機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第4話   紅き閃光

 

 

 

 

 

 

 ミネルバは奪われた新型機の奪還及び破壊の為、ボギーワンが逃げ込んだと思われるデブリが散乱する宙域に辿り着いていた。

 

 この付近で逃げてきた敵艦を捕捉できたのは良かったのだが、よりによってこんな場所とは。

 

 「さて、どうしようかしら」

 

 タリアが考えていたのはこの状況で発生するだろうリスクについてである。

 

 一つ目はデブリに紛れられるとセンサーでは捉えにくくなる事―――ミネルバのセンサーは優秀ではあるが単純にそれだけに頼るのは危険である。

 

 二つ目は視界の悪い場所である為に罠も張りやすい―――敵もこちらが近づいている事は重々承知の筈。

 

 この場所で何かしら仕掛けようと考えるのは指揮官ならば当然の戦略だろう。

 

 さらに悪いのはミネルバのクルー達の大半が経験の浅い新兵ばかりである事。

 

 引き換え敵部隊はアーモリーワンで行ったような作戦をこなす精鋭と言っても差し支えない部隊だ。

 

 油断はそれだけで死に直結するだろう。

 

 念のために保険は掛けておいたのだがそれも間に合うかどうか。

 

 「後は……」

 

 タリアは現状におけるもう一つの懸念事項を思い出してため息をついた。

 

 まあそれは戦闘に関する事ではなく自身の心情的な問題なのだが。

 

 チラリと後ろをのぞき見るとそこには中立同盟のアイラ王女とその護衛役の二人がデュランダル、ヘレンと共に座っているのだ。

 

 部外者である彼女達が何故ここにいるのかといえば、デュランダルがここに招き入れたからだった。

 

 「君も知っての通り中立同盟は前大戦においても多大な戦果を上げられた。アイラ王女はその軍事最高責任者でもある。そんな彼らの視点からミネルバの戦いぶりをご覧頂きたいと思ってね」

 

 最高責任者である議長にこう言われてしまっては否とはいえまい。

 

 デュランダルだけでも面倒だというのに、この上他国の人間までいるとなると本当にやりにくい事この上ない。

 

 だがそれでも優先すべきは目の前の戦闘であると認識している。

 

 だからあえて後ろの事を考えずに指揮に集中する事にした。

 

 「シンとセリス、ルナマリアを先行させます。準備はいいわね?」

 

 「はい!」

 

 メイリンが指示を伝えカタパルトからコアスプレンダーが出撃すると同時にチェストフライヤーとレッグフライヤーが飛び出してドッキングする。

 

 背中に装備された装備はブラストシルエット。

 

 これは対艦攻撃・火力支援を想定した装備である。

 

 武装は対艦・対要塞用のビーム砲『ケルベロス』。

 

 『ケルベロス』と一体となっている四連ミサイルランチャー、肩部に装備された超高初速レール砲、さらに近接専用のビームジャベリンを装備している。

 

 念の為にレイのザクファントムを直掩として残している。

 

 ブラストシルエットを装着したインパルス、セリスのセイバー、オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を装備したルナマリアのガナーザクウォーリア。

 

 そして一緒に出撃した二機のゲイツRとデブリの中に入っていく。

 

 あの部隊の手強さはアーモリーワンでの攻防により痛感しているタリアはデブリの中に入っていく機体を見つめながら、改めて気を引き締めるとモニターに注視した。

 

 その様子を眺めながら後ろに座っていたマユは激しく動揺していた。

 

 表情や態度に出なかったのは日頃の訓練の賜物と言えるだろう。

 

 理由は明白である。

 

 タリアが口にした名前―――

 

 「(シン……やっぱりさっき格納庫で見た後ろ姿は)」

 

 兄のシンはザフトにいる?

 

 あえて考えようとしなかった事が再びマユの中で渦巻いていた。

 

 その時アイラを挟んで座っていたデュランダルが意味深に呟いた。

 

 「あの艦『ボギーワン』の本当の名前は何なのだろうね?」

 

 「議長?」

 

 突然口を開いたデュランダルを思案に暮れていたマユはチラリと見る。

 

 「名はその存在を示すもの。その名が偽りならばその存在もまた偽りという事になる。どう思っているのかな―――アレンは」

 

 どういう意味なのだろうか。

 

 誰もがその意味を測りかねている中、デュランダルはそれ以上なにも言わず終始笑みを浮かべたままモニターを眺めていた。

 

 

 

 

 デブリの中に入って行ったシン達はボギーワンを追随する形で後を追っていた。

 

 鬱陶しいほどに数多く浮遊している残骸を避けながら周囲を警戒する。

 

