クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
「では行ってくるよ」
「あ、堺さん、妹のこと、お願いします」
「ああ、分かっているよ」
堺は控室で騒ぎまくる低年齢組に声をかけ部屋を出た。
そのまま真っ直ぐにゆったりと歩き、光と歓声が渦巻く入場口で立ち止まる。
『さていよいよ始まります、第三試合、選手の準備も出来たようだ、さあ入場が始まります!!』
その声を聴き、堺は影を抜け光りの中へと足を踏み出す。
光へ踏み出す堺の足元から色とりどりの武具が迫り出し、浮かび、宙を踊る。
その演出に堺は、派手な演出であり自分には適さないだろう、と思いつつも立体映像のみせる美しさに目を楽しませながら歩みを止めない。
『プロ決闘者の古株、魔法罠ゾーンにセットし破壊されると目覚める強力な武具達を従える強者、堺浩二!!』
轟、と歓声で揺れるスタジアム、堺とは反対側から真っ黒い煙と紫色の糸が忍び寄る、煙はステージ中央まで達し、その内より糸に操られるように手、足、体と見え茶髪の頭が出てきた。
「実力未知数、シャドールという見たことも聞いたこともないデッキタイプを使う謎の多い少女、氷村響子!!」
氷村という苗字に少しだけ会場がざわめく。ざわめきの内容は話し声だ。
その中で堺の耳に届いたのは強いのかと弱いのかと互いの思想を言い合う物であり、堺は少しだけ気を悪くする。
相対する彼女の目は真っ直ぐにこちらを見ている。
目には闘志が溢れ一挙一足にはやる気が見える、そのような真っ直ぐな決闘者を苗字だけで強いか弱いかを決める事などあってはならない。
だからこそ、会場全てを遮るように、
「さあ、決闘を始めよう、準備はできたかね?」
「あ、はい、いつでもオーケーです」
慌てる様に響子は答える。
手には決闘盤が展開され準備はできているようだ。
『両者用意が整ったようです、では第三回戦、3、2、1っ!!』
「「決闘!!」」
●
「私のターンです、ドロー」
響子は勢いよくカードを引き抜き、ちらりと手札を確認し流れるように滑らかな動きで、
「モンスターをセットしカードを2枚伏せてターンエンドです」
響子場 セットモンスター
LP4000
手札3 伏せ2
堺場
LP4000
手札5
「私のターンだね、ドロー、
テキスト確認をしたのか苦い表情を隠さないその様子に姉と同じような性根の素直さを垣間見る。
姉妹の共通点を見つけ堺は微笑ましい気持ちになりながら動く。
「召喚成功時にネブラディスクの効果、デッキから先史遺産と名の付いたカードを手札へと加えることが出来る。 私が加えるのはモンスターカードの先史遺産クリスタル・スカルだ」
堺の場の笑ったような顔に見える石版が波動を放ち、デッキよりクリスタルで出来た巨大な頭部を呼び出す。
「そして今、手札に加えたばかりのクリスタル・スカルの効果。手札のこのカードを墓地に送りデッキから先史遺産モンスターを手札へと加える。私は先史遺産クリスタル・ボーンを加え、さあバトルフェイズに入ろう、セットモンスターにネブラディスクで攻撃宣言」
堺は藤田と響子の決闘映像を見てシャドールというデッキの特性をある程度、把握している。
全てのシャドールモンスターはリバース効果とカード効果で墓地に送られた場合に墓地より発揮する2つの効果を持っており、シャドールの持つ専用融合カードは凄まじい性能を持って居る。
その中にはリバース効果によりその専用融合カードをサーチする効果を持つモンスターもいるのを堺は分かっていながらも攻撃を仕掛ける。
「攻撃宣言時、私は罠カード、落ち影の蠢きを発動します! デッキからシャドール・リザードを墓地に送り、そしてカード効果で墓地に送られたシャドール・リザードの効果でさらにデッキからシャドール・ヘッジホッグを墓地に送り、更に墓地に送られたヘッジホックの効果でシャドール・ドラゴンをサーチします」
黒紫の糸が音を響かせながら墓地とデッキを結んでいく。だがそれらの動きは石板の放った光線を防ぐ動きではなく、光線は裏側表示のカードへと直撃する。
カードの裏側に居て、破壊されたのは黒紫の糸に操られし機械仕掛けの鳥だ。
「シャドール・ファルコンは破壊されます、ですがファルコンのリバース効果、墓地のシャドールモンスター、シャドール・ヘッジホックを場にセットします」
「ではメイン2、カードを4枚伏せてターンエンド」
目まぐるしい墓地より発揮されるシャドールモンスター、サーチを連打し多くの伏せカードをセットした先史遺産。序盤は静かに、だがお互いにアドバンテージを取り合いながらターンを終える。
『おっと、序盤は堺プロの有利か!?』
『どうでしょうか、どちらか1つしか発動できないとはいえ、シャドールモンスター達のアドの取り方もえげつない、お互いに手札が減っていない以上、有利とは言い切れません』
