クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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第1章 転生者達は世界を謳歌する
全ての始まりとアンティ決闘 上


「俺はこれでターンエンドだ!」

 

 水田裕(みずたゆう)は友人へとターンを渡した。

 裕が全力で頭とフィールドを回している間、手札誘発カードが無く手札とにらめっこするだけだった友人、大田はようやくか、と呟き手札から場に眼を移し、苦笑いを浮かべる。

 

「最後までお前って奴はクェーサー厨だな」

 

 明日、大田は進学のため上京する。

 裕は地元に残る為、しばらくの別れの挨拶と大田の部屋掃除を手伝いに来た裕は最後の別れにとデュエルを行なっていた。

 裕は遊戯王という名前だけ知っている程度だった大田から勧められ、今ではどっぷりと嵌っている。

 長い歴史を持つ遊戯王、その中で裕のお気に入りのカード、アニメ風に言うならば相棒と呼ぶべき入れ込みを持ったカード、シューティング・クェーサー・ドラゴンがフィールドの真ん中におかれている。

 

「ふふん、そう言われると照れるな」

 

 なんとなくだが裕はクェーサー厨などと言われると相当クェーサーに入れ込んでいるようで口元がにやけてしまう。

 裕が愛用するシューティング・クェーサー・ドラゴンは出しにくいが後攻で出せれば一気にゲームエンドに持ち込める力がありその効果も拘束力がある。

 だがそれだけだ。

 裕の魔法罠ゾーンには伏せが1枚、手札は2枚のみ、つまりはクェーサーを突破さえできれば一気にゲームエンドに持ち込める状況である。

 そして友人が使うのは環境トップデッキである征竜だ。

 征竜1体の値段が凄まじいのに全て3枚揃え、エクストラデッキも光るカードばかりの大田のデッキは小遣いが少なくWikiを見てはストレージから安いカードを探す裕としては羨ましい限りである。

 

「やっぱすげえカッコいいよな! 強いしカッコいいし背景も神々しいじゃないか、このフィールドを征圧する皇帝のような存在が」

 

「あーはいはい、ドロー、スタンバイ、サイク、対象はそれ」

 

 裕の熱弁はいつものことなので大田は裕の言葉を軽く流しゲームを動かす。

 対象を取られ破壊されたカードは我が身を盾に。

 クェーサーを展開するために、またクェーサーを守るために入れたカードであるが今は無意味であり裕はしぶしぶ墓地に持っていく。

 

「一応警戒して打ったが正解だな」

 

 伏せを破壊され裕のクェーサーを守る手段はもう残っていない、それゆえに裕は必死で祈る。

 

「来るなよ、来るなよ、来るなよ!」

 

「まあいいや、メインに入るぞ、コストでレドックスを落として手札から風征竜―ライトニング効果、なんかある?」

 

 だが容赦なく来る。

 手札よりライトニングの効果の発動時、大田は何かあるかと聞いてくる。

 それを裕は堂々と、

 

「ない!」

 

「じゃ、デッキからテンペストを特殊召喚と。エクリプスをコストに手札から炎征竜―バーナー効果」

 

 祈っても容赦なく環境トップの一角である征竜をぶん回す。

 

「バーナーの効果でデッキからブラスターを特殊、エクリプスの効果でレダメ除外な、んでもって親征竜2体でエクシーズ、ドラゴサックの効果発動まで」

 

 ドラゴサックの下からエクシーズ素材になっているブラスターを墓地に置きつつ、ここでなにかあるか、と目で訴える友人に裕は答える。

 

「むむ、クェーサー効果で無効にする」

 

 クェーサーの効果でドラゴサックの効果を無効にし破壊するも裕の表情には苦い物が浮かぶ。

 それも当然だ、ここまでが友人との対戦でのいつもの流れであり、これから起こる敗北もすでに何十、何百回と経験済みだからである。

 

