クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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黎明

 宙に浮かぶのは上半身は金の鎧を纏う巨大な人型と機械的な真っ直ぐに伸びる下半身、その組み合わせはまるで十字架の様にこれ以上に無いぐらいに完成された形だ。

 遊馬達が固唾を飲んで見守る中、究極時戒神はゆっくりとした動きで頭を垂れ、神に願い祈るかのように両手を合わせる。

 願うは新世界の創世か、戻りたかった過去に立ち返ろうとするのか。悲哀か、希望か、その内で輝く感情は裕達には分からない。

 だがその祈りは届く。

 合わさった両手の平、その内側より3つの球が飛びだし急速に大きくなっていく。

 

「究極時械神セフィロンの効果発動、1ターンに1度、墓地、手札より可能な限り時械神を攻撃力4000にして特殊召喚する!」

 

 自らの願いを阻み、倒そうとする敵に抗いの力を放つために究極時械神は仲間を強化し呼び起こす。

 

「だったら手札よりエフェクト・ヴェーラーの効果発動、この効果で」

 

「罠カード、スキル・プリズナー発動、セフィロンを対象としたモンスター効果を無効にする!」

 

「くっ、やっぱり、そのカードか!」

 

 予想はしていたとはいえ防がれた事に遊馬は危機感が加速する。

 残る手札、伏せカードではあの展開を妨害する事は出来ず、

 

「現れよ、時械神メタイオン、ハイロン、ガブリオン」

 

 3つの光の中、現れるのは3体の時械神達。

 その身に纏う光は究極時械神により強化され、更に増幅された力は究極時械神へと還元され、更に究極時械神より時械神達へと送られるという終わりの無い永久機関となっている。

 

「そして究極時械神セフィロンの攻撃力はフィールドの時戒神の攻撃力の合計となる」

 

 裕や遊馬からすれば攻撃力16000の究極時械神を見た所で驚きはしない。

 攻撃力10万が敵になり、さっきから攻撃力が5万、4万がリペント達へと叩き込まれているためにその程度の数字で感情は揺れ動かない。

 だが呼び出された3体の時械神の効果はそのままに攻撃力が4000になっている事を考えれば冷静ではいられない。

 

「バトルじゃ、押し流せ、時械神ガブリオン!」

 

 先ず動くは蒼き時戒神、両手があわされ手と手の間より金に輝く粒子の入り混じった清純なる水が鉄砲水のごとく放たれる。

 狙うは攻撃力の一番少ないホープレイ・ヴィクトリー、時戒神とヴィクトリーの射線上に漂う岩盤は飲み込まれヴィクトリーへと放たれる水撃の威力を増加させる。

 

「俺は永続罠、アリバリアの効果を」

 

「速攻魔法、サイクロン。アリバリアを破壊する」

 

 ヴィクトリーへの攻撃が通ってしまえばライフが925の遊馬達は敗北が確定、戦闘ダメージを逃れてもバトル終了時、ガブリオンの効果で遊馬達の場のカードは全てデッキへと流されてしまう。

 攻撃を通してはいけない、その一心で罠カードの効果を使うモンスター、プラネタリーの最後の手札より疾風が放たれアリバリアを両断する。

 

「なっ、だったら墓地よりタスケルトンのモンスター効果を発動! このカードを除外し攻撃を無効にする!」

 

 墓地より黒い豚型のモンスターが飛び出て激流の前に身を躍らせ、思いっきり息を吸い込むと体を膨らませる。

 水撃はタスケルトンの体にぶち当たり塞き止められ、遊馬達の右側に浮かぶ大地群を洗い流していく。

 

「行くぞ、時械神ハイロンで希望皇ホープレイ・ヴィクトリーを攻撃」

 

 全てを洗い流す水撃の後、続くは黒と茶の時戒神によって作られた煌めく鉱石による質量攻撃だ。

 ばら撒かれる鉱石の群れ、それらは水撃とは別の射線より立ちふさがる全てを食み砕きヴィクトリーへと直進する。

 ヴィクトリーは両手を前に突き出し鉱石を受け止めようとするが手数が圧倒的に足りない。

 鉱石群に飲まれる。

 当然、圧倒的な速度と物量、質量の群れはヴィクトリーを超え、背後の遊馬達へと襲い掛かる。

 

「速攻魔法、ヒート&ヒール! 俺の場のもっともランクの低いモンスターエクシーズの攻撃力分、俺のライフを回復しこのカードをそのモンスターエクシーズのオーバーレイユニットにする!」

 

 遊馬の前、伏せていたカードが開かれる。

 その効果で遊馬達はライフを3725まで回復させるも、ヴィクトリーの攻撃力が変化したわけではなく、

 

「だが戦闘ダメージを受けてもらう」

 

「うわぁあああ!」

 

 鉱石の群れは遊馬達を襲う。

 さらに戦闘が成立したために追撃が来る。

 時戒神の手、その中に黒い水晶で出来た鉱槍が作られ、それをつかんだ時戒神は槍投げのように投擲する。

 

「更に時械神ハイロンの効果発動、私達と君達のライフの差額分、ダメージを与える!」

 

 遊馬たちのライフは2525、プラネタリーのライフは27600、つまりは即死級のバーンエネルギーを秘めた鉱槍が目の前に広がる大地群を塵に変え、宙を飛ぶ。

 

「25075のダメージじゃ!」

 

「永続罠、エクシーズ・チャージ・アップを発動! 効果ダメージを無効にする!」

 

 斜めに展開されたカードが鉱槍を受け、滑らせ、凌ぐ。

 鉱槍は遊馬達の左側を風をまき散らしながらすっ飛んで行き、大地群を撥ね飛ばし、遊馬達の逃げ場をなくしていく。

 

