機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第58話  黒から白へ

 

 

 

 

 アポカリプスの主砲が放たれる少し前まで時間を遡る。

 

 同盟軍と地球軍が進軍を開始し、接敵したのと同じ頃。

 

 もう一か所で戦いが始まろうとしていた。

 

 その場所は―――中立同盟スカンジナビア所属の軍事宇宙ステーション『ヴァルハラ』

 

 コロニーに配置された防衛戦力とは別に、ザフトの部隊が着々とヴァルハラに向かって歩を進めていた。

 

 無論、同盟も敵の進軍を事前に察知し、すでにブリュンヒルデやナガミツ、アドヴァンスアストレイといった機体群が展開を済ませている。

 

 同盟のパイロット達の緊張感が高まる中、ザフトの部隊が視認できる位置にまで到達し戦端が開かれた。

 

 「目標は『ヴァルハラ』だ! できるだけ傷つけずに制圧せよ!!」

 

 「「「了解!!」」

 

 ザフトにとってオーブのステーション『アメノミハシラ』同様、スカンジナビアのステーション『ヴァルハラ』は非常に重要な拠点と位置付けられていた。

 

 コーディネイターを受け入れ、プラントとも交流を持っていた同盟の技術力が高い事は周知の事実である。

 

 前大戦においてはプラントからの技術流失が確認されはしたが、それを差し引いてもザフトと互角のモビルスーツを開発している。

 

 その技術力の高さに疑いの余地はない。

 

 つまり『ヴァルハラ』を制圧、もしくは無力化する事ができれば同盟に対して大きな打撃になるだろうと考えられていたのである。

 

 さらに今回の作戦が上手くけばアメノミハシラ、及び地球にある本国の方も対処しやすくなるという訳だ。

 

 指揮官が搭乗するイフリートが両肩のシールド内に格納されたベリサルダを構えて檄を飛ばした。

 

 「全機、油断するな!」

 

 動き出したザフトを迎え撃つ同盟軍。

 

 お互いに放った砲火が、相手を穿ち、宇宙に閃光の華が作られる。

 

 その閃光に紛れ、イザークのシュバルトライテとトールのオウカが敵陣に突入する。

 

 「行くぞ!!」

 

 「了解!!」

 

 オウカが敵機を翻弄しながらビームガトリング砲を撃ち込んで、敵部隊を撹乱に回る。

 

 変形を駆使しながら動くオウカをザフトは捉える事が出来ず、たたらを踏んだ。

 

 そこを狙いシュバルトライテがすかさず踏み込み、斬艦刀で斬り裂いていく。

 

 様々な戦場を経験し、高い技量と多くの経験を持つトールやイザークを止められる者はいない。

 

 果敢に敵機に向かう二機に続くようにブリュンヒルデやナガミツも迎撃に出た。

 

 同盟軍の激しい攻勢により、押されていたザフトであったが、それは最初だけだ。

 

 ザフトとて此処で負ける訳にはいかないのは当然の事。

 

 だから彼らも負けじと激しく攻め立てる。

 

 両軍が激突し、現状は完全に拮抗していた。

 

 そんな戦場を一機のモビルスーツが駆け抜けていく。

 

 ルナマリアのシークェル・エクリプスガンダムである。

 

 「はああああ!」

 

 サーベラスを腰だめに構え、敵陣に撃ち込むとそのまま直進。

 

 うろたえる敵からエッケザックスで斬り捨てていく。

 

 「まさか!?」

 

 「エクリプス!?」

 

 機体を改修したのか、背中に装備されている高機動ウイングなど違いはあるが、間違いなく特務隊のアレン・セイファートが搭乗していたもの。

 

 その戦果も含めザフトでも知っている者は多い。

 

 それが敵の手に渡るとは―――

 

 「おのれぇ! 破壊しろ!!」

 

 あえて怒気を含んだ声を出し、隊長機は率先して前に出る。

 

 同盟に使われている経緯などは知った事ではない。

 

 味方が少しでも動揺しないように叱咤するのが隊長である者の役目だ。

 

 指示を受けたザクファントムがミサイルを撃ち出し、ベリサルダを持ったイフリートとビームトマホークを抜いてエクリプスに襲いかかる。

 

 だが迫る刃を前にしてもルナマリアは焦らない。

 

 「この程度、訓練で散々やられたのよ!」

 

 ルナマリアは叫びを上げつつ、左右からの挟撃にも動じない。

 

 これまでもアレンやハイネにとことんまで鍛えられてきた。

 

 時には自信喪失しそうになるほど完膚なきまでに叩きのめされた事すらあった。

 

 それでも折れ無かったのは、ルナマリアにもエースパイロットとしての自負があったからだ。

 

 そして成長していくシンやセリスに負けたくなかったというのもある。

 

 何よりも先を行くアレンの背中に追いつきたかったのだ。

 

 だからこそアレンに頼む込み、厳しい訓練をこなしてきたのである。

 

 その時に比べればこんなものなど危機の内にも入らない。

 

 片手で抜いたビームサーベルでベリサルダの刀身を叩き折ると同時に逆手に持ったエッケザックスを背後に向けて突き出した。

 

 対艦刀の切っ先がザクファントムの腕を突き破り、頭部まで貫通する。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「な!? こいつ!」

