出撃したデスティニーの姿を見届けたヘレンはフォルトゥナの指揮をしながら戦場の状況を確認する為、モニターを眺める。
思った以上にテタルトスによって攻め込まれていた。
数こそ多くはないものの、同盟や地球軍もそれに続くように攻勢に加わっているようだ。
しばらく思案していたが、考えを纏めると通信機のスイッチを入れた。
「強化型を何機かアポカリプス防衛に回しなさい。それから機体の準備は?」
《はい、もうすぐ完了します》
「そう。準備出来次第、出撃を」
《了解》
通信を切り、再び視線を正面に向ける。
もうすぐだ。
もうすぐ世界は変わる。
そんな風に考えていると感傷的になってしまったのか、過去の情景が思い浮かんできた。
◇
ヘレン・ラウニスの両親は生粋の研究者であった。
何かにつけ研究ばかりで、碌に構ってもらった記憶も無い。
それは両親に自分に対する愛情など欠片もなかったという事。
幼い頃はそれも分からないままで、少しでも両親の気を引こうと幼い頃から研究書などを読み、研究所にも通ったりしたものだ。
それも結局は無駄であったのだが。
ともかく愛情を受ける事無く育ってきた彼女ではあったが、だからこそ大切なものはあった。
それが血の繋がった弟だ。
両親とのつながりが限りなく希薄であった事も要因だったのだろう。
彼の存在が彼女にとって救いであり、すべてだった。
穏やかで人当たりも良く、自慢の弟ではあったが、そんな彼にも一つだけ欠点があった。
弟はコーディネイターとしては明らかに能力不足。
つまりは欠陥を持って生まれており、その影響で体も強いとはいえず、命も危ういほどだった。
その所為で周りからは事あるごとに蔑まれていた。
だからヘレンはその体だけでもどうにかしてやりたいと親と同じく研究者としての道を選び、研究に没頭していった。
その頃にデュランダルと出会ったのだ。
とはいえ当時は顔見知り程度の関係であったのだが。
しかし思えばそれが間違いの始まりであったのだろう。
研究に没頭しながらも彼を気にかけていたが、徐々に弟と過ごす時間も減っていき、いつの間にか連絡が途絶えてしまったのである。
連絡の取れなくなった彼を必死に探し―――そして見つけた。
弟がいたのは、殆ど交流した事も無い両親が所属している研究施設。
そこで見たのは動かない死体となった弟の姿だった。
一体何が起きたのか分からなかった。
何故、弟は死んでいる?
確かに命の危険はあったが、安静にしていれば問題ない処置はされていたはずだ。
呆然とするヘレンに事実だけを述べてくるのは、両親。
ここに連れて来たのは自分達で、彼には研究に協力してもらっただけ。
その間に容体が急変し、息を引き取ったのだと。
この施設で行われていたのはコーディネイターの問題を解決する為の研究であり、出生率の低下に歯止めをかける為のもの。
以前からプラントでは出生率の低下が深刻な問題となっていた。
それをどうにかする為の様々な研究が行われている施設の一つがこの場所であった。
両親から聞かされたのは、自分も弟もその実験結果を反映して生まれたのであり、両親の研究成果であるという事。
つまり弟の体の異常は人為的なものであったのだと。
ヘレンの努力も弟の苦痛もすべては彼らが今後に反映させるデータ。
こんなバカな話はない。
もっとあったはずだ。
弟が幸せに生きられた道が。
こんな不当な生き方があって堪るものか。
だが憤るヘレンに両親は言い放った。
「プラント、コーディネイターの未来の礎になれたのだ。光栄だろう?」
その瞬間―――ヘレンに心に罅が入った。
なんだそれは。
なんなんだそれは!!
