機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第66話  終結

 

 

 

 

 

 

 見渡す限りにおいて周囲はすべて敵の放った死の光で溢れていた。

 

強化型シグーディバイドから発射された砲撃が、通常ではありえない精度で何度も撃ち込まれてくる。

 

 当たれば人間など塵も残らないだろう攻撃の間を二機のモビルスーツが駆け抜けていた。

 

 「はあああ!!」

 

 ストライクフリーダムのブルートガングの一振りがオハンを弾き飛ばし、叩き込んだビームサーベルがシグーディバイドのコックピットに突き刺さる。

 

 そして他の機体に向けて投げつけるとカリドゥスで諸共に薙ぎ払った。

 

 爆発に乗じて接近したイノセントが振るった一撃が虚を突かれたシグーディバイドの腕を斬り裂き、展開されたワイバーンによって撃破された。

 

 「……大丈夫、アスト?」

 

 「あ、ああ」

 

 今、倒した機体でこの宙域に存在するシグーディバイドはすべて撃破出来た。

 

 しかしすでにストライクフリーダム、クルセイドイノセント共に満身創痍と言っても過言ではない。

 

 もしもあの機体が今以上に量産されていたなら、より切迫した事態となっていただろう。

 

 「……キラ、来たみたいだ」

 

 「そうみたいだね」

 

 徐々にこちらに向かって来ている機影がいくつも見える。

 

 ついにヴァルハラやコロニーを守っていたザフトの部隊がこちらに戻ってきたのだ。

 

 アレが戦域に到達すれば物量の差であっという間に押しつぶされてしまうだろう。

 

 「行こう」

 

 「うん」

 

 ここで食い止める。

 

 二人は迫ってくる敵部隊の方へ機体を向わせた。

 

 シン達が敵要塞を落としてくれると信じて、やるしかないのだから。

 

 

 

 

 メサイアで戦闘を行っていたアークエンジェルやミネルバでもザフトの増援部隊の件は確認されていた。

 

 「チッ、戻ってきたか!」

 

 誘導機動ビーム砲塔をコントロールしながらムウが毒づいた。

 

 メサイアの攻撃は始まっているが、陥落させるまで間に合うかどうか。

 

 「もう一息だってのに!」

 

 防御フィールドを張り、アークエンジェルへの攻撃を防ぎながら、ザクを両断する。

 

 「大した数だな。けど、数だけ居たってね!!」

 

 ビームライフルで敵機を撃破し、砲塔を素早く動かして四方から敵部隊をハチの巣にして撃破する。

 

 アカツキが戦うすぐ近くでは反デュランダル派の機体が奮戦を続けている。

 

 「くそ、不味いな!」

 

 「アレに来られたら、流石に持ちませんね」

 

 ニコルの指摘通り。

 

 この戦力でここまで持ちこたえる事ができただけでも既に僥倖と言える。

 

 「泣き言は後にしろ! さっさと手を動かせ!!」

 

 「イザーク先輩の言う通りですよ、ディアッカ先輩!」

 

 「分かってるよ!」

 

 シュバルトライテが砲撃を発射し、続くように三機のイフリートが連携を組んで対艦刀を振るっていく。

 

 そして要塞に直接攻撃をしていたミネルバもまた防衛隊からの猛攻に晒されていた。

 

 ザク、グフ、イフリートといった機体から砲撃が容赦なく船体に突き刺さり、外装を引き剥がした。

 

 「艦の損傷率35%!!」

 

 「右舷トリスタン発射不能、艦長!!」

 

 アーサーの声にタリアはただ拳を握り締める。

 

 すでに戦線を維持するのが精一杯。

 

 近くで戦っているオーディンや各艦も周囲を援護する余裕もなく、応戦に追われていた。

 

 「シン達が戻るまで何としても持たせなさい、良いわね、アーサー!!」

 

 「り、了解!!」

 

 一向に止む事なく降り注ぐミサイル。

 

 割り込んだシークェルエクリプスがビームライフルと機関砲でミサイルをすべて撃ち落とした。

 

 「シン、妹ちゃん、早くしてよ。こっちもきついんだから」

 

 厳しいのは絶え間なく続く砲撃だけではない。

 

 もう一つ理由がある。

 

 それがシグーディバイドの存在だった。

 

 大半は直接メサイアを守る為に動いているようだが、先ほどから一機、二機とこちらに向けて攻撃を仕掛けてくる機体がいるのだ。

 

 「負ける気はないけどね!!」

 

 傷つきながらもビームサーベルを構えたルナマリアはフォースシルエットのスラスターを最大限まで噴射すると、敵機に向けて斬りかかった。

 

 

 

 

 メサイア内部に侵入を果たしたシンは発見したトワイライトフリーダムの傍に機体を着地させた。

 

 「マユ、無事だと良いけど」

 

 コックピットから降り、絶え間ない振動に晒されながら司令室に辿りつく。

 

 だが部屋に入った途端、あまりの事態に目を見開いた。

 

 反対方向の扉から入ってきていたのはアオイ。

 

 そして中央で銃を構えているマユ。

 

 二人も同じ様に驚いていた。

 

 何故ならそこには撃たれたギルバート・デュランダルが肩から血を流し、発砲したクロードが冷たい笑みを浮かべていたのだから。

 

