クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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意地と意地のぶつかり合い

「俺のターン! ドロー!」

 

 最上は裕へと期待とも不安の入り混じる瞳を向ける。

 自分の判断がどのような結果になるのかを、上手く行けばいい。そう願う最上の前、勢いよく裕はカードを引き抜き、笑みを浮かべる。

 

―――来るか?

 

「俺はデッキトップから3枚を墓地に送り魔法カード、光の援軍を発動。俺はライトロード・ハンター・ライコウを手札へと加える」

 

 墓地を確認した最上は顔をしかめる。

 スキル・プリズナー、ドッペル・ウォリアー、音響戦士ギータスという後々に面倒な事になりそうな落ち方を見、やっぱり魔法カードだったかなぁ、と自分の判断に疑問を持ち始めると、

 

「そして、魔法カード、ブラックホールを発動」

 

「あぁ、完全にミスかぁ…………」

 

 黒い重力界に飲み込まれ砕かれていく異形の天使を見、自分の判断がミスだったと理解する。

 まるで怨敵であるかのように床を一心不乱に踏み続ける最上へと裕は自慢げな表情を向け、

 

「甘いぜ、最上。このデッキはモンスターやシンクロだけが全てじゃない。ここまでの中で得てきた物、あっちの世界で手に入れた力、全てが詰まってんだ! 舐めてもらっちゃ困るぜ!」

 

 最上は重いため息を吐く。

 裕のドロー力を警戒しすぎというよりは自分が警戒しまくった挙句に定石を外れ裏目に出た事に対してアホらしさと悔しさを隠せずにいる。

 前のターン、最上が魔法カードを発動不可にさせてしまえば決着がついたはずだったのだ。結果論とはいえ勝ちが目の前に転がっていてそれを逃す事を悔やむ気持ちはしょうがないだろう。

 

「モンスターをセット、カードを伏せてターンエンドだ!」

 

 その動きだけを見れば、威勢よく啖呵を切りながらも守るしかない防戦一方だと評する者もいるだろう。

 だが裕の前で、近くで血みどろになりながらもあのバカみたいなカード性能を使ってくるドン・サウザンドの尖兵達と決闘してきた裕を知っている最上だけが理解できることがある。

 

―――まずいなぁ、流れがあっちに行きかけてる。

 

 嫌な予感がひしひしと強くなる中、それを断ち切らんと最上は自分を奮い起こすように大きく声を挙げる。

 

「ちっ、エンドフェイズ、竜呼相打つを発動、デッキより2枚を選び相手に選ばせる。竜魔王ベクターPを特殊召喚しもう1枚のカードをエクストラデッキに置く!」

 

裕場    セットモンスター

LP4000  

手札1    伏せ1

 

最上場    竜魔王ベクターP ATK1850

LP3000   

手札6   伏せ2

EMモンキーボード (スケール1)         EMギータートル(スケール6)

 

「私のターン!」

 

 最上は終わった事に対する自分への感情を蓋をして大きく深呼吸、頭を冷静にしていく。

 自分がミスった事を嫌悪する感情を抑え、潰し、まず最上が見るのは裕の手札だ。

 ドン・サウザンド達等の頭のネジが1つ2つ外れたレベルの強敵と戦ってきた裕は何度も窮地にぶち込まれた。そしてそれらから生還してこれたのは増殖するG、速攻のかかし、エフェクト・ヴェーラーといった手札から発動するモンスター効果、それらを今、裕が握っているかは最上は分からない。

 セットされたモンスターはライコウの可能性が高く、伏せは1枚、つまりは伏せを何とかして破壊しモンスター効果をアザトートによって封じれさえすれば最上の勝ちが近くなってくる。

 だからこそ、

 

「EMドクロバット・ジョーカーを召喚、召喚時効果でEMペンデュラム・マジシャンをサーチしドクロバット・ジョーカーとベクターPでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ恐牙狼ダイヤウルフ! ダイヤウルフの効果発動! オーバーレイユニットを使い伏せカードとこのカードを破壊する」

 

 まず最上が行うのは伏せカードの破壊だ。

 それと同時に最上はまだ裕の手札に増殖するGがない事を確信する。

 もしも裕が増殖するGを握って居ればレベル4が2体並んだ時点で使う筈だからだ。

 そして残る可能性は速攻のかかしなどの攻撃防止の手札誘発か、エフェクト・ヴェーラー、そしてまだ手札誘発カードを握れていないというものだ。

 オーバーレイユニットを喰らった狼が裕の伏せへと自爆特攻していく中、裕の墓地より発生した膜が伏せカードを守った。

 

「それを守るか…………」

 

「墓地から罠カード、スキル・プリズナーの効果発動、このカードを除外し伏せカードを対象にするモンスター効果を無効にする!」

 

「ならペンデュラム召喚。エクストラデッキよりEmヒグルミ、ドクロバット・ジョーカー、手札よりEMペンデュラム・マジシャン、終末の騎士!」

 

 4体同時の特殊召喚、それに対し裕が動く。

 最上は一瞬、激流葬か奈落でも来るのかと身構えるもその予想は外れる。

 

