クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第一試合 上

「第一試合は」

 

 黒服サングラスの男は右の箱の中を探り紙を引き抜き、左の箱からも紙を引き抜く。

 

「藤田プロと……水田裕さんです!」

 

「決まりました、ランク4を語るならこの人、安定感抜群の決闘を見せる藤田プロと一般応募枠から選ばれプロの審査から選ばれた一般決闘者、水田さんです!!」

 

 中継していたアナウンサーの女性は回ってきた資料に目を通し困惑した表情を一瞬だけ見せ、すぐさま笑顔に切り替わる。

 

 「えー、水田さんはWDCでは初戦で氷村麗利選手と決闘し敗退したらしいですがその際に氷村プロは彼からなにか感じるものでもあったのでしょうか、ともかく注目の第一試合はこのあとすぐです!」

 

                  ●

 

「じゃ、じゃあ行ってくるっ」

 

 椅子から立ち上がる裕の動きは固い。

 手は震え、表情は緊張と不安でガチガチに固まっており、普段の2割か3割増しで頼りなく見える。

 

「オイ」

 

「はいっ!?」

 

 控え室、あまりにも緊張した裕の様子に大会常連者だった凌牙は声をかける。

 

「息を吸え、そして俺達が過ごした特訓を思い浮かべろ」

 

「えっと、おう」

 

 凄みのある言い方にビビりつつも裕は目を閉じ、遊馬達と何回も決闘しデッキ調整を行った日々を思い返す。

 遊馬が凄いカードを拾ったり、凌牙やカイトが凄いカードを見つけてきたり、決闘庵でフルボッコにされまくった日々、そしてクェーサーが出せなかった全ての決闘を思い浮かべ少しだけテンションを落とし、それでも楽しかった日々を思い浮かべる。

 がむしゃらに強いカードを探し続け、見つけたカードを遊馬と交換したこともあった。

 カイトや凌牙は目つきが凄く悪いが話してみると普通の凄く強い決闘者であり、楽しく決闘できた。そういう相手とひたすら決闘をして少しは強くなれたのではないか、そう実感し息を吐く。

 

「敵はプロ決闘者、更にナンバーズまで使って来る。はっきり言って強敵だ、だが相手が強いからどうしたっていう話だ、誰だろうと自分が作ったデッキが負ける訳がねえ、そう思え」

 

「……お、おう」

 

「お前が出来る事をしろ、お前はいつも通りにやっときゃいいんだよ」

 

「…………ああ、そうだな。俺ができるのは相手を見てカードを引いて出来ることをやるそれだけだよな、それしかできねえ」

 

 満面の笑みを見せる裕の様子を見て、凌牙は僅かに表情を緩め、

 

「ふん、やっとこの馬鹿に元気に戻ったか、お前はいつもそれぐらいのほうが似合ってるぜ」

 

「裕、これ持ってけ!」

 

 遊馬が差し出してたカードを手に取り、裕は皆を見る。

 もう緊張は収まり、手の震えも収まりつつある、そうしてくれたのは皆のおかげだと裕はいつものように能天気な笑顔を浮かべ、

 

「ありがとうな。みんな、行ってくる!」

              

                       ● 

 

『さて注目の第一試合、選手が入場します。初心者から上級者まで全ての決闘者が手軽に使える、しかし上級者が使えば手堅いデッキ、ガジェット使いふーじーたーっ浩二いぃいいいい!!』

 

 球状のドームの右端、選手入場口に立体映像による歯車の箱が出現する。

 音を立て回りはじめ移動を開始したそれに観客は引き付けられ固唾を飲んで見守る中、長方形が開き三色の歯車が現れる。

 赤、緑、黄が通路を歩き始めた男に付き従い、追う。

 チンピラのような風体、ジャラジャラと音を立てるアクセサリー、顎を前に突き出し威圧、肩を前に付きだし音を立てて歩くその姿は一般決闘者が見習うべきプロとは言い難い、だが不思議と目が引き付けられる。

 所定位置につき手を横に差し出すと三対の歯車は手へと集まり決闘盤へと変形した。

 

「そして蟹下プロと同じデッキタイプ、シンクロンを使う少年、みーずーたー、ゆーーうっ!」

 

 藤田プロが入場してきたのとは反対側、左端で白い煙が吹き上がり一人の少年が歩き出した。

 黒髪に地味目な服装、見る者に何かあると思わせるような雰囲気を一切持たない少年が藤田プロ方向から吹く風を切りゆっくりと歩く。

 顔は喜色と僅かな不安と恐れがあり、それでも歩みに力強さがある。

 裕が歩く中、藤田は顔の横に付けられたマイクを手で覆い他人に声が届かない様に工夫し問う。

 大歓声の湧きたつスタジアムだが、客席は遠くにあり藤田の声は裕へと届く。

 