「じゃ、墓地のブラスターの効果で墓地のドラゴン族のレドックスとライトニングを除外して特殊、レッドクスの効果で適当にレッドクスをサーチするぞ。次に風属性のサックとエクリプスを除外して墓地のテンペストの効果で特殊、それでエクリプスの効果でレダメを除外ゾーンから回収して、場の親征竜2体でエクシーズ、No.11ビッグアイ、効果発動でクェーサーを選択。いつものようにそいつのコントロールを奪うぞ」

 

「出たか天敵め、ないよッ」

 

 下のブラスターを墓地に送りニヤニヤとした笑みを浮かべる大田の顔にクェーサーを投げつけてやろうかと思ったが落ち着き、裕はそっとクェーサースリーブが傷付かないように持ち上げて相手のフィールドへ移動させ優しく手を離す。

 

「さあ来いクェーサー、お前に止めを刺されるならば本望だ」

 

 手を広げる裕、それを大田はじっと見つめる。

 しばらく考え込む大田に嫌な予感を裕は覚える。

 大田がこうやって考え込むときは大概酷い事をすると決まっている。

 具体的に言えばインフェルニティというカテゴリーで謎の呪文を言いながらデッキと墓地を手札の様に扱い制圧してきたり、図書館エクゾを使いずっと俺のターンなどと宣言される。

 中級者と初心者の中間にいる裕からすれば理不尽極まりない事をするのだ。

 文句を言えば必殺の呪文、初手で増Gかヴェーラーを握れないお前の運命力が悪い! などと言う凄まじい台詞を言われる為に裕は反論を諦めている。

 

「で、クェーサーを除外してレダメ特殊、レダメ効果でブラスター特殊召喚してと、バトルフェイズ、ブラスターとレダメで攻撃」

 

「何もない!」

 

裕 LP8000→2400

 

 送られてきたクェーサーを裕の除外ゾーンへ送り手札より大型モンスターを出し攻撃、どちらも攻撃力は高く裕のライフは即座にあと一歩の所まで叩き込まれる。

 

「1枚伏せてエンド」

 

 除外ゾーンとフィールドそして墓地を竜が跳ね回りようやく終わったと思ったら裕のフィールドには何も無し、相手は伏せ有りの攻撃力が高く一匹も残しておけないモンスターばかりの状況、それでも裕はデッキに手を置き、

 

「ドロー!」

 

 ドローカードを見て口元に笑みを浮かべる。

 

―――良いドローじゃないか!

 

 何回か裏切られ、ではなく機嫌が悪いときもあるがそれでも自分で選び小遣い搾り出して作り上げた最も信頼するデッキだ。

 なんだかんだでデッキを信じれば答えてくれるんだなと裕は確信する。

 裕のドローカードはジャンク・シンクロン、墓地にはドッペル・ウォリアーが居る。

 本当に稀にしか勝てない友人に一矢報いる、そう考え裕は口を動かす。

 

「スタンバイ」

 

「スタンバイ、ビガイをコストに魔のデッキ破壊ウィルスな、ほら手札見せろよ」

 

 裕のデッキにおける必殺の一撃が叩き込まれる。裕の手札はジャンク・シンクロン、クイック・シンクロン、大嵐。2体のモンスターは攻撃力が1500以下であり魔のデッキ破壊ウィルスの効果をうけ墓地へ送られる。

 そして手札に唯一残った大嵐では何もできない。

 手札を見て空っぽのフィールドを見る、そして除外されたクェーサーを見て、最後ぐらいは勝ちたかったなと心の中で呟き、

 

「ターンエンドだ……」

 

「ドロー、スタン、メイン、バトルだ。ビガイとレダメで直接攻撃」

 

                    ●

 

「だからなぁ、手札誘発がいれるかバックを増やせって言ってんだろうが、クェーサーを立てたからってワンキル出来なきゃ除去られて今みたいに負けるんだからな」

 

「分かってんだけど……ほら、クェーサーが出したいじゃん! そうしたらサイクロン等の除去カードををガン積みするから防御力が紙みたいになるんだよ!」

 

「お前は奇抜な発想が出来る癖にそういう所で考えなしだよな、4伏せしてもロードを出しに来るみたいなそういうのをやめてプレイングをもうちょっと磨けばマシになるんだがなぁ」

