クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
「氷村プロ、確か使うデッキは水精鱗だったな」
テレビを見ていた凌牙はデッキを取り出し、6種類用意してきたデッキを取り出す。
氷村プロを想定したサイドデッキと自分本来のデッキと混ぜ、固まらないようにシャッフルする。
その様子を不思議そうに見ていた裕は凌牙に聞く。
「そんなものいつ用意してたんだ?」
「あん? そんなのこの試合に参加するときから用意してたに決まってるだろ、参加者名簿は回ってきたから対策してきたんだよ、別にサイドデッキを持ってきちゃいけないとも試合前にデッキをいじるのを禁止はされてないしな」
「説明事項を読んでなかった……あれ? じゃあ俺がピンチになったのってサイドデッキを用意してこなかった自業自得?」
泣きそうな顔をする裕を見て凌牙はため息を吐き、テンションが落ち始めた裕のフォローをする。
「まあ、お前のおかげでプロたちもメタカードを入れてくることが分かった、それだけは感謝している」
少し慰めただけでいくらか表情を明るくした裕を凌牙は単純な奴だと改めて感じ、シャッフルしたデッキから何回か五枚のカードを引くことを繰り返すのを繰り返す。
それを何回か続ける中、ずっと黙っていた響子が口を開いた。
「あの、お姉ちゃんのデッキは水精鱗もある程度入ってますけど、ちょっと普通とは毛色が違うって言うか、ロマン構築というか、どっちかと言うと海王レミューリア寄りのデッキです」
一瞬だけ怪訝そうに、もしくは怪しむように眉を寄せた凌牙。
病室の一件以降遊馬達の前に現れなかった響子は大会前に突然合流し遊馬達に取材を始めた響子を凌牙たちはまだ信用してはいない、
だが真剣そうな表情で言う彼女の様子と病室での敵対しないという言葉を凌牙はある程度信用してみることにした。
「そうか、氷村プロが他の大会で決闘した時の映像を見たときは水精鱗の動きが強すぎてそこまで分からなかったな」
「うん、私がそういうデッキを作ったの、だから弱点とかも分かるよ」
尋ねられれば弱点すらも明かす、そう言外に語る響子、凌牙はそれを聞くべきかを悩む。
凌牙は過去に大会に出場し対戦相手のデッキを盗み見てしまったという過去を持つ。それが悪意のある策略によるものだとしても凌牙が盗み見た事実は変わらない。
今のこの状況はどうなのだろうかと思い悩むも、対戦相手のデッキを過去の映像がから知る事は戦略的にはアリであるし響子の知るデッキがこの場所で使われるかも分からない。
後ろ暗い事は無い筈であるし、遊馬のナンバーズもかかっていいるこの大会、負ければ遊馬達に負担となってしまう事もあり凌牙は話だけでも聞こうかと思う。
―――だがまずはコイツに聞くことがある。
「待て、そういうデッキを作ったってのはどういう意味だ?」
「あれは元々私のデッキだから、ちょっとお姉ちゃんに借りパクされてるだけだよ。まあ、お姉ちゃんが独自に手を加えてる筈だからどこまでこの情報が正しいかは分からないけどね」
そう言って響子は自分が作り出したデッキを語り始めた。
●
『さぁて、第2試合、いよいよ始まります、まずは決闘者の入場だ!! 登場するのは自称歌って踊れないアイドルっぽい決闘者の異名を持つ、様々なモンスターと言動で相手を翻弄する女子プロ、デッキタイプ海皇水精鱗、氷村麗利っ!!』
水に包まれるように会場が青一色に代わる。
その中を歩いてくるのはアイドル衣装の様にひらひらとした衣装を身にまとった少女だ。
青に水色、そして黒と白のラインの入った服をきらめかせ歩く姿は歌姫のように見える。
だが彼女がここに来たのは踊るわけでも歌う訳でもない、ただ一つ決闘をしに来たことだ。目に闘志を秘め、所定の位置に立つ。
「そしてWDC第3位、デッキタイプ魚族、シャークデッキの使い手、神代陵牙ぁああああ!」
歌姫が経つステージへと躍り出るは巨大な鮫。
それらの後より大小様々な鮫たちが躍り狂い、中央に立つ麗利を食いつこうと言わんばかりに大口を開け周囲を泳ぎ回る。
