機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第62話  救いの輝き

 

 

 

 

 シオンとの激闘を制したアストは若干憂鬱な気分を引きずりながら、再び戦場に向かっていた。

 

 もちろん機体の入念なチェックも怠らない。

 

 「結構派手にやられたな」

 

 嫌な話ではあるが、その辺は流石シオンと言うべきだろう。

 

 伊達に特務隊を務めていた訳ではないという事だ。

 

 メフィストフェレスの攻撃によって武装のいくつかを破壊され、機体の損傷も結構大きい。

 

 特にパルマフィオキーナによって吹き飛ばされた肩部の状態は酷いものだった。

 

 おかげで片腕の反応が鈍い。

 

 これは強敵との戦闘では致命的な隙になってしまう可能性もあった。

 

 コンソールを操作しキーボードを取り出すと気休めでもやらないよりは良いと調整を加える。

 

 そして損傷して使い物にならない武装と傷ついたアドヴァンスアーマーをパージした。

 

 身軽になった事で少しは動きやすくなった。

 

 後は自分自身の腕で何とかするしかない。

 

 「これで―――ッ!?」

 

 その時、アストに悪寒のような感覚が駆け抜ける。

 

 「何だ?」

 

 はっきり何があると断言できる訳ではないが、嫌な予感がした。

 

 こんな感覚がする時は碌な事がない。

 

 キラ達は未だに戦闘の最中の筈。

 

 何かがあったのだろうか。 

 

 「敵意か? いや、何だ」

 

 悪寒が止まらない。

 

 この先に何かがある。

 

 動こうとした時、コックピットに甲高い警戒音が鳴り響く。

 

 「敵か!?」

 

 アストは操縦桿を押し込み前方に加速するとイノセントのいた空間を閃光が薙いでいく。

 

 連続で撃ち込まれた砲撃を避けながらモニターに映った姿を確認する。

 

 そこには数機の強化型シグーディバイドがイノセントの進路を塞ぐように前方に立ち塞がっていた。

 

 「行かせない気か」

 

 ヘレン・ラウニスの指示か。

 

 どうやらこの先にアストを行かせたくない理由があるらしい。

 

 両手で腰からビームサーベルを抜く。

 

 手間取っている訳にはいかない。

 

 「そこをどけ!!」

 

 散開し、攻撃を仕掛けてくる敵機に向け、攻撃を開始した。

 

 

 

 

 目の前にいる巨体の全身から強烈な閃光が発射され、二機のガンダムに襲いかかる。

 

 「ラクス!」

 

 「はい!」

 

 レティシアの掛け声に合わせ、左右に避けた二機のすぐ傍を敵モビルスーツの一撃が通り過ぎる。

 

 凄まじいまでの出力。

 

 一見すると強力な火器を装備した砲撃型とも取れるが、先ほどまでの攻防を見る限りにおいて接近戦が苦手という訳でもない。

 

 連続で撃ち込まれたサルガタナスの砲撃をビームシールドで防御したレティシアはその火力に思わず毒づいた。

 

 「ぐっ、全く、なんて火力ですか」

 

 この威力では通常のアンチビームシールドでは、融解してしまいそうだ。

 

 厄介なのはサルガタナスだけではない。

 

 肩部装甲や脚部にまで装備された高エネルギービーム砲は一撃でモビルスーツをあっさり灰に変えてしまう程の威力がある。

 

 しかも間の悪い事にヴァナディスはベルゼビュートとの戦闘で結構な損傷を受けてしまい、万全とは程遠い状態だ。

 

 かと言って反対方向で迎撃しているラクスのインフィニットジャスティスは損傷こそ少ないが近接戦闘主体の武装。

 

 この機体とは相性が悪い。

 

 さらにパイロットがラクスにとって最悪の相手だった事もマイナスである。

 

 「ティア! ティア・クライン!! 返事をしてください!!」

 

 ラクスの叫びにレヴィアタンからの返事は無く、殺意の閃光が降り注ぐのみ。

 

 強力な砲火がジャスティスを掠め、後方にいたモビルスーツを薙ぎ払っていった。

 

 しばらく敵の様子を観察していたレティシアは考えを纏めると結論を出す。

 

