クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第二試合 下

『逆転、氷村プロがついに逆転したぞぉっ!』

 

『おお、これは中々、だけど氷村プロの手札は0、伏せカードは無し、それに対し神代選手はこのドローを合わせて手札が3枚、逆転の余地は十分にあります、まだ勝負は分かりませんよ!』

 

 多いな声で響く解説の声、それに興奮する観客達、それらの声がワンワンと響く中、凌牙は服に着いた砂を払いのけ目の前の相手を睨み付ける。

 

「負けられねえ、絶対に負けられねえんだよ」

 

 絶対ともいえる揺るがない意思を見せる相手を凌牙はじっと見る。そして控室で聞いた麗利と響子の事情を思い出し、自分と少しだけ重ねて、凌牙は自分の指に輝く2つのペアリングを見る。

 凌牙には妹が居た。

 彼女が健在ならばこの場に応援でも来ていて、この状況で喝を2つや3つでも言うのだろうが今の彼女はベッドから起き上がれない。

 妹の事を思い出せば同時に浮かぶのは僅かな、ほんのちょっとの感情から妹の申し出を拒絶し、そしてそれを謝ることのできない妹を思う感情だ。

 それを麗利と重ねてしまい、凌牙は声をかけるべきか少し開け迷い、今は決闘に集中すべきだと考え、後回しにした。

 

「俺のターン、ドロー!! 来たか俺はダブルフィン・シャークを召喚! このカードの召喚に成功した時、モンスター効果発動、墓地より魚族モンスターを効果を無効にして特殊召喚する、俺はセイバー・シャークを特殊召喚する」

 

 ダブルフィン・シャークにもセイバー・シャークと同じく効果を発動したターン、水属性モンスター以外のモンスターを特殊召喚出来ないという制限を受けるも凌牙が今より特殊召喚しようとしているエースは水属性でありその制約など在って無いような物だ。

 

「さらに俺はライフを1000ポイント支払って魔法カード、簡易融合を発動、エクストラデッキからレア・フィッシュを融合召喚する!」

 

 これによって凌牙のライフは300となる。

 

―――だがこれであのカードの効果発動条件は揃った!

 

「来るか、君のナンバーズ!」

 

 凌牙が今から特殊召喚しようとしているモンスターを知っている麗利は面白そうに声を挙げ、笑顔でそれを向かい入れる。

 

「行くぞ、俺はレベル4モンスター、セイバー・シャーク、ダブルフィン・シャーク、レア・フィッシュでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 魚達が飛び込んだ渦が光を溢れさせる。

 水が噴き出すように下から上へと爆発した光の中浮かび上がるのはロケットのように真っ直ぐに伸びるモニュメントだ。

 生体パーツを使いぬめるように鈍く光を反射するそれは少しずつ広がり、獲物を切り裂く巨大な手、水中を蹴る足、そして鮫のように突き出した鼻、獲物が死んでも攻撃し続ける意志を示す鋭い眼光が煌めく。

 最後に背に自身の番号を見せ付けるように刻み付け目の前の二足歩行の鮫人へと吠える。

 

「No.32海咬龍シャーク・ドレイク! をエクシーズ素材にしてオーバーレイネットワークを再構築、カオス・エクシーズチェンジ!!」

 

 凌牙の声にえっ!? と驚くような動きを見せつつも紫色の龍の姿はモニュメントの姿へと回帰し空に現れた渦へと突き進む。

 そして光の瀑布を貫き現れるのは白い棘を生やし輝く攻撃的な形をしたモニュメントだ。

 切り裂かれた光の渦はとぐろを巻き白く巨大な鮫龍を形作る。

 

「現れよ、CNo.32! 暗黒の淵より目覚めし最強の牙よ! 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス!」

 

 カオスの渦より解き放たれた鮫龍、その煌めく牙は半魚人へと向けられる。

 

「シャーク・ドレイク・バイスのモンスター効果発動、墓地のマーメイド・シャークを除外し、オーバーレイユニットを1つ使い、メガロアビスの攻撃力を0にする。バトルだ、シャーク・ドレイクでメガロアビスを攻撃! カオス・デプス・バイト!!」

 

 前へと加速をつけ、白鮫龍は口元に紫電を放つエネルギーを集め放つ。巨大な塊が弾け細いエネルギーは鮫の群れの様に縦横無尽に宙をかけ魚人へと迫る。

 

