機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第61話  アストとシオン

 

 

 

 

 

 戦いは配置されたコロニーから機動要塞メサイアにまで移動し、激しい戦いが繰り広げられていた。

 

そして同じ宙域にその存在感を誇示している巨大戦艦アポカリプスにもテタルトス軍が攻勢をかけ、奪還すべく攻防を繰り広げている。

 

さらに少数とはいえ隙を突く形で同盟軍、地球軍がメサイア方面に進撃していた。

 

 その一画。

 

 最も激しい戦いが繰り広げられている場所ではエース同士の激闘が開始されていた。

 

 ザルヴァートルを目の前にしたシンはようやく訪れたこの機会を逃すまいと必死に声を張り上げる。

 

 「セリス、そのモビルスーツから降りてくれ!!」

 

 「うるさい、黙れェェ!!」

 

 リヴォルトデスティニーに振るわれた斬撃がシールドに阻まれ、光を散らす。

 

 こちらの声は全く届いていない。

 

 苛烈なまでに繰り出される攻撃には迷いはなく、明確な殺意が込められていた。

 

 「くそ、やっぱりアレンの言った通り、機体を破壊するしかないか!」

 

 もちろん危険はある。

 

 セリスの実力は折り紙つきだ。

 

 セリスを殺さないように機体だけを破壊するというのは、ただ倒すよりも難易度が高かった。

 

 だがそれでも引く気などない。

 

 必ず取り戻すと決めたのだから。

 

 歯を食いしばり、ロングビームサーベルを押し返すとコールブランドを抜き、ザルヴァートルに向っていった。

 

 

 

 

 少し離れた場所ではレジェンドとイノセントが互いを穿たんと砲撃を撃ちあっていた。

 

 背中から放出されたドラグーンがクルセイドイノセントに四方からビームを撃ちかける。

 

 「レイ!!」

 

 「ギルを裏切った貴方を許す訳にはいかない、アスト・サガミ!!」

 

 彼からしたらアストは当然許せないだろう事は理解できる。

 

 だからといってやられるつもりは全くない。

 

 舌打ちしながら背後の砲台をワイバーンで斬り飛ばすと、レジェンド目掛けてバルムンクを叩きつける。

 

 斬艦刀が弾かれ、機体が入れ替わる様にすれ違い、同時に放ったビームライフルがお互いを抉っていく。

 

 流石はレイだ。

 

 ドラグーン操作も機体の動きも鋭く正確である。

 

 持前の反応速度でビームを回避したアストはビームガトリング砲と対艦ミサイルを叩き込み、弾を撃ち尽くしたミサイルポッドを切り離す。

 

 そして爆煙によってレイの視界を塞ぐと再び斬艦刀による接近戦を挑んだ。

 

 バルムンクの一撃を回避しながら、レジェンドもまたビームジャベリンを構え、斬りかかる。

 

 刃を交える二機。

 

 その傍でも同じくエース同士の対決が行われていた。

 

 デスティニーとストライクフリーダムである。

 

 両機共にその特徴的な翼を広げ、高速で動きながら激突している。

 

 「はああああ!!!」

 

 裂帛の気合と共に振り下ろされた一撃がストライクフリーダムに襲いかかった。

 

 鋭い斬撃が黒い装甲を掠め、傷を作り出す。

 

 「ッ、なんて一撃だ。しかも動きが素早い」

 

 光学残像による幻惑の為か、相手の動きが非常に捉えづらい。

 

 そんなデスティニーをビームライフルで牽制しながら側面に回り、レール砲で吹き飛ばしたキラは相手の技量や機体性能に舌を巻く。

 

 「強い!」

 

 マユやシンの話を聞いていたけれど、直接相対するとやはり違う。

 

 油断すれば即座に斬り裂かれてしまうだろう。

 

 敵に対する警戒レベルを引き上げ、持ち替えたビームサーベルを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 「チッ!!」

 

 迫るサーベルをシールドで受け止めたジェイルは怒りを込め黒い装甲を纏うフリーダムを睨みつける。

 

 宿敵である奴とは違うらしいが手強い事に変わりがない。

 

 いや、この一連の攻防から察するに奴よりも強い。

 

 「だからって!! 負ける気なんてないんだよ!!」

 

