魔界の大魔王(笑)として転生したが、ドラクエ世界ではなく恋姫†無双の世界に転生したのはおかしいんじゃないかな!? 作:てへぺろん
それでは……
本編どうぞ!
「なんでボクがあいつなんかと……」
ため息が混じる小言を吐く。だがすぐにハッとして辺りを警戒する。音もなく、静かな早朝で変わりはないことに安堵したため息が吐き出される。
「よかった。聴かれてなかったみたい。あの宗教団体に聴かれでもしたら大変な目に遭わされるに決まっている。もうぅ、どうしてこうなっちゃったのよぉ……」
元気がないのは現在幽州で保護された身でありながらも軍師としての才能と功績を認められた賈駆だ。幽州は最もこの大陸で一番安全な場所だと言えるだろう……
賈駆は本日、董卓と共にお出かけすることになっている。親友である彼女とのお出かけに何故気分が落ち込んでいるのか?正確には董卓とお出かけすることは賈駆にとっては嬉しいことである。しかしだ、
憂鬱な気分の賈駆が項垂れていると扉をノックする音が聞こえ、訪れた者を招き入れる。
「詠ちゃん準備できた?」
「月、一応ね。でも行きたくない」
「もう詠ちゃん、そんなこと言ってはダメだよ?
「むむむ……」
董卓の言葉で出て来たミルドラースと言う名を聞くだけで顔をしかめる賈駆。
賈駆と董卓は悪しき者達に悪名を着せられ、反董卓連合として袁紹達連合軍と対峙した。多くの者の命が失われた。自分達もその一人になるかと思われた時に、地上最強の武人である呂布に一騎打ちを申し込んだ相手、それがミルドラースだった。
大魔王と言う聞いたこともない存在、しかしその力は本物で反董卓連合に参加していた者達は何故に大魔王と呼ばれているのか理解する。地上最強の呂布ですら赤子のように扱う圧倒的な力、恐怖を心の底まで染め上げた。誰も大魔王には抗えない。誰も勝つことができない。そう思わせる存在だった。
その大魔王が戦争を呆気なく終わらせた。陰で暗躍していた悪しき者達は袁紹とミルドラースの手によってお縄につき、悪名を着せられた董卓達を保護することになった。
ミルドラースに恩を売られる形となり、董卓はその恩に報いる為に日々頑張っているが、賈駆はそうではない。
大魔王と言う存在の真なる意味を知ってから余計に警戒しなければならなくなった。人など大魔王にとって塵にも等しい存在。いつでも滅ぼせると……滅ぼされると理解した。
ぶるりと賈駆の体が震える。その事実を改めて理解すると体の底から恐怖が湧き上がる。
「詠ちゃん大丈夫だよ。ミルドラースさんはいい人?いい魔王?だよ?」
「月……でもあれは……」
「あれじゃなくてミルドラースさんだよ。詠ちゃんは軍師だから考えるのが仕事だけど、今日は楽しもう?」
「……楽しめるかなぁ?」
★------------------★
「はぁ……疲れた」
「詠ちゃん大丈夫?はいお水」
「あ、ありがとう月」
「おやおや、詠殿はもうお疲れか?」
「あんなの見せられたら疲れるに決まっているじゃない!」
賈駆は疲れ果てていた。実はまだ遠足が始まったばかりなのにこの始末とはどういうことなのだろうか?それに何故董卓だけでなく趙雲までもが共に同行している経緯とは?それを含めての原因は……
「………………………………………………」
董卓の背後にいる存在のせい。ミルドラースがその場にいるだけで他のものなど目移りすることのない存在感を漂わせているのが原因であった。しかも賈駆はミルドラースのことに苦手意識がある。しかしそれだけではなかった。
ミルドラース達が出発する頃に話を戻せばその理由がわかる。
「ぐぬぬ、何故わたくしではなく、あなたが選ばれるのですか!?」
「うぅ……何故、何故私ではなく星なんだ!?」
「いやはや麗羽殿、白蓮殿、これも主の命であるが故ですからな。それに武勇に優れる私をお選びになるのは当然のこと」