 

 「やれる!」

 

 以前も感じた事だが、確実に訓練の成果が出ていた。

 

 突き刺した対艦刀を抜き、ビームライフルに持ち替えると近づいてくるザフト機を狙撃していく。

 

 背後に控えるミネルバからの援護を受けながら順調に敵部隊を迎撃していくシークェル・エクリプス。

 

 しかしそれを阻むように砲撃が降り注いだ。

 

 「何!?」

 

 機関砲で砲弾を破壊し、ビームを振り切るとこちらに突っ込んでくるドムトルーパーの姿が見えた。

 

 「ザフトの新型機……」

 

 宇宙での戦闘で暴れまわったという機体に間違いない。

 

 アレによって同盟軍は結構な打撃を受けている。

 

 ルナマリアがドムの存在に気がついたのと同じくヒルダ達もまたエクリプスの存在に戸惑いの声を上げていた。

 

 「あれってエクリプスだろ? 何で同盟に?」

 

 「さあな」

 

 「無駄口叩くんじゃないよ!」

 

 先頭を行くヒルダは焦りと若干の苛立ちを滲ませヘルベルトとマーズに釘を差す。

 

 彼女が気にかけているのは護衛対象であるティアの事だ。

 

 ティアは後方のメサイアにいる為、直接の危険はない筈。

 

 だがどうにも嫌な予感がして気にかかるのだ。

 

 「さっさと片付けて、ティア様の所に戻るよ!」

 

 「分かったよ」

 

 「ハァ」

 

 三機のドムがエクリプスを目標に突撃する。

 

 ルナマリアは横っ跳びで三機の突進を回避しながら、ライフルを連射した。

 

 しかし撃ち出されたビームはドムの纏うフィールドによってすべて弾かれてしまう。

 

 「くっ、やっぱり弾かれる!?」

 

 アレが展開されている限り、こちらの攻撃は通用しない。

 

 ならば、ラクスが言っていたようにフィールドが消えた瞬間を狙うしかない。

 

 ビームライフルで牽制しながら、フィールドが消えた瞬間を狙ってサーベラスを撃つ。

 

 しかし撃ち出されたビームを見透かしたようにドムが散開するとギガランチャーDR1プレックスを撃ち込んできた。

 

 「何度も同じ様にやれると思うな!」

 

 前回の戦闘でジャスティスにしてやられ、辛酸を舐めさせられた彼らには同じ手は通じないという事らしい。

 

 連射された砲弾がシールドの上から直撃すると、機体を大きく揺らす。

 

 さらにその隙をついて一機がビームサーベルを振るってくる。

 

 「ぐぅ、まだ!」

 

 ルナマリアは機体を流すように回避するサーベルは装甲を滑る様に通過し、浅い傷を装甲に刻んだ。

 

 そして飛び退くエクリプスに再び撃ち込まれた砲弾を機関砲で撃ち落としながらルナマリアは歯噛みする。

 

 「強い!」

 

 三機共にパイロットは相当の手錬れである。

 

 動きも卓越し、射撃も正確ながら、一番の脅威はその連携であろう。

 

 一糸乱れぬその動きは、見事と言う他ない。

 

 直進しながら加速、三方から撃ち込まれる何条もの閃光を紙一重で潜り抜け、包囲から抜けだそうと試みる。

 

 しかし逃がさないとばかりに三機のドムが食い下がってきた。

 

 何とか引き離したいルナマリアは撃ち込まれた砲撃を回避すると反転、バロールを放つ。

 

 だが砲弾が直撃する前に展開された光の盾によって防御されてしまった。

 

 「ビームシールド!?」

 

 ルナマリアは思わず目を見開いた。

 

 ビームシールドまで持っているとなると、遠距離からの攻撃ではいくらやっても焼け石に水。

 

 しかもパイロットの腕も一流で、それが三機もいる。

 

 こちらが圧倒的に不利な状況だった。

 

 「これを打開するには―――」

 

 脳裏にこれまでの訓練が浮かんでくる。

 

 《いいか、ルナマリア。戦場では自身よりも上の技量を持つ者や不利な状況でも戦わなくてはならない時がある。だがどんな時も冷静さを無くすな。考えろ。常に状況を把握し、使えるものはすべて使い、打開する為の術を探せ》

 

 アストはそう言っていたが、

 

 「ハァ、そう簡単にできれば苦労はないわよね」

 

 とはいえ愚痴っても仕方ない。

 

 アストの言う通り打開策を見つけるしかない。

 

 シールドを掲げ、敵に囲まれないように注意しながら、思考を巡らせる。

 

 そこで気がついた。

 

 「中央の機体、焦ってる?」

 

 観察してみると連携は変わらず見事であるが、中央の一機はやや他の二機より突出している。

 

 こちらをさっさと仕留めたくて焦っているのか、もしくは別の要因か。

 

 何であれ、これを利用しない手はない。

 

 さらに視線を流すと戦闘で損傷し、放棄されたナスカ級の姿が見えた。

 

 ルナマリアの頭の中でパズルのピースが完全にはまるかのように考えが浮かぶ。

 

 アレを利用すれば―――

 

 「やるしかないわね。メイリン、ブラストシルエット、フォースシルエットを私の指示したタイミングで射出して!!」

 

