魔界の大魔王(笑)として転生したが、ドラクエ世界ではなく恋姫†無双の世界に転生したのはおかしいんじゃないかな!? 作:てへぺろん
それぞれの新たなる道へと進む者達の物語。
それでは……
本編どうぞ!
「…………………………………………………………………………」
「…………………………………………………………………………」
「……ムムム………………………………………………なのです!」
今ではすっかり外は快晴で雲一つない天気のある天幕内、一人の褐色肌の大きな2本のアホ毛が特徴の少女と人の形はしていても異形なる姿をした老人……それとアホ毛少女を守るようにして小さな猫のように威嚇するちびっ子がこの場の空気を形成していた。
空気が重い……わかってたぞ。こうなるなんて……特にちびっ子の陳宮は呂布のこと大好きだから俺がボコボコにしてしまったから俺への好感度なんて当然皆無だ。今も俺を睨んで毛が逆立って猫みたいだ……猫は荀彧で十分なんだが……そして俺がボコボコにしてしまった当の本人である呂布は俺と視線を合わせてもすぐに逸らされてしまう……これは嫌われた……泣くわこんなの。いや俺が調子に乗ってしまった結果こうなったのはあれだ……若気の至りってやつだ!ごめんやっぱり言い訳しません大人げなかったです……面と向かって拒絶されるのってめっちゃ心に響いてくるから堪えるわ……あの時の俺にメラゾーマを放ってやりたい。
「ねねちゃん、ミルドラースさんを睨まないであげよう?詠ちゃんも何か言ってあげてよ」
「ねね、これじゃ話が進まないからここは我慢しよう?」
「ムムム……けれど恋殿にまた手を挙げるかも知れないのです!」
天幕内にいる董卓御一行とミルドラース御一行は一部の人間を除いて気が気じゃない。
ミルドラースの規格外の存在に内心冷や汗をかいている賈駆は軍師としての立場もあり、もしものことに備えて機嫌を損ねないように振舞おうとしている。しかし陳宮は敵意むき出しにして今にも噛みつこうという勢いであるし、張遼と華雄は改めて対峙しているだけでも緊張している様子であり、絶望的な力の差を見てしまったのだから本人を前にしてこの態度は仕方ない。親友の董卓は完全にミルドラースを信頼しており、逆にこの場で一番冷静かも知れない。
「(お願いだから落ち着いてよ!こいつの機嫌を損ねたら折角助かった命がなくなる……それにあれはなんなのよ!?槍を持っている人はともかくその隣……赤髪の人はなんであんなにも怖い顔をしているのよ!!?)」
状況を分析する賈駆の目にはミルドラースの背後で陳宮を睨む趙雲と公孫賛……特に公孫賛の方から殺気が放たれ心の底から悲鳴を上げそうになる。
「ミルドラース様になんて態度を!ミルドラース様の偉大さを前にして歯向かうなど愚かな!必ず後で我らの
「主の制止が無ければ今頃、私の槍の錆にしていただろうに……いや、主の贄に捧げた方が良いか……ぶつぶつ……」
「(こいつの周りにはまともな奴がいないの!!?)」
やっぱり賈駆はミルドラースを信用できないと改めて感じた。そして当の本人であるミルドラースは毎度のことなのでスルーすることにする。
俺の背後には誰もいない……誰もいないんだ……だから何も聞こえていないぞ俺は……それはともかくどうしようか?こんな状況でまともに話し合いができない。俺は呂布にボコボコにしたことを謝りたいのに陳宮が邪魔して俺のお口も言うことを聞いてくれない……進展が全くないまま終わるのか?
「……陳宮……やめて」
「恋殿……でも……」
「……わたしが……はなす……」
「……わかったのです」
均衡を破ってくれたのは呂布本人であり、愛する呂布に言われて渋々横へ避ける陳宮の視線は相変わらずミルドラースを捉えて睨みつけたままだった。
「……」
ペコリと頭を下げた。
……へっ?ど、どうしたいきなり!?頭下げたってことは……謝ってんのか?呂布が俺に?逆だろ俺がボコボコにしてあれだけ痛めつけたんだから頭下げるのは俺なのに!これじゃまるで俺が呂布に頭を下げさせているみたいじゃないか!やめてくれ呂布……悪いのは俺のほうなんだぞ!?
