機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第57話  過去の呼ぶ声

 

 

 

 

 

 

 

 ゆったりとした眠りを妨げる様に人が慌ただしく動いている気配が伝わってくる。

 

 同時に聞こえてきた声によってスティングは自身の意識が徐々に浮上していくのが分かった。

 

 気だるさを感じつつ、ゆっくり目を覚ますと一瞬―――何かが見えたような錯覚を覚える。

 

 「……なんだ、今のは?」

 

 幻だろうか。

 

 見えたのは自分やアオイ、そして見覚えのない同年代の少年と少女の姿だった。

 

 あれは―――

 

 そんな事を天井を見つめながらぼんやりと考え、体を起こそうとすると、脇腹辺りに痛みが走った。

 

 「痛っ! そうか、あの黒い奴にやられたんだったな」

 

 痛みを噛み殺し、思い起こすのは黒い虹―――アルカンシェルの事。

 

 しかしあれだけやられたにも関わらず不思議とスティングの中には怒りも憤りも無かった。

 

 アオイが言っていた仲間、ステラと呼ばれた少女が乗っているからだろうか。

 

 そこでようやく自分達が置かれている状況を思い出す。

 

 「あれからどうなった!」

 

 確か月に向かっていたコロニーを巨大戦艦の主砲で破壊したところまではこの目で見ていた。

 

 しかしその後、母艦であるガーティ・ルーに戻ったところでスティングの意識は途切れてしまっていた。

 

 急いでベットから降り傍に置いてあった制服を引っ掴み、部屋を飛び出すとそのまま走り出した。

 

 どうやらガーティ・ルーは戦闘態勢に移行しているらしい。

 

 クルー達の間をすり抜けブリッジに入ったスティングは艦長席に座っていたイアンに詰め寄った。

 

 「今の状況は!?」

 

 「スティング、目を覚ましたのか?」

 

 「ああ、今どうなってる!? ネオやスウェン、アオイ達はどうなった!?」

 

 イアンは一瞬考え込むように顎に手を当てると、いつも通り冷静に現状を語り出した。

 

 奪われたテタルトスの巨大戦艦、配置された四つのコロニー、ザフト機動要塞。

 

 状況は想像以上に悪いようだ。

 

 「じゃあ、アオイ達は?」

 

 「ミナト少尉達はコロニーに大型推進器を取り付ける部隊の護衛についている」

 

 アオイ達がコロニーに向かった?

 

 当然そこにはザフトの防衛部隊もいる。

 

 そしてあの黒い機体も待ち構えている可能性があった。

 

 「なら俺も出る」

 

 話を聞き終わり、格納庫に向かおうとするスティングだったが、イアンに押し留められてしまう。

 

 「待て。勝手な行動を取るな。お前は怪我もしている」

 

 確かに今は戦力が一機でも多い方がいい。

 

 それはイアンも承知している。

 

 しかしスティングが万全な状態ではない以上、無理はさせられない。

 

 「こんな怪我、戦うのには何の問題もないって―――」

 

 「どうしても出たいか、スティング?」

 

 スティングの言葉を遮りブリッジに入ってきたのはパイロットスーツを着たラルスとスウェンの二人だった。

 

 スウェンは表情を変える事無く冷静にこちらを見ている。

 

 それはいつも通りなのだがラルスがパイロットスーツを着ているのは少し驚いた。

 

 それだけ今回の戦いは本気という事なのだろう。

 

 「ネオ……当たり前だろ。あの黒い奴だって間違いなく来る! アオイ達だけで行かせられる訳ないだろ!」

 

 アオイはまたあのステラって奴を助けようとするに決まっている。

 

 推進機を守りつつ、ステラを助けるなんていくらアオイでも無理だ。

 

 「……良いだろう。ただし、味方機の支援に徹する事が条件だ。できないなら、ここで待機してもらう」

 

 それがラルスからの最大限の徐歩である事が分かったスティングは顔を顰めながらも頷いた。

 

 「チッ、分かったよ」

 

 「機体のチェックが済み次第、援護に向かえ」

 

 「了解」

 

 ブリッジを飛び出していくスティングの姿を見届けたスウェンはラルスを横目で見ながらため息をついた。

 

 「スティングを行かせてよろしいのですか?」

 

 「……言っても聞かないだろう」

 

 それは嘘だ。

 

 何故ならこういう時の為に、エクステンデットが暴走した時の為に『ブロックワード』が存在しているのだから。

 

 だがそれを使う気がないのはラルスを見れば明らかだった。

 

 それが分かっていながら傍にいたイアンが問いかける。

 

 「ブロックワードは?」

 

 「使う気はない」

 

 ラルスは元々スティング達をただの兵器としては扱わなかった。

 

 情が移っただけだと言われたら否定はしない。

 

 だが本当の所は、彼自身も良く分かっていないというのが本音であった。

 

 もしかすると人体実験に使われてしまった自身のクローン達に対して何もできなかった罪悪感からくるものだったのかもしれない。

 

 「……それにスティングの意見も間違っていない。余裕がないのは確かだ」

 