 フリーダムの連撃を捌き、再び斬りかかろうとしたジェイルだったが、直前に背後からの攻撃に気づき機体を捻る様に横へと逃れる。

 

 次の瞬間、デスティニーのいた空間を何条ものビームが薙ぎ払っていく。

 

 デスティニーの周囲にはノヴァエクィテスから射出されたドラグーンがこちらに狙いをつけ飛び回っていた。

 

 月でも実感したが通常のものよりも大きい分、動きは見切りやすいが火力がある。

 

 これ以上邪魔されても面倒だとビームライフルを構えて狙撃した。

 

 しかし―――

 

 「なっ!?」

 

 撃ち込んだビームはドラグーンが展開したビームシールドによって何のダメージも与えられないまま、弾かれてしまった。

 

 おそらくあれはベルゼビュートのビームクロウと同種のものだろう。

 

 しかもビームシールドとなれば遠距離からの攻撃では破壊は出来ない。

 

 「面倒な!」

 

 毒づきながらノヴァエクィテスを牽制、懐に飛び込んできたフリーダムの剣撃を止めながらフラッシュエッジを叩きつける。

 

 二機は互いの刃を受け止め、鍔迫合った。

 

 「アレックス、君は行って!」

 

 「キラ!? しかし―――」

 

 敵はエース級だけではない。

 

 次々とザフトや他勢力のモビルスーツが集まり、戦闘を開始している。

 

 これ以上の混戦になれば下手をすると分断されてしまう。

 

 「君にはやる事がある筈だ!!」

 

 ストライクフリーダムの背中からスーパードラグーンが射出され、青白い光の翼が放出される。

 

 四方から攻撃を仕掛け隙を作ると全砲門をデスティニーに撃ち込んで吹き飛ばした。

 

 「ぐあああ!! くっ、フリーダム!!!!」

 

 「行け、『アスラン』!!!」

 

 昔の名前を呼ばれハッと目を見開いた。

 

 確かに自分にはやるべき事がある。

 

 ここで立ち止まっている訳にはいかない。

 

 逡巡していたアレックスは一瞬だけ、キラの方を見るとすぐに頷く。

 

 「……此処は任せる。セレネ!!」

 

 「はい!」

 

 シグーディバイドと切り結んでいたエリシュオンが蹴りを入れ相手を突き離し、反転すると一気に加速して距離を稼ぐ。

 

 だがそれを黙ってさせるほどラナも甘くはない。

 

 「逃がさない!」

 

 距離を取られながらも、バロールを構え背後からノヴァエクィテスとエリシュオンを狙ってトリガーを引いた。

 

 連続で放たれた砲弾が二機に迫る。

 

 しかしアレックス達がそれに反応する前に、別方向からのビームによってバロールはすべて撃ち落とされた。

 

 連続で撃ち込まれた強力な閃光にシグーディバイドはたまらず距離を取る。

 

 「なっ!?」

 

 「あれって……」

 

 驚くセレネを尻目にアレックスは僅かに顔を顰める。

 

 視線に先には宿敵の乗るイノセントがドラグーンを捌きながら、アガートラムの砲口をこちらに向けている姿が見えた。

 

 「……アスト・サガミ。いつか―――」

 

 鋭い視線でイノセントのコックピットにいるであろうアストに向けて呟く。

 

 そこに籠っていた感情を感じ取ったセレネは訝しげに声を掛けた。

 

 「アレックス?」

 

 今の声はお世辞にも好意的な感情ではなかった。

 

 まるで―――

 

 「何でもない。行こう」

 

 それ以上振り返る事も無く機体をアポカリプスに向ける。

 

 違和感を覚えながらも、それ以上追及する事もできず、ノヴァエクィテスの後に追随した。

 

 

 

 

 明後日の方向に撃ち込まれたアガートラムの砲撃によって、離れていく機体に気がついたレイは思わず歯噛みする。

 

 「くっ、行かせるか!!」

 

 奴らの目的はアポカリプスだ。

 

 余計な事をさせる訳にはいかない。

 

 反転したノヴァエクィテスやエリシュオンを追おうとするが、すぐにレイの全身に電流が流れるような感覚が走る。

 