 出撃前にも言われた事だがあまりに視界が悪く罠を張るには絶好の場所だ。

 

 注意しながら進まなければならない。

 

 デブリの陰に注意を払いつつ前方を警戒していたシンの耳に後ろにいるルナマリアの呟きが聞こえてきた。

 

 「あまり成績良くないんだよね、デブリ戦」

 

 「だから苦手な事は克服しておこうって言ったのに。ルナ、これ終わったら訓練ね」

 

 「えっ!? その、セリスの訓練は……シンと訓練すればいいんじゃないの?」

 

 「逃げようとしても駄目だよ」

 

 セリスはアカデミー時代から良くも悪くも真面目だった。

 

 その為か訓練となると教官よりも鬼になると有名なのだ。

 

 もちろんシン自身何度も体験済みなのは言うまでもない。

 

 女同士の会話の気まずさに合わせアカデミー時代の一種のトラウマを思い出していたシンは固く口を閉ざし、何も言わない事にした。

 

 余計な口を挟めば間違いなくこっちにとばっちりが来る。

 

 シンが意識的に二人の会話を聞かないようにすると、ふと格納庫で見た少女の事を思い出した。

 

 サングラスをかけ髪を後ろに束ねていた所為かよく顔が見えなかったが、もしかするとあれは―――

 

 「……いや、そんな訳ないだろ」

 

 妹が、あの優しかったマユがモビルスーツに乗って戦うなんてありえない。

 

 何より彼女はもうこの世にいないのだから。

 

 頭を振って変な考えを追い出すと正面に意識を向けたその瞬間―――誰もが予想すらしていなかった事が起きた。

 

 突然前方にて何かの爆発が起きたのである。

 

 「全機停止! 前方警戒!!」

 

 シンの声に反応してセリスとルナマリア、他二機も停止した。

 

 そして次の瞬間ボギーワンの反応が何もなかったかのようにかき消えた。

 

 「えっ、消えた!?」

 

 「どうなってるの?」

 

 「皆、油断しないで!!」

 

 全員警戒する中、前方から飛び出して来たのはシン達が追っていたカオス、ガイア、アビス、そしてもう何機かのモビルスーツ。

 

 あれは―――

 

 「テタルトスの!?」

 

 シン達の視線の先にいたのはテタルトス月面連邦所属のモビルスーツであるフローレスダガーとジンⅡであった。

 

 「何でこんな所いるのよ!?」

 

 ルナマリアが疑問に思うのも無理はない。

 

 本来月防衛を主としてきたテタルトスは滅多に月の外には出てこない。

 

 軍事侵攻と取られかねない為である。

 

 だからこそこんな場所で遭遇するなど、予想すらしていなかった。

 

 しかし、予想外だったのはシン達を待ち伏せていたスティング達も同様であった。

 

 「どうなってんだよ!? なんで月の連中が!?」

 

 アビスの胸部からカリドゥス複相ビーム砲をジンⅡに叩き込むが、敵は機体を半回転させて回避し対艦刀を振り抜いてくる。

 

 「チッ、対艦刀か!」

 

 ジンⅡが現在装備しているのがソードコンバットと言われる近接戦用装備であった。

 

 インパルスのソードシルエットと同じように背中には二本の対艦刀『クラレント』

 

 さらには射撃戦も可能なようにビーム砲も装備している。

 

 アビスは振り抜かれたクラレントをビームランスで受け止め、突き放す。

 

 同時にカオスの機動兵装ポッドからのミサイルが降り注ぐ。

 

 「知るかよ! 俺が聞きたいくらいだ!」

 

 彼らはあくまでもここでインパルスを含む敵機を待ち伏せろとしか言われておらず、こんな場所に月の連中がいるなど知る筈はない。

 

 今、分かっているのはこいつらが敵であり邪魔である事だけ。

 

 「どっちにしろ、こいつらもザフトもまとめて片付ければいいだけだ! ステラ!」

 

 「うん!」

 

 ガイアはモビルアーマー形態に変形するとデブリを踏み台に勢いをつけビームブレイドを展開、ジンⅡに斬り込んだ。

 

 「はああああ!!」

 

 しかしその突撃は横から割り込んで来たフローレスダガーの放った対艦ミサイルによって阻まれてしまう。

 

 「ぐっ、邪魔ァァァ!!!」

 

 ミサイルの直撃を物ともせず、ステラはそのまま突っ込んでいく。

 

 そんな風に目の前で繰り広げられ、見ている者を引きこむ苛烈な戦闘。

 

 それを呆然と眺めていたルナマリアが我に返って叫んだ。

 

 「ちょ、これ、どうするの!?」

 

 「それは……」

 