 

「あはは、そこは、あれだよ。そういうの考えるの苦手でさぁ、つい突っ込んでみるか的な思考になっちゃうんだよ」

 

 二人は最後の決闘の反省点を話し合いつつ玄関へと移動する。

 

「……んで、今度はいつ帰ってくるんだ?」

 

「夏休みだな、土産を楽しみにしとけよ。それと帰ってきたらまたデュエルしようぜ、またお前の嫁を寝取ってやらぁ」

 

「ふざけんな! 次やるときはクェーサー地獄を見せてやるからな、覚悟しとけ! それと、じゃあ、またな!」

 

 大田に最後の別れの言葉を継げて裕は自転車で暗い夜道を走り出した。

 夜風を切りながらのんびりと自転車をこぎながら裕は今回の決闘で得た問題点を口に出す。

 

「やっぱもうちょっとトラップ入れるかなー、それとももっと展開できるようにデッキを改良するかなぁ……どっちも良いなぁ。なんとかしてどっちも入れれないかな」

 

 呟きながらのんびり自転車を走らせる、大きな道路にでて右左を見る。車が来ないことを確認して渡り始め、裕はいきなり強烈なライトに照らされた。

 やばい、と思う間もなく裕の視界は真っ白なライトに塗り潰された。

 咄嗟に目をつむり衝撃に備える。

 だが衝撃波来ない。

 恐る恐る裕が目を開けばいつの間にか裕の周りは上下すらも認識できないような純白に変わっている。

 手に握っていた筈の自転車のハンドルはいつの間にか消え、背負っていたカードやゲームを詰め込んだバックも無くなっている。

 それに呆然とし、カバンの中にあるクェーサーはどこに行ったと周りを見渡せば裕の背後、いつの間にできたのかは定かではないがコタツが置いてあった。

 赤い布団、机の上にはテレビまである。

 

「ふーん、お前が最後の駒か」

 

 裕の背後より聞こえてきた声に振り向き、再び硬直する。

 ソレが発する声は非常に愛らしい、つぶらな瞳で時折ぱちんとウィンクしてくるのだが姿が問題だ。

 その姿はNo11ビックアイの形そのままであり非情に目の毒でしかない。

 

「えっ、えっ、ええ?」

 

「面倒だから説明は省く、お前は別世界に行ってもらう」

 

「な、なんで?」

 

 眼を白黒させつつも裕は頬を指でつねり現実かどうか確かめる。

 痛みはある。

 これが現実だと訴えかけてくる。

 

「理由か、君が偶然そこに居たからだ。たまたま目に付いて、引きずり込みやすそうだからこちらの遊び道具になって貰う事にした。お前なんかじゃ何もできないだろうが⋯⋯まあ、選び直すのも面倒だしお前でいいや、期待しないけど適当に死にかけて足掻いてくれ」

 

 まるでくじ引きで欲しい景品が当たらなくてすねる子供の様に、いかにもどうでもよさそうにソレは言い放つ。

 

「ふざけんな、なんだよそれ!」

 

 それを理不尽だと裕は叫ぶが、こちらの言葉を聞きもせずビッグアイは裕を見下ろし、

 

「君が何を思って何を言おうともどうでもいい、興味も無い。行け」

 

 意味が分からないと呆然とする裕の足元が揺れる。

 何が、と疑問に思うよりも早く裕が立っていた足元ごと何もない空間へと跳ね上げられた。

 

                    ●

 

「前ともう1つ前とに送った駒がが持ってた欲望が面白そうだったからちょっと手を加えたけど、今回はダメだな。他人になんかしようって気概が無い。まるで期待できないな……さて、この話はどうなるかなぁ。つまらない話にならなければいいんだけど」

 

 目玉の化け物の形から姿を変え神は一番動きやすい形となりコタツへと座る。

 そのまま机の上にあるリモコンのスイッチを押せば新しくテレビが3つ現れ点灯する。

 それは最初に送りだした男、先程ぶち込んだばかりの少年、そして少女を映し出した。

 