 その瞬間、レジェンドにバズーカ砲が叩き込まれた。

 

 「悪いが追わせない」

 

 「邪魔だ!!」

 

 ドラグーンで砲弾を撃ち落とし、ビームライフルで狙撃するがイノセントのフリージアによる防御フィールドによって弾かれてしまう。

 

 「チッ!」

 

 厄介なフィールドである。

 

 あれが展開されている限り、射撃は通用しないだろう。

 

 だがそれでも対処方法はある。

 

 レイは感覚に従って目標を定めるとビームライフルを撃ち出した。

 

 その一射が正確にフリージアの一画を叩き落とし、フィールドを消し去る。

 

 「何時までもそんなものは通用しない!」

 

 フィールドを発生させている起点を破壊してしまえば、防御フィールドを消し去る事もできる。

 

 動き起点を破壊するのは普通の者には難しくても自分ならば可能なのだ。

 

 「流石だな。この手の武器は向うが有利か」

 

 アストは関心したように称賛する。

 

 彼の特性。

 

 すなわち高い空間認識力を考えればフリージアを含めた無線式の遠隔武装は効果が薄い。

 

 キラならともかく、最近使用し始めたばかりのアストでは対応するのは難しかった。

 

 ガトリング砲で牽制しながら、どう攻めるかを思案しているとレジェンドに向け、別方向からのビームが放たれる。

 

 「何!?」

 

 四方から襲いかかる閃光にレイは驚いたように回避運動を取った。

 

 よく見ればレジェンドの周りには金色に輝く砲台が浮遊していた。

 

 「アカツキ―――ムウさん!?」

 

 「これは……ムウ・ラ・フラガか!」

 

 同時に気がついた二人に金色の機体が近づいて来たのが見えた。

 

 先行するリヴォルトデスティニーから引き離されたアカツキではあったが、部隊を引き連れ戦場へと辿り着いていた。

 

 「コウゲツ隊は右の部隊を、ナガミツ、ムラサメ隊は左側面の敵を迎撃しろ!」

 

 「「了解!!」」

 

 指示を出したムウは直進するとビームライフルを連射しながら、レジェンドとイノセントの戦いに割り込んでくる。

 

 「坊主、二時方向に行け!」

 

 「えっ?」

 

 「そっちにお嬢ちゃんがいる! 敵の新型、確かシオンとか言う奴と戦ってる筈だ」

 

 「シオンがマユと!?」

 

 急いで駆けつけたいがここを放っておく訳には―――

 

 「でも此処は?」

 

 「俺に任せろ!」

 

 背中に装備されたシラヌイから射出された誘導機動ビーム砲塔がレジェンドを引き離す。

 

 「行け!!」

 

 「……了解!」

 

 アストはムウを信じフリージアを背中に装着。

 

 光の翼を作り出すとマユとシオンが戦っている場所に機体を向けた。

 

 「次から次へと!!」

 

 「お前の相手は俺だ!」

 

 ビーム砲塔で誘導しながら腰からビームサーベルを抜き、レジェンドに斬りかかる。

 

 刃が振るわれ、すれ違うたびに光が弾けた。

 

 

 

 

 各所で閃光が放たれ、それが敵を貫く度に命が散る。

 

 そんな光の華が宇宙を照らす中、二機のモビルスーツが戦場を駆けていた。

 

 グロウ・ディザスターとアスタロス。

 

 他者を全く寄せ付けない程の高速で動きまわり、同時に激しい剣撃の応酬が繰り返されている。

 

 「ずいぶん攻撃が単調になってきたな」

 

 「……未だに余裕か」

 

 「そうでもないさ。何度か冷や汗をかかされたからな」

 

 逆袈裟から振るわれたクラレントを受け止め、横へと流すとネビロスを上段から振り下ろした。

 

 斬撃を捌きながらユリウスは感嘆の声を上げる。

 

 「こうも簡単に受け止めるとは、相当な訓練を積んできたらしいな」

 

 あえてその言葉に答えず、ただグロウディザスターを観察した。

 

 所々に細かい傷があるが、致命傷はない。

 

 反面、自身の機体も大きな損傷こそないが、相手に比べれば傷は多い。

 

 「このまま戦っても埒が明かないか」

 

 デュルクはここで賭けに出る事にした。

 

