クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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決着

 最上のカードを握る手が、小さな体が、眼が、瞳が、口が、全てが最上の意思を示している。

 勝ちたい、だからお前は負けろ、と。

 思いは言葉に宿り、言葉は全身から漏れ出して誰でも感じ取れるぐらいにはっきりとした圧となる。

 その願いを叶えようとするのは星守りの騎士、手に持った杖をの周りをグルリ、グルリ、グルリとオーバーレイユニットが躍る。

 それはまるで天体運動のように一定の距離と速度を保ちながら動き、それらの動きが騎士の掲げた杖によって早まっていく。

 

「プトレマイオスの効果発動、オーバーレイユニットを7つ使い相手のターンをスキップする! 時の跳躍(ターン・ジャンプ)!」

 

 放たれた光によって裕の決闘盤へと突き刺さり書き換えられる。

 裕の手札にそれを止めるすべはなく、最上の展開をも見守るしかない。

 これより始まるは最長3ターン、最上による一方的な殲滅戦だ。

 

「更に墓地に送られた旧神ヌトスの効果発動、場のカード、シューティング・スター・ドラゴンを破壊する」

 

 墓地より錫杖を手にした女性が杖を掲げれば、その杖より眩い雷光がばら撒かれシューティング・スターへと迫る。

 すでに羽根帚を無効にしてしまったがためにシューティング・スターの効果は使えず破壊されてしまう。

 

「さて墓地のダメージ・ジャグラーの効果発動、このカードを除外しデッキよりEmカップ・トリッカーを手札に加えターンエンド、そして再び私のターン!」

 

最上場    星守の騎士プトレマイオス ATK550 (ORU14)

LP1000   EMシルバークロウ ATK1800

手札6    EMオッドアイズ・ライトフェニックス ATK2000

       EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

       EMペンデュラム・マジシャン ATK1500

 

裕場   シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

LP3500  アルティマヤ・ツィオルキン DEF0

手札5   天輪鐘楼

      伏せ3

 

 祈らず、願わず最上はカードを引き、裕へと視線を向ける。

 まだ裕の目には諦めないという意思と、眼の前の相手に負けたくないという熱意が宿り、口はへの字に結ばれている。

 それらは最上からすれば当然の事だ。

 たかだか3ターンほど伏せと手札だけで相手の猛攻を耐え凌ぐ、そのような事は1年前に裕は経験してきたからだ。

 

―――さてあれの攻撃でライフが1000減るから残り2500、ライトフェニックスとプトレの攻撃が通ればとどめか…………。

 

 頭の中で算盤を弾き、最上は殺せるかもしれないという算段を立てる。

 

「よし、墓地のダメージ・ジャグラーを除外し、Emオーバーレイ・ジャグラーを手札に加え、スケール1のEmカップ・トリッカーとスケール6のEmオーバーレイ・ジャグラーでペンデュラム・スーケールをセッティング!」

 

 再び作り出される柱、その間で揺れ踊る振子が姿を現し裕は勘弁してくれと言う色を強くしていくも、その動きを止めない。

 最上は蹂躙の悦びに口元を緩ませ、声を張り上げる。

 

「レベル4のドクロバット・ジョーカーとペンデュラム・マジシャンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、フレシアの蟲惑魔!」

 

 現れるのは先ほどジェット・ウォリアーによってバウンスされたフレシアの蟲惑魔だ。

 

「そしてペンデュラム召喚、現れろ、Emボール・ライダー」

 

 モンスターを並べ始める最上だが裕は表情に焦りはない。

 まだ裕が最強と信じているクェーサーを突破する手段が無いからだ。

 

「いくら並べたってこっちにはクェーサーが居る、何が出てきたってクェーサーで返り討ちにしてやるよ!」

 

 その言葉を最上は鼻で笑い飛ばす。

 

「はっ、返り討ち? 何を言っているんだ? こっちは最強のランク4があるんだ。お前のそれなんて相手にもならないよ」

 

「なんだと!」

 

 裕は自分の相棒をそれ呼ばわりされた事に腹を立てたのか最上へと怒りの声を飛ばしてくる。

 

「その眼に焼き付けろ時代遅れ、最強のランク4の性能をなぁ! Emボール・ライダーとEMシルバー・クロウでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。No.39希望皇ホープ」

 

 銀河の渦の中、現れたのは裕と肩を並べて戦ってきた遊馬のエースモンスター、それを見た裕は自分が遊馬に負けた時の事を思い出したのだろうか、微妙に顔をひきつらせながら、口の中で呟く。

 

「…………ライフは1000以下って事はホープレイ、それともランクアップマジックを?」

 

「違うよ、これはただの下敷きだ。それ以外の価値なんてない」

 

 事実を言い放ち、最上は決闘盤を付けていない手を上へと伸ばし、蹂躙してやるという願いを満面の笑みに込め、声高らかに裕の切り札を真正面からぶった切るモンスターの名を呼ぶ。

 何度も雷光を放ち続ける銀河がホープの足元に展開され、ホープは光へと変換され吸い込まれていく。

 

「希望皇ホープ1体でオーバーレイネットワークを再構築、エクシーズ召喚、常戦無敗の剣をここに、SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング!」

 

 本物のナンバーズでは無い為、モニュメントは渦の中で構築されず、雷光を伴いながら渦の中より白を基調とする鎧を纏う戦士が姿を現す。

 部屋いっぱいに光と音を轟かせる雷光、それを現れた戦士はつかみ取り、2振りの巨大な剣へと変える。

 

「バトル」

 

「この効果は…………まだだ。まだお前のメインフェイズは終わっちゃいない!」

 

 裕はライトニングの効果に目を滑らせこのままではまずいと手を挙げ、そしてデッキトップへと手を置く。

 

「俺は墓地のバック・ジャックの効果発動、相手のターンにこのカードを除外しデッキトップをめくる、そのカードが罠カードならば、俺の場にセットしこのターン、発動できる!」

 

「じゃあ引けよ。それが上手くいけばいいなぁ」

 

 裕は祈る様に目を閉じ、引く。

 

「ナイスだ! ドローしたのは罠カード、シンクロ・コール。よってセット! そして魔法罠カードがセットされた事によりツィオルキンの効果発動、エクストラデッキから現れろスクラップ・ドラゴン!」

 