 スティングの言い分に理解を示すラルスだが、その声は非常に固い。

 

 彼とて心情的には行かせたくはない。

 

 しかし一方で指揮官としてのラルスは現状の厳しさを冷静に認識していた。

 

 今は一機でも多く戦力が必要であると。

 

 なによりも彼が―――兵器として生み出された彼が仲間の為に戦おうとしている。

 

 それを止める事などできなかった。

 

 たとえ命懸けの戦場に向かうのだとしても。

 

 「……スウェン、私達も作戦を開始する。行くぞ」

 

 「了解」

 

 「イアン、後を頼む」

 

 「ハッ!」

 

 艦をイアンに任せ、ラルス達もブリッジを出る。

 

 その胸中に浮かぶ感情を押し殺すように、足早に格納庫に向かった。

 

 

 

 

 宇宙に配置されたコロニーを巡るザフトと同盟軍の戦い。

 

三つの場所で両軍が激闘が繰り広げている頃、最後に残ったコロニーでも戦いが始まろうとしていた。

 

 来るべき敵を待ち構える様に周囲に部隊を展開し万全の状態でザフトは今か今かと開戦を待っている。

 

 他の場所と違う点があるとすれば、戦い場に現れた者達が同盟軍ではなく地球軍であった事だろう。

 

 部隊を率い、何基かの大型推進器を伴って守る様に進軍してきている。

 

 そして部隊の中央にいたアオイのエクセリオンとルシアのイレイズMk-Ⅱが味方の進路を開くため先陣を切ろうとしていた。

 

 「少尉、今回の作戦は各部隊がコロニーに大型推進器を取り付け、作動させるまでの護衛です。私達が先行して道を開く」

 

 「はい!」

 

 アオイはフットペダルを力一杯踏み、操縦桿を押し込むと前方に加速する。

 

 そして同時にルシアもまたアオイの後に続いて動き出した。

 

 「ウィンダム隊は推進機取り付けを最優先! ヴィヒター、アルゲス隊はザフトの迎撃を!」

 

 「「「了解!」」」

 

 イレイズMk-Ⅱの後ろには変形したヴィヒターとロゴス派が開発した次世代量産機アルゲスが隊列を組んでいる。

 

 ロゴス派の切り札の一つであったアルゲスはウラノスが陥落した際に接収したものだ。

 

 元々今回の戦闘、明らかに戦力が不足しているのは事前に判明していた。

 

 だから少しでも戦力不足を解消する為、研究用として残した数機を除き、接収されたアルゲスが戦場に投入されていたのである。

 

 さらに言えばアルゲスはマクリーン派が開発した新型機ヴィヒターを上回る火力を有している。

 

 長距離ビーム兵器である『アイガイオン』を装備させれば、オルトロスを持ったザクを相手に距離を取っても互角に戦う事も可能になる。

 

 その証拠に戦闘を開始したアルゲスはザクと互角の砲撃戦を繰り広げていた。

 

 背後から飛行形態に変形したヴィヒターが持前の機動性を生かして接近、至近距離からビームライフルショーティーでグフを撃破する。

 

 「くそ、この雑魚共が!」

 

 味方機を落としたヴィヒターを隊長機のザクファントムがビーム突撃銃で狙いをつけた。

 

 だが機動性故か、上手く狙いが定まらない。

 

 火力こそアルゲスに劣りはするが、機動性の方はヴィヒターに軍配が上がる。

 

 たとえザクやグフであろうともそう簡単には捉えられないのは当然であった。

 

 「撃ち落とせぇ!!」

 

 「ナチュラルの機体などに!」

 

 ヴィヒター、アルゲス、両機の予想以上の攻勢と性能に驚いたザフト。

 

 しかし彼らとてザフトとしての誇りがある。

 

 舐められてばかりでは面目が立たない。

 

 対艦刀ベリサルダを両手に構えたイフリートがアルゲスの懐に飛び込み、アイガイオン諸共右腕を斬り落す。

 

 さらに横薙ぎに刃を振るって胴体を斬り捨て、ヴィヒターを巻き込んで爆散させた。

 

 「このまま押し込め!」

 

 「ザフトの好きにさせるな!」

 

 両軍共に全く怯まず、果敢に攻め立てる。

 

 特に地球軍側はそれが顕著だった。

 

 その理由は単純な数の違い、物量の差である。

 

 時間を掛けた長期戦になれば、不利になるのは明白。

 

 だからこそ最短でコロニーに取りつく必要があったのだ。

 

 奮戦する味方部隊をよりもさらに前方、先行したアオイは敵陣の真っ只中を突っ切っていた。

 

 降り注ぐビームを持ち前の機動性で避けつつビームサーベルで敵陣に躊躇無く斬り込んでいく。

 

 「そこを通せ!」

 

 光剣でグフの胴体を横薙ぎに斬って捨てる。

 

 そして砲撃を撃ち込んできたザクをシールドに内蔵されたビームガンで一蹴した。

 

 「数だけは多い! けど怯んでられないんだよ!!」

 