CNo.32海咬龍シャークドレイク ATK2800 VS 水精鱗―メガロアビス ATK0

 

「ガンマンラインだけは避けたいかな、速攻魔法、禁じられた聖槍をシャーク・ドレイクを対象に発動!」

 

 投じられた聖なる槍が光線の群れの一部を打ち払うも、体に力の入らない魚人は鮫の群れに食い千切られていくように光線によって細かくバラバラにされた。

 

CNo.32海咬龍シャークドレイク ATK2800→2000 VS 水精鱗―メガロアビス ATK0

破壊→水精鱗―メガロアビス

麗利LP2900→900

 

「だろうな、俺はこれでターンエンドだ」

 

凌牙場        CNo.32海咬龍シャーク・ドレイク・バイス ATK2800

LP300     

手札1      

 

麗利場         

LP900      

手札0                   

 

 麗利は久しぶりの危機的状況に追い詰められ思い出すのは、自分の犯した罪だ。

 決闘者として最低の事、自分のデッキを信じ切れず他人のデッキを使ってしまった事は今も自分の胸に罪悪感として残っている。

 プロになれるかの瀬戸際の試験にそれを行い、そして自分のデッキに申し訳なくてそれ以降自分のデッキを触れずにいる。

 それらに罪悪感を持っている自分は一応表面上は謝って許してもらってはいるが心の底で何を考えているのか分からない妹と顔が合せられなくなった。

 罪悪感に押しつぶされそうになりどうにかしないといけないという感情から久しぶりに会った妹だったが誰も居ないのに1人で会話したりいきなり無表情になったりするようになった。

 明らかに異常な様子に響子が外出したのを尾行してみればナンバーズと呼ばれるカードをアンティ決闘を仕掛けては奪い取るような不良になってしまっていた、

 普段ならばしないであろう行動なのだが、ナンバーズというカードに操られる人の特徴的行動であり、妹もナンバーズに取りつかれたのだろうと麗利は思い、そしてこれを麗利は妹との関係を取り戻すための好機と捕らえた。

 そこに今回のナンバーズハンターになるという依頼が来て、飛びついた。

 全てはナンバーズに操られている響子を助けるために、妹の役に立つことで、ナンバーズの呪縛から解放することで自分を自分が許せると、そうしなければ自分は妹と一緒に笑うことはできないと、そう強く、何かがおかしい、自分が思い違いをしているのではないかと本人が何も疑問に思わないほどに思い込んで、彼女は戦う。

 

「こっちだって負けられないんだよ……! 気合を入れてドロー!!」

 

 麗利は引いたカードを見て目を細め、

 

「あー、カッパーがいれば勝ちなんだけど、1枚しか持ってきてないんだよね、残念、深海のディーヴァを召喚、召喚時効果でデッキからレベル3の海皇の狙撃兵を特殊召喚、レベル3の海皇の狙撃兵にレベル2の深海のディーヴァをチューニング、レベル5、A・O・Jカタストル!」

 

「ちっ! そいつか!」

 

 現れた白と金の体を持つ感情を持たない殲滅機械に凌牙は眉を寄せるも打つ手がない。

 

「バトルだ、A・O・Jカタストルでシャーク・ドレイク・バイスを攻撃! この瞬間、カタストルの効果発動、闇属性以外のモンスターを破壊する!」

 

 カタストルより放たれる必殺の光線によってバラバラに切り刻まれたエースを見上げ、凌牙は唇を噛み締める。

 

「くっ、シャーク・ドレイク・バイスが!」

 

「ターンエンドだよ!」

 

麗利場       A・O・Jカタストル ATK2200

LP900      

手札0                   

 

凌牙場        

LP300     

手札1      

 

 凌牙は手札があるもそれ1枚では状況を打破できず、麗利は手札が0、互いにどちらが良いカードを引き当てるかが勝利への鍵となっている。

 凌牙は息を吐き、デッキへと手をかけた。

 

「ドロー、俺はダブルフィン・シャークを召喚、墓地からセイバー・シャークを特殊召喚する、そしてダブルフィン・シャークとセイバー・シャークでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、再び現れろ、バハムート・シャーク! そしてバハムート・シャークの効果発動、エクストラデッキからNo.17リバイス・ドラゴンを特殊召喚するぜ!」

 

