機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第63話  散りゆく者達の為に

 

 

 

 

 

 ザルヴァートルからセリスを助け出したシンは戦場から離れた位置で支援に当たっていたドミニオンまで後退していた。

 

 医務室に運ばれていくセリスをコックピットから眺め、安堵のため息つく。

 

 施設での精密検査の必要はあるが、命に別条はないとの事。

 

 本当に良かった。

 

 そこにブリッジから通信が入る。

 

 《シン・アスカ》

 

 モニターに映ったナタルはお世辞にも明るいとは言えない、固い表情だった。

 

 何かあったのかもしれない。

 

 「どうかしたんですか?」

 

 《ああ、ザフトの要塞で動きが確認された。もしかするとまたジェネシスを撃つつもりかもしれない》

 

 「ッ!?」

 

 マユ達やミネルバも今なお戦闘中の筈だ。

 

 いくらなんでもアレに狙われたら―――これ以上状況が悪化する前に急いだ方が良い。

 

 「俺は戦場に戻ります」

 

 《待て、補給も終わってないぞ》

 

 「時間がありません。損傷もそう酷いものではありませんから、大丈夫です」

 

 《無茶はするなよ》

 

 ナタルに頷き返すと、リヴォルトデスティニーをドミニオンの甲板から上昇させ、メサイアの方へに向った。

 

 

 

 

 

 各戦場の様子が逐一メサイアの司令室に飛び交うように入ってくる中、デュランダルは静かに戦況を見守っていた。

 

 自軍の主力の何機かが落とされはしたものの、数で勝るザフトの優勢は揺るがない。

 

 コロニー防衛やヴァルハラ攻略に向かわせていた部隊も後少しで戻ってくる。

 

 そうなればテタルトスの主力とぶつかったとしても、圧倒的に有利だ。

 

 懸念があるとすれば、アポカリプスに接近しているテタルトスの部隊である。

 

 アポカリプスはその存在だけで周囲に対し畏怖をもたらすものだ。

 

 仮に奪還されれば、兵士の士気に多大な影響を与える事になるだろう。

 

 そうなればこの戦闘の行方も分からなくなってしまう。

 

 それは絶対に避けねばならない。

 

 ユリウス・ヴァリスなど不確定要素がいる以上は尚更である。

 

 「ネオジェネシスのチャージ状況は?」

 

 「現在80%です!」

 

 「アポカリプス主砲の方は?」

 

 「75%!」

 

 ならば数分で発射できる。

 

 ネオジェネシスの一射で戦艦周辺にいる部隊を薙ぎ払い、残りをアポカリプスの主砲で撃破出来ればこちらの勝ちだ。

 

 「チャージ完了次第発射準備開始。目標アポカリプス周辺の敵残存部隊」

 

 「「了解!!」」

 

 後は同盟軍と地球軍、そしてヘレンの若干の独走が気になるところ。

 

 しかしそちらは許容範囲内だ。

 

 デュランダルはモニターの一つに目を向ける。

 

 そこには黒い外装を纏ったフォルトゥナと同型の戦艦が激しい撃ち合いを行っているのが映っていた。

 

 ミネルバの姿に若干複雑な感情が湧きあがってくるが、それを振り捨てるかのように息を吐き出す。

 

 「……すでにお互いの道は違えている」

 

 それは別れを選んだあの時から分かっていた。

 

 ならば後は前に進むだけ。

 

 立ちふさがるならば―――

 

 答えは出ているとばかりにそれ以上の思考は止めたデュランダルはただ前を見据える。

 

 そんな彼の視界の端に『彼』の姿が見えた気がした。

 

 いつものように皮肉げに笑みを浮かべていた仮面を着けた友人にこちらもまた苦笑を返す。

 

 「……私は君のようにはならないさ、ラウ」

 

 そうとも。

 

 その為に今日まで準備をしてきたのだから。

 

 

 

 

 各陣営のモビルスーツが入り混じる戦場で紅き翼と蒼き翼が正面から激突する。

 

 片や背丈ほどもある長大な対艦刀を構え、片や両手にピンクの光を発する光刃を握り、幾重にも渡って斬り結んでいく。

 