 「……ラクス、説得は無理です。おそらくセリスと同じでしょう。ですから―――」

 

 「……機体を破壊するしかない」

 

 「ええ」

 

 オーブでの戦闘でレティシアもセリスに対して説得を行いはしたが、言葉に耳を貸す事はなかった。

 

 ならこの機体に搭乗しているティアもまた同じ様にこちらの言葉を聞きはしない筈。

 

 現に返事も無い以上、確実に助ける方法があるとすれば機体を破壊して沈黙させるしかない。

 

 モニター越しに頷き合った二人はビームサーベルを構え、挟みこむように左右から斬り込んだ。

 

 だが片方の斬撃を避け、もう片方をオハンで防いだレヴィアタンはロングビームサーベルを両手で抜き、上段から振り降ろしてきた。

 

 飛び退くように後ろに下がった二機の後を高出力のサーベルが通過する。

 

 「ここで!」

 

 攻撃後の隙を突くようにレティシアが追撃を仕掛けた。

 

 いかに機敏に動けようともこのタイミングでの迎撃は間に合うまい。

 

 だがその時、彼女の直感のようなものが何かの危険を知らせた。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟に機体を退いた直後、肩部の装甲の裏側からアームが姿を見せ、ビームサーベルを上段から振り下ろしてきた。

 

 「装甲内に腕!?」

 

 「あんな場所に腕があるなんて!?」

 

 不意を突く形で振るわれた斬撃がヴァナディスの肩部を斬り裂き、蹴りを入れられ吹き飛ばされてしまう。

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 機体を下がらせなければ、間違いなく真っ二つになっていた。

 

 その事実を認識し背筋に寒気を覚えながら、襲いかかる衝撃に歯を食いしばって耐える。

 

 だが敵はそのまま追撃を掛けてきた。

 

 「レティシア!?」

 

 ラクスは追撃を阻止する為、レヴィアタンに向けて再びビームサーベルを叩きつける。

 

 しかしそれを機敏な動きで避けた敵機はドラグーンを射出、ジャスティスの囲むように激しいビームの雨を撃ち込んで来た。

 

 「この数は!?」

 

 多すぎるドラグーンの数に思わず顔を顰めた。

 

 これは幾らなんでも捌ききれない。

 

 小刻みに操縦桿を動かし回避機動を取りつつ、シールドで降り注ぐビームを防御する。

 

 その間に連続で振るわれるサーベルをどうにか避け切ったレティシアは敵機を見据えた。

 

 埒が明かない。

 

「突破口を見つけなければ!」

 

 その時―――攻めあぐねる二機を囲むドラグーンを薙ぎ払う眩い閃光が撃ち込まれた。

 

 「あれは―――」

 

 二人の見た方向にいたのは白いガンダム『アルカンシェル』がアンヘルの砲口を向けていた。

 

 

 

 

 「ほう、アレを出して来たという事は、女狐も勝負に出たらしいな」

 

 コロニーの戦闘から離脱し、各戦場を観察していたクロードはニヤリと口元に笑みを浮かべて呟く。

 

 彼が見ている先には新型である『レヴィアタン』が三機のガンダムを相手取り猛威を振るっている。

 

 あの機体はヘレンにとって切り札のようなもの。

 

 それを切ってきたという事は思った以上に抵抗する同盟や地球軍に対し痺れを切らしたと言ったところだろう。

 

 「……しかし、それは悪手だったのではないかな」

 

 皮肉げに言い放った後、レヴィアタンに狙われているは哀れな獲物の方に目を向けた。

 

 戦っている相手がジャスティスという事は搭乗しているのはラクス・クライン。

 

 そこにアオイ・ミナトまでも加わったとなれば―――

 

 「どうなるか見届けたい所だが……」

 

 レヴィアタンがいる場所とは別の方向に目を向ける。

 

 そこには部隊を率い、メサイアへと近づきつつあるエレンシアの姿があった。

 

 「ラウのオリジナル……なるほど、メサイアに向かうか」

 

 つまりは頭を潰してしまおうという事だ。

 

 ただでさえ多勢に無勢という状況。

 

 彼らからすれば当然の作戦であろう。

 

 というか現状、勝機を見出すにはそれしかあり得ない。

 

