クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
九十九遊馬は目立たないようにこっそりと1人で帰ってた。
数日前に行われたWDCで優勝し、その裏にあったナンバーズを狙い、アストラルの生まれた世界、アストラル世界を攻撃するフェイカーの野望を阻止することができた。
しかしフェイカーとは別にナンバーズを狙うトロン1家によってWDCの準々決勝、準決勝が試合鑑賞の妨害を行われ、そこで何かが行われたのではないかという噂が立ったり、遊馬の親友のシャークこと、神代凌牙が過去の大会で行った不正行為が明るみになったり、準優勝のトロンが行方不明となりして1時期ネットでは別の意味で遊馬は有名になりマスコミに追われる毎日を過ごしていた。
「なあアストラル、なんとかしてこの状況を変えることはできないもんかなぁ?」
「今のところはどうすることもできないな、何か状況を変える手段があればよいのだが」
遊馬は時分よりも頭の良いアストラルに助けを求めるモンスター、アストラルもどうする事もできず、良い案は浮かばない。
遊馬の家族や、友人は時間が全て解決してくれるから、放っておけと言っている。
事実、最初の頃よりは遊馬への心無い言葉が欠けられる機会は減ってきているように感じる。
そうやっていろいろな事を考えながら歩く遊馬、その背中に遊馬の名を呼ぶ声が来る。
「九十九遊馬君だね」
呼び止められ遊馬が振り返ると、中折れ帽子をかぶった初老の男性がこちらを見ていた。
「ああ……そうだけど」
遊馬が僅かに警戒する様子に気づき、男性は人の良さそうな笑みを浮かべる。
敵意などまるで感じさせずゆったりとした歩みで遊馬へと歩いてくる。
「WDCの決勝凄かったじゃないか、見たことも聞いたこともないようなエクシーズの連打合戦、切り替えしに次ぐ切り替えしの展開、とても面白かった、久しぶりに心が躍ったよ」
「お、おう。ありがとうよ」
久方ぶりの純粋な賞賛に遊馬は照れてしまう。
ところでだ、そう言いながら男性が取り出したのは古い決闘盤だ。
塗装が所々剥げ、年季の入った決闘盤を遊馬へと掲げて見せ、
「あの決闘を見てからどうにも決闘がしたくなってね。どうだろう、この老体と1つやってみてもらえないだろうか?」
遊馬は僅かに考えるみせ、決闘盤を取り出し、明るい笑みを見せる。
「……いいぜ、じいちゃんの名前は?」
「ありがとう、私は堺だ。お手柔らかに頼むよ」
2人は決闘盤を装着しDゲイザーを装着し口を開く。
「「決闘!」」
●
「私のターンからか、ではドロー」
堺のドローする動きはよどみなく、まるで何万回と同じ動作を繰り返してきたかのように滑らかだ。
それを見たアストラルは遊馬へと注意を呼びかける。
「気を付けろ、遊馬。あの動き、只者ではない」
「へへっ、分かってるぜ!」
「私はカードを5枚伏せ、そしてカード・カーDを召喚」
いきなり手札の全てを伏せとモンスターの召喚に費やす堺、その動きは遊馬が今まで決闘した事の無い動きであり、遊馬の顔に笑みが浮かび、どのような動きをするのか期待で胸が躍る。
「このカードをリリースする事で2枚ドローしエンドフェイズとなる。私はターンエンドだ」
堺場
LP4000
手札2 伏せ5
遊馬場
LP4000
手札5
堺の場に伏せられた5枚のカード、それらから繰り出されるのはこちらの動きを妨害する罠カードか、次のターンに動くための展開用の罠カードなのか、それとも手札事故なのか、それは考えるも良い答えは浮かばない。
遊馬は手札を見るも、サイクロン等の伏せカードを破壊するカードは無く、遊馬は取りあえずカードをドローして見る。
「俺のターンドロー! おっ!」
遊馬はドローしたカードを見、相手の場を見る。
そしてアストラルを見上げるモンスター、この状況は遊馬に任せると言わんばかりに何も言わずにこちらを見て来るだけだ。
遊馬はそのカードと睨めっこし、
「かっとビングだ! 俺は魔法カード、大嵐を発動!」
「ふむ、良い引きだが残念だな」
発動するカード、それより発せられる大風が堺の伏せカードを巻き上げていく。
そのカード効果が通ってしまえば堺の場ががら空きになると言うのに堺の声には焦りはない。
だからこそ、遊馬は何かあるのかもしれないと思い不安な表情を見せる。
その顔から察した堺は苦笑を浮かべ、
「いや何もないよ。だがこのデッキに対しては最悪の1手だね。速攻魔法、アーティファクト・ムーブメント。発動」
