機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第56話  女達の激闘

 

 

 

 

 「フリーダムガンダム!!!」

 

 獣のごとき咆哮が響き渡ると怒りが吐き出されるようにライフルから閃光を迸らせる。

 

 その標的になったのはマユの駆るトワイライトフリーダム。

 

 スレイプニルを装着したトワイライトフリーダムは後退しつつビームをやり過ごした。

 

 「どうした、マユ・アスカ! 逃げるだけか!!」

 

 「貴方は!」

 

 腕に装備された実体剣ノクターンをせり出し連続で叩き込まれたビームをすべて斬り飛ばす。

 

 そして攻撃してきた敵―――メフィストフェレスに対して反撃を試みた。

 

 「いけ!」

 

 だがメフィストフェレスに搭乗しているシオン・リーヴスは避ける素振りも見せず口元に笑みを浮かべる。

 

 「やれ!」

 

 「了解」

 

 正面にオハンを装備した三機のシグーディバイドがシールドを開き、フリーダムの攻撃をすべて防御して見せた。

 

 「なっ!?」

 

 見事な連携によって完璧に攻撃を防がれた。

 

 だが驚くべきはあの新装備である。

 

 あれだけ大きなシールドを展開出来るとなると正面からの力押しでは分が悪い。

 

 「マユ!?」

 

 ザクをビームサーベルで斬り捨てたシンが援護に駆けつけようとマユの下に向う。

 

 だがそんな事を許すほどシオンは甘くはなかった。

 

 「前にも言った筈だ。お前には興味がないと」

 

 「何だと!」

 

 言葉通り何の興味も無いと言わんばかりのシオンの声がシンの神経を逆なでする。

 

 アストやマユから碌でもない奴という事は聞いていた。

 

 でもこうして話していると良く分かる。

 

 挑発気味に煽ってくる為、余計に苛立ちが募ってくる。

 

 話以上に嫌な奴らしい。

 

 「標的はマユ・アスカのみ。お前は下がっていろ!」

 

 「くっ!?」

 

 リヴォルトデスティニーに背中を向けたまま『ルキフグス』の砲撃で引き離し、トワイライトフリーダムにビームサーベルを叩きつけた。

 

 強力なビーム刃が袈裟懸けに振るわれ、さらに下から斬り上げる形で立て続けに斬撃を放つとスレイプニルを装甲を浅く抉っていく。

 

 「さっさと本気で来たらどうだ。コロニーに気を取られていると、あっさり殺してしまうぞ」

 

 シオンにとって待ちに待った瞬間である。

 

 こんな簡単に終わってはつまらない。

 

 あくまでも本気になった彼女を叩き潰してこそ、意味があるのだ。

 

 「よりによってこんな時に!」

 

 マユは敵機の斬撃を捌きつつチラリと視線を横に向ける。

 

 そこにはゆっくりではあれど確実に前に向う四つの物体。

 

 本来なら人が住むべきコロニーは凶器となって目標を押しつぶさんと歩を進めていく。

 

 いつまでもこうしてはいられない。

 

 後続は徐々に近づいているからだ。

 

 マユとてシオンとは因縁がある。

 

 決着をつけたいのは山々ではあるが、今は作戦の方が優先だった。

 

 メフィストフェレスから放たれたビームランチャーの一撃をシールドで受け止めたマユは即座に決断を下す。

 

 「兄さん、作戦変更です!」

 

 モニターに向けて声を上げると同時に操作するとスレイプニルをパージ、シオンの虚を突く形でエレヴァート・レール砲を叩き込んだ。

 

 「分かった!」

 

 マユの言葉の意味をすぐに理解したシンはモニターに頷き返すと、シグーディバイドを弾き飛ばしスレイプニルを分離させて斬艦刀を抜き放つ。

 

 二人がスレイプニルをパージしたのには理由がある。

 

 こうなる事はある程度予測できていた。

 

 どの場所もかなりの数の敵に阻まれるのは間違いないと。

 

 その為事前にディアッカ達の力を借り、敵戦力を調査、それぞれの場所に合わせた戦力を配置されていた。

 

 シオンのような強敵相手に戦う事になるのはコロニーを突破した後だと思っていたので、ここで立ちふさがるとは考えていなかったが。

 

 マユ達が向ったコロニーには他の場所よりも多くの部隊が展開されている。

 

 これはザフト機動要塞に比較的近い場所だったからだろう。

 

 だからそれを見越した同盟軍も多くの戦力を投入しているのである。

 

 つまりこちらは他の部隊と違って幾分余裕がある為、二人は味方の部隊が戦域に到着する前に敵を削るよりもシオン達を抑える方に作戦を変更したのである。

 

 それでもスレイプニルを捨てるような状況にならないに越したことは無かったのだが―――

 

 ともかくアークエンジェルが率いた艦隊がもうすぐ到着する。

 