『さあて注目の氷村響子選手のターンだ!!』
堺場 先史遺産―ネブラディスク ATK1800
LP4000
手札2 伏せ4
響子場 セットモンスター
LP4000
手札4 伏せ1
「私のターン、ドロー。シャドール・ヘッジホッグを反転召喚し、シャドール・ヘッジホッグのリバース効果を発動します」
黒い煙を纏うハリネズミ型の人形がデッキに糸を伸ばそうとする。
しかし伸びる先は急に変わり、堺の背後に現れた鏡にまっすぐに吸い込まれた。
「さて、これは無事に通るかな? 永続罠、暗闇を吸い込むマジックミラー発動。このカードが在る限り、闇属性モンスターの効果は発動できない」
シャドールモンスターは融合体以外のシャドールモンスターは全て闇属性で構成されている。
堺はそれらを看破し、メタカードを入れてきてたのだ。
「くっ!」
「何もないようならばターンを進めよう。さあ、まだ君のターンだ」
堺の背後に現れた暗闇を吸い込む鏡を忌まわしげに見つつ長考し始めた響子、悩む様子は姉にそっくりである。
その様子を微笑ましく見ていた堺は響子のエンド宣言を受け、動き出す。
「……モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンドです」
「君のエンドフェイズ、罠カード、アーティファクトの神智を発動。デッキからアーティファクト・カドケウスを特殊召喚する」
カン、という金属音を立てデッキから発掘された黄色い神杖、その中央では黄金の歯車が音を立て回転している。
「さらにアーティファクト・ムーブメントを発動、私の伏せを破壊する、破壊されたのはアーティファクト・ベガルタ、デッキからセットするのはアーティファクト・モラルタ、そして破壊されたベガルタの効果発動、このカードを墓地より特殊召喚、特殊召喚成功時、ベガルタ、カドケウスの効果が発揮される。私の伏せカード、1枚を破壊しデッキよりドロー」
赤の剣の中央、黄金の歯車が起こす風に煽られ堺の伏せが砕かれ、宙へと弾い飛ばされ、青い剣となって落ちて来る。
そして金色の歯車の起こす風が追加され、強く吹きすさぶ暴風と化していく。
「まずっ!?」
「ベガルタの効果で破壊されたモラルタの効果で自身を墓地から特殊召喚、さらにモラルタ、カドケウスの効果が更に発揮される。1枚ドローし、相手の表側モンスター、シャドール・ヘッジホッグを破壊だ」
最後に現れた青い剣が巻き起こした風に黒い煙の吐き出さなくなった抜け殻のような人形が砕かれる。
「これで私がすることは無くなった、では」
相手の場をそぎ落とし、自分のアドバンテージを稼ぐ。それがデュエルモンスターズの定石である。
堺が行っているのもただそれだけの事である、だが相手からすればたまったものではないだろう。
観客も響子も圧倒的とも呼べる堺の場を言葉なく見守る中、堺の声と風音だけが響いていく。
「私のターンだ」
『いや、これはさすがとしか言いようがありませんね、場を埋め尽くす色鮮やかな武具達、そして後ろに張られたメタカード、流石は古株、安定してますね!!』
『流れを引き寄せると言ったそばからメタカードが炸裂してちょっと驚いてますが、ええ、流石です堺プロ、毎回毎回あなたのメタカードとサイクロン系の打つタイミングが凄すぎて泣けてきます、あれはトラウマ物ですよ』
『えー片桐プロが何やらトラウマを発症させてますがまあ大丈夫でしょう、さてまさか1ターン経過するだけでこのような状況になるとは誰も予測ができないこの決闘、どうなってしまうのか!?』
響子場 セットモンスター
LP4000
手札3 伏せ2
堺場 アーティファクト・ベガルタ ATK2100
LP4000 アーティファクト・カドケウス DEF2400
手札4 アーティファクト・モラルタ DEF2100
先史遺物―ネブラディスク ATK1800
暗闇を吸い込むマジックミラー
「ドロー。レベル5のモラルタとベガルタでオーバーレイネットワークを構築、太古より空に輝く星の力をその身に宿し、相手の動き、全てを照らせ! エクシーズ召喚、ランク5、セイクリッド・プレアデス」
星の戦士が渦より現れると、その身に宿した力を発揮することなく新たに発生した渦に引きずり込まれる。
「プレアデスの特殊召喚成功時、私は手札を1枚捨て速攻魔法、超融合発動! セットされていた場のシャドール・ドラゴンと光属性のプレアデスを融合します!」
「なるほど、そのカードを引いていましたか!」
堺は発生した渦を見て、面白いと笑う。
自分の知らないカードを使い、自分の知らない戦略をとる相手を、そしてまだ自分の知らぬカードを生み出すこの世界のシステムを素晴らしいと喝采する。
―――さあ、君の持つ力、その戦略、全てを私に見せてくれ!
