機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第64話  死地にて佇む王の下へ

 

 

 

 

 

 

 アポカリプス主砲の破壊とメサイアを守護する陽電子リフレクターの消失。

 

 これはザフトに大きな影響を与えた。

 

 想定外という他ない。

 

 これだけ数的有利な状況でありながら、アポカリプスはおろか自軍のトップが控える機動要塞の防御を崩されるなど誰も予想できなかった。

 

 それだけにザフト全軍に与えた影響は大きい。

 

 中でもレイが受けた衝撃は、他の者達の比ではない。

 

 アポカリプスの方はともかく、メサイアのリフレクタ―まで消されるとは。

 

 「くっ、ギル!!」

 

 「行かせるか!!」

 

 メサイアの方へ向かおうとするレジェンドに回り込んだアカツキが切り離したビーム砲塔を操作して進路を阻んだ。

 

 「邪魔を!」

 

 全身に走る感覚と鋭い反応で砲塔からの射撃を回避するとドラグーンとビームライフルでアカツキを狙撃する。

 

 しかし撃ち出された閃光はすべて敵機を貫く事無く、黄金の装甲によって反射されてしまう。

 

 「厄介だな!」

 

 反射され、戻ってきたビームをシールドで防御しながら毒づいた。

 

 レジェンドとアカツキの相性は良くない。

 

 あの装甲によってビーム攻撃はすべて弾かれてしまうからだ。

 

 それは奴が使用しているドラグーンも例外ではない。

 

 砲台にも反射する装甲は装備されているらしく、ビームライフルで撃墜する事もできないのである。

 

 そうなると実体弾に類する攻撃か、あるいは接近戦が有効であると考えられる。

 

 だがレジェンドに装備されている武装では選択肢が限られてくる。

 

 ビームスパイクならば貫通出来るかもしれないが、相手がエンデュミオンの鷹と呼ばれたムウ・ラ・フラガでは当てられないだろう。

 

 そうなるとあの機体の特性を破り、打倒する為には接近戦しかない。

 

 レイは視線を動かし周囲を観察しながら、デファイアント改ビームジャベリンを構えアカツキに斬りかかる。

 

 その間、ドラグーンによる牽制も行う。

 

 狙いはあくまでもアカツキの動きを誘導する事。

 

 ビームを弾くとはいえ、避けられるものは避けようとするのがパイロットとしての心理であろう。

 

 ならば―――

 

 「何時までも調子に乗るな!」

 

 動きを誘導したレイが叩き込んだ一撃をムウはどうにかシールドを掲げて防ぐとこちらも負けじとサーベルを振り抜く。

 

 「たく、いちいちクルーゼと動きが被るんだよ!!」

 

 苛立たしげに吐き捨て、光が弾ける中で目の前の機体を睨みつける。

 

 機体が奴が乗っていたモビルスーツ『プロヴィデンス』の後継機である事も関係しているのだろう。

 

 しかしその動きは幾度となく矛を交えてきたラウ・ル・クルーゼを彷彿させるのだ。

 

 さらにドラグーンのコントロールも奴によく似ているというのがまた、嫌な事を思い出させる。

 

 「だとしても!」

 

 クルーゼ相手の戦いは何度も経験してきた。

 

 故に似ているというならば戦いようはある。

 

 巧みな動きでドラグーンによる攻撃から逃れ、ビームライフルで撃ち落としながら再びサーベルを構えて突撃する。

 

 双刃を構えるアカツキをレイは忌々しげに睨むと一歩も引く事無く、迎え撃つ。

 

 「確かにエンデュミオンの鷹の名は伊達ではないらしい。しかし、貴方では俺には勝てない!!」

 

 それは必然ともいえる事。何故なら彼は何度戦っても、もう一人の自分に勝てなかったからだ。

 

 レジェンドはライフルで牽制しながら徐々に後退。

 

 破壊されたイフリートの二本のベリサルダをもぎ取ると背中の砲塔を切り離す。

 

 「チィ!」

 

 下方から撃ち放たれるビームを避ける為、上昇してやり過ごすがそれこそがレイの狙いであった。

 

 「そこだ!」

 

 ドラグーンを操作し、浮かんでいたモビルスーツの残骸を破壊してアカツキを爆風で吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!?」

 

 どうにか衝撃に耐え、機体を立て直そうとするムウの眼前に回転しながら物体が飛び込んでくる。

 

 「対艦刀!?」

 

 爆煙の中から飛び出してきたのは先ほどレイがイフリートから奪い取ったベリサルダであった。

 

 「不味い!?」

 

 アカツキの装甲ヤタノカガミでは対艦刀の攻撃は防げない。

 

 レイはアカツキに対してビームが通用しないと判断した時から、イフリートの対艦刀を有効に使うためにこの位置まで誘導するつもりだったのだ。

 

 咄嗟に操縦桿を引き回避運動を取るが、ムウの直感が危険を知らせた。

 

 「ッ!?」

 

 無理やり機体を捻って、軌道を変えるとアカツキが居た空間をビームスパイクが脚部の装甲を抉っていく。

 

 そして接近してきたレジェンドが残ったベリサルダを横薙ぎに振り抜き、ビームライフルを斬り裂いた。

 

 「くそ!!」

 

 「言った筈だ! 貴方では俺には勝てないと!! 何故なら俺は―――『ラウ・ル・クルーゼ』だからだ!!」

 