いきなり頭を上げた呂布の行動に内心焦るミルドラース、当然ながらのことお口は動かずただその様子を鋭い眼差して見下げているだけだ。
「恋殿!?なんでそんな奴に頭を下げるのですか!!?」
納得のいかない陳宮の視線が更に鋭くミルドラースを睨む。呂布に頭を下げるのを強要しているのはこいつだと言うかのような視線だ。董卓達も呂布の行動の意図が読めずにどう口出ししたらいいのかわからない……その行動の真意は本人の口から語られる。
「……過程はどうであれ……みんな生きている……話は聞いたから……ありがとう」
呂布は自身が負けた……結果連合軍が勝利し、董卓達は降ることになったが命まで取ることはせずに濡れ衣を払ってくれたミルドラースに対してのお礼の表れだった。董卓達や兵士達を失わずに済んだことに安堵したし、真犯人も捕まって危険が無くなった。しかも董卓達を受け入れてくれると言うのだからお礼を言わずにはいられなかった。呂布も董卓達と共に過ごした日々は悪くないと思っていたし、失いたくないとも思っていた。それが本来ならば失う未来だったのが守られた。ならば言うことは恨み妬みではなく、心からのお礼だった。
……いい子だなぁ……ボコボコにしてしまった罪悪感が半端ないわ。だから俺もこの肉体の意思に逆らってでも伝えなければ……!
「……呂布よ、すまなかった」
言えた。
ミルドラースは態度を崩さずとも謝った。呂布に対して仕出かしてしまったことへの心の奥底から気持ちを振り絞って出した一言だった。それ以上のことは口から出すことはできずに終わってしまったが、その一言に秘められた思いを感じ取ったのか呂布は首を縦に振った。
「……恋……」
「むっ?」
「……わたしのことは……恋と呼んで」
「――ッ恋殿!?」
真名を名乗った。呂布がミルドラースに対して……当然陳宮はこれまた驚き、他のメンバーも陳宮と同じ反応だった。
「……わたし……まだ怖い……体が震える。けど、みんなを救ってくれたのは……感謝している」
「……ふむ」
「……だから……恋の真名を受け取って」
「……わかった」
「……今度は負けないように……強くなる……から……!」
微かに震える体でもこうして面と向き合って俺と対峙するとは強いな……呂布……否、恋は強い。だからこそこの肉体の持ち主であるミルドラースを追い込むことが出来たのかもな。そして天下無双が更に強くか……これは難易度がかなり上がりそうだな。俺もうかうかしていられなさそうだ。
二人のやり取りのおかげで緊張が和み、そこからは今後のことについての話し合いが行われ、ミルドラースは董卓達を養うことになった。その中でも陳宮だけはずっと最後まで睨みを利かせていた。
こうして全土を巻き込んだ戦争は最悪の結末は回避されたが、それぞれ新たなる脅威と心境を抱えながら各諸侯は自分の変えるべき場所へと帰って行く。しかしミルドラースはまだやるべきことがあった。
「桃香よ、愛紗達を連れて幽州を去るのだ」
劉備達と別れの時が来た。
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「ど、どうしてですかミルドラースさん!!?」
私は星ちゃんに呼ばれて通された部屋には白蓮ちゃんとミルドラースさんが待っていた。そしてミルドラースさんが私に対して投げかけた言葉が……
『「桃香よ、愛紗達を連れて幽州を去るのだ」』
どうしてそんなこと言うの……!?私はようやくミルドラースさんのように頑張ろうと思った矢先にこんなことになるなんて!?私が何か悪いこと言ったの?ミルドラースさんの機嫌を損ねることをしたの?ねぇ教えてくださいミルドラースさん!!
「落ち着け桃香、ミルドラース様の真意を読み取れないのか?」
「えっ?真意……?」
「桃香が不要になったわけでは決してないぞ。御心優しいミルドラース様はお前の為を思って言ってくださったのだ」
「私の……ために?それはどういうことですか?」
ミルドラースさんが私の為にとは……どういうこと?