「俺はこの瞬間、裁きの天秤を発動! 俺の手札と場のカードは3枚、相手の場のカードは9枚、よってその差の6枚をドロー」

 

「6っ!?」

 

 シンクロンデッキにそれだけの手札を与えてしまえば次のターンに自分の場が壊滅するのは目に見えている。

 最上は焦り始める気持ちを押さえつけ、大きく深呼吸し盤と手札を見比べる。

 

「だったらここで殺しきる! 終末の騎士の効果でBFー精鋭のゼピュロスを墓地に、ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラム・マジシャンとヒグルミを破壊しEMシルバー・クロウとパートナーガを加え、破壊されたEmヒグルミの効果でデッキからEmトリック・クラウンを特殊召喚。そして墓地のダメージ・ジャグラーを除外しEmハットトリッカーを手札に加える」

 

 最上の場にモンスターが現れては消え、またある者は渦の中へと跳びこんで行く。そしてそれと同時に手札も減っては増えていく。

 そしてそれを裕も真剣な眼差しで見守る中、最上も勝つ、という感情を隠さず裕に見せ付けながらエクストラデッキからカードを抜く。

 

「Emハットトリッカーを特殊召喚、そして終末の騎士、Emトリック・クラウン、Emハットトリッカーでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚」

 

 渦の中より現れたエクシーズモンスターは先ほど猛威を振るった星守の騎士だ。

 その姿を目にし、裕が一瞬焦り表情を見せたのを最上は見逃さない。

 

「星守の騎士プトレマイオス! プトレマイオスの効果発動、オーバーレイユニットを使いランクアップする! 今再び現れよ!」

 

―――通れ! 私が勝つんだ。絶対に、絶対に、絶対に私が勝つんだ。だから負けろ!

 

 最上の胸中の叫びと共にエクストラデッキより抜き放たれる黒のカード、その最上の動きを止めようと裕も負けじと声を張り上げる。

 

「エフェクト・ヴェーラーだ!」

 

「甘い! 押し通る! 速攻魔法、エフェクト・シャットを発動! 効果モンスターの効果を無効にして破壊する!」

 

 それを最上は決闘盤へと叩き付け、声を張り上げる。

 

「外神アザトートぉおおっ!」

 

 最上の負けたくないと言う叫びに呼応するように大きく口を開き、咆哮を轟かせていくアザトート。

 

「なっ!?」

 

 アザトートの咆哮が裕の手札を侵食していく。

 裕の表情には露骨に焦った表情が浮かび、最上は行けるかもしれないと心の中で喝采する。

 

「更に墓地に送られたトリック・クラウンを墓地より特殊召喚、更に1000ポイントのダメージを受け、サウザンド・ブレードを特殊召喚し、バトルだっ! サウザンド・ブレードでセットモンスターを攻撃!」

 

―――これで私の勝ちだ!

 

 千本の刀を背負った武士がセットモンスターへと飛び掛かっていく。

 ライコウの効果は発動出来ない。

 裕が手札の速攻のかかし等の効果は発動できない。

 最上はこの状況を見、勝ったと手を握り、ガキンという金属の撃ち合う音を聞いた。

 

「なん……だと?」

 

 音の発生源を最上は見て目を見開いた。

 鉄くずで出来た小鬼が武士の放った剣戟をその体で受け止めていたからだ。

 

「助かったぁ…………スクラップ・ゴブリンは戦闘では破壊されない」

 

「くっ、ううっ、ライコウだと思ったのは私の早合点かぁ…………ああ、もうイライラするなぁ」

 

 最上は猛烈に地団太を踏み、追撃しようかと思い手を伸ばすも、その手を引っ込める。

 アザトートの効果で相手はモンスター効果を発動できない。つまりスクラップ・ゴブリンの持つ表側守備表示の際に攻撃対象にされた時、バトルフェイズ終了時に自壊するという効果まで発動でできないのだ。

 自分の最善だと思った策がここまで裏目に出ている状況に最上はうっとおしげに裕を睨み付け、乱れた髪を手櫛で整え、気分を変え、やれる事をする。

 

「メイン2、トリック・クラウンとサウザンド・ブレードでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、フレシアの蟲惑魔。そして伏せていたジェネレーション・フォースを発動、私の場にエクシーズモンスターがいるときデッキからエクシーズと名の付いたカードを手札に加える」

 

 最上は不機嫌さを隠さず、だがその行動だけは感情と切り離されたかのように冷静に滑らかな動きで次のターンに備え、今できる事をしていく。

 

「私は加えたばかりのエクシーズ・トレジャーを発動、場には3枚のモンスター・エクシーズ、よって3枚ドロー、更にマジカル・ペンデュラム・ボックスを発動」

 

 更に2枚、カードを引き抜き裕へと見せる。

 

「ドローしたのは超電磁タートルとEmヒグルミ、超電磁タートルはペンデュラムカードではないので墓地に送り、カードを3枚伏せて、私の手札は7枚あるので手札調整のために手札のEmヒグルミを墓地に送りターンエンドだ」

 

最上場    フレシアの蟲惑魔 DEF2500 (ORU2)

LP2000   恐牙狼ダイヤウルフ ATK2000 (ORU1)