 再び響くその声に呼ばれ開いた渦から出てきたのはランタンの様なモニュメントだ。

 所々に棘があり鱗のようにビッチリと同じ方向に並ぶそれは下から少しずつ解けていく、長い尾、手と翼膜、そして顔が見え、数字を顔の横に刻みそして自身を隠すように丸くなった。

 

「そして伏せていたエクシーズ・トレジャーを発動、場のモンスターエクシーズは2体、よってデッキから2枚、ドロー!」

 

 2枚のカードを引く瞬間、麗利の喉が唾をごくりと飲み込んだ動きを見せる。聞こえない筈のその音すらも凌牙の耳には届き、観客の声も何も置き、ドローする。

 それを見て、凌牙はゆっくりと目を閉じ、

 

凌牙場      No.15リバイス・ドラゴンDEF0

LP300      バハムート・シャークDEF1600

手札1      伏せ1

 

麗利場      A・O・Jカタストル ATK2200

LP900      

手札0        

 

 陵牙は緊張している自分を落ち着かせるべく軽く息を吐く

LPは300、打開するためとはいえ自分でガンマンラインに身を投げた以上負ける覚悟しなければいけない。

 プロ決闘者の中に有名な台詞がある。

 LP800以下になったらランク4を出させるな、遊馬も持って居るガガガガンマンの効果を防げなければ敗北する、と。

 握った手に沸く汗をズボンで拭きながら凌牙は自分を落ち着かせるために響子から聞いてたデッキ内容を思い出す。

 

―――落ち着け、あのデッキの性質上、手札がレミューリアと深海のディーヴァを揃えないとランク4は出せないはず、まだ大丈夫のはず。

 

 自信を落ち着かせるために大きく息を吐き、固唾を飲んで麗利のドローを見守る。

 

「ドロー……来ないなぁ、カタストルでバハムートシャークを攻撃!」

 

 再び叩き込まれる破砕の光、それを浴びたバハムート・シャークは戦闘を行う暇も無く爆散する。

 だがそれを見て凌牙は安堵する。

 メイン1に何もしないというそれが示すのは、相手も良いカードを引けなかったという事だ。

 

「んー、攻めきれないなー、ターンエンドだよ」

 

 相手は1枚ドロー氏、こちらはモンスターを1体失った、それだけの変化しか起きずターンは凌牙へと回って来る。

 口調は軽いが麗利の眼は真剣に凌牙のドローする手に向けられている。

 互いに相手の行動に集中し、相手だけを見る中、2人の真剣な様子に観客の声は減り、音が徐々に小さくなっていく。

 凌牙はゆっくりとデッキへと手を置き、

 

「ドローッ!」

 

 凌牙は引き当てたカードを見、ブラフとして伏せたカードを見て、

 

「リバースカード、浮上を発動、俺の墓地より水属性のレベル3以下のモンスターを特殊召喚する!」

 

 凌牙の伏せていたカードが表になったのを見て麗利は顔に手を当てる。

 そしてひらりと袖が宙に踊り、残っていたドローカードを墓地スロットへと叩き込む。

 

「……ブラフかぁ、カタストルの攻撃の時、結構緊張したんだけど警戒して損したなぁ、手札よりモンスター効果、増殖するGだ!」

 

「っ!」

 

 凌牙は息を吸い、互いの墓地を確認する、そして今引いたカードを見る。

 引いたのはスピアシャーク、召喚時にレベル3の魚族モンスターのレベルを4に変更できるカードだ。

 

―――どうすればいい?

 

 陵牙は考えをまとめにかかる。

 ここで遊馬から借りているマエストロークで決めるべきか、もしくはヴェルズ・ビュートで後続をまとめて破壊するか、それともこのまま放置するかだ。

 1番最初の案は相手の2枚のドローという危険性と引き換えに勝ちを得ることができるかもしれない。

 2番目は何らかの方法でメインフェイズに除去されれば敗北に直結する。

 3番目はカタストルだけならばダメージを受けない、だが他のモンスターを引かれた場合、今こちらへと来ている流れを持っていかれる。

 凌牙は悩んだ末に自分らしく攻撃的に行くことに決める。

 

「……シャークサッカーを特殊召喚する」

 

「じゃあ、ドロー」

 

「スピア・シャークを召喚、スピア・シャークのモンスター効果でシャーク・サッカーのレベルを1上げる、レベル4となっているシャーク・サッカーとスピア・シャークでオーバーレイ、現れろ交響魔人マエストローク!」

 

「逆転のカードよ、来い!」

 