「お前、ナンバーズは持ってないよな?」

 

「ああ、そんなものには頼らないって決めてるんだ」

 

 藤田を見習い手でマイクを隠しながら裕は真っ直ぐに相手を言い返す。

 睨みつける訳ではなく、楽しい、早くやろうと気合を込め真っ直ぐに見る。

 

「けっ、じゃあさっさと終わらせるか、って言いたいがそうはいかねえ」

 

 藤田はこちらへ犬歯を見せ付けるように唇を歪ませマイクを握っていた手を離す。

 

「俺のデュエル。俺は観客を喜ばせなきゃいけねえ、圧倒的な勝利、僅差の接戦、二転三転する状況、そのどれかを求められている。この場に立つんだから俺は絶対、全力だ! さあ挑戦者、水田裕。あの人が期待するお前の力を見せて見ろ!」

 

 まるで物語に登場する悪役の如く、言い放つ藤田には挑戦的な笑みが浮かぶ。

 嘲る訳でもなく、慢心する様子も無く、ただ目の前の挑戦者へ期待する笑みを向ける。

 裕はそれを受け、歯を見せ笑い返す。

 己が弱い事など承知し、相手の実力が遥かに上なのも理解している。ただ目の前にいる相手に勝ちたいと考え、決闘盤を展開する。

 

「行くぞ、俺のデッキ、最高に良い動きを期待するぜ!」

 

 2人の準備が整ったのを確認したのだろう、司会者は声を挙げる。

 

『さあ、皆さん、司会の私の掛け声に合わせてください、3、2、1!』

 

『「「決闘!!」」』

 

                   ●

 

「先攻は俺か、ドロー!」

 

 先攻と表示された藤田はカードを勢いよく引き抜く、

 裕も一瞬だけ遅れて手札を5枚見て、出来るだけ顔には出さないよう努力したが口元は引き攣ってしまう。

 

―――久々に凄い事故ってる……!?

 

「これは確かに少し面倒な能力だな、だが俺のデッキはそんな事じゃ事故らねえ! 永続魔法、次元の裂け目を発動!」

 

「ええっ!?」

 

 裕と藤田の足元が紫色の渦が出現する、薄く広く広がったそれは墓地に送られる筈のモンスターすべてを異次元に飛ばす裂け目だ。

 突然炸裂した裕のデッキにおいての大敵の永続魔法に一瞬、呆気にとられ言葉も出ない。

 非常にまずい事に手札には永続魔法を破壊するようなカードは無い。

 

「さあ行くぜ、行くぜ、行くぜ! ブリキンギョを召喚、召喚時効果発動!」

 

 金魚の形をしたお菓子の入れ物のようなモンスターが出現する、その縁がガタガタと動きはじめるのを見て、観客はこれから起こるだろう出来事を想像しての悲鳴、興奮したような歓声をあげる。

 それとは逆に裕の顔にはまずいという表情が色濃く出て、動かない。

 手札にまともに発動できる手札誘発カードが無いのだ。

 動かない裕を見、藤田は鎖を鳴らしながら腕を振る。

 

「このカードの召喚に成功した時、俺の手札よりレベル4のモンスターを特殊召喚できる。俺の(しもべ)の一色をここに、グリーン・ガジェットを特殊召喚、グリーン・ガジェットの召喚時効果でデッキからレッド・ガジェットを手札に加える。そしてレベル4の機械族、グリーン・ガジェットとブリキンギョでオーバーレイ!」

 

 金魚は開かれ、中より緑色の歯車に手足を引っ付けたモンスターが現れ、デッキに駆け寄るとデッキより手が生える。

 グリーン・ガジェットはその手を取り優雅に一回転し、裕へ走り寄って見せつける様に振った後、主人の元へとカードを差し出し、そして金魚と歯車の2体は宙に発生した渦の中へと飛び込む。

 大きく湧きあがる観衆、それをBGMに渦の底より現れるのは歯車と鋼で作られた巨人だ。

 

「エクシーズ召喚。鋼の拳で敵を砕き、仲間を呼びよせ勝利を掴ませろ! ギアギガントX! ギアギガントXの効果発動、オーバーレイユニットを使いデッキから機械族のブリキンギョをサーチし、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

藤田場    ギアギガントX ATK2300 (ORU1)

LP4000    伏せ2

手札3     次元の裂け目

裕場     

LP4000

手札5     

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 安定した滑り出しを見せる藤田、それとは対照的に裕の手札は盛大に事故っていた。なんとか状況を一変させたい裕は引いたカードを見る。

 現状を打開する可能性を秘めた、しかしその効果が成功するか分からないカードだ。

 

―――このカードなら…………そうだ、今こそあの方法で!