 「フリーダム!!!」

 

 「はああ!!!」

 

 すれ違いざまに振るった一撃が互いの機体を傷を作り、位置を変える様にして弾け飛ぶ。

 

 キラは改めて敵パイロットの技量に舌を巻きながら、デスティニーを迎え撃つ為サーベルを下段に構えた。

 

 「やっぱり速い!」

 

 紅い翼から放射された光が残像を生み出し、凄まじい速度で迫ってくるその姿はまさに弾丸。

 

 そこから繰り出される剣撃が容赦なくストライクフリーダムの討ち取らんと狙ってきた。

 

 こうして相対していて厄介であると感じるのはやはりこの速度と残像の組み合わせだった。

 

 速度の乗った一撃は容易く装甲を斬り裂き、残像は攻撃の狙いや斬撃の間合いを狂わせる。

 

 そこにこのパイロットの技量が加われば、並の機体では応戦はおろか、攻撃に耐える事もままならないだろう。

 

 たとえ強固な装甲や盾を持っていても紙のようなものだ。

 

 これほどの懸念材料があれば近接戦を避け、距離を取りそうなものであるがキラはあえてそれをせずに接近して剣を振るう。

 

 アロンダイトの切っ先を慎重に見極め、機体を右側に逸らし斬撃をやり過ごすと両手のサーベルを横薙ぎに叩きつけた。

 

 ビームサーベルをシールドで止めたデスティニーは敵機と密着したままフラッシュエッジを抜き、上段から振り降ろす。

 

 しかしそれもフリーダムが驚くべき反応で飛び退くように回避した事で空を斬るのみで終わってしまう。

 

 「こいつ!?」

 

 手強いと認識していたのはキラだけでなく、ジェイルもだった。

 

 機体の動き、武装の使い方、すべてが尋常ではない。

 

 やはり思い過ごしという訳ではないようだ。

 

 ―――奴よりも、あの死天使よりも強い!

 

 「だからって!!」

 

 「簡単にはやらせない!!」

 

 キラは翼を広げ肩部のビーム砲で牽制しながら、サーベルを握り直すとまた距離を詰める。

 

 剣の間合いが見極め難いのは百も承知である。

 

 仮に距離を取ったとしても、デスティニーの速度ではすぐに距離を詰めるだろう。

 

 遠距離からの攻撃にしても光学残像による影響がない訳ではない。

 

 ならばリスクが伴ったとしても、接近戦の方がまだ対応しやすいと考えたのだ。

 

 「チッ、さっさと落ちろ!!」

 

 アロンダイトが弾かれ、すれ違うと同時に距離を取った所でビームライフルを発射する。

 

 放たれた一射が肩部の装甲を掠めるが、仕留めるには至らない。

 

 それどころか背中に装備されていたミサイルポッドを切り離し、爆発させた。

 

 「な!?」

 

 周囲を爆煙が包む中でストライクフリーダムがカリドゥスとビームランチャーを撃ち出してきた。

 

 煙に視界を塞がれ、反応が遅れたジェイルは咄嗟にビームシールドで防御する。

 

 しかしその隙に肉薄してきたフリーダムによってライフルが斬り裂かれてしまう。

 

 迂闊だった。

 

 こんな方法で肉薄してくるとは。

 

 だからと言ってこのままやられるつもりなんて毛頭ない。

 

 デスティニー目掛けて振るわれるサーベルの軌跡を拒絶するように睨みながら、咆哮する。

 

 「調子に乗るなァァ!!」

 

 ジェイルのSEEDが弾けた。

 

 今まで完全には捉えきれなかった相手の動きがはっきりと見える。

 

 「うおおおお!!」

 

 アンチビームシールドで斬撃を外側弾き、下段に構えたアロンダイトを思いっきり振り上げ、フリーダムを吹き飛ばした。

 

 「ぐっ、動きが変わった!? SEEDか!!」

 

 デスティニーはアロンダイトを上段に構えると驚異的な速度で肉薄してくる。

 