 「横やりで申し訳ないがここまでだ、議長殿。それに先ほどマユ・アスカ君が言っていた通りだろう。結局誰より貴方が一番エゴで動いていたのだから」

 

 「ク、クロード、何故、何故撃てる?」

 

 デュランダルは撃たれた肩を手で押さえ、クロードを睨みながら問いかける。

 

 「フッ、アズラエルの下に送ったのは間違いだったな。研究対象やデータは腐るほど存在していたから、対処法くらいは思いつくさ」

 

 再び発砲するとデュランダルを撃ち倒した。

 

 「議長!?」

 

 シンは我に返るとクロードに銃を向ける。

 

 だがそれも予測していたように、今度はシンに向けて発砲してきた。

 

 マユが倒れたデュランダルを引っ張り、咄嗟に物陰に入るとクロードに向けて撃ち返す。

 

 「クロード・デュランダル、こんな事をして何をするつもりだ!!」

 

 無人のオペレーター席に隠れ、銃を突き出すアオイが叫ぶ。

 

 「私が議長殿からすべてを奪うためにこんな事をしていると? だとしたらそれは誤解だな、アオイ君」

 

 「違うのか?」

 

 見た限りクロードの方がかなり若く見える。

 

 しかしそれ以外、すなわち髪型などの違いを除けば彼とギルバート・デュランダルは姿も声も瓜二つである。

 

 ならば本物を始末し、成り代わろうとしていると考えるのは自然な事だろう。

 

 「じゃあ、何でこんな事を!?」

 

 「そうだね。一番分かりやすい理由を言えば、私を縛っていた鎖を壊す為だよ、シン・アスカ君」

 

 クロードが話す度に銃声が鳴り響き、銃弾が弾ける。

 

 「貴方は一体何者なんですか?」

 

 「私はそこのギルバート・デュランダルの影であり、『彼らが作った』手足だよ、マユ君」

 

 『彼らが作った?』

 

 不穏な言葉に思わず口を閉ざしてしまう。

 

 何というか既視感とでも言えば良いのか。

 

 彼らの周りにはそういった事情を抱えている人物が多々存在している。

 

 ただの与太話であると吐き捨てる事はできなかった。

 

 「君らにとってはそう驚くほどの話ではないさ」

 

 

 

 

 クロード・デュランダルという男は彼自身の語った通り、ギルバート・デュランダルの手足だった。

 

 彼が『デスティニープラン』を着想したのはそれこそずいぶん昔になる。

 

 その頃からプランを実行するにあたってクリアしなければならない障害がいくつか存在している事は分かっていた。

 

 最も重要なものが自身の協力者であり自由に使える手駒だ。

 

 地球側の情報やデータの収集は必須事項。

 

 さらに工作や戦闘など、必要な駒は多い程良い。

 

 だからデュランダルはまず自分の手駒を用意する事にした。

 

 幸いというか、プラントでは遺伝子研究も盛んに行われており、データやサンプルには事欠かない。

 

 その過程で誕生したのがクロードである。

 

 彼がデュランダルとそっくりな理由は単純なものだ。

 

 同じ遺伝子提供者の子供、すなわちデュランダルの両親の遺伝子を使用して誕生したから。

 

 つまり血縁上はデュランダルの『弟』という事になる。

 

 ある程度の駒を揃えたところでデュランダルは、クロード達を含めた自分の手駒達を地球に送り込み、諜報活動を開始させた。

 

 地球に送り込まれたクロードは地球軍に入隊。

 

 常に戦場に立ち、他の諜報員の協力によって、狙い通りにアズラエルに近づく事に成功したのである。

 

 その後はアズラエルの側近として仕事をこなしながら、デュランダルの指示通りに暗躍を行っていた。

 

 そして戦場に身を置く中でSEEDを発現、そのデータを基にI.S.システムや対SEED機の開発も進められていったのである。

 

 

 

 

 「議長の弟!?」

 

 「作られたが付くがね、一応そう言う事になる」

 

 彼の言動や容姿からある程度の想像はしていたが―――まさか、弟とは思ってもみなかった。

 

 驚く三人を無視しクロードは言葉を止めず、話続ける。

 

 

 

 

 それはいつの頃からだったか。

 

 デュランダルの指示通りに行動していたクロードはふと現状に疑問を抱くようになった。

 

 いや、様々なものを見る内に自意識が生まれたというべきか。

 

 世界は常に悲劇が溢れていた。

 

 自分のような境遇など珍しくもなく、戦い、憎み、殺し合う。

 

 そこには何の救いもない。

 

 だがそれがすべてではなく、一方で悲劇を食い止めようと抗う者達もいた。

 

 そんなものを多く見ているうちに今度は自身の事にも疑問を抱き始めた。

 

 自分はこんな事を望んでいるのか?

 

 そもそも何故自分のような者が生まれてきたのか?

 

 この世界の、人の行きつく先は?

