クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第四試合

『只今の結果は1勝2敗とプロがリードし始めている結果です、次の勝負で流れが変わる可能性を秘めた第四試合、次はいよいよ女子プロのどちらかが姿を表します、どのような決闘をするのか楽しみですね』

 

『いや、どっちも酷いデッキ使うから楽しみとは言えないんですけど⋯⋯』

 

『あははは、片桐プロがトラウマを誘発しているようです、さてそれでは会場に移しましょう』

 

                     ●

 

「大丈夫か、どっか痛いところとか無いか?」

 

 元の世界での普通の決闘、LP8000ですらも削り取るワンショットキルを叩き込まれ大きく吹っ飛ばされた響子へ裕は心配し声をかける。

 

「いえ、ダメージはリペントが肩代わりしてくれたのでなんともありません、ですがちょっと疲れたから休むって引っ込んじゃいました」

 

「そうか、まあ大丈夫ならいいか、アストラルも早く復活すればいいんだけどなぁ」

 

 いつもならば宙に浮かぶ相棒の姿があるのだがまだダメージが残っているのか出てくるようすがない。

 遊馬はそのことに一抹の不安を覚えるもそれを振り払うかのようにはしゃぐ。

 

「さあて試合をやってないのはカイトか俺、どっちが先に決闘するんだろうな」

 

「どちらでもいいさ、どのみち俺の銀河眼が奴らを狩るまでの事」

 

「さて発表します、第四試合、天城カイト選手と最上愛プロです」

 

「!?」

 

 言葉に真っ先に反応したのは裕だ。

 カイトのデッキはパワー型だ、裕の様にワンショットに特化している訳ではなく、凌牙や遊馬のようにエクシーズを使い柔軟に攻めるわけでも無い、高い攻撃力を活かして殴りつづけるデッキであり、愛の使うデッキにどこまで防ぎきれるかわからない、まずどのデッキを使うかもわからない現状、どのようなメタカードをいれればいいのかも検討が着かない。

 裕の心配そうな視線を受け、カイトは表情を崩さずに立ち上がり、

 

「行ってくる」

 

 歩き出した。

 

                    ●

 

『さあ始まります第四試合、魔王の異名を持つ最上愛プロ相手に天城カイト選手はどのような試合を見せてくれるのかっ!?』

 

『まず彼女がどのデッキを使うかですよね、魔導、征竜、甲虫装機どれを使うのか、プロ決闘的には征竜なんですよね』

 

『さあ選手の入場です、プロ組から! 相対する者の場は更地にすることに定評のある女子プロ最強クラス、今回のデッキタイプは相手をズタボロにすることに長けた甲虫装機、魔王、最上愛っ!!』

 

 少女の歩き出す足取りは軽い、

 無音で威厳を示す音楽も凱旋を誇る音も無い、ただ静かに歩くその後ろには真っ黒な闇、地面から突き上げられた棘に貫かれた骸が広がるだけだ。その異様な登場姿に観客は声を上げずひたすらに黙り込む。

 一人歩く彼女の後ろから誰もついてこない事を悲しむことも嘆くこともなく自分以外の者へ暴虐を働く王が笑みを浮かべ立つ。

 

『そしてWDC2位の成績を持つ少年、デッキタイプはフォトンという謎のカテゴリーを使用する天城カイト選手の入場です!』

 

 相対する少年は青白く優しい陽光のような光を背に真っ直ぐに進む。

 光は銀河の様に渦を巻き中より光り輝く竜が出現する。その神々しいまでに光り輝く姿に観客は声を上げず見惚れる中、カイトは定位置まで来ると手を上空に伸ばす、その手に引き寄せられるように竜は光の粒となりカイトの手にカードの形で再結集する。

 

「お前が、裕が言っていた奴か?」

 

「うん、そうだよ。あいつ何か言ってた?」

 

「いや、あいつは何も言わなかった、自分が倒すんだってそう張り切っていた」

 

 愛は口元のマイクを隠し、口元に嘲笑いを浮かべ、

 

「ふーん、まあ無駄な努力だろうけど頑張ってあがいてよ、今回はプロという立場で来てるから、見世物だから。一般決闘者が頑張ってプロ相手に足掻く姿に盛り上がるだろうから頑張れ」

 