手札6    外神アザトート ATK2400 (ORU1)

       EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

       伏せ4

EMモンキーボード (スケール1)        EMギータートル(スケール6)

 

裕場   スクラップ・ゴブリン DEF500

LP4000  

手札6

 

 最上がターンエンドと宣言した瞬間、裕は安堵の息を漏らし笑みを浮かべ、そして縁に向けて拳を突き出した。

 

「耐えて耐えて耐えて、耐えきったぞぉオオオオオ! よっし! 行くぜ、最上!」

 

 決闘は決闘者の性格や本質を色濃く表すものだ。

 最上の決闘は単純明快、ひたすら自分が相手に馬乗りになり、マウントポジションから殴り続け、自分の有利を愉しむ決闘だ。

 容赦なく上より振り下ろされる拳の連打は普通の決闘者ならば敗北するであろう、だからこそそれを潜り抜け、逆転のチャンスが巡ってきたことが心の底から嬉しい、そう裕は天に拳を突き上げ喜びを表現する。

 

「俺のターン、ドロー! 調律を発動、デッキよりジャンク・シンクロンをサーチしデッキトップを墓地に送る。更にライトロードハンター・ライコウを墓地に送りツインツイスターを発動! 最上の伏せカード2枚を破壊する!」

 

「ちぃ、速攻魔法、揺れる眼差しを発動。ペンデュラムゾーンのカードを全てを破壊し破壊した数に応じて効果を発動する。破壊したペンデュラムカードは2枚よって相手に500ポイントダメージとペンデュラムカードをサーチする。更に罠カード、ペンデュラム・リボーンを発動、エクストラデッキよりペンデュラム・マジシャンを特殊召喚」

 

 勢いに乗り始めた裕に負けじと最上もツインツイスターの対象となった2枚を発動させ対峙する。

 だが裕は最上のその行動に小さな疑問を抱くも無視する。まだ最上の行動は終わらないからだ。

 

「そしてEMドクロバット・ジョーカーを対象にペンデュラム・マジシャンの効果発動、ペンデュラム・マジシャンの効果でEMドクロバット・ジョーカーを破壊しEMギータートルを手札に加える!」

 

 裕の瞬間火力を警戒し最上は攻撃表示のドクロバット・ジョーカーを破壊し、デッキから新たなカードをサーチ、そして1体分の壁を作り出すことに成功する。

 それだけでも大きなアドバンテージなのだが、動き始めた裕の勢いは留まる事を知らない。

 

「レベル・スティーラーを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚! 更にクイックのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚する」

 

 早打ちの如く、裕の場に現れる2体、そして最上は舌打ちするも動きは無い。

 

「レベル1のレベル・スティーラーにレベル4のクイック・シンクロンをチューニングシンクロ召喚! レベル5、ジェット・ウォリアー! ジェット・ウォリアーのシンクロ召喚時効果発動! フレシアをバウンスする!」

 

「フレシアの効果発動、オーバーレイユニットとデッキから狡猾な落とし穴を墓地に送りジェット・ウォリアーとスクラップ・ゴブリンを破壊だ! 更に墓地に送られたトリック・クラウンを特殊召喚し1000ポイントのダメージを受ける、んくぅ!」

 

 ジェット・ウォリアーが宙を跳び、巨大な花の上で寝そべる少女へと蹴りを叩き込むのと同時、少女の寝そべっている花がもぞりと蠢き少女ごとジェット・ウォリアーを肉厚の花弁で包み込み、捕食する。

 更に花は地面より根を伸ばし、こっそりと距離を空けようとしているゴブリンの足元に落とし穴を構築しゴブリンを捕食する。

 

「だけどこれで邪魔なカードは消えた! ジャンク・シンクロンを召喚! 墓地よりエフェクト・ヴェーラーを特殊召喚、更に墓地よりモンスターが特殊召喚されたので手札よりドッペル・ウォリアーを特殊召喚する!」

 

 最上の決闘がマウントポジションから殴り続け、自分の有利を愉しむ決闘ならば裕の決闘は耐えて、耐えて、耐えてチャンスを見つけると全力で飛びかかって全てを押し流す決闘だ。

 さながらに土石流や噴火を思わせるような豪快なワンショットキルこそ、裕の決闘と言える。

 そしてその瞬間火力を支えるジャンクドッペルという一番通しては行けないコンボが炸裂するも最上の妨害は飛んでこない。

 だからこそ裕は勢いのままに爆走する。

 

「レベル2のドッペル・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング、レベル5、TGハイパー・ライブラリアン! 更にシンクロ素材となったドッペル・ウォリアーの効果発動、ドッペル・トークンを2体、特殊召喚する! 更にレベル1のドッペル・トークンにレベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング、現れろフォーミュラ・シンクロン!」

 

 連打するシンクロ、轟々と巻き上がる加速の風が室内を揺らし、裕は笑みを深くしていく。

 対照的に最上は表情を悪くするも伏せてあるカードを開こうとはしない。

 