 その時、邪魔をさせない為にこいつらを抑え込む事が先決。

 

 「これ以上好きにさせるかァァ!」

 

 翼から放出した光が残像となってリヴォルトデスティニーの姿を幻惑させながら、シグーディバイドに肉薄。

 

 コールブランドを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 必殺ともいえる斬撃。

 

 しかし放った斬艦刀の刃は敵機の腕に装着された盾オハンよって阻まれてしまう。

 

 「この!」

 

 例のI.S.システムの所為かは分からないが、コールブランドを受け止めた反応には驚いた。

 

 だがそれで止まるシンではない。

 

 「はああああ!!!」

 

 スラスターを噴射させながら刃を力一杯押し込み、相手がバランスを崩した所に蹴りを叩き込む。

 

 その隙にスラッシュビームブーメランをビームランチャーで狙撃しようとしていたシグーディバイドに投げつけた。

 

 回転しながら迫る光刃が正確にビームランチャーを捉え砲身を斬り裂いた。

 

 トワイライトフリーダムと斬り合いながら、その様子を見ていたシオンは思わず舌打ちする。

 

 「チッ、人形が。満足な足止めもできんのか」

 

 二機のシグーディバイドを弾き飛ばし、残った一機の砲撃を回転して避けながらシンが斬艦刀を振るってきた。

 

 「マユに手は出させない!」

 

 「ふん、何度も言わせるな。貴様に用など無い!」

 

 トワイライトフリーダムを突き飛ばし、上段から振り下ろされたコールブランドの一撃を防いだシオンはパルマフィオキーナ掌部ビーム砲を構えた。

 

 「ッ!?」

 

 あれはジェイルのデスティニーに搭載されていた武装!?

 

 アレの威力は真近で見ている。

 

 直撃を食らえば間違いなく致命傷になる。

 

 シンはシールドで突きだされた腕を上に弾くとパルマフィオキーナ掌部ビーム砲が頭上に放たれた。

 

 回避に成功したシンは即座に下段に構えていたコールブランドを振り上げようとした。

 

 その瞬間、何か動く物体を目の端に捉えた。

 

 そう、シオンはすでに次の手を打っていたのである。

 

 事前に背中から分離させていたビームクロウを側面に回り込ませ、三連装ビーム砲を撃ち込んできたのだ。

 

 「兄さん、左です!」

 

 「くそ!」

 

 飛び退くように距離を取りつつビームシールドでビーム砲の連撃を防御する。

 

 言うだけあって強い。

 

 今の攻撃も反応が一歩でも遅れていたら、撃墜されていた。

 

 奴は動きも速く、攻撃も鋭い。

 

 話によれば前大戦時において特務隊に所属していたらしいが、その実力は伊達ではないようだ。

 

 リヴォルトデスティニーを振り払ったメフィストフェレスは再びトワイライトフリーダムに攻撃を仕掛けようとしているのが見えた。

 

 「やらせないって言ったろ! お前なんかにマユを傷つけさせるか!!」

 

 敵機を追おうとしたシンの前に立ちふさがる防衛部隊。

 

 舌打ちしながらビーム砲で薙ぎ払うと、メフィストフェレスを追うためにフットペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 各コロニーでの同盟軍の奮闘は続く。

 

 ザフトの防衛部隊の猛攻を捌き、待ちかまえていたエース級のパイロットと激突。

 

 それでも各自の奮戦あってか徐々に防衛部隊を押し返し、コロニーに近づいていった。

 

 激戦が続く中、コロニーに向かっていたレティシアはリースのベルゼビュートと対峙していた。

 

 個人的な感情を無視しても、現状を鑑みれば戦いは避けたいところだ。

 

 しかし目の前にいる相手はそれを許すような相手でない事はこれまでの経験から嫌というほど分かっている。

 

 そんな彼女の相手だけでも非常に面倒な訳だが、事態をさらに深刻にしていたのはその背後に控えていた存在であった。

 

 オレンジ色の装甲が特徴の機体。ハイネのヴァンクールである。

 

 「リース・シベリウスだけでなく、あの機体まで」

 

 ヴァンクールの性能は一度交戦した経験のある二人には良く分かっている。

 

 パイロットの腕も含めて紛れも無い強敵だった。

 

 「レティシア、どうしますか? 彼女は私が相手をしても―――」

 

 ラクスの気遣いに自然と笑みが浮かぶ。

 

 確かに戦いたくない相手ではあるが、放っておく訳にもいかない。

 

 仮にこの戦いを避けられたとしても、次にリースが狙うのは間違いなくマユである。

 

 ならばここで決着をつけるべきだ。

 

 「……いえ、心配には及びません。ラクスはもう一機を頼みます」

 

 「分かりました」

 

 腰のビームサーベルを抜き、両手で構えるとベルゼビュートに向き合った。

 