 ツィオルキンの咆哮が緑の輪を作り出しその内より鉄くずで形どられた竜が這い出て来る。

 

「何を考えてるのか知らないけど奈落に堕ちろ!」

 

 そこへと奈落の落とし穴をデッキより抜いた最上の声が飛ぶ。

 鉄くずでできた竜がフレシアの地面深くに張った根から作り出した奈落の落とし穴に落ちていく。

 

「スマン、スクラップ・ドラゴン……」

 

 フレシアがいるのにスクラップ・ドラゴンを出した裕の判断を最上は疑問に思うも墓地にスクラップ・ゴブリンという面倒な壁となるモンスターがいるこの状況でスクラップ・ドラゴンを除外できたのは大きい。そう考え、いつまでもクェーサーが最強だと言い張る時代遅れの目を覚まさせるために命令を下す。

 

「ライトニングでクェーサーを攻撃、この瞬間、ライトニングの効果発動!」

 

 唐突に差し込まれる効果発動の宣言、だがそれを聞いた裕はすぐさま無効にしようと声を発する。

 恒星龍の掌にも光剣が作られ、ようとするも光が発生しない。

 裕の伏せカードではそれらをどうする事も出来ず、相棒を両断されるのを指をくわえて見ているしかない。

 

「くっそおっ!」

 

 戦士は2振りの大剣を掲げるように持ちあげ、そこにオーバーレイユニットを取り込み始め、剣より漏れ出した光と音が爆撃の如くぶちまけられ室内を白に染め上げていく。

 恒星龍も負けじと今まで数々の敵をぶった切ってきた光剣を掌に生み出し振り上げ、雄叫びを響かせながら切りかかっていく。

 

「ライトニングの攻撃宣言時、相手はカード効果を発動できない。最後にライトニングの効果発動、ホープをエクシーズ素材としているとき、オーバーレイユニットを2つ使う事でこのカードの攻撃力を5000とする」

 

 光剣が大気を切り裂きながらライトニングに迫るも、ライトニングは慌てるそぶりを見せず、エネルギーチャージの終わった剣を握り、上段に構え、光剣へと振り下ろした。

 2剣が衝突する音も無い。

 裕は結果が分かっていたとはいえ、ショックを隠し切れない。

 まるで紙のように光剣はライトニングによって断ち切られる。

 その戦士の前では何もかもが許されない、ただ理不尽に両断されるだけだ。それは何も光剣だけの話ではない。

 

「不敗の雷光よ、恒星龍を討ち取れ!」

 

 光剣を切って捨てたライトニングがもう一振りの剣を振るえば、立ったひと振りで恒星龍は左右に切り分けられた。

 

「クェーサーが……っ!?」

 

「更にプトレマイオスでアルティマヤ・ツィオルキンを攻撃!」

 

 畳みかけるように星守の騎士による光の砲弾が赤き龍を貫いていく。

 これによって裕の場にモンスターが居なくなってしまう。

 

「ライトフェニックスで直接攻撃だ!」

 

「くぅ、罠カード、リジェクト・リボーン発動! 直接攻撃を無効にしバトルフェイズを終了させ、墓地よりチューナーモンスターとシンクロモンスターを効果を無効にして1体ずつ特殊召喚する! 現れろ、TGハイパー・ライブラリアン! ジャンク・シンクロン!」

 

 裕が発動した罠によって裕の空っぽの場に現れたモンスターを見、最上は僅かに考え込む。

 

―――まだ余裕だし伏せが何かあるってのは分かる、まあそれはどうしようもないし、私が考えるべきは私がどうするかだな。

 

 最上は薄いデッキを見、そして決闘盤を操作し裕のエクストラデッキを見る。

 残る枚数は4枚、裕の性格から読み取るに最上が分かるのは2枚、1枚はクェーサーなのは確定であり、ミラクルシンクロフュージョンがあった事から波動竜騎士ドラゴエクィテスだろう。

 問題はそれ以外のカードだ。

 シンクロドラゴンがもう1体居る可能性は捨てきれはしない、その枠を無くせば不明なのは残り1枚、それらの事を心に留め、最上は次の攻撃を準備する。

 

「ふーん、ヒート&ヒールを発動、一番ランクの低いNo.モンスターの攻撃力分ライフを回復しこのカードをオーバーレイユニットにする。ライトニングの攻撃力は2500、よってその分だけライフを回復する」

 

 ライトニングへと最上が投げ放ったカードが球体と変わりライトニングの周りを旋回する。

 これによってライトニングのオーバーレイユニットが2つとなり、戦闘時に攻撃力が5000になることが出来るようになる。

 裕はめんどくせえ、というよりは勘弁してくれと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「またかよ!?」

 

「そしてプトレマイオスの効果発動、オーバーレイユニットを7つ使い相手のターンをスキップする。時の跳躍! ターンエンド。そして3度の私のターン!」

 

最上場    星守の騎士プトレマイオス ATK550 (ORU7)

LP3500   SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK2500 (ORU2)

手札5    フレシアの蟲惑魔 ATK500 (ORU1)

       EMオッドアイズ・ライトフェニックス ATK2000

Emカップ・トリッカー (スケール1)  Emオーバーレイ・ジャグラー(スケール6)

 

裕場    TGハイパー・ライブラリアン DEF1800

LP2500  ジャンク・シンクロン DEF500 

手札5    天輪鐘楼

      伏せ3

 

 ドローしたカードを見て、最上は眉を顰める。

 そして裕の場を一瞥する。

 前のターンの初めに比べ、大型シンクロモンスターは全滅し伏せられていたカードは1枚減っており最上の優勢だ。

 だがまだ伏せが2枚もある状況では気が抜けない。

 

―――かかし系があると面倒なんだよなぁ。

 

 手札誘発を警戒しライトニングをなるべくとどめにしようと決め、最上は、

 

「ペンデュラム召喚、竜魔王ベクターP、そしてカップ・トリッカーのペンデュラム効果発動、このカードをライトニングのオーバーレイユニットにする。そしてバトル」

 

 最上のモンスター達が一斉に飛び掛かろうとするよりも早く裕が必死な形相で罠カードを発動させる。

 

「に入ってもらう前に俺は罠カード、貪欲な瓶を発動、墓地よりクェーサー、シューティング・スター、エフェクト・ヴェーラー2枚、フォーミュラ・シンクロンをデッキに戻して1枚ドローする!」

