魔法少女 カレイド☆パール シェルツ   作:亜莉守

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 夏休み初日、僕はどうしようもないくらい変わったやつと出会ってしまった。

 本来の目的であるところの君のことはもちろん放っておけなくて、
 出会ってしまった僕は結局奴のことも放っておけなくなったのだ。



日常なんて即非日常に変わってしまうものでした

 

 

 

事の始まりなんて割と些細なこと。思えばなんでこんな壮絶なことに巻き込まれているのかすら疑問で仕方がないんだけど。

 

 

 

 

 

とある事情で引越しをした僕と幼馴染(仮)ことシロウは古い江戸屋敷を借りて住むことに。理由は単純、家賃が安かったから。家の管理をする代わりに格安で借りたその江戸屋敷には大きな蔵があって、あいつ好みの作業スペースが広がっていました。そりゃまあ内装整備してみたくもなるわけで。内装整備のために蔵の中からいろいろ取り出したところ、なんか謎すぎるステッキを発見しちゃったわけですよ。

 

「なんだこれ? ………ヤな予感がするんだが」

「魔女っ子ステッキ? そしてお前のそれは大体ロクなことにならないからやめれ」

 

外装は赤と黒という昨今のライバルキャラでも見ないようなカラーリングのそのステッキを二人で囲みながら話し合う僕ら、そんな僕らの会話に割り込むように爆発音が聞こえた。驚いて振り向けばそこに居たのは、赤い髪に黒い角が生えた黒と赤の際どい服の女の子だった。普通の人間の倍以上は肌が白く、体には何やら赤い線が走っている。そして彼女の背後では家の塀が脆くも崩れ去っていた。うわぁ、弁償どうしてくれるんだよ。

 

「な、なんだあれ?!」

「…………いや、なんでいるし?! それよりも先に塀!」

「アキノ、知ってるのか?」

 

 シロウが首を傾げて聞いてきた。手には既に夫婦剣が握られているあたりもう職業病的な何かだと思うんだけど気のせい?

 

「まあ、諸事情多々です。主に月の裏側で」

「? よくわからないけど、なんなんだあれ」

 

 シロウが彼女の様子を見ながら僕に聞いてきた。僕が知っていることは記録にしか過ぎないんだけど。一応わかってることくらいは教えておくか。

 

「僕の想像が正しければだけど、ハンガリーのシリアルキラー、エリザベート・バートリー。クラスはランサーかバーサーカーのどちらか、見た感じはどう考えてもバーサーカーだよね。アレ。宝具は……ヤバイ、解放された場合完全なる近所迷惑だ。どうしよう!」

「いや、なんでさ」

 

 やられた場合に周囲の建物の崩壊とか止められない気がするんだけど。どうしよう、これ下手にバトったら明日から家なし? それどころかこの町に住めなくなる可能性もあるかもしれないし。

 

「最悪あれかなぁ。シロウんとこ(アンリミ)に放り込んでバトる? 僕がアレ防げる範囲は君と僕程度だからいろいろと崩壊するのが防げない」

「だからどういう宝具なんだよ」

「……対個人らしいけど、対個人というよりも対軍団的な宝具なんだよね。効力範囲という意味で、東京ドームくらいはいけるんじゃね?」

 

 彼女の宝具の破壊力は凄まじいからね。耳栓が欲しくなるという意味でも、それから僕自身防御できなかったら死んでたという意味でも。

 

「……どうすんだよそれ」

「だからどうしようかって言ってるんでしょ! シロウ!!」

「!」

 

 僕の掛け声でシロウが飛び退く、先ほどまでシロウが居た場所に鋭い槍の一撃が突き刺さった。こいつのクラスバーサーカーと読んでたけど、もしかしてランサー?