 

 そんな事を考えれば考えるほど疑問は尽きない。

 

 それに拍車を掛けたのが、ラウ・ル・クルーゼとの出会いである。

 

 デュランダルとも友人同士であり、出生や境遇も似ていた事からすぐに意気投合したクロードはより自分のあり方を考える様になった。

 

 そして―――

 

 

 

 

 「私は自分のすべての答えを得る為に行動する事に決めた。世界の行く末を、人の行きつく先を見届ける。その果てにこそ求める答えがあると思ってね」

 

 そんなものを求めるのは自分というものを長く持たなかった弊害なのかもしれない。

 

 だがこれだけは確かだ。

 

 何を言われようともクロードは止まらない。

 

 意味も、道理も必要なく、ただ求めるものを得る為に動き続けるだけ。

 

 「しかし私には自由というものがなかった。かと言ってその元凶をさっさと排除する事もできなくてね」

 

 クロード達には相応のリスクを考え、あらかじめ様々な処置を施されていた。

 

 その仕掛けの最たるものが、デュランダルを含めた数人に対して危害を加える事ができないというものだ。

 

 よってクロードは彼らに対して一切手出しができないようになっていたのである。

 

 先にデュランダルやヘレンが驚いていた理由がコレだ。

 

 処置がしてある以上、決して手は出せない。

 

 彼らはそう確信していたのだろう。

 

 それが彼らにとって致命的な隙となってしまったのだ。

 

 「アンタは従う振りをして機会をずっと窺っていたって訳か。自分に運命を押しつけた彼らを排除する為に」

 

 「フ、そういう事かな」

 

 面従腹背という訳だ。

 

 もしかすると『アトリエ』の場所をキラに教えたのも、この為の布石だったのかもしれない。

 

 「貴方はこれで自由になった。これから何をするつもりなんです?」

 

 「何も。今まで通りさ」

 

 野心はないとばかりに、首を振るクロード。

 

 しかし三人の直感が告げていた。

 

 この男はここで倒さなくてはならないと。

 

 放っておけば、再び暗躍し、必ず今以上の混乱を招く事になるだろう。

 

 「要するに趣味の悪い傍観者って事だろ!!」

 

 真っ先に動いたのはアオイだった。

 

 物陰から銃弾を撃ち込み、転がっていた機器の残骸を投げつけると地面を蹴った。

 

 浮いた体を上手くコントロールしてクロードに接近すると拳を振り抜く。

 

 しかしクロードは体を逸らしてアオイの拳をかわすと逆に蹴り返してくる。

 

 「甘いな」

 

 「くっ!?」

 

 片腕を上げて蹴りを受け止めるが、重力が効いてない所為か踏ん張りが利かず後ろへ流されてしまう。

 

 「アオイ!? この!!」

 

 アオイから遅れて動いたシンがクロードに飛びかかる。

 

 だがそれもあっさりと捌かれ、銃を叩き落とされてしまった。

 

 「なっ!?」

 

 「焦り過ぎだ。もう少し相手の動きをよく見た方がいい」

 

 向けられる銃口にシンは身を固くするが、マユの援護射撃によって事無きを得た。

 

 銃撃をかわすため距離を取ったクロードは何事も無かったかのように肩を竦める。

 

 「今はもう君達と事を構えるつもりは無いのだがね」

 

 「ふざけるな!」

 

 体勢を立て直したアオイが再び銃を構える。

 

 だがクロードはそれに応じる素振りを見せず、考える様に顎に手を当てると笑みを浮かべた。

 

 「このまま君達と話をしているのも悪くはないが、私はそろそろ行かせてもらうとしよう」

 

 「何!?」

 

 訝しむ皆の前で左手を素早く動かすと、何かを放った。

 

 それが手榴弾の類だと気がつくと咄嗟に全員が物陰に飛び込み、頭を抱え込む。

 

 次の瞬間、凄まじいまでの爆音と共に強烈な閃光が部屋を襲った。

 

 ジッとして、頭を上げるとそこにはもうクロードの姿は見えなくなっていた。

 

 音の割に周囲に爆発の影響も無く、強烈な光からするとスタングレネードの類を使ったのかもしれない。

 

 「逃すか!」

 

 立ち上がったアオイはデュランダルの方を見ると、一瞬だけ目を伏せ、クロードを追って走り出した。

 

 「アオイ!」

 

 シンも後を追おうとするが、思い留まって振り返る。

 

 マユが倒れたデュランダルの傍に跪いている。

 

 床には撃たれた箇所から血が流れ出し、大きく広がっていた。

 

 明らかに致命傷。

 

 今から外に運び出しても間に合わない。

 

 シンもマユの傍まで歩いて行くと、デュランダルがゆっくりと目を開いた。

 

 「……どうやら、ここまでのようだ。これも私の運命というものかな」

 

 皮肉げに口元を歪める。

 

 そんなデュランダルにマユは痛ましい表情で問いかけた。

 

 「運命なんて、本気で信じていたんですか?」

 

 「……どう、かな」

 

 「本当は……本当は議長が一番、運命に抗おうって、そう思っていたんじゃないんですか? だからこんな事―――」

 

 シンの言葉に何も答えず、視線だけを向けて問い返してくる。

 

 「……シン、君の選んだ道は、苦難の連続、だ。何度も、何度も、痛みと苦しみ、悲しみが君を襲う、だろう。選んだ道に、後悔は、ないかな?」

 

 「ありません」

 

 即座に頷く。

 

 議長の言う通りだ。

 