 

 裕は遊馬達との特訓で行ったデュエル庵の主人、六十郎に言われた事を思い出す。

 自分は非常によく感情が表情や動作に出やすいと言われ、無表情になろうと努力するも上手く行かなかった。

 そして感情を押し殺せないならば口元を隠すように頭を下に向けるなどして、相手に良いカードを来てない風に見せ、感情が表情や動作に出やすいという欠点を逆に利用してみろと提案された。

 

―――実力が足りないのは分かってる、だったらやれる事は全部やる!

 

 裕はぎこちなさを感じさせない程度に悔しそうとみえそうな表情を浮かべ、頭を微妙にうつむき加減にする。

 ため息を追加し、声の音量を下げ、

 

「うう、モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド……」

 

裕場      セットモンスター

LP4000

手札3     伏せ2

 

藤田場     ギアギガントX ATK2300 (ORU1)

LP4000     伏せ2

手札3     次元の裂け目

 

「ドロー、はっ、シンクロンじゃ裂け目はきついよなぁ、お前ら全員に影響を与えるメタカードを積んできたかいがあるってもんだぜ」

 

 その言葉を聞き、裕は心の中で、ひっかかったな。と呟き、顔を挙げれば半ばキレかけの表情を浮かべ、こちらを睨み付ける藤田と目が合った。

 そこには燃えるような怒りの感情がある。

 

「なんて言うと思ったかクソガキ、そんな顔芸でプロが騙されると思ってんのかぁ!」

 

「ひぃ!」

 

 決闘中でなければ胸ぐらをつかまれそうな権幕で怒鳴る藤田に裕は思わず怯えの声を漏らす。

 

「そんな顔芸なんてプロやってりゃいくらでも目にすんだよ、プロ決闘者を舐めてんじゃねーぞ。俺はギアギガントの効果発動、デッキからブリキンギョを加える!」

 

 デッキから吐き出されるカードをつかみ取り、見せつける様にまっすぐに伸ばし、

 

「そろそろ見せてやるよ、ナンバーズの姿をな! ブリキンギョを召喚、ブリキンギョの召喚時効果、そして手札のカゲトカゲの効果発動!」

 

 そう思うも裕の伏せカードではモンスターの召喚を止められない。

 動かない裕を見、藤田は叫ぶ。

 

「カゲトカゲは自分がレベル4モンスターの召喚に成功した時、このカードを手札から特殊召喚できる。そしてブリキンギョの効果で手札より現れろレッド・ガジェット! レッド・ガジェットの特殊召喚時効果でイエロー・ガジェットを手札へと加え、そしてぇっ!」

 

 ブリキンギョが再び開かれレッド・ガジェットが現れデッキへ駆け寄る、自動で閉まるブリキンギョの足元から真っ黒の蜥蜴が這い出して来る。

 あっと言う間に並ぶレベル4のモンスター達、それらを目にして観客のテンションは更に昂ぶっていく。

 声に熱がこもり、どうくるのかと期待する眼差しがステージへと降り注ぐ中、巨大な渦が発生する。

 渦へと飛び込んだ3体のモンスター達、それらが分解、1つの濃紫色の四面体を再構築していく。

 

「レベル4のカゲトカゲ、ブリキンギョ、レッド・ガジェットの3体でオーバーレイ! 現れろ我が儘な天使よ、その身に宿した力でフィールドを塗り潰せ! No.16、色の支配者ショック・ルゥーーラー!!」

 四面体はバラバラになり宙を舞う、紫電を放ちながらモンスターの形を成していく、顔、翼、体が汲み上げられ出現するのは黄色の玉を3つ従えた異形の天使だ。

 それの効果を見た裕は演技ではなく、本気でまずいという表情を浮かべる。

 

「ショック・ルーラーのモンスター効果発動!」

 

「くっ!」

 

 藤田は裕の言葉に魔法と宣言しようとし、少し考える。

 

―――奴のあの小細工、何か在るはず。デッキタイプはシンクロン⋯⋯セットされた伏せカードかあるいはセットされたモンスターのどちらかに何か在る、だったら。

 

「相手のエンドフェイズまで互いにモンスター効果を発動できなくする。そしてバトルフェイズ、ギアギガントでセットモンスターを攻撃、ハイパーナックル!」

 