 

―――なるほど、なんとしてもヴェーラーを引き当てライトニングの効果を無効にしたいのか。

 

 攻撃力2500のライトニングで直接攻撃を宣言すれば残りライフ2500の裕の敗北が確定する。

 だからこそエフェクト・ヴェーラー2枚をデッキに戻し敗北から逃れようとするのだろう。

 

「ドロー! 違、いや…………これなら何とかなるのか?」

 

 ドローしたそれを見て考え込み、場とデッキを見比べ始めた裕。その行動が終わるのを最上は何も言わずに待つも裕の動きが止まらない。

 一分ぐらい待っただろうか、最上はしびれを切らし、

 

「プトレマイオスの効果発動、オーバーレイユニットを7つ使い相手のターンをスキップする。最後の時の跳躍! そしてバトルフェイズに入る」

 

 言い切る。

 これで裕が何も言わなかったらそのまま攻撃し何か言ってきたら待とうと思い最上は裕へと目線を向ける。

 裕は唸りながらも恐る恐るというように頷くのを見て最上がようやく動き始める。

 

「プトレマイオスでジャンク・シンクロンを攻撃」

 

 最上が攻撃を宣言した直後、裕の背後より緑の閃光が立ち上がり、中より5つの星が飛び上がった。

 

「俺は罠カード、シンクロ・コールを発動! 俺の場のモンスター1体と墓地のモンスター1体でシンクロ召喚を行う。俺は墓地のレベル5のアーティファクト・デスサイズにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚、現れろジャンク・デストロイヤー!」

 

「バトルフェイズにシンクロだと?」

 

 フォーミュラ・シンクロン等の相手のメインフェイズにシンクロ召喚を行う権利を投げ捨ててまでバトルフェイズに入るからには何か策が在るのだろうか、それともいつもの運任せなのか、それは最上にも分からない。

 だがやるべきことをするだけだ。そう最上は心に決め、ジャンク・デストロイヤーの放ったエネルギー拳を迎撃すべくデッキから罠カードを抜く。

 

「ジャンク・デストロイヤーの効果に対し、私はデッキから蟲惑の落とし穴とフレシアのオーバーレイユニットを使いフレシアの効果発動、このターン特殊召喚されたジャンク・デストロイアーの効果は無効にし破壊だ」

 

 場のモンスターの数が変動したために攻撃の巻き戻しが起こるも裕の場には守備表示のライブラリアンのみが立っておりプトレマイオスでは攻撃する意味が無い。

 

「プトレマイオスは攻撃しない、そしてライトフェニックスでライブラリアンを攻撃!」 

 

 赤黄に燃えるような体色の不死鳥がライブラリアンへと突進し貫いていく。

 ライブラリアンが爆散し、いよいよ本命のライトニングが動き出そうとしたその瞬間、裕の最期の伏せカードが開く。

 裕はピンチの時にいつも浮かべているデッキ達に祈り願う笑みを浮かべ口を開く。

 

「さて、頼むぜ、アイツに俺は負けたくないんだ。だから俺に力を貸してくれ! 永続罠カード、狂食召喚-グール・サモナーを発動、このターン、破壊され墓地に送られたシンクロモンスターを1体を特殊召喚しこのカードを装備する。甦れTGハイパー・ライブライアン!」

 

 裕の最期の伏せカードが開かれ、ねっとりとした重みのあるどす黒い瘴気がぶちまけていく。

 その伏せカードよりボロボロになった体を引きずる様に現れたライブラリアンは攻撃表示なのを見、最上は叫ぶ。

 

「攻撃表示? ライトニングの一撃で沈みたいってか!?」

 

「それはどうかな! 狂食召喚-グール・サモナーのもう1つの効果発動、手札を1枚墓地に捨てる事で墓地のシンクロモンスターを1体、特殊召喚しその攻撃力分のダメージを受ける! 甦れジェット・ウォリアー!」

 

 墓地より背に装着されたジェットをふかしながら黒い戦闘機にも似た外装のモンスターがまたも攻撃表示で出現し、背後より噴出し続ける火が裕を炙り、裕の残りライフは400となった。

 今更壁モンスターを並べた所で、そう最上は口に出しかけ、気付く。

 

「そうか、今墓地に送ったカード!」

 

「そうだ。俺は墓地に送られたバック・ジャックの効果発動、デッキトップを3枚俺の好きな順番に入れ替える」

 

 裕はごくりと唾をのみ、そっと3枚を手に取り見る。

 最上もこの行動に勝敗がかかっているために音を立てずにじっと見つめ、カードを手に取った裕の顔が動くのを見た。

 

「ありがとな! 俺は絶対王バック・ジャックの効果発動、デッキトップを1枚めくり通常罠カードならばセットする、俺がセットするのはアーティファクトの神智!」

 

「………………ああ、もう。本当にしぶといなぁ。本当に、本当にしつこい!」

 

 最上の声からはイライラするという不快感を、そして歯を見せながら獰猛な笑みを見せ、次に来るであろう裕の行動を予測ししつこいと言い切る。

 場のシンクロモンスターのレベルの合計は10、その2体の守備力は低いが為の攻撃表示、そして狂食召喚-グール・サモナーの手札を捨て墓地のシンクロモンスターを特殊召喚する効果は1ターンに1度と言う制限はない。

 だから最上はこの状況をしぶとく、しつこいと評価する。

 

「アーティファクトの神智を発動、デッキから現れろ、アーティファクト・モラルタ! 特殊召喚したモラルタの効果!」

 

 裕の場に青いエネルギーラインの走る剣が突き刺さり光を放つ。

 

「ライトニングを破壊だ!」

 

 青い光に飲み込まれ先ほどまで戦場を制覇していた戦士が爆散する。

 クェーサーを正面突破するカードを喪った最上はこれから出て来るであろうクェーサーを考えとりあえず裕のモンスターを削り取りにいく。

 

「ベクターPでモラルタ攻撃、そしてメイン2……!」

 

 守備表示のモラルタへと攻撃し破壊するも、最上はこれ以上の攻め手がない。

 攻撃表示で立つ2体、そのレベルの合計は10.