ギギギと古めかしい金属音が風の吹き荒ぶ場に響く。
それはまるで長い事、閉じられていた扉が軋みながら開く音に似ている。
「このカードはフィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊し、デッキからアーティファクトモンスター1体を選んで魔法カード扱いとして魔法&罠カードゾーンにセットする。私のセットされた右端のカードを破壊対象に、さらに罠、アーティファクトの神智」
堺の背後、無数の歯車で構成された扉が作り上げられ、その扉が開き始める。
開き始めた扉の内部より射出されたのは黄金の歯車、そして灰色の錫杖だ。
「このカードはデッキよりアーティファクトモンスターを特殊召喚する。これ以上私はカードを発動しない。よって逆処理が行われる。神智の効果によりデッキより現れよ、アーティファクト・カドケウス。そしてアーティファクト・ムーブメントの効果により私の伏せカードは破壊し、デッキよりアーティファクトモンスターをセットする」
そして大嵐の効果が発揮する。
大嵐に巻き上げられ堺の墓地へと送られたカードを見、遊馬は驚きの声を上げる。
「今、モンスターが魔法罠ゾーンにあったぞ、どうなってんだ!?」
冷静に場を見ているアストラルは腕を組み戦いを見守る。
ナンバーズの気配もしない決闘であり、WDCを経て遊馬の実力が向上してきたためにあまり口出しをしなくても済むようになってきたことをアストラルは頼もしさを感じていたが、見た事もない効果に狼狽する遊馬の姿を見て、まだまだ私がいないとだめか、と評価する。
「はあ、落ち着け遊馬。あれはあのモンスター効果だ。おそらくあのアーティファクトと名の付くモンスター達は魔法罠カード扱いでセットできるのだろう」
遊馬へと説明をしている間に吹き荒れていた風は弱くなり、立ち消え、入れ替わる様に来るのは色とりどりの光の放流と金属のぶつかり合う音だ。
「なっ!?」
堺の前、墓地へと繋がる円が現れ、その内側より歯車達が噴き出した。
驚く遊馬の耳へと堺の説明が届く。
「相手のカード効果によって破壊されたアーティファクト・ムーブメントの効果、相手の次のバトルフェイズをスキップする。そして魔法&罠カードゾーンにセットされたこのカードが相手ターンに破壊され墓地へ送られた時、アーティファクトモンスター達の効果発動、現れよ、古代の英雄達が使いし武具達よ」
歯車の一部は分解し鉄板となり、歯車が身を寄せ合うように合致し始める音を響かせていく。
遊馬が声も出せずに見守る中、歯車の上から鉄板が被せられ。弓、盾と2対の剣が形作られ、先に堺の場に突き刺さっていた錫杖の横に突き刺さる。
そして宙より降ってきた金色の歯車がそれぞれの中央にはめ込まれると緑、紫、赤、青、金色のラインを走らせそれぞれの武具の後ろに半透明の人影が現れた。
「更にアーティファクト・カドケウスの効果発動、このカードが場にいるとき相手ターンにアーティファクトモンスターが特殊召喚するたびにデッキから1枚ドローできる、よって4枚ドロー」
並び立つ武具達、それらを見た遊馬は興奮に目を輝かせ、笑顔で叫ぶ。
「すげえ、レベル5のモンスターが一瞬で4体も出てきやがった!?」
「予期せぬとはいえ凄まじい性能を持ったカード群だ、たった1枚のカードでここまでの差を広げられるとは、遊馬、やはり君はもう少し考えてプレイングをするべきだ」
「分かってるよ、だけどあんなモンスターがいるなんてわからないって普通!」
アストラルの見えない人間からすればアストラルへと反論の声を挙げる遊馬は奇異の目で見られかねない。
だが、堺は気にせず、やんわりと注意をする。
「ああ、あと特殊召喚したアキレウスの効果でこのターン、アーティファクトモンスターは攻撃対象にはできない、ついでに言えばムーブメントの効果で君がバトルフェイズに入った瞬間にバトルフェイズはスキップされる、さてどうする?」
試すような堺の緒と場に遊馬は少しだけ考え、
「だったら俺は魔法カード、ガガガ学園の緊急連絡網を発動! このカードは相手の場にモンスターが存在して、俺の場にモンスターが存在しないとき、発動できる。その効果でデッキからガガガモンスター、ガガガマジシャンを特殊召喚するぜ!」
遊馬が発動したカードは、効果を見ればかなり強力なのだがこのターン、エクシーズ召喚以外の特殊召喚を行えないという強烈なデメリットがある。