「時械神メタイオンで希望皇ホープレイ・ヴィクトリーを攻撃!」

 

 赤い時戒神、その掌よりあふれ出した炎はヴィクトリーを、その横に立っているバリアン、光子竜皇、クライスを飲み込み遊馬達を焼く。

 左右の足場がなくなり攻撃を逃げることのできない遊馬達は腕で顔を覆い耐えるしかない。

 

「この瞬間、メタイオンの効果が確定した。バトルフェイズ終了時、相手の場のモンスター全てを手札へと戻し、戻した数×300のダメージを与える」

 

 遊馬達を焼いた炎は遊馬達を逃がさないように全方位に散らばり、襲い掛かる時を待つ。

 これによって遊馬達の場が壊滅する事が確定する。

 だが、

 

「じゃがそれではライフが残る、究極時械神セフィロンで冀望皇バリアンを攻撃!」

 

 3体の時戒神の攻撃により遊馬達が逃げる場所はない。

 十字架のように究極時戒神の手は広げられ、その中央より白光がある。

 その光には壊滅させる力が宿り、触れたもの全てを破砕し光に変える力を持ち、

 

「放て」

 

 それが来る。

 天、大地、世界、全ては白光によって切り裂かれ、分解され軍神をを飲み込まんとする。

 だが狙われた冀望皇バリアンに宿るはヌメロン・ドラゴン、敵対するものを無力化させる力を得ている。

 軍神は100の刻印が刻まれる盾を翳す。

 白光と盾が音と光をまき散らし接触、軍神は僅かに後ろへと押されるも受け止め、押し返し始める。

 負けじと白光は盾へと歯を立て、

 

「No.100ヌメロン・ドラゴンの効果を得ている冀望皇バリアンのモンスター効果!、このカードと戦闘を行うモンスターの攻撃力は0になる!」

 

 光を押し返すように盾からも黄金の光があふれ出し白光を迎撃する。

 黄金と白の光は共に身を喰らい合いながら周囲へと破砕をばらまいていく。

 と、遊馬達がの正面、ある変化がある。

 白が黄金を飲み込んでいくのだ。

 遊馬が息をのみ、裕はどうして、と呟く。

 

「究極時械神セフィロンとバトルするモンスターの効果は無効になる、よってヌメロン・ドラゴンの効果は失われ、冀望皇バリアンの持つオーバーレイユニット数×1000ポイント、攻撃力が上がる効果も失われる、よって冀望皇バリアンの攻撃力は300じゃな」

 

 白の光が黄金を飲み込み、その背後、遊馬達を飲み込んだ。

 光は一度、爆発するように広がり、昼間のように明るくなる。

 

「終わったのか?」

 

「いや」

 

 プラネタリーの言葉をリペントは否定する。

 光が収まらないのだ。

 リペントは見た。

 白光、その内側より蒼の光があるのを。蒼光は白光を吸収し、世界を包み込むような光の翼を広げる。

 

「助かったぜ、カイト! 俺は手札よりオネストのモンスター効果を使った! これで冀望皇バリアンの攻撃力は究極時械神セフィロンを上回った!」

 

 その光の翼を広げるのは光子竜皇だ。

 冀望皇は半壊した盾を投げ捨て、究極時戒神へと走る。

 防御の光盾が展開されるも光子竜皇の口より閃撃がそれを破砕、右肩から斜めに光が斬撃する。

 究極時戒神より悲鳴はない。だがバランスを崩している。

 斜めに切り裂かれた傷、そこへと軍神は全力で駆ける。

 

「いっけえぇ! エタニティ・フォトン・チャリオット・スラッシュ!」

 

 黄金に輝く槍を携え、勢いをつけ宙を蹴り、槍を上段に掲げ、左肩へとぶち込んだ。

 渾身の斬撃は究極時戒神を打撃、その破壊力に金の装甲に罅が走っていく。

 

「やったぜ! これで次のターンに裕が決めればっ!?」

 

 遊馬は喜びの声を挙げかけ、動きが止まる。

 罅は走り続ける。装甲を超え、背後にある空にまで罅が走り、甲高い破砕音を立て、割れ、その日々の中より腕が伸びる。

 

「究極時械神セフィロンの更なる効果、フィールドの時械神を除外する事でこのカードの破壊とあらゆるダメージを無効にする」

 

 冀望皇バリアンと光子竜皇が砕いたのは時戒神ガブリオンが作り上げた鏡像だ。

 本物の究極時戒神には届いてはいなかったのだ。

 無傷で姿を現した究極時戒神、それを守るように2枚の鏡盾が展開される。

 それらを打ち砕かないとリペント達にダメージを与えることはできない。

 そしてまだ墓地には時戒神たちが眠っている。裕が守りの一手を講じたところで次のリペントのターンにはシャドール達による融合も来る。耐えきれるものではない。

 

「そしてバトルフェイズ終了時、時械神メタイオンの効果が作動する。君たちの場のモンスター全てを出来へと戻し戻した数×300、つまりは1200ポイントのダメージじゃ」

 

「うわぁああああ!」

 

 遊馬達を逃がさないようにと取り囲んでいた火の檻が狭まり遊馬達のモンスターを焼く。

 紅蓮の焔は平等に全てを舐め尽くし、遊馬達も熱波を浴びせかける。

 

「私はこれでターンエンドじゃ」

 

リペント・プラネタリー場 究極時械神セフィロン ATK12000

LP27600         時械神ハイロン ATK4000

手札2・1         時械神メタイオン ATK4000

             暗遷士カンゴルゴーム ATK2450 (ORU2)