 《え、はい!》

 

 ドムをライフルで牽制しながら、破棄された戦艦に向って加速する。

 

 「追撃するよ!」

 

 「おう!」

 

 「逃がすか!」

 

 狙い通り追撃を掛けてくる三機のドム。

 

 引きつけながら、サーベラスを破棄されたナスカ級に向けて叩き込んだ。

 

 そして同時にバロールを使って三機のドムの連携を崩す。

 

 直撃した一撃がナスカ級を貫通、大きな爆発を引き起こすと爆煙がエクリプスとドムを包み込んだ。

 

 「フォースシルエット!」

 

 《はい!》

 

 エッケザックスを抜き、機関砲を撃ち込みながら分断したマーズ機に斬りかかる。

 

 「はあああ!!」

 

 「目くらましかよ!?」

 

 爆煙に遮られたマーズは反応が遅れ、斬艦刀の一撃が眼前に迫る。

 

 上段からの一太刀を背後に回り込むようにして回避、ギガランチャーDR1プレックスで背後から狙いをつける。

 

 しかし―――

 

 「何!?」

 

 コックピットに突然響く警戒音。

 

 背後にはシルエットグライダーで運ばれてきたフォースシルエットが迫っていた。

 

 このままでは激突してしまう。

 

 「チィ!」

 

 直撃を避けようと機体を引き回避しようとするが、ルナマリアがそれをさせない。

 

 「逃がさないわよ!」

 

 ドムをシールドで殴りつけ、体勢を崩すとシルエットグライダーの進路に追い込み激突させた。

 

 「ぐあああ!!」

 

 衝撃で吹き飛ぶ敵機にビームサーベルを抜き、袈裟懸けに斬り裂いた。

 

 ドムを裂くサーベルが火花を散らしながら胴体に深く食い込み、完全に動かなくなった。

 

 「マーズ!?」

 

 ルナマリアは即座に爆煙の中から飛び出す。

 

 そして位置関係を把握すると近くにいたヘルベルト機に向け、ドムに突き刺さっていたビームサーベルを投げつける。

 

 敵は奇襲に反応し、サーベルの一投をビームシールドで弾くが、それこそが狙いであった。

 

 隙が生じた瞬間に肉薄、エッケザックスを横薙ぎに振るって両足を切断する。

 

 逆手に持ち替え肩部に突き刺し、蹴り飛ばした。

 

 完全に沈黙する敵機を確認すると残りの一機に向かう。

 

 「二人がやられた!?」

 

 マーズ機、ヘルベルト機の反応がロストを確認したヒルダは動揺する。

 

 こんな所で二人が倒されるなど想像もしていなかったのだから無理もない。

 

 だがルナマリアにしてみればこれほどの好機はない。

 

 「ミネルバ、ブラストシルエット!」

 

 背中のデスティニーシルエット02を分離させ、ブラストシルエットを装着すると機体が深緑に染まる。

 

 ようやく視界を確保したヒルダは装備を変えたエクリプスの姿に眉を顰めた。

 

 「砲戦仕様の装備?」

 

 あれでドムの速度に対応できると思っているのか?

 

 戸惑うヒルダに構う事無くエクリプスはケルベロスを跳ね上げ、二門の砲口から凄まじい閃光を吐き出した。

 

 「そんなものに!」

 

 ドムは加速をつけ、ケルベロスの砲撃から逃れるとスクリーミングニンバスを再び展開してエクリプスに向けて突撃する。

 

 エクリプスのビームライフルやミサイルもすべてが弾かれ通じない。

 

 でもそれは想定通りだ。

 

 後退しながら、再びケルベロスを構えると狙いをつけてトリガーを引いた。

 

 「当たらな―――ッ!?」

 

 機体を加速させ余裕で回避した筈のヒルダ機に背後から爆発の衝撃が襲いかかった。

 

 放たれたケルベロスの標的はドムではなく―――放置されたフォースシルエット。

 

 前方に押し出されたドムはフィールドも消え、体勢も大きく崩している。

 

 ルナマリアが狙っていたのはこの瞬間だった。

 

 スクリーミングニンバスを纏い突撃してくるドムの突破力は言うまでもなく驚異である。

 

 ラクスの助言であるスクリーミングニンバス使用後を狙うというのも駄目となれば、どうするか―――

 

 ルナマリアの脳裏に浮かんだのは二つ。

 

 ドムの動きを止めるか、スクリーミングニンバスを使わせないかだ。

 

 スクリーミングニンバスを使わせないというのは難しい。

 

 それにはフィールドの発生装置を破壊するか、使えない状況を作るしかない。

 

 しかし少なくとも今のルナマリアには無理だ。

 

 ならば残りは一つ、動きを止める。

 

 これしかない。

 

 だからこそ一番火力を持ったブラストシルエットに換装し、持てる火力をつぎ込んで動きを止める戦法を取ったのである。

 

 「これで!!」

 

 懐に飛び込んだエクリプスはデファイアントビームジャベリンを叩きつけると左肩に直撃。

 

 動きを止めず、右手で抜いたもう一本のジャベリンを振りかざした。

 

 「ぐっ、舐めるんじゃない!!」

 