 軽々しく言葉を吐き捨てる最上、その姿にカイトの決闘者としてのプライドが逆撫でされる。

 

「貴様⋯⋯!」

 

「ふふっ、まあそれは君も言えることだけどね。私からすればお前が誰でどういうデッキを使って何を思ってようがどうでもいい、最後に勝つのは私だからなぁ」

 

「御託はいい、お前のナンバーズを狩らせてもらう、お前の魂ごと!!」

 

 カイトが三日月型の決闘盤を展開し、最上も嘲笑いを浮かべながら決闘盤を展開する。

 2人の準備が整った事を確認した司会者が手を挙げ、唾を飛ばす。

 

『では、第四回戦、試合開始ですっ!!』

 

「「決闘!」」

 

                   ●

 

「先攻は俺だ、俺のターン、ドロー、俺の場にモンスターが存在しないとき俺は手札からこのモンスターを特殊召喚できる、現れろ、フォトン・スラッシャー、そしてフォトン・クラッシャーを通常召喚する!」

 

 最上はそれを見て思い出すのは天城カイトが登場して行った最初の決闘だ。

 態々手札を3枚使って出したのが銀河眼の光子竜という凄まじいプレイング、それが脳裏に浮かび、思わず口より漏れる。

 

「出たか、アド損召喚」

 

「アド損だと? とんだロマンチストだな! 俺はレベル4、2体のフォトンモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ輝光帝ギャラクシオン!」

 

 渦より現れた白い騎士鎧の戦士は腰に装備していた細身の剣を抜き、天へと掲げる。

 その剣へと周囲を浮遊していたオーバーレイユニットが跳びこんで行く。

 

「ギャラクシオンの効果発動、オーバーレイユニット2つを使い、デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚する! 闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ銀河眼の光子竜!!」

 

 剣より発せられる光の中、十字架を浮かび上がる。

 カイトはそれを手に取り宙へと投じたそれは回転し、光の粒子を集め竜の形を作る、体の色は透けるような青、銀河の様に自ら光り輝く体を持つ竜が現れた。

 カイトのエースモンスターの登場に、ではなく、バカみたいなアド損召喚を行わない事に最上は感心したように鼻を鳴らす。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

カイト場       輝光帝ギャラクシオン ATK2000

LP4000      銀河眼の光子竜 ATK3000

手札3        伏せ1

 

最上場         

LP4000

手札5        

 

「ドロー、ちっ、イマイチな引きだな、強欲で謙虚な壺を発動」

 

捲られたのは昆虫装機ダンセル、昆虫装機ホーネット、おろかな埋葬、その中より最上が選ぶのは、

 

「私はダンセルを選択、そして終末の騎士を召喚する。終末の効果で」

 

「墓地肥やしなどさせるものか! 罠発動、ブレイクスルー・スキル! 貴様のモンスターの効果は無効だ!」

 

 終末の効果が潰された事に最上は苛立ち、眉を寄せるも、

 

「ちっ、2枚伏せてターンエンド」

 

『最上プロ動きませんね』

 

『ですが次のターンから動き出しますよ、おろかな埋葬やホーネットを取らなかったところを見るとすでに手札に揃っていると見ていいでしょう、このターンでカイト選手が動かないと厳しくなります』

 

最上場         終末の騎士 ATK1400

LP4000

手札3        伏せ2

 

カイト場     輝光帝ギャラクシオン ATK2000

LP4000      銀河眼の光子竜 ATK3000

手札3       

 

「俺のターン、ドロー! 場にモンスターエクシーズが存在するときこのカードを特殊召喚できる、現れろ、フォトン・スレイヤー」

 

 ギャラクシオンの横に降り立つのはギャラクシオンに似た白い躰を持つ戦士だ。

 その戦士が背にあった大剣を振り抜き、仲間へと合図を送るように振り回す。

 

「そして俺の場にレベル5以上のフォトン、ギャラクシーモンスターが存在するこの瞬間、俺は魔法カード、銀河遠征を発動! デッキから」

 

「増殖するG、1枚ドロー」

 

 最上は即座に手札誘発を入れる。

 

「くっ、デッキよりもう1体のフォトン・スレイヤーを特殊召喚する、レベル5の光属性のフォトン・スレイヤー2体でオーバーレイネットワークを構築、現れろ、セイクリッド・プレアデス!」