 とてもじゃないが乱入するなど無謀。

 

 ガイアのビームビームライフルを横に飛んで回避、側面から回り込んだフローレスダガーがビームサーベルを叩きつける。

 

 だが、割り込んで来たカオスがシールドで受け流すとアビスが援護の為にビーム砲を放った。

 

 強い。

 

 個々の強さにおいてはテタルトスのパイロット達はあの三機には劣る。

 

 だがそれを互いの高度な連携で補い合い互角の戦いに持ち込んでいた。

 

 「錬度が違うわね」

 

 「うん」

 

 しかし何時までも呆けてはいられない。

 

 ガイアがこっちに気がついたらしくビームライフルで狙ってくる。

 

 「全機散開、各個応戦!!」

 

 ガイアの攻撃を回避しながらシンはテタルトスの対応について決めかねていた。

 

 アカデミーでは彼らは敵で裏切り者であると教えられた。

 

 しかし現状彼らはこちらに対して一切攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 

 何よりも今のシンにあの三機以外に構っている余裕はないというのが正直なところだ。

 

 同じようにセリスやルナマリアも迷っているようだったが、ゲイツRのパイロットであるショーンとデイルは違ったらしい。

 

 「この裏切り者共!!」

 

 「落ちろ!」

 

 ゲイツRの放ったビームライフルとレールガン。

 

 それをフローレスダガーは背中に装備されたウイングコンバットのスラスターを吹かせギリギリで回避する。

 

 だが何度ショーン達が攻撃を加えてもジンⅡもフローレスダガーも反撃してこない。

 

 「二人共テタルトスの機体は無視して! これはボギーワンの罠よ!」

 

 セリスの指摘にシンもようやく冷静に状況を理解する。

 

 ボギーワンの反応が消え、カオス達の待ち伏せ。

 

 なら今頃あの艦がどうしているかなど簡単に予想できる。

 

 「ミネルバに急いで戻らないと!」

 

 「シンの言う通りよ。二人共―――」

 

 ルナマリアの言葉は最後まで続かなかった。

 

 二機のゲイツRはアビスの三連装ビーム砲で撃ち抜かれてあっさりと撃破されてしまったからだ。

 

 「ショーン! デイル!」

 

 ガイアのビームサーベルを回避しながら背中のケルベロスを跳ね上げると敵機をロックしてトリガーを引く。

 

 凄まじい閃光が銃口から発射されデブリを破壊しながらガイアに迫るがひらりとかわされ捉えるには至らない。

 

 「くそ!」

 

 そこで気がついた。

 

 先程までいたジンⅡとフローレスダガーの姿がいつの間にか見えなくなっていたのだ。

 

 「こっちに押し付けて撤退したってことかよ!」

 

 思わず悪態をついてしまうが、戦略として決して間違ってはいない。

 

 シン達も隙を見てそうするつもりだったからだ。

 

 「あ~もう邪魔よ!」

 

 「こんな事してる場合じゃないってのに!!」

 

 先程ボギーワンから攻撃を受けているとミネルバから帰還するように命令がきた。

 

 これが罠だった以上ここで戦い続けても、その間にミネルバが落とされる可能性がある。

 

 「落ちろ、合体野郎!」

 

 「落ちるかよ!」

 

 カオスの背中から機動兵装ポッドが飛び出すとインパルスを狙って四方から攻撃を加えてくる。

 

 スラスターを使い動き続けてビームを回避するとビームライフルでカオスを狙う。

 

 だが機動兵装ポッドによる攻撃で体勢が崩されていた為に正確な射線が取れない。

 

 「シン!」

 

 セリスがビームライフルでインパルスからカオスを引き離し、背中のアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲をアビスに叩き込んだ。

 

 「チッ、邪魔な奴だな!」

 

 セイバーから放たれた強力なビームをアウルはデブリを盾にして事なきを得る。

 

 「ありがと、セリス! 落ちなさい!」

 

 ルナマリアはこの場においては不得手な射撃を捨てビームトマホークでの接近戦を選択する。

 

 障害物も多い上に視界も悪い。

 

 さらにデブリを利用して縦横無尽に動き回るガイアに当てる事は出来ないと判断したからだ。

 

 「はああ!」

 

 「邪魔」

 

 振りかぶられたビームトマホークを忌々しそうに睨みつけたステラはモビルスーツ形態に戻りシールドで弾き飛ばした。

 

 今の戦況は何とか五分と言えるだろう。

 

 だが未だに三機を引き離しミネルバに向う事が出来ない。

 

 「これじゃ戻りたくても戻れない!」

 

 カオスの苛烈なまでの攻撃を流しながらミサイルを撃ち返して隙を窺う。

 