「魔法カード、化石調査を発動、デッキより恐竜族のカーボネドンをサーチ、そしてレベル1のドッペル・トークンにレベル2のフォーミュラをチューニング、現れろ、霞鳥クラウソラス! クラウソラスの効果発動、アザトートの効果を無効にして攻撃力を0にする!」」

 

 全力のワンショットキル、その下準備が連打され、先程より最上は敗北の可能性を何とか防ごうと守りに入り始めている。

 だがそんな最上の行動を嘲笑う様に、裕が魔法カードを発動させる。 

 

「きた! 永続魔法、天輪鐘楼を発動!」

 

「ここでくるかっ!」

 

 シンクロ召喚を行うだけで1ドローという恩恵を与える祝福の鐘楼、裕の場にそれが配置され最上の表情は一層厳しい物となる。

 

「調律を発動、デッキよりクイック・シンクロンをサーチしデッキトップを墓地に送る、おっ、墓地に送られた絶対王バック・ジャックの効果発動、自分のデッキの上からカードを3枚確認し、好きな順番でデッキの上に戻す」

 

 裕はデッキトップをめくり、おお、と呟き笑みを深くする。

 

「これで良し! 更にカーボネドンを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚、クイックのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚し、レベル3の霞鳥クラウソラスとレベル1のレベル・スティーラーにレベル4となっているクイック・シンクロンをチューニング! 現れろ、ロード・ウォリアー」

 

 風を巻き起こしながら黄金の戦士が戦場へと颯爽と登場し、室内に鐘楼が鳴る。

 集い、力を成していく者に対する祝福の音が響き、加速は更に止まらない、止まる兆しを見せない。

 

「ロードの効果発動、デッキからジェット・シンクロンを特殊召喚、ロードのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚しレベル1のレベル・スティーラーにレベル1のジェット・シンクロンをチューニング、もう1体、フォーミュラ・シンクロンだ! 更に墓地のジェット・シンクロンの効果発動、手札のラッシュ・ウォリアーを墓地に送り墓地よりジェット・シンクロンを特殊召喚」

 

「またか!?」

 

 フォーミュラ・シンクロンがエクストラデッキに戻った事で裕が何をするか予想できてしまう最上はたまらないという表情で叫ぶ。

 

「ロードのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚し、更にラッシュ・ウォリアーの効果発動、このカードを墓地より除外しフォーミュラ・シンクロンをエクストラデッキに戻す。そしてもう1度、レベル・スティーラーにジェット・シンクロンとチューニング、フォーミュラ・シンクロン! 更にロードのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚する」

 

 爆裂する風、祝福の音、そして姿を現したばかりのフォーミュラ・シンクロンが黄金色の輪に変わっていく。

 場のシンクロモンスターのレベルの合計は12、最上が想像するのはあのモンスターしかいない。

 

「来るか!」

 

 吹き上げる風と鐘の音の中、風に踊らされ蛇の尾の様に揺れ動く自分の髪を押さえ、最上は笑みを浮かべていた。

 好敵手とようやく巡り合ったような笑みに交じる、諦めの笑み。それは場数を踏んだ決闘者が至るもの。あ、こりゃもう止めれないな、さてこの後どうしようかなぁ、という諦めとも悟りにも似た境地からくるものだ。

 手札と伏せてあるカードを確認する最上を見ず、裕は満面の笑みで天へと拳を突き上げる。

 

「行くぜ! レベル4となっているTGハイパー・ライブラリアンとレベル6となっているロード・ウォリアーにレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベルマックス!」

 

 轟風をぶちまけながら黄金の輪が、星が空へと昇っていく。

 最大レベルを示す12の星と輪が集結し、強く、鋭く、何もかもを照らし出すような恒星を作り出す。

 

「シンクロ召喚! 数多の星と輪が集い踊る天よりここに来やがれ、最も輝く龍の星! 俺の相棒、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 最上は空よりこちらを見おろす恒星龍を見上げず、裕の手札を見る。

 手札7枚からのスタートでライブラリアンと天輪鐘楼という凄まじいドローソースのおかげで未だに裕の手札は9枚もある。

 つまり、まだ展開は終わらない。

 

「だが」

 

 最上はそれを指摘しようとし、裕がその言葉を遮る。

 安心しろ、とでもいうような笑みを浮かべ、

 

「ああ、まだこれじゃ最上のライフを削り切れない。レベル・スティーラーを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚、そして墓地のカーボネドンの効果発動、このカードを除外し手札、またはデッキからドラゴン族通常モンスターを特殊召喚する。デッキより現れろヤマドラン」

 

「ヤマ? は?」

 

 突然出てきた通常モンスターに最上は言葉を失う。

 裕の事だから恐らくはシンクロ素材とするのだろうが、見慣れないカードに一瞬、何か隠された変なカード効果でもあるんじゃないかとテキストを見てしまう。

 ヤマドランのレベルは5でありクイック・シンクロンとの相性は悪い。

 

「となると、エクシーズ?」

 

「いいや、このカードは俺の場の同じレベル5以上のチューナーモンスター、そして非チューナーモンスターを墓地に送る事で特殊召喚できる。現れろ!」

 