 麗利は祈るようにカードを引き抜き、驚くような顔を見せ手札に加える。

 それらの表情が演技なのか、演技ではないのかが凌牙には掴めない。

 

「まだだ、俺もエクシーズ・トレジャーを発動、場には2体のモンスターエクシーズ、よって2枚ドロー…………くっ、マエストロークのモンスター効果、オーバーレイユニットを使い相手モンスターを守備表示へと変更する!」

 

 悩むように手札とにらめっこしながら、手札に手をかけ、ちらりちらりとこちらをうかがいながら麗利は動かない。

 凌牙はその様子を煩わしく思うも心理戦としぐさ、クラッシュトークは大会では認められている事であり立派な戦術であり、罵倒や人の薄暗い過去を突く等の精神攻撃をしてきていない以上、批判はできない。

 

「バトルだ、リバイス・ドラゴンで裏側守備になったカタストルを攻撃!」

 

 バトルフェイズを裏側守備で過ぎる事によりカタストルの持つ破壊の力を発揮できずカタストルは竜が吐き出した息吹に砕かれる。

 

No.17リバイス・ドラゴン ATK2000 VS A・O・Jカタストル DEF1200

破壊→A・O・Jカタストル

 

「そしてマエストロークで直接攻撃!」

 

 指揮者のタクトを槍のように風師、麗利へと突進するマエストロークだが、

 

「手札から速攻のかかしを発動、バトルフェイズを終了させるよ」

 

「くっ、2枚伏せて……ターンエンドだ」

 

凌牙場      交響魔人マエストローク ATK1800 (ORU1)

LP300      No.15リバイス・ドラゴンATK2000 (ORU1)

手札0      伏せ2

 

麗利場        

LP900      

手札1        

 

「ドロー、お、いいねえ」

 

 ニヤリと笑う麗利の笑み、それは何か良いカードでも引き当てたようである。

 凌牙の背に氷でもぶち込まれたように冷たい物が走る。

 それは今まで数多く決闘し続けた決闘者だけが分かる特有の物、何かまずい物が来ると言う予感だ。

 

「エクシーズ・トレジャーを発動、デッキから2枚ドロー……あー、しまったなぁ」

 

 引き当てたカードを見て麗利は天を仰ぎ見る。

 引いたカードは非常に良いカードだ、相変わらず妹が作ったこのデッキが助けてくれることに感謝しつつ自分の考えが甘いことを思い知らされる。

 妹のデッキを勝手に借りてしまった時から分かっていたはずの事、自分には勝てるデッキを作る力はあまり備わっていない。どうしても好きなカードを入れてしまいそれを抜くことができなかった。

 妹の響子は運がない代わりにデッキを作る事が上手かった、だからこそプロになるための試験の際に妹のデッキを借りてしまった。

 自分流にエクストラのモンスターを変えた結果が今の状況だ、どうしても外せない切り札2枚が重しとなり今回、勝負を決めるカードはエクストラデッキに入っていない。

 最後の最後で詰めが甘いと自嘲しつつ、

 

「もうちょっとシンクロモンスター増やしとくかガンマンも持ってくればよかったなぁ」

 麗利はため息を吐き考えるのはこの後の状況だ。

 

―――確かにこの状況ならあのカードを出せば勝てるかもしれない、でも防がれたら本当に負ける。借り物のデッキに借り物のカードはお似合いだ、だけどどうせ負けるんだったら自分の前のデッキからの切り札を出して負けよう。そして負けたら妹に本気で謝ろう。

 

 防がれるのか、それとも通って自分の切り札を見せることができるのか、おびえ半分、楽しさが半分、その感情を隠さずいつもの笑顔よりもさらに満開の微笑みを見せ、

 

「まー、こうなれば腹を決めるかな、勝負だよ! 私の全力、最強の切り札、受けてみてよ! 魔法カード、サルベージを発動! 墓地より攻撃力1500以下の水属性モンスターを2枚手札へと回収する。深海のディーヴァ2体を手札に戻し、フィールド魔法、忘却の都 レミューリアを配置するよ」

 

 その発動と共に会場の周りのARビジョンも変化を始める。

 周囲の青い空間はより深みを増し深い蒼に、そして地中からはそびえ立つ白い大理石の神殿がいくつも出現する。

 麗利の足元からも一際巨大な神殿が顔を覗かせ、麗利を遥か上にまで押し上げる。

 凌牙が麗利を見上げれば麗利は祈る様に手を合わせ、手札に回収された歌姫を決闘盤へと置く。

 