             連撃の帝王

             伏せ1

             機殻の要塞

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン (スケール4) PSブラック・サン(スケール12)

 

遊馬・裕場   

LP150    伏せ1

手札0・5   エクシーズ・チャージ・アップ

 

 裕は遊馬の肩に手を置き前に出る。

 

「は」

 

 薄く吐き出すように笑い、目の前にそびえたつ究極時戒神を見据える。

 相手はあの究極時戒神、効果はそのままである。

 それを前に心が躍らないといえば嘘になる。

 圧倒的なライフ10万で敵の攻撃を一切防御せずに受け、ペンデュラムからのシンクロ、融合、エクシーズを連打、さらには時戒神で圧殺する。ライフ10万という戦術はドン・サウザンドを吸収した際に生まれた戦術だとしても、それだけの戦術を操るリペント達は間違いなく最強クラスの敵だ

 

―――あの効果のまんまの究極時戒神が敵、面白くないなんて嘘は言えねえ。だけど世界の命運だの、そういうもんを背負ってなきゃもっと面白いんだけどなぁ。

 

 この場所に立ちながらも裕が考えるのはこの決闘が終わった後、全てが終わり自分が無事に帰ってこれたならばという未来だ。

 全てがあって何もかもが可能性に満ち、未熟な世界。

 バリアン人だろうがアストラル人だろうが人種、種族、強いも弱いも悪も善もすべてがともにある世界、そこに裕が立てたならばどういうことをしたいかと考えを巡らせ、デッキトップへと手を置く。

 

「俺のターン、ドローッ!」

 

 カードを見る。

 そして動く。

 

「墓地よりブレイクスルー・スキルの効果発動、このカードを除外しセフィロンの効果を無効にする!」

 

 白い腕が空間を割りカンゴルゴームへと迫る。

 だがそれに被せるようにリペントが声を挙げる。

 

「カンゴルゴームの効果発動、場のカードを対象とする効果が発動したとき、オーバーレイユニットを使いその対象を自分・相手フィールド上の正しい対象となる別のカードに移し替える! 私はブレイクスルー・スキルの効果対象を時戒神メタイオンへとを移す! ターゲット・リライティング!」

 

 堺の切り札、アーティファクト・デュランダルを彷彿させるカード効果への干渉、それが炸裂する。

 カンゴルゴームへと延びる白い腕はカンゴルゴームの腕によって弾かれ、時戒神メタイオンへと着弾する。

 

「俺の場にモンスターが存在せず、相手の場にのみモンスターがいる場合、墓地よりライトハンド・シャークを特殊召喚する! そしてラッシュ・ウォリアーを墓地に送りワン・フォー・ワンを発動、デッキよりアンノウン・シンクロンを特殊召喚。ラッシュ・ウォリアーを墓地より除外し墓地よりアクセル・シンクロンを回収する!」

 

 墓地より排出された白枠を手に取り裕は手札へと手をかける。

 

「永続魔法、天輪鐘楼を発動! そしてレベル4のライトハンド・シャークにレベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング!」

 

 天に上るは1つの輪、4つの星、裕は手にしたカードをそのまま決闘盤へと叩き付ける。

 空より降りてくるは赤いバイク、閃光のように駆け抜けるそれ裕の前に止まり人型に変形する。

 

「シンクロ召喚、レベル5、アクセル・シンクロン!」

 

 アクセル・シンクロンが巻き起こす風に誘われるようにシンクロ召喚を祝福する鐘が鳴る。

 それは更なる加速と可能性を手繰り寄せる祝福だ。

 

「レベル・スティーラーを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚 そして戦士の生還を発動。墓地よりジェット・ウォリアーを手札へと戻し、クイックのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚。更に永続魔法、天輪鐘楼を発動!」

 

 巻き上がる暴風に身お躍らせ、この世界、全てへと鐘の音がさらに強く、2重に連打してく。

 

「レベル1のレベル・スティーラーにレベル4となっているクイック・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚、ジェット・ウォリアー! ジェットの効果発動、究極時械神セフィロンを戻してもらう!」

 

「墓地よりスキル・プリズナーの効果発動、このカードを墓地より除外し究極時戒神を対象とするモンスター効果は無効だ!」

 

 竜巻のように吹き荒れる風、それに踊らされ鐘の音がさらに強く響いていく。

 それに抗うようにリペントの楽しげな叫びが木霊する。

 

「手札の速攻のかかしを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚、アクセル・シンクロンとジェットのレベルを下げてレベル・スティーラーを2体特殊召喚する」

 

 これでデッキに眠るクイックはない。

 それだけではない。もうすでに裕のエクストラデッキにあるのは5枚のカードだけなのだ。

 

―――これが本当の全力全開、受けてみろよリペント。俺たちの全力を!

 

「レベル1のレベル・スティーラー2体にレベル5のクイック・シンクロンをチューニング。シンクロ召喚、レベル7、ジャンク・アーチャー!」

 

 エクストラデッキ、残りあと4枚。

 天により星と輪によって構成された弓兵は空より落ちながらにして矢をつがえ時戒神へと狙いを定め、

 

「ジャンク・アーチャーの効果発動、時械神ハイロンを除外する!」

 

 放つ。

 

「カンゴル・ゴームの効果発動、オーバーレイユニットを使い効果対象を究極時械神セフィロンへと変更する。そしてセフィロンを対象としたモンスター効果は無効になる!」

 

 カンゴルゴームの発する引力に吸い寄せられ、矢はセフィロンへと飛び、セフィロンを守る盾に着弾し打ち消される。

 その光景を目にしても、裕の瞳に惜しいという感情は浮かばない。

 胸が躍りながら、滑らかに相棒を呼び出しにかかる。

 