だがバトルフェイズに入れないこの状況では守りを固めるほかなく、そのついでに1体でも多く相手のモンスターを削るほうを遊馬は選んだ。
「そしてガガガシスターを召喚、ガガガシスターの召喚時効果で俺はデッキからガガガボルトを手札に加え、そのまま発動、カドケウスは破壊だ」
ガガガマジシャンの放った雷が錫杖を直撃し砕ける。そしてピンク幼女が隣にいるガガガマジシャンの袖を引っ張って走り始め、広がり始める渦へと2体は跳びこんで行く。
「俺の新しい仲間を見せてやるぜ、ガガガシスターの効果でガガガマジシャンとガガガシスターのレベルを6に統一し、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ、ガントレット・シューター!」
渦の中より身を固めるように腕をクロスし出現した巨大戦士の巨大なガントレットが力をためるように細かく振動し始める。
「ほう、これはまた強力なエクシーズモンスターが、面白い、来なさい!」
口元に笑みを浮かべる堺、その声に負けないぐらいに遊馬も声を張り上げる。
「行くぜ! ガントレット・シューターの効果発動。オーバーレイユニットを1つ使い、相手のモンスターを破壊する! 俺はアーティファクト・モラルタを破壊、そしてもう1つのオーバーレイユニットを使ってアーティファクト・フェイルノートを破壊する!」
巨大なガントレットが発射され、青の剣と緑の弓が破壊される。そのまま僅かに動いた巨大戦士の前に歯車が落ちてくる。
「バトルフェイズに入る、そしてアーティファクト・ムーブメントの効果でバトルフェイズはスキップされてメイン2、カードを1枚伏せて俺はこれでターンエンド!」
遊馬場 ガントレット・シューター DEF2800 (ORU0)
LP4000
手札1 伏せ2
堺場 アーティファクト・アキレウス DEF2200
LP4000 アーティファクト・ベガルタ DEF2100
手札6
「私のターンドロー、フム」
1ターンでモンスターを5体並べ、そして2体まで減らされようとも堺は焦らない。
「光属性、レベル5モンスター2体でオーバーレイ、現れろ、セイクリッド・プレアデス」
盾と剣は渦の中へと吸い込まれ、重なり合い星座の力を身に纏う戦士を構築する。
渦の中より姿を現した戦士は周囲を浮かぶオーバーレイユニットを掴みとりガントレット・シューターへと投げつける。
「プレアデスの効果発動、1ターンに1度、オーバーレイユニットを使い、場のカードを手札へと戻す。ガントレット・シューターを手札に戻してもらおう」
「させねえ!、罠カード、ブレイクスルー・スキル! プレアデスの効果を無効にするぜ」
これが通れば勝ちという場面だが、それを妨害されようとも堺の余裕は崩れない。
ふむ、と顎に手を当て、
「私はライオウを召喚、そして新たに5枚のカードを伏せターンエンドだ」
堺場 セイクリッドプレアデス ATK2500 (ORU1)
LP4000 ライオウ ATK1900
手札1 伏せ5
遊馬場 ガントレットシューター DEF2800 (ORU0)
LP4000
手札1 伏せ1
「俺のターンドロー」
遊馬はドローしたカードを見て、手札へと目を落とす。
悩んでいる遊馬を見かねたアストラルは遊馬へと近寄り、
「どうする遊馬、プレアデスは墓地のブレイクスルー・スキルで何とかなるにしても、彼の場にはライオウがいる。あのカードが在る限り私達はデッキよりカードをサーチ出来ずモンスターエクシーズを出してもライオウをリリースする事で無効にされ破壊されてしまう。このまま攻撃を仕掛けてもいいがあの伏せられたカードが5枚、あの中に本命の罠が混じっている可能性もあるぞ」
「分かってるよ! ガントレット・シューターを攻撃表示に変更してバトルだ、ガントレットシューターでライオウを攻撃」
「……ふーむ、何もなし」
ガントレット・シューター ATK2200 VS ライオウ ATK1900
破壊→ライオウ
堺 LP4000→3700
「ここは耐えるしかない、モンスターをセットしカードを1枚伏せてターンエンド」
「君のエンドフェイズ、速攻魔法、ダブルサイクロン発動。私の右端の伏せ1枚と君のセットしたばかりのカードを破壊する」
破壊→ 堺 アーティファクト・ベガルタ
遊馬 サイクロン
墓地に送られたカードを見て、アストラルは注意を呼びかける。