 「邪魔な外部装甲ごと斬り刻んでやる!!」

 

 側面から横薙ぎに一閃。

 

 一撃がビームランチャーを破壊するとスラスターを全開にして即座に回り込み、肩部装甲を斬り飛ばす。

 

 まさに縦横無尽。

 

 上下左右から襲いかかる刃の檻によってストライクフリーダムの装甲を次々と穿っていく。

 

 「さっき以上の速度!?」

 

 「これがデスティニーの力だァァ!!!」

 

 外部装甲の大半をスクラップ同然に変え、ボロボロになった敵機を相手にしてもジェイルは決して攻撃の手を緩めない。

 

 すでにキラの手強さは十分に理解している。

 

 そんな相手は余計な事をされる前に倒してしまうべき。

 

 だからここで!!

 

 「終わりだ、フリーダム!!」

 

 懐に飛び込みフリーダムの頭部目掛けて渾身の一撃を叩き込む。

 

 体勢を崩し、避ける余裕もない。

 

 「今度こそ殺った!!」

 

 だが、対艦刀はそのままストライクフリーダムを斬り裂く事はできないまま、眼前で押し留められていた。

 

 「止めた!?」

 

 アロンダイトは敵機に届く前に両腕に装着されたブルートガングによって食い止められていたのである。

 

 両腕の刃を交差させ、対艦刀を止めたストライクフリーダムは蹴りを放ちデスティニーを突き放すと、再びビームサーベルを構えた。

 

 ジェイルは警戒を強めながら、敵を怒りの籠った視線で睨みつける。

 

 必殺の一太刀を完璧に止められたのは実に遺憾である。

 

 しかしそれも敵パイロットの驚異からすれば些細な事であった。

 

 先の一撃で勝負を決めるつもりだったのだ。

 

 それをあのパイロットは驚異的な反応でそれを止めて見せた。

 

 体勢を崩してるにも関わらずである。

 

 手強いのは重々承知していたが―――いや、何であれ躊躇する理由はない。

 

 「俺がここで討つ、フリーダム!!」

 

 止められたのであれば、もう一度。

 

 全身から殺気を迸らせたデスティニーがフリーダム目掛けて突っ込んでいく。

 

 その姿をキラはSEEDを発現させた瞳で油断なく見つめる。

 

 「……時間もない。勝負を決めよう」

 

 コンソールを操作するとデスティニーが突っ込んでくるタイミングに合わせ、腕部を除いた外部装甲をパージした。

 

 「装甲を捨てた!?」

 

 目標に対し急速に距離を詰めていたジェイルは、一瞬目を見開いた。

 

 「どういうつもりか知らないが!!」

 

 そんなものは障害にすらなりはしない。

 

 虚仮威しと判断すると進路上に散乱するボロボロになった外部装甲を避け、回り込むように急旋回する。

 

 それによってストライクフリーダムの背後に回る事に成功したデスティニーはアロンダイトを振りかぶった。

 

 「俺の勝―――ッ!?」

 

 そこで気がついた。

 

 フリーダムの最大の特徴、それが見当たらない事に。

 

 彼の機体最大の特徴と言えば紛れなく背中の蒼い翼である。

 

 それは目の前の機体も奴が乗っていた機体も同じだった。

 

 ならばどこにいったのか?

 

 答えは簡単である。

 

 気がついたジェイルは咄嗟に機体を捻る様に回避運動を取った。

 

 次の瞬間、背後からドラグーンシステムによってコントロールされた砲台がビームを撃ち込んでくる。

 

 「チッ!」

 

 あの装甲をパージしたのはドラグーンを射出した事を悟らせない為だったのだ。

 

 反応が速かったおかげか連続で撃ち込まれたビームをどうにか避け切る事に成功する。

 

 だがその隙にフリーダムはデスティニーに肉薄していた。

 

 左手に持ったビームサーベルが煌くと同時に右脚部が斬り飛ばされ、右手に持った光刃が袈裟懸けに振るわれ胸部を大きく抉った。

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 コックピットが大きく揺れ、コンソールから電気が散る。

 