 ヤマドランとクイック・シンクロンが星と輪となり天へと昇っていく。

 それはまるでシンクロ召喚のようでありながら少し違う。

 輪が黒色に染まり始めたのだ。

 黒の輪は星を飲み込み、対消滅し黒い霞となっていく。

 最上はこれに似た物を見た事がある。

 レベルとレベルの対消滅、それを引き起こし現れるのはダークチューニングによって特殊召喚されるダークシンクロモンスターと呼ばれるモンスター達だ。

 

「だが5引く5でレベルが0だ、そんなモンスターがいるわけが!?」

 

「居るんだよ、俺があっちの世界で手に入れたコイツがな! 全ての調律の原点たる始祖龍よ、調和する星と輪を食らいて虚無の中より神降せよ!」

 

 黒い霞の内部より血よりも、溶岩よりも鮮やかな赤色が黒の中を踊り、頭を覗かせる。

 それは黙示録に記されし赤き竜や翼の生えた蛇を連想させる姿、巨大な赤い蛇に四肢と翼を生やした竜、裕は最上へと見せ付けるように名を叫んだ。

 

「来やがれ! アルティマヤ・ツィオルキン!」

 

 前世で赤い竜と同じようなドラゴンを最上は目にしたことが在る。

 ZEXALよりも1つ前の遊戯王アニメで登場した赤き竜と呼ばれる存在、最上はタクシーと呼んでいたそれがカード化され、今、クェーサーと並んで最上を見おろしている。

 思わず息を呑んだ最上へとツィオルキンの咆哮が飛ぶ。

 鋭い咆哮は時空に緑色の裂け目を作り出し、その中より星屑が噴き出していく。

 

「俺はカードをセット、そして魔法罠カードをセットしたこの瞬間、ツィオルキンの効果発動、エクストラデッキよりレベル7または8以上のシンクロドラゴン族モンスターを特殊召喚する現れろ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 場に並んだレベル2のシンクロチューナー、そしてレベル8のシンクロモンスター、スターダスト・ドラゴン、それらから最上が脳裏に描くのは裕のエクストラデッキに入っているであろうあのカードだ。

 

「おいおい、これって!?」

 

「ああ! 俺はレベル8のシンクロモンスター、スターダスト・ドラゴンにレベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!」

 

 スターダストの雄叫びが雷鳴の様に轟きフォーミュラ・シンクロンが2つの光り輝く輪に分解される。

 その輪にスターダストは飛翔しより強く、より速く空を飛ぶために巨大で力強い体と翼、流線型に前に突き出た顔へ、その身に宿る仲間を守るための力は更に強力なものへと進化していく。

 

「シンクロ召喚、レベル10、シューティング・スター・ドラゴン! 俺はここでシューティング・スターの効果発動、デッキトップから5枚のカードをめくり、その中のチューナーの数だけ攻撃が出来る!」

 

 裕が1枚ずつカードをドロー、最上へと見せ付けていく。

 

「1枚目、チューナーモンスター、エフェクト・ヴェーラー。2枚目、チューナーモンスター、ガード・オブ・フレイムベル。3枚目、チューナーモンスター、ジャンク・シンクロン」

 

 捲られていくうちに最上の顔に焦りが浮かぶ。

 最上は何も祈らず、真っ直ぐに視線を離さず、瞬きもせずに裕の4枚目をドローする動きを見つめるだけだ。

 互いの呼吸音が部屋に響く中、裕がドローするのは、

 

「4枚目、音響戦士マイクス。5枚目、チューナーモンスター、ジェット・シンクロン! 合計4回攻撃だ! さあ行くぜ、最上! バトルだ! クェーサーでダイヤウルフを攻撃!」

 

 攻撃力4000のクェーサーが掌より2本の光剣を作り出し、攻撃力3300のシューティング・スターが3体の赤、青、黄に輝く分身体を生成する、これら合計6回の攻撃がライフポイント1000の最上へと迫る。

 最上も負けじと墓地よりカードを手に取る。

 

「負けない、私はお前に負けるもんか! 墓地より超電磁タートルの効果発動、このカードを墓地より除外しバトルフェイズを終了させる!」

 

「クェーサーの効果発動、無効にする! そしてクェーサーでダイヤウルフを攻撃!」

 

 恒星龍より放たれた光剣が墓地より作られた超電磁場を両断し、ダイヤウルフへとぶち込まれる。

 ここが大会の場ならば歓声が上がるであろう状況、普通ならばここで見るべきは攻撃が通るかどうかなのだが、裕はダイヤウルフへと叩き込まれる光剣の行く末を見ず最上を見つめていた。まだ最上が伏せが2枚残しているからだ。

 あの最上がこのように簡単に終わる訳が無い、そう裕は確信しており彼女の動きを注視していると、最上が動いた。

 

「手札よりダメージ・ジャグラーの効果発動、このカードを捨て受ける戦闘ダメージを1度だけ無効にする」

 

 真っ二つに切り捨てられたダイヤウルフの体が爆発し、最上へと爆風が襲うもダイヤウルフと最上の間に現れたピエロによって阻まれ最上は傷つかない。

 裕も最上も互いに絶対に負けないという意思を目に燃やし、相手の事を見つめ声を張り上げる。

 