 持ち替えたビームライフルで狙撃する。

 

 その間も決して動きを止める事はない。

 

 止まればあっさり囲まれてしまうからだ。

 

 周囲の敵モビルスーツから撃ち込まれるビームの雨。

 

 それを絶妙のタイミングで回避しながら、ライフルとサーベルを巧みに使い分け敵陣を切り開いていく。

 

 「あの機体を止めろ!」

 

 「速い!?」

 

 尽く攻撃を避けていくエクセリオンをどうにか落そうと砲口を向け、狙いを定める

 

 だがパイロットはトリガーを引く事が出来ない。

 

 単純にエクセリオンの速度に追いつけないというのもあるが、戦場は乱戦となっている。

 

 迂闊な射撃を行えば味方を誤射してしまいかねないのだ。

 

 アオイが迷う事無く敵の懐に飛び込んだ理由がこれだ。

 

 リスクも高いが、遠距離から嬲り殺しにされるよりはマシだと判断したのである。

 

 「これじゃ撃てない!」

 

 「ならば接近戦で!」

 

 ゲイツをあっさり斬り飛ばしたエクセリオンに最大限の警戒をしながらザクとグフがビームトマホークとビームソードを構えて背後から襲いかかる。

 

 だがそれでもエクセリオンは捉えられない。

 

 攻撃が直撃する前に上昇。

 

 背後に回り込むと両手に構えたブルートガングⅡでバラバラにして解体した。

 

 それを見ていた者達は戦慄する。

 

 通常ではあり得ない反応だった。

 

 背後からの一撃を容易く避け、さらに撃破してみせたその力は尋常ではない。

 

 「あれでナチュラルなのかよ……」

 

 「……ひ、怯むな! 数で押せば―――」

 

 檄を飛ばそうとした隊長機は側面から放たれたビームによって吹き飛ばされてしまった。

 

 「なん―――うああああ!?」

 

 別方向からの攻撃に為す術なく撃破され、火球に変えられていくザフトのモビルスーツ隊。

 

 彼らを攻撃していたのは、動く砲台ガンバレルである。

 

 「大佐!」

 

 アオイの視線の先には背中に装備されたガンバレルストライカーⅡを巧みに操るイレイズMk-Ⅱの姿があった。

 

 「少尉、大丈夫?」

 

 「はい。部隊の方は?」

 

 「推進器を伴ったウィンダム隊はヴィヒター部隊の護衛を受けながらこちらに向かっているわ」

 

 今のところは予定通りという事だ。

 

 ならばやる事は先程までと変わらない。

 

 「大佐、援護を頼みます! このままコロニーまでの道を開きますから!」

 

 「了解!」

 

 ガンバレルの援護を受けながらアンヘルを連射、敵部隊の陣形に穴を空けると再び敵の懐に肉薄する。

 

 「このまま―――ッ!?」

 

 直進していたエクセリオンのコックピットに警戒音がアオイの耳に届いた。

 

 その瞬間、上方から鞭を連想させる複雑な軌道を取る光鞭が襲いかかる。

 

 「なっ、これは!」

 

 この攻撃には覚えがあった。

 

 アオイは操縦桿を動かし機体を左右に振りながら、蛇のように食い下がるビームをやり過ごすと攻撃された方向に目を向ける。

 

 そこにはアルカンシェルとサタナキアが佇んでいた。

 

 戦場に到着したヴィートは目標の機体を見つけられた幸運を噛みしめ、自身の口元が緩むの感じていた。

 

 本当に運が良い。

 

 あっさりとアオイと遭遇できるとは思っていなかった。

 

 「見つけたぞ、アオイ!」

 

 抉られた目が疼くのを感じる。

 

 普通に考えれば左目が見えない以上、不利ではある。

 

 だがそれは訓練である程度克服している。

 

 後は自身の腕次第だ。

 

 ここで今までの屈辱を晴らす!

 

 「……ステラ、アオイ・ミナトは俺がやる。お前は他の邪魔な連中を排除しろ」

 

 ステラはヴィートの指示に顔を顰める。

 

 またその名だ。

 

 あのパイロットこそすべての元凶であり、議長に仇なす敵である。

 

 だが何故かその敵を憎む事が出来なかった。

 

  同時にまたもや起こった軽い頭痛に辟易しながら、その事実を考えないよう意図的にエクセリオンから視線を逸らす。

 

 「……了解」

 

 対艦刀アガリアレプトを構え、スラスターを全開で噴射しながらエクセリオンに突撃するサタナキア。

 

 それを見送ったアルカンシェルは近くの邪魔者、すなわちイレイズの排除に動きだした。

 

 ヴィートはアオイに攻撃を加えながら、それを横目で観察する。

 

 ステラがアオイから良くない影響を受けている可能性がある事はデュルクから言い含められていた。

 

 であればアオイのいない戦場に向かわせれば良いと思う。

 

 そこには何かしらの考えがあるらしい。

 

 だがそんな事はどうでも良い。

 

 要は自分がアオイをここで仕留めれば何の問題も無いのだから。

 