 腕を振り上げ走り込む機械巨人、相対するのは真っ白い犬だ、その身に宿した破壊の力を発揮できず叩き潰される。

 

ギアギガントX ATK2300 VS ライトロード・ハンター・ライコウ DEF200

ライトロード・ハンター・ライコウ→除外 

 

「はは、予想通りだ。残念だったなぁ! そしてショック・ルーラーで直接攻撃、エンジェルブラスター!!」

 

「うっ、ぐぅああ!」

 

 ショックルーラーから放たれた光線は裕を直撃し裕は普通の決闘よりも派手に吹っ飛ばされる。

 

裕LP4000→1700

 フラフラになりながらも立ち上がり悪態を吐く。

「っ、痛い、なぁ」

 

 すでに足元がふらついている裕を見て、藤田は頭を掻き、横の方へと顔を向けながら、微妙に優しげな声色で裕へと口を開く。

 

「プロの立体映像は少しばかり威力強めだからな。……下手したらぶっ倒れるから注意しろ。俺はこれでターンエンドだ」

 

モンスター効果 発動不可

藤田場    ギアギガントX ATK2300 (ORU0)

LP4000    No.16 色の支配者 ショック・ルーラー ATK2300 (ORU2)

手札3     伏せ2

       次元の裂け目

 

裕場   

LP1700

手札3     伏せ2

 

『先制ダメージを与えたのは藤田プロだ! 手札もほとんど減ってないですし安定感抜群の決闘ですね。次元の裂け目に先制パンチ、流石は藤田プロだ!』

 

 熱の入った声を挙げる司会のベルアッカ、そしてその横に居る片桐プロは今の現状を冷静に見ながら解説する。

 

『藤田プロのガジェットは安定感がありかなり強力なデッキです、少し前まで藤田プロはマシンガジェだったのですが今回は罠を大量に積み相手を妨害していく除去ガジェのようですね。そして対する水田君はシンクロンだと事前に申告されています、瞬間火力で相手を倒すデッキですが藤田プロの張った裂け目と先程の強力なモンスターエクシーズのおかげで攻めあぐねてますね』

 

『ナンバーズと呼ばれるこのカードシリーズはWDCで九十九選手が使っていましたが強力ですね、戦闘耐性と強力な効果に水田選手はどう立ち向かうのかぁ!?』

 

『普通にきつい状況ですが彼の目には闘志が消えていません、何か仕掛けて来るつもりなのかも知れませんね、彼の行動にも注目したほうがいいですよ』 

 

 そう言われ裕の次の行動に観客の目が集まり、

 

「ドロー! うぅ、二度と奪われないから許してくださいクェーサーとシンクロン達ぃ……」

 

 現状を突破できない。

 裕は膝から崩れ落ちそうになり、泣きそうになるもなんとか体制を立て直し、やけくそ気味に叫ぶ。

 

「モンスターをセットしてターンエンドだぁ!」

 

裕場      セットモンスター

LP1700

手札3     伏せ2

 

藤田場     ギアギガントX ATK2300 (ORU0)

LP4000   No.16 色の支配者 ショック・ルーラー ATK2300(ORU2)

手札3     伏せ2

        次元の裂け目

 

 片桐プロが注目ですと言われ、僅かに期待された矢先の弱気な行動に観客からは失望やら一般決闘者じゃプロに勝つなんて無理だろ、といった否定の声が上がりはじめる。

 藤田はあーあ、と観客席を見渡して、暗い雰囲気を放つ裕を少しばかり煽る。

 

「はっ、片桐さんはああ言ってたけど、どうした攻めてこねえのか?」

 

「ま、まだ俺が動くときじゃない、デッキがそう言っているんだ」

 

 強がるように、自身に言い聞かせるように言った言葉に、藤田は笑う様に息を吐き、

 

「そうかよ、ドロー」

 

 裕が動かないかを藤田は見ると裕の口元に笑みがある。

 今まで何百回、何千回と相手が浮かべる嘘と本気の表情を見てきた藤田が見ても、何かあると思わせる顔がそこにはあった。

 

「それにこのターンで流れを引き寄せる!!」

 

 笑みを見せ、いたずらっ子の様に笑う裕を藤田は面白いと感じる。

 

「言うねえクソガキ、だがここで間違える馬鹿はいねえ」

 瞬間、藤田は考えるのは先ほどの裕の台詞だ。

―――普通に考えるならクラッシュトークか本気の二択だ、アイツの伏せが何かは読めねえがこの現状を崩せるとは思えねえ、だが俺の勘が告げている、ここで間違ったらあいつに流れを持って行かれる。