それからの事は良く覚えていない。
ただこれだけは確かだった。
あの時自分は壊れてしまった。
すべてがどうでも良くなり、世界は色を無くし、何もかも無価値に見えた。
そんな時、声を掛けてきたのがデュランダルだ。
「世界を変える為に君の力を貸して欲しい」と。
最初は無視していた。
くだらない世迷い事になど付き合ってはいられないと。
だが何度断ってもしつこく、そして真剣に話をしてくるデュランダルに徐々に耳を傾け、傾倒していった。
そもそも自分達をこんな形で産み落としたこの世界が間違っているのだと。
そして決めた。
こんな世界を変えようと。
弟が幸せに生きられた道を見つけるのだと。
それからは積極的にデュランダルに協力、同じ目的を持つ同士となり此処まできたのだ。
◇
《艦長、調整が完了しました》
一瞬、過去に浸っていたヘレンの意識を戻すように格納庫から通信が入ってくる。
準備が整ったらしい。
「出しなさい」
《ハッ!》
フォルトゥナのハッチが開くと一機のモビルスーツが飛び出してくる。
肩から伸びる羽根のような装甲をつけた機体が戦場に向かっていく。
それをヘレンは表情を変える事無く、ただ淡々と戦場を見つめていた。
◇
激化する戦場を白いモビルスーツ、アルカンシェルが駆け抜けていた。
スラスターを噴射し上下左右に動きながら、何かを確かめるように移動している。
コックピットに座るアオイは、各部チッェックと機体の挙動を確認していた。
何と言っても初めて乗った機体である。
本当ならある程度時間を掛けて調整を行いたいのだが、今回は時間が無い。
だからこうして動かしながら状態を確認しているという訳だ。
「うん、大丈夫みたいだな」
W.S.システムのおかげなのか、前からずっと操縦していたかのように違和感もない。
若干、コックピット周りが違う所為か、戸惑いはあるがそれもすぐに慣れるだろう。
多少無茶な事も試そうとフットペダルを強く踏み込み、体に掛かるGを無視して、複雑な軌道を描きながら加速した。
「ぐっ、操作には何の問題も無い、いける!」
強烈なGを噛み殺し、操縦桿を正確に操作する。
邪魔な障害物を軽々と避けつつ順調に進んでいると、正面にザフトの部隊が見えた。
方向から言って彼らもメサイアに向っている。
それを確認したアオイは緊張をほぐすように息を吐き出す。
機体を慣らすには丁度良い相手だ。
「ただでさえこっちが不利なんだ。少しでも敵戦力を削っておいた方が良い」
敵部隊の排除を決断するとライフルを構えて突撃する。
そんな接近してくる機体に気がついたのか、ザフトの部隊が慌てたように警戒する。
「なっ、アルカンシェルか?」
「待て、色が違う!?」
自分達の知っているアルカンシェルの色は黒。
外部装甲も無く、装備している武装も違う。
となれば答えは一つ。
「敵か! 攻撃開始!!」
状況からそう判断したザフトの隊長は即座に命令を出し、攻撃を開始する。
「流石に甘くないか!」
アオイはオルトロスの砲撃を避けながら舌を巻く。
あのまま動揺してくれればいいものを。
どうやら戦場で棒立ちになるような間抜けではないらしい。
「なら、こっちだって!!」
スレイヤーウイップを潜り抜け、接近してきたグフの胴体を撃ち抜くと持ち替えたビームサーベルをザク目掛けて振り抜いた。
光の刃が敵機の胴を容易く斬り裂き、続けざまに放ったビームガンがイフリートの頭部を吹き飛ばした。
当然、敵も応戦してくる。
ビーム突撃銃やオルトロスが火を吹き、動き回るアルカンシェルを狙い撃つ。
しかし襲いかかる砲撃を前にしてもアオイの表情は変わらない。
何の淀みも無く機体を動かし、あっさりと回避して見せた。
「くそ、速いぞ!」
「捉えられない!?」