歌姫をぐるりと取り囲んだ鮫の塊だったが、急にその一部が割れ、畏怖するように距離を開け道を作る。
そこを真っ直ぐに歩くのは凌牙だ。
歌姫は挑戦者を見て笑顔を浮かべ、腕輪を見せつけ決闘場を装着し、マイクを手で隠しにこやかに告げる。
「さあて、ここからが本当のナンバーズを賭けた決闘です。貴方は私に負ける準備は出来てますか?」
「その上から目線、イラッとくるぜ!」
凌牙は決闘盤を装着しDゲイザーを装着し、犬歯を剥き出しにして答える。
その返答に満足したのだろう、周りからの歓声に両手を広げ答え、明るく良く通る声で言い放つ。
「藤田プロが負けちゃったけどしょうがないね、じゃあ今度は私達プロ組の全力を見せてあげます、さあ始めましょう! みんな私に合わせてぇっ!」
司会が声を挙げるよりも先に麗利はくるりと回り、指を3本突き上げカウントダウンを行う。
3、2、1と指が折られ、周りの声もそれに合わせ大きく声を挙げ、2人の決闘者と観客が声を挙げる。
「「決闘!!」」
●
決闘盤は点滅を繰り返し、凌牙で止まる。
「俺の先攻、ドロー」
勢いよくカードを引き抜き凌牙はニヤリと笑い、
「俺はマーメイド・シャークを召喚、このカードが召喚に成功した時、デッキからレベル3から5の魚族モンスター1体を手札に加える事ができる。俺はセイバー・シャークを加え、カードを3枚せてターンエンドだ」
凌牙場 マーメイド・シャーク ATK100
LP4000
手札3 伏せ3
麗利場
LP4000
手札5
「わったしのタぁーン! ドローっ!」
凌牙からは手札もスカートの中見も見えないように大きくスカートを広げながら鮮やかな一回転する姿は流石プロは言うべきだ。
その姿に凌牙も一瞬だけ目を奪われる。
「手札の水属性モンスター、海皇の重装兵を墓地に送り手札より水精鱗―ディニクアビスの効果発動っ!」
手札の水属性モンスターをコストとして墓地に送る事で手札より特殊召喚される大型水精鱗、そして水属性モンスターのコストとして墓地に送られた時、効果を発揮する海皇、それらが上手くかみ合ったデッキが麗利の使う海皇水精鱗だ。
どちらも強力な効果を持っており大会でも優秀な成績を挙げていて、当然、それらのデッキが持つ弱点も把握されておりネットを探せばいくらでも載っている。
そして大きな大会に何度も出場した経験を持つ神代凌牙がそれらの対策を怠る訳が無い。
その効果宣言を聞いた瞬間、凌牙は獰猛な笑みを浮かべ、伏せていたカードを開く。
「はっ、水精鱗相手に俺が対策をしていないとでも思ったか! 水属性モンスターのマーメイド・シャークをリリースし罠カード、水霊術―葵を発動する!」
「げっ!? そ、そのカードは!?」
少女らしからぬ大げさな芝居のようにポーズをとり、嫌そうな顔をしながらも少女は手札を決闘盤に置き会場全てに見える様に設定する。
「言わなくても分かっているだろうが、一応説明してやる。このカードは場の水属性モンスターをリリースする事で相手の手札を見てその中にあるカードを1枚、墓地に送る。さあ、お前の手札を見せてもらおう」
「うぅ……」
そして会場の大画面に表示された麗利の手札を見て、会場が驚愕の声に包まれ、凌牙は自分の策略が上手く稼働している事を理解する。
表示された麗利の手札はジェネクス・コントローラー、水精鱗―ディニクアビス、水精鱗―リードアビス、禁じられた聖槍、サルベージであり、その中で凌牙が選ぶのは、
「水精鱗―ディニクアビスを墓地へ送ってもらう」
麗利の使う大型水精鱗にはいくつかの弱点がある。その中で、今回凌牙が使ったのはハンデスと呼ばれるものだ。
大型水精鱗は水属性モンスターをコストに手札でモンスター効果発動を発動し、そこでチェーンブロックが組まれる。
そこに凌牙が使ったような手札を墓地に送るカードを発動させ、効果の発動した大型水精鱗を墓地に送ってしまえばそのモンスターを特殊召喚することは出来ない。
「ちぇ、重装兵の効果は発動できないか…………」