 そんなヴァナディスの様子を見たリースもまた自然と口元がつり上がる。

 

 先ほどのレティシアとの違いがあるとすればその表情がどこまでも残酷な笑みであった事だろうか。

 

 待っていた。

 

 この瞬間を、どれ程待ち望んでいただろうか。

 

 そもそもこの女はあの時、蒼き翼を翻す死天使と共に叩き落としてやった筈だった。

 

 にも関わらずしぶとく生き延び、こちらの邪魔ばかりをしてくる。

 

 激しいまでの怒りがこの身に激しい炎を灯し、相手に対する殺意に変わっていく。

 

 「……ハイネ。分かってるよね?」

 

 殺気の籠ったその声に、流石のハイネも顔を顰めた。

 

 要は「邪魔をすれば殺す」と言っているも同然であったからだ。

 

 これが部下達だったら一言物申したかもしれないが、生憎リースは自分と同じく特務隊である。

 

 命令権はないし、何を言っても無駄だろう。

 

 「ハイ、ハイ、どうぞ、ご自由に。じゃ、俺はジャスティスとやらせてもらう」

 

 投げやりに答えながらハイネは内心ため息をついた。

 

 命令とはいえ、今のリースと作戦行動を取らないといけないとは。

 

 「……疲れる。たく、恨むぜ、アレン」

 

 アストがいれば多少は彼女もマシになっていたかもしれないというのに。

 

 リースに聞こえない様に今は離れてしまった戦友に軽く毒づくと、気を引き締めるように操縦桿を握り直す。

 

 「まあこれも仕事だ!」

 

 それに借りもある。

 

 初めて戦った時は消化不良だったから、決着をつけるには丁度良い。

 

 頭を切り替えたハイネはアロンダイトを抜いてジャスティスに斬りかかった。

 

 ヴァンクールが上段から振りかぶってきた光刃をラクスは近接戦用ブレードで受け止める。

 

 「前の決着つけさせてもらうぜ!!!」

 

 「簡単にはいきません!」

 

 お互いに振るった剣が敵を斬り裂かんと狙う一撃を阻み火花を散らす。

 

 こうして刃を交えるのは二度目。

 

 相手にとって不足はない。

 

 撹乱するつもりなのか高速で動き回るヴァンクールに発射したミサイルが背後から迫っていく。

 

 しかしハイネは焦らず、振り向き様に頭部のCIWSですべてのミサイルを撃墜。

 

 残像を伴いながら懐に飛び込みアロンダイトを横薙ぎに叩きつけた。

 

 「速い!?」

 

 あれだけの速度を出す相手にスレイプニルを装着した状態での高速戦闘は不利。

 

 受けに回ればあっさり追い詰められる。

 

 横から迫る光刃をブレードを盾にして防ぐと同時に手を放し、ブレードの裏から蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!」

 

 「そこ!」

 

 体勢を崩したヴァンクール諸共ブレードを狙って大口径ビームキャノンを叩きこむ。

 

 砲口から迸る強力な閃光によって撃ち抜かれたブレードは激しい爆発を引き起こした。

 

 通常の機体であればこれで倒せるだろう。

 

 だがラクスの表情は固いままだ。

 

 油断なく腰のビームサーベルを連結し、爆煙の中に突撃していく。

 

 それが答えだ。

 

 あの程度でやれるはずはないという確信がラクスにはあった。

 

 そして予想通り、ヴァンクールは無傷で煙の中から飛び出してくる。

 

 おそらくビームが直撃する前に、シールドを張って防御したのだろう。

 

 「流石だな! それでこそだぜ!!」

 

 「やはり手強いですわね」

 

 両者共に剣撃をぶつけ合い、目の前の敵を倒すために激突する。

 

 その度に宇宙は眩い光に照らされていった。

 

 

 

 

 ヴァンクールとインフィニットジャスティスの攻防が行われている中、レティシアもリースと交戦を開始しようと武器を構える。

 

 「レティシア、しつこかったけど今度こそ貴方を殺せる。次はマユ。二人を始末した後、ようやくアレンを迎えにいける」

 

 「……はぁ、相変わらずですか。一応聞いておきます。どうしてそこまでアスト君に拘るのですか?」

 

 何が気に入らないのかリースから発せられる殺気が一段と増した。

 

 「アレンの本名を呼ぶなんて……まあいい。どうせ殺すのは変わらない。―――アレンは、私の理想だから」

 

 「理想?」

 

 「そう。前大戦の英雄であり、その技量も、人格もすべてが私の理想の人。だがら貴方達みたいな害虫がうろついているだけで――――目障り」

 

 いま語った通りアレン・セイファートという人物はリースにとっての理想の存在。

 

 故にその理想を汚し、纏わりつく害虫はすべて駆除する。

 