 

「さらにドロー」

 

 星座の戦士の登場にも彼女の表情は崩れない。

 それは自分の勝ちを信じているからであり、倒されるわけがないという絶対的な価値観を持っているからだ。

 

「プレアデスの効果発動、貴様の伏せカードを手札へ戻してもらう」

 

「そっちか、どうぞ」

 

 何も発動せず手札に戻すその様子にカイトは少し不気味なものを感じ、そしてその思いを振り払う様に、

 

「バトルだ、銀河眼で終末の騎士を攻撃! 破滅のフォトン・ストリーム!!」

 

「何もなし、戦闘破壊される」

 

「更にセイクリッド・プレアデスで直接攻撃だ!」

 

 この攻撃が通れば、そう思うカイトの眼に最上が手札よりカードを抜くのが見える。

 その抜かれたカードより響くのは鐘の音だ。

 

「手札からバトル・フェーダーの効果発動、このカードを特殊召喚しこれでバトルフェイズを終了だ」

 

「ちっ、ターンエンドだ」

 

カイト場      輝光帝ギャラクシオン ATK2000(ORU0)

LP4000       銀河眼の光子竜 ATK3000

手札2       セイクリッド・プレアデス ATK2500(ORU1)

墓地4        

 

最上場         バトルフェーダー DEF0

LP2400

手札4        伏せ1

 

「私のターンドロー、来たか、エクシーズ・トレジャーを発動、場のエクシーズモンスター1体に付き1枚、よって2枚ドロー、サイクロンを発動、伏せカードを破壊だ」

 

「くっ!?」

 

 砕かれるのは月の書だ。

 そのカードを見、最上は意外とガチカードを使うんだなと思うも、その考えをどうでもいいと捨てる。

 

―――相手にヴェーラーが在れば止まる、だがもしもなければ、

 

「更地になれ! 甲虫装機ダンセルを召喚、ダンセル効果、手札からグルフを装備する」

 

 赤い虫を模した装甲を纏う人型モンスターが同じく明るい赤色の装甲を纏った人型から投げ渡された円盤を受け取った瞬間、星座の戦士が光を放つ。

 

「させるか、オーバーレイユニットを使いプレアデスの効果、ダンセルを手札に戻せ!」

 

「ならばリビングデッドの呼び声を発動、墓地の終末の騎士を特殊召喚。特殊召喚時効果でダンセルを墓地に落とす、そして死者蘇生を発。、ダンセルを復活だ」

 

 上って来たダンセルの姿にカイトは唇を噛むのを見て、最上はニヤリと笑い、蹂躙が始まる。

 ダンセルの手に装備されたのはグルフの持って居た円盤型の盾だ

 

「ダンセルの効果発動、グルフを装備。装備カードとなっているグルフの効果でこのカードを墓地に送りダンセルのレベルを2つ上げる。更に装備カードが墓地に送られたダンセルの効果でデッキからセンチピートを特殊召喚、更に墓地のグルフを装備、そしてグルフの効果でレベルを2上げ、デッキから昆虫装機―ホーネットを手札に加える」

 

 円盤から力を受け取った2体の人型が動く、真っ赤に赤熱するように輝く渦の中へと飛び込む。

 

「レベル5のダンセルとセンチピートでオーバーレイ、エクシーズ召喚」

 

 赤く燃え上がるように輝く渦の中から卵の様に赤熱した球体が上る。

 卵の中身を封印するように中央を貫く棘が外れ、卵が割れる。中に秘められたマグマが鈍く赤い輝きを放ちながら恐竜の姿を形どり吠える。

 

「全てを燃やせマグマの輝きよ、その力で全てを砕き、私の前に跪かせろ、No.61、ヴォルカザウルス!!」

 

「ナンバーズか!」

 

 焦りを表情に滲ませるカイトへ最上は優越感依満ち溢れた笑みを向け、

 

「ヴォルカの効果発動、オーバーレイユニットを使い相手モンスター1体を破壊しその攻撃力分のダメージを相手に与える! 燃え散れ、銀河眼! マグマックス!!」

 

 胸の噴出孔が開かれ噴き出したマグマが光り輝く竜を焼き尽くし後ろに立つカイトを溶かしつくそうと襲い掛かる

 