 それでも一向に好転しない状況にシンの焦りは募る一方であった。

 

 

 

 敵の策に乗せられたのはシン達だけではなく、ミネルバも同様である。

 

 こちらが気がつかないうちに背後に回り込み待ち構えていたガーティ・ルーの攻撃が容赦なく降り注ぐ。

 

 「後ろを取られるなんて、何とか回り込めないの!?」

 

 「無理です! 回避だけで精一杯です!」

 

 これではトリスタンやイゾルデの射線も取れず、近くの小惑星に隠れながら敵の攻撃をかわして行くのがやっとだった。

 

 だがこのままでは不味い事もタリアには分かっている。

 

 敵からの砲撃により小惑星が削られ徐々に岩盤の破片に囲まれつつあるからだ。

 

 このままでは―――

 

 撃沈されまいと粘るミネルバの姿はガーティ・ルーのブリッジからでも確認できた。

 

 「このまま鬼ごっこを続けるのですか?」

 

 「いや、もう何発か撃ち込んでやれば小惑星の破片に囲まれ動きが取れなくなる。後はモビルスーツで仕留めればいい」

 

 それで終わりだろう。

 

 だがネオはどうも嫌な予感がしていた。

 

 何かが起きる、そんな感覚が消えなかったのだ。

 

 「ダガ―L出撃。エグザスも準備させろ。ここで沈めるぞ」

 

 「私も出ます」

 

 「頼む。……スウェン、気をつけろ。何かあるかもしれない」

 

 そんなネオの言葉にイアンも表情を引き締めた。

 

 こういう時のネオの勘は良く当たるのだ。

 

 隣に立っていたスウェンと共にブリッジから格納庫に向かう。

 

 ここまで追い詰めておきながら自ら出撃しようとしていている理由は嫌な予感やミネルバとは別にもう一つだけ気になる事がある為だ。

 

 それは言うまでもなくテタルトスのモビルスーツがこの宙域にいた事であった。

 

 ジンⅡとフローレスダガーがいたという報告はスティング達からすでに報告を受けている。

 

 単純な遭遇戦にしても母艦も無しにこんな場所にいるとは考えづらい。

 

 「何かあるのか、ここに?」

 

 益々嫌な予感は増していく。

 

 

 ―――そしてそんなネオの直感は的中する事になる。

 

 

 

 

 誰も気が付いていないデブリの中。

 

 ミネルバとガーティ・ルーの戦っている小惑星からほど近い場所でその戦艦は戦闘を見守っていた。

 

 それは地球軍の戦艦の特色を持ちながらもザフトのナスカ級に似た艦であった。

 

 テタルトス軍プレイアデス級戦艦『クレオストラトス』

 

 テタルトスで制作されたプレイアデス級はザフトのナスカ級をベースにしながらもアークエンジェル級のデータを参考に開発された戦艦である。

 

 ナスカ級に比べてやや大型化しているが、モビルスーツ搭載数の大幅な増加と火力強化に成功している。

 

 そんなクレオストラトスの艦長はこの部隊の指揮官であるアレックス・ディノ少佐を見る。

 

 彼は何も言わずにモニターに映る戦闘を眺めていた。

 

 「どうなさいますか、少佐?」

 

 モニターを見ていたアレックスは特に表情を変えないまま視線だけをこちらに向けた。

 

 「データは収集は?」

 

 アレックスの言うデータとは新型艦であるミネルバ、そしてセカンドシリーズのモビルスーツ達のものだ。

 

 カオス達と戦っていたジンⅡとフローレスダガーは帰還済みであり、彼らからすでにデータを取得したと報告を受けていた。

 

 「はい、問題なく」

 

 本来の任務は中断する事になるが最低限の調査は終了しており、後は無事にこの宙域から離脱するだけである。

 

 支援の為の部隊が派遣されてくる予定らしいがそんな必要はないと少なくとも艦長はそう判断していた。

 

 「……ガーネットを用意してください。俺が出ます」

 

 「少佐自ら?」

 

 「いくら戦闘中とはいえ動き出せばクレオストラトスも気づかれるでしょう。艦が離脱する間、敵の追撃がないように俺が引きつけます……それにデータだけでなく実際戦った方が分かる事もある」

 

 そう言うとブリッジから出て格納庫に向かう。

 

 本来ならばこの戦闘に自分達から参戦するのはリスクがある。

 

 下手にザフトに攻撃を仕掛けると侵攻の口実にされかねないからだ。

 

 しかし今回に限ってはその心配はなくなった。

 

 先ほどの戦闘でこちらからは一切手を出していないにも関わらず、ザフト側から一方的に攻撃を受けた際の映像を記録出来た。

 

