クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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全ての始まりとアンティ決闘 下

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

LP4000    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

手札2      伏せ 4

 

裕場     

LP1600

手札4    伏せ1

 

 今までのプレイングや態度からエヴァの使うデッキタイプがモンスターで戦闘を行う兎ラギアだと裕は予想する。

 その上で思い出すのは自分が元の世界でやられた事だ。

 敗北回数の方が多いが征竜や魔道、ヴェルズよりは勝てる、それだけはすぐに思い出せる。

 

―――えっと、確か伏聖槍や聖杯など戦闘補助カードを多く積んだりしてたよな、んでもって厄介なのは強制脱出装置だよな……!

 

 大嵐が非情に欲しい所だがスターライト・ロード辺りがある可能性も捨てきれないので現状、かなり厳しい状況だ。

 そして裕の取れる最善は少ない消費で伏せやラギアを使わせることしかない。

 だがそのような都合のよいカードは来てはおらず、

 

「…………むむ、モンスターをセット、カードを伏せてターンエンド」

 

裕場      セットモンスター

LP1600

手札3     伏せ2

 

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

LP4000   エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

手札2      伏せ 4

 

「叫んでドローカードがよくなるわけないもんなぁっ、俺のターン、ドロー…………ん? まあいいか、セイバー・ザウルスを召喚、バトルだ! セイバー・ザウルスでセットモンスターを攻撃!」

 

 もはや聞くまでもないといわんばかりに手を進め、エヴァは攻撃宣言する。

 裏側になっていたカードが反転する。

 そこに居たのは真っ白な犬だ。

 白い猟犬は伏せの状態から立ち上がり、セイバー・ザウルスの突進を掻い潜り、最初に現れたラギアの喉元に食らい付こうとする。

 

「ライトロード・ハンター ライコウか、だったらダメージステップにリバースカード、禁じられた聖杯をライコウを対象に発動、攻撃力が400ポイントアップするがこれでライコウの効果は無効、墓地肥やしもラギアの破壊もさせねえよ!」

 

 ラギアは空中に現れた聖杯を握りライコウへと浴びせもう片方の手で叩き落す、そこへ追いついたカバザウルスが飛び上がりライコウへ圧し掛かりを食らわせライコウが爆発する。

 その謎の爆炎の中より現れた0と1のコードを纏うドラゴンが裕へ襲い掛かる。

 

「ラギアでダイレクトアタック!!」

 

「手札より速攻のかかしの効果発動、相手の直接攻撃(ダイレクト・アタック)宣言時にこのカードを手札より墓地に送り、バトルフェイズは終了だ!」

 

 エヴォルカイザー・ラギアの効果はオーバーレイユニットを2つ使い魔法、罠、モンスターの召喚、特殊召喚を無効にする事だ。

 モンスター効果を止める効果は別のエヴォルカイザーが持つ効果でありラギアだけしかいないこの状況下でこのカード効果は止められない。

 

「ちっ、カードは1枚伏せてターンエンドだ!!」

 

「エンドフェイズ、サイクロン、対象は今伏せたばかりカード!」

 

「…………ラギアの効果だ、オーバーレイユニットを2つ使いサイクロンは無効にする!」

 

 ラギアの周りを旋回していたオーバーレイユニット2つのラギアの口に飲み込まれる。オーバーレイユニットを力へと昇華させたラギアが放った0と1のコードにより裕が発動した竜巻は打ち消された。

 これによってラギアの持つオーバーレイユニットは全て失われラギアの内、1体は打点があるだけのバニラモンスターに変わる。

 

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU0)

LP4000    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

        セイバー・ザウルス ATK1900

手札1     伏せ 4

 

裕場      

LP1600

手札2     伏せ1

 

 この圧倒的な状況に余裕を持つエヴァは裕に勝ち誇り、

 

「さあそろそろデッキとお別れだな!」

 

「まだ俺は負けてねえ、ドロー!」

 

 水田裕は基本的にあまり考えない。

 伏せが大量にあろうともクェーサーが出せそうな手札ならば全力でぶん回すような短絡的な思考を持っている。

 個々の攻撃力が小さく殴り合いが出来ないデッキタイプ故にそのような戦略を取るほかなく、無警戒で罠を踏み敗北した事などそれこそ星の数ほどある。勝率も悪いのもまた事実だ。

 だが連続でシンクロを決め相手の罠を踏み越えてクェーサーやシンクロモンスターを場に出し相手に勝利したときに湧き上がる達成感、それが裕はたまらなく好きだった。

 

―――行けるかな? ……いや悩んでもしょうがない。最終的にあのカードまで繋げれば勝てるかもしれないし!