 傍観しても良い。

 

 だが地球軍に潜伏していた頃から、友であるラウのオリジナルである彼には些か興味があった。

 

 ならばここらで仕掛けてみるのも一興。

 

 クロードはスラスターを噴射させ、地球軍部隊がいる方角に向けて突っ込んでいく。

 

 凄まじい速度で突撃してきたサタナエルに地球軍は一瞬反応が鈍ってしまった。

 

 それは戦場では致命的な隙となる。

 

 「敵!?」

 

 「赤いモビルスーツ!?」

 

 浮足立つヴィヒターをドラグーンによる左右からのビームで一蹴するとウィンダムに至近距離からビームライフルを撃ち込んで撃破した。

 

 「迎撃!!」

 

 アルゲスのアイガイオンやヴィヒターのビームライフルの砲撃がサタナエルに向けて発射される。

 

 しかし余裕ですべてのビームを回避したクロードはビームライフルでアルゲスを狙撃する。

 

 銃口から放たれた一射が正確にコックピットを貫くと火を噴き、消し飛んだ。

 

 「くそ、速い!」

 

 速すぎて動きが全く捉えられない。

 

 すれ違い様に一瞬でアルゲスは切り裂かれ、反撃の間もなく撃破されてしまう。

 

 そこに先行していたエレンシアが味方の援護に駆けつけた。

 

 「全機、こいつは私が相手をする。その間にメサイアに向かえ!」

 

 「り、了解!!」

 

 味方を逃がし、立ちふさがるエレンシアを前にクロードは変わらず余裕を持って笑みを浮かべる。

 

 「さて、君の力を見せて貰おう」

 

 ライフルの射撃を避けながら一気に肉薄して接近戦を挑む。

 

 横薙ぎに払われた一太刀がエレンシアの胴を掠めていく。

 

 「チッ!」

 

 咄嗟に後退しサーベルの連撃から逃れたラルスはライフルで牽制しながらドラグーンのビームを撃ち込んだ。

 

 だがそれを見越していたかのように、機体を逸らして避けたサタナエルは振り向き様に容易くドラグーンを撃ち落とした。

 

 「撃ち落とした!? だが!」

 

 まだエレンシアの攻撃は終わっていない。

 

 ガンバレルからミサイルを発射すると同時に高エネルギー収束ビーム砲を撃ち込む。

 

 強力な一撃によって破壊されたミサイルが爆発し、周囲を爆煙が包み込んだ。

 

 「目くらましか」

 

 爆煙から飛び出してきたのはビームカッターを放出したガンバレル。

 

 それを横っ跳びで避け、機関砲で破壊。

 

 同時に側面から斬りかかってきたエレンシアの一撃を盾を掲げて受け止めた。

 

 「なっ!?」

 

 これには流石に驚かされる。

 

 死角から突いた一撃をこうも容易く受け止めるとは。

 

 眼前の光景に歯噛みするラルスに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 「この程度かな、ラルス・フラガ」

 

 「……この声は、ギルバート・デュランダル?」

 

 演説や月での会談で聞いた声が敵モビルスーツから響き渡る。

 

 しかしデュランダル自ら直接出撃して戦場に出てくるなどあり得ない。

 

 となれば声の似た別人であるという事だ。

 

 「誰だお前は?」

 

 「そうだね……君にはヴァールト・ロズベルクと名乗った方がいいかな」

 

 「なんだと!?」

 

 その予想外の答えに絶句する。

 

 ヴァールト・ロズベルク。

 

 ジブリールの側近であった男の名だ。

 

 驚愕しながらもどこかで納得してしまう。

 

 これで不可解であった部分に説明がついてしまうからだ。

 

 初めからこちらの情報はザフトに筒抜けだった。

 

 つまりすべてデュランダルの掌の上という事。

 

 自分達の迂闊さにもはやため息しか出ない。

 

 「だがこれ以上好きにやれると思うな!」

 

 剣を振るい、弾け飛ぶサタナエルとエレンシア。

 

 二機は距離を取ると同時に射出したドラグーンの攻撃を動き回りながら避け、ライフルを使って正確に撃ち落としていく。

 

 常人から見ればそれだけで異様な光景だっただろう。

 