「クェーサーでアザトートを攻撃!」

 

「罠カード、ガードロー、アザトートを守備表示にし1枚ドローだぁ!」

 

 2本目の光剣によって両断、爆発したアザトートの上を流星龍の分身体達が音を超え飛翔する。

 敵を視界に捉えた分身体達は四肢を折りたたみ突進形態となり、敵へと突進する。

 

「シューティング・スターでペンデュラム・マジシャン、トリック・クラウンを攻撃!」

 

 まず2体の分身体が最上を守る様に立ちはだかっている2体のピエロ達へと突撃し砕く。

 そして残る2体が最上へと襲い掛かる。

 

「シューティング・スターで直接攻撃!」

 

「速攻魔法、竜呼相打つを発動、ラスターPとベクターPの2枚選ばせる!特殊召喚するのはラスターPだ!」

 

 1体の突進は開かれた速攻魔法より現れた竜剣士によって阻まれる。だが、本体が光をも越えた速度で最上へと迫る。

 

「だがシューティング・スターの攻撃は残っている、シューティングスターで直接攻撃! いけっ!」

 

 これで終われ、そう言わんばかりに牙を見せ叫ぶ裕、それを叶えようと真っ直ぐに突進する流星龍。

 だがそれで最上は終わらない。

 そんな事で最上が終わらない。

 

「私が負けるもんかっ! 墓地よりEmボール・ライダーの効果発動、特殊召喚されたモンスターが直接攻撃をするとき、墓地のこのカードを特殊召喚する!」

 

 墓地より現れた新たなピエロによって流星龍の突進はギリギリのところで阻まれた。

 最上はギリギリ生き残れたと安堵の息を吐き、裕は口惜しさを全身で表すも、どうする事も出来ず、

 

「仕留めきれなかったか! 俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

裕場   シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

LP3500  アルティマヤ・ツィオルキオン DEF0

手札5  シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

      レベル・スティーラー DEF0

      天輪鐘楼

      伏せ4

 

最上場    

LP1000   

手札8   

 

「私のターン、ドロー」

 

 1ターン前までは確実に、誰がどう見ても最上が押していた筈だ。

 だがたった一瞬、相手にチャンスを与えただけで最上の有利は崩され同等か不利な状況になっている。

 そこへダメ出しをするように裕がカードを開く。

 

「この瞬間、俺は罠カード、アーティファクトの神智を発動、デッキよりアーティファクトモンスター、アーティファクト・デスサイズを特殊召喚する。特殊召喚されたデスサイズの効果発動、これでお前はこのターン、エクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない!」

 

 黒い鎌が裕のデッキより射出され場に金属音を響かせ突き刺さり、黒い波動をまき散らす。

 最上は安堵の表情から一転、唇を噛む。

 

「っ、ここでデスサイズ!?」

 

 最上のエクストラデッキには大量のカードが在る。

 5枚のエクシーズモンスター、そして膨大な量のペンデュラムモンスター達、それらを使えばなんとかなる、立て直しは聞く、そう最上は考えていた。

 だがデスサイズの効果により最上の戦略は音を立てて崩れ去る。

 そしてその最上の表情を見、裕は大きくガッツポーズをとった。

 

「よし、これでどうだ!」

 

 最上が置かれているのは厳しい状況である。

 最上の手札は8枚、だがその内の3枚は初手からきて展開の邪魔をし続けるエクゾディアパーツだ。

 ここで最上はどうするかを自問自答する。

 今何をするかだ。

 最上がまず最初に思うのは手札のカード達をペンデュラム召喚し守りを固める事だ。

 このターンさえ凌げればデスサイズの効果は切れエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できるようになる、それさえできれば勝てる、と。

 

―――どうせ裕のデッキはシンクロンデッキ、1部を除いて並べる事に特化した低ステータスのモンスターばっかりだ。このターンさえ凌げれば…………。

 

 そう考え、自分を納得させる言葉を出し、守る方向で行こうと決め、最上は手を伸ばし、そして横から延びた手によって止められた、ような気がした。

 横を見れば使ったまま放り出しっぱなしの手鏡が見える。

 

―――ほんとうにそれでいいのか。

 

 その中には追い詰められ困った表情をする最上が居た。

 眉をハの字にし、困った表情の最上が居た。

 その眼はまるでこれでいいのか、そう問いかけるように見える。

 その瞳の中、WDC補填大会での負けた最上が、アポクリファとの決闘で泣く様にしながら過去の負けを認めた最上が、ドン・サウザンドとの決戦の場で雑魚狩りばっかりをしていた最上が、ドン・サウザンドによって瞬殺され強くなりたいと誓った最上が今の最上を見て、眼で問う。

 

―――これでいいのか。これがあの日、あの公園で自分が探して、待ち望んだ決闘なのか? 決闘者的には正しいだろう、負けないために守備に徹する事も必要だ。だがたった1回追い詰められて守るようなものが最上愛の最強だと思う決闘なのか?