「アクセル・シンクロンの効果発動、デッキよりジャンク・シンクロンを墓地に送りレベルを3つ下げる!」

 

 アクセル・シンクロンより暴風が放たれ2重の鐘を鳴らしていく。

 暴風に踊らされるように、裕は手を広げ、思うは過去、ここまで来るのに積み重ねた何か、ここまでの戦いで得た感情だ。

 水田裕は一人では何もできない。

 WDC補填大会ではデッキとクェーサーの力を借りなければ、本物の水田裕との戦いではもう一人の自分のデッキにまで力を貸してもらい、ドン・サウザンドの力を抑えるために膨大な数のNo.に力を貸してもらい、裕はここに立っている。

 だからこそ裕は力を貸してくれる全てへと感謝し、感情を声に乗せ、裕は叩き付ける。

 

「レベル4となっているシンクロモンスター、ジェット・ウォリアー、レベル7のシンクロモンスター、ジャンク・アーチャーにレベル1となっているシンクロチューナー、アクセル・シンクロンをチューニング、レベルマックスッ!」

 

 金の輪は空へと飛翔する。

 11の星がそれを追い、爆光と暴風が赤黒の世界を切り裂くように轟いていく。

 爆風に鐘は踊り狂ったように祝福の音を連打していく

 

「今と過去、積み上げてきた全てをこの場に星となり集え! ここに来るまでに託された願いを乗せて未来を切り開け、最も輝く龍の星!」

 

 金の輪の中、作り上げられるは白銀に輝く龍の体だ。

 その体より漏れる輝きは未来を照らし出し、その巨大な翼はどんな障害をも越えていくだけの力が宿り、その巨大な手は立ちふさがる強敵を捻じ伏せ未来を切り開く力に満ちた恒星龍。

 輪より解き放たれた恒星龍はゆっくりと空より下り究極時戒神と向き合い、咆哮する。

 

「来やがれ、俺の相棒、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 世界を切り開き、未来を照らす光を放ち続ける究極時戒神とシューティング・クェーサー・ドラゴン。

 だがそれらが進む先は過去と未来、対極だ。

 ともに別の世界を夢見、そしてぶつかり合う時を待つ。

 裕は天輪鐘楼の効果により静かにカードを引き、見る。

 

「そうくるか…………シンクロン・エクスプローラーを召喚、そして墓地よりフォーミュラ・シンクロンを特殊召喚。さらにレベル2のシンクロン・エクスプローラーをリリースし墓地よりジェット・ウォリアーを特殊召喚し、ジェット・ウォリアーのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚」

 

 自分の相棒である恒星龍を抜き放ち、裕の動きはまだ止まらない。

 ようやく召喚権を使い、場にそろえるはレベル4のモンスターが1体。

 

「そして墓地より暗黒竜を除外し輝白竜を特殊召喚する」

 

「来るか、もう1人の君の相棒が」

 

 2人の顔を持つ少年の戦いを眺めていたリペントは知っている、今よりこの場に現れようとしている龍の存在を。

 2体のモンスターの前、発生するは渦、その中に飛び込んだ2体のモンスターは分解され重なり合い新しい体を構築していく。

 

「レベル4となっているジェット・ウォリアーと輝白竜ワイバースターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 黒、黒、黒、ひたすらに闇が放出され星輝く渦を黒に塗りつぶし、その内より諦めさせようとする力へと抗いの力を振るう龍の咆哮が響く。

 絶対に折れず諦めない鋼の決意。立ちはだかる敵より力を簒奪し殲滅する力の担い手がその闇の中で牙を閃かせ黒渦の中より飛び立つ。

 空に見せつけるように広げるは翼、黒と紫のツートンカラーの体は光を鈍く反射し、鞭のようにしなる尾を振り鬨の声を上げる。

 

「全てを砕けよ黒の覇道、過去に立ち戻らせようとする連中の思惑を砕き、こちら側へと引きずり戻せ! 黒星に輝く龍よ、来やがれ! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」

 

 並び立つはエクシーズの名を冠する反逆龍、シンクロモンスターの頂点たる恒星龍、白と黒の龍だ。

 

「更にダークリベリオンの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使いカンゴルゴームの攻撃力の半分を簒奪する」

 

 反逆龍は翼についた装甲を展開、紫電をばらまきながらカンゴルゴームを肉薄し、口を大きく開け、喰らう。

 カンゴルゴームは巨大なダイヤで出来た手で振り払おうとするも、その巨大なダイヤに反逆龍は牙を立て、喰い千切った。

 

「そして墓地より光属性のエフェクト・ヴェーラーと闇属性のジャンク・シンクロンを除外しカオス・ソルジャー ―開闢の使者―を特殊召喚する! 開闢の効果発動、時械神ハイロンを除外する!」

 

 白と黒、2党の龍の間より次元を裂き姿を現した騎士は剣を上段に掲げ、両手で握る。

 そして雄たけびを挙げながら究極時戒神へと切りかかる。

 斬撃は究極時戒神を守る盾を切り捨て、その破片を別の次元へと送り込む。

 

「永続罠、エクシーズ・チャージ・アップの効果発動、このカードを墓地に送り、このカードが無効にした効果ダメージの数値を俺の場のエクシーズモンスターに加える。フルパワーチャージ!」

 

「攻撃力28800かっ!」

 

 遊馬が託してくれた永続罠よりさらにエネルギーを吸収し反逆龍は更に力を増す。

 展開された装甲からは黒と紫のエネルギー光翼が展開し、前に突き出された牙にもエネルギーが集まり巨大な光牙を構築した。

 

「バトルだ! ダーク・リベリオンで究極時械神セフィロンを攻撃! リベリオン・パニッシャー!」

 

 命令を受け反逆龍は大地を蹴り空へと飛ぶ。

 巨大なエネルギー光翼をはばたかせ加速をつけ、究極時戒神へと迫る。

 その行動にリペントは目を開く。

 

―――あの残った1枚の手札で何か仕掛けるわけではなく、攻撃をしてくるだと!?