 「アオイ・ミナトォォォ!!!」

 

 サタナキアは怨嗟の籠った怒声と共に殺意の刃を目標に向かって振り下ろす。

 

 「くっ、しつこい! またお前か!!」

 

 「貴様を殺すまでどこまでも追い続けるさ!!」

 

 今日からこれまで何度屈辱を味わった事か。

 

 裏切り者であるアスト・サガミも許せない。

 

 だがアオイに対する憎悪はそれ以上のものである。

 

 「ここで貴様を殺す!!」

 

 これまでの怒りを、殺意を込めた刃がアオイを追いこんでいく。

 

 下がるエクセリオンを逃がさぬとばかりに、シールドに内蔵されたショットガンで牽制しつつ対艦刀を左右から何度も振り下ろした。

 

 「この!」

 

 斬撃がエクセリオンの装甲を掠め、僅かな傷を刻んでいく。

 

 アオイは対艦刀をシールドで弾き、アンヘルから持ち替えたビームサーベルを振る。

 

 だがヴィートはそれを余裕で捌くと、対艦刀の柄からビーム刃を発生させ斬り上げてきた。

 

 「チッ!」

 

 意表を突く形で放たれた一撃。

 

 アオイは機体を仰け反らせる。

 

 するとギリギリのタイミングで目の前をビーム刃が薙いでいった。

 

 しかしヴィートの表情は崩れない。

 

 かわされる事は予想範囲内であり、簡単に当たるとは思ってはいなかったからだ。

 

 忌々しい話だがこの程度の搦め手で倒せるならばとっくに他の誰かが倒しているだろう。

 

 今の一撃で隙を作れたなら成果としては十分だった。

 

 機体を仰け反らせたエクセリオンに左足を振り上げ、胴体を蹴りつける。

 

 「ぐぅ!」

 

 どうにかサタナエルの蹴りを止めたアオイだったが、大きく体勢を崩されてしまった。

 

 スラスターを使い後退しながらマシンキャノンを撃ち出し、距離を取ろうと試みる。

 

 だがヴィートはそれを許すつもりはなかった。

 

 「逃がすかァァァ!!!」

 

 体勢を立て直す暇など与えない。

 

 ビームランチャーを放ち、アガリアレプトのビームブーメランを投げつけて追撃を掛ける。

 

 「そんなものに!」

 

 サタナキアの猛攻を前にアオイも全く怯まない。

 

 進路を阻むように放たれたビームとブーメランを上昇して回避。

 

 サタナキアに向けて再びサーベルを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 「ここで落ちろ!!」

 

 「ふざけるな!!」

 

 お互いの機体が振るう刃が何度も激突を繰り返し、その度に火花が散る。

 

 アオイはイレイズに攻撃を仕掛けるアルカンシェルの方に目を向けた。

 

 あの機体に搭乗しているのはステラだ。

 

 おそらくここが彼女をザフトから助け出す最後のチャンスである。

 

 ならば―――

 

 「お前に構っている暇なんてないんだよ! そこをどけ!!!」

 

 「……なんだと」

 

 彼の脳裏に浮かんだのは白い機体クルセイドイノセントの姿。

 

 奴が口にした言葉はあの時―――ウラノス攻略戦の際にアストに言われた事と同じだった。

 

 こちらは歯牙にも掛けないとばかりに見下す言動と態度。

 

 決して許す事の出来ない仇敵。

 

 その姿がアオイとダブって見えた。

 

 ヴィートは歯が砕けるのではないかというほど強く噛みしめる。

 

 

 「貴様――――貴様も俺を虚仮にするつもりかァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 システム起動と同時に装甲が外側に向かって展開。

 

 翼になると全身から光が放出される。

 

 ヴィートの感覚が研ぎ澄まされ、殺意で濁った視界がクリアになった。

 

 「死ねェェェェェェ!!!」

 

 ヴィートの咆哮が宇宙に響き渡るとそれに応える様に機体も動き出す。

 

 放出された光が残像を発生させ、一気に速度を上げたサタナキアはエクセリオンに向かって襲いかかった。

 

 「速い!?」

 

 速度を上げて襲いかかってくる悪魔の機体にビームライフルを発射する。

 

 しかし加速するサタナキアを捉える事が出来ず、すり抜けていくだけ。

 

 「厄介な!」

 

 これはサタナキアの全身から放出されている光によって発生している光学残像による幻惑の為だ。

 

 これによって狙いがずらされてしまう。

 

 「はあああ!!」

 

 ヴィートはエクセリオンからの攻撃をすべて避け、対艦刀を横薙ぎに振るった。

 

 矢継ぎ早に叩きこまれる対艦刀がエクセリオンを追い詰め、傷を作り上げていく。

 

 一撃振るわれる度に抉られ、一撃薙ぐ払われる事に装甲が斬り飛ばされる。

 

 鋭く速い必殺の斬撃。

 

 一太刀でもまともに受けたら撃破されてしまうだろう。

 

 「くそ、大佐、ステラ!!」

 