 最上はため息を吐きながら裕がすることを見守るしかない。

 

「俺は更に手札を墓地に送りグールサモナーの効果で墓地のフォーミュラ・シンクロンを特殊召喚する。そしてフォーミュラ・シンクロンの効果発動、このカードを素材としたシンクロ召喚を相手のターンに行うことが出来る!」

 

 裕は天へと拳を突き上げる。

 掌を広げ、何かをつかみ取る様に握りしめ、在らんばかりの声を張り上げる。

 フォーミュラ・シンクロンが黄金の輪となって解け、轟風を巻き上げながら天へと昇っていく。

 

「俺はレベル5のシンクロモンスター、TGハイパー・ライブラリアンとレベル5のシンクロモンスター、ジェット・ウォリアーにレベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベルマックス!」

 

 並び立つ10の星を2つの輪が3体のモンスターの力と意思を集束、調律、均一化し、最強の龍へと進化させていく

 金光の中、恒星の煌めきが踊り、鐘の音がそれら全てを祝福し響き鳴り渡っていく。

 

「神羅万象、遍く全てを飲み込み最も輝く龍の星よ。その力で全てを制圧しろ! 来やがれ! 俺の相棒、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 最上の前に2度目のクェーサーが出現する。

 裕を守る様に背後より手を広げるその姿を見て、困ったように最上は頭を掻く。

 最上のエクストラデッキは残り2枚、デッキも薄く手札にまともなモンスター少ない。

 

「全く…………メイン2にランク4のテラナイトと名の付いたエクシーズモンスターを素材としてこのカードをエクシーズ召喚出来る。ランクアップ・エクシーズチェンジ、星輝士セイクリッド・ダイヤ」

 

 恒星龍の前に星守りの騎士が星の光で構築された幻竜に姿を変えていく。

 セイクリッド・ダイヤの持つ闇属性メタの効果は裕にとって結構な制圧力を持つのだが今、この場に居るクェーサーには通じない。

 最上は静かに、しょうがないというようにため息を吐く。

 

「私はオーバーレイ・ジャグラーのペンデュラム効果を発動、場のエクシーズモンスターを他のエクシーズモンスターのオーバーレイユニットにする。私がオーバーレイユニットにするのはフレシア、そしてオーバーレイユニットを加えるのはセイクリッド・ダイヤだ」

 

 オーバーレイユニットを使い切ったフレシアを取り込み、最上は静かに息を吐き、

 

「私はダメージ・ジャグラーを除外しデッキからEmカップ・トリッカー加え、これでターンエンド。そして4度目の私のターンとなる!」

 

最上場    星輝士セイクリッド・ダイヤ ATK2700 (ORU2)

LP3500   竜魔王ベクターP ATK1850

手札5    EMオッドアイズ・ライト・フェニックス ATK2000

                    Emオーバーレイ・ジャグラー(スケール6)

 

裕場    シューティング・クェーサー・ドラゴン DEF4000

LP200  天輪鐘楼

手札6 

 

 4度目となる最上のターン、それは長く凄まじかった最上の猛攻の終わりがようやく見えてくる。

 裕は思わず顔を綻ばせ、最上の表情はしょうがないという風である。

 

「まあいい。私はスケール1のEmカップ・トリッカーでペンデュラム・スケールをセッティング。これで私はレベル2から5までのモンスターを同時に特殊召喚可能になった、揺れろ、振子よ。私の為に勝利の道筋を描け」

 

 2つの柱が作り出され、その内で振子が踊り光が走る。

 

「ペンデュラム召喚、現れろ、EMパートナーガ、EMドクロバット・ジョーカー。そしてパートナーガの特殊召喚時効果を発動、私の場には3体のEMモンスター、よってセイクリッド・ダイヤの攻撃力は900ポイントアップし3600となる」

 

 ここまでで最上は動きを止め、どうするかと裕へと目で語り掛ける、だが裕は止めるそぶりを見せない。

 

「まあ召喚権ぐらいは使わせるよね。ゼピュロスの効果発動、EMパートナーガを手札に戻しこのカードを特殊召喚、そしてゼピュロスをリリースしEMパートナーガをアドバンス召喚。召喚時効果で更にセイクリッド・ダイヤの攻撃力を」

 

「クェーサーの効果発動、その効果を無効にする!」

 

 2度目の強化を放とうとしたパート・ナーガの効果を恒星龍が光剣によって断ち切る。

 裕はどうだと言わんばかりに得意げな表情になり、最上を指差す。

 

「どうだ! これがお前がそれって言いやがったクェーサーの力だ!」

 

「根に持っていたのか。埋葬呪文の宝札を発動、墓地の魔法カード3枚を除外し2枚ドロー。さて」

 

 最上は呟き、裕へと向き直る。

 そのまま流れる様に薄い胸に右手を当て、ゆったりとした動きでお辞儀をする。

 それはまるでサーカスの団長が最後の見世物の前に客を盛り上げるパフォーマンスの様に行われた。

 

「さて、始める前にこの決闘に関する事を説明しておこう。このデッキは私の努力と本気とそれに混じってお前に対する嫌がらせと出会ってきた頭のおかしい敵というコンセプトで作られた」

 

「何?」

 

 唐突に語り出した最上の台詞、そしてその中に嫌がらせという言葉を裕は眉を寄せる。

 

「流石に時戒神が手に入らなかったし、黒原のハイパーチート能力やミザエルのカードテキストが見えない初見殺しは再現しようがないから無理だったけど他は結構出来たと思うんだ。1つ、九十九遊馬のホープによるクェーサーの両断劇」

 

 ナンバーズに操られた裕が連射したクェーサーを遊馬がホープ達によって何度も両断していった事は裕の悪く良き思い出だ。

 思わず渋い表情になった裕を最上は笑い、続ける。

 

「2つ、私こと最強で最高に素晴らしい最上愛によるひたすら理不尽レベルのエクシーズの連打とカードパワーによる蹂躙」

 

 裕の最初で最悪の宿敵たる最上愛と甲虫装機による蹂躙ともいえる攻撃、それに対し裕も必死で食らいついて互いの場を更地にし合い、そして最上のドローに全てを賭けた決着は裕の色褪せない思い出であり、今なおどちらの胸にもあるものだ。

 

「3つ、ドン・サウザンドに操られたギラグによる時の跳躍系の連打によるずっと俺のターン」

 

