引いたカードを見て幼さの残る僅かに眉を寄せ、
「ん、成金ゴブリンを発動、あなたのライフを回復させ私は1枚ドロー、更に暗黒界の取引発動します」
遊馬もサイクロン等のスキルドレインを破壊するカードを引けるように願うも引けず、届かない。
今の現状では意味の無いカードを捨てる遊馬、それとは対称に大崎が捨てるのは今の状況を大崎の有利へと導くカードだ。
「私はスノウを捨てる、そして墓地に送られたスノウの効果で最後の門を加え、最後の門を発動します」
残しておいたほうがいいかもしれないが半上級モンスターを召喚する手立てがなく、そしてレベル4のモンスターが引けるかも怪しい状況であるためZWを墓地に捨てる決断をした遊馬の周囲の風景が変わる。
門が砕け、新しい門が彼女の後ろに配置される、真っ暗な闇の中でもはっきりと視認できるその門は僅かに開かれ瘴気が漂い始めている。
「そして私は手札3枚伏せて、伏せたばかりの墓穴の道連を発動」
「くっ、またか」
遊馬の手札にあるのはガガガカイザー、カード・カーD、タスケルトン。大崎の手札は暗黒界の尖兵 ベージ。
大崎の手札は1枚、遊馬に選ぶ権利など無い。
「ガガガカイザーを捨ててください」
「俺は、ベージを選択する⋯⋯」
「ではドロー、そして墓地に捨てられたベージを特殊召喚、そしてベージを再び手札に戻しグラファを特殊召喚、さらにカードを伏せ、伏せていた最後の墓穴の道連れを発動」
「ちょ、ええっ!?」
容赦なく開かれた3枚目のカードに遊馬は目を白黒させる。
遊馬の手札に新しく増えたのはサイクロン。そして当然、大崎の手札にあるのは暗黒界の尖兵 ベージだ。
「サイクロンを選択します」
「こっちは……ベージを選択するぜ」
「ドロー、ベージを特殊召喚し、ベージを戻しグラファを特殊召喚、ターンエンド」
大崎場 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
LP3000 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
手札2 スキルドレイン
伏せ3
暗黒界の門
遊馬場 ガガガマジシャン DEF1000
LP5000
手札3 伏せ1
大崎の伏せが3枚ある状況で攻撃力3000が2体、並び、並んでいる。
それに対し遊馬の伏せは1枚、手札は次のドローにより4枚となる。先ほどのドローの連打によるデッキの掘り進めが行われており、そろそろサイクロンを新しい引けるかもと遊馬が縋り付く様に、眼を閉じ、
「俺のターンドロー!」
引く。
それと同時に大崎が動いた。
「スタンバイフェイズ、グラファをリリースし魔のデッキ破壊ウィルスを発動、場とあなたの手札から1500以下の攻撃力を持つモンスターを破壊、そして貴方がドローするたびにそのカードを確認して1500以下のモンスターならば破壊されます!」
「なっ!?」
「さて手札を見せてもらいますよ」
遊馬の手札、タスケナイト、カードカーD、タスケルトン、和睦の使者の内の3枚が墓地へと叩き込まれる。
遊馬が取れる行動は1つにまで追いつめたのだが大崎の表情からは険が取れない。
「墓地発動のモンスターばかりか裏目に出たなぁ……。まあしょうがないか、ひたすら殴り続ければ勝てるだろうし」
表情からは警戒の色は取れず、追い詰め切れていない事に僅かに苛立ちを持ち、大崎は遊馬を見つめる。
遊馬は追い詰められている焦りを隠さずに表情に出し、祈る様にカードを伏せる。
「俺はカードを伏せてターンエンドだ!」
魔のデッキ破壊ウィルス 経過0ターン
遊馬場
LP5000
手札0 伏せ2
大崎場 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
LP3000
手札2 スキルドレイン
墓地15 伏せ2
暗黒界の門
「ドロー……成金ゴブリンを発動、さらにドロー」
遊馬のLPが6000にまで上昇するも、大崎からすればグラファ2体の攻撃で削り取れる数値であり、全く気にも留めない。
気にも留めない数値なのだがプロ決闘者との決闘でもこの状況まで追いつめれば大崎の表情は柔らかくなるのだが今度ばかりは勝手が違う。
追い込んだまではいいが大原の使ったカードにより相手は墓地より効果を発揮するカードを貯め込んでおり、押し切れる筋道が見えてこない。
何か打破するカードを、そう願いデッキを更に圧縮するも、