 肩に装備されたマシンキャノンを連射しながら、牽制を行いサタナキアを引き離そう試みる。

 

 しかしヴィートは撃ちかけられるマシンキャノンに全く意を返さずたた正面から攻めていく。

 

 逃げる気はないと言わんばかりに。

 

 「貴様は何度も、何度も、邪魔ばかりを!!」

 

 対艦刀の一振りを鮮やかにシールドで受け止めるアオイの姿にさらなる憎しみが湧きあがった。

 

 盾ごと斬り裂かんとアガリアレプトを力任せに押し込んでいく。

 

 「ぐぅ!」

 

 「議長が創られる世界に貴様の居場所など無いんだよ!! ここで死ね、アオイ! それこそが正しい結末だ!!」

 

 刃を防ぐエクセリオンに対艦刀を下段から振り上げ弾き飛ばすと止めを刺さんと前に出る。

 

 ヴィートの猛攻を前にアオイは余裕も無く、防戦一方に追い込まれていった。

 

 

 

 

 周囲を照らす火球を生みながらアオイとヴィートが激闘を繰り広げている。

 

 すぐ傍でガンバレルを操り味方の援護に徹していたルシアの前に黒き虹が立ちふさがっていた。

 

 「……ステラ」

 

 あの機体にステラが乗っている事はルシアも当然把握している。

 

 彼女を奪還するにはまたとない機会ではある。

 

 だが、些か問題があった。

 

 それが機体性能の差だ。

 

 アルカンシェルの性能がルシアが搭乗してイレイズMk-Ⅱを上回っている事は間違いない。

 

 改修されたカオスでさえ太刀打ち出来ずにボロボロにされてしまったのだから。

 

 「助ける前に私がやられてしまったら何の意味もないわね」

 

 方針としては簡単だ。

 

 あの機体を破壊してステラをコックピットから降ろせば良い。

 

 それが難しい訳であるが―――

 

 「やるしかない」

 

 援軍は全く当てにできず、時間もあまり掛けていられない。

 

 だがアルカンシェルの方も準備は万端らしく、装甲が展開され光が放出されている。

 

 一気に勝負を決めるつもりらしい。

 

 「そう簡単には!」

 

 覚悟を決めたルシアは操縦桿を握り直し、向ってくるアルカンシェルに距離を取る。

 

 しかしそれも無意味と言わんばかりに宇宙を薙ぐ閃光がアルカンシェルの収束ビームガンから放たれた。

 

 「落ちろ!」

 

 機体を捻り、掠る程度に攻撃を凌いだルシア。

 

 だが次の瞬間、一息の内に間合いを詰めたアルカンシェルが左手の爪を突き出し食らいついてくる。

 

 袈裟懸けに振り抜かれたビームクロウが眼前に迫る。

 

 収束ビームガンで崩された今の体勢では回避は間に合わない。

 

 光爪が機体に直撃する前にシールドを割り込ませ、どうにか防ぐ事に成功する。

 

 しかしタイミングが若干遅かった為、盾上部を抉られてしまった。

 

 「はああああ!」

 

 「くっ、まともに受けていては!」

 

 ただでさえ性能差が大きく、真っ向勝負では分が悪すぎる。

 

 アルカンシェルを囲むように展開されたガンバレルが四方から砲撃を繰り出した。

 

 しかしすでにI.S.システムを作動させているステラは冷静に分離された砲台からの攻撃を対処して見せた。

 

 「甘い!」

 

 ビームを捌き、装甲内に搭載された三連装ビーム砲であっさりとガンバレルの一つを撃破したのだ。

 

 「そんなもので!!」

 

 「ッ!?」

 

 ルシアは即座に砲台を戻し、タスラムによる攻撃へと切り替える。

 

 別に甘く見ていた訳ではない。

 

 データも確認していたし、同等の性能を持った機体とも戦ってきた。

 

 だがこうして相対すると相手の厄介さが身に染みて分かるというものだ。

 

 しかし相手に驚いていたのはステラも同じ事である。

 

 「思った以上に強い」

 

 機体性能に差がありながらも、ここまで粘るとは。

 

 真っ先に仕留めに掛かったのは正解だった。

 

 ガンバレルの動きも見事、並のパイロットではこいつの相手は務まらない。

 

 敵の技量を上方修正したステラは光学残像を発生させながら再び肉薄する。

 

 距離を取られたところで十分に対処は可能。

 

 だが余計な事をされるのも面倒である。

 

 ならばより有利な近接戦を仕掛けた方が良い。

 

 「しぶといんだよ!!」

 

 素早く連続で叩き込まれる光爪を前にイレイズは堪らず後退していく。

 

 「逃がすか!!」

 

 クロウに内蔵されたビームキャノンで敵機の退路を塞ぎながら右手で握ったビームサーベルを横薙ぎに振り抜いた。

 

 「不味い!?」

 

 迸る剣閃。

 

 眼前に迫る刃にルシアはガンバレルを正面に射出する。

 

 サーベルの直撃によって斬り裂かれた砲台が二機を引き離すように爆発を引き起こした。

 