「怯むな、囲め!」
高速で動くアルカンシェルを捉えようと武器を構え、イフリートを中心に四方から襲いかかる。
だがそれは甘かった。
普通の相手ならともかく、アオイにとっては一網打尽にできる絶好の機会だったのだから。
「これで!」
背中に装着されているスラスター兼用ミサイルポッドからミサイルを一斉に発射。
その隙に両手で構えたアンヘルを外側に向けて撃ち出した。
ミサイルによって陣形を崩された敵モビルスーツに追い討ちを掛けるように襲いかかる強力なビーム砲がすべてを消し飛ばした。
爆発と共に周囲を視線を走らせ、計器を確認する。
「どうやら全部撃破出来たみたいだな」
しかし思った以上にザフトは部隊を展開しているようだ。
コロニー防衛に回っていた戦力が次々とメサイアに向かっていくのが見える。
「アレがすべて集結したら」
何にしても時間との勝負だ。
後手に回ればこちらに勝ち目はない。
「ん、あれは?」
視線を向けた先にはザフトの部隊以外にも動いている者達の姿が見えた。
同盟軍と思われる部隊である。
その中に見覚えのある形状の戦艦がいた。黒い外装を身に纏っているが間違いない。
「ミネルバか」
かつて自分達の敵として相対した戦艦だ。
噂では沈んだと聞いていたのだが無事だったらしい。
別方向からはアークエンジェルや同盟の戦艦も近づいて来ているようだ。
「同盟も動いてるみたいだ。こっちも急がないと!」
アオイもまたメサイア方面に向って動き出した。
◇
ユリウス・ヴァリス。
それはデュルクにとって目指すべき場所に立っていた壁のような男であった。
その技量は圧倒的で、模擬戦では勝てた事は無い。
だからと言って憎んだことはない。
無論、悔しさはあったが、越えるべき目標として尊敬の念さえ抱いている。
「だが何時までも後塵を拝するつもりはない」
その為にこれまで訓練と実戦を積み重ねてきたのだから。
鍔迫合っていたエレンシアを突き飛ばし、一気に懐に飛び込んできたグロウ・ディザスターの一撃を受け流す。
そして返す刀でネビロスを下から振り上げた。
しかし放った一撃を余裕すら感じさせる動きで捌いて見せたユリウスは苛烈な連撃を繰り出してくる。
「流石、デュルクだ。良い攻撃だ」
「余裕で捌いておいて良く言う」
ディザスターの凄まじい速さで繰り出される刃を受ける度に光が弾ける。
「速い!」
動きだけでなく、攻撃を繰り出す速度やこちらの攻撃に対する反応も速い。
しかも以前よりも動きが鋭い。
高速で動き、刃を振るって激突する二機。
「これが本気と言う訳か」
「どうかな」
斬撃を回避したユリウスは逆に蹴りを放ち、アスタロスをエレンシアから引き離すとラルスに通信を繋いだ。
「此処は私が抑えてやる。さっさと行け」
ラルスは表情を変えず、ユリウスを複雑な心境で見つめる。
この男もまた自分と同じ血を―――
月で会った少年といい、全く何の因果なのか。
「……此処を頼む」
一言だけ告げると、メサイアの方へ反転する。
「ッ!? 行かせると思うか!」
あくまでも自分はザフトの軍人。
黙って敵を行かせる訳にはいかない。
アガリアレプトからビームブーメランを引き抜くとエレンシアに向け投げつけた。
投擲された刃が目標目掛けて迫っていく。
しかしそれをさせるユリウスではない。
ビームブーメランに狙いをつけ、腹部から放たれたアドラメレクが消し飛ばし、クラレントⅡを抜き放つ。
「お前の相手は私だと言った筈だが!」
「くっ!」
袈裟懸けに叩きつけられた対艦刀を迎え撃つ為にデュルクもまたネビロスを振り上げる。
二機は激しい攻防を続けながら、徐々に戦場を移動していった。
◇
アポカリプスとメサイア。
これらを守る防衛隊が所狭しと展開している宙域をミーティアを装備したノヴァエクィテスとエリシュオンが駆け抜けていく。