 ヒルダは上段から迫る光槍をビームサーベルで逸らした。

 

 そしてギリギリ動く左腕のビームシールドを展開、形状を変化させ刃としてエクリプスに放つ。

 

 「ッ!?」

 

 予想外の攻撃にルナマリアは咄嗟に突き刺さった光槍から手を離し、機体を流すように左に傾ける。

 

 しかし少し遅かった。

 

 刃はエクリプスの右腹部の装甲に傷をつけ、背中のケルベロスを斬り裂かれてしまう。

 

 流石の一言だろう。

 

 ここまで追い込まれていながら、尚反撃に転じてくるとは。

 

 だがここで負ける訳にはいかない。

 

 「このぉぉ!!」

 

 機体を水平にし、背中のブラストシルエットを分離、ドムにぶつけるとジャベリンで突きを放った。

 

 光槍がシルエットを貫通し、ドムの頭部に刺さると同時に機関砲を叩きこんで飛び退くように離脱する。

 

 次の瞬間、ブラストシルエットが爆発。

 

 至近距離にいたドムも巻き込まれ、爆煙に包まれた。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 ルナマリアは息を切らしながら、周囲を見渡す。

 

 どうやら何とかなったようだ。

 

 しかし戦闘は未だ継続中。

 

 呑気に休んでいる暇はない。

 

 バッテリーの状態を確認すると結構ギリギリの状態だった。

 

 デュートリオンビームで補給を受けた方が良い。

 

 ルナマリアはすぐに機体を立て直し、分離させたデスティニーシルエット02を装着してミネルバに移動した。

 

 

 

 

 同盟と地球軍がザフトと戦闘を開始してしばらく。

 

 徐々に状況も変わろうとしていた頃だった。

 

 一条の巨大な閃光。

 

 アポカリプスの主砲が放たれ、宇宙を薙ぎ払っていく。

 

 その標的はアスト達が迎撃に向かった地点に配置されていたコロニーであった。

 

 クロード達と相対していたアストとキラは前方から迫る、巨大な光の奔流を前に即座に離脱を選択する。

 

 「アスト!!」

 

 「くそ!!」

 

 サタナエルやザフトの部隊はすでに位置を変え、影響の受けないように移動している。

 

 クルセイドイノセントとストライクフリーダムも主砲の一撃を避ける為、急ぎ左右に飛び退いた。

 

 巨大なビームがコロニーを撃ち抜き、動いていた同盟軍を巻き込み消滅させる。

 

 「回避―――!!!」

 

 ナタルの掛け声に合わせ、各艦、各モビルスーツが回避行動を取る。

 

 だが間に合わない者達はビームの一撃を受けて消えて行った。

 

 その光景を見つめていたクロードは何の感情も見せないまま、ただ呟いた。

 

 「議長殿も女狐もよくやる。今頃、さぞ上機嫌だろうな」

 

 彼らの作戦通りに事が運んでいるのである。

 

 不満な筈はない。

 

 しばし視線を流し、あの二機の姿を探すが破壊されたコロニーや戦艦の破片が散乱し発見できない。

 

 「役目は果たした。メサイアの方も『ネオジェネシス』を撃つ頃か……退くぞ」

 

 今回の砲撃で同盟の戦力はかなり削られた筈、再編成にも時間が掛かるだろう。

 

 後は防衛隊に任せておけば良い。

 

 「「「「了解」」」」

 

 サタナエルは僚機のシグーディバイドを伴い、戦域より離れていった。

 

 

 

 

 アポカリプスの砲口から発射された目が眩むほどの光は各戦場、どこからでも見える凄まじいものだった。

 

 それをアスタロスのコックピットから見届けたデュルクは少しも気を緩める事無く、操縦桿を握っている。

 

 現在いるのはアポカリプスとメサイアから少しだけ離れた場所。

 

 破壊された戦艦、モビルスーツの残骸が浮かび岩なども多い地点。

 

 戦闘の陰も無く、待機する彼の後ろには幾つか補給の為に待機している艦や防衛のモビルスーツが数機いるのみ。

 

 ここは後方と言っても差し支えない所であった。

 

 そこに一機のモビルスーツが近づいてくる。

 

 オレンジの装甲と翼を持った機体ヴァンクールだった。

 

 「ハイネ、機体はどうだ?」

 

 「どうにか調整も終わりましたよ。かなり無理させちゃいましたけどね」

 

 スレイプニルの爆発に巻き込まれたヴァンクールは一部駆動系に異常が出ていた為に調整を受けていた。

 

 時間が無かった為に斬り裂かれてしまった肩部の損傷などは修復出来なかったが戦えるようになっただけでも十分である。

 

 「それよりもここに来るんですか?」

 

 「必ずな」

 

 デュルクが現在の主戦場であるコロニーに向かわず、ここで待機していたのにはもちろん理由がある。

 

 それは―――

 

 「来たな、地球軍」

 

 アスタロスとヴァンクールの前には少数とはいえ地球軍の部隊が岩や残骸に紛れ、近づいてくるのが見えている。

 

 それを確認したハイネは感心したように呟いた。

 

 「流石ですね、隊長」

 

 デュルクはメサイアに近いこの辺りから必ず敵の奇襲があると予測していた。

 