「深海のディーヴァを召喚、ディーヴァの効果発動! デッキから海皇の重装兵を特殊召喚、そしてレミューリアの効果で深海のディーヴァと海王の重装兵のレベルを2つ上げ、4にする」

 

 麗利の傍、2つの柱がせり上がり、その上にディーヴァと重装兵が降り立つ。

 

「またランク4か!?」

 

「違うよ、ナンバーズハンターをやってるけどナンバーズを召喚しないというのもなんだけど、私のこの昔から使ってきた切り札を使いたいんだ」

 

 くるり、くるりと踊るように回り、廻り、エクストラデッキから白いカードを引き抜く。

 

「重装兵の効果で海竜族モンスターを召喚出来る、私は2体目の深海のディーヴァを召喚、効果でデッキよりの最後のディーヴァを特殊召喚、そして私が今から呼ぶのはこのデッキの主、さあ、ご覧あれ」

 

 更に追加される2人の歌姫、合計3人となった歌姫達は揃い集い、声を合わせ謳いはじめる。

 低く、強く、高く、それぞれの歌声が響き、そのうちの重装兵と歌姫が星と輪へほどけ、天へと昇っていく。

 

「レベル4となった海皇の重装兵にレベル4となった深海のディーヴァをチューニング、お出でませ、燃え盛る野望抱きし龍、レッド・デーモンズ・ドラゴン」

 

 名を呼んだ瞬間、ひらひらとした青い麗利の服が橋から燃える様に赤く染まっていく。

 それと時を同じくするように美しかった都を燃やすのは体から沸き上がる黒い竜の炎だ。

 真っ直ぐに飛び上がり自身を喚んだ歌い手を独占するように炎を放ち囲う。

 今なお歌い続ける歌い手の力は強大で地を砕きマグマが噴出する。

 

「謳い踊れ、歌姫達よ、今こそ! その讃美歌を喉が潰れるまで謳う時だ、レベル2の深海のディーヴァ2体にレベル8のレッド・デーモンズ・ドラゴンをダブルチューニング!!」

 

 麗利の服は炎一色となり白の帯が炎の熱に煽られ様に漂う。炎を纏う指揮者を、そして都全てが焔に包まれる。

 焔に包まれる会場の中央、誰でも見える様に一段と高くなった塔の上で囚われの歌姫が歌う、空を飛ぶ黒竜が合わせるように咆哮を上げる。

 その咆哮と合流したエネルギーは噴出するマグマをも取り込み歌姫達と共に黒い竜へと飲み込まれていく。

 

「シンクロ召喚! 歌姫に導かれここは貴方様の活躍の場! 全てを燃やす野望と立ちはだかる全てを砕く絶対的な力を振るい、貴方様の雄姿を皆へ思い知らせましょう、現れ給え、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン!!」

 

 神殿に発生した真紅の太陽、それより発する熱は大理石の神殿を溶かし、太陽は更に膨れ上がり、爆発する。

 周囲全てを破壊の渦に叩き落としながら我が物顔で歩くのは真紅の魔龍だ。

 爆発の余波に巻き込まれた凌牙がそれを見、魔竜と眼が合う。

 

「スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの攻撃力は墓地のチューナー1体につき500ポイントアップする。墓地のチューナーは3体のため1500アップだ!」

 

「ちっ、攻撃力5000か!」

 

「バトルだ、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンでマエストロークを攻撃! アルティメット・クリムゾン・アタック!!」

 

 腕を折りたたんだ魔龍が紅い流星となり凌牙へと落下する。

 落下する際に発生する衝撃波は破壊された都の残骸を更に吹き飛ばし破砕の嵐をぶちまけていく中、凌牙は急いで立ち上がる。

 

スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ATK5000 VS マエストロークATK1800

 

「罠発動、ガードロー、マエストロークを守備表示にし俺は1枚ドローする」

 

 マエストロークは両腕をクロスさせ防御姿勢を取り、紅い流星を受け止める。

 じりじりと押されていく中、マエストロークは自分の横を飛び回る黄色の球を手にとった。

 

スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ATK5000 VS マエストロークATK1800→DEF2300

 

「そしてマエストロークはオーバーレイユニットを1つ取り除くことで破壊を免れることができる⋯⋯!」

 