 長期戦に持ち込んでも勝機は薄い。

 

 ネビロスを片手に持ち、もう一方の手でアガリアレプトを逆手に抜く。

 

 「勝負に出るか」

 

 「決着をつける」

 

 それを見たユリウスも勝負を決める為にクラレントを下段に構えた。

 

 

 勝負は一瞬で決まる。

 

 

 相手の隙を窺うように、ただジッと相手を観察する。

 

 

 そして―――撃墜された機体の爆発音と同時に二機が動いた。

 

 

 スラスターを噴射させ、二機のモビルスーツが交錯する。

 

 

 その瞬間、刃が互いを斬り裂かんと叩きつけられた。

 

 

 ユリウスは大鎌ネビロスのクラレントで弾き、逆手に振るわれたアガリアレプトをビームカッターで叩き折った。

 

 「これまでだな」

 

 完全にアスタロスは体勢を崩している。

 

 悪いが容赦するつもりはない。

 

 それが本気で挑んできたデュルクに対する礼儀だからだ。

 

 クラレントを捨て、ビームサーベルを振り抜く。

 

 しかし―――

 

 「こうなる事は読んでいた!」

 

 体勢を崩しながらも、腰に残ったアガリアレプトを装着したまま前面に振り上げた。

 

 いかにユリウスだろうとすでに攻撃の為に動いている以上、このタイミングではかわせまい。

 

 この一撃で仕留めきれなくても、ダメージは与えられる筈だった。

 

 「なっ!?」

 

 しかしデュルクは目の前に光景に絶句した。

 

 ディザスターはアガリアレプトの斬撃を脚部を振り上げ、止めて見せたのである。

 

 刃は脚部を斬り裂いてはいるが、切断までには至っていない。

 

 「惜しかったな」

 

 無慈悲なまでに淡々と告げる。

 

 手を止める事無く袈裟懸けに振るったビームサーベルがアスタロスを斬り裂いた。

 

 装甲が抉られ、コックピットに火花が弾ける。

 

 しかしギリギリのタイミングで機体を逸らした為、致命傷にはなっていなかった。

 

 そう、まだ動ける。

 

 まだだ。

 

 まだ。

 

 「まだ、終わっていない!」

 

 最後の攻撃としてディザスターに向け腹部のサルガタナスを放ち、同時にネビロスを横薙ぎに振り抜いた。

 

 しかし、それすらも―――

 

 「最後まで諦めないその姿勢は流石だ」

 

 ユリウスはアスタロスに蹴りを入れサルガタナスの射線をずらし、後方に向け宙返りしてネビロスの斬撃すらもかわしてみせる。

 

 そして逆手に持ったビームサーベルでアスタロスの脚部を斬り裂き、バランスを崩したところにアドラメレクを撃ち込んだ。

 

 「デュルク、認めよう。お前は強い。見事な戦いぶりだった」

 

 流石の反応の速さで外装を戻し、防御しようとするが間に合わない。

 

 アドラメレクが戻りかけた外装を破壊し、アスタロスは爆煙に包まれた。

 

 これで終わりか。

 

 いや、そう考えるのは早計だろう。

 

 アスタロスの状態を確認しようと近づこうとした時、ユリウスに馴染み深いあの感覚が走る。

 

 「……これはムウ・ラ・フラガに―――」

 

 誰が戦っているのか察したユリウスはアスタロスの方を一瞥すると、すぐに視線を戻し感覚に従ってその場を後にした。

 

 

 

 

 テタルトス軍がアポカリプスを奪還する為に激しい攻防を繰り広げている傍ら、地球軍と同盟軍もまたメサイアを落とす為に動いている。

 

 そしてアポカリプスの主砲によって打撃を受けた同盟の部隊が再編成を終え戦場へと向っていた。

 

 敵の襲撃を警戒しながら進む彼らの前に一機のモビルスーツが近づいてくる。

 

 「なんだ、あのモビルスーツは?」

 

 「敵か!?」

 

 羽根のような装甲が肩から伸び、通常のモビルスーツに比べやや大きいその機体は見るからに威圧感のようなものを発している。

 

 ZGMF-X95S 『レヴィアタン』

 