 「こんな目暗ましなどに―――ッ!?」

 

 視界を塞がれながら追撃しようとしたステラだったが、爆煙の中からビームサーベルを抜いて突っ込んできたイレイズに虚を突かれてしまう。

 

 機体を沈ませ、光刃を回避しようとするがルシアはそれを許さない。

 

 サーベルを逆手に持ち替えて振り抜くと展開された装甲を捉えて斬り裂いた。

 

 「ぐっ、貴様ァァァ!!」

 

 油断などなかった。

 

 にも関わらず損傷を受けるとはこのパイロットは只者ではない。

 

 ステラが振り向き様に叩きつけたビームクロウが凄まじい衝撃と共にイレイズの右脚部を破壊する。

 

 「くぅ、避け切れなかった!?」

 

 ビームライフルに持ち替え牽制しながら、すぐに機体状態を確認する。

 

 脚部の損傷は酷いが、戦闘に支障はない。

 

 しかし武装、バッテリー共に戦闘を続けていても、消耗していくだけである。

 

 どうにか状況を打開する為に思考を巡らせるが、ステラは追撃の手を休めない。

 

 「体勢を立て直す時間など与えるか!」

 

 アルカンシェルは残った片側の三連装ビーム砲を浴びせ、再びイレイズに接近戦を挑む。

 

 降り注ぐビームと光爪がイレイズの装甲を削り、一部スラスターを損傷させ追い詰めていった。

 

 「これで終わりだァァ!!」

 

 イレイズの前に死の爪が振りかぶられた。

 

 シールドを掲げているが構わない。

 

 「それごと押し潰せば良いだけだァァァ!」

 

 「くっ」

 

 ルシアも覚悟を決める。

 

 損傷を受けようともカウンターを決める為、サーベルを下段に構えた。

 

 二機が交差しようとしたその時、一機のモビルスーツがライフルを放ちながら戦場に飛び込んできた。

 

 「アイツは!?」

 

 ステラの視界に入ってきたのは以前の戦闘で散々邪魔をしてくれたカオスガンダム・ヴェロスであった。

 

 「スティング!?」

 

 今回の戦闘は参加せず、見送った筈だ。

 

 「どうして!?」

 

 「こんな時に寝てられるかよ!」

 

 損傷し動きが鈍いイレイズからビームライフルで敵機を引き離し、囲むようにミサイルを叩き込む。

 

 だがアルカンシェルの頭部から発射された機関砲により撃ち落されてしまった。

 

 「……また、お前かァァ!!」

 

 緑の機体を見た瞬間、再び襲う頭の痛み。

 

 それを堪え、右手を振り上げると収束ビームガンのトリガーを引いた。

 

 「ぐっ、この!」

 

 スティングは機体を急加速させ急激なGによってシートに押し付けられる。

 

 だが構う事はないと強行。

 

 複雑な軌道を取るビームの鞭を回避する為、無理な回避運動を取った。

 

 怪我の痛みを噛み殺しどうにか懐に飛び込んだカオスはアルカンシェルにビームサーベルを振るう。

 

 袈裟懸けの一撃が収束ビームガンを掠め、剣撃を連続で叩き込む。

 

 「調子に乗るな!!」

 

 損傷した武装を破棄し、光刃をシールドで受け止めたステラは反撃に移るためビームライフルを握った。

 

 しかしそこで通信機から敵の声が聞こえてくる。

 

 「まだ目が覚めないのかよ!」

 

 「……うるさい、黙れ!」

 

 脳裏に浮かぶビジョンと強くなる頭痛を堪え、聞こえてきた声に怒鳴り返す。

 

 苛立ちの元であるカオスを吹き飛ばし、ライフルを連射しながら追撃を掛けようと前に出た。

 

 しかし側面に回り込んでいたイレイズが射出したガンバレルの一射が装甲を掠めていく。

 

 「チッ!」

 

 驚異的な反応でスラスターを逆噴射させた事が功を奏し、ビームの直撃は免れた。

 

 しかしバランスを崩したこちらの隙を見逃さない。

 

 カオスが分離させたドラグーンユニットのビームカッターが四方から襲いかかる。

 

 「邪魔ァァァ!!」

 

 ステラはアンチビームシールドを投棄、機体を上昇させてビームカッターを回避するとビームキャノンで狙い撃つ。

 

 光爪から放たれた閃光が飛びまわるドラグーンユニットをまとめて撃破、大きな火球を生み出す。

 

 同時に三連装ビーム砲でカオスに狙いをつけた。

 

 連射されるビーム砲がカオスのシールドを吹き飛ばし、背中に装備されたミサイルポッド兼用スラスターを抉られてしまう。

 

 「くそ!」

 

 スティングは咄嗟にスラスターユニットをパージ、そのすぐ後に起こった爆発を何とか避けた。

 

 しかし怪我の影響もあってか、カオスの動きは以前よりも鈍い。

 

 ステラが普通の状態であればそれを突く事も出来ただろう。

 

 しかし今の彼女にはそれに気づける余裕はなかった。

 

 「くぅ……何なんだ……このビジョンは?」

 

 ステラは頭痛に顔を歪めながら、思わず頭を抱え込む。

 

 脳裏にはまたあの映像だ。

 

 知らない場所にいる、知らない筈の少年達が浮かんできた。

 

 いや、本当に知らないのか?