「セレネ!」
「はい!」
二機が同時に射撃体勢に入り、一斉に放たれた砲撃が容赦なく敵部隊に襲いかかった。
ミサイルやビームが立ちふさがる者達をすべて薙ぎ払い、大きな閃光の華が無数に作られる。
無論、敵も黙っている訳ではない。
次の瞬間、反撃の砲撃が飛び交ってくる。
しかしそれは思った以上に少なかった。
「どうやら大佐の陽動が上手くいっているみたいだな」
「ええ、今の内に一気に行きましょう」
「ああ!」
敵がこちらに対して警戒が散漫なのはユリウス達、別動隊が上手くやっている証拠だ。
彼がしくじる事はまずあるまい。
前大戦からつき従ってきたが故の絶対的な信頼でそう確信しているアレックスは自身の役目に集中する。
ミーティアの圧倒的な火力を前に成す術無いまま防衛部隊は蹂躙された。
そこに出来た敵部隊の穴を狙いピンク色の戦艦エターナルが部隊を率い、二機を後を追随していく。
「対モビルスーツ戦闘用意、モビルスーツ隊を出せ! このまま行くぞ!」
「はい!」
バルトフェルドの指示を聞き、控えていたモビルスーツがミーティアの砲撃から逃れた敵目掛けて攻撃を仕掛ける。
バーストコンバットを装着したフローレスダガーの援護を受けたジンⅡが敵陣に突っ込んだ。
その後ろに控えていたシリウスがエレメンタルを射出する。
放たれた一撃が敵を撃破するとさらに素早く移動した砲口が次の敵を狙う。
「くそ!」
「全機、避け―――ぐああああ!!」
有線とはいえエレメンタルの動きは簡単には見切れない。
ドラグーンに比べて範囲が狭いが、敵のとってはそれでも十分すぎるほどの脅威だ。
その証拠に碌に回避運動も取れないまま撃墜されていく。
「良し、このまま!」
味方の奮戦を横目で見ながらアレックスは正面に立塞がるナスカ級をビームソードで叩き斬るとミサイルで敵モビルスーツを吹き飛ばす。
だがその時、正面からアレックス達に向け、強力なビームが放たれた。
「何!?」
「くっ!?」
危機を察知したアレックスとセレネは上昇して、ビームの一撃をやり過ごす。
そんな二人を待ち受けていたかの様に動き回るドラグーンの攻撃に晒された。
四方からのビームの嵐に二機の進路が阻まれてしまう。
「あれはモビルアーマーか!」
アレックスが視線を向けた先にいたのはウラノス攻略戦で投入された地球軍の大型モビルアーマー『スカージ』であった。
ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスによって撃墜寸前にまで追い込まれたが、ザフトによって回収、強化されている。
形状や武装に大きな変化はないが細部が変更されI.S.システムも搭載。
同時に陽電子リフレクタービットが装備された事によって防御面も強化された。
パイロットである№Ⅵはミーティアを装着したノヴァエクィテスとエリシュオンに視線を向けると静かに呟く。
「……目標を確認、排除します」
砲門を開き、一斉に対艦ミサイルを発射すると同時に中型ドラグーンを操作する。
高速で動き回る砲台が容赦なくミーティアを削っていく。
その動きはウラノスで見せたものよりも遥かに洗練されており、非常に高い精度を誇っていた。
「くそ、お前に構っている暇など!!」
アレックスは毒づきながら、ミーティアの推力でドラグーンの攻撃を振り切った。
しかし展開されたドラグーンの数は非常に多い。
これだけの数をコントロールするとはパイロットはかなり優れた技量を持っているようだ。
「数が多い!?」
エリシュオンがイシュタルで狙撃し、幾つかの砲台を叩き落とす。
だがそれも焼け石に水だ。
すぐに別のドラグーンによって進路を阻まれてしまった。