 そんなエレンシアの動きを見たクロードは素直に感嘆の声を上げた。

 

 「流石、彼のオリジナルだ。良い動きだな」

 

 「なっ、彼だと?」

 

 誰の事かは知らないがクローン達の内、誰かを知っているらしい。

 

 「私の友人さ」

 

 お互い周囲を飛び回るドラグーンの半数を破壊するが、一向に致命的な一撃を与える事ができない。

 

 埒が明かないと判断したラルスはビーム砲で牽制しながらサーベルを構えて、斬り掛かる。

 

 「はあああ!!」

 

 袈裟懸けに叩きつけられた一撃がシールドに阻まれ、弾ける光が二機を照らす中、クロードは笑みを深くする。

 

 「フフ、なるほど。君の力は分かった。確かにオリジナルというだけはある。しかし―――足りないな。彼には到底及ばない……同じ遺伝子を持っていても、こうも違う。皮肉なものだな、議長殿」

 

 サタナエルは力任せにシールドでサーベルごとエレンシアを突き飛ばし、蹴りを入れる。

 

 「ぐぅぅぅ!!」

 

 蹴りがまともに入り、吹き飛ばされエレンシアは大きく体勢を崩す。

 

 しかしそんな敵機を前にクロードは追撃の構えも見せず、あえて距離を取った。

 

 「だが、君が強い事に変わりはない、ラルス・フラガ。それに敬意を表して―――私も全力で戦おう」

 

 そして―――クロードのSEEDが弾ける。

 

 背中に設置されたスラスターユニットを噴射、再び加速するとエレンシア目掛けて突撃する。

 

 「速い!? だが!!」

 

 正面から突っ込んでくるサタナエルをビームライフルで迎撃。

 

 だがそれらの射線をすべて見切っているかの様に回避する動きは明らかに先程までとは違っていた。

 

 驚異的な速度で懐に飛び込み振るわれた一閃がエレンシアの左脚部を斬り裂いた。

 

 「ぐっ!?」

 

 「今の一撃、致命傷を避けた事は見事だ。しかし、甘いな」

 

 称賛しながらもクロードは手を緩める事無く、エレンシアに向かって攻撃を加えていった。

 

 

 

 

 

 リヴォルトデスティニーはコールブランドを構えて速度を上げた。

 

 シンは歯を食いしばりながら目標に向かって突撃する。

 

 「セリス!!」

 

 「私の名を呼ぶなァァァ!!」

 

 目の前を殺気の籠った一撃が振るわれる度にシンの心が軋みを上げる様に痛んだ。

 

 正直なところ葛藤はある。

 

 目の前のいる機体に乗っている少女は自分が絶対に守りたい存在なのだから。

 

 しかしあの機体に捉われている限り、彼女を取り戻す事は出来ない。

 

 だから―――

 

 「はああああ!!!」

 

 迷いを振り切るように声を上げると四肢を狙って斬艦刀の一撃を叩きつける。

 

 「そんなものは通用しない!」

 

 コールブランドを容易く捌いたセリスは機体を半回転させ、リヴォルトデスティニーの背後に回る。

 

 そしてシールドから発生させたロングビームサーベルを振り抜いた。

 

 「ッ!?」

 

 前方へ加速する事でサーベルを回避したシンは左手のスラッシュビームブーメランを切り離す事無く刃を形成、下段から斬り上げた。

 

 しかし不意を突いた形になったその一撃すら、最低限の動きで避けて見せたセリスの技量には脱帽するしかない。

 

 一旦仕切り直す為、距離を取る。

 

 だがその隙の分離させた大型ビーム砲がリヴォルトデスティニーの左右から迫った。

 

 「くそ!」

 

 ドラグーンを振り切ろうと後方に加速。

 

 それを狙っていたかのようにザルヴァートルはビームランチャーでリヴォルトデスティニーに狙いをつけていた。

 

 「落ちろ!!」

 

 撃ち出された激しい閃光がリヴォルトデスティニー目掛けて一直線に迫ってくる。

 

 ドラグーンの一撃で体勢を崩され、セリスの正確な射撃。

 

 これを避けるのは難しい。

 

 咄嗟にシールドを展開して、ビームの一撃を受け止めた。

 