 ザフトが開発した対SEEDを想定したモビルスーツ。

 

 I.S.システムを搭載しているのは他と変わらないが、通常の機体よりもやや大きい。

 

 全身とアビスに装備されていた両肩部シールドを改良した羽根のような装甲に設置されたスラスターによって見た目に反する高い機動性を持っている。

 

 武装も強力なものばかりで、その火力は対SEEDモビルスーツの中で随一。

 

 並のモビルスーツとでは比較にならないほどである。

 

 「くそ、怯むな! 迎撃するぞ!!」

 

 「り、了解!!」

 

 ナガミツが飛行形態に変形、正面から来る敵に向って対艦バルカン砲で牽制しながら、アグニ改を叩き込む。

 

 しかし敵機は見た目からは想像もできない軽やかな動きで砲撃を捌く。

 

 そして肩の装甲に内蔵された高エネルギービーム砲を撃ち込んで、ナガミツをあっさりと消し飛ばしてしまった。

 

 「なっ、このォォォ!!」

 

 「これ以上は!!」

 

 怒りに任せ回り込んだ二機のブリュンヒルデが背中から射出されたアンカーで敵機の両腕を縛った。

 

 同時にビームサーベルを構えたアドヴァンスアストレイが上部から斬りかかる。

 

 だが射出されたドラグーンがブリュンヒルデごとワイヤーを撃ち抜き、拘束を破った。

 

 抜いたロングビームサーベルでアドヴァンスアストレイの腹部を両断。

 

 光刃によって斬り裂かれた機体は爆散し、大きな閃光を生み出した。

 

 さらにサルガタナスの砲口を正面に向けると、敵部隊目掛けて撃ち込んだ。

 

 強力なビームの光が周囲を巻き込みながらすべてを薙ぎ払っていく。

 

 光が消えた時、正面にいたモビルスーツはすべて破壊され、どこにも敵は確認できない。

 

 コックピットに座るピンク色の髪をした少女ティア・クラインは機械のように淡々と作業を進める。

 

 それはどこか異常な光景だった。

 

 特に表情も変えず、不気味なほどの無表情であったから。

 

 だが視界に壊れた機体が映ると僅かではあるが表情に変化が起きる。

 

 頬を伝わるように流れるのは涙。

 

 しかし本人はそれ以上の変化を見せず、全く気がつかないまま次の標的を求めて動き出した。

 

 そこに新たな機体が現れる。

 

 近づいてきたのはインフィニットジャスティスガンダムとヴァナディスガンダムだった。

 

 今まで再編成されたコロニー攻略部隊の護衛を務めていた為、遅れていたがようやく戦場へと辿り着いたのだ。

 

 しかしいきなり、新型とぶつかるとは二人とも予想もしていなかったが。

 

 「ラクス、油断しないでください」

 

 レティシアは目の前にいる異様な機体を見てそうラクスに警告した。

 

 直感で分かる。

 

 あの機体は非常に危険だ。

 

 「はい」

 

 ラクスもまた同じ様に感じ取っていた。

 

 目の前の敵を見て、なんとなくではあるが嫌な予感がしていた。

 

 気の所為かもしれない。

 

 だがどうにも寒気のようなものがする。

 

 「私は行きます。援護を」

 

 「了解!」

 

 レティシアがビームライフルで敵機を牽制する隙にラクスは腰のビームサーベルを連結させて斬りかかる。

 

 だが、その攻撃をたやすく捌いたレヴィアタンはロングビームサーベルを上段から振り下ろしてきた。

 

 斬り結ぶ二機。

 

 光が弾け、火花が散る。

 

 「くっ!」

 

 思った以上に動きに舌を巻きながら、敵機を観察する。

 

 機体だけでなく、パイロットもかなり手強いようだ。

 

 振りかざされる斬撃をいなしながら隙を窺うが、そこに微かな声が聞こえてきた。

 

 《……優先目標の一つを確認、排除します》

 

 「えっ、その声、ま、まさか」

 

 自分と同じ声色だった。

 

 今その心当たりは一つだけ。

 

 「……ティア・クライン」

 

 自身と同じ血を引く少女を前にラクスは呆然と呟いた。

 

 

 

 

 蒼い翼を広げた機体の光刃が振るわれ、白い機体の一撃と共に弾け飛ぶ。

 