「それでも納得いきませんわ!ミルドラースさん、わたくしが傍におれば下賤な輩は忽ち恐れおののいていくのですから護衛はわたくしの方が相応しいに決まっていますわ!」
「はっ!何が『わたくしが傍におれば下賤な輩は忽ち恐れおののいていく』だぁ?それは麗羽のことではなくミルドラース様の威光によるものだ。よってお前はただのバカだ」
「なぁぁぁぁんですってぇぇぇぇぇ!!?白蓮さん、あなたは武勇も威厳も大したことのない癖にわたくしに難癖をつけるおつもりですか!?」
「なんだと!?バカ麗羽よりも私の方がミルドラース様に相応しいと何度言えばわかる?派手さしかない醜悪な脂肪の塊をぶら下げた能無しめ!!!」
「な、なぁぁぁぁんですってぇぇぇぇぇ!!?あなたこそ地味だけが取り柄の地味助女!!!」
「なんだと!!?もう怒ったぞバカ麗羽、今日こそ引導を渡してやる!!!」
「望むところですわ!どちらが真にミルドラースさんに相応しいか決着ですわよ!!!」
「おやおや、白蓮殿と麗羽殿はお忙しくお見送りどころではない様子と。それでは主よ、我らは行くとしましょうか」
「……うむ」
「では皆の者、我らは行って来る。留守は任せた」
「あ、ああ。ウチらに任せとき」
「た、楽しんで来い」
「あたい達の麗羽様がこんなになっちまったよぉ……」
「文ちゃん……」
低レベルの言い争いをする公孫瓚と袁紹を尻目に張遼、華雄、文醜と顔良に見送られて遠足に出た。しかしまともな賈駆にあのような光景を毎度見せられていては疲れるのも無理はない。それもこれもミルドラースの存在が彼女達を狂わせたのが元で、一番の原因は大魔王である。
怪しい謎のローブの集団、宗教国家となった幽州、忠誠心オーバーヒートの将達と仲良く過ごしていく自信はない。しかし賈駆は軍師である。これから先、軍師の立場上あれらを束ねなければならないことを再認識されられて気苦労も疲れに出ていることだろう。
ふむ、詠との関係性の改善は必須であると俺は考え、遠足すれば仲良くなれるんじゃね?と結論に至った。こうして近場の山道を進んでいる。護衛として星が居るおかげで安全は確保されたも同然だが、このお口が言うことを聞かぬ体、さてどうしたら仲良くなれるのだろうか?
全ての原因である大魔王ミルドラースに心はないことはない。賈駆との関係、これから先のことを踏まえてこうして遠足へ誘った。しかし当の本人はお悩み中であった。
「主よ、如何なされた?」
そんなミルドラースを気にかけて趙雲は言葉をかけた。
「……うむ、実はな……」
賈駆に聞かれぬようちょいちょいと手招きをしてこそこそと胸の内を伝えられるだけ伝えると彼女はしばらく考えていたが、何かを閃いたようで提案してきた。
「主よ、私にいい考えがある」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ね、ねぇ……」
「うん?」
「あ、いや、やっぱりなんでもない……です」
山頂へと辿り着いたミルドラース御一行、体力に自信のない董卓よりも賈駆の方が疲弊していたことは珍しいがやはり大魔王の影響はここまで強大らしい。そんな彼女を心配しつつも董卓は趙雲に手を引かれてキャンプをするための準備に取り掛かる。その間、ミルドラースとお留守番することになってしまった賈駆の顔が真っ青になって自分も連れて行けと頼むが快く趙雲はこれを拒否。現在、ミルドラースと二人きりだが、大魔王相手に何を会話すればいいのか?もし変なことを言って機嫌を損ねないか?など彼女の脳内では軍師としての知恵がこの状況の打破を目指していたが、今だけは知恵者としての頭脳が邪魔となっていた。何も考えずにいられたらどれほど楽だっただろうか。