 「やっぱり強いな、セリスは」

 

 その技量は以前より遥かに向上している。

 

 いや、これが彼女本来の実力なのだろう。

 

 彼女が『ヤキン・ドゥーエ戦役』を戦い抜き、『月で起こった戦い』でも大きな戦果を上げたエースパイロットであった事は聞いている。

 

 思えばアカデミーに所属していた頃から、セリスの実力は卓越していた。

 

 しかしどこか違和感があったのも事実だ。

 

 訓練の最中でありながらも、まるで経験者であるような錯覚を覚えた事すらあった。

 

 だが今となっては別に不思議でも何でも無い。

 

 彼女はとっくに実戦を経験している歴戦の猛者だったのだから。

 

 それを悟らせないようにしていたのも記憶の操作が原因であったのだろう。

 

 あの定期健診は時々の状況に合わせ上手くコントロールする為のものでもあったに違いない。

 

 その事に関しては腸が煮えくり返るような怒りが沸き起こる。

 

 だがそれを今吠えたところで意味はない。

 

 重要なのは今のセリスは完全に本来の力を取り戻しているという事。

 

 手強いのは当然と言える。

 

 「だとしても助けるって決めたんだよ!!」

 

 動き回る大型ビーム砲の射撃が機体を狙ってくるが、構ってられない。

 

 致命的な一撃さえ受けなければ良いのだ。

 

 二方向から撃ち込まれるビームを前にシールドで重要な個所を守りながら、ビームライフルを構える。

 

 動きを誘導しながらコールブランドで真っ二つに斬り裂いた。

 

 「やる!! でも!!」

 

 リヴォルトデスティニーを狙うもう一基のドラグーンの動きが格段に鋭さを増す。

 

 それに対処している隙に距離を詰めたセリスはビームサーベルを横薙ぎに振った。

 

 「速ッ!? やっぱりこっちの動きはお見通しって訳か!!」

 

 ギリギリ機体を逸らして光刃をやり過ごすとシンは思わず吐き捨てる。

 

 「お前が単純なだけだ!!」

 

 「俺がいつまでも同じと思ったら大間違いだ!」

 

 ムッとしながら一泡吹かせてやると、あえて後ろに後退した。

 

 そこには当然大型ビーム砲が待ち構えている。

 

 「そこにいるのは分かってるんだよ!」

 

 背後から撃ちこまれたビームの一射を振り返らずに紙一重で躱すと、機体を水平に寝かせ背中に設置したままノートゥングで消し飛ばした。

 

 「これでどうだ!!」

 

 「クッ、調子に乗るな!」

 

 砲台を撃ち落としたその隙に間合いに踏み込んできたザルヴァートル。

 

 叩きつけられる連撃を捌き、シンは背中のアラドヴァルレール砲を撃ちこんだ。

 

 「セリス、やめてくれ!」

 

 「黙れと言った筈だ!!」

 

 「黙らない!! 俺も、ルナやメイリン、ミネルバの皆がセリスが戻ってくるのを待ってるんだ!!」

 

 そうだ。

 

 ここで諦める事なんてできる筈がない。

 

 ルナ達だってずっとセリスの事を気にかけていた。

 

 此処がおそらく最後のチャンスなのだ。

 

 発射されたビームの奔流をくぐり抜け、スラッシュビームブーメランでライフルを斬り捨てながらザルヴァートルの腕を掴む。

 

 「だからここで俺が絶対に連れ帰る!!」

 

 「この―――」

 

 何なのだ、こいつは?

 

 ミネルバ?

 

 皆が待ってる?

 

 訳が分からない。

 

 もしかすると目の前のパイロットは自分は親しい仲だったのだろうか?