 

 究極時戒神は光を作り出し砲撃をばら撒いて迎撃する。

 反逆龍に直撃するも、バランスは崩れない。まっすぐに究極時戒神へと突っ込んでいく。

 

―――ここで究極時戒神を破壊されるという手もある。だが、

 

 だが気がかりなのは遊馬が伏せていて使わなかったカード、あれが裕が攻撃に踏み切った理由なのだとすれば、

 

「セフィロンの効果発動、フィールドの時械神を除外し破壊を免れ、戦闘ダメージを無効にする!」

 

 火花を散らし反逆龍は鏡の盾に激突、エネルギー光翼の一部を失いながらも最後の盾を貫き、究極時戒神の一部を削り取る。

 

「クェーサー、ごめん」

 

 裕は相棒へと誤り、恒星龍はそれを許すように優しく声をあげ、白い翼を広げる。

 向かう先は盾のなくなった究極時戒神だ。

 

「バトルだ! シューティング・クェーサー・ドラゴンで究極時械神セフィロンを攻撃!」

 

 声、そしてまず始まるは白銀の閃撃と黄金の砲撃だ。

 遠距離よりばらまかれ、砕かれ光達は空を彩っていき、徐々に互いに距離を詰めていく。

 一歩も引かないと横にずれず、速度を落とさず究極時戒神と恒星龍はまっすぐに、一直線に飛び、衝突する。

 重い衝撃は空を揺らし、この場にいる者達の体を撫で、後ろへと通り過ぎる。

 恒星龍と究極時戒神は巨大な拳で何度も殴り合い、打撃音とくぐもった声を天に響かせる。

 その様子を裕は唇をかみしめ見つめ、一瞬も目を離さない。

 

「ごめんな」

 

 ボロボロになった2体は最後の力を振り絞り、互いに手で空いての体をつかみ、至近距離より砲撃を放つ。

 2体のモンスターは共に超新星の如く直視すれば目を焼くような光を放ちながら爆散し、裕はわずかに浮かんだ涙をぬぐい14枚目のカードをエクストラより抜く。

 

「シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果発動! このカードが場を離れたとき、エクストラデッキよりシューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 2体の爆炎のうち、砕けた恒星の輝きが1頭の龍を形作る。

 集いし星の輝きは流星龍を生み出し、主を勝利へと導いていく。

 

「だが今更攻撃力3300のシューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚したところで私のライフは削り取れない!」

 

「いいや、託してくれた仲間のカードがお前のライフを穿つ! 行くぜ、遊馬!」

 

「おう、俺は伏せていた罠カード、かっとビング・チャレンジを発動!」

 

 遊馬が伏せていたカード、そのカードより風が発生する。

 1度はチャレンジし立ち止まった者の背中を押す風は反逆龍の背中を押し、体に力を与え、不明瞭な未来を切り開き、逆境を切り開く力を与える。

 遊馬のカットビング魂を形どるように作り上げられた力に受け取り反逆龍は再び咆哮する。

 

「このカードは自分バトルフェイズに、このターン攻撃を行ったモンスターエクシーズ1体を対象として発動できる! このバトルフェイズ中、そのモンスターはもう1度だけ攻撃できる!」

 

「全てを穿て、ダーク・リベリオン! 暗遷士カンゴルゴームを攻撃! セカンド・リベリオン・パニッシャー!」

 

 究極時戒神との戦闘で効果が一度無効にされているために反逆龍の攻撃力は27575まで下がっている。

 だが反逆龍によって力を簒奪されたカンゴルゴームの攻撃力は1225であり、

 

「くぅううううっ!」

 

 そのエネルギー光牙によってカンゴルゴームの体は穿たれ体の破片を空へとばら撒きながら爆散する。

 爆風はリペント達を飲み込み、そのライフを1200にまで削り取った。

 

「これでどうだ! シューティング・スターで直接攻撃!」

 

 爆風を切り裂き、流星龍が空を飛ぶ。

 宙に一筋のラインを描きながら音すらも置き去りにし飛翔するその姿はまさに流星、速度と質量による突進がリペントへとぶち当たらんとし、

 

「まだだぁ! 永続罠、影依の原核! この守備表示で特殊召喚する!」

 

 砕かれたカンゴルゴームの頭部に影が集まり黒紫の靄で作られた龍頭が流星龍の突進を受け止める。

 

「なんだと!?」

 

 アストラルと遊馬は揃って声をあげ、裕は俯く。

 リペントは冷や汗をかきながらも状況を見る。

 

―――もうすでに攻撃できるモンスターはいない。次のターン、私がエルシャドール・ネフィリムとペンデュラム召喚を使えば、

 

「これで私達の勝利だ。私の夢に沈めぇッ!」

 

 リペント達の横を悔しげな声をあげながら流星龍が駆け抜けていく。

 疾風はリペントの頬をたたきながらもその体に傷はつかない。

 裕で攻撃可能なモンスターは居ない。

 誰もが終わったと思う中、声が響く。

 

「いいや、俺達は夢に沈まない。夢ってのは目指すもんだろ、浸って沈むもんじゃねえ!」

 

 皆が見た。

 声を上げた少年、その手にあるカードより終わったはずの風が再び発生するのを。

 黄金の輝きを放つそのカードを裕は決闘盤へと叩き付け、口元に笑みを浮かべながら顔を上げ、叫ぶ。

 