「俺は手札からクリフォトンの効果発動、2000ポイントのダメージと引き換えにこのターン、俺はダメージを受けない!」

 

 銀河眼を破壊しそのエネルギーを取り込んだ溶岩の渦が迫るも、光子を纏った涙のような形をしたモンスターに阻まれる。

 

「めんどいな、まあいいか、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

『カイト選手、大ダメージは凌ぎましたね』

 

『しかしまたダンセルが出てきます、これはきついですよ、しかもこのヴォルカザウルスをどうにかしないと次のターンには負けが確定します』

 

『カイト選手、ここからどう動くのか!?』

 

愛場         No.61ヴォルカザウルス ATK2500 (ORU1)

LP2400       終末の騎士 ATK1400

           バトルフェーダーDEF0

手札2        伏せ2

           リビングデットの呼び声

 

カイト場       輝光帝ギャラクシオン ATK2000 (ORU0)

LP2000      セイクリッド・プレアデス ATK2500 (ORU0)

手札1                

 

「俺のターン! ドロー」

 

 カイトは引き当てたカードを見る。

 引いたカードはそのあとの最上のターンに再び繰り出されるダンセルを防ぐカードではない、攻めるためのカードだ。

 このターンで愛を倒さないとまたしてもダンセルが召喚され強力なモンスターエクシーズが召喚される、それは防がないといけない。

 

―――このカードで奴とナンバーズを狩らせてもらう!

 

「セイクリッド・プレアデスをエクシーズ素材としオーバーレイネットワークを再構築、エクシーズチェンジ、現れろ、セイクリッド・トレミスM7、そして!」

 

 カイトの手に煌めくカード、それを目にし最上は少しだけ考え、伏せを開かない。

 

「俺は魔法カード、未来への思いを発動する!」

 

「……はっ、予測してたとはいえ本当に引きやがった、はぁ、無いよ、好きにしろ」

 

 嘲笑う様に、短く息を吐き、愛は何もないというように手を振る。

 

 

「俺の墓地からレベルの違う3体のモンスターを効果を無効にし攻撃力を0にして特殊召喚する。蘇れ! 銀河眼、クリフォトン、フォトン・スラッシャー! そして俺は銀河眼を対象にギャラクシー・クイーンズ・ライトを発動、これで俺のモンスターは全てレベル8になった!」

 

「ん、……まあそのほうが面白いか、来いよ」

 

 レベル8が3体並んだことによる観客の歓声は大きくなる。

 何が来る!? そう期待する観客を見、馬鹿にするようにせせら笑いながら最上は手を広げ、挑発する様なジェスチャーを見せる。

 

「レベル8となっているクリフォトン、フォトン・スラッシャー、銀河眼の光子竜でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 逆巻く銀河よ、今こそ、怒涛の光となりて姿を現すがいい! 降臨せよ、我が魂!」

 

 カイトの投じた身の丈ほどもある音叉のような巨大な剣が赤から黒へと変わり始めた渦に吸い込まれ爆発する、そして溢れ出した銀河の様に瞬く光の中、真紅の力の奔流が立ち上り形を成す。

凄まじい力の奔流は銀河眼の首と2本の首を新しく作り上げ、赤く光り輝く結晶の様に尖り輝く羽が、そしてそれを支える強靭な躰が構築される。

 

超銀河眼(ネオ・ギャラクシーアイズ)光子龍(フォトン・ドラゴン)! 銀河眼をエクシーズ素材にした超銀河眼の効果発動、場の表側のカードを無効にする、フォトン・ハウリング!」

 

 その龍の荒ぶる咆哮は全てを委縮させ、身に着けた力をそぎ落とし相対を許さない。ヴォルカ・ザウルスもナンバーズの刻印から光を失い、力なく頭を垂れる様に座り込む。

 

「そしてオーバーレイユニットを1つ使い、相手の場のオーバーレイユニットを吸収する、そして吸収したオーバーレイユニット分×500ポイント攻撃力を上げ、その数だけ攻撃が出来る!!」

 

 吸収したオーバーレイユニットは1つ、それによって超銀河眼の光子龍の攻撃力は4500から5000へとアップする。

 微々たる上昇ではあるが、それでも最上のライフを削り切るには十分すぎる。

 