 傷つく事、悲しい事もあると思う。

 

 でも、それでも自分で決めて選んだ道だ。

 

 後悔は無い。

 

 「そう、か。ならば、最後まで、決めた道を、突き進むと良い。……マユ君、君はどうかな? その想いが、報われないとしても、想い続けられるかな?」

 

 その問いにマユは笑みを浮かべて頷いた。

 

 「ええ、もちろんです」

 

 「……フ、聞くまでも、なかったか」

 

 笑みと共にデュランダルの体から力が抜けていく。

 

 「……何か、誰かに伝えたい事はありますか?」

 

 一瞬だけ迷ったように視線を逸らすがすぐに首を振った。

 

 「……いや。君達はもう、行きたまえ、こんな所で……立ち止まっている暇は……ない筈だ」

 

 「……議長」

 

 沈痛な表情で二人は頷き合うと立ち上がる。

 

 シンは倒れたデュランダルに一礼するとマユと一緒に揺れる要塞の中を走り出した。

 

 走り去る二人を見届けたデュランダルは今にも崩れそうな天井を見上げる。

 

 そうすると自身の脳裏に様々な事が浮かんできた。

 

 そして最後に見えたのは―――

 

 「……運命に……抗う……か」

 

 最後に自身の内側に残ったものを見つめ、苦笑しながらゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 クロードを追って司令室を飛び出したアオイはすぐさま自分の機体の下へ向って走っていた。

 

 奴の目的が議長を含む、自分を縛っていた連中の始末であるならば、すでに達成した事になる。

 

 ならば自身の機体に戻り脱出を図ろうとする筈だ。

 

 崩落寸前の通路を走っていたアオイだったが、視界に飛び込んできたものを見て思わず立ち止まってしまった。

 

 そこには周辺に血を撒き散らした女性の遺体が浮かんでいた。

 

 「この人は……」

 

 銃撃の所為かはっきりとは確認できないが、その顔に見覚えがある。

 

確かジブラルタルに潜入した際、自分を連行した女性だ。

 

体にいくつか銃弾が撃ちこまれており、そして顔と頭部に致命傷となった銃創が確認できる。

 

 思わず目を背けたくなるような惨状だ。

 

 顔を顰めながら通路を抜け、アルカンシェルの所まで走り寄った。

 

 コックピットに乱暴に飛び込み起動させたモニターを見るとサタナエルが突撃してくる姿が映っていた。

 

 「速い!?」

 

 アオイは機体を引き、ビームライフルで狙撃するがシールドを使って弾かれてしまう。

 

 その隙にあっという間に間合いに入られてしまった。

 

 「そこを通してもらおう」

 

 攻撃を防ぐため咄嗟にシールドを掲げると横薙ぎに振るわれた斬撃を止めた。

 

 しかし速度の乗った一撃故に完璧に受け止める事が出来ず、押し込まれてしまう。

 

 「ぐっ!」

 

 サタナエルは二基のスラスターユニットを吹かし、サーベルをシールドに押し付けながら外にアルカンシェルを押し出して行く。

 

 アオイは急激な加速によるGに耐えるように歯を食いしばる。

 

 「このォォォ!!」

 

 絡み合うように外に飛び出した瞬間、こちらもサーベルを抜き放った。

 

 お互いの光刃が交差し、一閃すると機体に傷を刻みつける。

 

 「流石だな」

 

 「浅い!?」

 

 やはりクロードは強い。

 

 何度斬り合っても、浅い傷は付けられるが致命傷は負わせる事ができない。

 

 袈裟懸けに振るったサーベルも紙一重のところでかわされ、逆に蹴りを入れられバランスを崩されてしまう。

 

 「ぐぅ!!」

 

 「アオイ君、先程も言ったが私は君達とこれ以上戦う気はない。女狐や議長殿が倒れた今、『デスティニープラン』は確実に頓挫するだろう。つまりこの戦い、君達の勝ちだ」

 

 サタナエルのバズーカ砲の砲弾を撃ち落としたアルカンシェルを狙い澄ましたように、脚部をビームライフルが射抜いた。

 

 「チッ!!」

 

 破壊された脚部を見て舌打ちする。

 

 「ならこれ以上私達が戦う理由はあるまい」

 

 「あるさ。クロード・デュランダル、貴方を放ってはおけない!」

 

 速度を上げて懐に飛び込む。

 

 逆袈裟からサーベルを振るいバズーカ砲を斬り捨て、返す刀で放った一太刀が肩部の装甲に食い込んだ。

 

 先程の話が嘘であれ本当であれこの男が躊躇う事無く動く事だけは良く分かった。

 

 そこに善悪などありはしない。

 

 必ずこいつは皆を巻き込んでいくだろう。

 

 そんな事は絶対にさせない。

 

 叩きつけられる二機の剣撃が弾け合う。

 

 「なるほど。では仕方あるまい。障害は取り除かせてもらおう!」

 

 「やってみろ!」

 

 攻防を繰り返す白と赤のモビルスーツが爆発を起こすメサイアを滑る様に駆け廻っていく。

 

 そこに二機のガンダム。

 

 リヴォルトデスティニーとトワイライトフリーダムが要塞内から飛び出してくる。

 

 「アオイ!」

 