 

「……う」

 

 俯き、最上は歯を食いしばる。

 どれだけ立派な理由を自分が思い付こうとも、どれだけ他人から見て納得できる理由が自分の中からひねり出せたとしても、どれだけ自分に甘く優しい言葉を言った所で自分が納得できなければ何も意味は無い。

 最上は最上が思いついた結論に納得しきっていない。

 最上()が他人を殴り続ける事は楽しく素晴らしい。だが他人如きが最上()に負けろと言いながら殴りかかってきて、最上()が不利になったから防御して機会を待つなどという事を最上()は納得できない。最上()らしさの欠片も無い。

 

―――これが1年間したくも無い事をし続けた上の最高のデッキで、これが努力の成果で、今できる最高の決闘なのだと裕に対して胸を張って笑顔で言い切れるのか? 私がこの決闘を素晴らしかったなどと言い切れるか? 

 

 勝てるかもしれない、あのカードを引けば逆転できる、そう最上は理解してはいる。だがそれが出来るのか分からない。

 だから負けないために一番確実な行動しようとし、納得できずにいた。

 したくもなかった努力をしてきたのは何のためか、そう最上()が問う。

 振り返れば後ろには他人から比べれば短く細いが、それでも努力の道がある、ここまで来る際の思い出がある。

 その道を見、蓋を仕切れず、溢れ出した本音を最上は吐き出していく。

 

「違う」

 

―――何のために努力をしてきた? したくもない努力を積み上げたのは何のためだ? 正攻法で勝てる訳が無い敵(黒原)に、絶対に勝てる訳が無いインチキチート(ドン・サウザンド)に、絶対に勝ちたいクェーサー厨()に何がなんでも、どんな事をしてでも勝ちたかったからじゃないのか?

 

「ああ、そうだ。私が裕に対して守りに入る? そんな私を私は私と認めるもんか! 私の決闘はそんなものじゃない。私が楽しく、楽に、他人を叩き潰す。私がお前に一歩だって引くもんかァッ!」

 

 これは最上愛の目指す最強の姿ではない。

 負けたくないではなく、勝ちたい。その為ならば僅かな可能性だろうとも、何に祈り願おうとも手に入れる。

 それこそが最上愛の目指す最強なのだと、最上の本音の叫びが室内に木霊する。

 その全力の声に少しだけ表情を緩ませていた裕ははっとしたように表情を変え、両頬を叩き気合を入れ直す。

 

「私は魔法カード、アメイジング・ペンデュラムを発動、このカードは私の場にペンデュラムカードが無いとき、エクストラデッキからペンデュラムカードを2枚手札に加える。私が加えるのはEMペンデュラム・マジシャンとEMドクロバット・ジョーカーだ」

 

 あっという間に最上の手札が増えていく。

 それを裕は妨害しない、クェーサーとシューティング・スターをエクストラデッキ無しで攻略するためには選ぶ方法など限られている

 決定的なそれだけを止めればいい、そう裕は考える。

 

「スケール6のEMギータートルを配置し、更にスケール1のモンキーボードでペンデュラムスケールをセッティング、ギータートルの効果でドローしモンキーボードの効果でEMリザードローを手札に加え、ハーピィの羽根帚を発動! 相手の場の全ての魔法罠カードを破壊する!」

 

「シューティング・スターの効果発動、1ターンに1度、破壊する効果を無効にし破壊する!」

 

「私はドクロバット・ジョーカーを召喚。召喚時効果でデッキからEMオッドアイズ・ライト・フェニックスを加え、ペンデュラム召喚、手札より現れろEMシルバークロウ、EMオッドアイズ・ライトフェニックス、EMペンデュラム・マジシャン。ペンデュラムマジシャンの特殊召喚時、効果発動。ギータートルとモンキーボードを破壊したい。さあどうする?」

 

 最上は手札を見せびらかしながら問う。

 裕は混乱しつつ最上の考えいる事を読み取ろうとする。

 だが最上は挑戦的な瞳で裕を見るばかりで何も語らない。

 裕は悩んで、悩んで、

 

「………………通す」

 

 見守る事にする。

 それを聞いた最上は少しだけ表情を緩めた。それを見た裕が己の判断を間違えた事に気付くももう遅い。

 

「だったら私はEMオッドアイズ・ユニコーンとEMギータートルを手札に加え、そしてスケール3のパートナーガとスケール6のリザードローでペンデュラムスケールをセッティング」

 

 破壊された柱の跡地再び柱が展開される。

 裕は発動されたペンデュラムカード達の効果を読み、墓地にあるカードを見て、声を挙げる。

 

「そうか、お前の狙いはそれか!」

 

「気づいたか、もう遅い、お前のする行動は決定した! シルバークロウを対象にパートナーガの効果発動、場のEMモンスターの数×300ポイント攻撃力をアップさせる」

 

 これが最上のクェーサーとシューティング・スターを同時に突破するための一手だ。

 まずパートナーガの効果で攻撃力1800のシルバークロウの攻撃力を場のEMカード×300、つまり1800ポイントアップさせ、そして墓地にいるゼピュロスの効果でパートナーガをバウンスしもう1度発動し、今度は攻撃力2000のオッドアイズ・ライトフェニックスの攻撃力を1800ポイントアップさせ3800とする。