さらに他の敵部隊も未だに健在。
このままでは進軍速度が極端に遅れる。
味方の部隊もスカージの強力な一撃を食らえば一溜まりも無いだろう。
ならばミーティアをパージしスカージを倒してしまった方が後々リスクも少なくなる。
「時間がないというのに!」
別動隊が引きつけていられるのも、そう長くはない。
出来るだけ早くアポカリプスに辿り着かねばならないのだ。
だからミーティアを切り離すのは早すぎる。
現状の歯噛みしながら打開策を練っていたアレックスは身を強張らせた。
スカージの機首が上下に開き、砲口が顔を出す。
「不味い!!」
「アレックス!!」
セレネの叫びと同時に撃ち込まれたスーパースキュラの一撃がノヴァエクィテスに迫る。
避ける訳にはいかない。
避ければ背後に控えている味方が巻き込まれてしまうからだ。
残る選択肢は防御のみ。
ミーティアを切り離し、シールドを開こうとした瞬間―――別方向からモビルスーツが射線上へと割り込んできた。
ノヴァエクィテスの前には背中の装備こそ違うものの、宿敵が乗っていた機体が佇んでいた。
「あれはアスト・サガミが搭乗していた……」
ビームシールドでスーパースキュラを防いだのはシークェルエクリプス。
サーベラスを跳ね上げ、スカージを引き離しエッケザックスを構え斬りかかる。
あのパイロットもかなりの腕前らしいが、動きで分かる。
今あの機体に乗っているのは奴ではない。
そこで気がついた。
黒い外装に包まれた戦艦とイズモ級、そしてナスカ級数隻の姿が見えた。
「……同盟軍とナスカ級。話に聞いていたザフトの部隊か」
彼らもこの機を逃すまいと一気に戦力を投入して来たようだ。
そして三機のイフリートと同盟軍機が近づいてくる。
それを見たアレックスは思わず口元に笑みを浮かべた。
「貴様、なに―――」
「よう、アレックス!」
「無事ですか?」
「お久ぶりです、先輩!」
「貴様ら、割り込んでくるな!」
「イザーク、ディアッカ、ニコル、エリアス」
やはり思った通り。
近づいてきたのはかつてクルーゼ隊で共に戦った仲間達であった。
色々言いあいながらも、全く隙を見せず見事な連携を組み、敵を迎撃しているのは流石である。
「まさかイザークまで来るなんてな」
「ふん、こちらも放っておけなかったんでな。ヴァルハラはトールやフレイに任せて、ミネルバと一緒にイザナギでこっちに来たんだ」
コロニーすべての無力化を確認したザフトは呆気ないくらい引き際が良かった。
これが単なる撤退であれば良かったのだが、生憎そこまで単純ではない。
現場からの連絡を受け、アポカリプス主砲で打撃を与えた同盟の部隊を挟撃する為の撤退であると判明したのだ。
放っておけば全滅しかねないと判断した上層部の判断で防衛力は残しつつ、ミネルバと共に僅かでも戦力を送る事にしたのである。
「アレックスのお友達ですか?」
「ああ」
そういえばセレネはイザークの事はオーブでの戦いで知っているが他のメンバーについては何も知らない。
ザフトにいた頃の話は彼女の過去もあってあまり話さないようにしていたからだ。
「おいおい、誰だよ。その可愛い子は?」
セレネに案の定食い付いてきたディアッカに嘆息する。
こういう所も変わってないらしい。
「ディアッカ先輩、変な所に反応しないでくださいよ」
「いい加減にしろ!」
「別に何もしてねーだろ! たく、それよりも行くとこあるんだろ?」
ディアッカとエリアスのイフリートがビームライフルで牽制、その隙にイザークとニコルの二人が敵に向かって斬り込んでいく。
「こちらは僕達に任せて!」
「行ってください!」
四機の連携で周囲の敵が排除され、道が開ける。
スカージの事は気にかかるが、進むなら今しかない。
「済まない」