 

「踏み抜く! 相手の場にモンスターがいて俺の場にモンスターが存在しないとき、手札からアンノウン・シンクロンを特殊召喚する! ……通るのならセットしていた調律を発動!」

 

「ちっ、ブラフだったか」

 

 裕の問いかけに舌打ちをしつつも首を縦に振った男を見て、裕は手と頭を全力で動かす。

 

「デッキからシンクロンチューナーモンスター、クイック・シンクロンを加える。そしてデッキをシャッフルし一番上を墓地へ」

 

 落ちたのは猫科の顔をした鼻のようなイラストのモンスター、ダンディライオンだ。

 それを見たエヴァは露骨に舌打ちをする。

 

「よし、ダンディライオンの効果だ、墓地に送られた時、綿毛トークンを2体を特殊召喚する!」

 

 ふわりと裕の墓地より浮かび上がった2つの綿毛、裕が墓地に手を伸ばそうとするよりも先、エヴァが動く。

 

「今しかないか、永続罠、王宮の鉄壁を発動する。これでスポーアも蘇生出来ねえなぁ!」

 

「えっ、なんでそんなカードを?」

 

 裕は思わず口に出してしまった。

 本来、デッキは所有者の自由であり他人がとやかく言うものではない。だがレスキューラビットが手札に来たらどうするんだ、と裕は知識が足りない故に呟いてしまう。

 

「それはだな、まあいいじゃねえか!」

 

 スポーアが墓地にあるのだがこれによって墓地より特殊召喚出来なくなってしまう。

 1体でも多くチューナーを展開する事が勝利に繋がる裕のデッキにおいてそれは結構な痛手である。

 

「だったらガスタ・グリフをコストに墓地に送り、クイック・シンクロンを特殊召喚!」

 

「この動き、シンクロンデッキか。出してみろよ、お前のシンクロモンスターを、召喚を無効にして蹂躙してやるよぉっ!」

 

「邪魔するんならぶち抜くまでだ! 墓地からガスタ・グリフの効果発動。このカードが手札から墓地に送られた場合、デッキからガスタと名の付いたモンスターをデッキから特殊召喚できる。俺はレベル3のガスタ・コドルを特殊召喚! そしてレベル3のガスタ・コドルにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング!」

 

 機械のガンマンが5つの輪となって空へと昇っていき、それに導かれる様に緑色の鷲が3つの星となって空へと昇っていく。

 そして5つの輪と3つの星は力を集結させ新しい姿を手に入れる。

 

「シンクロ召喚! レベル8、ジャンク・デストロイ」

 

「通さねえ、ラギアの効果、オーバーレイユニットを使いそいつのシンクロ召喚は無効だ!」

 

 半透明の破壊の力を宿した巨人はラギアの放った光に飲まれ消滅してしまう。

 

「ならばジャンク・シンクロンを召喚!」

 

 半透明の帽子やグローブをオレンジで統一した戦士が現れる。

 

「通すかっての、カウンター罠、神の宣告を発動、召喚は無効だ」

 

エヴァLP 4000→2000

 

 エヴァが開いたのは先ほどのサイクロンで対象になったカードだ。

 

「だからさっき守ったのか、だったら、レベル1の綿毛トークンにレベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚、レベル2、フォーミュラ・シンクロン! そしてフォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚成功時にデッキから1枚ドローする!」

 

「運任せか、ドローしろよ!」

 

 もはや止める手段がないのだろうか、エヴァは苛立ちを隠さずに怒鳴る。

 裕としてもこのドローに全てがかかっている為、祈る様に目を閉じ、ゆっくりとデッキへと手を置き、カードを引く。

 そして恐る恐る手にあるカードを見、裕はため息を吐く。

 

「本当に俺ってギリギリの綱渡りしかできないな」

 

 先程の恐れの混じる表情には笑みが浮かぶ。そしてそれを見たエヴァは何か良いカードを引いたのだろうと舌打ちをするも止めるカードが無い。

 裕はドローしたカードを即座に決闘盤に叩き込む。

 

「1000ポイントライフを払って簡易融合(インスタント・フュージョン)を発動、エクストラデッキからフュージョニストを融合召喚する」

 

裕 1600→600

 