 

 湧きあがってきた疑問を振り払うように頭を振る。

 

 余計な事を考える必要はない。

 

 自分はただ障害を排除すれば良いのだ。

 

 「セリス!!!」

 

 何も感じない筈の、何も知らない筈の敵から聞こえてくる悲痛なまでの叫びが―――彼女の中にある何かを激しく揺さぶった。

 

 

 「……さい、うるさい……うるさい!!!!」

 

 

 すべてを拒絶するかのような激情と共にセリスのSEEDが弾けた。

 

 

 「お前の、その声で、私の名を呼ぶなァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 蹴りを入れ、突き離しスラスターを噴射。

 

 一気に加速したザルヴァートルが両手にサーベルを持ってこちらを攻撃してくる。

 

 「セリス!? くそォォォ!!!」

 

 やはりこちらの声は届かない。

 

 これ以上戦わずに済むならそれに越したことは無かったけれど。

 

 左右から連続で振りかぶられる光刃を盾を使ってやり過ごしながらセリスの動きに瞠目する。

 

 先程までとは比べものにならない程、鋭く速い。

 

 しかもこちらの動きを知っているかの様に的確に攻撃を加えてくる。

 

 「こんな事ばっかり覚えてるのかよ」

 

 昔からセリスと一緒に訓練し、多くの戦場を共に生き抜いてきた。

 

 それ故に彼女はシンの動きを無意識に見切っているらしい。

 

 だからこちらの手の内が読まれるのも仕方無い。

 

 「できればもっと他の事を覚えておいて欲しかったけどな」

 

 ぼやいていても仕方ない。

 

 こちらの動きが読まれている以上は正攻法ではセリスを止められない。

 

 ならやり方を変えるだけだ。

 

 「消えろ!!!」

 

 タイミングを見計らってあえて隙を作り出す。

 

 それを見逃さず素早く回り込んだザルヴァートルがビームサーベルを横薙ぎに振り抜いてきた。

 

 光刃がリヴォルトデスティニーを斬り裂こうとした瞬間、待っていたとばかりにシンが動く。

 

 「今だァァァ!!」

 

 背中のアラドヴァルレール砲をパージすると振り抜かれたロングビームサーベルを阻む盾となった。

 

 破壊されたレール砲は爆発。

 

 発生した煙に紛れ、背中に装備したまま振り上げたノートゥングのロングビームサーベルがザルヴァートルの左腕を斬り飛ばした。

 

 「なっ!?」

 

 虚を突く攻撃に驚愕してしまうが、すぐにセリスは正気に戻るとリヴォルトデスティニーに残った右手のサーベルを下段から振り上げる。

 

 しかしそれすらあっけなく回避したリヴォルトデスティニーはビームブーメランを投げつけてきた。

 

 「この!!」

 

 ブーメランをCIWSで撃ち落し、残ったビームランチャーを発射する。

 

 しかしリヴォルトデスティニーはビームを避けない。

 

 「避けないだと!?」

 

 両手のシールドを張り、あえて閃光の中へと飛び込んできた。

 

 「ぐぅぅぅぅ!!!」

 

 凄まじい衝撃と共に阻まれたビームの一射が光盾に弾かれシンの視界を白く染める。

 

 それでも一歩も引く事無く、機体を前方へと加速させる。

 

 退かない!

 

 絶対に退かない!!

 

 何故ならば、この光を超えた先にこそ、自分が絶対に守りたいものがあるのだから。

 

 だから―――

 

 

 「俺は―――俺は、絶対に……助けるんだァァァァァァ!!!!」

 

 

 『C.S.system activation』

 

 

 シンのSEEDが弾け、システムが起動する。

 

 装甲が解放、光の翼が形成され、今まで以上の速度をもってビームの一射を押し返していく。

 

 リヴォルトデスティニーの発する輝きに一瞬目を奪われたセリスは呆然と呟いた。

 

 「何だ、この光は?」

 

 敵から放出された光に目を奪われるなど。

 

 でも、危険な印象はまるで受けない。

 

 むしろ安堵すら覚えるなんて―――

 

 

 「うおおおおおお!!!!!!!!」

 

 

 シンは咆哮と共に襲いかかる閃光を弾き飛ばし、ザルヴァートルの姿を捉えると両手に構えたコールブランドでランチャーと右足を斬り落とす。

 

 「ぐっ、この!!」

 

 まだ負けた訳ではないと残った腕でサーベルを構えるが、シンはもう動いていた。

 

 斬艦刀を上段から振るい右腕を破壊し、逆手に抜いたビームサーベルを頭部に突き刺した。

 

 「きゃああああああ!!」

 

 四肢を砕かれ、頭部を破壊されたザルヴァートルの装甲から色が抜け落ち動きを止めた。

 