「ふん、さっさと行け」
「これが終わったら一度月に来てくれ。……前にユリウス大佐が、久しぶりに皆に会ったら訓練をつけてやると言っていたぞ」
それを聞いた全員が顔を青くし眉を顰めると、声を揃えて返事をした。
「「やめておく」」
「「遠慮しておきます」」
予想通りの返答にセレネと共に笑みを浮かべるとその場は彼らに任せアポカリプスに向けて移動を開始した。
◇
ミーティアによる奇襲を受け、ザフトの戦線は混乱の極みにあった。
攻撃を仕掛けてきたノヴァエクィテスとエリシュオン、テタルトスのモビルスーツ。
それに加えメサイアを落とさんと迫ってくる同盟軍と地球軍の攻勢によって完全に浮足立っていたのである。
「これ以上敵をメサイアに近づけるな!!」
「了解!!」
指揮官の叱咤に答えるように先方にいたザクが突っ込んでくるリゲルに負けじとビームトマホークで応戦する。
しかし、横から回り込んでいたバイアランのビームサーベルで腕を真っ二つに斬り裂かれた。
その隙に接近したリゲルのメガビームランチャーによって指揮官機のイフリートが撃破されてしまう。
「た、隊長!?」
「くそォォ!!」
「やられてたまるか!」
自分を奮い立たせ、乗機であるグフを操り、リゲルに攻撃を仕掛けるが逆に腕部を破壊されてしまった。
体勢を崩され、もはやどうしようもない。
一秒先の未来は死だ。
色々な事が脳裏を駆け抜け、パイロットは恐怖を抑える為に目をつぶった。
しかし次の瞬間、破壊されていたのはグフではなく、優勢であったリゲルだった。
飛んできたブーメランによって腕を斬り飛ばされ、ビームでコックピットを破壊され爆散する。
「あ、あれは!?」
グフのパイロットが見たのは赤い翼を持った機体デスティニー。
自分達にとっての救いの神であり、自軍のエース達の姿だった。
「レイ、セリス、ラナ、まずあれからやるぞ!!」
「ああ!」
「「了解」」
戦場に到着したジェイルはまず味方の部隊を追い詰めている連中を排除する為、動き出した。
レジェンドのドラグーンが射出されると同時にデスティニーが、一気に加速。
アロンダイトで敵機を斬り払う。
その一太刀がフローレスダガーを容易く斬り裂き、続け様に叩きつけた一撃がジンⅡを撃破する。
さらにザルヴァートルが飛行形態に変形しそのスピードで敵を撹乱。
ラナのシグーディバイドが斬り込んでいく。
「はああああ!!」
バイアランのビーム砲を潜り抜け、袈裟懸けに振るった一撃で腕を切り裂きドラグーンによって撃破された。
四機の巧みな連携攻撃に手も足も出ず。
あっさり形勢は覆り劣勢から盛り返す事に成功する。
順調に敵を屠っていくジェイルだったが、目の端で何かが移動しているのに気がついた。
「あいつらは!!」
高速で巨大戦艦の方へ向かう二機のモビルスーツ。
奇襲を仕掛けてきたノヴァエクィテスとエリシュオンだ。
アレの圧倒的な火力によって味方は甚大な被害を受けてしまった。
奴らを止めない事には被害が大きくなる一方だろう。
ジェイルは憤りで操縦桿を強く握りながら、睨みつける。
「これ以上やらせるか!!」
それにいい機会だ。
アレには月での借りがある。
「ここで倒してやる!!」
アロンダイトを構え、ノヴァエクィテスを仕留めようと突撃した。
「はあああああ!!!!」
「ッ!? 月にいたザフトのエースか!!」
凄まじい速度で突っ込んで来たデスティニーにアレックスは対艦ミサイルを叩き込む。
しかしCIWSで撃墜されると爆煙の中を突っ切るように肉薄してきた敵機の刃が上段から振り下ろされた。
アロンダイトの斬撃がミーティアの右側ウェポンアームが破壊されてしまう。
「くっ!?」
破壊されたウェポンアームの爆発に巻き込まれる前に投棄。
反撃にビームライフルを撃ち出した。