 どうやら機体を逸らしていたおかげか、コックピットに大きな影響はないようだ。

 

 ならば―――

 

 「まだだァァァァァ!!!」

 

 怒りに任せアロンダイトを振り下ろし、ストライクフリーダムの左翼を破壊。

 

 さっきのお返しとばかりにもう片方の手で抜いたフラッシュエッジでクスィフィアス3レール砲諸共左足を斬り捨てた。

 

 さらにフラッシュエッジを投げ捨て、続けざまにフリーダムの機体中央目掛けパルマフィオキーナ掌部ビーム砲を撃ち込もうと構える。

 

 「今度こそ!!」

 

 掌から発する光が敵機を貫こうとした時、思いもよらぬ衝撃がジェイルに襲いかかった。

 

 フリーダムから射出されていたドラグーンが砲口前方にビームソードのような刃を形成し、デスティニーの肩部に突き刺さったのだ。

 

 「何!?」

 

 単純なドラグーンではなかった?

 

 レジェンドに装備されているビームスパイクのように接近戦用としても使えたらしい。

 

 だが驚く間もなく、フリーダムは右手のブルートガングで突きを放つ。

 

 狙いは傷がついた胸部。

 

 それに反応してジェイルもまた撃ち出そうとしていたパルマフィオキーナ掌部ビーム砲を再び突きだした。

 

 「させるかァァァ!!!!」

 

 「はああああああ!!!!」

 

 ブルートガングとパルマフィオキーナ掌部ビーム砲が至近距離から激突し、二人の視界が閃光によって白く覆われた。

 

 

 

 

 キラ達にザフトのエース達を任せたアレックスのノヴァエクィテスとセレネのエリシュオンはようやく目的の場所付近にまで辿りついていた。

 

 彼らが目指していたのはアポカリプスのコントロールルームである。

 

 コントロールを奪い返せば、ザフトが好きに使う事は出来なくなる。

 

 特に主砲は驚異だ。

 

 自軍で使用していたからこそ、アレの恐ろしさは良く理解している。

 

 これ以上、利用される前に奪還、もしくは破壊しなければならない。

 

 腰からビームサーベルを抜き、邪魔するグフやイフリートをあっさりと斬り捨てるとアポカリプス内部に侵入する為の入口に向かう。

 

 しかし彼らの前には数機の強化型シグーディバイドがこちらの進路を阻むように立ち塞がっていた。

 

 「くっ、此処まで来て邪魔はさせない!」

 

 後は内部に突入するだけなのだ。

 

 これまで自分達を援護してくれた者達の為にも絶対に失敗はできない。

 

 「アレックス、あれを!!」

 

 セレネが指摘した方向、そこにあるのはザフト機動要塞メサイア。

 

 そしてアレックスもセレネの焦りの理由に気がついた。

 

 要塞に設置されている悪魔の兵器が再び光を灯していたのだ。

 

 「まさか、ジェネシスを撃つ気なのか!?」

 

 見る限り、狙いは今自分達のいる宙域。

 

 この辺りは確かにテタルトスの部隊が多く展開されている。

 

 だが同じくらいザフトの部隊もまた戦線を広げているのだ。

 

 今ジェネシスを撃てば多少なりとも味方まで巻き込まれてしまう。

 

 シグーディバイドの砲撃を回避しながら、周囲を観察してもザフトが離脱する素振りは見られない。

 

 「……まさか、いや、今は時間がない」

 

 アレックスは余計な考えを捨て、通信機のスイッチを入れるとこの近辺にいる味方部隊に対し、即座に離脱命令を出した。

 

 「全機、ジェネシスが狙っている!! 急速離脱しろ!!」

 

 その声によって戦闘に集中していた他の機体もメサイアの動きに気がついたのだろう。

 

 ジェネシスから逃れる為に退避していく。

 

 「よし、セレネ、俺達も退避するぞ!」

 

 「了解!」

 

 アレックスとセレネもシグーディバイドのビームキャノンを受け止めながら、一気に上昇すると射線上から離脱した。

 

 だがザフト機はしつこく追ってくる。

 