「引けないなぁ、ブラウを除外し門の効果発動、ベージを捨ててドロー、捨てられたベージを特殊召喚して、ベージを戻してグラファを蘇生します」
引いたカードに目をやり一美は少しだけ考える。
遊馬との決闘でプロ組が注意するべきはライフを1000ポイント以下にしない事、あとはエースモンスターであるホープが出てきたときどうやって倒すかという問題だけだ。
前者は彼女のデッキの得意分野と言っても過言ではない、問題は後者だ。
スキドレを展開している状況ではどんなエクシーズモンスターも、ナンバーズでさえ普通のモンスターに変わる。だが禁じられた聖槍、またはサイクロンで破壊された場合、ホープの戦闘を無効にする効果は面倒なものになる。
―――ここはスキドレが破壊されても良いように攻撃手段を増やしておくかな。
「おろかな埋葬を発動、ゼピュロスを墓地に送ります」
ナンバーズを特殊召喚するかもしれない、もしかすればなにかしらの手段でスキルドレインを破壊されるかもしれないという不安要素、それを大崎は砕きに行く。
「そしてゼピュロスの効果で400ダメージを受け門を手札へと戻し特殊召喚します。そして戻した暗黒界の門を再び発動、さらにトランスデーモンを召喚、レベル4のトランスデーモンとゼピュロスでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚」
渦の中へ飲み込まれ爆発する、爆発した衝撃で宙に高く放り出されたのは中央に巨大で欲望に満ち溢れ、何もかもを飲み込もうとする醜悪な口のある人の顔のモニュメントだ。
それは黒く光を放ちながら回転しながら目に見えない手で折りたたまれるように変形し、それを厳重に封印するように黒く小さな四方形が周囲を覆っていく。
何重にも何重にも覆い尽くし、最後に口の部分が覆われるも吹き上がる不吉な力に所々穴が開きサイコロのような形になり一美の場に落ちてくる。
「現れて、No.85、クレイジー・ボックス」
ごぱっという擬音を響かせ箱の一部が割れ獰猛な口が姿を見せる中、大崎は遊馬が墓地と罠のどちらで防いでくるのかを考えつつ、
「バトルフェイズ、グラファで直接攻撃」
「墓地のタスケナイトの効果発動、このカードは俺の手札が0でこのカードが墓地にあるときに相手モンスターの攻撃を受けたときにバトルフェイズを終了させ、このカードを特殊召喚する!」
グラファの上からの振り下ろしは墓地より現れた戦士によって受け止められる。
レベル4のモンスターが特殊召喚された事に大崎は警戒心を強める。
「このままターンエンドです」
『片桐プロ……少しは解説しませんか? これでは何が起こっているのか視聴者に分かりづらいですよ!』
『あ、ああ、すいません、闇デッキで落としてしまったカードがどう影響するか考えてて、つい黙り込んでしまいました』
『タスケナイトと和睦の使者で2ターンは生き延びられますからその間にサイクロンを引けるかという事ですよね?』
『まあそれもありますが⋯⋯まあこればかりは経験ですかね』
大崎場 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
LP2600 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
NNo.85クレイジー・ボックス ATK3300(ORU2)
手札1 スキルドレイン
伏せ2
暗黒界の門
魔のデッキ破壊ウィルス 経過0ターン
遊馬場 タスケナイトDEF100
LP6000
手札0 伏せ2
遊馬はカードをドローし、そのカードを大崎へと見せる。
「ドローしたのは、貪欲な壺だ!」
「っ! ……此処でドローソースを引き当てた!?」
まずいという表情を浮かべる一美と急に笑顔を浮かべ始める遊馬、対照的な2人と観客が固唾を飲んで見守る中、遊馬がデッキに手を当て、
「ガガガシスター、ガガガマジシャン、ゴゴゴゴーレム、カードカーD、ガガガカイザーをデッキに戻しデッキから2枚ドロー……!」
デッキから2枚引いた遊馬は一美にドローしたカードを見せる。
「ドローしたのは、ゴゴゴジャイアントとガガガシスターだ⋯⋯」
「はあ、よかった。闇デッキの効果でガガガシスターは捨ててもらう」
ドローしてきたのはスキルドレイン下では何も効果を発揮できないモンスター達、大崎はそれに安堵しつつ、警戒は怠らない。
「くっ、俺はゴゴゴジャイアントを召喚、レベル4のゴゴゴジャイアントとタスケナイトでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ! No.39希望皇ホープ!」