「あれはマジで辛かったなぁ」

 

 速攻魔法によるずっと俺のターンを続け、相手を物理的にも焼いていくギラグに裕は何度も意識を飛ばしかけた。

 それを思い出すと裕の顔に懐かしい、絶対にあんな状況にはなりたくない、といった様々な感情をない交ぜにした笑みが浮かぶ。

 

「4つ、半分程度は再現できたかなか。もう! 裕があと1か月早く帰ってきてくれればアザトートとホープを除外してカオス・エンド・ルーラーがぶち込めたんだがなぁ」

 

「一か月前に帰らなくて本当によかったよぉっ!」

 

 初手からエクゾディアを揃えるという誰も勝てる訳が無い最強、全ての元凶のドン・サウザンド、ビヨンド・ザ・ホープによる攻撃の瞬間、裕を睨み付けたあの瞳を裕は忘れられる事が出来ないものであり、それとまた対峙しなければいけないと思うと裕は少しだけ足が震える。

 でもまだ自分達には頼りになる遊馬達や最上、水田のような友達が居る。だから何とかなる、そう思えてくる。

 

「ここに来れなかったり、そもそも会いたくなかったりするような奴らも含めた強敵達の歓迎会、さて楽しんでもらえたかな?」

 

 表情は軽く小馬鹿にしたような笑みで固められるも、最上の言葉の端から感情を隠しきれていない。

 この一方的に裕が殴られ続け、過去に裕が苦戦した相手の強い部分を集めてみた凶悪な決闘が最上なりに帰って来た裕に対する歓迎パーティなのだろう。

 そう思うと裕はため息を吐き、苦笑しながらも、

 

「ああ、凄い楽しいな。お前と会ってから忙しくて必死で、結構死にかけたけど色んなことが在ったなぁ。…………これからもこんなやばい奴らと決闘していくんだろうが、俺が助けてほしい時は素直に助けてくれたら嬉しいな」

 

「…………ん」

 

 裕の素直な言葉に最上の胸の中にある野望を語ったときとは全く別物の、素直に無邪気な笑顔で答え、そしておもむろに最上は1枚のカードを抜く。

 

「でもまだ、足りないよね」

 

「え?」

 

「だから、それ頂戴」

 

 最上の呟いた言葉を理解できずに固まった。

 最上が掲げる様に突き出したその手より青白と金の光がばら撒かれていく。全てを書き換え、ランクアップさせていく光が室内を飲み込み、暴力的な圧をぶちまけていく。

 

「5つ目、RUM‐アストラル・フォース。私の場の最もランクの高いモンスターエクシーズを1つ、または2つ上のモンスターエクシーズにランクアップさせる。ライン5の星輝士セイクリッド・ダイヤ1体でオーバーレイネットワークを再構築、ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 呆然とする裕と恒星龍は光に飲まれ、セイクリッド・ダイヤがバラバラに分解され、新しい形に再構成するのを見守るしかない。

 両の手を限界まで伸ばし、最上は狂い乱れるように際限なく高まっていく愉しさの感情の濁流に踊らされ、自ら跳びこんで溺れていく。

 セイクリッド・ダイヤの体から伸びるのは植物の茎、先にて徐々に咲き開くは蓮の花。ぶちまけられるのはこれから起こる事を全力で愉しむ少女の笑い声だ。

 

「さあ、ラストを飾るのは怪しく蠢くその眼力で同士討ち、相棒による終わりの幕を引かせるエクストラデッキ15枚目のラストカード、私の勝利へのために全てを奪い取れ!」

 

 凛と咲く蓮の花、その内より最初に現れたのは白い球体だ。

 それは光の中より1つ、また1つと姿を現し、絡み合い円錐型の形を作っていく。

 絡み合い作られるはぶくりぶくりと不気味に泡立つ躰、円錐型の体を引き締める様に黄色のリングが浮かび、その白い躰の中央で黒く怪しい輝きの瞳が1つ蠢き、恒星龍を捕らえる。

 裕は全身に悪寒を走らせ、顔色を蒼白にし、その次に赤に染め、最上を睨み付ける。

 

「現れろNo.11ビッグアィイッ! ビッグアイの効果発動、オーバーレイユニットを使い相手モンスターのコントロールを得る。私の下に来い。シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 巨大な目玉より放たれた光線が恒星龍を飲み込み、恒星龍はゆっくりと最上の場へと移動していき、最上は裕へと近づくと裕の決闘版に鎮座するカードを持ち上げ、見せびらかすように振って最上の決闘版に置く。

 最上にクェーサーを奪われる。

 それは裕にWDC補填大会を思い出させるものだ。

 

「おま、最上ぃいいいいいいい!?」

 

 最上は今、最高に絶頂を愉しんでいた。

 仕掛けだけを見れば微笑ましく思える物だろう、長く遠くに行っていた人の為に当局に目が飛び出るような大金を支払って手に入れたアストラル世界のランクアップマジックのレプリカを使ったドッキリ、だ。

 ただ、その内容は裕のトラウマを軽く抉る物であり、唾を飛ばして激怒する裕の顔を見るだけで、最上は最高の気分になる。

 

「良い顔だ。お前のその表情が見たかった! 大好きで長年闘ってきた相棒によるとどめ、お前を何度も勝利に導いてきたお前の相棒が私に勝利をくれる、なんて素晴らしいんだろうなぁ!」

 

 裕の転移した際の経緯を聞き、転移する前のラスト決闘を聞き、最上はずっとそれをやってみたいと思っていたのだ。

 そのやってみたい事が半分ほどできたのだ。

 激怒する裕の表情を見て、耐えきれなくなり最上は腹を抱え、声高らかに嗤い始める。

 召喚権を使ってしまったがためにそれをしないが、今のテンションだけで突っ走る最上ならば召喚権が残っていたらクェーサーをリリースしてパートナーガをアドバンス召喚する事だってするだろう。

 目じりより溢れ始める涙を拭い、最上は最高の笑みを浮かべながら裕へと笑いかける。

 

「クェーサー、私に勝利をッ!!」

 

 クェーサーは僅かに抵抗するように体を動かすも光剣を構築し、裕へと振り上げる。

 最期に小さく抵抗があり、光剣が裕へと真っ直ぐにぶち込まれる。

 