 やりすぎる訳にはいかないのは変わらないのだが、映像を提示すれば難癖をつけられる事だけは回避できるだろう。

 

 パイロットスーツに着替え格納庫に入ったアレックスの目の前には一機のモビルスーツが立っている。

 

 LFSA-X001 『ガーネット』

 

 テタルトスの試作モビルスーツの一機。

 

 前大戦最終決戦に投入されたイージスリバイバルを基にしている為か造形も良く似ている。

 

 武装も基本的な装備に加え、シールドに三連ビーム砲も搭載されている。

 

 アレックスは慣れた手付きで機体を起動させるとカタパルトまで機体を移動させる。

 

 「まずは奪取された機体からだな」

 

 機体全体が真紅に染まると同時にペダルを踏み込みスラスターを噴射させ外に飛び出した。

 

 「アレックス・ディノ、『ガーネット』出る!」

 

 

 

 

 ミネルバはガーティ・ルーから撃ち込まれる砲撃に絶えず晒され追い込まれていた。

 

 すでに周囲は岩盤の破片が散らばりこちらのミサイルも届かない有様だ。

 

 「このまま落とさせてもらう」

 

 出撃していたネオ達がガーティ・ルーの攻撃と合わせミネルバに止めを刺そうとした瞬間―――危険を察知した。

 

 「全機散開!!」

 

 「ッ!?」

 

 ネオは操縦桿を引きスラスターを逆噴射させる。

 

 だがスウェン以外の者たちは何が起きたのか分かっていない為に反応が遅れてしまった。

 

 それが彼らの明暗を分けた。

 

 「大佐、何―――」

 

 聞き返そうとしたダガーLのパイロットは言葉を言い切る前に上からのビームに撃ち抜かれ蒸発してしまった。

 

 それだけではない。

 

 連続で放たれたビームがミネルバに攻撃を仕掛けていたガーティ・ルーのゴットフリートに突き刺さり破壊された。

 

 同時にレール砲が撃ち込まれ動きを止められてしまう。

 

 「新手か」

 

 爆散したダガーLから離れると同時に攻撃が放たれた方向に視線を向ける。

 

 そこには奪取したザフトの新型とよく似た造形を持つ機体がライフルの銃口をこちらに向けて突き付けていた。

 

 「インパルス……いや、似ているが別の機体か」

 

 ZGMF-X51S 『エクリプス』

 

 インパルスのプロトタイプとして開発された機体。

 

 この機体は各シルエット開発のデータ収集を目的として開発された側面を持っており、合体機構こそ搭載していないがインパルス同様シルエットを装備できる事が特徴である。

 

 だが普段は専用のエクリプスシルエットを装着している。

 

 これは高機動用スラスターに装備ラックが二つ設置してあるもので、エクリプス用の武装を装着できる。

 

 現在はレール砲『バロール』とビームガトリング砲を装着していた。

 

 この機体に搭乗しているパイロット、アレン・セイファートはビームライフルを構えてネオ達と対峙する。

 

 彼はこの戦闘が始まる前からすでに出撃、機体の微調整を兼ねて先行していたのである。

 

 「思ったより調整に時間がかかった。だが、これ以上はやらせない」

 

 アレンはスラスターを吹かすと同時にビームライフルを構えるとダガーLを狙い撃つ。

 

 正確な射撃によりあっさりとダガーLが撃ち抜かれ、さらにビームサーベルでもう一機を斬り裂いた。

 

 「まだ新型があるとはな」

 

 「それにあの動きは只者じゃありません」

 

 エクリプスの動きを見ていた二人は即座にアレンの技量を見抜き、さらにネオはあの白い一つ目とは違う感覚を感じ取っていた。

 

 そしてそれはアレンも同じである。

 

 「あのモビルアーマーは……」

 

 アレンはネオを最優先に倒すと決め、機体を加速させるとビームサーベルで斬り込んだ。

 

 ネオは振り下ろされたビームサーベルを直前で回避、距離を取りガンバレルを展開してエクリプスを囲むようにビームを撃ち込む。

 

 「ガンバレルか!」

 

 しかしエクリプスはビームの軌道を読んでいたかのような動きで回避すると逆にライフルでガンバレルを撃ち落としてきた。

 

 「なっ!?」

 

 これにはネオも流石に驚いてしまう。

 

 あの白い一つ目も厄介ではあったがこいつはそれ以上かもしれない。

 

 「スウェン!」

 

 ネオに言われる前にスウェンは動いていた。

 

 エクリプスにビームライフルショーティーを連続で放ち、ガンバレルの射線に誘導しようとする。

 