 マユと共に外へと脱出したシンは近くで攻防を繰り広げるアルカンシェルとサタナエルを発見する。

 

 その動きからアルカンシェルに搭乗しているのがアオイだとすぐに気がついた。

 

 となれば戦っている相手はクロードの他はあるまい。

 

 「マユ!」

 

 「了解!」

 

 戦闘に突入しようとした二人の前に一機のモビルスーツが割り込んでくる。

 

 ソイツは紅い翼を広げ、対艦刀アロンダイトを片手に戦意を漲らせていた。

 

 「デスティニー……ジェイルか」

 

 「シン、そしてフリーダム」

 

 ラナを安全な所に避難させてきたジェイルは再びメサイアへ戻ってきていた。

 

 メサイアの陥落は時間の問題だろう。

 

 勝敗は決した。

 

 自分達の敗北である。

 

 だがそれでもジェイルにはまだ戦わねばならない理由があった。

 

 「まだ戦うっていうのか! もう戦う必要なんてないだろ!」

 

 「あるさ。構えろ、シン。決着をつけてやる」

 

 「この分からず屋が!」

 

 シンもまたデスティニーと相対しようと斬艦刀を構えた。

 

 しかしそこにフリーダムが間に入る。

 

 「ここは私が。兄さんは彼をお願いします」

 

 「マユ、でも!」

 

 「大丈夫です。今度は負けません」

 

 かつての戦友と妹との戦い。

 

 本当ならば止めるべきなのだろう。

 

 しかし二人の決意が揺らがない事は声色からも明らかだった。

 

 「……わかった。此処は頼む」

 

 「はい」

 

 シンは二人を信じ、その場を後にした。

 

 残されたのは因縁の二人。

 

 「追わないんですね」

 

 聞こえてきた少女の声にジェイルは思わず身を固くした。

 

 宿敵がまさか女の子だったとは。

 

 本当に何も見えていなかったのだと自嘲しながらジェイルはあえて挑発的な声を出した。

 

 「敵を前に背を向ける馬鹿がどこにいる? ましてやあの死天使が相手なんだからな!」

 

 「……どうしても戦うんですね?」

 

 「当たり前だ! 貴様は倒すべき敵! 俺は今度こそ貴様を落とす!!」

 

 ジェイルは宣戦布告とすべくアロンダイトを突き付ける。

 

 フリーダムに対する憎しみはもはやなかった。

 

 それでもケジメはつけなくてはならない。 

 

 この敵を乗り越えて、自分は先へと進むのだ。 

 

 「行きます!」  

 

 「来い、フリーダムのパイロット!!」

 

 ニ機は刃を構え、同時に動き出した。

 

 

 

 

 高速ですれ違う白と赤のモビルスーツ。

 

 サタナエルが砲撃がアルカンシェルを掠め、アオイの発射したアンヘルが赤いモビルスーツの装甲に傷を刻み込む。

 

 「……流石だな、アオイ君」

 

 「くそ、これでも駄目か!」

 

 これまで何度攻撃を繰り出してもサタナエルには通用しない。

 

 すべて紙一重で回避され、繰り出される反撃によってアルカンシェルの方が傷つけられていた。

 

 振ったサーベルもシールドによって相手の装甲に届く前に届く前に阻まれてしまう。

 

 ニ機が絡み合うように高速移動を繰り返し、その度に光が弾ける。

 

 そこにシンのリヴォルトデスティニーが駈けつけてきた。

 

 「この!」

 

 ノートゥングによる砲撃が背後からサタナエルに襲い掛かる。

 

 しかしそれも感知していたクロードは素早く機体を反転させ、ビームを回避。

 

 すかさず放ったビームライフルがリヴォルトデスティニーの脇腹を掠めていく。 

 

 「君も来たか、シン・アスカ君」

 

 「アンタの好きにさせるか!」

 

 持ち替えたビームライフルが火を噴いた。

 

 だがそれも余裕で避け切ったサタナエルは逆に反撃してくる。

 

 圧倒的な射撃精度。

 

 シンの力量ですら完全に避けきれずビームが機体を掠めていってしまう。

 

 「こいつ!」

 

 「流石はシン・アスカ君だ。議長殿がプランの中核を担う人材として選んだだけはある」

 

 接近し斬艦刀を振おうとしたリヴォルトデスティニーをクロードはシールドで突き飛ばす。

 

 「そんな事は俺には関係ない!」

 

 「自覚が足りないな。持つ者に持たざる者の気持ちは解らない。罪だね」

 

 「何?」

 

 「君が望まぬのは自由だ。しかし君が選ばれた事で選ばれなかった人間がいる事も忘れない方が良い」

 

 態勢を崩したリヴォルトデスティニーに下段から振り上げたロングビームサーベルが襲い掛かる。 

 

 それをギリギリのタイミングで躱すシンに、サタナエルの蹴りが入った。

 

 「ぐぅ」

 

 「中にはいた筈だよ。議長殿に選ばれたかったという人間も。そんな連中からすれば君の言い分は受け入れ難いものだろうさ」

 

 「それでも、俺は自分の道を進むって決めたんだよ!」

 

 吹き飛ばされながらも振った斬艦刀の一撃がサタナエルの装甲に傷を刻んだ。

 