 

「いてっ」

 

飛び退ききったはずのシロウから痛みを告げる声が聞こえた。彼女が槍の振り戻しで大きく僕に薙ぎ払いをかけてきたのでそれをかわしながらシロウの傍に着地する。

 

「大丈夫?」

「ああ、破片が額にぶつかったらしい」

 

 見ればシロウの額から少し流血していた。今は戦闘中だから後で止血しないとやばいかなとか考えていたわけだけど、今思えばこの流血をその時止めていればあんなことにはならずに済んだのかもしれない。

 とりあえず「アレを倒すか」と(相手に作戦を読まれないために)僕らはアイコンタクトを交わして、散開した。そこら辺は長年(嘘)の勘がものを言うというべきか、僕らはお互いが考えたタイミングで彼女へと攻撃を加えることに成功した。正しくはシロウが正面から斬りかかって、彼女が防御している間に僕が氷性の小型ナイフで背後から奇襲するといった形でのダメージの与え方なわけだけど。正々堂々を重んじる人が見たら絶対に文句を言うような代物に違いない。ま、どうでもいいけど。

僕らはリーチの長い槍と彼女の腕力と痛みへの耐性を甘く見ていたらしい。攻撃された態勢のまま、彼女は槍をぶん回した。その結果、シロウは蔵の方へと弾き飛ばされて僕は穴のあいた塀の方へと飛ばされる羽目になってしまった。さらに一周ぐるりと回った彼女が手近にいたシロウの方へさらに槍を振りかぶった。

 

「シロウ!!」

 

 彼女を止めてシロウへの攻撃を防ぐためにも僕は彼女へと弾幕を放った……はずだった。

 

「あれ?」

 

 弾幕は見事にかき消され、彼女は吹っ飛び、急に発生した土埃が晴れた先にはシロウが立っていた。…………非常に表現しにくいが、とりあえず『衛宮士郎』を褐色肌にして白髪にしたような外見の彼が、赤を基調とした服を着ている。しかしただの服ではなく、どこかの世界で見たようなカレイドルビーのような服装だ。しかも女物……つまり何が言いたかったかというと、体格的にどう見ても男にしか見えない人物が女装をしていたということだ。うん、どうしてああなった。まあ、見れたものなのがましかもしれないけど。

 

「シ、シロウ?」

 

 おそるおそるシロウに近寄るけど、彼からは何も反応がない。むしろなんだろう、何かに操られかける直前のような何かが起きている気が……。

 視界の端に彼女が(うつ)った。驚いて振り向けば、そこにはもう彼女が槍を振りかぶっている姿が見える。あ、これはヤバいなぁ。思った瞬間にその槍は何かバリアのようなものによって防がれることになった。いったい何なんだとか思ったけど、僕以外には一人しかいない。そう、シロウだ。若干目が虚ろながらもいつの間にか手に持っていたステッキを彼女に向けている。

 

「!」

 

 槍を防ぐバリアが解けない隙に彼女の懐へと入り込んで彼女にナイフを突き立てた。すると、彼女はいきなりその姿を消して目の前には一枚のカードだけが残った。驚いて手に取ってみれば、そのカードの表面には影絵が描かれており、裏面には桜を象ったと思われる文様が描かれていた。

 

「これは………?」

『それはクラスカード、英霊の力が込められた強力な魔道具(マジックアイテム)ですよ』

「?!」

 

 どこからか声が聞こえた。あたりを見渡すが不気味なぐらいに静かな(女装姿の)シロウぐらいしか居ない。しかもあの声どう考えてもシロウらしくないし。

 

『アッハハ、どこを見てるんですか? ここですよ。ここ』

「え?」

 

 声がした方を見ればあのステッキが勝手にグネグネ動いていた。驚いて固まる僕、その鳩尾付近にシロウの手から飛び出したステッキが突き刺さった。思わず蹲ってしまう。

 

「ぐっはっ」

『おおー、いい音しましたね』

 

痛い、滅茶苦茶痛い。なにこれ、てかいきなり何が起きたのさ?! 痛む体をどうにかなだめつつ顔を上げれば目の前にステッキが浮いていた。もう何が何だかわからないよ。

 

「お前は一体……?」

『ええ、よくぞ聞いてくれました! オレはマジカルパール、魔法少女の選定役にして、クラスカード・(ムーン)の管理者です。ま、大体嘘ですが』

「ウソかよ! あいたたた……」

 

 ツッコミを入れようと叫んだ結果、僕は先ほどの痛みがぶり返してしまう。また頭を下げることになってしまったのだが、その頭上から再度声が聞こえた。

 

『あれ? どうしたんですか? おなか痛いんですか?』

「いや、むしろ君のせいだからね! 物理ダメージは誰だって勘弁願いたいよ。いたた……」

 