「用意された駒は3つ。執着、自己愛、支配欲と変身欲求、どいつもこいつも我欲に満ちた愚か者達」

 

 吐き捨てる様に、嘲笑う様に机に頬を吐きソレはのんびりと見守るだけだ。

 

「理想と綺麗事を語る。自分の好きな物を至高と信じ相手に押し付ける。自分を尊び他人を下に見る。あるはずの無い虚構の物を素晴らしいと思い込み、それが無い現実を間違っているのだと思い込む、いかにも人間らしい欲望に満ちた愚か者達が躍る世界、さてどうなるかなぁ」

 

                    ●

 

 裕はどんどんと上へと昇っていく。

 周りの白は徐々に薄い青色が混じっていき、まるで空の様な色になる。

 

―――空?

 

 裕がふと嫌な予想をし、周りを見る。

 抜けるような蒼穹が広がり、下を見れば白が広がっている。

 裕の頭が真っ白になり、体が硬直する中、上昇は止まり、全身が軽くなる様な感触に襲われる。

 胃の中の物をぶちまけそうになるような落下の感触だ。

 裕が居たのは雲よりも上、そこから突然、放り出されたのだ。

 突然の事に声も出せず落下していく裕、どこへ落ちるのかと下を見れば薄く灰色の物が見えて来る。

 街だ。

 徐々に大きくなってくる巨大な街、その公園らしいところへと裕は落下しようとしていた。

 緑の芝生が見える距離まで接近し裕は無駄だと本能的に理解しながらも顔を手で守る様に覆う。

 

―――ぶつかる!?

 

 裕は何かにぶつかったような衝撃を受ける。

 だがそれだけだ。

 肉が潰される訳でも、骨が砕ける音が聞こえる訳でもなく、ただ何かとぶつかったような衝撃があるだけで終わる。

 

「えっ?」

 

 裕は目を開け起き上がる。

 手に障れば草の柔らかな触感があり、見渡す限りの真っ青な空、なんか変な形をした背の高い建物、そして顔を下に向ければ公園がある。

 そこには髪がつんつんに、海老の様に尖った少年と結構太めに見える少年が向き合っているのが見えた。

 

―――ここは、いったいどこだ?

 

 裕の知ってる空、知らない風景、知らない人がそこにある。

 前者はともかく後者は知らないのも当然ではあるがとりあえず立ち止まってたって何もできないし、あまり深く考えず歩き回りながら景色を観察しまわりの情報を集めていく事にした。 

 目玉神が本物なのか、それともこれは夢なのかは分らない、自分は頭は良いほうではなくラノベや二次創作等のいわゆるお話は読んでいるためなんとなく状況を適当に想像し、

 

「とりあえず歩き回って情報、を……」

 

 言葉は途切れた。

 裕の視線の先、海老頭の少年が腕を掲げると日曜にテレビの中で放送されていた特撮の変身シーンのような光景があったからだ。

 腕に付けられた無駄に大きくて重くて邪魔そうな謎の装置が質量保存の法則を無視し展開して決闘盤(デュエルディスク)に変わっていく。

 

「ああいう決闘盤って確か、そう、なんか新しい奴だよなぁ?」

 

 裕はあの変形をする決闘盤がある世界、遊戯王ZEXALには詳しくない。

 5D.sのほぼ終わりごろから友達に遊戯王を勧められ真面目に嵌ったクチであるからである。

 シンクロモンスターやその演出に惚れ込み、5D.sを見直して次に始まったアニメは後回しにしているため大田や大田に誘われ大会に参加した際の周囲の対戦相手がたまに使ってくるナンバーズと呼ばれる強いエクシーズモンスターが話の肝ということまでしか知らない。

 

―――あとのお楽しみに取っておくんじゃなかったな。

 

 自分の行動を呪いつつ、周りを見回せば子供や大人が笑顔で決闘盤を向け合ったりモンスターを召喚、シンクロ、エクシーズ、融合、罠の発動など決闘(デュエル)を行なっている。

 それらの光景を見ている自分も決闘がしたくなり、自分が何かを持って居ないかを探せばポケットの中より先ほどの少年が着けていたのと同じような物を見つけた。

 幸い言葉は同じであり、タッチパネルを指示されるがままに操作し、決闘盤へと変形が出来た。

 付属していた片目のモノクルのようなもの、周りの人達がDゲイザーと読んでいたものをつけ、いつのまにか腰に付けていたポシェットを探る。

 財布や手帳、その他にあったのは自分が少ない小遣いをやりくりして集めた50枚ほどのカードの束もある。

 

―――これを置くと、クェーサーが実体化するのか……!?