 そしてその瞬間を見計らったアオイのライフルがさらにクロードに襲い掛かる。

 

 「ッ、やるな。君達二人が相手となると私も本気で行かざるえないか」

 

 ニ機のガンダム。

 

 二人のSEED。

 

 彼らは紛れもない強敵だ。

 

 故にクロードも躊躇なく奥の手の使用を決断した。

 

 

 

 

 宇宙を弾丸のごときスピードで駆ける二つの機体。

 

 デスティニーとトワイライトフリーダム。

 

 互いに対艦刀と斬艦刀を抜き、すれ違いざまに刃を振う。

 

 「ハアアア!!」

 

 「オオオオ!!」

 

 マユもジェイルも遠距離からの射撃を捨て、接近戦での戦いに絞っていた。

 

 これだけのスピードと反応速度。

 

 ライフルやビーム砲では焼け石に水。

 

 確実に倒す為には接近戦で仕留めるしかないと判断したのである。

 

 SEEDを発動させた二人が振った一撃は相手を捉える事なく空を斬り、続けさまに振った一太刀が光盾に弾かれ火花を散らした。

 

 強い。

 

 何度も戦場で相対してきたのだ。

 

 互いの力量は良く理解している。

 

 それでも改めて思うのだ。

 

 本当に強いと。

 

 「だからこそ貴様を超える意味がある!!」

 

 「私も貴方には負けられない!!」

 

 旋回して再び激突。

 

 鍔競り合い、スラスターを噴射して押し合うニ機。

 

 「埒が明かない」

 

 ジェイルは勝負に出た。

 

 フリーダム相手にチマチマと攻撃していても倒す事は出来ない。

 

 それに機体の方も限界に近付いていた。

 

 全力で戦えるのもこれが最後。

 

 「なら思い切りいくぜ、デスティニー!!」

 

 ジェイルはフリーダムに膝蹴りを入れ、僅かにバランスを崩させるとアロンダイトを下段から振り上げた。

 

 「ッ!?」

 

 強烈な一撃に思わず仰け反り吹き飛ばされるフリーダム。

   

 その隙に翼を広げ、限界速度で動きだしたデスティニーはフリーダムの周りを飛び回る。

 

 圧倒的な速度から繰り出される斬撃がマユに容赦なく襲い掛かる。

 

 「速い!?」

 

 アロンダイトの一撃を躱し、続けざまの一撃を盾で弾く。

 

 しかし斬撃の衝撃を止める事が出来ず、後退させられてしまう。

 

 そこを狙った一太刀に右脚部を斬り落され、さらに片翼の半分が破壊されてしまった。

 

 「きゃああ!!」

 

 「どうだ、フリーダム!」

 

 「私だって!」

 

 スラスターを噴射し無理やり後方へと振り抜いた腕をデスティニーに直撃させ、さらにサーベルを下腹部へと突き刺した。

 

 そして機関砲による射撃がサーベルを撃ち抜き、発生した爆発によってデスティニーの動きが止められてしまった。

 

 「やってくれるな!」

 

 ジェイルは爆煙の中を突き進み、アロンダイトを上段から振り下ろした。

 

 当然マユとてそれは予想済み。 

 

 腰から抜いたもう一本のサーベルで対艦刀を半ばから叩き折った。

 

 「これでもう―――ッ!?」

 

 だがジェイルはこの時こそを狙っていた。

 

 折れた対艦刀をフリーダムにぶつけ、事前に投擲していたフラッシュエッジがスラスターを斬り潰す。

 

 「ぐぅぅぅぅ!!」

 

 「これで終わりだァァァァァァ!!!」

 

 そして残った右手のパルマフィオキーナを胸部に向けて突きつけた。

 

 しかし諦め悪くフリーダムは左手を突き出してくる。

 

 「盾にでもするつもりか、無駄だ!」

 

 突きだされた左腕によって急所からは逸らされたものの、パルマフィオキーナは直撃し肩ごとフリーダムの左腕を吹き飛ばした。

 

 「……勝った、勝ったぞ!」

 

 トワイライトフリーダムは沈黙した。

 

 左腕は無く、スラスターも潰されたフリーダムはもはや死に体。

 

 戦いはデスティニーの勝利だ。

 

 ジェイルが確信したその時、コックピットに警戒音が鳴り響いた。  

 

 「何!?」

 

 下方から近づいてきたのはフリーダムのウイングだ。

 

 ソレはデスティニーに向かって突撃してくる。

 

 「何度も同じ手が通用するものかよ!」

 

 迎撃しようとしたジェイルだったが沈黙したと思われたフリーダムの機関砲が火を噴き、破壊されたウイングがデスティニーの近くで爆発した。

 

 「何!?」

 

 爆発によって押し出されたデスティニーはいつの間にか距離を詰めたフリーダムの間合いに入ってしまう。

 

 「しまっ―――」

 

 フリーダムがこれを狙っていたのだと気がついた時にはもう遅い。

 

 動きが遅れたジェイルに避ける間はなかった。

 

 フリーダムの残った右手に握られた対艦刀が振りかぶられデスティニーを袈裟懸けに斬り裂いた。 

 

 

 

 

 

 クロードのSEEDが発動する。

 