 だからコロニーの方は他のメンバーに任せ、自分はここで奇襲部隊を迎撃する為に待機していたのである。

 

 『本命』はまだ来ないようだが。

 

 「行くぞ、ハイネ」

 

 「了解!」

 

 ヴァンクールが翼を広げ、アスタロスも外装を開き、両機がスラスターを噴射させる。

 

 「ザフト!?」

 

 「何でここに!?」

 

 「迎撃しろ!」

 

 急速に近づいてくるモビルスーツの機影に気がつき、迎撃態勢を取る地球軍部隊。

 

 しかしその対応は二人からすれば遅すぎた。

 

 デュルクは表情一つ変える事無く大鎌ネビロスを構えると、ビームが曲線を持った刃を形成するとアルゲス向けて叩きつける。

 

 「うあああああ!?」

 

 シールドで鎌を受け止めようとしたアルゲスだったが、強力なビーム刃を止める事が出来す盾ごと胴体を切断されてしまった。

 

 さらに振り向き様にネビロスを逆袈裟から振り上げると背後のウィンダムを斬り捨てた。

 

 「くそ!」

 

 「あの鎌を受けるな! シールドごと斬り裂かれるぞ!!」

 

 ヴィヒターやウィンダムがネビロスの威力を見て距離を取り始める。

 

 大鎌の攻撃力を目撃した後であるなら当り前の対応と言って良いだろう。

 

 だが今回に至っては迂闊であった。

 

 何故なら―――

 

 「俺もいるんだよ!!」

 

 ヴァンクールが高エネルギー長射程ビーム砲でヴィヒターやアルゲスを狙い撃ちすると、アロンダイトを構えて一気に加速する。

 

 光学残像を伴い、加速をつけて対艦刀を振り下ろす。

 

 速度の乗った斬撃に全く対応できないヴィヒターは回避も防御もできないまま、斬り裂かれてしまった。

 

 さらにハイネは続けて敵機に刃を振り下ろしていく。

 

 二機の猛攻によって少数とはいえ襲撃を仕掛けてきた地球軍の三分の一があっという間に撃破されてしまう。

 

 地球軍側からすればまさに悪夢であった。

 

 「ば、馬鹿な」

 

 「化け物かよ」

 

 進路を阻むように立ちふさがるアスタロスとヴァンクールの姿に、立ち竦む地球軍部隊。

 

 その現場に彼らの後方から近づいてくるモビルスーツがいた。

 

 エレンシアとストライクノワール・シュナイデンである。

 

 「大佐」

 

 「ああ、こちらの動きを読んでいた奴がいたらしい」

 

 元々戦力的に劣り、一番不利である地球軍が正面から事を構えるのはあまりに無謀である。

 

 理想としては奇襲を仕掛け、時間を掛けずに頭を潰してしまう事。

 

 すなわちザフト機動要塞メサイアを落とせばよい。

 

 もちろんそう簡単にいかない事は重々承知している。

 

 しかし他に選択肢がないのも事実であった。

 

 だからラルスは『彼ら』と交渉し、同時に仕掛けるつもりだったのだが些か早く捕捉されてしまったらしい。

 

 それだけ読んだ奴が優秀という事だろう。

 

 「仕方がない。スウェン、私達でやる。ただし無理はするな」

 

 「了解」

 

 エレンシアの背中に装備されたサンクションストライカーからドラグーンユニットを分離させ、二機のモビルスーツにビームを浴びせる。

 

 スウェンは飛び退いたヴァンクールの方に向って攻撃を仕掛けた。

 

 ビームライフルショーティーで牽制しながら、ヴァンクールを誘導する。

 

 「俺の相手はお前かよ!」

 

 ビームを回避し、突撃してくる敵機の動きを冷静に観察した。

 

 「……さて、どこまでやれるか」

 

 あれの同型機の性能は知っている。

 

 いかにストライクノワールが改修されたとはいえ、性能差がある事に変わりはない。

 

 スウェンにとっては大きく性能差がある相手との戦いも前大戦で経験済みだ。

 

 要するに―――

 

 「俺次第か」

 

 少なくともこいつをどうにかすれば、後々味方が楽になる。

 

 スウェンはここでヴァンクールの戦闘力だけでも削る覚悟を決めた。

 

 ヴァンクールにビームライフルで狙いをつけるとトリガーを引く。

 

 しかし撃ち出された一射をあまりにあっけなく避け切ったヴァンクールは速度を乗せてアロンダイトを振り下ろしてくる。

 

 迫る対艦刀の切っ先を見切り機体を逸らして紙一重で回避したが次の瞬間、敵機はアロンダイトを即座にこちらに振り上げてきた。

 

 「くっ!? 速い!?」

 

 下から迫る刃に小型シールドで外側に向け剣閃を逸らした。

 

 正面からは決して受けてはならない。

 

 あの威力をまともに受けては腕ごと叩き斬られてしまう。

 

 「へぇ~、やるな! けどまだだぜ!」

 

 ハイネは敵の技量に関心しながらさらに攻撃の手を緩めない。

 

 ストライクノワールに蹴りを入れ、パルマフィオキーナ掌部ビーム砲を叩きつけた。

 

 掌が光を発してスウェンの眼前に迫る。

 