お口が言うことを聞かないミルドラースは沈黙を余儀なくされ代わりに公孫賛と趙雲の二人が劉備に説明する。今の劉備達ではこの太平の世を生き残っていくには厳しいこと、関羽達との関係がこのままでは改善されないこと、そして劉備自身の優しすぎるが故の弱さ……それらを乗り越える為におそらく大陸中一番安全であろう幽州(ミルドラースの存在によって賊も近寄らない)より旅立ち新たな経験と仲間を求め、旅先で困っている人を救い、数々の試練に巻き込まれながら己を磨いて来いと言うものだった。そのことを突き付けられた劉備はしばらく俯いて黙っていたが、意を決したのか顔を上げた彼女の瞳はいつもの劉備とは違っていた。
「……私、再び旅に出ようと思います!ミルドラースさんを見て思い知らされました。人を救うためには強くならなきゃって!力は全然弱くてダメダメですけど……でも、夢を実現したい!愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、朱里ちゃんに雛里ちゃん達の期待を裏切りたくない!私はそんなみんなを引っ張っていけるように私自身を見つめなおそうと思います……だから……ミルドラースさん、短い間でしたけどありがとうございました!」
ミルドラースは見た。胸を張って己の思うを堂々と主張し、頭を上げた劉備はまさしく後に語られる三国志の劉玄徳その人だった。
「桃香……」
「白蓮ちゃん……元気でね。今度帰って来た時は今の私よりも大きくなって帰って来るから」
「ああ、頑張れよ桃香!」
「星ちゃんも……白蓮ちゃんとミルドラースさんのことをよろしくお願いします」
「言われるまでもないさ。桃香殿、世の中は厳しいことの連続続き……挫けそうになっても仲間がいれば必ず乗り越えられるはずですぞ。それを忘れずに」
「星ちゃん……うん!」
私……ミルドラースさんみたいになれるように頑張ります!今はまだダメダメな私だけど……今よりも強くなって愛紗ちゃん達と一緒にミルドラースさんに会いに来ますから!!
お互いに握手を交わし、友との別れを済ませた劉備はこの場を去ろうとした時、ミルドラースが一言呟く。
「……桃香よ、去る前に連れて行って欲しい人物がいる」
「えっ?それは誰ですか?」
「……よろしく」
「ねねもいるですよ!」
「ワン!」
扉を開けると前で待っていたのは大陸最強の武人呂布奉先と陳宮にセキト率いる呂布の家族達だった。
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「恋さん……行っちゃったね」
「そうだね」
「恋ちんいなくなると寂しくなるなぁ」
「ねねも……な」
城壁から去って行く劉備達を見つめる董卓、賈駆、張遼、華雄の四人は事前に呂布から聞かされていた。呂布も劉備達と旅に出て己を鍛えなおすつもりだ。本人の口からそれを聞いた。彼女は初めて敗北し、大陸最強と言う称号を失い只の武人呂布となった。そして同時に彼女は超えるべき存在へと挑むために己を高めることを決意した。
「恋ちん、あれにまた挑むつもりやで」
「凄いな、私は……対峙しているだけで崩れそうになるのに」
「ウチかてあれには挑みとうないわ。でも恋ちんは本物の武人や、負けっぱなしは嫌なんやろ」
「流石だな」
張遼と華雄の二人は自分達ではどうしてもミルドラースには敵わない……心の奥底から実感してしまった。しかし呂布は絶望を与えられ、打ち負かされて体が恐れを憶えても彼女は止まることはしなかった。最強は自分などではなく、上には上がいることを思い知らされた彼女は更なる高みへと手を伸ばそうとしていたことに同じ武人として張遼と華雄は尊敬している。
「恋だけじゃない……ねねも……セキト達も行っちゃうんだね」
「そうだね永ちゃん、ねねちゃんは恋さんについて行くと決めたんだから私達では止められないよ」
「そうだけど……少し寂しいかな」
「……そうだね」
呂布は己を鍛えなおす為に度に出る。陳宮は呂布の傍にいつもいると誓った……セキトも動物たちも彼女と共に去って行く。賈駆も董卓もみんなで過ごした温かい時間を思い出し、寂しさが支配する……しかしそれは彼女達が決めた道……誰も止める権利はない。だから董卓達は呂布達をそっと見送ることにした。
「……いつかまた会えるといいわね」
「何言っているんや?会うんや」
「そうだな。私達はきっと恋にもねねにも……」
「霞、華雄……そうね。恋達がそんじょそこらの奴にやられるわけもないもんね!」
「ふふ、私達も恋さん達に負けないぐらいここ幽州で新しく頑張りましょう。明日から忙しいみたいですし……ミルドラースさんに助けていただいた分しっかりと働かないと」
夕日が大地を赤く染め、離れて行く影は見えなくなっていく。だが寂しいと思うのはここまでだ。明日からは新たな生活がこの地で始まる……
「(恋さん、ねねちゃん……頑張ってください……)」
見えなくなった友達に董卓は静かに声を送るのであった。