堺が期待を込めて絶対無比の渦を見守る中、底より爆発する様に吹き上がるのは黒紫の糸だ。
「全てを操り現れ給え、融合召喚、エルシャドール・ネフィリム! 特殊召喚されたネフィリムの効果、シャドール・リザードを墓地へ送ります」
戦闘時に特殊召喚されたモンスターを皆殺しにする修道女像、その効果は強大であり厄介である。
だが堺はそれを撃ち抜く方法をいくらでも兼ね備えている。
「ふむ、ならば、ネブラディスクを召喚、召喚時効果でフィールド魔法、先史遺産都市バビロンを加える。そしてレベル4のネブラディスク2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ、恐牙狼ダイヤウルフ。オーバーレイユニットを1つ使いこのカードとネフィリムを対象にダイヤウルフの効果を発動、破壊する」
残りの伏せカードを発動する様子もないので堺は処理を進めていく
渦より飛び出た輝く宝石のような光沢の毛並を持つ狼は自身の命と引き換えの突進を即座に仕掛ける。
モンスターの除去効果に耐性を持たない巨大人形は破壊の力を発揮することなく轟音と砂煙を立て砕け落ちた。
「そしてフィールド魔法、先史遺産都市バビロンを発動」
二人を中心とした周囲がボロボロに砕けた歴史を感じる建物の集合体へと変わる、地面から空いた穴から笑った顔の石板が転がり出る。
「墓地のネブラディスクを除外しネブラディスクを特殊召喚、さらに先史遺産―ピラミッド・アイ・タブレットを発動、このカードの効果により先史遺産モンスターの攻撃力は800ポイントアップする」
「攻撃力2600!?」
ネブラディスクの攻撃力が下級とは思えないような凄まじい数値となった事に呆気にとられる響子、それを見て堺は少しだけ響子の中で整理する時間を与えようと手を止める。
そして僅かな疑問を持つ。
―――彼女はいったい何のナンバーズを持っているんだ?
今まで堺達が決闘してきたナンバーズに操られた決闘者は皆がナンバーズを出しやすいデッキを持っていた。
ナンバーズを出しやすい人間にナンバーズが憑りつくのか、ナンバーズを持った者のデッキがナンバーズを出しやすいデッキへと変わるのかは不明であるが響子のデッキ、シャドール達のレベルはバラバラであり、エクシーズ召喚には不向きにも見える。
―――もしかすると、彼女は何か特別な物を持って居るのか?