 叫びと共に再びドラグーンを展開し、ベリサルダを振るっていく。

 

 絶え間なく叩き込む猛連撃を前に防戦一方のアカツキ。

 

 それを追い詰めんとレジェンドがさら前へと出た。

 

 

 

 その時、あの感覚が全身を駆け廻り、そして―――

 

 

 

 

 「ずいぶんと大きく出たな」

 

 

 

 

 その声と共に周囲に展開されていた砲塔が強力なビームによって消し去られ、次の瞬間、接近してくる閃光が見えた。

 

 「なっ!?」

 

 「これは!?」

 

 ビームではない。

 

 忘れる筈のない特徴的な青紫の機体が凄まじい速度で接近すると、すれ違いざまにビームサーベルを引き抜いた。

 

 攻撃を感知し、ビームシールドで光刃を止めるレイだったが、その隙に回り込まれ突き飛ばされてしまう。

 

 「ぐっ、ううう!!」

 

 衝撃を噛み殺して、乱入してきた機体を睨みつけた。

 

 「……ユリウス・ヴァリス」

 

 レジェンドとアカツキの間に割り込むように佇むのはグロウ・ディザスター。

 

 いずれ戦う事になると覚悟はしていたが―――

 

 レイがユリウスが来た事に歯噛みしていたのと同様にムウもまた驚愕し、操縦桿を握る手に力が入る。

 

 「今度はユリウスか」

 

 彼ともクルーゼ同様、前大戦から何度も戦い、その度に苦渋を舐めさせられた。

 

 今回は状況的にも敵ではないと思いたいところだが、ディザスターから発せられる殺気がそんな楽観的な思考を抱かせない。

 

 「……ユリウス」

 

 「……邪魔だ。失せろ、ムウ」

 

 ユリウスは冷たい声で言い放った。

 

 「何!?」

 

 「邪魔だと言った。もう一度言ってやる、失せろ」

 

 奴の言い様に腹が立つが、離脱するには好都合である。

 

 レジェンドを警戒しながら、ムウはアークエンジェルがいる方に離脱する。

 

 「ッ、行かせると思うか!」

 

 ドラグーンで離脱していくアカツキを囲もうするが、それをディザスターがビームライフルで狙撃しながら阻止してみせた。

 

 「舐められたものだな」

 

 「くっ、貴方が彼を助けるとは思いませんでしたよ」

 

 「……勘違いするな。誰が奴など助けるか」

 

 ユリウスにとっては今でもムウは憎しみの対象である事に変わりはない。

 

 だがその為にすべき事を履き違えるほど、愚かではないというだけの話である。

 

 「そんな事よりも、先程聞き捨てならない事を言っていたな……誰がラウ・ル・クルーゼだと」

 

 明らかな殺意と怒りの籠った声色にレイはたじろいだように声を詰まらせる。

 

 まるで目の前に肉食獣がいるかのような恐怖。

 

 レイは全身を包む恐怖を噛み殺し、自身を奮い立たせる。

 

 怯むな。

 

 ここで怯めば、そこにつけ込まれるだけ。

 

 「……たとえ貴方が相手でも、いや、貴方が相手だからこそ、俺は!!!」

 

 負けられないのだ。

 

 ギルが創る世界の為にも。

 

 「貴方を、キラ・ヤマトを、アスト・サガミを倒し、今日ですべての過去を終わらせる!!」

 

 「……くだらん。やれるものならやってみろ」

 

 レイはすべてのドラグーンを放出し、ベリサルダとビームジャベリンを構えて斬りかかった。

 

 彼の強さは良く分かっている。

 

 自分と同じく特殊な空間認識力を持ち、他者を寄せ付けない圧倒的な技量。

 

 そんな相手に長期戦に持ち込むよりも、一気に勝負を決めた方が危険は少ないと判断した。

 

 展開された砲台から放たれた無数の閃光が網のように広がり、レジェンドの持った光刃がディザスターに襲いかかった。

 

 しかしそんな攻撃を前にしてもユリウスは全く表情を変える事は無い。

 

 二つの刃を避け、スラスターを使って加速するとドラグーンの砲撃を潜り抜ける。

 

 「逃がさない!」

 

 ドラグーンをコントロールしながら、今度こそと刃を構えて斬りかかった。

 

 だがその瞬間、レイの全身にあの感覚が走る。

 

 気がつけばいつの間にか射出されていたディザスターのドラグーンが背後に回り込んでいた。

 

 「くっ!?」

 

 攻撃を中止し、急速に上昇してビームを回避する。

 

 そこに待ち構えていたディザスターの斬撃がレジェンドの脚部を捉え、斬り裂かれてしまった。

 

 しかしレイとてただ黙っている気はない。

 

 即座に反撃に移る。

 

 持っていたビームジャベリンを逆袈裟に振り上げ、敵機の装甲に浅くではあるが傷をつけた。

 

 「ほう、口先だけかと思いきや、なかなかやるな。しかし―――」

 

 ジャベリンの一撃に仰け反り、体勢を崩したかと思われたディザスター。

 

 しかし次の瞬間、レイの視界の前からかき消えたように姿を見失ってしまう。

 

 「ぬるい」

 

 「なっ!?」

 

 その直後、ベリサルダを持っていた左腕ごと叩き斬られてしまった。

 

 攻撃の軌跡も見えず、機体の姿も見失った。

 