「遊馬まずいぞ、あのモンスターの効果は」
「アーティファクト・ベガルタを墓地より特殊召喚、そしてベガルタの効果発動。私の伏せカードを2枚まで破壊する!」
この状況下でベガルタの効果を発動するという事は堺の伏せカードの内2枚はアーティファクトモンスターだ。
それらが破壊されてしまえばまたしても墓地よりアーティファクト達が姿を見せ、堺のターンにセイクリッド・プレアデスとなってしまう。
遊馬はどうするか選択を迫られ、悩み、決める。
「させない、墓地のブレイクスルー・スキルのもう一つの効果発動、このカードを墓地から除外することでモンスター効果を無効にする、俺はベガルタの効果を無効にする!」
「ならばプレアデスの効果発動、君のセットモンスターを手札へ」
周りに漂うオーバーレイユニットをつかみ取り、力を増した星の戦士はセットモンスターを宙に打ち上げる。
「そしてアーティファクトの神智を発動、デッキより現れよ最後のベガルタよ」
赤い剣がデッキより現れ場に突き刺さる、そして光を放つ。
「ベガルタの特殊召喚時効果で私の場の伏せカードを2枚まで破壊、そして破壊されたアーティファクト・モラルタ、アーティファクト・アイギスの効果発動! このカード達を特殊召喚し、特殊召喚に成功したアーティファクト・モラルタの効果発動、対象を取らずに相手の場の表側表示のカードを破壊する!」
墓地から浮かび上がった薄黄色の盾と青い剣が光を放つ、独りでに浮き上がった青い剣はまっすぐに遊馬の場のガントレットシューターに突き刺さり爆発を背後に堺の場に戻る。
「ガントレット・シューターを破壊、これで私がするべきことは終了だ」
遊馬のターンに展開し遊馬が伏せたモンスター、カードを根こそぎ破壊していく武具達。それらを自在に操る堺の戦術に遊馬は口を開けるしかない。
そしてエンドフェイズに入っているこの状況で遊馬が出来る事は何一つない。
遊馬場
LP4000
手札1 伏せ1
堺場 セイクリッド・プレアデス ATK2500 (ORU0)
LP3700 アーティファクト・モラルタ ATK2100
アーティファクト・アイギス DEF2500
アーティファクト・ベガルタ DEF2100
手札1 アーティファクト・ベガルタ DEF2100
「ドロー、私はカードを1枚伏せ、モラルタとベガルタのレベル5のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築」
青と赤い剣の中央の黄金の歯車が抜け剣は光の玉となり渦へと吸い込まれる。
ギチギチと金属の擦れ合う音と共に渦は膨れ上がり、大小様々な歯車がまき散らされ機械の握り手、刃が錬磨、堺の前で全てが一剣へと収束していく。
「失われし聖剣よ今こそ二つの武具の合体によりその姿を顕現せよ。出でよ、アーティファクト・デュランダル!」
最後に宙へと昇った黄金歯車が互いに合致し出来上がった巨大な剣に嵌め込まれ赤と青のラインが走り、巨大な剣は独りでに浮き上がると遊馬を突き刺さんとするように切っ先を向けた。
「さてバトルだ、プレアデスで直接攻撃」
「甘いぜ、堺さん! 罠発動、聖なるバリア ミラーフォース!!」
遊馬へと迫るプレアデス、その拳が遊馬に届く寸前、鏡の盾が展開される。
触れた者の力をそのまま返す反射の鏡、だが、聖剣の前にはその力は無力だ。
「アーティファクト・デュランダルの効果発動、オーバーレイユニットを1つ使い、相手の発動した魔法、罠、効果モンスターの効果をサイクロンと同じ効果へと書き換える! エフェクト・リライティング!」
遊馬の罠から発生した自分の持つ力が返ってくる鏡の盾はデュランダルの黄金に輝く歯車が発した光により竜巻に書き換わる。
「なんだって!?」
「なんだと!?」
カード効果を無効にするわけでもなくただ違うカード効果にするという今までに経験したことのないカードに遊馬とアストラルは驚愕の声を上げる。
「場にあるのは私の伏せカードのみだ、つまり」
「くっ、俺が破壊するのは堺さんが今伏せたばかりのカードだ」
竜巻は堺の場のカードを砕く。そして止める物のなくなったプレアデスの拳は遊馬へと届く。
「そして攻撃続行される。プレアデスで直接攻撃! そしてデュランダルで直接攻撃!!」
プレアデスの拳、そして宙に浮かぶデュランダルの剣先を向けた突進が遊馬へと叩き込まれた。
「う、うわああああ!」
遊馬LP1500→0
勝者 堺
●
「いててて」