 しかしアレンはそれを見透かしているかの様に上昇してやり過ごすと、ビームガトリング砲を構えてストライクEに撃ち込んだ。

 

 「チッ」

 

 こちらの狙いを外してきた敵機にネオは思わず舌打ちしてしまう。

 

 舌打ちしたいのはスウェンも同じであった。

 

 こちらが放ったビームは尽く何もない空間を薙いでいくだけで、一向に敵を捉えられない。

 

 しかも敵の攻撃はまさに正確無比とでもいえばいいのか、確実にこちらを仕留めにきている。

 

 スウェンは敵機のガトリング砲から放たれたビームの雨を正面に加速する事で回避すると、今度はビームサーベルを袈裟懸けに振るった。

 

 ストライクEのビームサーベルをシールドで受け止め、アレンとスウェンはお互いの技量に舌を巻く。

 

 「こいつ、やるな」

 

 「強い」

 

 二機が弾け飛ぶとエグザスがリニアガンを放ちながら戦闘に加わり、激しい攻防が繰り広げられる。

 

 そんな戦場を尻目にエクリプスの参戦した事で敵の攻撃の手が緩み余裕が出来たミネルバは何とか瓦礫に囲まれた状況から離脱しようと策を講じていた。

 

 だが簡単に妙案は出てこない。

 

 そんな中で声を発したのは部外者であるアイラ王女の護衛役であった。

 

 「……生き残っているスラスターはいくつですか?」

 

 物静かな印象である名前も知らない彼女から発言があったのは意外であったが部外者である彼女からの声に苛立ちが募る。

 

 正直邪魔であり、黙っていて貰いたい。

 

 しかしデュランダルの方へ目を向けると笑顔のまま頷いた。

 

 つまり教えろという事らしい。

 

 「六基よ。でもそんなのでのこのこの出ていっても―――」

 

 「同時に右舷の砲を一斉に撃つんです。小惑星に撃ち込んだ砲撃の爆発で瓦礫と一緒に船体も押し出すんです」

 

 彼女の提案に思わず言葉を失った。

 

 そんな無茶な提案を理解したアーサーが叫び声を上げる。

 

 「馬鹿言うな! そんなことしたらミネルバも―――」

 

 「それは分かっています。しかし他に有効な打開案はないのでしょう?」

 

 「うっ」

 

 確かにその通りだ。

 

 今はエクリプスによって敵の攻撃は止まっているが何時再開されるか分からない。

 

 つまり今が状況を変える最後で最大の好機となる。

 

 「……私が部外者である事は重々承知しています。しかしこのままではアイラ様の身にも危険が及びかねない。だからこそ提案しただけです。どうするかはあなた達が決める事ですから」

 

 それだけ言うと彼女は黙ってしまった。

 

 再びブリッジが沈黙する。

 

 タリアは数瞬だけ思考すると意を決したように指示を飛ばした。

 

 「右舷砲門一斉発射準備! スラスター全開と同時に一斉発射します!」

 

 「艦長!?」

 

 「確かに今はこれしかないわ。ここで沈む訳にはいかない。ここには議長もいるのよ」

 

 その言葉にアーサーも納得したのか前を向いた。

 

 「タイミングを合わせなさい、撃てぇ―――!!!」

 

 ミネルバから発せられた砲弾による爆発で周囲の瓦礫が吹き飛ばされていく。

 

 

 これが状況を好転させる号砲となる。

 

 

 飛び出したミネルバは動きを止めたガーティ・ルーに艦の先端に装備されている陽電子砲タンホイザーで狙いをつける。

 

 「タンホイザー発射準備、照準ボギーワン!!」

 

 「撃てぇ―――!!」

 

 ミネルバ先端の砲口から凄まじい閃光が放たれガーティ・ルーに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 状況が変化したのはミネルバ方面だけではない。

 

 デブリの中で戦闘を行っていたシン達の状況も変わっていた。

 

 インパルスはカオスの機動兵装ポットを回避しながらデブリの陰に隠れ、ケルベロスを放つ。

 

 邪魔なデブリを薙ぎ払いルナマリアのザクに飛び込もうとしていたガイアを狙う。

 

 だが流石というべきだろうか。

 

 完全に死角からの一撃だったというのに掠める事無く回避して見せたのだ。

 

 「くっ」

 

 シンとしては今一撃で仕留めたかったのだが。

 

 だが不満だったのはガイアのパイロットであるステラも同様だった。

 

 いや彼女の場合は不満などと生易しいものではない。

 

 激しい怒りが今にも吹き出しそうだった。

 

 「お前はいつも、いつもォォォ!!」

 

 ガイアがインパルスに対して突撃しようとモビルアーマー形態に変形した瞬間、左のビームブレイドが吹き飛ばされた。

 

 完全に予想外の攻撃。

 

 誰が撃った?