 「セリス!!」

 

 機体を近づけ飛び出したシンは敵機のコックピットどうにかこじ開けると動かないセリスの状態を確認しようと顔を近づける。

 

 微かな声と呼吸音が聞こえてきた。

 

 見た限り、目立った外傷もない。

 

 「……良かった」

 

 深々と息を吐き、安堵する。

 

 マユの時もそうだったが、自分にとって大切な人と戦うというのは想像以上にきついものだ。

 

 「もう二度と御免だな、こんなのは」

 

 切り替えるように再び息を吐く。

 

 気を抜くのは早すぎる。

 

 まだ戦いは終わっていないのだ。

 

 シンはセリスを担ぎリヴォルトデスティニーに乗り込むと、母艦に向った。

 

 

 

 

 

 メサイア付近の戦闘は激化の一途を辿っていた。

 

 激しい砲火を撃ち合い、敵を穿たんとしているのはモビルスーツだけではない。

 

 戦艦もである。

 

 「トリスタン、撃て!」

 

 フォルトゥナから放たれたトリスタンの砲撃が敵艦の外装を容赦なく剥がしていく。

 

 それを旋回してやり過ごしたミネルバもまた反撃に転じる。

 

 「ナイトハルト、撃てぇ!!」

 

 発射されたミサイルがフォルトゥナに降り注ぐがCIWSによってすべて叩き落とされた。

 

 お互いの砲撃による震動が襲う中、ヘレンは表情を崩す事無く戦況を観察していた。

 

 「……ザルヴァートルが落とされた」

 

 拳を握り、憤りを抑えつける。

 

 主力の一角が落とされるとは、想定はしていてもやはり心中穏やかではいられない。

 

 とはいえデスティニーやレジェンド、スカージやレヴィアタンも健在である。

 

 未だこちらが有利ではあるのだ。

 

 「……それにしても№Ⅵは良くやっているわね」

 

 地球軍のエクステンデット『ラナシリーズ』

 

 最初に生み出すよう命じたのはジブリールらしいが、コレらを使ってあの体たらくとは呆れ果ててしまうというものだ。

 

 オリジナルラナの素養の高さもあって、クローンによって誕生した彼女達は皆優秀。

 

 中にはオリジナルすら上回る能力を持つ個体すらいる。

 

 ジブリールの運用方法によっては非常に厄介な事になっていただろう。

 

 余計な考えを捨て、メサイア近辺の状況把握に思考を戻す。

 

 「……念のためラナをメサイア防衛に回した方がいいか」

 

 万が一にも要塞内部に侵入されれば面倒だ。

 

 通信機からラナに指示を出すとミネルバを攻略する為、目の前の戦闘に集中し始めた。

 

 

 

 

 戦場にて数多のビームの雨を潜り、戦場を駆けるシークェルエクリプス。

 

 コックピットに座るルナマリアは向かい合っているモビルアーマー『スカージ』に対して不満そうに眉を顰めた。

 

 「あーもー! こいつ厄介ね!!」

 

 こいつは本当に面倒な奴だった。

 

 全身に装備された強力な火器に周囲を群がる無数のドラグーン。

 

 近接戦用のビームブレイドに加え、さらには防御用のリフレクタービット。

 

 打開策も見つからず、手詰まりに近い状態だった。

 

 ルナマリアは捉えにくいように小刻みに動きながら、ドラグーンのビームをシールドで防ぐと本体目掛けてサーベラスを撃ち込んだ。

 

 しかしまたも展開されたリフレクターによって弾かれてしまう。

 

 「くっ」

 

 数えるのも馬鹿らしい対艦ミサイルの嵐を機関砲とビームライフルで薙ぎ払った。

 

 「何度もやられるとキツイわね」

 

 こうなると接近するしかない。

 

 しかしあの数のドラグーンの包囲網を潜り抜け懐に飛び込む自信はない。

 

 それにシークェルエクリプスも決して無傷ではないのだ。

 

 ザフトの新型との戦いや浴びせられた砲撃によって、武装は消耗し機体は傷だらけになってしまっている。

 

 幸いバッテリーはデュートリオンビームの補給により余裕があるが、他の味方機からの援護も期待できない。

 