 裕の場に現れたのはカップ麺だ。

 それは裕の体から抜き取られた命を水として少しの時間を置き、中より翼が生えた猫が飛び出してくる。

 それは効果を持たないただのレベル3の融合モンスターだ。だが連続シンクロを得意とする裕のデッキでかなり重要な位置を占めると言っても過言ではない。

 

「レベル3のフュージョニストとレベル2のフォーミュラ・シンクロンでチューニング、シンクロ召喚、レベル5、A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)カタストルだ!」

 

 現れた白銀の機械にエヴァは舌打ちをし、露骨にいやな表情を見せる。

 それはそうだろう。

 このカードは闇属性以外のモンスターと戦闘する場合にダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊するという強力な効果を持っている。

 このカタストルはグアイバやラギアで相手の行動を妨害しつつ殴り勝つというエヴァのデッキからすれば非常に面倒な敵なのだ。

 

「ちっ、カタストルか!」

 

「バトルだ、カタストルでセイバーザウルスを攻撃、そしてカタストルの効果で闇属性じゃないセイバーザウルスは破壊される!」

 

 機械より放たれた光線、それを浴びた恐竜はもだえ苦しみ、爆散した。

 ギリギリの皮一枚でつながった状況ではあるがそれでも裕の顔には安堵の感情がある。

 罠、妨害を潜り抜け逆転しかけているという事実は裕の気持ちを楽にする。

 

「よし! 俺はターンエンドだ!」

 

裕場      A・O・Jカタストル ATK2200

LP1600    綿毛トークン DEF0

手札0 

 

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU0)

LP2000    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU0)

手札1     王宮の鉄壁

        伏せ 2

 

「いくら手札が有ったからってあの状況をひっくり返しただとっ、クソっ、ドロー…………どうしたっていうんだよぉ!」

 

 ドローしたカードを見たエヴァは何故か激昂したように怒鳴る。

 その様子に先からこちらの決闘をつまらなさそうに見ていた少女が近寄り、声をかけてきた。

 

「珍しいな、お前がそんな表情をするなんて」

 

最上(もがみ)!? なんでお前がここに」

 

 2人は顔見知りなのだろうか、微妙に険悪なムードを漂わせている。

 最上と呼ばれた少女は暇そうに欠伸をし、エヴァを煽る様に言い放つ。

 

「さっきから居たんだけどなぁ、まあそれよりもさっさとこのつまんない決闘を終わらせろよー。お前ならいつもの様に逆転のカードを引いたんだろ?」

 

「……ラギアで綿毛トークンを攻撃、そしてカードを伏せてターンエンドだ」

 

「あれ?」

 

 ラギアの口より漏れ出した炎は綿毛トークンを焼き払っていく。だがそれだけだ。

 エヴァは顔をしかめるもどうする事も出来ないらしく、そのままエンド宣言をした。

 その様子を最上は不思議そうに見て、ゆっくりと裕へと視線を移す。

 眉を真ん中に寄せ、上から下まで舐め回す様に、まるで値踏みをされるようなその視線に不気味な物を感じ、裕は少女を見ない様にしながらデッキに手をかける。

 

「俺のターン、ドロー! よし! 貪欲な壺を発動、墓地のジャンク・デストロイヤー、スポーア、ジャンク・シンクロン、ガスタ・グリフ、ガスタ・コドルをデッキに戻し2枚ドロー!」

 

「ちっ」

 

 エヴァは何もすることが出来ないのだろう、固唾を飲み見守る中、裕は得意げに笑う。

 

「俺は調律を発動、デッキよりジャンク・シンクロンをサーチ」

 

 墓地に落ちたのは大嵐だ。だが裕はそれに目もくれず、

 

「そして増援を発動、ドッペル・ウォリアーを手札に加える! そしてジャンク・シンクロンを召喚! ジャンク・シンクロンの召喚時効果でレベル2以下のモンスターを墓地より特殊召喚出来る! 甦れフォーミュラ・シンクロン!」

 

 相手の妨害の動きは無い。

 この状況で発動しないとなるとあの伏せているカードは効果無効のカードではない事が裕でも分かる。

 

―――後怖いのは奈落だけど、もうどうでもいい、全部、踏み抜くまでだ!