「懺悔の用意はできているかっ! バトルだ、超銀河眼でヴォルカ・ザウルスを攻撃、アルティメット・フォトン・ストリーーーームッ!!」

 

 龍の口が開かれる、膨大な破壊の力は真紅の光として口元に凝縮され3本の首から放たれる。

 赤黒の閃撃はスタジアムの床を破壊しながら最上へと迫り、

 

「甘い、和睦の使者を発動、このターン、モンスターは戦闘では破壊されず私へのダメージも発生しない」

 

 最上の前に展開された壁によって弾かれる。

 

「くっ……ターンエンドだ」

 

カイト場       輝光帝ギャラクシオン ATK2000 (ORU0)

LP2000       超銀河眼の光子龍 ATK4500 (ORU2)

手札0        セイクリッド・トレミスM7 ATK2700 (ORU1)

 

最上場        No.61ヴォルカザウルス ATK2500 (ORU0)

LP2400      終末の騎士 ATK1400

           バトルフェーダー DEF0

手札2        伏せ1

          リビングデットの呼び声

 

「私のターン! あー、そろそろ飽きたな。更地にしてやるよ」

 

 決め台詞とも呼べる言葉を吐き、最上の蹂躙劇は始まっていく。

 先陣を切るのは最悪レベルの性能を持つ赤い装甲の人型だ。

 

「ダンセル召喚、墓地のグルフを装備、グルフの効果でレベルを1上げデッキよりセンチピートを特殊召喚、更にセンチの効果でレベルを1つ上げデッキからダンセルをサーチする」

 

「レベル4モンスターが3体、何が来る!?」

 

 カイトが警戒の声を挙げる中、最上はエクストラデッキを取り出し何を出せばいいのかを思案する。

 そして何かを思いついたように周りを見回し、

 

「これが派手だな。もう1度このカードに負かされるってのもいいだろうし、レベル4、終末、ダンセル、センチの3体でオーバーレイ」

 

 黒、黒、黒の球が会場を駆け回り、渦へと吸い込まれる。

 渦をわり現れるのは巨大などす黒い人の脳、そしてそこより溢れ出すのは黒い瘴気だ。

 全てを塗りつぶす暗い感情が形となり、脳から吐き出され形を成していく。

 隠す気の無い剥き出しの害意がその権能を、敵を排除するという暴虐性を示す腕や棘、自身を慈しみ守り包み込む自己愛が外殻を構築する。

 

「皆が持つ全ての力を奪い去り私の物としろ。私を楽に気持ちよく勝たせろよ雑魚共、お前ら全員、私に負けろぉ! さあ現れろ! No.69、紋章神コート・オブ・アームズ!!」

 

「トロンのナンバーズまでっ!」

 

 カイトはそのモンスターを目にし思い出すのはWDCで自分の敗北したときの光景だ。

 それは忘れる事の出来ない光景であり、そして同時にそれをわざと再現する最上の性格の悪さに更に怒りを覚える。

 そんなカイトの心を最上は分かっている。

 だからどうした、私は楽しいぞ、そう踏みにじっていく。

 

「コート・オブ・アームズの効果発動、場のエクシーズモンスターの効果を得る、私が得るのはお前の超銀河眼の効果だ!!」

 

「くっ!?」

 

 貪欲に全てを飲み込もうとするように口から真っ黒な手が伸びる。

 赤い輝きを羨むように、汚すように伸ばされたその手は超銀河眼に突き刺さり赤い色を奪い去る。

 

「オーバーレイユニット1つを使いお前の超銀河眼の効果を発動、相手の場のオーバーレイユニット全てを取り除きその数×500ポイント攻撃力を上げ、そしてその数だけ攻撃ができる、取り除かれたオーバーレイユニットの数は3つ、よって攻撃力は1500ポイントアップし、3回攻撃が可能だ!」

 

 愛は笑う、面白くて仕方のないように笑みを浮かべるその様子にカイトは苛立ちを募らせる。

 

「……他人のカードを使って相手を叩き潰しそれを誇るとは、貴様にはそのカードがお似合いだな! 他人から力を奪い他人には無能を強要する、ひたすらに自分だけが強ければいいという我欲のままに暴れる、それが貴様の薄汚い本性だ!」

 