「結構マジで感謝した俺の気持ちを返せっ、大馬鹿野郎ッ! 手札より速攻のかかしを発動! このカードを墓地に送り攻撃を無効にしバトルフェイズを終了させる!!」

 

 振り下ろされた光剣を受け止めるのは裕の後ろより飛んできたかかし、それを目にし最上の笑みは終わらない。

 

「ふふ、本当にしぶといなぁ。メイン2、ベクターPとライトフェニックスを守備表示にして私はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

最上場    No.11ビッグアイ DEF2000 (ORU2)

LP3100   シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

手札4    EMオッドアイズ・ライトフェニックス DEF1000

       竜魔王ベクターP DEF0

       EMドクロバッド・ジョーカー DEF100

       伏せ2

Emカップ・トリッカー (スケール1)Emオーバーレイ・ジャグラー(スケール6)

 

裕場    

LP200   

手札5   天輪鐘楼

 

 最上の最高に楽しいという表情で裕を見据え、前には伏せカードが2枚、その背後には巨大な目玉、そして自分の相棒たるクェーサー、それらが同時に裕を見下ろしている。

 裕はクェーサーを見上げ、恍惚のため息を吐く。

 後ろから見てもカッコいいその龍が今度は真正面に見える。カッコよくて綺麗で何時間見ても飽きない、それでもいつまでもこうしては居られない。

 目の前の相手は最高の相棒、それを奪い取った憎い目玉、不明の伏せカードが2枚、ライフポイントは相手の方が圧倒的に多い。そしてこちらのエクストラデッキは薄い、誰がどう考えても裕が追い詰められている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

―――最高に面白いじゃねえか!

 

 裕は心の底からで笑った。

 裕は願っていた、ただ負けて悔しいだけ、勝って次も勝ちたいな、それで終わる決闘を。

 ナンバーズ、ドン・サウザンド、それらの戦いに巻き込まれ、自分で跳びこんで行ってから心の底でずっとこうなれと祈ってきたもの、それが目の前にある。

 惜しむらくはそれを齎したのが裕を戦いの入り口に立たせる元凶という事なのだが、裕にはもうそんな事どうでもいい。

 裕は楽しさに胸を弾ませ、場を見直す。

 

―――このままじゃ俺は次のターンに敗ける。それは絶対だ。

 

 ビッグアイにはオーバーレイユニットがあり、自慢の相棒たる最強のクェーサーは2回攻撃ができる。守る事など許されない。

 だから裕はためらわず、いつものように前に出る。

 こういう最高に良いテンションの最上が無駄なカードを伏せる訳が無いと裕の勘が囁き、前に出た所で潰されると警告する。

 

―――だからどうしたってんだ、相手が強い布陣を引くなんていつもの事で、何もしなければ敗北なんて当たり前、だから迷うことなく突っ込むしかねえ。突っ込んで罠を全部踏み抜いて、俺が勝つんだ!

 

「俺は墓地よりブレイクスルー・スキルの効果発動、このカードを除外してクェーサーのカード効果を無効にする!」

 

「クェーサーの効果発動、その効果を無効にし破壊する!」

 

 最上もそのカードの存在を忘れている訳では無い、即座に裕がよく見慣れた全てを無効にする光剣がぶち込まれる。

 そして裕はエクストラデッキを見る。

 残るはフォーミュラ・シンクロン、アクセル・シンクロン、クェーサー、シューティング・スター、ドラゴエクィテス。たったそれだけだ。

 クェーサーを出そうとしてももう1体シンクロモンスターを特殊召喚しなければいけない。

 

―――伏せが怖いけど貪欲な壺か死者蘇生をを引ければ…………なんとかなる。その為に!

 

「突っ込む! 調律を発動、デッキからジャンク・シンクロンをサーチしてデッキトップを墓地に……え」

 

 墓地に送られたカード見て裕は止まる。

 まさに今、欲している貪欲な壺が送られたからだ。

 頭の中が真っ白になっていく裕だが、なんとかフリーズから立ち直り手札を見る。

 

「だったらドローに賭ける! ジャンク・シンクロンを召喚! 墓地からドッペル」

 

「ライフを2000支払ってカウンター罠、神の警告。召喚は無効だぁ!」

 

「ぅえっ!?」

 

 最上のライフが1100に減っていくのを真っ白になった頭で視認して、裕はどうするかを本気で真剣に考える。

 

―――クイックは全部使いきってるからもうどうしようもないし、召喚権を使った。死者蘇生も開闢は引いてない。つまりまだ、まだ行ける。まだ諦める訳が無い!

 

「俺は手札よりスケール7の音響戦士ギータスをペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

「へえ、ペンデュラムまであるのか、なんというごった煮…………」

 

 感心したように、呆れる様に最上は顎に手を当て裕を見る。

 裕は何とかしようと必死で頭を働かせながらできる最善を考えていく。

 

「手札のライトロード・ハンターライコウを墓地に送りギータスのペンデュラム効果発動、デッキから音響戦士マイクスを特殊召喚! 更に特殊召喚したマイクスの効果発動、このカードを特殊召喚した時、俺はもう1度だけ召喚を行うことが出来る! そしておろかな埋葬でデッキからカーボネドンを墓地に送る」

 

 墓地に送られたカーボネドンを見、最上はまた変な物がくるのか、と呟く。

 

「マイクスのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚し、墓地よりカーボネドンを除外しガード・オブ・フレイムベルをデッキから特殊召喚。俺はレベル1のレベル・スティーラーにレベル1のガード・オブ・フレイムベルをチューニング。シンクロ召喚、フォーミュラ・シンクロン!」

 

 天輪鐘楼の効果と合わせて2枚ドロー、更にアクセル・シンクロンを連続シンクロして何がなんでも死者蘇生を引き当てる、その意気込みで裕はデッキに手をかけ、

 

「のシンクロ召喚をライフを半分支払って神の宣告で無効にする」

 

 またしても裕の時が止まる。

 最上のライフが550にまでなった事などどうでもいい。裕のドローしようとする行動全てがことごとく潰されていく。

 ドローし逆転できる札を引くという可能性を削ぎ落とされていく。

 裕は更に頭が真っ白になりかけながら手札を見る。

 あと1枚キーカードがくればなんとかなるという手札だ。

 だがその1枚を得るのが遠い。

 エクストラデッキにはもうカードがほとんど無く、ドローする機会はあと1回だけだ。

 

「ま、まだだ! まだ諦めるもんか!」

 

 最上の引きが異常に凄まじいのは予想通りなのでしょうがない。大切なのは最上の伏せがもうない事であり、この行動を妨害出来ない事だ。

 裕は最上の事を性格は最低だが本当に強い決闘者だと認めている。だからこそ勝ちたいのだ。

 

―――何度もギリギリの一撃を潜り抜けて、最上に勝敗をゆだねて上手く行けなんて祈らなくて済んでるのだから、あとは自慢のデッキと最強の相棒で相手に勝つだけ、だから!