 

「そして墓地からモンスターを特殊召喚したこの時、手札のドッペル・ウォリアーの効果発動、このカードを手札から特殊召喚する!」

 

「この布陣、まさか」

 

 これにより合計レベルは5、そして場にはレベル2のシンクロチューナーとレベル5のシンクロモンスターが居る。

 その布陣は知っているものが見れば即座に思い当るであろうシンクロモンスターが今、現れようとしている。

 

「レベル2のドッペル・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング。シンクロ召喚、レベル5、ジャンク・ウォリアー! そしてシンクロ素材になったドッペル・ウォリアーの効果発動、レベル1のドッペルトークンを2体、特殊召喚する」

 

 裕はエキストラに手を伸ばす。

 いきなり神を名乗る奴に拉致られて異世界で決闘をすること11回目、空中に投影される相棒のカードはどのように動くのか、期待に胸を躍らせ空に目掛け投げるように白のカードを引き抜く。

 

「レベル5のシンクロモンスター、A・O・Jカタストルとレベル5のシンクロモンスター、ジャンク・ウォリアーにレベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベルマックス!」

 

 裕の手が興奮と歓喜で震えはじめる。

 フォーミュラ・シンクロンの巻き起こす風が夜の木々を揺らしていく中、裕はエクストラデッキより自分が1番出したかったカードを抜き出す。

 シンクロモンスターの頂点、どれだけ後世において素晴らしい性能を持つシンクロモンスターが現れようとも裕はこのカードを切り札とし使い続けるだろう。

 立体映像の演出なのだろうが風が吹き始め周囲の闇を切り裂いていく。それに負けない様に裕はずっと胸の中で温め続けてきた口上を叫ぶ。

 

「シンクロ召喚! 最強にして至高の光で全てを制圧しろ! 最も輝く龍の星よ、来やがれ! シューティング・クェーサー・ドラゴン!!」

 

 最初にフォーミュラが金の輪へ変わる、そしてフィールドのモンスターが10つの星に変わり輪へと吸い込まれる。

 銀河のように輝きは更に大きくなり閃光が夜空を切り裂き全てを覆い尽くしていく。

 それを切り現れるのは全てを掴めそうな手、白と銀に光り輝く巨大な胴体、自らが発する後光を受け神々しく空に浮かび、最も輝く星、恒星の龍、クェーサーが吼える。

 裕は立体となり目の前に浮かぶ恒星龍を様々な角度から眺め子供の様にはしゃぐ。

 そして恒星龍の鋭い眼光に晒されるエヴァは手札を、そしてフィールドを見た。

 伏せは3枚ある。だが

 

「…………ちっ、サレンダーだ」

 

 エヴァはデッキの上に手をかざし宣言した。

 

                   ●

 

 エヴァは恥ずかしそうに頬を染め、だが非常に満足した表情を見せる少年へと近づく。

 先ほどの決闘での不調は何だったのかを考えるも答えは出ない。

 いつも通りの調子で決闘をしたはずなのに思った通りのカードは来なかった。そして雑魚か旅行者だろうと思いアンティ決闘を仕掛ければシンクロンデッキを使い、シューティング・クェーサー・ドラゴンを出してきた。

 運が悪いにしても今回はタイミングが酷すぎるというものだ。

 

―――こりゃ何を命令されるんだか見当がつかねえなぁ。

 

 対戦相手であるプロフィールを見れば水田裕という名前が表示されているが名前に心当たりがない。

 だがあれだけの高額なカードを使う奴が言う命令がエヴァはどうしても予測できない。

 アンティ決闘のルールのため敗者は勝者の命令を聞かなければいけない。何をされるのだろうと頭を抱えつつもエヴァは腹を据える。

 だからこそ、それだけの決意で命令を待っていたエヴァは次に言われた事が理解できなかった。

 

「あー、じゃあここの住所の場所を教えて」

 

 エヴァは一旦固まると、もう一度聞く。

 

「もう一回行ってみろ」

 

「えっとだからここの住所を教えてよ」

 

「そんなんでいいのか? 絶対服従とか変態プレイとか強盗やれとかそういうんじゃねえんだよな?」

 

 一瞬だけボスがしてきそうな命令が頭に浮かび思わず口に出すも、眼の前の少年は首を横に傾げ、

 

「いや、そういうのいらねえし、あ、じゃ次にあったらアンティ無しで決闘しようぜ」

 

「とんでもねえ大馬鹿だな、アンティ決闘でそんなくだらない命令してきた奴を始めてみたぞ、頭大丈夫か?」

 

 どんな酷い命令が来るのか若干怯えていた自分が恥ずかしくなるほどの裕の言葉に毒気を抜かれたエヴァは思わず裕の心配をする。

 それに同調する様に横で観戦していた最上が歩み寄って来る。

 エヴァは必死で目線を逸らし最上を視界に入らないようにするも回り込まれてしまう。

 