 まるで道連れにしたいかのように。

 

 「くっ、いい加減にしろ!! 無駄死にしたいのか!!」

 

 苛立ちを抑えこちらを狙って振りかぶられたビームトマホーク紙一重で避ける。

 

 そしてビームウイングで腕を斬り裂き、踏鞴を踏んだザクを反対方向に蹴り飛ばした。

 

 戦闘を止め、テタルトス機が離脱する様子を見たからか。

 

 それともザフトもジェネシス発射を知らされたのか分からないが、ここにきてようやくザフトも退避行動を起こし始める。

 

 だが、明らかに遅すぎた。

 

 そして宇宙を斬り裂く死の閃光が放たれる。

 

 ネオジェネシスから放たれた光が射線上に存在しているすべてのものを容赦なく薙ぎ払う。

 

 テタルトスの部隊や地球軍、同盟軍、さらには逃げ遅れたザフトも巻き込まれ、宇宙のゴミへと変えていった。

 

 その光景を真近で見ていたアレックスは怒りと憤りで拳を強く握りしめる。

 

 「……俺達を倒す為に味方諸共薙ぎ払うとは」

 

 あの光は父が行った愚行の象徴。

 

 何度見ようが気分のいいものではない。

 

 それに加えザフトの部隊まで薙ぎ払われたとなれば、怒りで腸が煮えくり返ったとしても仕方がないだろう。

 

 「アレックス、アポカリプスが!?」

 

 「何!?」

 

 破壊された味方の残骸から目を離すとアポカリプスが各部スラスターを噴射させ、体勢を整えているのが確認できた。

 

 その姿を見たアレックスは凍りつく。

 

 「くっ、今度は主砲を撃つつもりか!!」

 

 砲口が向いている先にはテタルトスの部隊がいる。

 

 唯でさえネオジェネシスによって打撃を受け、浮足立っている状況なのだ。

 

 さらに主砲が発射されれば取り返しがつかなくなる。

 

 ノヴァエクィテスは進路を変え、主砲の方へ向う。

 

 「アレックス!?」

 

 「もう時間がない! 主砲を破壊する!!」

 

 攻撃を仕掛けてきたイフリートのベリサルダをサーベルで叩き折り、すれ違うと同時に胴体を真っ二つに斬り捨てた。

 

 さらにシューティングスターからドラグーンを射出し、周囲の敵を三連ビーム砲で撃破する。

 

 できれば先にコントロールルームを押さえ無傷で奪還したかったが、それで全滅しては意味がない。

 

 敵に奪取された時点でこうなる事も一応は想定済み。

 

 迷っている猶予はもう無いのだ。

 

 「ッ、了解です!!」

 

 先に進むノヴァエクィテスの後を追ってエリシュオンも続く。

 

 セレネとてこれ以上、味方が撃たれるのを黙って見ているつもりはない。

 

 「邪魔だ!!」

 

 「どいてください!」

 

 主砲の発射口を目指す二機の前に再び対艦刀を持ったシグーディバイドが立ち塞がる。

 

 背中のウイングスラスターを展開すると速度を上げて斬りかかってくる。

 

 「またこいつらか!」

 

 構っている暇はないと言いたいところだが、これまでの戦いで彼らが強敵である事は分かっている。

 

 前に出ようとしたノヴァエクィテスだったが、後ろに控えていたエリシュオンが正面に飛び出した。

 

 イシュタルから連続で撃ち出されたビームが敵機の陣形を崩していく。

 

 「セレネ!?」

 

 「此処は私がやります。アレックスは先に行ってください!」

 

 「しかし!!」

 

 セレネはイシュタルを対艦刀に切り替え、シグーディバイドと斬り結ぶと心配そうに見つめているアレックスに喝を入れる様に叫んだ。

 

 「少しは私を信じなさい!! 早く行って!!!」

 

 「……すまない」

 

 心苦しそうに呟くアレックスに苦笑する。

 

 本当に彼は生真面目な性格だ。

 

 肩の力を抜いた抜いたほうが良いと少しからかうつもりで声を掛けた。

 