「どうでもいいな、他人からどう言われようが関係ない。私は私。私は私のみを愛している。我欲のままに暴れる私は素晴らしい!」

 

 最上は罵詈雑言をぶつけられたところで気にしない。気にする価値も無い。

 自分は最上にあり、自分を称賛する声、自分を恐れる声だけを彼女は聞き、愉しむのだ。

 

「それにいいじゃないか、どうせこのカードはくだらねえチートカード効果とピンチを演出するためだけにカオス化するまで出番がないんだし。よく言うだろ、埃を被って放置されるよりは使ってやったほうがカードが喜ぶって。私はそれをやってやっているだけだ、何も怒られることは無い、私は一切悪くない。むしろ私は賞賛されるべきだ」

 

「貴様、本当に決闘者かっ、自分のカードを信じて戦うという事をしないのか!?」

 

「私も決闘者だよ。自分がちょっと悩んで作ったデッキと自分が持てる力を使って今、お前達を蹂躙しているじゃないか」

 

 激昂するカイトの言葉を聞く価値がないとでもいう様に、前世からのデッキと与えられた力を誇りながら最上は自分を賛美する。

 そして手を挙げる。

 指揮者がタクトを振り下ろすように、蹂躙が始まっていく。

 

「バトル、セイクリッド・メシエM7に攻撃、神の怒り(ゴッド・レイジ)

 

 星座の機械竜も超銀河眼の力を奪ったコート・オブ・アームズには及ばない、吐き出された赤と黒の光線が上からその地面ごと抉り取るように上空から叩きつけられ爆発する。

 

No.69コート・オブ・アームズ ATK4100 VS セイクリッド・メシエM7 ATK2700

破壊セイクリッド・メシエM7

カイトLP2000→600

 

「そして超銀河眼へ攻撃、神の怒り(ゴッド・レイジ) 第2打ァッ!」

 

「何、攻撃力の低いモンスターで攻撃だと、迎撃しろ超銀河眼!」

 

 天から叩きつけられる光線と超銀河眼より吐き出された光線がぶつかり合いコート・オブ・アームズの放った光線は打ち払われる。

 

No.69コート・オブ・アームズ ATK4100 VS 超銀河眼の光子龍 ATK4500

 

「無駄だよ、速攻魔法、禁じられた聖槍発動、これで攻撃力はこちらが上だ、砕けコート・オブ・アームズ!」

 

 聖槍が紅く輝く龍に突き刺さる。

 それに気を取られた瞬間、超銀河眼の目の前に開かれたのは真っ暗な闇だ。

 それは正確に言えば巨大な顎だ、全てを飲み込むと言わんばかりに広がったその口の中は何も目的を持たない彼女を象徴するようにぽっかりと虚無が広がっている。

 カイトが静止の声を上げるよりも早く超銀河眼は噛み砕かれ咀嚼された。

 

No.69コート・オブ・アームズ ATK4100 VS 超銀河眼の光子龍 ATK4500→3700

破壊→超銀河眼の光子龍

カイトLP600→200

 

「最後に輝光帝ギャラクシオンを攻撃、神の怒り、3連打ァッ!」

 

「ぐぅあああああ!?」

 

No.69コート・オブ・アームズ ATK4100 VS 輝光帝ギャラクシオン ATK2000

破壊→輝光帝ギャラクシオン

カイトLP200→0

勝者 最上愛

 

                  ●

 

「やっぱりナンバーズは持ってないか、まあ良いショーだったよ、踊ってくれてありがとう」

 

 騒ぐ司会者の声を無視し吹き飛ばされたカイトの前に立ち、最上は手を伸ばす。

 その笑みと言葉は敗者に対するねぎらいではなく勝利に対する愉悦と自分の行動に酔っている。

 

「貴様っ」

 

「いやーよかったよ、うんうん、演出ってやっぱり大事だね。超銀河眼に神宣ぶち込んで未来への思いのデメリット効果で負けなんて観客もしらけちゃうだろうし、大型モンスターがぶつかり合って派手な効果を使ってこその決闘だしなぁ」

 

 最上は決闘盤より伏せカードを抜き、カイトにだけ見えるように見せびらかす。

 

「ふざけるな、お前は決闘をなんだと思っている!?」

 