「そうだな、こいつは大馬鹿だな。まあどうでもいいや。さて黒原の居場所を教えてもらおうか」

 

 エヴァは相対したくない少女へと向き直る。

 最上は容姿だけを見ればかなり整っている。

 背が高く抜き立ちの刃物のように鋭い雰囲気を纏い、黒髪を真っ直ぐ伸ばし月夜に反射しキラキラと輝きに満ち溢れている。

 だが中身はどす黒い自己愛で溢れかえっており、あまり関わりたくないというのがエヴァの本心だ。

 最上はアンカー付きの決闘盤を見せびらかし、

 

「さあアンティ決闘してもらおうか、なんなら私のデッキを賭けてもいいぞ。お前ら如きに私は倒せないんだから何でも賭けてやろう」

 

 見る物を圧倒する笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰める少女。

 

―――何度も対面してもこいつはやばいな。

 

 エヴァは自分達のボスである黒原がこの最強と謳われる少女に勝ったという話を聞き彼女に勝てるかもしれないと思い立った決闘者だ。

 今夜最上にあったら決闘を申し込もうとメタデッキを持ってきたのに、エヴァは今日は止めようと及び腰になっていた。

 理由としては目の前のシンクロン使いにかなりいい状況まで追いつめたにもかかわらず逆転を許してしまい精神的にダメージを受けていたからだ。

 

―――だがボスに最上がどのデッキを使うのかを見極めろと言われている。自分が決闘をせずにデッキを見るためには…………そうだ。

 

 そう考え自分の願いを両方とも叶えるべく周囲を見回し生贄を見つけた。

 

「じゃあ、こっちの兄さんに勝ったら教えてやっても良いぜ。ああ、あと1つだけボスから確認してこいって言われてんだが」

 

「なんだ?」

 

 後ろで突然の事態に困惑し騒ぎだす裕を放置しエヴァは言葉を続ける。

 

「竜は使うのか?」

 

「いや。不愉快だけど私だってルールぐらいは守るよ、使ってない」

 

 まだ騒いでいる裕の肩に手を置き逃げられない様に確保、エヴァはにこやかに最上へと突き出す。

 最上はそれを見て、頭を掻き、

 

「まあこっちの方が遙かに楽に勝てるからいいや、ほら水田裕。構えろ」

 

「お前まで、というかさらっと貶したな!?」

 

 黒髪を犬の尾の様に揺らし最上は決闘盤を構える。

 犬は犬でも猟犬を通り越して闘犬のような目で裕を流し見し、

 

「さっきの決闘を見せてもらったけどあれじゃダメだ、お前は相変わらず弱すぎる。私の前でお前が1ターン持つかな?」

 

 挑発する少女の言葉に怒り、裕が決闘盤を構えてしまう。

 

「言ったな、絶対に生き残ってやるよ、決闘だ!」

 

 勝手にヒートアップする2人を差し置き、エヴァの後ろから大勝ちをし浮かれまくっている1人を除いた男達が集まり始める。

 

「エヴァさん、良いんですか?」

 

「ああ、今日は最上愛(もがみあい)が3つのデッキの中でどれを使うかの偵察だけしとけばいい、まあ一応今からボスに連絡しとくぜ」

 

 エヴァはDゲイザーに搭載された通話機能を選択し目的の番号に連絡を入れる。

 そうしている間にも水田裕と最上愛の決闘が始まった。

 裕は今回もモンスターをセットし2枚伏せてターンエンドした、してしまった。

 それがこの少女相手に何も役に立たないという事を理解せずに。

 

「後攻、私のターン、ドロー。大嵐を発動、更に永続魔法、禁止令を発動、エフェクト・ヴェーラーを宣言」

 

 流れる様に連打されるは伏せを剥がし妨害をさせなくさせる行動、そして相手の場を更地にする事を愉しむ最上は満面の笑みで、蹂躙がぶちまけていく。

 

「ダンセル召喚、そして手札よりグルフを装備、グルフ効果でダンセルのレベルを1つ上げる、更にダンセル効果でデッキよりセンチを特殊召喚、そしてグルフを装備」

 

「えっ、ちょっ!? そのカードって!?」

 

 その名前を聞き、その反応を見せるという事はそれらのカードを知っているのだろうと予想ができる。

 だが、とエヴァは首を捻る。

 

―――甲虫装機(インゼクター)の効果を知っているんなら最上の別名を知っているだろうに、まるで最上が何者か知らないような態度だった…………変な奴だな。

 