 いや、正確には瞬時にこちらの死角に入り込み、攻撃を加えてきたのだ。

 

 腕を落とされた衝撃と死角に入られた動揺によってレイのコントロールが若干鈍る。

 

 それを見逃すユリウスではない。

 

 ビームライフルの一射がドラグーンを撃ち落とし、レジェンドのバックパックの一部を吹き飛ばす。

 

 「ぐぅ、何故だ!? 何故貴方は俺達と敵対する!?」

 

 「私の考えは月で言った通りだ」

 

 ユリウスは感情を込める事無く淡々とした口調で語りながら、レジェンドの砲撃を易々と回避していく。

 

 「議長の創られる世界こそが、過去を終わらせ、救いをもたらす唯一の道! ラウもそれを―――」

 

 「……思い上がるなよ。自分も持たんデュランダルの人形風情が」

 

 スラスターを噴射させて速度を上げるとすれ違いざまに残った脚部も斬り落す。

 

 「私は別にお前がデュランダルに賛同して戦う事を否定はしない。自身で考え、覚悟し、決めたなら何も言わん」

 

 「くっ!」

 

 まるですべてを見切っているかのように、ビームを鮮やかにかわしていく。

 

 その様が余計にレイの焦りに拍車をかけ、コントロールを鈍らせていく。

 

 「だがな、それはお前の本心では、お前自身の言葉ではないだろう―――他者の言葉で自分を語るな!!」

 

 「ッ!?」

 

 その指摘にレイの思考が白く染まった。

 

 自分自身を見透かされているかのような感覚を覚え、一瞬動きを止めてしまった。

 

 ディザスターはビームを紙一重で避け肉薄すると叩きつけられたビームジャベリンを弾き、サーベルを一閃する。

 

 袈裟懸けに振るわれた一撃が残った右腕を斬り落とし、突き出したビームカッターで頭部を斬り潰した。

 

 「ぐあああああ!!!」

 

 四肢と頭部を破壊されたレジェンドは装甲から色が消え、完全に沈黙した。

 

 全く動かない所から見てどうやらレイは気を失っているらしい。

 

 そこに丁度通信が入ってくる。

 

 《大佐》

 

 「アレックスか。どうした?」

 

 《こちらに向け発射されようとしていた主砲を破壊し、現在攻撃部隊と一緒にアポカリプスの内部に侵入しました》

 

 そこまで来ればアポカリプスの奪還は時間の問題だろう。

 

 「良し。そのまま内部を制圧し、部隊をアポカリプス周辺に集結させろ」

 

 《……機動要塞の方は?》

 

 「地球軍と同盟に任せておけ。今はアポカリプス奪還を優先する。その後は状況次第だ」

 

 《了解》

 

 アレックスからの通信を終え、モニターから映像が消えると周囲に目を向けた。

 

 戦闘は未だに続いているが初期にくらべずいぶん状況は変わった。

 

 アポカリプスは落ち、メサイアを守っていた陽電子リフレクターは消失した。

 

 流石のデュランダルでもここまで追い込まれるとは思っていなかったに違いない。

 

 「さて、どういう結末になるのかな、デュランダル」

 

 ユリウスはメサイアの方を一瞥するとすぐに視線を戻し、動かなくなったレジェンドの方へと近づいていった。

 

 

 

 

 宇宙を薙ぐ圧倒的な閃光がこちらを狙って放たれた。

 

 アオイは操縦桿を引き、レヴィアタンからの砲撃を回避すると改めて敵機の姿を確認する。

 

 通常の機体よりもやや大きく、火力もある。

 

 かといってデストロイのように動きが鈍いかと思いきや全身に設置されたスラスターによって機動性にも優れている。

 

 「デストロイというよりは、あのスカージに近いかもしれないな」

 

 巨体の割に圧倒的な加速力と火力を持ったスカージは実に厄介な相手だった。

 

 目の前のモビルスーツはあの機体に近い感じがする。

 

 スカージは連合内でもう不穏な噂があったが、この新型と結びつけるのは考え過ぎなのだろうか。

 

 敵の猛攻を潜り抜けたアルカンシェルはアンヘルを構え、動き回る砲塔目掛けて発射する。

 

 凄まじいまでの閃光に呑まれたドラグーンを一斉に消し飛ばした。

 

 しかしそれでも目に見える数は減らず、再び放出された砲塔がこちらに向かってきた。

 

 「何基あるんだよ!」

 

 毒づきながらビームの雨を振り切るように加速する。

 

 その間に接近してきたレヴィアタンが袈裟懸けに振るった斬撃をシールドで弾き、距離を取った。

 

 別方向に目を向けると先に戦っていた同盟軍機が目に入る。

 

 ジャスティスとヴァナディスは傷つきながらも、レヴィアタンからの攻撃を防いでいた。

 

 だが気になったのはその動きだ。

 

 損傷と別に明らかに動きが鈍く、あの機体に向けて致命的な攻撃を避けているようにも見える。

 

 「もしかして……」

 

 心当たりのあったアオイは急いで通信機のスイッチを入れる。

 

 「そこの同盟軍機、返事をしてくれ」

 

 「貴方は月で会った地球軍の……」

 

 モニターに映った顔にはこちらも見覚えがあった。

 

 確かアスト・サガミと一緒にいた女性。

 

 それにもう一人は自分も知っているピンクの髪の少女と同じ顔をした女性が映っている。

 

 彼女達が同盟のエースパイロットらしい。

 

 意外というか色々と気になる事はあるが今は先に聞くべき事がある。

 

 「あの機体のパイロットは貴方達の知り合いなのか?」

 

 彼女達の動きはかつての自分と同じだった。

 

 ステラを助けようとしていた自分と。

 

 「ええ、あの機体には妹が、ティア・クラインが乗っています」

 

 「ティア・クライン!?」

 

 あのティア・クラインがモビルスーツに乗って戦っている?