水属性モンスターの効果コストとして墓地に送られた海皇の効果は発動できるのだが、凌牙の場には表側のカードは存在せず海皇の重装兵の効果は使えない。
「さらに俺は罠カード、マインド・クラッシュを発動。このカードは、カード名を1つ宣言して発動できる。宣言したカードが相手の手札にある場合はそのカードを全て墓地へ捨て、宣言したカードが相手の手札に無い場合、俺の手札をランダムに1枚捨てる。サルベージを捨ててもらう!」
水霊術―葵の効果で一度手札を見た凌牙は更に畳みかける。
2連続のハンデスを叩き込まれ、麗利の手札にあるカードは全て凌牙に知れている。麗利は本気で焦りながらも、今、負けないためにするべき事をする。
「む、むっ、まずいなぁ、モンスターをセットして」
―――うーん、どうしようかなぁ⋯⋯。
麗利は手札の禁じられた聖槍も伏せるべきなのかと悩む。
この状況が危険なのは理解しているが前のターン、凌牙はセイバー・シャークを手札に加えたからだ。
―――あのカードは確か、2回まで魚族モンスターのレベルを上げ下げできる効果のはず、それを加えるって事はもう1体並べるようなカードが来てるかもしれない。そうなるとランク3が出て来て、アレが出て来るからこのカードを伏せても割られちゃって意味が無いかなぁ。
「私はこれでターンエンドだよ!」
麗利場 セットモンスター
LP4000
手札2
凌牙場
LP4000
手札3 伏せ1
麗利の手札で今、伏せれるカードはジェネクス・コントローラーと禁じられた聖槍のみ、そして手札誘発カードも無いこの状況を逃すまいと凌牙は勢いよくドローする。
「俺のターン、ドロー。俺はセイバー・シャークを召喚。更にコイツの召喚成功時、手札からシャーク・サッカーの効果が発動する。このカードは魚族・海竜族・水族モンスターが召喚・特殊召喚された時、コイツを手札から特殊召喚する事ができる!」
並ぶ2体の鮫、それらのレベルは4と3でありエクシーズ召喚は行えない。だが麗利はセイバー・シャークの効果を把握しており、口元に手を置き考え込む。
「うん、やっぱり予測があってたね」
麗利は納得したように頷き、凌牙はそれを無視して食らいつく。
「セイバー・シャークのモンスター効果発動! 俺の場の魚族モンスターのレベルを1つアップ、またはダウンさせる。ただしこのカード効果を使ったターン、俺は水属性モンスター以外、特殊召喚出来ない。俺はシャーク・サッカーのレベルを4にし、レベル4の水属性、シャーク・サッカーとセイバーシャークの2体でオーバーレイネットワークを構築! 吠えろ未知なる轟き! 深淵の闇より姿を現わせ! エクシーズ召喚!」
渦の中浮かんで来るのは薄青と蒼の海竜だ、鋭角に尖った鋭いフォルムが出現と同時に地面を蹴り、セットされているモンスターへと躍りかかる。
「ランク4、バハムート・シャーク! バトルだ、バハムート・シャークでセットモンスターを攻撃! ゴッド・ボイス!」
息を大きく吸いこみ、バハムート・シャークはセットされたモンスターへと破砕の咆哮を叩き込んだ。
バハムート・シャーク ATK2600 VS ジェネクス・コントローラー DEF1200
破壊→ジェネクス・コントローラー
「メイン2、オーバーレイユニットを使いバハムート・シャークのモンスター効果発動、エクストラデッキからランク3の水属性モンスターエクシーズ、エアロ・シャークを特殊召喚する! ゴッド・ソウル!」
バハムートの仲間を叫ぶ声は凄まじい、会場全てに響き渡ったそれに観客は一同に耳を塞ぐ中、それは現れる。
エクシーズ召喚の際に現れる渦が無理矢理開かれた様に僅かに開く、今にも閉まりそうな渦の中へバハムートは手を突っ込みサメの形を模した戦艦を引きずり出した。
「だけどまだ終わりじゃない、そうでしょ?」
まだ終わりじゃない事を理解してる麗利は楽しげに呟き、凌牙はその上から目線の物言いに更にイラッとし、声を強める。
「さらにエクシーズ素材の無い水属性、ランク3のエアロ・シャークをエクシーズ素材としてエクシーズ召喚、現れろ、FA-ブラック・レイ・ランサー!!」