 

 ごくりとつばを飲み込み、裕は決闘盤へとクェーサーを置いてみる。

 傷だらけの決闘盤よりの光が漏れ、掌サイズのクェーサーが空中に投影される。それは手を開き、吼える姿を見せた。

 そのときの感情をなんと言えば良いのか裕は表現できなかった。

 こいつが動けばカッコいいだろうなぁと妄想を膨らませ、3Dモデルに手を出してみてクェーサーを動かしてみたりした日々を思い返し、裕は鼻息を荒くしクェーサーへと見入り全方位からよく観察した。

 

―――うぉお、これが夢でも死ぬ一歩手前で見る走馬灯だろうがどうでもいい! すげえ、すげえ!

 

 ずっと見たかった物を見れてテンションが上がり、興奮しすぎて裕の視界はジワリと滲む。

 

「おにーちゃん、決闘(デュエル)し⋯⋯? どうして泣いてるの、ぼっちで寂しいの? それともアンティ決闘で負けてカードを盗られちゃったの?」

 

 声に裕が振り向けば、小学生ぐらいの少年が話しかけてきた

 慌てて目元をぬぐい、裕は気を取り直し少年と同じ目線に合わせ、

 

「あっ、これは違うよ。ちょっと感動しただけだ、よし、決闘だ!」

 

 決闘と言う言葉に反応する裕、そのまま何も考えずに決闘へともつれ込む。

 少年の言った言葉やそもそも何故エクシーズが主軸のZEXAL世界でシンクロモンスターが決闘盤を通じて投影されたのか、色々な謎を全てを放り投げ、裕は動くクェーサーを見たいという欲求より叫ぶ。

 

「「決闘!」」

 

                     ●

 

 そして裕はこの世界に来て10戦全敗という散々な結果となった。

 

「デッキに見放されるとは運がない…………!」

 

 周囲が真っ暗になるまで決闘を続けた結果、裕は撃沈し真っ白になり独り言を呟いている。

 大人や子供、性別を問わず決闘した決闘者(デュエリスト)達との決闘を思い出す。

 お触れホルス、不死武士、バニラビート、武神、エレキ、天変地異コントロール、紙束っぽいロックバーンデッキ、セイクリッド、フルバーン、レベル1軸エクゾと戦った。

 全敗である。 

 小学生の少年に負け、クェーサーの雄姿が見たいという感情で焦りに焦った裕は身近な垢抜けた小学生ぽいのに決闘を挑もうかと真剣に考えるも、クェーサーを見て精神を落ち着け、子供を見守る暇そうな親御さんに戦いを挑んだりもした。

 そして負けた。

 なんか眼が怪しい人を見るようだったような気がするけど気にしない、それよりも重大な問題があるのだ。

 

「クェーサーにたどり着けない、これは一体どういうことなんだよ……!」

 

 精神を落ち着けるためにクェーサーを眼前に掲げる。

 金の文字、神々しい背景、白と暗青の体、見ているうちに敗北に落ち込む裕の精神は静まり安寧が訪れた。

 

「ふう、よし、とりあえず現状把握、持ち物から見てみよう」

 

 財布、裕の魂とも呼べるデッキとエクストラ、ポシェットが1つ、それ以外に何もなし。

 仕方なく財布を見てると小銭と生徒証明書があった。

 

「水田裕、私立ハートサイド学園所属ね」

 

 全く聞き覚えのない学園のような名前、そして全く同じ自分の顔と名前に戸惑いつつ、ポシェットをもう一度よく調べてみる。

 ポシェットには刺繍で名前と住所が書かれている。

 

―――ここが、家なのか?