 「帰ったら抱きしめてくださいね」

 

 「うっ、……ああ、分かった」

 

 最初は若干羞恥心が勝ったのか、言葉に詰まる。

 

 しかしすぐに表情を引き締めるとモニター越しに最愛の少女に頷き返す。

 

 「……逆効果だったかな」

 

 「どうした?」

 

 「いえ、貴方らしいです。とにかくここは私が」

 

 「ああ!」

 

 本当に彼女には頭が上がらない。

 

 両手にサーベルを握り、脚部の光刃を解放したノヴァエクィテスが崩れた陣形の穴に向かって突撃する。

 

 すれ違う瞬間に右手と脚部のサーベルで敵機の片腕と背中のスラスターを斬り裂くと、別方向の相手に腰のビームブーメランを投げつける。

 

 曲線の軌道を描いた刃がシグーディバイドのビームキャノンを破壊した。

 

 「後は頼む!」

 

 「了解!」

 

 その場をエリシュオンに任せ、主砲の発射口に向け加速していく。

 

 邪魔な敵を撃破しながら主砲まで辿り着くと、すでに発射態勢に入っているのか、砲口に光が集まり始めているのが見えた。

 

 「撃たせない!!」

 

 スラスターを全開にして主砲の中に飛び込んだアレックスは躊躇う事無くドラグーンを射出、ビームを放ちながら発射口に向けて突っ込ませる。

 

 主砲はもう発射直前の状態になっており、生半可な一撃を加えても、止まらない可能性もあった。

 

 ならばすべてのドラグーンを内部にぶつけ、駄目押しとして腹部のアドラメレクを叩き込んだ方が確実に止められる筈。

 

 アレックスはアドラメレクのトリガーを引く。

 

 ドラグーンの激突と同時に腹部から撃ち出された強力なビームの一撃が砲口内部を穿つと反転、一気に離脱を図る。

 

 背後で起こった大きな爆発に巻き込まれる直前、ギリギリのタイミングでどうにか外に飛び出すとすさまじい衝撃と共に爆煙が上がった。

 

 「ぐっぅぅぅぅ!!!」

 

 脱出できたとはいえ至近距離にいたノヴァエクィテスに襲いかかる衝撃は凄まじいものだった。

 

 それをどうにか耐えたアレックスは、アポカリプスの方を確認する。

 

 「何とか間に合ったか」

 

 どう見ても主砲は使えない。

 

 思わず安堵のため息が出た。

 

 しかし未だザフト機動要塞にはジェネシスが健在であり、アポカリプスも奪還できた訳ではない。

 

 「後は内部を制圧するだけだな」

 

 近くにいたプレイアデス級に陸戦の用意をさせる為、通信を入れる。

 

 主砲が破壊された事で内部もかなり混乱している筈だ。

 

 つまり今が奪還する為の最大の好機。

 

 通信を入れ終えたアレックスは自分も戦艦内部に入る為、ハッチをビームライフルで破壊した。

 

 

 

 

 「アポカリプスの主砲が落ちたか」

 

 ラルスと交戦していたクロードは巨大戦艦から見えた爆発の閃光に何ら感情を込める事無く淡々と呟いた。

 

 あそこにはシグーディバイドを含めた結構な数の部隊が配置されていた筈だ。

 

 テタルトスの本隊との戦闘に数を割いていた隙を突かれたか。

 

 あるいは余程のエースパイロット包囲網を突破したのか。

 

 何にせよ、これで戦況は変わる。

 

 「ハァ、ハァ、くそ!」

 

 戦場を見渡す余裕があるクロードとは反対にラルスにはそれほど余力は残っていなかった。

 

 ドラグーンはすべて破壊、機体自体も斬撃によって右腕を失い、各部は抉られ、機体はボロボロの状態である。

 

 「どうしたかな。動きが鈍いぞ」

 

 もはや満身創痍と言っても過言ではないエレンシア相手でもサタナエルは攻撃の手を緩めない。

 

 動き回る紅い機体に対し、動きを制限するつもりでビーム砲を撃ち込む。

 