 楽しいと言わんばかりに笑う彼女へカイトは怒りをぶつける。

 声に感情を乗せ、最上に叩きつけ、拳は血がにじむほどに握りしめられ今にも殴りかかりそうになるカイトを見、最上はそれが愉しいと笑うのだ。

 

「そりゃ決闘は決闘だ、ただのカードゲームで、見世物だよ。私も、楽しかったよ」

 

 にんまり笑う彼女を見て、カイトはWDCの激闘もナンバーズを賭けた決闘の全てを汚された気がした。

 まるでカードを集めてくれてありがとう、とでも言うように笑う彼女の表情に拳を叩き込みたくなるも踏みとどまる。

 

「覚えていろ、貴様は俺達が倒す」

 

「WDC連合の連中がほとんど負けてる状況でそんなくだらない事が言えるなんて強気だね、次の九十九遊馬だって脳筋デッキの大崎に勝てるのかさえ不明瞭なのに、私を倒す? シンクロンやガガガでか、50回やって私が手札事故でもしないと勝てない様なファンデッキ如き? 甲虫装機に勝てるって? 笑わすなよ」

 

「倒すさ、あの2人なら貴様ら全員を完膚なきまでに叩きのめすだろう」

 

「ふふっ覚えておかないよ、まあ頑張れ、頑張って私を愉しませろよ」

 

                     ●

 

『第五試合は九十九遊馬選手と大崎一美プロだ!さあてどのような試合を見せるのか!?』

 

『WDCチャンプと女子最年少プロの対決ですか、これはどうなるか分かりませんね、しかしこの勝負に負けてしまうとWDCチームは残すは一人だけとなってしまいます、九十九遊馬選出には頑張ってもらいたいものですね』

 

『さあ注目の第五試合始まります、選手の入場だ』

 

 学生服を着込んだ少女が歩きだした。

 のんびりとゆっくりとした足取りで歩く姿に一部の観客から大声援が送られる中、紹介が始まる。

 

『最年少女子プロ、大崎一美、使うデッキタイプは暗黒界、ひたすらに死んでも復活し続ける正直アンデットよりもアンデットなグラファが活躍しまくるデッキです、さあ今回グラファは何回墓地に送られるのか!?』

 

 少女の歩く足元の影より巨大な門が出現する。徐々に開かれ瘴気が溢れ出し暗黒界の住人達が彼女の周りを踊りデッキに吸い込まれていく。

 

『対するはデッキタイプ、ガガガ&ゴゴゴを使用し多彩なモンスターエクシーズとNo.39希望皇ホープを主力とするWDC優勝者、中学生最強レベル、九十九遊馬ぁっ!!』

 

 照れる様に頭を掻きながら歩く姿に観客は湧き上がる。

 皆がWDC決勝に立ち会えたわけではないがそれでも優勝決定戦の激しい決闘を目撃した人々はこの決闘を楽しみにし待っていた。

 同い年対決ということもあり湧き上がる中、二人は決闘盤を構える。

 

「よろしくお願いします!」

 

 大崎より元気よく挨拶され、遊馬もそれに倣うように答え握手をする。

 

「楽しい決闘を期待してます、でも勝ってナンバーズを手に入れるのは私です」

 

「いや、勝つのは俺だぜ」

 

「私が勝ちます」

 

「いいや、俺だね」

 

 握手したままにらみ合う二人を見かねた司会進行役は苦笑いを浮かべ、

 

『ではボルテージが上がってきたようなので始めます、3,2、1』

 

「「決闘!!」」

 

                      ●

 

「俺のターン、ドロー、俺はモンスターをセット、2枚伏せてターンエンドだ!」

 

遊馬場        セットモンスター

LP4000    

手札3        伏せ2

大崎場        

LP4000

手札5        

 

「ドロー、トレード・インを発動。レベル8の暗黒界の龍神グラファを墓地に送り2枚ドローするよ、そしてトランス・デーモンを召喚!」

 

 暗黒界デッキの代名詞と言っても過言ではない龍神がさっそく墓地に送られたことに遊馬は顔をしかめる

 遊馬はあまり暗黒界の動きを理解しきれてはいないが今、非常に滑らかに動いているのではないかという事だけは分かる。そして今の伏せカードではそれを止めることができない。

 それを馬鹿にするように召喚された悪魔というお手本のような見た目の悪魔は遊馬を指さし笑う。

 