 

 「……私は……」

 

 そんなステラの状態に気がついたのか、ここぞとばかりに声をかけてくる。

 

 「ステラ、正気に戻りなさい!!」

 

 うるさい!

 

 「そうだ! さっさと目を覚ませよ!」

 

 うるさい、うるさい!!

 

 「うるさい!! 黙――――」

 

 「アオイの事を思い出せ! あいつはずっとお前を助けようとしてたんだぞ!」

 

 アオイ?

 

 アオイ・ミナトが私を―――

 

 その瞬間、どこかの海で自分と少年が話をしている姿が見えた。

 

 

 「ステラァァァ!!」

 

 

 サタナキアから距離を取ったエクセリオンから自分を呼ぶ声が響き渡る。

 

 

 「うああああああああ!!」

 

 

 I.S.システムよる戦闘の強制とスティング達の声。

 

 浮かびあがってくる映像。

 

 記憶にない筈の光景と敵の声から逃れようとビームキャノンを掲げる。

 

 だが―――

 

 「スティング!」

 

 「させるかよ!」

 

 ルシアの放ったタスラムがビームキャノンの砲撃をずらし、その隙に飛び込んだスティングがビームサーベルを砲口に突き刺した。

 

 凄まじいまでの火花が散り、ビームクロウが爆発と共に破壊される。

 

 反射的に武装を分離させた事が幸いしてか、アルカンシェルの損傷は少ない。

 

 だがその衝撃でステラは完全に意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 「ステラ!?」

 

 エクセリオンと刃の応酬を繰り広げていたヴィートの視界に沈黙したアルカンシェルの姿が見えた。

 

 ステラからは何の反応も無く意識を失っているらしい。

 

 あんな雑魚共に後れを取るとは―――

 

 「役立たずが!!」

 

 満足に役目を果たせないステラに対し激しい怒りが湧きおこる。

 

 しかし今重要なのはそこではない。

 

 このままではアルカンシェルが鹵獲されてしまう可能性がある方が問題だった。

 

 「仕方がないな」

 

 ウイングスラスターの推力で加速しながらビームサーベルを叩きつけてくるアオイをビームショットガンで牽制。

 

 アガリアレプトを投げつけ、動きを鈍らせたエクセリオンに蹴りを入れる。

 

 距離を取ったヴィートはアルカンシェルに向けビームランチャーを構えた。

 

 「……機密保持だ。地球軍に鹵獲させる訳にはいかない。せめてもの情けだ。一撃で楽にしてやる」

 

 蹴りの一撃から体勢を立て直したアオイはサタナキアがアルカンシェルを狙って射撃体勢に入っている事に気がついた。

 

 「まさか、ステラを狙って―――やめろォォォォォ!!!!」

 

 思いっきりフットペダルを踏みこんで加速する。

 

 しかし距離が詰まらない。

 

 間に合わない。

 

 「死ね、ステラ」

 

 ヴィートはターゲットをロックし、トリガーを引いた。

 

 ビームキャノンから撃ち出された閃光がアルカンシェルを狙って突き進んでいく。

 

 

 

 「ステラァァァァァ!!!」

 

 

 叫ぶアオイを無視し、宇宙を薙ぐビームの光は無慈悲なまでに止まらない。

 

 

 その時、ビームとアルカンシェルの間に割り込む影があった。

 

 

 それは―――ステラを守る様に立ちふさがり、盾となったカオスだった。

 

 「何!?」

 

 「スティング!?」

 

 ビームの直撃を受け、閃光が視界を塞ぐ中スティングは仕方なさそうに呟く。

 

 「たく……世話の……掛かる奴」

 

 だが何故か嫌な感じはまったくなかった。

 

 まるでいつもこうやって世話を焼いていたような―――

 

 「……ア、オイ……負けんじゃ……ねえぞ」

 

 そして光に包まれた瞬間、確かに見た。

 

 アオイやスウェン、ネオと言った面々と共に金髪の少女と皮肉っぽく笑っている青い髪をした少年。

 

 そして自分が一緒にいる姿を。

 

 それを見たスティングは穏やかな笑みを浮かべ静かに目を閉じた。

 

 「スティングゥゥゥ―――!!!」

 

 カオスの爆発と共にアオイの叫びが宇宙に響く。

 

 「チッ、雑魚が!!」

 

 ヴィートは忌々しげにカオスの残骸に吐き捨てると再びアルカンシェルに狙いをつける。

 

 だが―――

 

 「やらせるかァァァァ!!!」

 

 「邪魔だ、アオイィィ!!」

 

 ヴィートは残った対艦刀を構え、突撃してきたエクセリオンを迎撃する。

 

 「お前は俺が―――ここで倒す!!」

 

 アオイのSEEDが弾ける。

 