「来ちゃったかぁ……」
大会に居る者全てへと己の姿を見せ付けるようにしろと金の戦士が力強く声を張り上げる。
遊馬のエースモンスターの出現に観客たちは湧き立つ。
「俺はこれでターンエンドだ!」
魔のデッキ破壊ウィルス 経過1ターン
遊馬場 No.39希望皇ホープDEF2000 (ORU2)
LP6000
手札0 伏せ2
大崎場 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
LP2600 暗黒界の龍神 グラファ ATK3000
No.85クレイジー・ボックス ATK3300(ORU2)
手札1 スキルドレイン
伏せ2
暗黒界の門
大崎はドローし、遊馬の伏せを見る。
伏せの内の1枚は和睦の使者、つまりはこのターンで遊馬を倒すことは難しい状況となっている。
「成金ゴブリンを発動、ドロー……次のターンで聖槍とか引かれたらさらに耐えるから、追い詰める⋯⋯!」
大崎はほとんど使わないエクストラデッキよりカードを引き抜く。
その抜かれたカードより発せられるのはナンバーズの波動、遊馬の横にアストラルが居たのならば警戒を促すだろう。
「闇属性レベル8、暗黒界の龍神グラファ2体オーバーレイ、エクシーズ召喚!」
ホープやクレイジーボックスが出現したよりもはるかに巨大な渦から現れるのは白く大きな骨達だ。骨格模型が真っ直ぐに吊り上げられているようにぶらりと宙に浮かぶ。
次に現れるのは大小の筋肉の塊だ、骨に吸い付くように装着されていき糸がそれら全てをつなげていく、最後にその顔を他者から見せないようにするためなのかすっぽりとマフラーを被り服を着てその巨大なナンバーズは現れる。
「現れて、No.22不乱健。バトル、不乱健でホープを攻撃」
「罠発動、和睦の使者、これでホープは戦闘破壊されない!」
「私はカードを伏せてターンエンド」
大崎場 No.22不乱健 ATK4500(ORU2)
LP2600 No.85クレイジーボックス ATK3300(ORU2)
手札1 スキルドレイン
伏せ3
暗黒界の門
魔のデッキ破壊ウィルス 経過1ターン
遊馬場 No.39希望皇ホープ DEF2000(ORU2)
LP7000
手札0 伏せ1
「俺のターン、ドロー! ドローしたのはエクシーズ・トレジャーだ。よって破壊されない! そして俺は魔法カード、エクシーズ・トレジャーを発動! フィールドにいるエクシーズモンスターは3体、よってデッキから3枚ドローする」
―――伏せがあるから、スキルドレインがあるから、攻撃力が高いモンスターがいるからって恐れない、かっとばなくっちゃ見えてこない物もある! 自分の可能性を信じて、デッキを信じて、それに向かって!
「かっとビングだ、俺!」
後ろへと距離を取り、遊馬は走り出す。
そしてできる限りの全力で跳躍、回転するようにカードを引き抜く、よろめきながらも着地した遊馬は、ニヤリと笑いカードを見せる。
「ドローしたのは⋯⋯ガガガマジシャン、禁じられた聖槍、ガガガガードナーだ」
遊馬のドローした2体のガガガモンスターの攻撃力は1500以下、よって破壊される。
「希望皇ホープを攻撃表示に変更しバトルだ、希望皇ホープでクレイジー・ボックスを攻撃!」
剣を抜き放ち突撃を仕掛けるホープを見て、大崎は顎に手を当て、考えをめぐらすも召喚反応系ばかりを伏せていた彼女には防ぐ手立てはない。
「攻撃力の低いモンスターで攻撃? 禁じられた聖槍を使って破壊してダメージを少なくする気ですか?」
「この瞬間、墓地のタスケルトンの効果発動、このカードを除外し攻撃を無効にする!」
突撃を仕掛けるホープへと迎撃するように巨大な口が開かれる、それを助ける様に黒い豚がよいっしょっと言わんばかりに墓地から短い脚を必死に動かしのぼり上がる。
その様子に観客の一部からは可愛いーー!などと言った黄色い声援が上がるも、即座に悲鳴へと変わる。
息を大きく吸い込んだ黒豚は思いっきり息を吐き出すと全身の骨がきれいに抜けてホープに体当たりをする。
体当たりされた衝撃でホープは剣を手放しそのままタスケルトンと共に空を斜めに上っていく。
「ん? 無効にするって手札が禁じられた聖槍ですよね、なんでそんな無駄な事を?」
ますます意味が分からないといった表情で首を横に傾ける一美の様子に遊馬はニヤッと笑いかけ、
「それはどうかな?」
「えっ? ……まさかその伏せはっ!?」