「そんなものに!!」
ビームを避けたジェイルは再びアロンダイトを振り上げ、側面のビーム砲を斬り裂いた。
「ぐぅ! この!」
さらなる連撃に移ろうとしている敵から逃れようとアレックスはフットペダルを踏みこんで、正面に飛び出した。
しかしデスティニーは残像を伴い、ノヴァエクィテスを追って加速する。
「速い!?」
「そんなもの着けたままで、デスティニーと戦えると思ってるのかよ!! 月での借り、ここで返させてもらう!!!」
追撃してくる敵の斬撃がミーティアに襲いかかり、次々と深い傷を残していく。
ミーティアを装着した状態ではあの機体に対抗できない。
もう少し距離はあるが、此処が限界だ。
「仕方ない!」
コンソールを操作しミーティアを分離させると、横薙ぎに払われた対艦刀をシールドで受け止めセレネの方へ視線を向ける。
エリシュオンもまたドラグーンの攻撃に晒されている。
数こそ先程のスカージよりも遥かに少ないが、精度は明らかに上だった。
彼女もまた不利と判断したのだろう。
ミーティアを分離させ、特徴的なバックパックを背負った機体と斬り結んでいく。
アレックスはその機体に見覚えがあった。
「あの機体は……」
かつての上官が搭乗していた機体とよく似ている。
発展型だろうか。
だが似ているのは機体だけではなく、動きもだ。
相対したから良く分かる。
だとしたらアレもまた強敵に違いない。
さらにその間に接近してきたシグーディバイドがエリシュオンに襲いかかる。
「セレネ!?」
いかに彼女でもあの二機を同時に相手にしては―――
デスティニーを突き放し、エリシュオンの援護に向かおうとするが、今度はザルヴァートルが背後から斬りかかってきた。
「くっ!?」
ロングビームサーベルが袈裟懸けに振るわれ、ノヴァエクィテスの装甲を掠めて傷を作る。
「落ちろ!!」
「邪魔だ!」
こちらも負けじと振るう剣撃が弾け、閃光が散った。
強い。
それは月で戦った時から分かっていたが、これでは突破するにも時間が掛かり過ぎる。
四機の猛攻を捌くノヴァエクィテスとエリシュオン。
エース同士の激闘。
他の部隊の者達は一人近づけない。
踏み入ればそこで終わりだと理解していたからだ。
まさに死地。
だが―――そんな場所に迫ってくるモビルスーツがいた。
「セリス!!!!」
「えっ?」
もう一つの運命の名を持つ機体―――
リヴォルトデスティニーが驚異的な速度を持って突撃してきた。
虚を突かれる形となったセリスはリヴォルトデスティニーの体当たりをまともに受け、突き飛ばされてしまう。
「シンか!」
「くっ―――これは!?」
エリシュオンに攻撃を仕掛けていたレイに駆け抜ける感覚。
同時に別方向から放たれたビームにレジェンドは直前で回避運動を取ると砲撃の先に目を向ける。
「あれはイノセントか!」
そこにはヴィルトビームキャノンを構えたクルセイドイノセントがいた。
バルムンクを抜きレジェンドに向け斬り込んでいく。
「チッ、アスト・サガミ!!」
「レイ―――ッ!?」
ジェイルは斬り結ぶレジェンドの援護に向かう間もなく、もう一機の乱入者に気がついた。
黒い装甲を身にまとうその姿は噂に聞いたコードネーム『レイヴン』の特徴を色濃く持ったモビルスーツだ。
しかしたった一点だけ、違うところがあった。
忘れる筈もない、脳裏に焼きついた―――蒼き翼。
「フリーダム!!」
ジェイルは剣を掲げて突撃する。
それに応える様に光刃を両手に構え、迎え撃つストライクフリーダム。
蒼き翼と紅き翼がすれ違い刃が軌跡を描いて交錯した。
すいません、遅くなりました。体調崩して寝込んでました。
調子が悪い中で書いたのでおかしなところがあるかもしれません。
後日加筆修正します。