 

 ジブラルタルで出会った時にはモビルスーツでの戦いなどとは一番無縁に見えたのだが。

 

 もしかすると―――

 

 「……もしかして貴方達の事が分からないのか?」

 

 「ええ」

 

 予想通りステラの時と同じだ。

 

 それで彼女らの行動にも合点がいく。

 

 なら自分が取るべき行動は決まっていた。

 

 「俺が前に出ます」

 

 「えっ、しかし!」

 

 「その損傷ではあの機体と真っ向から戦うのは難しい筈だ」

 

 確かに二機は万全とは言い難い状態。

 

 新型と真っ向から事を構え、ティアを救出するには些か心許無い。

 

 「大丈夫、俺が必ず助けますから」

 

 アオイは二人の返事を待たず、レヴィアタンに向かっていく。

 

 「幾つか隠し腕を持っています。接近する際には気をつけてください」

 

 「了解!」

 

 腹部から発せられるサルガタナスの一撃を旋回して回避するとビームライフルを連射。

 

 狙いは肩部から伸びた羽のような装甲だ。

 

 あれを破壊すれば動きも鈍る。

 

 しかし敵は意外にも回避する素振りも見せない。

 

 オハンを構え機体を守るようにビームシールドが展開、すべてのビームを防いで見せた。

 

 さらに盾の中央が割れ、並んだ砲口が露わになると肩部のビーム砲と共にアルカンシェル目掛けて三連装ビーム砲が発射される。

 

 「あんな装備まで!?」

 

 強烈な何条もの閃光にアオイもビームシールドを展開して防御に回る。

 

 あの盾の武装も含め、相当の火力を持っている。

 

 しかもあれだけ大きく強力なシールドまで展開できるとなると距離を取っての砲撃戦では不利は否めない。

 

 となると接近戦しか無い訳だ。

 

 「言うほど簡単にはいかないよな」

 

 隙でも作れたら別なのだろうが。

 

 ステラの時みたいに声でも掛けてみるか?

 

 姉にも反応がないというのに、自分の声で止まるとも思えないが。

 

 意を決して通信機に向かって声を張り上げる。

 

 「聞こえているか、ティア・クライン!! 俺だ、ジブラルタルで出会ったアオイ・ミナトだ!!」

 

 一瞬でも注意を引き付けられれば良い程度にしか考えていなかったのだが、予想外にも敵機は動きを鈍らせた。

 

 もしかすると反応しているのだろうか?

 

 何故自分の声に反応するのか疑問は残るが、今はそんな事はどうでも良い。

 

 《……ア、オイ?》

 

 「そうだ、もうやめろ! そのモビルスーツから降りるんだ!!」

 

 もしかするとこのまま戦わずに済むかもしれない。

 

 そんな淡い期待を抱いたアオイだったが、それもすぐに打ち砕かれた。

 

 《わ、私は……アオ、イ……ミ、ナト……排除目標……いや、ちが……ア、レ、ア、レン……さ―――》

 

 様子がおかしい。

 

 声を掛けたのは不味かったのか。

 

 「おい、俺の声が―――」

 

 その時、

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 不気味な機械音声と共に悪夢のシステムが起動する。

 

 《……最優先排除目標確認。殲滅します》

 

 その瞬間、今までの攻撃が児戯だったと言わんばかりの苛烈な攻勢が開始される。

 

 「ッ!?」

 

 レヴィアタンに設置された砲口が一斉に解放され周囲を焼き尽くす砲撃が発射された。

 

 アオイはアルカンシェルを上昇させ何条ものビームを回避する。

 

 下方を通過した閃光は射線上のすべてを巻き込み、漂っていたすでに破棄された戦艦の残骸諸共消し飛ばした。

 

 「馬鹿みたいな火力だな!」

 

 あれは掠めただけでもただでは済むまい。

 

 さらに放出されたドラグーンの動きも鋭さを増した。

 

 「チッ、邪魔だ!」

 

 思わず舌打ちしながら、回避運動を取り、ライフルで敵機を狙撃する。

 

 しかしそれも機敏な動きとあの大きなビームシールドによって防がれてしまう。

 

 「まずはあの盾をどうにかしないと」

 

 オハンがある以上、遠距離、近距離に関わらず攻撃は通用しない。

 

 問題はどうやってこれだけの砲火の中、あの盾を破壊するかである。

 

 考え込んでいたアオイに距離を詰めてきたレヴィアタンはロングビームサーベルを袈裟懸けに振るってきた。

 

 「速い!?」

 

 機体を逸らし、目の前を通過する光刃が装甲の一部浅く抉った。

 

 負けじとこちらもサーベルを抜くと袈裟懸けに振り抜く。

 

 しかし常人とは比べものにならないほど素早い反応で受け止め、二機の間に光が弾ける。

 