 マユとシオンの攻防は絶え間なく、続いていた。

 

 「どうした? その程度か!!」

 

 「くっ!!」

 

 メフィストフェレスのサーベルを受け止めながら、マユは焦りを隠せない。

 

 C.S.システムの限界時間が迫っていたからである。

 

 一旦距離を取りビームライフルを連射するがシオンは冷静にシールドで弾くと、ルキフグスを撃ち返してくる。

 

 これ以上は不味い。

 

 コックピットに鳴り響く警戒音に従い、システムを止める。

 

 すると解放されていた装甲やスラスターが格納された。

 

 トワイライトフリーダムの状態が元に戻ったのを確認したシオンはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「ふん、その厄介な機能は終わりか。一度見せてしまったのが失敗だったな」

 

 「どういう意味ですか?」

 

 「これが初見であったなら、勝っていたのは貴様だったと言っている」

 

 シオンはオーブや月での戦闘でC.S.システム解放時に関するデータを分析していた。

 

 あの極端な速度や反応の上昇は非常に厄介だ。

 

 まともに戦っての真っ向勝負ではほぼ勝ち目はないだろう。

 

 ただし万能ではない。

 

 例えば持続時間。

 

 あの状態を維持し続けるのは、機体にも相当な負荷がかかる。

 

 その証拠に今までのデータからもいざという時以外には使用していない。

 

 ならば限界時間が来るまで拮抗できるなら、そう恐れる事も無い訳だ。

 

 だからこちらもI.S.システムを直前まで温存し、性に合わない守勢を主体としていたのだ。

 

 「さて、これで終わりなら、このまま殺してしまうが」

 

 シオンは今なおI.S.システムの影響化にある。

 

 温存していただけあって、制限時間までまだまだ余裕があった。

 

 「勝手な事を。貴方の好きにはさせない」

 

 「そうか。ならばもう言う事も無い。ここで死ね、マユ・アスカ!!」

 

 ビームサーベルを抜き、トワイライトフリーダムに襲いかかる。

 

 しかしそこで強力なビームが撃ち込まれ、メフィストフェレスの進路を阻んだ。

 

 「えっ」

 

 突然の乱入者にマユは驚いたように視線をそちらに向ける。

 

 「……来たか、アスト!!」

 

 フリージアを背中に装着し、翼を形成したクルセイドイノセントが突っ込んでくる。

 

 シオンは喜々とした表情を浮かべ目標を即座に変更、イノセントに刃を向ける。

 

 「はああああ!!」

 

 「シオン!!」

 

 袈裟懸けの一撃をナーゲルリングで受け止めると激しい光を撒き散らしながら鍔迫り合う。

 

 入れ替わる様に弾け飛ぶとイノセントはトワイライトフリーダムの傍に佇んだ。

 

 「マユ、一旦後退しろ。シオンは俺がやる」

 

 「アストさん!?」

 

 「後退してミネルバの援護をしてくれ」

 

 「でも―――」

 

 やはり今のマユは冷静さを失っている。

 

 相手が前大戦からの因縁の相手だから仕方がないが、今の彼女の状態ではシオンには勝てないだろう。

 

 「マユ、俺を信じろ。それからもう一つ、もう無理はしなくていい」

 

 「えっ」

 

 シンも言っていたがマユは元々モビルスーツで戦うような女の子ではない。

 

 前大戦から変わったという者もいるが、アストからすれば昔から何も変わってなどいない。

 

 マユは昔と変わらず優しい女の子だ。

 

 表情や感情を出さないようにしていたのは、自分がしっかりしなければいけないといった思いから来るものだったのだろう。

 

 彼女はずっと自分を押し殺し、酷く無理をしてたのだ。

 

 それもアストや皆の為に。

 

 できれば色々声を掛けてやりたいが、今は時間がない。

 

 「大丈夫だ、俺に任せろ」

 

 アストのいつもと変わらない声にマユの胸中に燻っていた怒りの感情が静まり、翼を広げる白い機体の後ろ姿を黙って見つめる。

 

 その姿はかつてのあの日を思い出させた。

 

 あの時もこうやって彼は自分を守る様に立ちふさがっていた。

 