 オーバーレイユニットを取り込むのと紅い流星にマエストロークが撥ねられたのはほぼ同時だった。

 マエストロークが受け止めた事により紅い流星は凌牙へとは命中せずギリギリ横を掠りながらも通り過ぎた。

 

「仕留められなかったかぁ⋯⋯まあ気を取り直して、さて、これがあなたを仕留める本命の罠」

 

 凌牙に見せつける様に印象付ける様に大きく腕を振り最後のカードを伏せる。

 

「それを伏せてターン、エンド」

 

麗利場       スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ATK5000

LP900      伏せ1

手札0       忘却の都 レミューリア  

 

凌牙場       マエストローク DEF2300

LP300      No.15リバイス・ドラゴンATK2200

手札1        伏せ1

 

 凌牙も麗利も肌で感じていた。これが最後のターンであると。

 

―――あの伏せカードが本当に切り札の可能性は捨てきれない、だけどそれを噛み砕いてやる!

 

 凌牙はそう決意し、

 

「ドロー! ビッグ・ジョーズを召喚、そして召喚成功時に手札のシャーク・サッカーの効果発動、このカードを手札から特殊召喚する」

 

「レベル3のモンスターが2体⋯⋯それでどうやって勝つのかな?」

 

「今からそれを見せてやるぜ、レベル3の水属性のビッグ・ジョーズとシャーク・サッカーでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろブラック・レイ・ランサー!」

 

 黒い外套にモンスターの効果を封じる力を持つ赤い槍を持つモンスターが現れる。

 それの登場に口元を緩めるも麗利の余裕は崩れない。

 

「ブラック・レイ・ランサーの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い、お前のモンスター効果を無効にする、パラライズ・ランス!!」

 

 放たれた槍は寸分狂わず紅い龍へと突き刺さる、力を封じる槍に貫かれた龍の身に纏う紅いオーラは失われていく。

 これによってスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの持つ相手による破壊効果を受け付けず、チューナーの数だけ攻撃力があがる効果も、相手の攻撃に対し自信を除外する事で攻撃を無効にする効果も失われる。

 

「だけど攻撃力は3500、こっちのほうが上、まだ負けないよっ!!」

 

「ふっ、それはどうかな。俺はブラック・レイ・ランサーを対象に罠発動、フル・アーマード・エクシーズ!!」

 

「そのカードは!? そうか……」

 

 麗利もそのカード効果を知っているのか、俯き、肩の力を抜き、小さく息を吐く。

 

「そして、オーバーレイユニットの無い水属性のモンスターエクシーズ、リバイス・ドラゴンでオーバーレイネットワークを再構築、エクシーズ召喚、現れろ、FA-ブラック・レイ・ランサー!!」

 

 再び場に現れる槍術師、その装備品は先ほどの機械のパーツではない。

 リバイス・ドラゴンの青い翌膜、骨の様に鋭く尖った竜体を体に巻き付け、頭には竜の兜を被るその姿はお伽噺の竜殺しの姿に似る。

 

「この瞬間、フル・アーマード・エクシーズの効果が発動する。今、エクシーズ召喚したFA-ブラック・レイ・ランサーにさっき選択したブラック・レイ・ランサーを装備カードとなる。フル・アーマード・チェンジ!」

 

 翼のような外套、力を無効にする赤い槍を背後に立つ仲間へと投じ、槍術師の1体は分解し装備パーツとなってもう1体の体に合致していく。

 蒼の竜を体に巻き付け厚くなった黒鎧、赤い槍と黒いエネルギーを結晶化した槍の2槍を両手に掲げ、魔龍へ槍術士が飛ぶ。

 

「ブラック・レイ・ランサーの攻撃力は装備したFA―ブラックレイ・ランサーの攻撃力分アップする。これでスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの攻撃力を上回った! バトルだ、その魔龍を打ち取れ、ブラック・レイ・ダブルランサー! ダブルブラック・ブライト・スピアーっ!!」

 

FA-ブラック・レイ・ランサー ATK4600 VS スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ATK3500

 

 龍と槍士の近距離戦が始まる。

 炎を吐けずともその身に秘めた膂力と巨体を生かし直接打ち倒そうと腕を、尻尾を振るう龍の攻撃を掻い潜り黒い槍士の攻撃は少しずる龍の鱗をはぎ取っていく。

 それでもなお弱まる気配の見せない龍の猛攻を受けずひたすらに位置を変え踊るように打ち合うその姿に観客たちが目を釘付けにする。

 槍士の放った赤い槍が龍の足を捕らえその場に縫い付けにする。

 終わるか? と誰もが思った瞬間、

 