仮説を組み立て、堺はそれがを確かめる必要があると結論を出し、それが事実であるかを調べに動く。
「カドケウスを攻撃表示に変更しバトルだ、ネブラディスクで直接攻撃」
「っ! 超電磁タートルの効果、墓地から除外しバトルフェイズを終了させます」
石板により放たれた光線は墓地より現れた亀形モンスターが作りだした電磁結界によって弾かれる。
超融合のコストとして墓地に送られていた事を確認していた堺はそれを残念には思わず、
「メイン2、私はカードを2枚伏せターンエンド」
堺場 アーティファクト・カドケウスATK1400
LP4000 先史遺産―ネブラディスク ATK2600
手札1 伏せ2
先史遺産―ピラミッド・アイ・タブレット
暗闇を吸い込むマジックミラー
先史遺物都市バビロン
響子場
LP4000
手札2 伏せ1
響子は大きく息を吸い、声を張り上げカードを引く。
「私のターン、ドローっ! よし、大嵐を発動です」
「ふむ、ならばアーティファクトの神智を発動」
「頼む、通って! カウンター罠、ギャクタンを発動します! その罠カードの発動を無効にしてデッキに戻します!」
「ほう、デッキに戻すか……」
巻き上がる大嵐によって堺の伏せていた強制脱出装置や永続罠、永続魔法ら全てが砕かれる。
「これで! 墓地の光属性、ネフィリムと闇属性のシャドール・ドラゴンを除外しカオスソルジャー ―開闢の使者― を特殊召喚します!」
黒と白、融合するように渦を巻く門を切り裂き、金の鎧を纏った最上級戦士が現れる。その姿は陽光を背に立ち、引き締められた肉体を守る武具は光り輝いている。
「バトルです、開闢でネブラディスに攻撃です!」
開闢の騎士がまず狙うのは石板だ。
手に持った剣が閃き石板を真っ二つに切って捨て、開闢の騎士は更に錫杖へと剣を向ける。
「相手モンスターを戦闘で破壊したカオス・ソルジャーの効果、このカードはもう1度戦闘を行えます! 開闢でアーティファクト・カドケウスにも攻撃です!」
錫杖も開闢の騎士の1撃で砕かれ、堺の身を衝撃波が叩き込まれた。
4000もあったライフは2回の攻撃で残り800となり、堺の場には手札1枚のみがあるだけ、たった2枚のカードによる逆転劇に観客達も手に汗握り見守る中、少女は勝てるかもと瞳を輝かせながら残ったカードを伏せる。
「メイン2、モンスターをセットしターンエンドです!」
『逆転、逆転!! 面白くなってきましたぁっ!!』
『大嵐が通ったのが大きいですね、ですが堺プロが最初に手札加えたカード、あれが気になります、特殊召喚ができるようになったのはひょっとしたらミスだったのではないかと思うんですよね・・・』
『おっとまたも意味深な発言いただきました!! さていよいよ終盤、このターンで勝負が決まるのか、それとも……果たしてどうなるっ!?』
響子場 カオスソルジャー ―開闢の使者― ATK3000
LP4000 セットモンスター
手札0
堺場
LP800
手札1
「私のターン、ドロー! 君達のナンバーズを見せてもらいたかったがしょうがない。私も全力で行くべきだな」
堺は手札にある2枚のカードを見つめ笑いかけ、叫ぶ。
「私は先史遺産クリスタル・ボーンの効果発動、このカードを特殊召喚し墓地より先史遺産モンスターを特殊召喚する、私は先史遺産クリスタル・スカルを特殊召喚する」
まず並ぶは水晶で出来たドクロ、そして水晶で出来た全身骨格だ。
それらのレベルは3であり、響子がランク3のモンスターエクシーズを警戒する中、堺の動きは止まらない。
「先史遺産ゴールデン・シャトルを通常召喚し、墓地の先史遺産ネブラディスクの効果発動、自身を墓地より特殊召喚する」
手札消費2枚であっという間に4体ものモンスターを並べたことに驚愕する響子と観客、そして更に湧き立たせるように大きく、堺は叫ぶ。
「ゴールデンシャトルの効果発動、先史遺産モンスター全てのレベルを1つ上げる、そして」
堺の前、巨大な渦が開かれる。
渦の数は2つ、重なり合うように広がっていく渦へと堺のモンスター達が吸い込まれ、分解、再構成されていく。
「レベル4となっている先史遺産モンスター、クリスタル・スカルとクリスタル・ボーンでオーバーレイネットワークを構築。現れよNo.36、太古より山の頂に在りし都市よ、その体に古代超科学の結晶を輝かせ、空より見おろし封殺せよ! エクシーズ召喚、ランク4、先史遺産―超機関フォーク=ヒューク」
1つ目の渦より現れるのは巨大な建造物だ。