 それを思い起こすだけで胸が熱くなる。

 

 「……分かりました」

 

 無理をして残っても彼の足を引っ張るだけ。

 

 それにあの男と決着をつけたいと誰より強く思っているのは他でもないアストなのだ。

 

 彼を信じて、邪魔をしてはいけない。

 

 徐々に後退するトワイライトフリーダムを横目で確認すると、メフィストフェレスを睨みつける。

 

 「お前の事だ。マユを追うかと思ったけどな」

 

 「追う必要はないだけだ。結果は変わらん。要はお前が先に死ぬ事になっただけさ。それにその方があの女の絶望が、より深くなる。その後で殺した方がこちらの溜飲も下がるというもの」

 

 「相変わらず、救いようがない」

 

 「貴様ほどじゃない。救いようのない愚者め!」

 

 同時に飛び出した二機が刃を振るう。

 

 ビームサーベルの一撃がアドヴァンスアーマーを抉り、バルムンクがメフィストフェレスの腰部を裂く。

 

 すれ違い様にバズーカ砲を両手に構え、連続で叩き込んだ。

 

 「そんなものが通用すると思うな!!」

 

 背中を向けたままルキフグスを放ち、砲弾を破壊するとビームクロウを分離させ、イノセントを挟むように左右から襲いかかる。

 

 「チッ」

 

 三連装ビーム砲を回避しながらバズーカ砲を投棄。

 

 ガトリング砲で撃ち抜くと爆煙によってビームクロウを吹き飛ばす。

 

 そしてバルムンクで光爪を斬り裂き、撃破した。

 

 しかしそれはシオンのとって想定内の事。

 

 アストもまた高い空間認識力を持つ以上、こんな搦め手で仕留められるとは思っていない。

 

 もう一方のビームクロウをイノセントに向かわせ、それに目掛けランチャーを構える。

 

 「ッ!?」

 

 狙いに気がついたアストは咄嗟に飛び退くように後退するが、些か遅い。

 

 ランチャーによって貫かれたビームクロウはイノセントを巻き込むように爆発を起こし、視界を塞いだ。

 

 当然この機を逃すシオンではない。

 

 躊躇わずに爆煙の中に突入し、振り抜いたビームサーベルがイノセントのガトリング砲を斬り裂く。

 

 続けて振るった斬撃がアンチビームシールドを吹き飛ばした。

 

 「死ねェェ、アストォォォ!!」

 

 刃からも伝わってくるのは真っ黒な憎悪。

 

 それがよりメフィストフェレスに力を与えているかのように鋭くイノセントを狙ってきた。

 

 「舐めるな!!」

 

 シオンの憎しみを振り払うように至近距離から叩き込んだグレネードランチャーがメフィストフェレスを吹き飛ばす。

 

 距離を取りつつ破壊された武装を分離させた。

 

 認めたくはないがシオンは強い。

 

 機体の性能を無視しても、その技量は非常に高い。

 

 さらに今はI.S.システムを作動させているらしく、反応も速かった。

 

 ならばなおさら奴は此処で倒さねばならない。

 

 「シオン!!」

 

 フリージアの翼を最大出力で噴射させ、バルムンクを掲げて突撃した。

 

 「本気で来い、アスト! それをすべて叩き潰した上で貴様を殺す!!」

 

 シオンもまたビームサーベルを構えて、応戦する。

 

 だが次に聞こえたアストの言葉にシオンはさらに激高した。

 

 「その必要はない!」

 

 「何?」

 

 「力に溺れて自滅しろ、シオン! お前の自己満足なんかに付き合っていられるものか!」

 

 「貴様ァァァァァ!!」  

 

 激突する二機のモビルスーツ。

 

 イノセントが逆袈裟から振り上げたバルムンクの一撃がランチャー諸共下腹部を抉る。

 

 そしてもう片方の手で引き抜いたビームサーベルがルキフグスを斬り裂いた。

 

 同時にシオンの放った斬撃が腰にマウントしていたビームライフルごと装甲を破壊。

 

 左手で放ったパルマフィオキーナ掌部ビーム砲が肩部装甲を吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!?」

 

 「チッ!!」

 

 損傷を受けながらも二機が弾け飛ぶ。

 