 甲虫装機は最上しか持っていないデッキの内の1つだ。

 その圧倒的な性能とリカバリー力は凄まじく、ネットの界隈では規制してもいいんじゃないかと言われるほどに凄まじい代物である。

 だが一応メタはすでにネットでいくつも上がっており何回か最上はプロ決闘者が実践したメタが原因で敗北しているために規制は受けずに済んでいる。

 そして最上のデッキで注意するのは甲虫装機だけではない。

 

「はい、はい、やっぱりボスに負けてから1度も征竜を使ってないようです。どうやら約束を守ってるようです、残りは魔導と甲虫装機ではないかと、ええ、はい、分りました、彼女に伝えておきます」

 

 連絡を終わらし、裕を見ればちょうど決闘は終了したところであった。

 合計ダメージ8000オーバー、ライフが2人分あろうが敗北させるだけの一撃が裕を刈り取った。

 裕は魂が抜けた様にぐったり地面に倒れこんでいた。

 

「手札3枚からフェルグラント、トレミス、ウロボロスってなんだこれ、まるで意味が分からんぞ…………!」

 

 倒れ込んだ裕へと労いの言葉を賭けつつエヴァは最上へと近づき、

 

「お疲れさん、約束どおり居場所を教えてやる。お前の高校のすぐ傍にある倉庫だ、そこで待ってるだとよ」

 

「分かった。あのクソ野郎に言っておいて、次は負けない、絶対に叩き潰す」

 

 勝手に乱入してきて、暴言を吐かれ、全力でぶっ倒されて、勝手に帰ろうとする少女に裕は声をかけようとする中、最上の姿は突然、神隠しにあったかのように闇に飲まれた。

 何処に行ったとエヴァ達が探す中、月明かりに影が滑る。

 それに釣られて上を見上げれば、空へと飛び上がった少女の姿がある。

 そのままどこからともなく走って来たバイクにスタントマンも真っ青になるほど華麗に飛び乗り、少女は姿を消した。

 

                    ●

 

 裕が自分をぶっ倒した少女の名前を知らない事に気づいたのは彼女が過ぎ去ってからだ。

 周囲を見ればあまり関わり合いになりたくない服装の男性達がエヴァと話し合っているのが見える。

 

「追いますか兄貴? 今ならライディング決闘を仕掛けれますよ」

 

「止めておけ、お前らは引き続きトレジャーシリーズの捜索、俺はコイツにこの町を案内する事に決めたんだ」

 

エヴァは公園の外、駐車スペースに止めてあるバイクを指差し、

 

「乗るだろ?」

 

 聞かれた言葉に裕は少しだけ黙り先程の状況を軽く整理し、決闘中にあの少女に言われたことを思い出す。

 

「デッキ構築が甘いし、単体じゃ使えないカードばかり詰め込んで爆発力を上げたところでこの世界じゃ何もできない、デッキ変えろよ。そんなんじゃ負けるよ、決闘してたって楽しくないだろ」

 

 手も脚も出せず瞬殺されたことよりもデッキを馬鹿にされたことの方が悔しかった。

 

―――確かに今まで通りの考えではダメなのかもしれない、もっと何かあの少女を倒せるだけの手段があるはずだ。それを探し出してリベンジしてやる。

 

 そう心に決め拳を握りなおし、

 

「ごめん、走って帰るからこの町の地図だけ教えて」

 

「…………そうだな、男には一人で走って帰るって時もあるもんだよな。よし分った、これあれで、ここはそこだ、あとこれ俺のメアドな、暇なときにでも連絡しろよ!」

 

「あ、あとさっきの人の名前を教えてくれない?」

 

 エヴァは露骨に嫌そうな表情を出す。まるで名前を言いたくないとでもいう様な表情で、

 

「最上愛だ、そういやあいつはなんでお前のこと知ってたんだ?」

 

「いや⋯…………よく分かんないな。とりあえず、ありがとう。また今度!」

 

 ヱヴァに礼を言い、立ち去る裕の背は様々な感情で燃えていた。

 自分のデッキをバカにされた事、クェーサーを召喚出来た事、これから上手くやっていけるのか、そして元の世界に戻れることが出来るのか。

 悩むことは多くあり過ぎて頭がパンクしそうになるも、裕は拳を握り大きく悔しいという感情のままに声を挙げ走り始める。

 

「次はぜってー負けない、クェーサーでぶっ倒してやる!」


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