「これが俺達の勝利への最後の1枚!」

 

 発動するは緑、書かれるは稲妻のマーク。

 そのカードより放たれる風は場にいるフォーミュラ・シンクロンとシューティング・スター・ドラゴンへと集まっていく。

 

「速攻魔法、リミットオーバー・ドライブ! レベル10、シンクロモンスター、シューティング・スター・ドラゴンにレベル2、シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング! レベルマックスッ!」

 

 フォーミュラ・シンクロンはほどけ黄金の輪となり流星龍を先導するように展開する。

 周囲を駆け抜ける流星龍の速度は更に、更に増し、音を超え、光をも越え、限界を超越し目でとらえきれないほどの速度で龍は駆ける。

 シンクロモンスターとシンクロチューナーをエクストラデッキに戻すことでエクストラデッキよりその戻し戻したレベルと同じシンクロモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚するその速攻魔法より放たれるは裕の15枚目。

 流星龍は更なる速度を得て恒星龍へと昇華する。

 

「エクストラデッキ15体目、これが今できる俺達の全力、もう1度、来やがれ! 俺の相棒、最も輝く龍の星! シューティング・クェーサー・ドラゴンッ!」

 

 再び天に咲くは光爆の華。轟くは勝利を決める勝鬨の声だ。

 リペント達の手札はある。だがそれらの手札はすでに確定していて書き換えなければ攻撃を防げない。

 リペント達の墓地には大量のカードがある。だがそれらの中に攻撃を防ぐカードはない。

 リペント達の場にカードはある。だがすでに伏せカードはなく、表側になっているカード達に恒星龍の攻撃を防ぐ手立てはない。

 リペントはため息を吐き、長かった苦悶の世界の終焉を悟る。 

 そして同時に新世界でどれだけの苦労があるのかを想い、だが、笑う。

 

「そうか、私の夢が君達の夢に負けたのか…………さあ、来るがいい!」

 

 手を広げ、新天地へと向かうように、リペントは言い放つ。

 それに答えるように、裕も声をあげる。

 

「クェーサーで直接攻撃だ!」

 

 恒星龍の手の平、光剣が作り出され振り上げ、振り下ろされる。

 その光にリペント達を飲み込まれていく。

 

リペント・プラネタリーLP1200→0

勝者 遊馬・裕

                     ●

 

 解れバラバラになっていく自分の体を見てリペントはため息をついた。

 バリアン世界の神、ドン・サウザンドが消滅した今でも、バリアン世界のルールは変わっていないのだ。

 リペントは遊馬達はどこかと目をやれば、遊馬達がホープを具現化してこちら側へと向かってきているのが見える。

 リペントは決闘盤の墓地にあったNo.99希望皇龍を取り出す。

 長い間ずっと一緒にいたカード、次元の狭間にて見付け力を供給してくれたカードを撫でて、この場に降り立った遊馬達へと差し出す。

 

「さあ、全て持っていくがいい。そして君達がどう世界を変えるのか見せてくれ」

 

 負けた悔しさはある。

 だが彼らがどのような世界を作るのか興味があり、自分がそこでどのようなことをするのかと思いを馳せれば、僅かに口元が緩むのを自覚する

 

「……分かった」

 

 遊馬が差し出したNo.をアストラルは受け取り、空へと両手を広げる。

 100枚のNo.は天に広がり数多の星を内包する銀河のように輝きを増し、光は全世界、全時空へと差し込んでいく。

 見渡す限りの白光の世界、その中に浮かぶのは赤と青に分かれた破片だ。

 そしてそれを守るように金に輝く竜がとぐろをまきこちらを見ている。

 No.100ヌメロン・ドラゴンだ

 遊馬が一歩近づいてもヌメロン・ドラゴンは警戒の声を挙げないそれどころかこちらへと寄れというように尾で背中を押してくる。

 

「使っていいんだな」

 

 遊馬とアストラルは手を伸ばしヌメロン・コードへと触れる。

 その使い方は触れた指先を通じてヌメロン・コードが教えてくれた。

 新しき形を願い、望めと。

 だから最終確認を兼ねて遊馬は裕へと振り返り、

 

「消滅した魂が元の体に戻れればそれでいい、だっけ? それだけでいいのか?」

 

「ああ、それでいいよ」

 

 軽く笑いながら言う裕、その青はいつも通りの表情である。

 

「分かった。それじゃあ、行こうぜ」

 

 遊馬は手を差し出した。

 宙に浮かぶヌメロン・コードではなく、ヌメロン・ドラゴンへと。

 怪訝そうに首を傾げる龍を見て、

 

「カイト達から聞いた。お前がこの世界を作ってくれたんだろ」

 

 ヌメロン・ドラゴンは自分以外に誰も存在しない孤独より涙を流し、その涙が地球を作った。

 そして自らの持つ書き換えの力を100枚のNo.に振り分け自らを月に封じた。

 ならば、ならばこそ遊馬は考える。

 自分とアストラルを合わせてくれたのはヌメロン・ドラゴンのおかげでもあると。

 そして同時にこうも考えるのだ。

 

―――俺達はリペントに約束した。ヌメロン・コードを使って今まで喪われていった人々を蘇らせる、そして新しい世界で皆で笑って、夢見て未来を掴むって、だったら。

 

「ヌメロン・ドラゴン。お前が作った世界がどんだけ広く多くの人々に溢れているのかのか、俺達が切り開いていく未来を一緒に見ようぜ」

 

 ヌメロン・ドラゴンはしばらく止まり、遊馬の手を見る。

 それには自分が解き放たれ、そしてまたドン・サウザンドのような悪意ある者たちに捕まる事を恐れる怯えがある。

 だから遊馬は手を伸ばす。

 