 「ディアッカ、左だ!!」

 

 「分かってるって!!」

 

 「エリアス、ディアッカのフォローを!」

 

 「了解!!」

 

 駆けつけた反デュランダル派のモビルスーツは皆、イザナギ、オーディン、アークエンジェルといった他の戦艦の防衛に回っている。

 

 とてもではないがこちらに気を裂く余裕はない。

 

 ミネルバも同じだ。

 

 同型艦であるフォルトゥナの相手で精一杯のようだ。

 

 自分だけでどうにかするしかないかと考えていたルナマリアの目にスカージの砲口がこちらを向いているのが見えた。

 

 「不味い!?」

 

 咄嗟に射線から逃れようとするが、後ろにミネルバがいる事に気がついた。

 

 避ければミネルバに当たる!?

 

 おそらく先程のミサイルはこちらをこの射線に誘導する為のものだったのだ。

 

 してやられたルナマリアは覚悟を決めて防御に回る。

 

 アウフプラール・ドライツェーンが光を発し、吐き出すように凄まじいまでの閃光が発射された。

 

 バッテリー温存の為に極力使わなかったビームシールドを展開。

 

 アウフプラール・ドライツェーンを受け止めようと腕を突き出した。

 

 その瞬間―――射線上に展開されたフィールドがビームを受け止めた。

 

 「えっ、あれって妹ちゃん?」

 

 拡大したモニターに映っていたのは、アイギスドラグーンを射出したトワイライトフリーダムであった。

 

 援護に駆けつけたマユはエクリプスを狙うスカージに気がつき、即座にアイギスドラグーンによる防御フィールドを張ったのだ。

 

 自分を囲もうとするドラグーンを撃ち落とし、敵本体を引き離すとエクリプスの傍に向かう。

 

 「間に合った、大丈夫ですか!?」

 

 「助かったわよ、妹ちゃん」

 

 実際あのモビルアーマーを単機で相手をするのは厳しかった。

 

 だが彼女が来てくれたなら、現状も打開できるかもしれない。

 

 そう考えていたルナマリアだったが、警戒感漂うマユの声によってハッと我に返る。

 

 「……気をつけてください。メサイアの方で動きがあります」

 

 「えっ」

 

 防御リフレクターを展開し沈黙を保っていたメサイアが、スラスターで姿勢制御しながら『ネオジェネシス』を動かしていた。

 

 何をやろうとしているかなど愚問であろう。

 

 「まさかアレをまた撃つ気!?」

 

 狙いはアポカリプス周辺で戦っているテタルトス軍だ。

 

 あの辺りには巨大戦艦を奪還しようとテタルトスの部隊が攻勢をかけている。

 

 あそこが撃たれれば戦況は一気に傾き、圧倒的に不利になってしまう。

 

 「止めないと!」

 

 「もう間に合いません!」

 

 ネオジェネシスが発射態勢に入っている様子はメサイアとアポカリプスの中間でデスティニーと激突していたキラにも確認できた。

 

 「なっ、あれを撃つ気か!! アレックス!?」

 

 あの辺りにはアレックスとセレネが向った筈だ。

 

 いかに彼らでもジェネシスの直撃を受けてしまえば―――

 

 「どこ見てんだよ、フリーダム!!!」

 

 キラがアレックス達の方へ意識を向けた隙をついてジェイルはアロンダイトを上段から振り下ろす。

 

 「くっ!?」

 

 迫る刃を横に流すように機体を移動させ回避したキラだったが、それでもジェイルは手を緩めない。

 

 「逃がすかよォォ!!」

 

 こちらを落とさんと狙って放たれる怒涛の猛連撃。

 

 どれもが必殺の一撃である。

 

 食らえば撃墜は必至だ。

 

 両腕のブルートガングをせり出し、捌いていくキラは歯噛みしながらメサイアを睨みつけた。

 

 

 ストライクフリーダムとデスティニーが何度目かの激突を繰り返し、お互いの一撃がその身に突き刺さらんとしたその直後―――

 

 

 光を発した『ネオジェネシス』が無慈悲な一撃を宇宙に向けて発射した。




花粉症である私にとって、きつい時期になりました。投稿が若干遅れるかも。

後日加筆修正します。



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