「ホープの攻撃が無効になったこの瞬間、リバースカード、速攻魔法、ダブルアップチャンスを発動! 攻撃力を2倍にし再び攻撃が出来る!!」
「まだ終わって、いや聖槍があるか……」
「おう、俺は更に禁じられた聖槍をクレイジーボックスへと発動、これでクレイジーボックスはフィールド魔法の効果を受けれず、攻撃力は800ポイントダウンする!」
皮膚だけになった黒豚がクレイジーボックスの下で墓地に沈んでいく、それを追いかける様に骨が背中にホープを乗せて宙を駆ける。
両腰に装備し直した再構築した2刀を振り抜き、ホープはクレイジー・ボックスへと迫る。
「いっけえホープ、クレイジー・ボックスを攻撃、ホープ剣ダブルスラッシュっ!!」
そのままタスケルトンは遊馬から投じられた槍の突き刺さり動けなくなったクレイジーボックスに突進し貫通、タスケルトンが通った穴をホープが新たに作り上げた二本の剣で広げ、切り捨てた。
No.39希望皇ホープATK2500→5000 VS No.85クレイジーボックス ATK3300→2200
破壊→No.85クレイジーボックス
大崎LP2600→0
勝者 遊馬
●
『きいまったぁー!! 遊馬選出の勝利だ!!』
『攻め急いだ彼女の小さなミスからこの勝利をもぎ取ったか、素晴らしい!』
『この場を借りてここで私は謝罪します、正直な話、スキドレからの魔デッキを打ち込まれたとき、あれこれ終わったんじゃね? って考えてました、九十九遊馬選手、本当にすいません、感服しました! 自分貴方のファンになります!!』
『テンションが上がりすぎた司会者は置いておきまして、では休憩を挟みまして、第六試合は30分後に始まります!』
●
「ごめん、みんな、負けちゃった⋯⋯」
控室へ戻った大崎は皆に頭を下げる。
「良い試合だった、色々面白い経験も積めたじゃないか、それらを忘れずにな、本当にお疲れ」
「いや、良い勝負でしたよ、惜しかったですね」
「……まあ、そこの反省しない馬鹿よりはましに見えるな」
「馬鹿じゃねえよ、こっちだって一般決闘者に負けて恥ずかしいんだぜ、でもよく頑張ったな」
口々に言われる労いの言葉に大崎はさらに肩を落とし小さくなる。
「で、でも頑張って集めたカードが」
「しょうがないって、私にこのカードを貸しちゃってたし」
麗利はエクストラデッキから1枚のカードを見せる。
「それがあったら勝ってたかもしれません、次戦う時はそれをつかって九十九遊馬をぼこぼこにしてください」
「ああ、はいはい、当たったらな、あ、ちょっとトイレ行ってくる」
●
「氷村プロ、ちょっといいか?」
トイレの帰り道、呼び止められた麗利が振り返ると、自分が対戦した神代陵牙が立っていた。
片方の手に2つはめた指輪を触りながら凌牙は真っ直ぐにこちらを見て、
「一つだけ言っておきたい、手遅れにならない内にあんたは妹に謝っておくべきだ」
なんで知っているのか、そう切り替えそうとするも妹が話したのだろうと推測し、麗利は口に出かけた言葉を引っ込める。
「どうして、そういう事を言うんだい?」
凌牙は目を伏せ、眼を開き口を開く。
「⋯⋯俺は、妹からのお揃いの指輪を渡された事がある、だが俺はそれを拒否しケンカになった。そして妹は事故に合い、今は意識不明だ」
拳を握る凌牙の指、そこには同じ型の指輪が2つ輝いている。
麗利はそれを見て、凌牙が自分と妹の境遇に己を見ているのだと知る。
「俺はその事を妹に謝れない、ずっと後悔してあのころに帰りたいと、やり直したいって思ってる、でもあんたは違う」
真っ直ぐな真摯な目で麗利を見て、
「あんたは謝れる、あんたの声は妹に聞こえて、妹はそれを答える事ができる。妹との仲だってやり直せる、そんな当たり前の機会が失われる前に!」
「関係ないとは言わないよ、だけど自分と投影してないかい? 私が妹と仲直りしてそれを見て自分もああなればいいなんて幸せな思いにでも浸る気かい」
「違う、俺は」
「……まあこの大会が終わったらとりあえず土下座してみるつもりだよ、ありがと背中蹴ってくれてありがと、君のおかげで決心がついたよ」
今まで苦しめてきた感情が少しだけ軽くなった様に思え、陵牙の肩を叩き自分達の仲間が待つ控室に歩き始める。
「待ちな、そういえば、一つ言い忘れた事がある」
「ほう、それは何だい?」
「この大会、俺らが勝つ。裕は微妙だが遊馬がそれをやってくれる」
「そうかい、楽しみに待っておくよ」
手を上げ、今度こそ後ろを振り返らず麗利は歩き始めた。