 膠着状態の中、肩部と腰部から伸びてきた腕が上下から同時にサーベルで斬りつけてきた。

 

 レティシアからの忠告のおかげか、驚きも無く斬撃をシールドを使って捌いた。

 

 「次から次へと!!」

 

 合計六本の腕から繰り出されるビームサーベルの斬撃がアルカンシェルに容赦なく襲いかかった。

 

 斬撃をシールドで防御しながら、攻め手を考える。

 

 距離を取れば強力な火器とドラグーンによる波状攻撃。

 

 かといって接近すれば六本のビームサーベルの連撃が待っている。

 

 しかもこちらは致命的な一撃を加えられない。

 

 攻めあぐねるアオイに対し、敵機は攻撃の手を全く緩めない。

 

 その時、アルカンシェルを守る様に広がった光のフィールドがレヴィアタンの砲撃を防いで見せた。

 

 「なんだ?」」

 

 ビームを防いだのはヴァナディスのアイギスドラグーンだった。

 

 そして回り込んだジャスティスがビームサーベルで側面から斬り込んでいく。

 

 攻撃はすべてシールドによって阻止され、火花を散らした。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「ええ。援護助かりました」

 

 とはいえ攻めあぐねている現状は変わらない。

 

 「やはりあのシールドをどうにかしなければならないですわね」

 

 「ええ」

 

 「分かりました。アレは私が破壊します、レティシアは砲撃の方を防いでください。そして最後は貴方にお任せします」

 

 「ラクス!?」

 

 レティシアと共にアオイも驚く。

 

 というか―――

 

 「どうして俺をそこまで信じられるんです?」

 

 確かに敵対している訳ではないが、それでも地球軍の人間である。

 

 手を貸すような事をしたのは自分な訳だが、彼女達からすれば不信感を抱くのが普通だろう。

 

 「今までの戦い方を見れば十分です。それに貴方は助けると言ってくれましたから」

 

 「ハァ、そうですね。ラクス、無茶だけはしないでくださいね」

 

 「はい」

 

 止む事のないビームの嵐の中を躊躇う事無くジャスティスが飛び込み、その後ろからヴァナディスが続いた。

 

 お人好しとでも言えばいいのか。

 

 でもそういうのは嫌いではない。

 

 「良し、行くぞ!」

 

 改めて操縦桿を握り直すと、二機を追うように嵐の中へと向っていく。

 

 ヴァナディスが後方からドラグーンを狙撃する中、SEEDを発動させたラクスはシールドのグラップルスティンガーを射出。

 

 レヴィアタンの腕をつかみ取ると、ビームサーベルを叩きつける。

 

 だが僅かに早く展開されたオハンによって防御されてしまった。

 

 でもそれは想定内。

 

 肩部の隠し腕をシャイニングエッジビームブーメランで斬り潰すと、背中のファトゥム01を分離させオハンに突撃させる。

 

 ここまでの戦いただ眺めていた訳ではない。

 

 当然オハンの特性にも気がついていた。

 

 あの盾は強力かつ広大なシールド展開でき、攻撃面においても三連装ビーム砲も搭載している。

 

 しかし戦闘中においてもビームシールドを展開していた時間は限られていた。

 

 すなわちシールドの持続時間は短いという事。

 

 そしてもう一つ気がついた事があった。

 

 それは圧倒的な実戦経験の不足である。

 

 ティアに対してどんな仕掛けをしているのかは分からない。

 

 しかしどれほど資質に優れていようとも彼女は所詮素人だ。

 

 僅かに垣間見える動きのぎこちなさなどが隠しきれていない。

 

 ならばそこを突く。

 

 ファトゥム01に押し込まれていくレヴィアタンであったが、もう片方の手で抜いたロングビームサーベルを振りかぶった。

 

 「させません!!」

 

 ドラグーンを撃ち落としたレティシアがビームガンから発生させたサーベルで肩部装甲を斬り裂き、敵機のバランスを崩す。

 

 しかし腰部の隠し腕から放たれた斬撃がヴァナディスの右腕を斬り落とした。

 

 「くっ、反応が鈍い!?」

 

 普通であれば避けられた一撃だったにも関わらず、腕を落とされてしまった。

 

 見た目以上にダメージが蓄積しているらしい。

 

 「レティシアは下がって! 後は!!」

 

 展開時間の限界を超えたシールドが消失。

 

 同時にファトゥム01がオハン諸共左腕を潰し、ジャスティスのビームブレイドが腰部の隠し腕を破壊する。

 

 しかしティアはそこで出来た隙を見逃さない。

 

 ロングビームサーベルでジャスティスの脚部を斬り捨て、脚部のビーム砲で吹き飛ばした。

 

 「ぐうう!!」

 

 グラップルスティンガーのワイヤーを切り離し、シールドでビーム砲を受け止めたが吹き飛ばされてしまった。

 

 ジャスティスに止めを刺すため、レヴィアタンがサルガタナスを構えた。

 

 「やらせない!!」

 

 正面からビームサーベルを抜いたアルカンシェルが突っ込んで来るのを見たレヴィアタンは、目標をそちらに変え腹部の一撃を放った。

 

 「うおおお!!」

 

 アオイが機体の出力を上げる。

 

 同時にリミッターが解除され、装甲の一部が開き、光の放出を開始した。

 

 一気に加速したアルカンシェルはデスティニーと同じく光学残像を生み出し、ビームを避けた。

 