 アストは素早く、機体状態を確認する。

 

 破壊された肩部の影響か、左腕の動きが鈍い。

 

 だがそれはシオンも同じだろう。

 

 下腹部を損傷した事で、脚部のビームサーベルは扱い難くなった筈だ。

 

 だがこれで攻撃を緩めるほどシオンの憎悪は軽くない。

 

 幼い頃に出会ってから、奴には耐えがたい屈辱を与えられてきた。

 

 その屈辱すべてを今日こそは晴らす。

 

 「SEEDを使わずにこの動きだというのか!」

 

 「対SEEDの訓練なんて前大戦からしてきてるんだよ、こっちはな!」

 

 「おのれ!」

 

 自分よりも遥かに劣る屑に手を抜かれている事実。

 

 狂おしいまでの憎悪がシオンの中を駈け巡る。

 

 「今度こそ、死ねェェェェェ!!!」

 

 サルガタナスの砲口が光を集め、拡散されて放たれる。

 

 だがイノセントは避ける素振りも見せず、両腕のビームシールドを展開、防御の構えを取った。

 

 シールドの上から絶え間なくビームの雨が降り注ぎ、イノセントを弾き飛ばす。

 

 その隙に両手、両足のビームサーベルを抜き、斬りかかった。

 

 「終わりだ、アストォォォ!!!」

 

 四本の光刃が態勢を崩したイノセントに襲いかかる。

 

 

 憎しみの刃が白い機体を斬り裂こうとしたその時―――シオンは瞠目した。

 

 

 「ああ、お前は必ずそう来ると思っていたよ」

 

 

 アストはそう呟くとフリージアを両腕にマウントし、ナーゲルリングからビーム刃を発生させ左右から横薙ぎに払う。

 

 「何!?」

 

 通常とは比較にならない強力な刃に虚を突かれ、動きを鈍らせたメフィストフェレスの両腕を斬り飛ばす。

 

 「ぐぅ、まだ―――ッ!?」

 

 シオンは両腕を斬られてもなお諦めない。

 

 再びサルガタナスを撃つ為に態勢を立て直そうとする。

 

 しかし次の瞬間―――いつの間にか肉薄していたイノセントから放出されたワイバーンがメフィストフェレスを真っ二つに断ち斬った。

 

 「ば、馬鹿な……」

 

 「終わりだ」

 

 シオンは昔からアストを直接殺す事に拘っていた。

 

 それは今までの言動からも明らかだった。

 

 だから最後は何があろうと近接戦闘を挑んでくると確信があった。

 

 そしてもう一つ、アストはI.S.システムの欠点に気がついていた。

 

 確かに強大な力を与えてくれるものには違いない。

 

 しかし反面感情のコントロールが効かなくなりやすい。

 

 要するに感情的になりやすくなるのだ。

 

 それにより簡単な挑発で冷静さを奪ってしまったのだ。

 

 それでも手強い事に違いない筈だが、シオンの事を知り尽くしているアストは別。

 

 戦い方を熟知していたアストには冷静さを無くしたシオンの動きが手に取るように分かったのだ。

 

 「フ、フフ、フハハハ、ハハハ!! 終わり、だと……ふざけ、るな、終わりはしない! 貴様らを殺すまで、決して、呪いは消え、ない!!」

 

 斬り裂かれた下半身が爆発を起こし、上半身をも巻き込んでいく。

 

 「そうだ、終わる、ものか! マユ、アスト、貴様らを―――!!!!」

 

 爆音に紛れシオンの怨嗟の声はついに途切れた。

 

 それを黙ってアストはただ見つめる。

 

 シオンがアストを憎んでいたように、アストもまたシオンを憎んでいた。

 

 奴が行った事はどんな理由があろうとも許せない。

 

 だがそれでもアストの胸中は晴れず、何時か味わった虚無感だけが支配している。

 

 一瞬だけ目を伏せ、ただ一言だけ声を出した。

 

 「……さようならだ、シオン」

 

 それ以上は言わずすべてを刻みつけるように一瞥すると戦場に向かっていく。

 

 過去からの因縁に一つの決着がついた瞬間だった。




レヴィアタンのイメージはクインマンサかな。
機体紹介3更新しました。
後日、加筆修正します。

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