 

 とりあえず自分がこれから行くべき場所は決まった。

 そこまで決めて裕が思うのはこれがどういう状況なのかだ。

 

―――住所がある、学園に通っている……これっていきなり俺の意識をぶち込まれたのか、それとも自分と同じ顔をした奴の体を乗っ取ったのどっちだ?

 

 前者ならばまだましだ、だが後者ならばこの体の持ち主はどうなったのか、それさえも一般人である自分に確認する術がなく、頭を抱え唸っているとDパッドが音を発し、点灯した。

 裕は元から考えるのが苦手であり、下手な考えを止め、腕に付けているDパッドの画面をタッチする。

 どうやらこの世界の決闘盤は携帯の役割も果たしているらしく、メールが届いていた。

 開き見れば、差出人不明でお宝が街に眠っている。という文のみがある。

 それを読んで裕は首を傾げる。

 

―――面白そうだけど、暗くなってきたしとりあえず住所の場所まで行くか。

 

 すでに周りは暗くなりはじめ、人影は少なくなっている

 そして予備知識なく、全然知らない町を歩きなんとかして家にたどり着かないといけない。

 裕は決意を込め勢いよく立ち上がり、とりあえずどこからどう向かえば家の場所へとたどり着けるのかと周りを見る。

 そして不思議な光景に目を奪われた。

 そこにあったのは男達がベンチの裏を見たり、あちこちで見える卵形の機械を押しのけたり、自販機の下を覗き込んだり、カードを目の前に突き出し宙を見て会話しているのだ

 何をやってんだ、と裕は疑問に思い、先程のメールを思い出した。

 

―――お宝という物がなんなのかは分からないけど、それをこの人達が探しているのかもしれないな。

 

 そう思い、邪魔にならないようにゆっくりと距離を開け、裕は歩き出す。

 だが、

 

「そこのおまえ」

 

 呼び止められてしまう。

 恐る恐る振り返るとそこに居たのは学ランのボタンを全開にし派手な柄物のシャツを着た青年がいた。

 その青年は後ろへと伸ばした金髪を揺らしながら近づき、裕へと決闘盤を構える。

 

「おい、決闘しようぜ」

 

「へっ?」

 

 突然切り出された言葉に裕は目を白黒させていると、青年はニヤニヤと笑いながら更に近づいてくる。

 

「夜に決闘盤を付けて出歩くなんてアンティ決闘しようぜって言ってるようなもんだぜ。この街のルールを知らねえとは言わせねえぞ」

 

 決闘盤を裕へ目掛け突き出し男は画面を操作、ポンという炸裂音と共に決闘盤よりアンカーが射出され裕の決闘盤を捕まえる。

 腕に力を込めて振るもアンカーは離れない。

 焦って周りを見れば男はこちらへと更に距離を詰めてくる。

 

「どうせ手前もトレジャーシリーズを探しているクチだろ。だったら話が早え。俺と決闘しろよ、勝ったらこのアンカーを外してやる」

 

 周りを見れば覚悟を決める裕、その周りには男の仲間であろうか学ラン姿の男たちが集まり裕に物理的な逃げ道はない。

 

―――えっ、やるしかないのか?

 

 さんざん迷うも、この状況は変わらず裕は逃亡を諦めるしかない。

 裕は深呼吸し、デッキを決闘盤へと装填し、相手を見つめる。

 息を呑むそのギャラリー達、周囲は静まり返る中、1つ声が響く。

 

「やっと見つけたぞ、私と決闘しろ」

 

 声は少女のものだ。

 周りの人垣はモーゼの十戒よろしく割れ、裕の目に映るのは黒髪の少女だ。

 暗がりと遠目からはよく見えないが少女は全体的に華奢であり、格闘技をやっているようには見えない。

 この状況をどうにかしてくれるようには裕には思えず、あの少女に周りの男を向かわせないためにも裕は本格的に腹をくくる。

 