 回避する事はできない。

 

 ならば―――

 

 スウェンはノワールストライカーのアンカーを射出、近くの岩場に突き刺すと機体を牽引。

 

 タイミングを合わせスラスターを逆噴射、一気に機体を下降させた。

 

 次の瞬間、ストライクノワールのいた場所を一瞬の閃光が通過する。

 

 「チッ、ホントにやるな」

 

 今ので仕留めたと思ったのだが。

 

 どうやら結構なやり手らしい。

 

 ハイネは相手にとって不足はないと改めてビームライフルを片手に逃れた敵機を追う。

 

 「まともに戦っていてはどうにもならないか」

 

 向ってくるヴァンクールの姿に嘆息する。

 

 分かってはいたがパワーもスピードも向うが明らかに上。

 

 正面から斬り合っていては勝ち目はない。

 

 スウェンは追ってくる敵機から背を向け、岩や残骸がひしめく中に迷わず突っ込んでいく。

 

 「逃がすか!」

 

 ヴァンクールのビームライフルが火を吹き、逃げるストライクノワールを狙撃。

 

 同時に後を追うように前に出た。

 

 「悪いが正面から戦う気はない」

 

 できる限り複雑な軌道を取りながら機体を捻り、ビームを避ける事に専念する。

 

 通り過ぎる閃光が装甲を穿ち、進路を阻んでいくが構う事はない。

 

 もちろんスウェンを逃がす気はハイネには全くない。

 

 そもそも速度ではヴァンクールの方が上なのだ。

 

 すぐにでも追いつける。

 

 岩場を避けながら速度を上げストライクノワールの背後に迫ったハイネはアロンダイトを上段に構えた。

 

 「これで―――ッ!?」

 

 刃が振り下ろされようとした瞬間、敵機はビームライフルを破棄。

 

 それをビームガンで破壊するとヴァンクールの目の前で爆発させ閃光が一瞬、視界を塞ぐ。

 

 「視界を塞ぐつもりか!?」

 

 この機を狙って接近戦でも仕掛けてくるか。

 

 だがこちらの推測を裏切るように、敵機はビームライフルショーティーに持ち替え岩場の中に飛び込んで行く。

 

 誘っている。

 

 ここで何かを仕掛けるつもりだろうか?

 

 だとしても退く理由にはならない。

 

 ニヤリと口元に笑みを浮かべ迷わず前進を選択した。

 

 「上等!」

 

 ビームライフルショーティーの射撃をビームシールドで弾きながら、ビームライフルで応戦。

 

 ぶつかればそれだけで大破する危険がある巨大な岩がひしめく場所を二機のモビルスーツが駆けていく。

 

 ヴァンクールが高エネルギー長射程ビーム砲を腰だめに構え、敵機を狙った。

 

 強力な一撃が迫る中、スウェンはワイヤーアンカーを巧みに使い、岩場の間を駆けてやり過ごす。

 

 そして機を窺いビームライフルシューティーを連続で叩き込んだ。

 

 「ここに誘い込んだのはこの為かよ」

 

 ワイヤーアンカーを岩場に撃ち込んで牽引するのとタイミングを合わせスラスターを使えば確かに速く移動できる。

 

 しかも残骸や岩の所為で視界が悪い為に狙いがつけにくい。

 

 この状況と装備を使ってスウェンはヴァンクール相手に互角の勝負を演じていた。

 

 「だけどな、いつまでも好き勝手にはさせないぜ!」

 

 ストライクノワールの射撃を回避したハイネは敵が動くタイミングを見計らって近くの岩にパルマフィオキーナ掌部ビーム砲を撃ち込んだ。

 

 「そこだ!」

 

 「ッ!?」

 

 砕かれた岩が周囲に飛び散り、ストライクノワールの動きを阻害する。

 

 その隙を突き、アロンダイトを振り抜いた。

 

 剣閃が敵の右脚部を捉え、何の抵抗も無く斬り捨てる。

 

 「ぐっ!」

 

 「まだまだ!」

 

 追撃を掛ける様に残った手でフラッシュエッジを抜き放ち、横薙ぎに振り抜いた。

 

 「不味い!?」

 

 刃が届く前にシールドを割り込ませ、フラッシュエッジを防ごうとする。

 

 だがやはりパワーの違いが大きく、完全に止め切るには至らない。

 

 ビーム刃が肩部に食い込み、徐々に切断していく。

 

 このままでは機体ごと真っ二つになってしまう。

 

 だがこの危機を前にしてもスウェンは冷静なままだ。

 

 組み合い徐々に押されていく中、タスラムをせり出し至近距離からヴァンクールの腕に炸裂させ、フラッシュエッジを吹き飛ばした。

 

 しかしその反動で機体の体勢は大きく崩されてしまう。

 

 「やってくれたな!」

 

 光を放出しながら一気に加速、アロンダイトを袈裟懸けに振るいシールド諸共左腕を切断。

 

 返す刀で残った左足も斬り捨てると、最後に胴体を狙って下段から振り上げる。

 

 「これで決める!」

 

 しかし次に感じたのは、敵を斬る感触ではなく自機に襲いかかる衝撃であった。

 

 「な、に……」

 

 呆然と呟いた。

 