 

 目の前の赤い一つ目はなにもしていないし、合体する奴も同様。

 

 赤い奴はアウルと戦っている。

 

 一体―――

 

 そうしてステラが周囲を見渡した瞬間、デブリの外から一機のモビルスーツが凄まじい速度で接近してきた。

 

 「何だあの機体は?」

 

 突っ込んでくるのは見た事もない紅い機体。

 

 いや、特徴としては自分達のセカンドシリーズと似ている部分はある。

 

 ガイアを撃ったのはビームライフルを構えたアレックスのガーネットであった。

 

 「お前も邪魔だァァ!!」

 

 ガイアは傷つきながらも再びモビルスーツ形態に変形し、ビーム砲でガーネットを牽制しながら、横薙ぎにビームサーベルを叩きつける。

 

 動かない敵機に勝利を確信するステラだったが、次の瞬間、彼女の思考は驚愕に染まった。

 

 横薙ぎに払ったビームサーベルは腕ごと一瞬でガーネットによって斬り飛ばされていたからである。

 

 「なっ!?」

 

 「遅い」

 

 アレックスは驚愕で動きを止めたガイアを容赦なく右足のビームサーベルで斬り払った。

 

 ステラは機体を後退させ斬撃を回避しようとするが避けきる事が出来ず、ガイアの胸部装甲は大きく破壊されてしまった。

 

 「きゃあああ!」

 

 「ステラ!!」

 

 「なんだよ、こいつは!!」

 

 インパルスとセイバーを引き離したカオスとアビスがガーネットに襲いかかる。

 

 だがアレックスからすればあまりに遅い。

 

 フットペダルを踏み込みガーネットを加速させるとカオスとアビスに迫る。

 

 「おらァァァ!」

 

 アビスがカリドゥス複相ビーム砲と三連装ビーム砲を一斉に発射する。

 

 しかしガーネットはすり抜けるかの様にあっさり避け切るとビームサーベルを振り抜いた。

 

 「くそ!」

 

 アウルはビームランスで受け止めるがガーネットはその動きをさらに上回る。

 

 動きを止めた瞬間を狙ったシールドによる殴打がアビスを大きく吹き飛ばした。

 

 「うあああああ!!!」

 

 「アウル!」

 

 カオスがモビルアーマー形態でカリドゥス改複相ビーム砲を撃ち込み、展開した機動兵装ポッドでガーネットを狙う。

 

 正面からの強力なビームに合わせ、機動兵装ポッドによる四方からの攻撃。

 

 これで仕留めたとスティングも笑みを浮かべた。

 

 だがガーネットは最小限の動きだけでカリドゥス改複相ビーム砲を避けると周囲の機動兵装ポッドをビームライフルで撃ち落とした。

 

 「こいつ!?」

 

 「何なんだよ!」

 

 そんな三機と乱入してきた紅い機体の戦いをシン達は呆然と見守る事しかできない。

 

 乱入してきた機体のパイロイットは自分達とは明らかに違う隔絶した技量を持っている。

 

 かろうじて戦えるのはセリスくらいであろう。

 

 シンやルナマリアはアレと戦う事になれば確実に殺される。

 

 だからと言って逃げられるとも思えなかった。

 

 しかしその時、ミネルバのいた方向から撤退信号が上がる。

 

 ガーティ・ルーからの帰還命令である。

 

 「ここまでかよ」

 

 「戻るぞ、ステラ」

 

 「うん」

 

 スティングはガーネットに機動兵装ポッドのミサイル撃ち込むとガイア、アビスと共にデブリに紛れて撤退した。

 

 ミサイルをイ―ゲルシュテルンで迎撃する、ガーネット。

 

 目的は達成した以上追う必要はない。

 

 後は―――

 

 「こちらの撤退まで時間を稼ぐだけか」

 

 アレックスはビームライフルを構えるインパルス達に視線を向ける。

 

 もうセカンドシリーズの力を把握した以上は彼らとここで戦う必要はない。

 

 アレックスはシン達を無視して今度はミネルバ方面に機体を加速させた。

 

 「あいつ、ミネルバに!?」

 

 「追うわよ!」

 

 「先に行く!」

 

 セイバーがモビルアーマー形態に変形するとガーネットを追撃する。

 

 追って勝てる見込みはない。

 

 それでもミネルバをやらせる訳にはいかないのだ。

 

 

 

 

 タンホイザーの一撃を受け、損傷したボギーワンは撤退信号を発射して後退していく。

 