「俺達の決闘は普通の決闘じゃねえ、アンティ決闘だ。勝者は敗者に命令を1つくだせる。それだけのシンプルルールだ!」

 

「なんだそりゃ!?」

 

 アンティ決闘=負けたらカードを奪われる、などを思い浮かべていた裕だが提示されるルールは明らかに常軌を逸している。

 決闘盤を見れば画面には決闘の申し込みが表示されている。

 はい、いいえの下には敗者は勝者の命令を1つだけ実行しなくてはならないとあり、裕の額にぶわりと汗が浮かぶ。

 この世界に来てから何回負けたかを思いだし、もしも勝てなかったらどうしようと考え不安になったからだ。

 

「嫌ならデッキと決闘盤だけ置いて消えやがれ!」

 

 デッキを置いて行けと言われ裕は本格的に腹をくくる、物理的に逃げられない以上方法はただ1つしかない。

 本当はやりたくもないのだがしょうがないと諦め、

 

「……やってやるよ!」

 

 はいを押し、決闘盤を構え、男も決闘盤を構え、互いに叫ぶ。

 

「「決闘!!」」

 

                   ●

 

「先攻は俺だ、ドロー!」

 

 周りの景色が微妙に緑がかる中、決闘が開始された。

 男は叫びながら有無を言わせずカードを引き抜く、その姿に裕は、おいジャンケンしろよと言いたくなるがぐっと堪える。

 この状況でジャッジーと叫んだところで周りのギャラリーから問題無ーし、と言われてしまうだろう。

 無駄なことをしてジャッジの印象を悪くしてはダメだ、そう無理矢理に自分を納得させる中、男が動いた。

 

「俺はレスキューラビットを召喚!」

 

 傍目から見ればウサギだ、ヘルメットをかぶったその姿は一軒愛らしく攻撃力は低いのだがそのつぶらな瞳にはどす黒い何かが詰まっているようにも見えなくはない。

 

―――どっちがくるんだ、頼むからヴェルズは止めて、もうオピオンはいやだ!

 

 クイック軸のシンクロンデッキの天敵、そのトラウマを盛大に抉られ、裕は心の中で必死に叫ぶ。

 それをしり目に可愛らしいウサギは前足を地面に突き立てる。

 

「レスキューラビットの効果発動!」

 

 男は宣言し、裕を一瞬だけ見る。その上で裕が動かないのを確認し、

 

「このカードを除外しデッキから通常モンスター、大くしゃみのカバザウルスを2体特殊召喚だ!」

 

 兎が掘りあけ兎自身が飛び込んでいった穴よりカバのような顔したモンスターがのそりのそりとフィールドに出てくる。

 攻撃力も下級にして見ればそれなりに高い1700だが、それよりもっと厄介なのは恐竜族レベル4であることだ。

 裕は最悪の敵が来ないことに安堵しつつ、若干諦め気味に叫ぶ。

 

「もう好きに動かせよ、ラギア来いよ。怖くねえぞ!」

 

「なら行かせてもらうぜ! 俺はレベル4の恐竜族モンスター、大くしゃみのカバザウルス2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

 フィールドへ現れた渦へと茶色の球体が飛び込んでいく、爆発するように膨れ上がり炎を螺旋状に吹き上げる、そして現れるのは太い四肢を持つ翼竜だ。

 

「進化の果て、恐竜は更なる力を開花させた。その力、全てに見せ付け蹂躙しろっ、エヴォルカイザー・ラギア、爆誕ッ!!」

 

 踊るように翼を広げ緑色の0と1で構成されるオーラを纏い裕へと吠える。

 その竜の登場に外野である男たちは口笛を吹いたりしながらはしゃぐ。

 

「出たぜ、エヴァさんのエースモンスターだ!」

 

「トレジャーシリーズも見つかんねえしあのガキは何ターン持つか賭けようぜ! 俺5ターンな!」

 

 1人の男が提案した賭けに集まり始める。

 声をさらに大きくし始めた男たちを見て、エヴァと呼ばれた男は苦笑しつつも、

 

「全く、お前らてやつはよ⋯⋯俺はカードを2枚伏せてターン、エンドだ!」

 