 違和感は無く今まで以上の一体感を感じながら回避運動を取った。

 

 強力な閃光を潜り抜け、ビームサーベルを一閃。

 

 片方の肩部装甲を破壊する。

 

 その時、アルカンシェルの腕部は明らかに光を多く放出していた。

 

 それによりまるでサーベルが二本あるかのような、はっきりとした幻影を生み出している。

 

 「これってW.S.システムか!?」

 

 W.S.システムはアオイの戦い方を学習し、アルカンシェルのナチュラルでは制御しきれない複雑な操作も補助するよう調整されている。

 

 それは本来外部装甲によって管理されていたリミッターに関しても同様だ。

 

 制御がW.S.システムに切り替わった事で一つの変化を起こしていた。

 

 アオイの動きや状況に合わせ、光の放出量を調整する事で一部ではあれど、より高度の幻影を発生させていた。

 

 まるでそこに本物が存在しているかのような高度な幻影を。

 

 「はあああああああ!!!」

 

 相手は幻影によって動揺したのかアルカンシェルを捉えきれていない。

 

 機体を手足のように操りながらドラグーンをアンヘルで吹き飛ばし、振るった剣閃がスラスターを斬り裂いた。

 

 そして敵機は再びサルガタナスを放とうと構える。

 

 「これ以上、撃たせない!!!」

 

 攻撃を察知し再び懐に飛び込むとサーベルで頭部を串刺しにして距離を取った。

 

 破壊された頭部から火を噴き爆煙が上がる。

 

 それに伴い持っていたロングビームサーベルから光が消え、ドラグーンも動きを止めた。

 

 今の攻撃で一時機体の機能が麻痺したのだろう。

 

 チャンスはここしかない。

 

 「今だ!」

 

 「はい!」

 

 動きを止めたレヴィアタンにジャスティスが取りついた。

 

 ラクスが解放したコックピットからティアを引き摺り出し、自身の方へ引っ張り込む。

 

 「ティア!!」

 

 「う、うう……」

 

 頭痛によるものか苦しそうに表情を歪めてはいるが、どうやら無事らしい。

 

 目立った外傷もないようだ。

 

 「大丈夫、無事です」

 

 「ラクス、このままオーディンまで運び―――ッ!?」

 

 安堵して声を掛けようとしたその時、レティシアに嫌な感覚が走ると同時に声が響いた。

 

 

 「素晴らしい。流石だよ、アオイ・ミナト君」

 

 

 全員が振り返った先には赤いモビルスーツ『サタナエル』がその速力を持って急速に近づいてきていた。

 

 

 

 

 メサイア付近でミネルバと激しい攻防を繰り広げていたフォルトゥナのブリッジでヘレンは驚愕を隠せずにいた。

 

 「……まさか、レヴィアタンが落ちた?」

 

 レヴィアタンの機能停止。

 

 それはヘレンにとって完全に想定外と言える出来事であった。

 

 一体誰が倒したのか。

 

 最もティアに影響を与えうる相手はアスト・サガミだ。

 

 ティアにとって彼の存在は心の拠り所ともいえる程。

 

 だがそんな彼もシグーディバイドによって足止めされている。

 

 倒しうる実力を持つキラ・ヤマトも同様である。

 

 いや、誰が倒したにしろ彼の機体はまさに切り札。

 

 そこらのモビルスーツなどでは相手にならなかった筈である。

 

 それが落とされてしまうとは想像もしていなかったというのが本音であった。

 

 それだけではない。

 

 アポカリプス主砲の破壊にメサイアを守っていた陽電子リフレクターの消失。

 

 近くには撃ちあっているミネルバに加え、アークエンジェルや地球軍の機体も近づいていた。

 

 ラナには防衛の為にメサイアに近づくすべての者を攻撃するように指示してあるが。

 

 「いえ、まだ負けた訳ではない」

 

 スカージや強化型シグーディバイドは健在。

 

 こちらに向かっている筈の主力部隊が戻れば、勝つのはこちらだ。

 

 敵の残存部隊はそれで十分に殲滅できる。

 

 「トリスタン、照準。タンホイザー発射準備」

 

 「了解!」

 

 フォルトゥナの砲撃が撃ち出され、ミネルバの装甲を掠める。

 

 立て続けに砲撃を叩き込もうとしたヘレンであったが、敵艦も反撃しようとしているのに気がつきすぐに指示を飛ばす。

 

 「リフレクタービット射出!」

 

 側面から射出された大型のビットがフォルトゥナを覆い、ミネルバの砲撃を防いで見せた。

 

 それに驚いたのはタリア達である。

 

 「まさか、陽電子リフレクター!?」

 

 「ええッ!?」

 

 アーサーが驚くのも無理はない。

 

 事前に射出した物から察するに地球軍のモビルアーマーのように常に展開できる代物ではないようだ。

 

 しかし十分に脅威といえる。

 

 アレが存在しているだけでミネルバの最大火力であるタンホイザーも通用しないのだから。

 

 「だとしても退く訳にはいかないわ」

 

 すでに自分達に余力は残されていない。

 

 次は無いのだ。

 

 だからどんな無茶であれ、あの要塞を落とす必要がある。

 

 「アーサー!!」

 

 「は、ハイ! トリスタン照準、撃てぇ―――!!」

 