 一応付け加えておくと、こっちは紙装甲で有名なんだからね。まあ、言ってもしょうがないだろうけど。そういえばこのステッキはともかく、シロウは大丈夫なのだろうか。そう思ってもう一回顔を上げてみれば、虚ろの目をしたまんまだけどシロウはなんか魔法少女っぽいポーズを取っていた。もうやだこの状況。ツッコミを入れる気力も失せてきた。よし、ここはなんとかあれを止めるだけのことはしよう。決してシロウを助けるためとかではなく自分の精神面での安定のためになんだからね! ……なにこのテンプレ。

 

「……変態が、そこにいる」

『ええ、そうですねー。女装して魔法少女みたいなポーズ取るとか変態ですよね』

「むしろそれをさせている君の方が変態じゃないかな? この、変色ステッキ。どう考えたってそいつがそんなことするわけないじゃないか、しかも目が若干死んでるんだけど?」

『いやだなぁ。俺だって不本意なんですよ? その場に居たのがこの野郎だったってわけで、もう片方はちんちくりんな小僧ですし? もう一人いたあいつは回収対象でしたから』

「そっかー、とりあえずクラスカードがなんなのとか、シロウを洗脳かなにかしてるのとか、そんなのよりも聞き捨てならないことが聞こえた気がするなぁ?」

『はい? その他に何か問題があいてててて』

 

 なんか素材はよくわからないけどぐにぐにと動くそれを鷲掴みにしてぐいぐいと引っ張ってみる。おお、意外にもよく伸びる素材のようだね。びょーんびょーんとステッキを引っ張りながら、文句を言う。

 

「だーれーがーちんちくりんだ。誰が小僧だ。こんな成りしてるが僕は一応16歳だし、生物学上は女だ。それなりに見た目には気を付けてるつもりなんだけどなぁ?? ああ?」

『そういうところがいたいいたいたいたた』

「それからステッキ、シロウの洗脳解いてよ。このままだと日常生活に支障をきたすんだけど」

 

 同居人がわかりやすい女装姿とか勘弁願いたい。あれで日常生活とか(相互的に)嫌すぎる。想像しただけでも鳥肌が立ちそうだ。

 

『だが断る。だって面白いじゃないですかー』

「……凍死or壊死?」

『待ちましょう。交渉の余地ありです。オレには魔法少女が必要なんです』

 

 ちょっとだけこいつの性格が読めてきた。絶対にドSで愉快犯だ。そしてそんな奴が必要なんて言うんだから……

 

「おもちゃとして?」

『はい! おっと、本音が。さっきの具現化したクラスカードを見たでしょう? オレはあれを回収しないといけないんです。でも、オレ自身は担い手が居ないと何もできないんですよ』

「本音はやはりそれか、このドSが。それで魔法少女が必要と……別にシロウじゃなくてもいいよね? たまに奴のヒロイン力には驚かされるけど、ヒロイン力よりヒーロー力のほうが大事だし。はい、とっとと洗脳解け」

『照れること言わないでくださいね。それにそんなこと言ってていいんですか?』

「は?」

 

 ふと空気を斬るような音を感じた。直感的に転がってみれば、つい先ほどまで僕が居た場所に夫婦剣を持ったシロウがそれを振り下ろしていた。嫌な予感がして顔が引きつる。そこに 嫌味のような/懇願するような そんな声が聞こえた。

 

『この通り、あんたが大切にしている人はオレが今洗脳してるわけですよ。そんなオレにあんたが大きく出れるとでも思ってたんですか? へー、そうなんですか。―――― じゃあ、あんたが魔法少女になってくださいよ』

「はい?」

『あ、言質取れましたね。いきますよー』

「へ? は? ちょ、横暴だからぁぁぁぁ?!」

 

 

 

 

 

 

 そう、謎のステッキを発見して。友人の止血を怠った結果、友人を人質に取られて魔法少女にされたという。ステッキの奴も横暴だよなぁ。その結果がクラスカードから具現化された黒化(オルタ)英霊との()るか()られるかの真剣勝負という状態に陥る羽目になったのでした。

 

 






 謎系女子と小悪系ステッキによる魔法少女話、出会い編。
 大体は掃除をしてクラスカードの封印を解いたシロウさんのせいだったり(裏話)

 色々と類似点はあろうともこの二人は氷娘や食堂経営者ではないです。

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