 

 前のターンでショックルーラーが通り。攻撃も直接攻撃も通った事から攻撃に反応するタイプではない。

 そこまで事実を照らし合わせ、ブラフか防御用に使えるけどあまり使いたくないカード、禁じられた聖槍等ではないかと考えてる。

 

―――今、ルーラーの効果で罠を宣言した場合、俺の伏せが意味が無いものになっちまう。展開しきったところで激流葬みたいなので殺しに来る可能性も十分に考えられるが伏せカードにはスターライト・ロードがあるこの状況ならば問題は無え……。

 

 藤田が裕を見れば何かを待って居る裕の視線とぶつかる。

 セットされていたのがまたしてもライコウという可能性は無い訳では無い。だが今の藤田の手札と場の状況ならばモンスターを1体破壊された程度では藤田の優位は揺るがない。

 

―――何を狙っていやがるかなんて分からねえが今、ショックルーラーの効果で封じるべきは魔法かモンスターのどちらかだ。どっちを選ぶべきかだが……。

 

 長い長考は観客を焦らす事に繋がる、それから逆転するならば観客は湧き立つだろうが今の状況ではそうはならないだろう。

 藤田は短く考え、己の勘を信じようと覚悟を決め、

 

「ショックルーラーの効果発動、魔法を発動できなくする!」

 

 二つ目の球体が角へと吸い込まれ光が場を満たす。

 

「チェーン、速攻魔法、スケープゴート! 俺の場に4体の羊トークンを特殊召喚する!」

 

 裕の場に現れた贄の羊4体を藤田は見て舌打ちをし己の勘が外した事に苛立つも、しょうがないと思い直す。

 

「ブリキンギョを召喚、そしてブリキンギョの召喚時効果でイエロー・ガジェットを特殊召喚、イエロー・ガジェットの特殊召喚時効果でグリーンガジェットをサーチする」

 

 後悔など切り捨てて、藤田は1体でも多く羊トークンを削りにかかる。

 

「バトルフェイズ、ショックルーラーでセットモンスターを攻撃、エンジェルブラスター!」

 

No.16ショック・ルーラー ATK2300 VS レベルスティーラー DEF0

破壊され除外→レベル・スティーラー 

 

 熱線によって焼き払われた天道虫、それは裕の使うシンクロンデッキにおいて非常に大切なモンスターだ。

 だがそのモンスターも破壊され除外されてしまえば意味は無い。

 藤田はそれを見て臆病だが慎重な判断だと評価する。

 レベル・スティーラーを伏せなくても前のターンにサーチした藤田の手札から最低でも4体のモンスターが並ぶことは誰でも予想できる。

 そこから藤田が死者蘇生やカゲトカゲを特殊召喚するだけで裕のライフは尽きる。だからこそ負ける可能性を少しでも潰すために大切なレベル・スティーラーを温存する道を諦めたのだ。

 

「良いぜ、もっと見せて見ろ! ギアギガントX、イエロー・ガジェット、ブリキンギョで羊トークンに攻撃!」

 

 3連打の攻撃が羊を焼き払い、裕の場に残る羊トークンは1体となった。

 

「メイン2、レベル4のブリキンギョとイエロー・ガジェットの2体でオーバーレイ、エクシーズ召喚、現れろ爬虫類の王、その手で仲間を呼びよせ活路を開け! キング・グレムリン! オーバーレイユニットを使いキング・グレムリンの効果発動、デッキから爬虫類モンスター、カゲトカゲを手札へ加えるぜ!」

 

 藤田は尽きる事の無いモンスターのサーチとモンスターエクシーズの連打を行う。

 その動きは非常に安定しており相手からすれば厄介なことこの上ないはずだ。

 藤田の場は大量にカードがあり、裕の場にはほとんどカードが無い。観客からはすでに裕の敗北を決めつける声も挙がっている。

 だがその裕の目にはまだ爛々と輝く意思があり、気持ちは折れていない。

 

「まだ諦められねえっていうその表情。いいねぇ、まさしく挑戦者って感じだ。さあ見せて見ろよ、俺と観客にお前の本気って奴をよ。俺はカードを伏せてターンエンドだ!」

 

魔法カード発動不可

藤田場     ギアギガントX ATK2300(ORU0)

LP4000     No.16色の支配者ショックルーラー ATK2300(ORU1)

        キング・グレムリン ATK2300(ORU1)

手札3      伏せ3

        次元の裂け目

 

裕場      羊トークン DEF0

LP1700   

手札3     伏せ1


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