それは青い謎の力を秘めた石を崇め奉る都。石から発せられた力は全ての害敵から力を奪い、都すらも宙へと浮かび上がらせる。
都を守る青く輝く守りの殻には自身を示すナンバーが刻み込まれ巡回するように光の球が周囲を旋回する。
「さらにレベル5となっているゴールデン・シャトルとネブラディスクでオーバーレイネットワークを構築、太古に作られその存在を忘れ去られた超兵器よ、今こそ秘められし力を開放し敵を打ち払え、エクシーズ召喚、ランク5、No.33先史遺産―超兵器マシュ=マック!!」
仰ぎ見なければいけないほど巨大な建造物が宙に浮かぶ。
建造部の最上層部、中央には全ての変化を見逃さないと言わんばかりに巨大な城が見下ろしている。下を順々に眺めていけば、家々が立ち並び平穏な都市の下には全周囲に無数の砲門が並び、巨大な都市を浮かばせるほどの強大で謎に満ちた力を持つコアが露出している。
現れた先史遺産ナンバーズの2体は身構える開闢の戦士へと徐々に近づいていく。
「こ、このモンスターたちは!?」
「フォークヒュークの効果、オーバーレイユニットを1つ使い相手モンスターの攻撃力を0にする」
「だ、だけどまだ攻撃を受けても私のライフは!」
光の膜で地面へと開闢の戦士は叩き付けられた、関節が砕けそうになるほどの重圧に押し付けられるも、その身に秘める全ての敵を切り払う力で逃れ出ようとするが光の膜がそれを許さない。
「マシュマックの効果、オーバーレイユニットを1つ使い、君のモンスターを対象に発動する、相手モンスターの今の攻撃力と元々の数値の差額分ダメージを相手に与え」
そして動けない戦士へ力全てを簒奪する砲撃が放たれた。放たれた爆風に響子は包まれる。
「くうぅっ!?」
響子LP4000→1000
何もかもを奪い自身の力とし相手が得た力を失わせ自分が強くなっていく、先史遺跡超兵器は開闢の戦士から奪った力でより強力になった砲門を響子に向ける。
「そしてマシュマックの攻撃力をその差分、アップさせる」
No.33先史遺産―超兵器マシュ=マック ATK2400→5400
「バトルだ、マシュマックでカオスソルジャーを攻撃」
朝日よりもはるかに光り輝く特大の砲撃が開闢の戦士ごと響子を飲み込んだ。
「ああぁああ!?」
No.33先史遺産―超兵器マシュ=マック ATK5400 VSカオスソルジャー ―開闢の使者― ATK0
破壊→カオスソルジャー ―開闢の使者―
響子LP1000→0
勝者 堺
●
「さて頂くよ、ナンバーズ」
堺はマイクを上にあげ腕輪を向ける。
彼女が何を持っているのかは知らないがいつもよりも強力にしてもらったこれならば回収できるはずだ、そう思っていた。
見慣れた赤い光が放たれ視界を覆い、気づくと堺は赤と黒の渦巻く世界に立っていた。
「ここ、は?」
明らかに堺の居た世界ではない、何か別の巨大な力が渦巻く世界だ。そう気づいた堺は好奇心の赴くままに歩きだす。
赤い空を彗星の様に上に昇っていく一筋の光がある。
組み上がるように他の光が合流し、更に空を目指すも途中で堕ちていくものがほとんどだ。
流星が地より生まれ天に上っていく光景、それが何かに似ていると思ったが堺はそれ以上のことを思い出せなかった。
歩きながら未知の世界を観察する堺の前、黒紫の靄が生まれ、その中より声が発せられる。
「なるほど、私が力を飲み込んだ影響で彼の与えた力と私の記憶が何らかの干渉を起こしてしまったか」
堺が見守る中、黒紫の靄は赤黒の人型となり、それはまるで礼をするように腰を折った。
「ありがとうございます、久々に良い食事が取れました」
その人影を見て、堺はこれが響子の内にいる何かだと確信を持ち、同時に警戒心を持った。
世界各地の遺跡を回り培った勘がこの人型を自分よりも遥かに強大な力を持つ格上だと言っているからだ。
それを踏まえ、だが堺は好奇心の方が勝り、問う。
「食事、とは?」
「貴方が使ったバリアン世界の力です。アストラル世界の力ばかりではやはり体には良くないようなのでこのところずっと体調が悪かったのです、少し前に軽く食事させてもらってからずっと待ってたんですよ」
礼をしたままの恰好で動かない人型を用心深く眺め、先程から気になっていた星を聞く。
「あれはいったいなんなんだ?」
「あれですか、あれは人間世界に影響を与え、少しずつこちらの世界と同じ様な性質に引き込めないか、また先兵を送り込めないかというバリアン世界の試みです、彼等は戦争で神が封印されてからずっとそれを行ってきました」
2人の会話中、星は天を目指し、堕ちる。