 同じ形状を持つ二隻の艦が鎬を削る。

 

 そのすぐ傍でトワイライトフリーダムとシークェルエクリプスがスカージ相手に攻防を繰り広げていた。

 

 馬鹿みたいに降り注ぐ対艦ミサイルを吹き飛ばしたルナマリアは呆れたように呟いた。

 

 「こいつ一体何発ミサイル積んでるのよ!」

 

 「ミサイルも多いですけど、ドラグーンやリフレクターも面倒ですね」

 

 スカージの制圧能力は異常だ。

 

 この数の多さには辟易しそうになる。

 

 しかも先程までとは射撃の精度も格段に上がっていた。

 

 おそらくシオン達と同じ仕掛けを使っているのだろう。

 

 「ルナマリアさん、私があの機体を引きつけます。その間に接近して落してください」

 

 「ちょっと、妹ちゃん!?」

 

 「お願いします!」

 

 スカージ目掛けて突撃していくフリーダムの後ろ姿に呆気にとられていたが、すぐに口元に笑みを浮かべる。

 

 「全く、ああいう無茶する所は本当に兄妹そっくりね」

 

 無茶だからとただ見ている気はなかった。

 

 自分よりも年下の女の子が頑張っているのだから、尚の事。

 

 デスティニーシルエット02のスラスターを吹かし、残った武装を確認する。

 

 ビームライフルは健在だがビームサーベルとエッケザックスが一本ずつ。

 

 バロールの残弾にはまだ余裕があるが、サーベラスの方はバッテリーの残量を考えると乱発できない。

 

 「じゃあ、行くわよ!」

 

 装備を確認したルナマリアはエッケザックスを抜き、ミサイルを迎撃しながら先行したマユの後を追って速度を上げる。

 

 そんな二機を前に№ⅥはI.S.システムによって研ぎ澄まされた感覚に従い攻撃を開始する。

 

 放出した多量のドラグーンを今までとは比べものにならない精度で巧みに操り、突撃してくるトワイライトフリーダムに向わせた。

 

 「……目標を排除します」

 

 何の苦もなく砲塔を操作し蒼い翼のモビルスーツを囲むように配置すると一斉に四方から無数のビームが放たれる。

 

 「くっ!?」

 

 マユはビームを避けながら、速度を上げビームライフルで飛び回る砲塔を撃墜。

 

 背中のラジュール・ビームキャノンをスカージ目掛けて叩き込む。

 

 「リフレクター展開」

 

 スカージの側面部から射出された物体がリフレクターを張り、撃ちこまれたラジュール・ビームキャノンの一撃はいとも簡単に弾かれてしまった。

 

 「まずアレをどうにかしないと話にならないですね」

 

 シールドでドラグーンの射撃を防ぎ、フリーダムもアイギスドラグーンを展開して機体を覆うようにフィールドを張る。

 

 それが四方からの砲撃を防ぎ、スカージ目掛けて突撃した。

 

 「……接近させると危険と判断、迎撃開始」

 

 №Ⅵはドラグーンを物ともせずに急速に接近してくるトワイライトフリーダムに若干の苛立ちを感じながら、アウフプラール・ドライツェーンを発射する。

 

 マユをそれをあえて避けずに加速。

 

 スカージの砲口から迸るビームがアイギスドラグーンの防御フィールドとぶつかり、眩いばかりの光を生み出した。

 

 凄まじい衝撃を越えアウフプラール・ドライツェーンを突破。

 

 懐に飛び込んだマユはビームシールドを使って陽電子リフレクターを突破する。

 

 そして両手にシンフォニアを握り、スカージの砲身を斬り裂くと下腹部に突き刺し、飛び退いた。

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 その衝撃よってリフレクターは消え、一部のドラグーンが動きを止める。

 

 「……何故―――ッ!?」

 

 呻くような声を上げ№Ⅵは計器を確認すると、コントロール系の一部が破損してしまっていた。

 

 どうするべきかと判断しようとした№Ⅵだったが、目の前にはエッケザックスを構えて近づいてくるシークェルエクリプスの姿が見えた。

 

 「ミネルバ、ソードシルエット!!」

 

 №Ⅵがトワイライトフリーダムに集中していた間にある程度接近していたルナマリアは通信機に叫ぶ。

 

 フォルトゥナとの戦闘中に厳しいかとも思ったが、何の躊躇もなくメイリンからの返事がきた。

 

 《はい!》

 

 生きているドラグーンによって機体に無数の傷が作られ、砲塔の一射にデスティニーシルエット02の一部が破壊されてしまう。

 

 爆発が機体を襲いバランスが崩されてしまうが、ルナマリアは速度を決して緩めない。

 

 「これでも食らえ!」

 

 半壊状態のデスティニーシルエット02を分離させてスカージにぶつける。

 

 そして射出されてきたソードシルエットを装着すると握っていたエッケザックスを敵機に向け振り下ろす。

 

 刃がスカージの装甲を突き破り深々と突き刺さった。

 

 「きゃあああ!!」

 

 シルエットの爆発と突き刺さったエッケザックス。

 

 その衝撃がコックピットにいた№Ⅵにも伝わり、全身を打ちのめした。

 

 「……ここま、でか。申し、訳ありません……カース……さま」

 

 意識が消える最後に見えたのはエクリプスが柄を連結させアンビデクストラスフォームしたエクスカリバーを振りかぶる瞬間であった。

 