「大丈夫って言いきれねえかもしれねえ、だけどそんときは俺達が絶対に助け出す。だから俺達とかっとビングしようぜ」

 

 遊馬は大きくジャンプしヌメロン・ドラゴンの手を取る。

 その上でまっすぐに目を見ていうのだ。

 

「新しい未来に!」

 

 その言葉にヌメロン・ドラゴンは目を細め、大きく、甲高い声を白い空間へと挙げる。

 ヌメロン・ドラゴンの声を切っ掛けにしヌメロン・コードの放つ光は強くなっていく。

 その光をまっすぐに見つめ、遊馬はアストラルへと手を伸ばし、

 

「行くぜ、アストラル!」

 

「ああ、私達が共に手を取り作り出す未来に!」

 

 遊馬とアストラルはともに手を取り願う。

 それを聞き届け、空に、天に、世界にと届き響き渡るような0と1の書き換えの光が世界へと流れていく。

 それを見届け、リペントは満足げに目を閉じ、光に身をゆだね、裕は遊馬を見てデッキを撫でて、

 

「じゃあな、また会おうな」

 

 呟き、光の中に消えた。

 

                   ●

 

 こうして全ての戦いは終わり、ヌメロン・ドラゴンはヌメロン・コードの起動キーの1部を持ちどこかの世界へと飛び立っていき、バリアン世界とアストラル世界は1つの世界になった。

 こうしてヌメロン・コードを起動させる者が居なくなり、未来は誰の手にも書き換えられなくなった。

 遊馬が白い空間でヌメロン・コードに願ったのは歴史の改変、そしてリペント達の前で言い放った事だ。

 その願いによってドン・サウザンドによってバリアン世界と人間世界をつなぐ材料にされた人々はドン・サウザンドの敗北とともにドン・サウザンドの体より解き放たれその魂の持ち主である体に戻っていく、という未来に書き換えられた。

 未来は白紙であり、そして問題は山よりも高くそびえ立っている。

 力のほぼ全てを失ったドン・サウザンドや4悪人、黒原が姿を消したりと後々に問題となるであろう行動があり、突然、異次元の向こう側より現れたアストラル世界とバリアン世界とどのように付き合うか、これも世界中の国々が頭を抱える事になる。

 中には排除するべきではないかという動きもあったが、トロンや九十九数馬、堺達の力添えの末にアストラル世界、バリアン世界、人間世界はともに手を取り発展していくというような内容の和平が結ばれた。

 未来は白紙であり、問題は山積みであり、それでも世界は共にあり手と手を取り合って前に進もうとしている。2人の少年がともに手を取り切り開き、希望を持ち、夢を抱いた未来へと。

 

                   ●

 

 1人の平凡な風体の少年が見つめる先、少年と半透明な少年が向き合っている。

 見覚えがあるがあまり思い入れのない少年達、九十九遊馬とアストラルだ。

 

「へへ、アストラル、勝ち逃げなんてさせねえからな!」

 

「それはどうかな」

 

 楽しげに笑いながら2人は決闘盤を構える。

 周りにはあの戦いに関係した多くの決闘者が取り囲み2人の別れの儀式のような決闘を見ている。

 あのドン・サウザンドが引き起こした世界を重ね合わせる事件より1か月が経とうとしていた。

 その中でアストラルがアストラル世界に帰ると言い出し、遊馬がどうせならみんなで見送るんだと言い出しあの戦いに参加した決闘者に連絡を取ったのだ。

 この場所に来ていないのは歴史が書き換えられた後、七皇の中で発生したベクターの非道への罰と言う名目でライフ24000対4000、6対1というどこからどう見てもリンチと言えるような決闘を先攻自爆スイッチという荒業で切り抜け逃亡したベクターぐらいだろう。

 水田裕は遊馬からの連絡を受け取るも、遊馬達の事をよく知らず、行った所で見知った人はあまりいないだろうと思い、一度は断ろうかともしたが、あのバカが来るかもしれないという淡い期待からこの場所に足を進めたのだが、

 

「来ないか…………」

 

「何が来ないだって?」

 

 背後からの声に驚いて水田裕は後ずさり、思わず身構えてしまう。

 いつも通りに自分の上に人はいないかとでもいうように堂々と、自己愛満々に最上愛が立っている。

 少女の服装は私の日焼けした肌も最高だ! と言わんばかりの半袖、ジーパンという動きやすさを重視したボーイッシュな服装であるが首元など細かな所には可愛らしいアクセサリーがあり、その少女の中身を知らなければ可愛いという感じてしまう。

 だが水田裕は最上愛が苦手だ、敵だと言ってもいい。

 熱田をぶん殴って生徒会室に呼び出されて停学を言い渡された時から、いや、一目見た時から水田裕は苦手意識を持っていた。

 その最上愛が微妙に親しげに声をかけてくるのが水田裕を不機嫌が加速する。

 

「何でもない」

 

 横を向いた水田裕、その胸中を理解している最上は追い打ちをかける。

 

「探したって来ないって、リペントらが探しても見つかんねーんだろ。じゃあ、私達の力じゃ無理だ」

 

 世界が書き換えられたあの場所、あの瞬間、水田裕は衝撃とともに意識を取り戻した。

 裕があの場所で願ったのは消滅した魂が元の体に戻れればそれでいい、というものだ。それは正しく聞き届けられた。

 その結果、水田裕はここにいる。

 それは裕がこの世界に来て乗っ取った体の持ち主、裕の願いをかなえるために力を使い果し消滅した水田裕へと返却されたからだ。

 そして入れ違いにはじき出してしまった裕の存在は見つかっていない。

 自分が一番、気にしている事をニヤニヤと笑いながら踏んでくる最上へと水田裕は睨み付けていると周りにいた皆から声が上がる。

 声を無視して水田裕は最上へと詰め寄り、

 