「……しい」

 

 声が響く。

 

「惜しい。そう私は言ったはずだよ。これは君を仕留める本命のカードだと! ダメージステップ、禁じられた聖槍!」

 

「なっ!?」

 

 顔を挙げ少女の顔に浮かぶのは勝利の確信。

 麗利の手よりより投じられた黄金の槍が赤い槍を砕き、槍士へと突き刺さる。

 刺された箇所より力を失い始める槍士は手で槍を抜こうと試みるも槍に弾かれてしまう。

 

FA-ブラック・レイ・ランサー ATK4600→1500 VS スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ATK3500

 

「ゲームエンドだ! 迎撃しろ、アルティメット・クリムゾン・アタック!!」

 

 そこを見逃さずノヴァは突進体制をとると最後の力を振り絞り炎を纏う。

真っ赤に、大気圏に突入する隕石の様に赤熱した真紅龍は一気に加速し、貫き大爆発を引き起こす。

 

破壊→FA-ブラック・レイ・ランサー 

凌牙LP300→0

勝者 麗利

 

「ぐっ、ぐああああ!?」

 

「ナンバーズ、頂きだ!」

 

 爆発の余波に巻き込まれ吹き飛んだ凌牙へ麗利は腕輪の力を放ち3枚のカードを奪う。

 

                    ●

 

『決まったっー!第二試合を制したのは氷村麗利プロだ、熱戦の末にカウンターが炸裂ぅううう!』

 

『いや素晴らしい試合ですね、今、私は非常にテンションが上がっています!』

 

「大丈夫かシャーク!?」

 

 ボロボロになりながらも控室までたどり着き椅子に倒れ込む凌牙を心配して遊馬は声をかける、

 いくら歴戦の決闘者でも魂に干渉するダメージにはどうすることもできず座り込むだけだ。

 

「流石プロ決闘者だな……、今までの戦った中でも、五本の指に入るレベルの決闘者だ」

 

「そんなにか!?」

 

「ああ、しかもアイツ、シャーク・ドレイク達を奪いやがった」

 

「なっ!?」

 

 強力なナンバーズ、しかもどちらも水属性であるモンスターエクシーズを海皇を使う彼女が奪う事はかなりの大きさを秘めている、いずれ戦う際に氷村麗利が繰り出してくる可能性が出てきたからだ。

 緊張した空気に包まれる中、追撃の様に、

 

「さて休憩も終わり、抽選が始まります!第三試合の対戦カードは氷村響子さんと堺浩二プロです」]

 

 ●

 

 とある一室でフードの男はテレビで大会を見ながら考え事をしていた。

 目標まであと一歩のところまできた、あとは九十九遊馬達を倒せば計画は完遂されるのだが男は上手く進んでいた計画を二人によって邪魔された事が脳裏を離れない。

 

「九十九遊馬、それにアストラル。あいつらは俺の予想の上を行く存在だ、だとすれば今回の適当な計画じゃ奴らを倒せねえかもしれねえ」

 

 憎たらしいという感情を込め吐き捨て、男はこの計画が失敗したらそれをどう次の計画に繋げていくかを練りはじめる。

 

「そうなると次は俺様が実際に乗り込んで掻き回すしかねえか、まあいい収穫はあった!」

 

 男の手には2枚のモンスターエクシーズが握られいる、強力な力を秘めた2枚の闇属性モンスターエクシーズが男の手で輝く。

 

「しかし、人海戦術まで使って探してもナンバーズが手に入らないということは、まさか人の手に渡っていないんじゃねえのか?」

 

 男はとある遊馬達が解決した事件の話を思い出した。

 No.7ラッキーストライプが引き起こした事件、あのカードには古くから伝説のような逸話があった。つまり古い時代から存在したということだ。太古からデュエルモンスターズは存在しており凄まじいエネルギーを秘めたカードは神の様に崇められた、ならば未発見や前人未到の遺跡や何かにナンバーズが存在している可能性があるのではないか。

 そうフードの男が考え付いたのはとある男の囁きなのか、それとも自身の才覚なのかはこの地球上では1人を除いて分かるものはいない。

 

「この作戦には悪役が必要だなぁ、脳筋2人を差し向けてよからぬ事を始めるか」

 

 口元に笑みを浮かべ、男は立ち上がった。


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