 だがそれも牽制にすらならず、敵機を止める事は出来ない。

 

 「……強い!」

 

 特に途中からの動きは最初に比べると別人のように鋭く、反応も速い。

 

 「そろそろ限界かな、ラルス・フラガ」

 

 「くっ!」

 

 クロードの指摘は正しい。

 

 もはや機体は限界。

 

 しかも反撃の糸口すらないとなると―――

 

 「では終わりにしようか。この後も見届けたい戦いもあるのでね」

 

 止めを刺そうと突きの構えを取ったサタナエルが突っ込んでくる。

 

 「そう簡単にはいかない!」

 

 「む!?」

 

 残ったガンバレルを切り離し、機関砲を撃ち込んでサタナエルの眼前で爆発させる。

 

 その隙に反転すると生き残ったスラスターを使い、メサイアを目指す。

 

 どこまで行けるか分からないが、メサイアを守るリフレクターだけでも破壊しなければならない。

 

 しかし追撃してくると予想していたクロードは追おうとはせず、エレンシアの後ろ姿をただ見つめているだけだった。

 

 「フム、まあいい。君の最後の奮戦に期待させてもらおう。精々議長殿を慌てさせてやると良い」

 

 サタナエルは追撃もせずに別方向に去っていった。

 

 「どういうつもりだ?」

 

 止めを刺す事は簡単だったはずだ。

 

 にも関わらず何もしてこないどころか、見逃すとは。

 

 いや、理由は関係ない。

 

 障害が消えたならば―――

 

 「このまま行かせてもらう」

 

 だがエレンシアを行かせまいと敵機の砲撃が掠める度に機体に大きな衝撃が走る。

 

 「ぐぅ!」

 

 コックピットに火花が散り、ラルスも思わず呻き声を上げた。

 

 もはや機体は限界だ。

 

 「それでも止まる訳にはいかない!!」

 

 しかしそんなエレンシアの前にラナのシグーディバイドが立ち塞がった。

 

 「……敵はすべて排除する」

 

 まるで機械のように冷たい声色で呟いたラナはアガリアレプトを抜き、エレンシア目

掛けて叩きつけてきた。

 

 すでにI.S.システムが作動しており、通常とは比較にならない鋭い斬撃が襲いかかる。

 

 「チッ、構っている暇などないというのに!」

 

 どうにかシールドで受け止めたラルスであったが、ラナと戦っていられる余力は残っていない。

 

 「死ね」

 

 「まだやられる訳には―――ッ!?」

 

 連撃でさらなる損傷を負いながら、打つ手を探していたラルスの前にメサイアに先行していたヴィヒターとアルゲスの部隊が乱入してきた。

 

 彼らも激戦を潜り抜けてきたようで機体はボロボロになってしまっている。

 

 「大佐、ご無事で!」

 

 「ここは我らにお任せください!」

 

 アルゲスがスキュラでシグーディバイドを引き離すと、変形したヴィヒターが左右から攻撃を仕掛ける。

 

 「お急ぎください、大佐!!」

 

 「お前達……すま、ない。ここは―――任せる!」

 

 血を吐く思いで口にした命令に誰一人、躊躇う事無く返事をする。

 

 「「「了解!!」」」

 

 明らかにあの敵の力は彼らよりも上。

 

 しかもここまでの戦闘でのダメージを考慮すれば足止めすら難しいだろう。

 

 本当ならば撤退を命じるくらいの損傷だった。

 

 だがそれでも彼らはやると言った。

 

 だからこそラルスも何も言わずここを任せた。

 

 死ねとあえて命じたのだ。

 

 なら自分もまた命を懸ける。

 

 ここまで共に戦ってくれた皆の為にも。

 

 敵機に構う事なく直進、砲撃のダメージも無視してメサイアに突撃する。

 

 要塞を守る陽電子リフレクターに向けてビームシールドを押しつけ、スラスターを全力で噴射する。

 

 「うおおおおお!!!」

 

 コックピットに鳴り響く警戒音を無視し機体を押し込むと急に抵抗感が消え、リフレクターの内側に抜けていた。

 