「元々は違う願いを持って居て、違う可能性を探していたものだったんだが、だけど変わってしまった」
落ちていく星を眺め、彗星のように落ちていくそれを眺めつつ堺はさらに質問する。
「その試みとはいつ頃から行われてきたのかね?」
「……数千年前でしょうか、この世界の住人は元々が力量がバラバラの者達ばかりの寄せ集めでした、そして彼が、バリアン世界の神がアストラル世界の戦争に負けて封印されて以来、戦争をしていた敵とは違う道を探す物が現れ始めました」
堺は人型が話す事の意味が分からない。
まだ質問したい事はある、だがそれでも話を遮らずに聞く。
堺は様々な遺跡を巡って歴史を研究する考古学者という一面を持っており、全てが未知の世界を知りたいと思うからだ。
「同じような力量の者達が集い、切磋琢磨し更なる高みを目指すのではなく。力の優れた者が力量のバラバラの者達を従え力を合わせ、勝てない全ての艱難辛苦を打破しよう。この世界は自分達を捨てた世界とは違うんだ、カオスを持った自分達だけが成せることがある、そう
目の様に見える黒い輝きを細め懐かしむように見ながら、後悔を滲ませる口調でいいきった人影はさらに話を続ける。
「思い出すのも面倒になるほどの長い時間を彼等はひたすらに上へ上へと力を送り込みつづけました、そして少しずつバリアンの力がばらまかれ続け七皇があなたたちの世界へ出現できるようになったのですよ」
「ふむ……」
堺は星を眺め考えを纏まらせる。
あの星一つ一つにどれほどの願いが積み込まれ消えるのか、ナンバーズ、異世界、戦争、そしてバリアンの力、それらの裏に秘められた事情はよく分からない、それらは協力者であるフードの男と九十九遊馬達が知っているのだろう。
「あなたはどちらかと言えばこちら側ではなく、あちら側の人間だろう」
考えをまとめていた堺の耳に人型が呟いた言葉が入る。
「私利私欲ではなく他人を想いそしてそのために行動している、だが誰かの思惑がそれを汚している」
真意を知っているような言葉、記憶の世界という単語に堺はとある予測を立てる。
「まさか君も私の記憶を……?」
「ええ、見ました、研究が終わらず自分が死んでしまうことで研究自体が終わるのを恐れたあなたは強行手段に出た、いかなる綺麗な理想を打ち立てようとも手段が愚行ならばそれ相応の跳ね返りが来る事、そして裏からそれを煽った誰かの存在を、貴方はそれを分かっていた筈だ、それなのになぜこのようなことをしたのか、そしてそれを今、後悔していないのかを私は聞きたい」
真っ直ぐな目、訴えかけるというよりは何かを確認するような眼差しを見て、堺は少し笑い真っ直ぐに己の旨にある願いを口にする。
「私はあの時の決断を間違っていたなどと思いたくはない。いやあの時の決断は例え過去に戻れたとしても同じ決断をするだろう。自分が誰かの存在に都合が良いように操られようとも、現状や未来の事を恐れたとしても私は研究を完遂させようとする。例え道半ばで研究への道が全て閉ざされたとしても、この私が死んだとしてもそれは決闘者を研究に使うと決めたあの日から覚悟したことだ」
人型はその言葉に溜め息を吐くように、もしくは羨ましいと思うように優しく息を吐き、
「そうですか、過去に戻ろうとも、同じ選択をすると」
「ああ、満足に笑って死にたいが、悔しく思いながら未来に誰かが私の研究を引き継いでくれるといいな、と思いながら死ぬ方が悪党の私には相応しい。それでも私の研究が皆の役に立てばそれで良い、誰もが決闘を楽しく行えるようになればそれで良い」
「そうですか、貴方は良いですね、自分の決断に迷いも後悔も無いとは」
赤い世界は砕けていく、それを見て堺はこの時間の終わりを悟る。
「ああ、できれば私の存在はこの体の姉に伝えないでほしい。私はこれから必要以外表に出ない、だから見逃してくれ、というよりも君達2人のすれ違いから始まった不仲なのだから話し合え、とそれとなく言ってもらえると非常にありがたい」
「……善処しよう」
崩落していく世界の空に強い光が昇っていく、強く早く赤い空を駆け上り落ちない、黒と赤の光を放ち霞むように消えた。
●
「はっ!?」
気付けば堺は手を伸ばしたままだった。
その手にはナンバーズが在り、頭を軽く振りながら起き上がる響子の口元は軽く笑っている。
お願いします、そう口が動くのを見て堺はあれが原核では無かった事を理解し、座り込んだ響子へと手を伸ばし、
「ありがとうございました、面白いバトルだった」
響子に握られ軽く握手し、お互いに控室の通路へと歩き出した。