お人好しトリオ   作:山元周波数

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第十話 ひらめき

 ミッツーと詩織の調査で、小杉の事が好きだとわかった山田俊明(やまだとしあき)。彼の元へ向かった三人トリオだったが、しかし彼はラブレターなど入れていないと言う。事件は振り出しに戻っていた。

 

 その日の夜。

 (くそ、誰がラブレターを入れたのかさっぱりわからない)

 学校が終わり、直ぐに家に帰って自分の部屋に閉じこもって考えていたが、周五郎にはさっぱり分からなかった。

 (なにか、なにかを見落としている気がするんだ。

 例えば山田が嘘をついているというのはどうだろう……) しかし、周五郎は直ぐに首を横に降った。

 

 (いや、そんなことをするメリットが無い。じゃあいったい……)

 周五郎がふと時計を見ると、既に夜9時を回っていた。部屋を見渡すと、もう真っ暗である。

 (随分と考え込んでしまったな。そういえば、小谷川にストーカーの話を聞くという約束をしちまった。まだラブレター事件は解決してないが、しょうがない。取り敢えず話を聞こう) 周五郎は小谷川の携帯に電話をかける。かけてから、2コール目で電話に出る音がする。

 

『もしもーし』 と元気な声が聞こえる。

 

『もしもし、小谷川か? 周五郎だ』

 

『そりゃ私の携帯なんだから、私に決まってるじゃない』

 周五郎は恥ずかしそうに笑って、

『一応確認ってやつさ。なあ、依頼の話なんだけど……』

 

『うん、よろしくお願いしまーす』と小谷川は大きな声でお願いをする。

 

『はあ、わーったよ。んで、先ずお前の幼なじみでもある、ストーカーさんってのは誰なんだ?』

『名前は小泉広木(こいずみひろき)。 1年C 組の人だよ。 今日言ったとおり、私の幼なじみで、昔は仲が良かったんだけれど……』

『高校に入ってからは喋る機会が無かった?』 と周五郎は後を繋げるように言う。

 

『そういうことだよー』

 と小谷川は無邪気に答えてくる。

 

『まず、聞きたいことがいくつかある』

『はいはーい、なんでもどうぞ』

『その小泉(こいずみ)って奴とはいつ頃から仲が良かったんだ? そして、仲が良くなったきっかけは?』

 

 電話越しに、小谷川がうーんと悩んでいる声が聞こえる。

 

『いつ頃かぁ……、 あんまり詳しく覚えてないよ。だって仲良くなったのは幼稚園にいたときとかそんな頃だもん』

『そんなに前のことか。じゃあきっかけも……』

『うーん……覚えてないや』

『じゃ、質問を変えよう。お前が最初にストーカーに遭っていると感じたのはポストの中に「恨んでやる」と書かれた手紙を見つけたからだよな?』

『うん、そうだよ』

『その後にお前が受けた被害は?』

『うーん、そうだね……、たとえば後ろから誰かに見られている感じがしたんだよね』

 

 小谷川の声のトーンが少し低くなる。さっきまで、比較的元気に喋っていたけれど、やっぱり精神的にダメージを受けてるな、と周五郎は思う。

 

『ん、だいたいわかった。それで、お前が望んでいる対策は?』

『というと?』

 小谷川の不思議そうな声が聞こえる。彼女が受話器越しに首をかしげているのが目に浮かぶ。

 

『ストーカーを撃退してほしいのか、お前を守ればいいのか、ストーカーに説教をすればいいのか……』

『説教かな』 と小谷川は即答する。

 

『わーった。それで、そのポストに入ってた手紙、写真を撮って俺に送ってくれないか?』

『そ、それが……、捨てちゃった』

 てへぺろ、と舌を出す音が聞こえる。

 

 周五郎は思わず、はぁ、と間の抜けるような声を出した後、声を張り上げて

『ふざけんな!! なんで捨てちゃうんだよ。大事な証拠品だろうが』

 

 周五郎の怒った声に全く悪びれず小谷川が言った。

 

『だってぇ、気持ち悪かったんだもん』 

『お前まさか警察に行ったとき、手ぶらで行ったのか?』

『そりゃ、普通捨てるでしょ』

『捨てねえよ!  口でストーカーに遭ってます、と言うより、ストーカーに遭ってる証拠を見せた方が信憑性が高いだろうが』

『あ……、そう言われてみれば……』 さすが周五郎君ー、などと呑気な声が聞こえてくる。

 

 周五郎は頭を抱えながら、

『気づけよ、そのぐらい……。 警察が動いてくれない理由の1つだろうな』 とため息混じりに言う。

 

 (くそ、せっかく幼なじみという小泉を説得するときの道具として使えると思ったのに……

。それに、そいつの字が見れれば、そいつの性格等を予想できると思ったんだが)

 

 周五郎は少し考えた後、

『なあ、小泉の字が書いてあるものはないのか?』

『字が書いてあるものかぁ……、そういえば私、彼と交換日記してたのよ』

 

 周五郎は目を輝かせて、

『本当か。なら、スマホで撮って、俺に送ってくれ』

『了解でーす』

『これからのことをミッツーと詩織にも相談してみる』

『お願いしますー』 

『んじゃあ、電話切るぞ』

『ほーい♪』

 プチン、と電話を切りこれからのことに思いを馳せる周五郎。すると、携帯の着信音が静かな周五郎の部屋に鳴り響く。

 

 (小谷川が画像を送ってきたんだな)

 周五郎が携帯を眺めると、小谷川の画像添付メールがきていた。そして、それを見て驚愕する。

 

 (名無しのラブレターと字が一緒だ!!)

 交換日記の中には、名無しのラブレターの中に書かれていた綺麗な字が書かれていた。いったいどうなっているんだ、と一人叫び散らし、携帯を壁に投げ飛ばす。

 

 (なぜこんなことになるんだ。小泉は小杉に名無しのラブレターを送り、そして、小谷川には、ストーカー行為を行っている……。そんな馬鹿なことがあるか! 何のためのラブレターだ、何のためのストーカー行為なんだ。愛を伝える為じゃ無かったのか?自分の秘めた想いが押さえきれなくなって、それを必死に相手に伝えたいんじゃ無かったのかよ!)

 

 くそくそくそ、と周五郎は部屋で一人怒鳴り散らす。頭の片隅で、髭じい達が心配するかもしれないと思いながらも、どうしても叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周五郎は散々一人で叫び散らし、さすがに疲れたのか、ぜえぜえと荒い声を上げている。そしてこの数日に起きた出来事をぼんやりと思い起こしていた。そして、さっきまで一人で大騒ぎしていた周五郎が突然、「あっ」と叫ぶ。

 

 (なんだ、そういうことだったのか。よく考えればわかることじゃないか)

 何かを思い付いた周五郎は今度は腹を抱えて笑い出した。

「ふふふ、あはははははははははっぁ」

 彼の静かな部屋に笑い声が響き渡る。

 

 (そうとわかれば話は早い。まずは……)

周五郎は床に転がった携帯を拾い、また電話を掛け始めた。

 

『もしもし、ミッツーか?』

『こんばんは、周。なにかあったのかい?』

『ミッツー、大至急頼みたいことがあるんだが……』

 

 これで明日は上手くいくだろう、と一人で笑う周五郎であった。

 

 

 

 

 


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