 「……突破、できたか」

 

 しかし負荷をかけすぎたのか直後、背中のスラスターが爆発する。

 

 完全にバランスを崩してしまったエレンシアはメサイアの岸壁に激突してしまった。

 

 「ぐあああ!!」

 

 激突のショックで気を失いそうになりながらも、左腕で残った最後の武装である高エネルギー収束ビーム砲を手に取った。

 

 現在の状態からしても撃てるのは後一発が限度。

 

 狙いは陽電子リフレクター発生装置。

 

 砲口を向け、トリガーに指を掛ける。

 

 「ルシア、後は、頼むぞ」

 

 銃口から放たれた強力な閃光がリフレクターを展開していた装置に直撃する。

 

 爆発と共にメサイアを守っていたリフレクターも消失した。

 

 多大な損傷を受けたエレンシアも高エネルギー収束ビーム砲の負荷に耐えきれなかった反動によって腕が吹き飛び、爆発に巻き込まれていった。

 

 

 

 

 意識を失っていたジェイルが目を覚ましたのは丁度ネオジェネシスが放たれる直前だった。

 

 ぼんやりする意識をはっきりさせようと、頭を振り、何が起きたのか確認する為に周りを見る。

 

 「くそ……何が―――ッ!? フリーダムは!?」

 

 自分はあの黒い装甲を纏ったフリーダムと交戦していたはず。

 

 そこで思い出した。

 

 ブルートガングとパルマフィオキーナ掌部ビーム砲の激突。

 

 そして―――

 

 「そうか……」

 

 ジェイルはデスティニーの左腕を見る。

 

 パルマフィオキーナ掌部ビーム砲を放った腕は結構な損傷を受けていた。

 

 あの時、パルマフィオキーナが発射される直前にフリーダムの刃が発射口に突き刺さった。

 

 それによって弾かれる形となったビームによってデスティニーの腕も損傷を受けてしまったのだ。

 

 パルマフィオキーナはもう使えないが、戦闘は可能。

 

 それだけでも僥倖だ。

 

 もちろんフリーダムの方もただでは済んでいないだろうが。

 

 その時の衝撃で吹き飛ばされたのか近くに敵機の姿はなかった。

 

 「くそ、痛み分けかよ!」

 

 現在の状況を確認しようとした時だった。

 

 ネオジェネシスの眩い閃光が宇宙に放たれたのは。

 

 「なっ!?」

 

 ジェイルは思わず驚きの声を上げた。

 

 別にジェネシスが発射された事に驚いた訳ではない。

 

 本当に驚いたのは敵だけではなく味方も巻き込まれた事にだった。

 

 「な、なんで」

 

 警告は届いていたようだが、あのタイミングでの発射では射線上にいた味方の回避は間に合わなかった。

 

 偶然と思いたい。

 

 まさか味方の被害も構わず、ジェネシスを発射したなど、考えたくもない。

 

 その時、再びジェイルを衝撃が襲う。

 

 「あれって……ミネルバ!?」

 

 メサイア付近でフォルトゥナと撃ち合いを行っているのは見慣れた戦艦だった。

 

 シンが生きていた時点でミネルバも無事である可能性は高いと思っていた。

 

 それだけではない。

 

 あの位置。

 

 もしかするとフォルトゥナの誘導によってミネルバをネオジェネシスの射線上に誘っている?

 

 ジェイルは自然と腕が震えている事に気がついた。

 

 別に恐怖ではない。

 

 どのような理由であれ、彼らは今自分達と敵対している。

 

 「ミネルバを討つのか、俺が……」

 

 想像した以上に抵抗感を持っている自分に驚く。

 

 そして何故か前にアレンやステラから言われた言葉を思い出していた。

 

 ≪敵だからと……たとえ相手が子供でもお前は撃つのか?≫

 

 ≪お前が求めているのは私ではなく、別のものだ≫

 

 何で此処でそれを思い出す?

 

 頭を振り、余計な事を考えないようにするとデスティニーをメサイアの方へ向かわせた。

 

 自分でもどうするべきなのか、答えも出ないままに。


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