 

「だから来やがれ! 音響戦士ベーシスを召喚。俺はレベル4となっている音響戦士マイクスとレベル1の音響戦士ベーシスをチューニング、シンクロ召喚、アクセル・シンクロン!」

 

 鐘が鳴る。

 諦めず、集い前に進む者達への祝福の鐘に後押しされ裕はカードを引く。

 やけにゆっくりと進んでいく指が少しずつカードをめくっていく。

 枠の色は緑、裕は目を見開き、期待に胸を躍らせる。そしてドローしたのは、

 

―――これじゃ、ない。

 

 引いたのはミラクルシンクロフュージョン、裕が望んでいたカードではない。

 裕は目を閉じかけ、気付く。

 

「いや待て…………そうか。この手があった」

 

 裕は真っ直ぐに最上を見返し、得意げな表情で言い切る。

 

「悪いな最上、この勝負貰った! 俺は魔法カード、ミラクルシンクロフュージョンを発動! 墓地のシンクロドラゴン族モンスター、アルティマヤ・ツィオルキンと墓地の戦士族モンスター、ジャンク・シンクロンで融合召喚を行う!」

 

 裕の墓地より赤と青の光が渦巻いて融け合い、新たな力を得た竜騎士が飛翔する。

 鎧に煌めくは赤き龍の装飾、オレンジ色のラインを輝かせる鎧、砕けた龍の力を吸収し共に歩む竜騎士が裕の場に降り立つ。

 

「融合召喚、現れろ、波動竜騎士ドラゴエクィテス!」

 

「だがお前の墓地にはコピーできるシンクロドラゴンはスターダストだけ、そんなモンスターで何が出来る!」

 

「それはどうかな! ドラゴエクィテスの効果は最上の墓地のモンスターにも使えるんだよ! 俺は爆竜剣士イグニスターPを除外しイグニスターPの効果を得る!」

 

「ちっ、気付いていたか」

 

 最上の墓地より吹き上がった爆炎が竜騎士のジャベリンに吸い込まれてジャベリンの上から巨大な爆炎剣を構築していく。

 赤々と燃え盛るその剣は最上の場にある柱の1つを分解しそのエネルギーを吸収する。

 

「イグニスターの効果を得ているドラゴエクィテスの効果発動、場のペンデュラムカードを破壊し場のカードを手札に戻す! 返してもらうぜ! クェーサーを!」

 

 爆炎剣が恒星龍へと放たれ、恒星龍はそれを避けず、むしろ直撃を喜ぶように吼え、自身の体を莫大な光の粒子へ変換、一筋の光となってとなって裕へと帰っていく。

 裕はそれをキャッチしエクストラデッキに収め、代わりにもう1枚のカードを引き抜く。

 

「更に場を離れたクェーサーの効果発動、エクストラデッキから現れろシューティング・スター・ドラゴン! シューティング・スターの効果発動、デッキを5枚めくりその中のチューナーの数だけ攻撃が出来る!」

 

 裕はデッキを信じて、迷わない。恐れずに真っ直ぐ、突っ込んでいく。

 デッキに手をかけ、勢いよく引き抜く手には恐れも不安もある、だが動きは淀むことは無い。

 

「1枚目、エフェクト・ヴェーラー。2枚目、アーティファクトの神智。3枚目、アンノウン・シンクロン」

 

 ここまで3枚めくってチューナーは2枚、まだこれだけでは最上を倒すことは出来ない。それでも裕は挑戦的な笑みを浮かべ、引く。

 

「4枚目、ジェット・シンクロン。5枚目、エフェクト・ヴェーラー、合計4回攻撃だ!」

 

 赤蒼黄色、3色に分身した流星龍は今度こそとどめを刺すといわんばかりに鋭く咆哮を響かせていく。

 先陣を切るのは赤いバイク型のモンスター、タイヤより火花を散らして最上の場へと走り寄っていく。

 

「更にデッキからジャンク・シンクロンを墓地に送りアクセル・シンクロンの効果発動、レベルを3つ下げバトルだ。アクセル・シンクロンで竜魔王ベクターPを攻撃!」

 

 跳ね飛ばされた竜魔王はそのまま爆発する。

 その爆炎を挟み込むように左右より青と黄の分身体が風を切り裂いて突っ込んでいく。 

 

「バトルだ! シューティング・スターでビッグアイをぶち抜けぇええええええ! 更にシューティング・スターでライトフェニックス、ドクロバット・ジョーカーを攻撃!」

 

 流星龍の分身体がビッグアイの中心へと突っ込んでいき貫いた。

 ビッグアイは悲鳴のような音を立てながら崩れ堕ち、道化師は爆散、だが同じように分身体の突進を受けた不死鳥は砕けない。

 最上の背後の柱を吸収した不死鳥は最上を守るように翼を広げる。

 

「ライトフェニックスは私の場のペンデュラムカードを破壊する事で破壊を免れる!」

 

「だったらドラゴエクィテスでライトフェニックスを攻撃!」

 

 竜騎士の流れるようなジャベリンの連撃、それらが不死鳥を何度も撃ち、最後には刺し貫いた。

 

「シューティング・スターで直接攻撃!」

 

「墓地のボール・ライダーの効果発動、このカードを特殊召喚する!」

 

 最上は最後まであきらめず、声を張り上げる。

 墓地より姿を現したピエロによって流星龍の全力突進が受け止められ、ピエロは爆散、流星龍は最上の顔すれすれを飛び去っていく。

 髪を巻き上げられるのを手で押さえ、最上は耐え凌ぎ、顔を挙げ光を見た。

 裕の手より金と緑の光が裕のより発せられ、アクセル・シンクロンとシューティング・スター・ドラゴンが光の中を突き進んでいく。

 