 ハイネの目に飛び込んで来たのはヴァンクールの左腕にビームライフルショーティーの先端に装着されたバヨネットが突き刺さっている姿だった。

 

 スウェンはビームを撃ち込むと同時に刃を振り切り、左腕を切断した。

 

 腕が破壊されたことによる爆風に呻きながらも、ハイネは驚愕する。

 

 「まさか、初めからこれを狙っていたのかよ」

 

 先ほどのレール砲の衝撃で体勢を崩したように見せかけて、わざと自分の懐に誘い込み、対艦刀を振るう瞬間を狙っていたのだ。

 

 でなければ対艦刀を振りかぶる途中に割り込むなどできる筈がない。

 

 そこでハイネに新たな衝撃が襲いかかる。

 

 「なっ、ワイヤーだと!?」

 

 ヴァンクールの肩部にワイヤーアンカーが巻きついていた。

 

 何を―――

 

 ストライクノワールはスラスターを噴射し、Gによって体に掛かる負担を無視しながら加速すると周囲グルグルと回りワイヤーを敵機に巻きつけていく。

 

 「これで動けまい」

 

 「くそ、まだだ!」

 

 スラスターを吹かしながらストライクノワールを止めようとCIWSを止めど無く叩きこんでいく。

 

 「ぐぅぅぅぅ!!!」

 

 いくら実弾が無効化できるVPS装甲とはいえ、傷ついている今の機体状態ではCIWSでも厳しい。

 

 その証拠にコンソールから電気が弾け、警告音が鳴りやまない。

 

 しかしそれでも動きを止めず、さらに残った腕でビームライフルショーティーを構えてトリガーを引く。

 

 銃口から発射された一射がヴァンクールの片翼を吹き飛ばした。

 

 「ぐあ!! このォォ!」

 

 背中の爆発で押し出されるような衝撃を噛み殺すハイネは気を失いそうな自身を叱咤し、正面を見据える。

 

 「舐めんなァァァ!!」

 

 爆発の影響か僅かに緩んだワイヤーの綻びを突き、残った右手の中にあるアロンダイトをストライクノワールに投げつけた。

 

 「くっ!?」

 

 ここでワイヤーでヴァンクールを縛っていたことが仇となる。

 

 ワイヤーによってストライクも動きが阻害されてしまったのだ。

 

 避け切れなかったストライクノワールの右肩にアロンダイトが直撃、刃が突き刺さって装甲から色が落ちた。

 

 「ハァ、ハァ、たく、ようやく落せたか。しかし派手にやられちまった」

 

 左腕を失い、片翼は破壊、スラスターの一部も爆発の衝撃で動かなくなっている。

 

 ここまでやられるとは思ってもみなかった。

 

 しかも機体性能はこっちが上。

 

 これで対等の機体に乗って戦っていたらと思うとゾッとする。

 

 それだけの強敵だった。

 

 「大したもんだったぜ」

 

 ハイネはもう動かない敵パイロットに素直な称賛を送る。

 

 

 だが―――まだ決着はついていなかった。

 

 スウェンは最後の一手を打っていたのである。

 

 一度戻ろうとしたハイネだったが、次の瞬間瞠目する。

 

 沈黙した敵機の背中から伸びていたワイヤーアンカーが巻き戻り始めたのだ。

 

 「何を―――ッ!?」

 

 訝しむハイネの耳に突然警戒音が鳴り響く。

 

 咄嗟に反応しようとするも、些か遅く過ぎた。

 

 ワイヤーアンカーによって牽引されていたのは―――フラガラッハ。

 

 いつの間にか放棄されていたフラガラッハは巻き戻るワイヤーの反動によって、ブーメランのように回転しながらヴァンクールの背後に激突する。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「今だ!」

 

 フラガラッハが激突した衝撃で体勢を崩した瞬間を狙い、タスラムを連続で撃ち出す。

 

 発射された砲弾は正確に敵機に突き刺さり、直撃。

 

 ヴァンクールを吹き飛ばした。

 

 これだけのダメージを受ければ、奴はもう戦えないだろう。

 

 ストライクノワールもまた限界であった。

 

 損傷が酷く全く動かなってしまった。

 

 「ぐっ……ここが限界か……後は、頼む。大佐、少尉」

 

 爆煙に包まれ、視界が塞がれながらスウェンは意識を失った。

 

 

 

 

 コロニーの戦闘からガーティ・ルーに帰還していたアオイは何となく外の方を振り返る。

 

 「どうした、アオイ?」

 

 「……いや、何でも無い」

 

 虫の知らせとでも言えば良いのか。

 

 嫌な予感がしたとは言いだせず、仲の良い整備兵を何とか誤魔化した。

 

 「大佐とあのステラって子の所に行かなくていいのか?」

 

 「さっき行って来たよ。二人とも大丈夫だってさ」

 

 どうにか救出したステラはすぐに医務室に運ばれ、現在治療を受けている。

 

 先生の話によれば、詳しい検査が必要だが、今のところ命に別条はないらしい。

 

 ルシアも同じく目立った怪我は無かったが今は一応の検査を受けている。

 

 安心したアオイは自身の機体状態を確認しに戻ってきたという訳だ。

 

 「それでエクセリオンはどうなんだ?」

 