 「はあああ!!」

 

 対艦刀の一太刀によって斬り裂かれたスカージは火を噴き、爆発を起こした。

 

 敵機が完全に動かなくなった事を確認したルナマリアはそこでミネルバとフォルトゥナが互いに最後の一射を撃とうとしている事に気がついた。

 

 「あれじゃ不味い!」

 

 陽電子リフレクターが消えた所を狙ったようだが、それは誘いだ。

 

 あらかじめ予備のビットを射出し、再びリフレクターを再展開しようとしているフォルトゥナには通用しない。

 

 あれではタンホイザーが防がれた瞬間、ミネルバが狙い撃ちされてしまう。

 

 「ルナマリアさん、この機体を使いましょう!」

 

 「えっ、あ、了解!」

 

 マユの声に戸惑うも、すぐに意図を理解したルナマリアはフリーダムと共にスカージの残骸をフォルトゥナの方へ押し出す。

 

 そしてビームライフルとラジュール・ビームキャノンで狙撃する。

 

 ビームに撃ち抜かれたスカージは大きな爆発を引き起こし、それに巻き込まれた一部のリフレクタービットが破損した。

 

 「なっ!?」

 

 予想外の事にヘレンは目を見開いた。

 

 これでは陽電子リフレクターが張れない。

 

 再度ビットを射出する暇も、同じくタンホイザーを撃って相殺する事もタイミング的にも間に合わない。

 

 一瞬だけ驚愕していたがすぐに我に返り、ミネルバの艦首砲が光を放っているのを見て叫びを上げる。

 

 「回避!!!」

 

 「間に合いません!!」

 

 それでもどうにか避けようと右舷のスラスターを噴射した次の瞬間―――

 

 

 「タンホイザー、撃てぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 タリアの声に合わせ、発射されたタンホイザーの一射がフォルトゥナの右舷を消し飛ばした。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「きゃあああ!!」

 

 タンホイザーの一撃を受け右舷が凄まじい爆発を引き起こしたフォルトゥナはバランスを崩しながら、急速にメサイアの方へ流される。

 

 岩盤に突き刺さるように激突したフォルトゥナは完全に動かなくなった。

 

 あれではもうどうにもなるまい。

 

 「ルナマリアさん、ここをお願いします!!」

 

 「ええ!」

 

 マユは要塞内部に入るため、その場をルナマリアに任せるとメサイアに向う。

 

 向ってくる敵機を一蹴し突き進んでいくトワイライトフリーダムだったが、進路を阻むように再びデスティニーが立ちふさがる。

 

 「あの機体は!?」

 

 「……フリーダム!!」

 

 メサイアに辿り着いたジェイルは宿敵の死天使トワイライトフリーダムを睨みつける。

 

 しかし同時にミネルバと撃沈されたフォルトゥナの姿を見る。

 

 「何で……何で、こうなるんだァァ!!」

 

 湧きあがる憤りに苛まれ、アロンダイトを抜き放つ。

 

 「はああああああ!!!」

 

 「貴方に構っている時間なんてないんですよ!!」

 

 マユもまたビームサーベルを抜き、デスティニーを迎え撃った。

 

 互いの刃が交錯し、装甲を傷つけ、抉り、激突を繰り返し膠着状態のままメサイアの方へと近づいていく。

 

 その均衡を破ったのはジェイルにとって意外な人物であった。

 

 三連装ビーム砲がトワイライトフリーダムとデスティニー目掛けて叩き込まれたのだ。

 

 「何!?」

 

 二機は咄嗟に距離を取ると、そこにいたのはラナの強化型シグーディバイドであった。

 

 「な、なんで……」

 

 今の一撃、フリーダムはおろかデスティニーまで巻き込むつもりで放たれたものだった。

 

 「ラナ、俺が―――」

 

 「……メサイアに近づく者はすべて排除する」

 

 その声はあまりに冷たく、何の感情も感じられない。

 

 まるでセリスのように―――

 

 「まさか、ラナまで……セリスみたいになったっていうのか」

 

 呆然とするジェイルに構う事無く、ラナ機を中心とした複数の強化型のシグーディバイドが集まってきた。

 

 「排除開始」

 

 肩のビームキャノンを構えたシグーディバイドは一斉にデスティニーとフリーダムを狙ってビームを発射した。

 

 「ラナ!!」

 

 シールドを張って叫ぶジェイルを尻目にマユは盾を構えながら砲撃の中、距離をとっていく。

 

 「今の内に!!」

 

 攻撃に紛れ道を塞ぐ敵機をサーベルで斬り裂くとマユはメサイア内部に突入した。

 

 ライフルやビームキャノンを叩き込み、邪魔な障害や停泊しているナスカ級やローラシア級を破壊する。

 

 破壊された艦の爆発と外側からの砲撃によってメサイア内部も火を噴き、破壊されていく。

 

 マユは一番奥でトワイライトフリーダムをを着地させると、銃を持ちコックピットから降りて内部に潜入していった。

 

 

 

 

 探索した先で発見した端末から情報を得て、進んだ先にあったエレベーターに乗り込んだマユは目的地まで辿り着く。

 

 そこには椅子に座り、笑みを浮かべた黒髪の男が待っていた。

 

 「ようこそ、マユ・アスカ君」




多分ですが、残り3話くらいで完結になると思います。

後日、加筆修正します。

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