「さっきは届かなかった、だけど今度は違う! 速攻魔法、リミットオーバー・ドライブ! 俺の場のレベル10シンクロモンスター、シューティング・スター・ドラゴンにレベル2、シンクロチューナー、アクセル・シンクロンをチューニング、レベルマックス!」

 

 音もさえも超越する速度を得て、限界を超えた進化の先へと流星龍は突き進み、更なる姿を得ていく。

 全てを掴めそうな巨大な手、白と銀に光り輝く胴体、4枚の巨大な翼より光を放ちながら神々しく空に浮かび、最も輝く星、恒星龍が勝鬨の声を挙げる。

 

「シューティング・クェーサーの雄姿を目に焼き付けろぉおおおッ!」

 

 轟々と吹き荒れる星の光が入り混じる暴風、体の芯まで届くような恒星龍の咆哮、狂ったように鳴り渡る鐘を見て、感じ小さく最上は声を漏らす。

 

「…………ああ」

 

 彼女は彼女の今できる全力を叩き込んでいた。

 嫌がらせに全力を傾け、手札にハンデともよべるような単体では使えないカードを握ったままだったとしても、全てが全力の全力、限界すらも絞り切った物だ。

 デッキに祈り願い、カードを引き当てるという行為は今までのリアリスト寄りの彼女が決闘者として一歩を踏み出したといっても過言ではなく、それは間違いなく成長と呼べるだろう。

 そして全力の全力を絞り切り、それでも届かないとき、人はなんともいえぬ充実感を得れるのだ。

 得て、もっと欲しいと欲して努力する、それの積み重ねこそが挫折しかけて踏みとどまる足掛かりとなり、目標を掴む力となっていく。

 最上もそれと同じように笑みを、年相応の邪気の無い笑顔を、

 

「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生、畜生ッ!」

 

 浮かべる訳が無い。

 床に体を投げ捨て、下着すらも見えるような勢いで手足をじたばたさせ、最上は悔しいという感情を隠さず、恥部と呼べるであろう物を曝け出していく。

 

「ネタをつぎ込んだからって本気だったのに、なんで勝てないかなぁもう! 嫌だ! 嫌だ、嫌だ! 裕に負けたくなんかないのにぃっ!」

 

 全力を出しきって限界を超えた充実感?

 その充実感を得たい?

 それの積み重ねが力と成る? 

 何を言っているんだ、バカじゃないのか。そう最上は言い切るだろう。

 最上は勝てないから努力しているだけで自分が楽をして勝ちたいのが根底にあって充実感などどうでもいいのだ。

 欲しいのは自分を愉しませるものであり、勝ちたい相手に勝ちたいだけ、勝てなければ何も意味が無いのだ。

 今回の決闘で最上が得たのは負けて悔しいというものだけであり、次は絶対に勝つという気持ちだけである。それ以外の物は無い。

 

「…………はぁ」

 

 ひとしきり駄々を捏ね、ようやく黙り込んだ最上へと裕は恐る恐る聞く。

 

「えっと、もう、いい?」

 

「ああ」

 

 最上は立ち上がって、スカートを叩き埃を落とし、WDC補填大会のように裕とクェーサーから目を逸らさず、カッコつけて言い切る。

 

「来い!」

 

「おう! シューティング・クェーサー・ドラゴンで最上に直接攻撃!」

 

 恒星龍の光剣が最上へとぶち込まれ、最上のライフは0となり、決闘の終了を告げるブザーが鳴った。

 

                    ●

 

 裕は勝ったとガッツポーズを取り、最上へと歩いて近づく。

 最上は負けたとため息を吐き、デッキを1番上をめくり、埋葬呪文の宝札を引き当て更に2枚をめくる。

 めくって露骨に舌打ちをし、

 

「エクゾ共め、3枚序盤に来て人の足を引っ張って最後の最期までデッキの底に居たのか、お前らは全く…………ああ、もう。ああ、もうっ!」

 

 最上は軽く髪を掻き、まだ自分の理想には程遠いことに対して苛立ちを見せるも、気持ちを切り替える様に裕へと手を伸ばす。

 手を軽く伸ばし、まるで裕の手を待っているとでもいうように半分ほど伸ばして止まったそれを裕は物珍しげに見る。

 

「なんだよ」

 

「いや、なんでもない」

 

 裕が思い出すのはWDC補填大会や他の決闘、裕から手を伸ばす事はあっても決して最上からは伸ばされた事の無い。

 それなのにここにいる最上は今、何も言われず、促されもせず裕へと手を差し出している、それを見た裕の口元が知らず知らずに緩む。

 裕も手を伸ばし、

 

「ありがとうございました。次も次も、また次もクェーサーと俺が勝つ」

 

「ありがとうございました。でも1つ間違ってる、次は絶対に、絶対にっ私が勝つ」

 

 握手し、裕は手を放そうとするも、逆に強く握りしめられる。

 

「絶対にお前なんかに負けるか!」

 

 最上の目には闘志が燃え盛っており睨むと言うよりは射殺さんとばかりに裕を凝視している。

 裕も負けじと睨み返し顔を近づけて、声を荒らげる。

 

「次やっても俺が勝つんだよ! ビッグアイだろうが時の跳躍だろうがライトニングだろうが、クェーサーと俺が全部ぶっ倒してやるよ!」

 

 にこやかな雰囲気で握手していたのが一変し、一瞬で部屋が再び戦場に代わる。

 部屋の中央でにらみ合う2人は決闘盤に広げられたままのカードを即座にデッキに装填、シャッフルされる。

 

「なんだと!? じゃあ今からもう1度やるか、このクェーサー厨の猪突猛進大馬鹿野郎!」

 

「やってやろうじゃねえか! 構えろ自己愛性格最低女!」

 

 大声で怒鳴り、だが互いに口元に笑みを浮かべ2人は示し合うことなく同時に叫ぶ。

 

「「決闘っ!」」

 

 結局、依頼人兼同行者の水田が旅行の支度を終え、最上の部屋に戻ってくるまで、いや戻ってきてからも2人の決闘は勝った負けた次は勝つを積み重ね続けて、出発予定時間を2時間ほど遅らせる羽目になったのだった。




今書きたい事は全部書いたのでこれで終わりです。 ありがとうございました

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