 「操縦系の一部がショートしてるから修復しないといけない。これはすぐ終わるし、他の損傷も大した事はないけど、背中のウイングスラスターは駄目だな」

 

 サタナキアのビームブーメランによって斬り裂かれたウイングスラスターは外から見れば一目瞭然だ。

 

 完全に破壊されてしまっている。

 

 「新しいのに交換するにしても結構時間が掛かるぞ」

 

 コロニーに関する作戦はどうにか成功したものの、未だに激しい戦闘は続いている。

 

 こんな所で休んでいる暇はない。

 

 例の戦艦から発射された砲撃で同盟も結構な打撃を受けているという話だ。

 

 しかし喚いた所でどうにもならないのが現実である。

 

 大人しく待つしかないのか。拳を強く握りながら、歯噛みするアオイだったがそこにある機体が目の前に入ってきた。

 

 「……あれは使えないか?」

 

 アオイが指さしていたのは―――黒いモビルスーツ『アルカンシェル』であった。

 

 ステラを助け出した後で、中破したイレイズと一緒に回収し今はコーディネイターの技術者達が解析を行っていた。

 

 「だいたいの機体の解析は終わったけど、データはOSも含めて全部消えてたからなぁ。あ、でも……」

 

 何か思いついたのか整備兵は「少し待っててくれ」と言って技術者達の所に歩いていく。

 

 しばらく話をしていると、端末を片手に持った技術者の一人と一緒に戻ってきた。

 

 「アオイ、どうにかなるかも」

 

 「本当か!?」

 

 技術者が頷くと端末を持って説明を始めた。

 

 「エクセリオンのW.S.システムを移植すれば、おそらく動かせる」

 

 W.S.システムは搭乗したパイロットの戦場での戦闘情報を収集、特性に合わせて機体調整や補正、支援を行うシステム。

 

 それはアルカンシェルにも対応できるらしい。

 

 もちろん細かい調整やOSの改良も必要なようだが、エクセリオンの修復を待つよりは格段に早く終わるとの事。

 

 技術者は変わらず素早く端末を操作しながら、機体情報をまとめていく。

 

 「―――あの機体に装着されていた外部装甲のようなものはどうやらリミッターの役目を持っていたようだが、それは損傷してしまっていたから外す。代わりにプログラムを組み、パイロットの意思で通常時と最大出力時の切り替えができるようにしよう。ああ、もちろんW.S.システムに最大出力時のコントロールを補佐させるよう調整を加える。それから―――」

 

 矢継ぎ早に語られる情報にそろそろアオイの情報処理能力も限界である。

 

 正直、途中から何を言われているのか理解できなくなっている。

 

 酷く疲れた顔でアオイは技術者の言葉を遮った。

 

 「……えっと、つまりあれ使えるって事ですよね」

 

 「うむ、大丈夫だ。少しだけ待て」

 

 整備兵がやや同情したように、苦笑しながらアルカンシェルの方に向かうと数人が機体に取り付き作業を開始する。

 

 「外部装甲を外し、電圧の調整した。一旦VPS装甲を展開するぞ」

 

 整備兵の掛け声と共にアルカンシェルの装甲が色付いた。

 

 色は今までの黒色ではなく、白色に変化している。

 

 白く変化した機体を見上げながら、アオイは戦意だけは鈍らせまいと拳を固く握り締めた。

 

 

 

 

 アポカリプスの主砲が発射された後、クロードの言葉通りメサイアではすぐに次の行動に移ろうとしていた。

 

 「アポカリプス主砲による『ステーションⅠ』の破壊確認」

 

 報告を聞いたデュランダルは満足そうに笑みを浮かべる。

 

 これでコロニー『ステーションⅠ』を破壊しようとしていた同盟の戦力を削る事が出来た筈だ。

 

 ここでさらに追撃を掛けるべきであろう。

 

 「議長」

 

 「分かっている。ヘレン、そろそろ『彼ら』も来る頃だ。フォルトゥナの発進準備を」

 

 「了解しました」

 

 ヘレンが一礼して司令室から退室したのを確認すると、即座に指示を飛ばす。

 

 「『ネオジェネシス』照準、目標『ステーションⅡ』!」

 

 「了解!」

 

 ザフトの機動要塞メサイアには全方位に展開可能な防御装置である陽電子リフレクターともう一つ武装が配備されている。

 

 それが『ネオジェネシス』である。

 

 前大戦で投入された巨大なガンマ線レーザー砲である『ジェネシス』を小型化。

 

 破壊力こそ低下したものの運用性を向上させた。

 

 さらに要塞内部に設置した事で破壊され難くし、さらに発射する度に必要だったミラーの交換が不要になっている。

 

 メサイアに設置された『ネオジェネシス』が動き出す。

 

 「発射!」

 

 デュランダルの声に合わせ、光を集めると同時に『ネオジェネシス』は強烈な閃光を発射した。

 

 目標は『ステーションⅡ」

 

 それは同盟軍がもっとも戦力を配置したメサイアから最も近い場所であった。

 




ようやく出来ました。そろそろ仕事も落ち着いてきたので、次はもう少し早く投稿できると思います、多分ね。まあ、相変わらず出来悪いですけど。

いつも通り、後日加筆修正します。

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