元気が無い鮫母艦はバラバラに分離しどこからともなく現れた黒い槍持ちの装備品となる。槍を振り回し麗利の方へと向き直る。
「このカードの攻撃力はこのカードのオーバーレイユニット×200アップする、よって攻撃力は2300だ。俺はこのまま、このままターンエンド」
凌牙場 バハムート・シャーク ATK2600
LP4000 FA-ブラック・レイ・ランサー ATK2300
手札2 伏せ1
麗利場
LP4000
手札2
『おっと神代選手、強力なモンスターエクシーズを2体も並べ、氷村プロを圧倒しております! これはWDCチームの2連勝がくるのかぁ!?』
『さてどうでしょうねえ、彼女も彼女で結構しぶとい所が在りますしこんなものでは終わらないんじゃないのではないでしょうか』
解説と司会を務める片桐達の声に会場からはガンバレなどの声援まで聞こえはじめる。
それを麗利はありがとうと言わんばかりに手を大きく振って、持ち前の元気の良さで大きく声を張る。
「ドロー! オッケー、行くよ! 深海のディーヴァを召喚」
「ちっ、来るか」
この状況でディーヴァの効果を止めれば勝ちが確定するというのに最後の伏せカードではそれを止めれない事に凌牙は歯がゆく思うも、どうする事も出来ず、ディーヴァの歌声が蒼い世界へと響き渡っていく。
「じゃあ、ディーヴァの効果でデッキから海皇の重装兵を特殊召喚するよ、レベル2の深海のディーヴァと海王の重装兵でオーバーレイ、現れて、アーマー・カッパー!」
渦より飛び出るのはメタリックな銀の体色を輝かせる河童だ。
守備力は1000と低くFA-ブラック・レイ・ランサーたちの敵ではない、だが問題はカッパーの効果、そしてオーバーレイユニットとなっている海皇の重装兵だ。
「重装兵をコストにアーマー・カッパーの効果発動! 守備力を1000ポイントアップするよ。そして墓地に送られた重装兵の効果発動、表側表示のバハムート・シャークを破壊するよー!」
墓地から顔を覗かせた盾持ちが盾をバハムートへと投げつける、盾が投げつけられた衝撃は軽く鈍い音を立て弾かれる。
怒りに目を光らせバハムートが重装兵へと踏み出すと足元に落ちていた盾の裏に爆破物が仕込まれていたのか盾が大きな音を立て爆発した。
それを見るまで震えていた重装兵が両手を上げガッツポーズを取る。その光景はあまりにもコミカルで呆気にとられる凌牙を傍目に麗利は、
「このままターンエンドだよ!」
麗利場 アーマー・カッパー DEF2000
LP4000
手札2
凌牙場
LP4000 FA-ブラック・レイ・ランサー ATK2300
手札2 伏せ1
2人の決闘は第一試合に比べれば静かな序盤だ。
だが静かだが水面下ではアドバンテージの取り合いが行われており、どちらかがアドバンテージを取り逃した瞬間、流れは一変する。
それを理解している凌牙はカードをドローするも今の現状を覆すようなカードではなく、凌牙は手札を削りに行く。
「ならばその手札を捨ててもらうまでだ! バトル、FA-ブラック・レイ・ランサーでアーマー・カッパーを攻撃!」
鮫母艦を装備した槍術師が大槍を振り回しカッパーへと迫る。
FA-ブラック・レイ・ランサーの攻撃力は2300、アーマー・カッパーの守備力は2000、槍術師の攻撃力が勝っているも、カッパーの持つ効果によって破壊されない事をお互いに理解している。
「ブラック・レイ・ランサーの攻撃宣言時、アーマー・カッパーの効果発動、手札を1枚捨ててこのターン戦闘では破壊されず、ダメージも0になるよ!」
墓地に送られたのは水精鱗―リードアビスだ。
―――手札の水属性モンスターを削っただけでも十分か。
凌牙はそう考え、何も伏ずにターンを終了させる。
凌牙場 FA-ブラック・レイ・ランサー ATK2300
LP4000
手札3 伏せ1
麗利場 アーマード・カッパーDEF2000
LP4000
手札1
『片桐プロの言う通り、氷村プロ、かーなーり、しぶといですね!