「大丈夫かね?」
堺は転がった遊馬へと手を差し出す。
「へへ、ありがと、負けたのは悔しいけど、見たこともないカードに凄い効果のモンスターエクシーズ、すげー楽しかったぜ、あ、でも次は絶対勝つからな!」
「…………楽しかった、か。あの状況で楽しそうに決闘できるのはどれほどいるのだろうか、だから私は」
「?」
「ああ、いや、君の笑顔を見ているとこちらまで心が躍る、だが」
堺は手を握っている手とは反対の手、腕輪を付けた手を向ける。
遊馬はその腕輪に見覚えがあった、WDCでトロン一家がつけていたものと非常によく似た腕輪である、Ⅲの腕についているのを見たことがあるためそれを覚えていて、遊馬はそれを問いただそうとした瞬間、
「それでも私は非情にならねばならん、許しは請わない、私は君からナンバーズを奪う」
腕輪から赤い光が放たれた。
●
裕は目の前の響子より発せられた言葉を理解しようとし、無い頭を必死で動かす。
眼の前の響子は普通にどこにでもいそうな少女だと思っていた。
突然脅迫して来たり、アンティ決闘仕掛けてきたりするような危ない決闘者ではなくちょっと訳の分からないアドを叩き出す融合モンスターの使い手だと思っていた。
しかしそう見えるだけで中身は別人だ、そう裕は認識を改める。
「何を言っているのか分からないという顔だな、まあそれも仕方の無いことだ、まずは私の自己紹介をしなければいけない。私は異世界人なのだ」
「へー」
「ああ、そういっても魂だけだ、ちょっとした縁から彼女の体に同居させてもらっているんだ」
「お、おう」
「私はそうだな、国を追い出された皆と一緒に新しい国を作ったんだが、私達を追い出した国と私達が新しく作った国とで戦争になってしまってね、それで思い悩んでね……。ちょっとストップ、水田くん、真面目に話聞いてる?」
割と真剣に話す響子だが、裕は理解しきれず話の半分も理解出来ずに聞き流しかけていた。
それでも裕は必死に考えを巡らし
「えっと中二な二重人格の設定なら聞いてますよ、ええ、大丈夫です。多分⋯⋯」
「これ本当の話なんだけど!」
無表情からやっと泣きそうな表情を出しはじめた響子を見て裕はどうするべきかと真面目に考えはじめる。
「信じてよ、やっと打ち明けられそうな人が出来たから真面目に話してるのに。ふむ二重人格を君はどう思うんだ?」
「え、胡散臭い?」
「人が決闘中にムキムキ筋肉達磨になるのは?」
「決闘に勝ちたいからじゃないか」
「人が決闘中にバイクと合体するのは?」
「それぞれの決闘にかける思いが成せる技なのでしょう、カッコイイと思います!」
「人がいきなりマッチョになるのは?」
「何それ怖い」
ほう、考え込むように呟いた響子は、
「ダメだ響子、この決闘者の頭の中は予測不明だ、これは本当に人間なのか? いやあのその質問なら私も同じような答えになるんだけど、というか取材中にプロ同士の決闘中にムキムキになったり変なオーラをまとった人見たことあるよ」
無表情から笑み、驚きの顔、そして興味深げな顔、クルクル表情が変わるのを見て、少しだけ裕は本当の事なのかもしれないと思い始めた。
「なんだとそんな所まで影響が出ていたというのか、だとしたら私はなんという事をしてしまったのだ、よかれと思ってやったことが実は悪影響しか及ぼしていないとは、私はやはり罪深い……」
―――あ、やっぱり普通の演技上手な中二病だ。
響子の話を本気で理解しようとした裕だったが1秒で考えを改めた。
どうしたものかと考える裕のDパッドが震え、見てみるとメールが届いている。差出人は最上だ。
裕は嫌な顔を浮かべてるも無視すればどのような出来事が起こるか分からないため、メールを開き確認する。
『今すぐ私の家に来い』
裕は心の底より重いため息を吐く。
本心を言えば行きたくない、言葉を交わしたくない。それぐらいに毛嫌いするほどに最上に裕は苦手意識を持っていた。
急に重々しいため息を吐いた裕を不思議そうに見る響子へと裕は向き直り、
「ちょっと、用事が出来たからまた今度ゆっくりした場所で話そう、そのときはしっかりと話を聞くから」
裕は渋面な表情で言うと響子も頷き、立ち上がり、
「分かった、それまでには私がどういうものか説明できる言葉をまとめておくから、絶対に信じてよね」
そう言い残し用心深く周りを見ながら歩いていく響子を見送り、裕は更に溜息を吐いた後、重い足取りで最上の住むマンションへと向かい始めた。