 同時にサタナエルは要塞から巻き上がる爆煙の中を突っ切り、二機の懐に飛び込んできた。

 

 「速い!?」

 

 ビームが今まで以上の精度で撃ち込まれ、リヴォルトデスティニーの左腕を破壊する。

 

 「ぐっ、こいつ!」

 

 腕を破壊された衝撃に耐えながら体勢を立て直すとコールブランドで斬りかかる。

 

 しかしそれも潜り抜けたクロードはリヴォルトデスティニーを殴りつけた。

 

 「ぐあああ!!」

 

 強い事はその動きからも分っていたが、あまりにも動きが急激に変わり過ぎている。

 

 「これはまさか―――」

 

 SEEDに間違いない。

 

 「奴もSEEDを!」

 

 リヴォルトデスティニーと入れ替わるようにアルカンシェルが前に出る。

 

 だがサーベルの斬撃も容易く回避したサタナエルによって放たれた蹴りがアルカンシェルの頭部を捉える。

 

 「化け物かよ!」

 

 反応速度や射撃精度。

 

 動きの先読みや戦術眼。

 

 損傷した機体を操って尚、こちらを圧倒する力量。

 

 シンの目の前にいたのは脅威としかいえない怪物だった。

 

 今もなお食い下がるアルカンシェルを圧倒しているその姿を見てよりそれが確信できる。

 

 ここで絶対に倒さねばならない。

 

 だが消耗している今、真っ向勝負でサタナエルを倒す事は難しい。

 

 そうなれば残された手は一つしか残っていなかった。

 

 傷ついた機体状態でどこまでやれるかは分からないが―――

 

 

 『C.S.system activation』

 

 

 シンのSEEDが弾けると同時に機体もまた相応しい姿へ変化する。

 

 翼が広がり、光が包み、外側に向けて流れ出す。

 

 装甲から格納されていたスラスターがせり出され、速度を上げてサタナエルを強襲する。

 

 「あれは……」

 

 「例のシステムか」

 

 アルカンシェルと攻防を繰り返していたクロードはここに来て初めて表情を変えた。

 

 I.S.システムを搭載したシグーディバイドを容易く葬る事の出来る力を持っている。

 

 警戒するのは当然だ。

 

 「フム、丁度良い機会かもしれないな。可能性を示すもの、君達の力を見せて貰おう」

 

 アルカンシェルを蹴りつけ引き離すと凄まじい速度で接近してくるガンダムを迎え撃った。

 

 速度を乗せ、連携を組みながら斬艦刀による怒涛の猛攻。

 

 それらすべて紙一重のところで捌いていくサタナエル。

 

 巧みにシールドやスラスターを使って攻撃をいなしていくクロードはやはり尋常ではない。

 

 だが先程までと比べたら十分対応できていた。

 

 「凄まじいな、その力」

 

 「余裕のつもりかよ!」

 

 振う斬撃は届かず、盾に突き飛ばされ、蹴りの衝撃がシンを削る。

 

 システムの負荷に苛まれながらシンはジリジリしとした焦燥感に襲われていた。

 

 どれだけ繰り出しても当たらない攻撃。

 

 機体が負った損傷の所為か動きが鈍い。

 

 それでもクロードがシンが捉えられていないのは、増した反応速度と光学残像のおかげだ。

 

 しかしこれではシステムの時間切れか機体の限界がきた時点で勝負は決まってしまう。

 

 つまり後僅かな時間でサタナエルを倒さなければならないと言う事。

 

 そしてそんな敵機を突き崩す為には一手足りなかった。

 

 「くそ!」

 

 繰り出した何度目かの斬撃が避けられ、シンは思わず毒づいた。

 

 コックピット内は甲高い警戒音が鳴り響き、機体の挙動も怪しくなっている。

 

 限界が近い証拠だ。

 

 しかしそれでも止まる訳にはいかない。

 

 圧倒的な速度で迫るリヴォルトデスティニー。

 

 だが蹴りとシールドの突き飛ばしで避けるサタナエル。

 

 自身を叱咤し、再び攻撃を仕掛けようとしたシンの前にアルカンシェルが割り込んで来た。

 

 「シン!!」

 

 「えっ、アオイ?」

 

 モニターに映ったアオイは何も言わずただこちらを見つめる。 

 

 「俺達も行くぞ、ガンダム!」

 

 アオイもまたSEEDを発動させ、アルカンシェルも戦闘へ突入する。 

 

 シンもまた頷くと最後の攻勢を掛ける。

 

 「このォォォ!!」

 

 「はあああああ!!」

 

 今が最後の機会。

 

 シンとアオイはそれを見逃すまいとサタナエルに向かって突撃する。

 

 発射されたサルガタナスを前に出たアルカンシェルが最小のシールドを張って防御する。

 

 そしてすれ違いざまにサーベルで突きを放った。

 

 「これは」

 

 普通であればかわせた一撃。

 

 しかしこの時、アルカンシェルから発せられた残像がクロードを翻弄する。

 

 「幻惑か。厄介だな、しかし!」

 

 突きの一撃を腕で弾かれ、肩部を掠めるに留まる。

 

 そして逆に振るわれた剣撃がアルカンシェルを腕ごと袈裟懸けに斬り裂いた。

 

 「これで―――ッ!?」

 