 誰もが一息つき緊張感が和らいだその時、再びブリッジが凍りついた。

 

 「熱源急速接近! これはモビルスーツ!? 速い!! それにデブリの陰から戦艦です!!」

 

 「なっ!?」

 

 モニターに映ったのはどこかナスカ級の面影を持つ戦艦、テタルトスのプレイアデス級であった。

 

 デブリの影響とボギーワンとの戦闘でまったく気がつかなかった。

 

 「不味いわね」

 

 今のミネルバに戦闘ができるだけの余力は残っていない。

 

 しかし意外にもプレイアデス級は攻撃してくる事無く反転すると宙域から離れていく。

 

 そこに立ちふさがるようにアレックスのガーネットが迫ってきた。

 

 「迎撃!」

 

 「間に合いません!!」

 

 だがミネルバが攻撃に晒される事は無かった。

 

 アレンのエクリプスが割り込みガーネットと戦闘を開始した為だ。

 

 加速して突っ込んできたガーネットにアレンは躊躇わずにビームライフルを叩きこんだ。

 

 その正確な射撃にアレックスも機体を急制動させ、ビームを回避する。

 

 そしてビームサーベルを構えてエクリプスを横薙ぎに斬り払った。

 

 アレンはガーネットが振るってきたビームサーベルをシールドで流すと至近距離からバロールを撃ち込む。

 

 「ぐっ」

 

 だがアレックスもただではやられない。

 

 吹き飛ばされる直前に右足のビームサーベルを展開させエクリプスのビームライフルを斬り落した。

 

 二機は距離を取り、目の前の敵機を睨みつけた。

 

 「この動き……」

 

 「まさか……」

 

 再びビームサーベルを構えてお互いに斬り込もうとした時、ミネルバの直掩についていたレイのザクファントムから放たれたミサイルがガーネットを襲う。

 

 「ミネルバはやらせない!」

 

 「レイか!」

 

 「チッ、直掩のモビルスーツか」

 

 ガーネットはミサイルを撃ち落とすとビームライフルでザクファントムを牽制する。

 

 そこに追いついてきたセイバーがアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を撃ち込んできた。

 

 それを後退して回避するとセイバーの後ろから近づくインパルスとガナーザクウォーリアが見えた。

 

 「もう追いついてきたか」

 

 放たれるビーム砲をアレックスは余裕で回避するとクレオストラトスの位置を見る。

 

 距離は稼げた。

 

 さらにミネルバの損傷から考えると追撃してくる可能性も低い。

 

 「十分だな。離脱する」

 

 アレックスは躊躇わずに撤退を選択する。

 

 撃ち込まれるビームを潜り抜け母艦に向けて機体を加速させた。

 

 ガーネットとクレオストラトスの後退を確認したミネルバのブリッジでは皆が今度こそ一息ついた。

 

 「艦長、もういい。テタルトスもいた以上別の策を考えよう。それに私もこれ以上アイラ王女を振り回す訳にはいかん」

 

 「……申し訳ありません」

 

 完全にこちらの力不足である。

 

 予期せぬイレギュラーも確かにあった。

 

 だがそれが無くとも自分達だけでは沈められてしたかもしれない。

 

 少なくともあの状況を脱する事が出来たのは、思うところはあれど彼女のおかげである事は間違いない。

 

 だが視線を向けられたマユは何も言わず―――モニターに映っているエクリプスを見ているだけであった。

 

 

 

 

 クレオストラトスに帰還したアレックスはブリッジで調査報告を受けていた。

 

 本来の彼らの任務―――

 

 それはデブリ帯付近に潜伏していると思われる武装集団の手掛かりを掴む事。

 

 ただの海賊やジャンク屋であれば問題ではないのだが、以前月で大規模紛争を引き起こした連中の生き残りであったなら厄介な事になる。

 

 「この近辺に潜伏していたのは間違いないのですが……」

 

 「彼らの移動先についての予測は?」

 

 「もう少し調査の時間があれば良かったのですが、予測ではこの辺りかと」

 

 範囲がやや広い。

 

 ここから虱潰しとなると時間がかかり過ぎる。

 

 もうすぐエターナルとも合流する事になる。

 

 バルトフェルドの意見を聞からでもいいだろう。

 

 そう判断したアレックスに信じられない報告が上がってきた。

 

 「少佐、艦長!」

 

 「どうした?」

 

 「今報告が上がってきたのですが、その、ユニウスセブンが―――地球に向けて動いていると!」

 

 その報告に誰もが絶句してしまう。

 

 これが後に『ブレイク・ザ・ワールド』と呼ばれる惨劇の始まりであった。




機体紹介も投稿しました。

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