『本来なら一気に攻めたかったのでしょうが序盤のピーピングハンデスの連打で大分ペースを崩されたのが痛いですね、実際あれだけの事をされたら熟練プロでもドローに賭けるぐらいしかありません』
『と言う事は氷村プロがこのまま押されて終わってしまう可能性はあるのでしょうか?』
『あります、プロとはいえど勝てない状況だってあります、勝率は100パーではありません、ですが彼女がこれぐらいで終わるとは到底思えません』
その言葉を皮切りに麗利はカードをドロー、見て満面の笑みを浮かべる。
「アーマー・カッパーの効果、オーバーレイユニットを使い守備力をさらに1000ポイント上昇させる、そして今引いたばかりの貪欲な壺を発・動! 墓地のジェネクス・コントローラー、深海のディーヴァ、ディニク、リードアビス、重装兵を戻し2枚ドローするよ!」
大きく身振り手振り、そして引き抜く。
踊るように滑らかに微笑みながら引いたカードに目を通し、
「よし、ジェネクス・ウンディーネを召喚。召喚時効果のコストでデッキから水属性モンスターの海皇の竜騎隊を墓地に送り、効果発動! デッキからジェネクス・コントローラーを手札に加える!」
召喚と同時にコストとして使われる海皇の竜騎隊に凌牙は苦虫を噛み潰した表情になるもそれを阻むことは出来ない。
「そして竜騎隊の効果でデッキから海竜族の深海のディーヴァを加えて……怖いけど魔法カード、闇の誘惑を発動!」
闇の誘惑も大型水精鱗と同じく、効果発動時に水霊術―葵やマインドクラッシュを使われると大打撃を受けるカードである。
だが麗利は怖いけどと口にしつつも内心では怖いなどと言う感情は無い。
「さあ、どうする? 水霊術―葵でも撃つ?」
「撃たねえよ」
予想が的中した麗利は即座にカード効果の処理を行う。
「2枚ドローし闇属性モンスターのジェネクス・コントローラーを除外、そ・し・て」
口元に人差し指を当て、秘密とでもいうように息を吐き、微笑みを浮かべながら、
「本命のカードと、ブラフをセットしてターンエンドだよ!」
態々口に出して言う。
―――さーてどう出るかなぁ、そう麗利が思った矢先、凌牙の伏せてあった最後のカードが開かれる。
「ならエンドフェイズ、ブラフを撃ち抜かせてもらう、サイクロン、右のカードを破壊する」
「うわ、神の宣告がぁ!?」
「よし」
頭を抱えた麗利の様子を見て、凌牙は口元に笑みを浮かべ、デッキへと手を翳す。
麗利場 ジェネクス・ウンディーネ ATK1200
LP4000 アーマー・カッパー DEF3000
手札2 伏せ1
凌牙場 FA-ブラック・レイ・ランサー ATK2300
LP4000
手札3
「俺のターン、ドロー」
凌牙は場と手札を見比べる、
そして余計な行動はせずに伏せとモンスターを破壊するために攻撃を宣言する。
「バトルだ、ブラック・レイ・ランサーでウンディーネを攻撃!」
悔しそうな顔をしていた麗利は凌牙の言葉に表情を変え、にこりと笑いかける。
「……なんてね、カッパーが通ったしサイクロンみたいな伏せ除去カードじゃないかなって思ったんだ。そしてFA-ブラック・レイ・ランサーは相手モンスターを戦闘で破壊した時、相手の伏せカードを破壊する効果を持ってたよね。私の伏せをカードを使わずに破壊するのはいい考えだけど、惜しいね。攻撃宣言時、永続罠、アビスフィアーを発動、デッキから水精鱗モンスター、水精鱗―アビスリンデを特殊召喚するよ!」
開いた永続罠より気泡が漏れ出しその泡の中より苦しみもがく人魚が姿を現した。それを見て、凌牙は本命はこちらだったと理解する。
だが悔やんでいる時ではない、麗利の場にモンスターが特殊召喚された事により攻撃の巻き戻りが行われ凌牙は再び攻撃するモンスターを選択できる。
だがエンドフェイズに自壊するアビス・フィアーより特殊召喚された守備表示のアビス・リンデを攻撃する価値など無く、凌牙選ぶのは当然、
「FA-ブラック・レイ・ランサーでウンディーネに再び攻撃!」