「お前はあんだけの事があっても全く変わらねえな」

 

 水田裕が知る最上愛は目の前の最上愛と同じだ。

 自己愛満載、他人など気にも留めず自分の我欲のままに生きる。それが最上愛だ。

 あれだけの戦いを経ても最上は己を愛する事を止めない。成長などまるで見られない。そう声に出せば、

 

「そうだよ、私は変わらないさ、変わらない理由があるからな。だけど成長はしている」

 

 最上は意味ありげな笑みを浮かべ、こちらを見返す。

 自己愛のみがある筈の瞳に映る他人の顔、水田裕ではなく、自分と同じ顔の別人を見ているのだと理解し、水田裕は目を逸らす。

 最上の視線から逃げた先、先ほどから耳が割れんばかりの歓声が挙がる場所を見れば、アストラルと遊馬の場、2体のホープがいる。

 

「これがもう1つの希望(ホープ)の進化系、このカードはホープをエクシーズとしてエクシーズ召喚できる! シャイニング・エクシーズ・チェンジ! 現れろ、SNo.39希望皇ホープONE!」

 

 アストラルの場に現れたのは見た事も無いホープの姿、それに皆が大きく歓声を挙げる。

 遊馬とアストラルの場にNo.39が並んでいるのには理由がある。

 バリアン世界、アストラル世界は人間世界との和平の際にRUM、No.、CXといった人間世界にはないカードを譲り渡した。

 当局はそれらのカードを一部、効果を変更しトレジャーシリーズとして発売を始めた。

 今やNo.もRUMも誰でも持つことのできるカードとなって一般に流通し始めている。戦いやランクアップのために使われることなく、誰でも自由に、楽しんで決闘ができるものへ変わっている。

 もちろん、それらが収録されたトレジャーパックは値段は高く、膨大な収録枚数があり手に入れる確率は低く、レア度は依然高い。

 だがそれでも世界を書き換える前のように全く手に入らないわけではない。

 

「別のホープの進化系、やるじゃねえかアストラル。だったら俺だって負けねえ! 俺はRUM-リミテッド・バリアンズ・フォースを発動! 現れろCNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

 打ち鳴らされる剣劇、打ち砕かれ即座に復活し新しく進化していくNo.達、それらは決闘を見る皆の心を熱くしていく。

 それを水田裕は見て、最上へと目を移す。

 最上も面白げに決闘を眺めながらも、誰かを探しているように瞳は時々動いている。僅かに気落ちしたような息が漏れ、そして瞳の動きが止まった。

 歩き出した最上の行く先、裕が立っている横、ベンチの下にカードが落ちている。

 

「お、トレジャー・シリーズか。今度はなんだろなぁ」

 

 人間世界でカードを拾ったりできる原因はバリアン世界の侵略のための作戦だ、だがそれが意味をなさない今、カードは降ってこない、はずだった。

 だが今でも人間世界はカードは降ってきて、カードは拾ったと言える世界である。

 それに関してネットの中では時たま、巨大な金の龍を見かけた場所にトレジャーシリーズが落ちている。などという噂がまことしやかに伝わっているも、それがなんの関連があるのかは分かっていない。

 水田裕が最上の動きを眺めているうちに決闘はどんどんヒートアップしていく。

 

「現れろ、SNo.39希望皇ホープレイ・ライトニング、No.99希望皇龍ホープ・ドラグーン、No.93希望皇ホープ・カイザー!」

 

 アストラルが光の中よりホープのNo.を持つNo.達を呼び出し攻撃を仕掛ければ、

 

「アストラル、お前にだけはぜってえ負けねえぜ! 現れろ、CNo.39希望皇ホープレイV、No.39希望皇ホープ・ルーツ! CNo.39希望皇ホープレイ! No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ!!」

 

 遊馬が負けじとホープ達を連打し覆していく。

 一進一退の攻防を視界の端で捉えながら水田裕も裕の姿を探す。それでも見つからない。

 最上はといえばトレジャーシリーズを見つけてから、Dパットを使いどこかへと連絡を取り始めていた。

 水田裕は拳を握り、唇を噛む。

 

―――約束したのにっ、あのバカは…………。

 

 憤りをぶつける相手は居ない。

 それでも水田裕は怒りを蓄える。

 たとえ消えたクェーサー厨が自分の事を気にして実体を返してくれたとしても、たとえクェーサーがこの手にあるとしても水田裕は嬉しいと思えない。

 交わした約束があり、それを守らずに消えた大馬鹿野郎を思い返し、水田裕は地団駄を踏み、感情を発散させる。

 そうしている間にも決闘は続き最終局面へと突入する。

 

「縦横無尽なる希望の力をここに現れよ! これが新たな時代の天地開闢! SNo.0ホープ・ゼアル!」

 

「今こそ現れろ、FNo.0! 天馬、今ここに解き放たれ、縦横無尽に未来へ走る。これが俺の、天地開闢! 俺の未来! かっとビングだ、俺! 未来皇ホープ!」

 

 2つの異なる力を持つNo.0が戦場を踊り、激しく火花を散らしながら激突する。

 その光景の中、電話を終えた最上は意地の悪げな笑みを浮かべながら、水田裕へと近づいていく。

 その笑みは凄まじく邪悪な物に見え、水田裕が何をしてくるのかと身構える中、最上は意外な事を言い出した。

 

「お前、バイトしないか?」


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