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400(ORU2)

LP4000

手札3      伏せ 2

 

裕場

LP4000

手札5

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ドローしたカードを見て、

 

―――これはやべえな。

 

 心に浮かんだ感情をなるべく顔に出さない様に気を付けながら手札と睨めっこしカードを選んだ。

 

「モンスターをセット、1枚伏せてターンエンド」

 

裕場     セットモンスター

LP4000

手札4    伏せ1

 

エヴァ場    エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

LP4000

手札3      伏せ 2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ヱヴァは声も図体も大きい割にモンスター効果等で細かくチェーンがあるか聞いてくる。

 それらは裕がこの世界に来てから行った10試合でも同様だ。

 ほとんどの皆が細かくチェーンがあるか、フェイズを細かく聞いてくるのを思い出し少しだけ裕は感傷に浸る。

 中には人の返事を待たない男性や我が道を行くとでも行くように話を全く聞かない人、手札をぱちぱち鳴らしたりする人も居た。

 どこの世界にも居るんだな、などと裕が現実逃避気味に考えていると、

 

「俺はジュラック・グアイバを召喚!」

 

「やべ、ミスった!」

 

 兎ラギアデッキを前に下手にモンスターをセットすると2体目のラギアが特殊召喚される事を失念していた裕は後悔の叫びをあげるも時すでに遅し。

 赤と黄色の派手な体色をした恐竜が飛び掛かって来る。

 

「バトルフェイズ、グアイバでセットモンスターを攻撃だ!」

  

 裏側になっていた茶と黄色のカードが反転、水色の毛玉が現れる。

 

「スポーアが⋯⋯! くっそ、こいよ2体目!」

 

「おう、言われなくてもやってやるよ! グアイバの効果、相手モンスターを戦闘破壊した事によりデッキからジュラックと名の付くモンスター、ジュラック・ヴェローを特殊召喚! そしてラギアで直接攻撃だ」

 

 竜の突進をまともに食らい裕は吹き飛ばされる。勢いそのままに十回くらい転がったところで裕は立ち上がり砂煙を払いを落とす。

 この世界での攻撃は結構痛いということにぶっ続けで行なってきた決闘で裕は身を持って知っている。

 なのでなんとか受け身のような物を取る事に成功した。

 その裕の転がる様子を見てギャラリーの男たちは笑い声をあげ、どっちが勝つかの賭け事を更に始めた。

 

「メイン2、レベル4の恐竜族、グアイバとヴェローでオーバーレイ、もう1体ラギア追加だ!」

 

 自分の切り札たるラギアが2体並んだ光景に男は自信満々に笑みを浮かべる。

 

「おうおう2体目とはエヴァやる気だなぁ、さっさと勝っちまえよ! 俺はお前に賭けてんだぜ!」

 

「そっちの坊主、お前は超大穴だったんだから俺は小遣いの半分をつぎ込んだんだぞ、絶対に勝てよ!」

 

 やいのやいのとヤジが飛んでくる状況、エヴァは裕が発動しなかった伏せを睨みつけ、頭を掻く。

 

「…………植物、いや、まだ判断は早いか、俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

エヴァ場   エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

LP4000   エヴォルカイザー・ラギア ATK2400 (ORU2)

手札2     伏せ 4

 

裕場     

LP1600

手札4    伏せ1

 

 このターンで決闘が終わらなかった運のよさにを感謝しつつ裕はデッキに手をかける。

 

―――勝ちたい、それにクェーサーとは離れたくない。というかなんとかして今日中にクェーサーを呼び出して勝つ!

 

 昼からの連続決闘の結果、得られたのはライフを失うダメージの事だけではない、クェーサー等の光物のシンクロモンスターやエクシーズモンスターは結構貴重だと言う事だ。

 出しにくいけど効果は強い、探し当てた人が居てもすぐに売っちゃうから市場には出回れないということも聞き、つまりここで負けたら永遠の別れという可能性も大いにある。

 

「そんなこと、許せるかっ、俺のターン、ドローっ」


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