ううん、どうしよう。なんて声をかければいいんだよ?白蓮や麗羽とは違い、まともな詠だから大魔王である俺になんて話しかけたらいいのか迷っているみたいだな。詠は俺のこと怖がっているようだし、下手に刺激したらそれはそれで可哀想だ。これから我が軍の軍師としてあの
「あ、あにょ……ゴホン!み、ミルドラース様、一つお聞きしてもいいですか?」
この先、胸の内に秘めた悩みを共有(無理やりにでも)する仲となる賈駆とどう会話をすればいいか悩んでいる大魔王。するとそのタイミングで意外にも彼女の方から声をかけて来た。相当の勇気を振り絞ったのだろう、噛んでしまったことで頬を赤らめていた。
「よいぞ」
「あ、ありがとうございます」
賈駆の緊張は相当のものだと思う。それでも彼女は語ってくれた。
命を救ってくれたことと濡れ衣を払拭してもらったことに対するお礼だった。あのまま戦争を続けていたら確実に負けていた。血も多く流れ、その中に華雄や張遼、陳宮にもしかしたら呂布が入っていたかもしれないこと、董卓は諸悪の根源として処刑されその名が悪名として代々語り継がれてしまうなど、彼女の胸の内を聞くことができた。話している内に緊張が解れていき、ゲームでよく見る普段の彼女と会話ができるようになっていた。だが、お口が言う事を聞かぬ大魔王はただ一言だけ。
「そうか」
そう言うだけで会話のドッヂボールは終了してしまった。
ああ、やっぱりお口が中々言う事を聞いてはくれないんだな。折角詠が勇気を振り絞って言いたいこと言ってくれたのに申し訳ないな。そんな話興味ないですよ感が半端ない……詠の奴、気を悪くしていないだろうか?
チラリと横目で賈駆のことを観察してみれば、先ほどまでの御堅い表情はなく、スッキリした表情をしていた。感謝を伝えないといけないが、大魔王の規格外の存在感に圧倒されて中々言い出せなかったのだ。友人達を救った結果に彼女は恩を感じていないなんてことはないのだ。だからこの表情を見たミルドラースは遠足に連れて来て正解だったと確信した。
「……詠よ」
「は、はい!?」
「畏まる必要はない。普段の詠で接すればよい」
「そ、そうですか?いや、でも……例の赤い人が怖くて……」
「かまわぬ。詠とは仲良くしておきたいからな」
「ミルドラース……様」
俺のお口が動くのもここまでのようだ。でも俺の想い通じたか?通じてくれよ、後の苦労人仲間との縁は大切だからな。
ミルドラースの言葉で気を完全に許した訳ではないにせよ、今までよりかは距離が近く接することができるだろう。その姿はよそよそしい孫と仲良くなるお爺ちゃんの光景だった。
「いやはや、主よ準備に手間取ってしまいました」
「星か」
「詠ちゃん、ミルドラースさんと仲良くできたみたいだね」
「月……」
何食わぬ顔で現れたのは趙雲、そして嬉しそうな笑みを浮かべた董卓の姿。キャンプの準備と称してミルドラースと賈駆だけの場を提供したのは趙雲である。まぁ実際に準備はしていたのだが、もうとっくに準備は済ませて二人のやり取りを木陰から董卓と共に見守っていた。主であるミルドラースの要望を叶えた趙雲は満足そうであった。
「さてと、準備に手間取ってしまったのでお昼の時間が過ぎてしまいましたな。ですが私に抜かりはありませぬ。既に昼食の準備もできております故、主は……食時は不要でしたな。ですがご安心くだされ、主を楽しませるのも私の役目でありますので退屈はさせませぬ」
「星さんと私で作ったの。詠ちゃん、一緒にご飯食べよう?ミルドラースさんも」
「うむ」
「うん、ボクお腹空いちゃったよ」
ミルドラース御一行は食事が用意されているので食べに行こうと歩みを進めた。
「美味しかったのぅ七乃!」
「何日ぶりのまともな食事でしょうか……ああ、美味しかったですぅ♪」
「「「……はっ?」」」
……大魔王の周りにはいつも厄介事が舞い込んでくるようだ。これも大魔王の
鍋の中を空にしたのは本来このような場所にいるはずもない袁術と張勲がそこにいた。