FAブラック・レイ・ランサー ATK2300 VS ジェネクス・ウンディーネ ATK1200
破壊→ジェネクス・ウンディーネ
麗利 LP4000→2900
第二試合初のダメージが発生した事に観客からはおお、という感心した声が挙がり、麗利を更に応援する声も挙がる。
「ブラック・レイ・ランサーの効果でモンスターを戦闘で破壊したとき、相手の魔法罠を破壊できるが俺は破壊しない、そしてメイン2、俺はこれでターンエンド」
「君のエンドフェイズ、永続罠のアビス・フィアーは自壊する!」
永続罠のアビス・フィアーにはこのカードは発動後、次の相手のエンドフェイズ時に破壊され、このカードがフィールド上から離れた時、特殊召喚したモンスターを破壊するというデメリットがある。
だがフィアーによって特殊召喚された水精鱗―アビス・リンデは破壊された時、デッキよりレベル制限なしで水精鱗モンスターを特殊召喚する効果があり、このカードの自壊こそが麗利の逆転の切っ掛けとなる、筈だった。
「甘いぜ! 俺は速攻魔法、禁じられた聖槍をアビス・リンデに発動する!」
「むむ、聖槍によってリンデがアビス・フィアーの効果からの破壊を免れちゃった、か、やるねー」
感心した呟きを漏らしながらも麗利の余裕は崩れない。アビス・リンデは場に残っておりいざという時は自爆特攻でもさせれば大型水精鱗を特殊召喚出来るからだ。
凌牙場 FA-ブラック・レイ・ランサー ATK2300
LP4000
手札3
麗利場 水精鱗―アビスリンデ DEF1200
LP2900 アーマー・カッパーDEF3000
手札2
「じゃあ、私のターン、ドロー! お、ラッキー! 魔法カード、ブラックホールを発動だ」
麗利の頭上へとかかげたカードより黒い重力場が発生し、その範囲を広げていく。凌牙の場に居るFA-ブラック・レイ・ランサーもそれから逃れることは出来ない。
「だがFAブラック・レイ・ランサーはオーバーレイユニットを全て取り除くことで破壊を免れることが出来る!」
そんな事は知っている、そう呟き麗利はデッキよりカードを抜き放つ。
「破壊されたアビス・リンデの効果でデッキより来たまえ、水精鱗―メガロアビス!」
光をも逃さない黒い重力場の中、痛みを訴える声が響く。
体を砕かれた女の悲鳴だ。
そしてそれを助けるようと駆けつけたのは鮫の頭をした半魚人だ。
銛を手に駆け付けるもすでに渦は消滅する寸前であり駆け寄る間もなく消えた。仲間を失った怒りを何かにぶつけたいと言わんばかりに暴れ、凌牙の姿を目に止めると怒りの咆哮を轟かせる。
「さらに深海のディーヴァを召喚、召喚時効果でデッキから」
「させるか、俺は手札よりエフェクト・ヴェーラーのモンスター効果発動、このカードを墓地に送り相手モンスターの効果を無効にする!」
「むむ、じゃあディーヴァをコストにリリースしてメガロアビスの効果を発動、このターン、このカードは2回攻撃を可能になったよ、そしてバトルフェイズ、メガロでブラック・レイ・ランサーを攻撃!」
メガロアビスの怒りと膂力に任せた打撃が連打され、槍術師もそれを打ち払おうと槍を振るうも速度と打撃力で押し負け、体を大剣で何度も打ち据えられる。
とどめとばかりに上段へと振り上げられt大剣はブラック・レイ・ランサーの体を貫き槍術師は爆散する
水精鱗―メガロアビスATK2400 VS FAブラック・レイ・ランサー ATK2100
破壊→FA-ブラック・レイ・ランサー
凌牙LP4000→3700
「さらに追撃の直接攻撃だー!」
爆炎を突っ切り、怒りのままに半魚人は凌牙を目掛け大剣を叩きつける。
その大剣は凌牙の体へと直撃はしない、だがその大剣の振るった衝撃波で凌牙の体は吹き飛ばされた。
「ぐぅううっ!?」
凌牙LP3700→1300
「ふふふ、ブラフを伏せてターンエンドだよー!」
先ほどの時と同じく、意味深な笑みを浮かべながら麗利はカードを伏せ、凌牙へとターンを回した。
麗利場 水精鱗―メガロアビス ATK2400
LP2900
手札0 伏せ1
凌牙場
LP1300
手札2