 だがこれこそアオイの狙った事だった。

 

 次の瞬間、アルカンシェルに装着されていたスラスター兼用ミサイルポッドが切り離され、クロードの前に浮遊する。

 

 「そこだァァァ!!」

 

 リヴォルトデスティニーがノートゥングを発射し、ミサイルポッドを爆散させた。

 

 「ッ!?」

 

 至近距離の爆発がサタナエルの体勢を大きく崩した。

 

 ノートゥングを捨て、投擲したコールブランドで片腕を破壊する事に成功する。

 

 だがそれでもサタナエルの脅威は少したりとも衰えない。

 

 損傷などないとばかりの機動で不意を突いたアルカンシェルの一撃を捌き、盾のサーベルでデスティニーの装甲を破壊する。

 

 「まだ、動けるのかよ!」

 

 「本物の化け物か!」 

 

 「私とて負けるつもりはないのだよ」

 

 「俺達だって負ける気はないんだよ!」

 

 アルカンシェルが傷つきなかがらも右脚部を掴み、力任せに引きちぎる。

 

 「邪魔だ」

 

 残った左足で蹴り飛ばされて尚損傷した部分に向け、機関砲を撃ち込むとサタナエルは堪らず後退を図る。

 

 「いけ、シン!」

 

 「ウオオオオオオオオ!!」

 

 そこにリヴォルトデスティニーがスラスター全開で突撃する。

 

 機体が悲鳴を上げる。

 

 警戒音がけたたましく鳴り響く。

 

 だがすべて無視し、フットぺダルを踏み込んでさらに速度を上げた。

 

 アオイが作ってくれたこの好機。

 

 絶対に無駄には出来ない。

 

 これが最後のチャンス。

 

 「俺達の勝ちだァァァァァァ!!!!」

 

 残ったスラッシュブーメランをビームソードとして展開、サタナエルのサルガタナスの発射口に突き刺した。

 

 ビームソードが刺さった部分から激しい火花が散る。

 

 そしてスラッシュブーメランを装着していた部分が壊れ、リヴォルトデスティニーの腕ごと破損してしまった。

 

 「ぐぅ!」

 

 敵機とすれ違うように離れたシンはサタナエルの方へ振り返る。

 

 「素晴らしい。これがSEEDの―――いや、君達の力か」

 

 こんな状況でもクロードの声色に変化はない。

 

 いつも通り、余裕すら感じられる。

 

 「まだ戦えるのか?」

 

 シンが無理やりにでも機体を動かそうとしたその時、メサイアからの爆発が強くなり、凄まじい衝撃が襲いかかる。

 

 「くっ!」

 

 「君達の奮戦、見事だった。可能性を示すもの、その片鱗を見せてもらった」

 

 「……クロード・デュランダル」

 

 「フフフ、君達の選んだ道の先を―――」

 

 より激しい衝撃によって声は途絶える。

 

 巻き起こる爆風でガンダムは吹き飛ばされ、そしてサタナエルもまた消えてしまった。

 

 「ぐっ」

 

 「無事か、シン」

 

 「ああ」

 

 ニ機はボロボロではあるが何とか無事だ。

 

 陥落するメサイアから火が噴き出て崩れ落ちていく。

 

 戦いはこれで終わった。

 

 今度こそ終わったのだ。

 

 シンは何とも言えない気持ちになりながら、沈み込むようにシートに座りこんだ。

 

 

 

 

 戦いを終え宇宙に漂っていたデスティニー。

 

 袈裟懸けに出来た傷にはフリーダムの斬艦刀が突き刺さったまま、途中で止まっている。

 

 その傷はかつてジェイルが地上でフリーダムを落とした時につけたものと同様のもの。

 

 同じ攻撃で倒されるとは本当に皮肉な話だった。

 

 止めを刺さなかったのか。

 

 それとも―――

 

 いや、それはもうどちらでも良い事。

 

 戦いはもう終わったのだから。

 

 「……終わったか」

 

 そして崩れゆくメサイアの姿はコックピットにいたジェイルにも見えていた。

 

 メサイアが落ちると、続いていた戦闘の光は徐々に消え、今度は停戦を示す信号弾が上がり、美しい花を形作っていく。

 

 生き残ったスラスターを使いラナ達を置いた場所まで辿り着く。

 

 それは撃沈された戦艦の残骸だった。

 

 甲板に鎮座するシグーディバイドの中から助け出したラナを抱え、ジェイルはそれを安堵の気持ちで見つめている。

 

 「……終わったんだな」

 

 胸の中でずっと抱え込んでいたものを一緒を吐き出すように呟く。

 

 近くの友軍にでも連絡を取ろうとしたその時、いつの間にか近くに浮かんでいた破壊された機体に気がついた。

 

 それは共に戦った仲間のものだ。

 

 「……奇遇だな。一緒に帰るか」

 

 ジェイルはそう声を掛けると笑みを浮かべ、今度こそ友軍に連絡を入れる為、通信機を弄り始めた。

 

 

 

 

 ユニウスセブン落下から始まったこれらの戦争。

 

 後に『ユニウス戦役』と呼ばれる戦いはここに終結した。




やっと決戦が終わりました。

おかしな部分は後日、加筆修正します。


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