 そしてシルバークロウは攻撃宣言時に場のEMモンスターの攻撃力をバトルフェイズ終了まで300ポイントアップさせる、それらを組み合わせる事によりシューティング・スターとクェーサーの布陣を突破することが出来る、だからこそ、

 

「クェーサーの効果で無効にする!」

 

 裕は破壊する。破壊する事で勝ちにいく。

 その実直さが裕の良い所であり同時に欠点でもある。

 

「ああ、そうだよなぁ、私はスケール6のEMギータートルをセッティング、そしてリザードローのペンデュラム効果発動、私の2枚のEMペンデュラムカードを破壊し1枚ドローする」

 

 最上はデッキに手をかける。

 最上の手に力は宿らない、書き換える事も、デッキを信じてドローする事も無い。祈る対象は自分と自分が信じるに値すると認めた物だけ、それ以外に祈るなど不純であり、祈り願った所で所詮は山札の1番上からカードをドローする事に変わりなく、祈る価値など無い、そう考えていた。

 だが、今回は違う。

 最上は初めて、眼を閉じ、大好きな自分自身だけではなく心の底からデッキにも祈った。

 裕はかつてWDC補填大会で最上に勝ったのは自分一人だけの力ではなくデッキ達の助けがあったからだ、そう言った。

 今回もそうなのだとしたら最上一人がいくら頑張ったところで裕達に負けてしまう、だからこそ最上は祈る。

 

―――都合の良い事は分かっている。だけど私はこんな所で負けたくない。私は裕に勝ちたいんだ、私に本気で勝とうとしている裕に勝ちたい、勝ちを確信しかけている裕の表情を叩きつぶすために。デッキよ、私に力を寄越せっ!

 

「ドロー!」

 

 最上の何もかもをかなぐり捨てて勝ちを渇望する感情と祈りを乗せたドローは静かに、恐れを持っていた幻影を切り捨てるが如く抜き放つ。

 最上は目を開き、カードを見、

 

「そうか」

 

 俯き、小さく呟き、命令を下す。

 

「シルバークロウ2体で守備表示のアーティファクト・デスサイズとレベル・スティーラーに攻撃」

 

 2頭の灰色の狼がデスサイズとスティーラーへと飛び掛かり、喰いちぎる。

 そして、と呟き最上は顔を挙げた。

 爛々と渇望に輝くその瞳はまるでドン・サウザンドのように力が宿っており、恥も外聞も何もかもを捨てて全力の笑みを浮かべる。

 その最上の笑みを裕は1度だけ目にしたことがある。

 正攻法では絶対に勝てない黒原を奇策で倒した際に見せた表情にそっくりであり裕は言葉を失い息を呑む。

 

「始めようか。異次元からの埋葬を発動、除外されているダメージ・ジャグラー2枚と超電磁タートルを墓地に戻し」

 

 そこで言葉を切り、最上は先ほどドローしたカードを発動させる。

 

「そして魔法カード、リ・エクシーズ発動。私の墓地のモンスターを使い墓地のモンスターエクシーズをエクシーズ召喚する。旧神ヌトス、Emトリック・クラウン2体」

 

 告げられるモンスター数は3、裕はまず思いつくのはショック・ルーラーなどのカード、だが、次の瞬間、裕はあまりの衝撃に言葉を失った。

 

「Emダメージ・ジャグラー3体、EMドクロバット・ジョーカー2体、EMペンデュラム・マジシャン2体、H-Cサウザンド・ブレード、Emハットトリッカー2体、シャドール・ドラゴン、竜剣士マスターP、デーモン・イーター、竜魔王ベクターP、BFー精鋭のゼピュロス、終末の騎士、Emヒグルミ、超電磁タートル」

 

 少女の口から漏れる言葉は止まらない。

 まるで死を告げる呪文のように、墓地にあるレベル4のモンスター全てを言い、誰もが見惚れるような笑みで言い放った。

 

「合計21体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築、エクシーズ召喚ッ!」

 

 裕が今までの決闘の中で最も巨大な銀河が墓地より展開し、そこに眠りしモンスター達が全て吸い込まれていく。

 星が舞い踊り、再構築されていくのは1体の騎士の姿、白銀の甲冑は恒星龍よりも強く光を放ち、手に持つ杖より絶対的な力が溢れ出す。その騎士の名は、

 

「この場を持って私が命じる。誰もが忘れ去った秘めたる力を開放し、時をも操れ星守りの騎士よ、そして私に勝利を齎せ! 現れろ、全力全開、完全体星守の騎士(テラナイト)プトレマイオス!」

 

 力強く煌めく星の残滓を残しながら立つ騎士の力強い姿に裕はようやく理解した。

 これこそが最上が狙っていたもの。

 補充も、後半の事も考えずにペンデュラムモンスターを使い潰しエクシーズモンスターを連射し続けたのも全てがこのためにある。

 全てはこの膨大なオーバーレイユニットを貯め込んだプトレマイオスのために用意された前座であり、ここからが本当の、今の最上の全力全開だと。

 

「さあ、ここから先はずっと私のターンだ! 私の1年間の努力とその他諸々を全てをぶちかまして私がお前に勝つ!」


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