「トランス・デーモン効果発動、暗黒界の龍神グラファを捨てて攻撃力を500ポイントアップ、そして手札より捨てられたグラファの効果で君の伏せ1枚を破壊する」

 

「げっ!? 俺は罠カード、和睦の使者! これでこのターン、俺はダメージを受けない!」

 

 遊馬が発動したカードに大崎は少し考え込み、

 

「ふーん⋯⋯暗黒界の取引を発動! お互いに1枚ドローして1枚手札を捨てます!」

 

 大崎が墓地に捨てたのは暗黒界の術師 スノウ 遊馬が捨てたのははゴゴゴゴーレムだ。

 

「そして墓地に捨てられたスノウの効果発動、デッキから暗黒界と名の付くカード、暗黒界の術師 スノウを手札に加え、私は2枚伏せて今伏せたばかりの墓穴の道連れを発動、お互いの手札を見て、捨てたいカードを選びます。そしてカードを捨て、お互いにドローします」

 

「……うわぁ」

 

 しぶしぶ手札を表示し、相手から表示された手札にうんざりしたような表情を見せる。

 遊馬の手札にあったのはガガガシスター、聖なるバリア ミラーフォース、大嵐。大崎の手札は暗黒界の尖兵 ベージ、暗黒界の術師 スノウ。

 遊馬は大崎の手札、暗黒界と名の付いたカードを選ばなければならず、迷いながらも手にしたのは、

 

「……俺は、ベージを選ぶ」

 

「私は大嵐を選びます。そしてドローし、捨てられたベージの効果でベージを特殊召喚。ベージを手札に戻してグラファを特殊召喚します!」

 

 墓地より現れた龍神はベージに向かって礼をするように頭を下げると優しくベージを摘み上げ一美の所まで持っていき遊馬へと向き直る。

 見た目と先ほど行われたギャップについていけず呆然とした遊馬へ照れ隠しの様に吠えるグラファを置いて大崎はさらに動く。

 

「伏せていたテラ・フォーミングを発動、デッキからフィールド魔法、暗黒界の門を加え、発動します!」

 

 大崎の背後、巨大な門が出現する。

 その扉からは舞割と冷たい冷気が漏れ出し、遊馬はこのままではまずいのではないかと焦る。

 

「コストとして墓地のスノウを除外し闇黒界の門の効果発動。手札のスノウを捨てて1枚ドロー、そして捨てられたスノウの効果発動、デッキからブラウを加えます」

 

 一通り効果を発動し終え大崎は遊馬の場に居るセットされたモンスターを見る。

 

「確認しておきますか、バトルフェイズ、グラファでセットモンスターを攻撃」

 

 グラファの拳が裏側カードへと突き刺さりカード裏に潜んでいたモンスターの姿を暴き出す。

 

「ガガガマジシャンか、メイン2、カードを2枚伏せてターンエンドだよ」

 

大崎場      暗黒界の龍神 グラファ  ATK3000

LP4000     トランス・デーモン ATK1800

手札2      伏せ2   

墓地6      暗黒界の門

 

遊馬場        ガガガマジシャン DEF1000

LP4000    

手札3        伏せ1

 

「俺のターン、ドロー! 俺はガガガシスターを召喚!効果発動」

 

「甘いですよ。私のライフを1000支払い、永続罠、スキルドレインを発動! 場の全てのモンスターのカード効果は無効にされます!」

 

「げぇっ!? やばい、やばいぞ!?」

 

 遊馬が焦りの声を上げる、この手札ではスキルドレインを破壊することはできず、そしてエクシーズ召喚も行えない、そしてナンバーズを出してもスキルドレインの効果で戦闘耐性がないモンスターでは破壊されてしまう。

 

「くっ、俺はガガガシスターにワンダー・ワンドを装備、そしてワンダーワンドとガガガシスターを墓地に送って2枚ドロー、くっ⋯⋯1枚伏せてターンエンドだ」

 

遊馬場        ガガガマジシャン DEF1000

LP4000    

手札3        伏せ2

 

大崎場       暗黒界の龍神 グラファ  ATK3000

LP3000      トランス・デーモン ATK1800

手札2        スキル・ドレイン

           伏せ1

           暗黒界の門


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