 研ぎ澄まされた感覚が全身に行き渡り、操縦桿を握る指先に力が籠った。

 

 対艦刀の一撃を避け、袈裟懸けにサーベルを叩きつけた。

 

 振り抜かれた一閃がサタナキアの片翼を斬り裂き、返す刀で振るった斬撃が肩部の装甲を破壊する。

 

 「何!? この!!」

 

 衝撃に呻きながらも距離を取ったヴィートはビームライフルを連射する。

 

 しかし動き回るエクセリオンを捉えられない。

 

 こちらの射撃を尽く避け肉薄してくる敵機の姿にヴィートは歯噛みしながら吐き捨てる。

 

 「馬鹿な! こちらはI.S.システムを使っているというのに、何故当たらない!?」

 

 いかに左目が見えないとはいえ、掠める事もできないとは!

 

 アストと戦った時もそうだ。

 

 あの時も全く捉える事が出来なかった。

 

 そこで一つの考えが頭に浮かぶ。

 

 アオイもSEEDを―――

 

 その考えを振り捨てる様にヴィートは叫びを上げた。

 

 「ふざけるな! 俺がアオイ・ミナトなどに負けて堪るか!!」

 

 攻撃を回避するエクセリオンの後を追いながらビームランチャーで動きを誘導しアガリアレプトを構えて突撃する。

 

 しかしそれがヴィートの命取りになってしまった。

 

 敵機の懐に飛び込もうとしたその時、コックピットに甲高い警戒音が鳴り響く。

 

 見える位置からは何も来ない。

 

 なら―――

 

 「なっ、左からか!?」

 

 確かめようとしたヴィートの目にエクセリオンが持っている物が見えた。

 

 それは先程、ヴィートが投げ捨てたアガリアレプトだった。

 

 アオイは先程までの攻防でいつの間にかこちらが投げた武装を拾っていたのだ。

 

 しかも持ち手のブーメランが確認できない。

 

 答えを得たヴィートは機体を引こうと試みる。

 

 しかしそれが間に合う筈も無く、サタナキアの左腕はブーメランによって斬り裂かれてしまった。

 

 「ぐっ、貴様ァァァァ!!」

 

 「これでェェェ!!」

 

 もうすぐSEEDの限界時間。

 

 しかしアオイは焦らず、いつも通りに機体を操作する。

 

 腕を斬られバランスを崩したサタナキアにエクセリオンは一気に距離を詰め、アガリアレプトで胸部を貫く。

 

 そしてシールドで突き放し、アンヘルを構えてトリガーに指をかけた。

 

 「落ちろ!!」

 

 「ふざけるな!!」

 

 ヴィートがアガリアレプトのブーメランを引き出し、エクセリオン目掛けて投げ付けると同時にアンヘルから強力なビームが発射される。

 

 エクセリオンに迫ったブーメランが曲線を描き、片側のウイングスラスターを斬り裂く。

 

 だがアンヘルの一射は逸れる事無くサタナキアに向け突き進んでいく。

 

 「俺が貴様などに――――!!!」

 

 アンヘルの閃光を前に腕を突き出し、シールドを構えるヴィートだったが些か遅かった。

 

 強力なビームの奔流がサタナキアを呑みこんでいく。

 

 

 「アオイィィィィィ!!!!!」

 

 

 ただ怨嗟の叫びをぶつけ―――ヴィートの視界は白く塗りつぶされた。

 

 

 「ハァ、ハァ、くそォォ!!……スティング」

 

  

 アオイは荒く息を吐きながら思わずコンソールを殴りつける。

 

 浮かんでくるのは出会ってからここに来るまでの思い出だった。

 

 色々あったけど、紛れもなく大切な出来事ばかりだ。

 

 憤りと叫び出したい騒動を押えこみ涙を堪えて、頭を振った。

 

 今は泣いてる時じゃない。

 

 周囲を見ると味方部隊がコロニーに取りつき、大型推進器を取り付けているのが確認できる。

 

 なんとか作戦は成功であった。

 

 アオイはバイザーを上げ再び溢れる涙を拭き、動く機体を操作するとルシア達の方へ向って行った。

 

 

 

 

 すべてのコロニーでの戦いが佳境に入ったその頃、メサイアの近くに待機していた巨大戦艦アポカリプスも動き出していた。

 

 戦艦に設置されたスラスターが働き体勢を整え、防衛の為の部隊は引き下がると何の障害も無くなる。

 

 

 今アポカリプスで行われようとしているのは主砲の発射。

 

 狙いは―――配置されたコロニーである。

 

 

 砲口に光が集まり一瞬の静けさの後、凄まじいまでの閃光が宇宙を照らし薙ぎ払っていった。




すいません、仕事が忙しくて小説書いている暇がなく遅くなってしまいました。
仕事上、盆も正月もないもので、年明けの休みも元旦だけで二日から仕事になります。ですので次も遅くなってしまうかもしれません。書きあがり次第投稿しますのでよろしくお願いします。

おかしな部分はいつも通り、後日加筆修正します。

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