 それこそが自分の役割であると彼女は決めていた。

 

 「なるほど」

 

 つまり彼女はアストに自分の理想を見たという事なのだろう。

 

 ある意味、非常に面倒で―――哀れだ。

 

 何故なら彼女は夢に浮かされているようなものなのだから。

 

 前から分かっていたが説得は無駄だ。

 

 彼女には何を言っても伝わらない。

 

 でもこれだけは言っておかなければならない。

 

 「貴方の事は分かりました。私からも一つ言っておきます」

 

 「何?」

 

 嘲るような声色でその続きを促す、リース。

 

 どんな事を言われようと結果は変わらないのだと言わんばかり。

 

 だが次の瞬間、雰囲気が一変する。

 

 「……貴方は彼を理解していない。彼は貴方が思っているような人ではありませんから」

 

 「は?」

 

 リースの表情が一段と剣呑になる。

 

 まさに一触即発、次の言葉次第ですぐにでも開戦となるだろう。

 

 だがレティシアは言葉を止める気などなかった。

 

 あえて明るく声を出し、話を続ける。

 

 「ああ見えて悪いところもたくさんあります。例えば結構頑固なところもありますし、全部自分の中に抱え込んで相談もしないし。他にも身長気にしてる癖に朝は食事取らずにミルクしか飲まない事とか」

 

 「何を……言ってるの?」

 

 リースの中に自分でも分からない感情が膨れ上がってくる。

 

 「そして一番悪いのが人の好意に鈍感過ぎるんですよね」

 

 マユの事とかその最たるものだろう。

 

 レティシアやラクスは当然、妹のように思っているマユの感情にはとっくに気がついていた。

 

 反面アストはまるで気がついていなかったのだ。

 

 色々思い出すとムカムカしてきた。

 

 出撃前に一発殴っておけば良かったかもしれない。

 

 これは彼自身の生まれや境遇も関係しているのだろう。

 

 「多分貴方が彼をどう思っているとか、何にも気がついてないですよ」

 

 その言葉を聞いた途端、リースは今まで自身の中に溜まっていた何かが限界にきたのを感じた。

 

 「……黙れ」

 

 「何より彼は自分を英雄だなんて思っていません」

 

 前大戦から見ていたレティシアは良く知っている。

 

 彼が銃を取った理由を。

 

 失ってしまったものの為、誰も死なせたくないと必死になっていた事を。

 

 「彼が銃を取ったのは―――『自分の大切な人達を守る』ただそれだけなんです」

 

 「黙れェェェェェェェ!!!!!」

 

 殺す!

 

 怒りを吐き出すように憎き仇敵ヴァナディスに向け両肩のビームキャノンを撃ち出した。

 

 しかしビームが敵に届く前に、事前に配置されていたアイギスドラグーンの防御フィールドによって弾き飛ばされてしまった。

 

 「邪魔ァァァ!!」

 

 それはすでに把握している。

 

 接近しながら背中のミサイルポッドを放出。

 

 その隙に回り込んだリースは腕部のビームソードを展開して振り抜いた。

 

 「くっ!」

 

 レティシアは操縦桿を力一杯引き、後退しながら正面から迫るミサイルを撃墜。

 

 近接戦用ブレードでビームソードを弾き飛ばす。

 

 弾け合う二機。

 

 しかしそれでは終わらず、攻防は続く。

 

 リースが止まる事無く攻勢に出たからだ。

 

 爆煙に紛れ、腰から分離させたビームクロウから撃ち出したビーム砲がヴァナディスに放たれた。

 

 アイギスドラグーンの位置は把握済み、到底防御は間に合わない。

 

 だがそれもレティシアがギリギリのタイミングで回避運動を取った事でスレイプニルの装甲を抉っていくのみで終わってしまう。

 

 虚を突いた形になった今の攻防。

 

 奇襲に近かったにも関わらず、上手くいかなかったのはリースの技量の所為ではない。

 

 防ぎきったレティシアを称賛すべきだろう。

 

 しかしそれでもリースは止まらない。

 

 「はあああ!!!!」

 

 両腕のビームソードを構え、肩のビームクロウを分離させる。

 

 腰のビームクロウを合わせ、四つの爪がヴァナディスを穿たんと襲いかかった。

 

 「ドラグーン!?」

 

 レティシアは四方からの攻撃に絶え間なく操縦桿を動かし砲撃を避け、動き回るビームクロウを狙撃する。

 

 砲口から発射された強力な閃光が正確にビームクロウに迫った。

 

 高い空間認識力を持つレティシアにとってドラグーンの動きを把握し、動き回る砲塔を撃ち落とす事は難しい事ではない。

 

 しかもビームクロウはかなりの大きさだ。

 

 狙いをつけて外す事も無い。

 

 だが予想外にもビームクロウは健在だった。

 

 何故ならビームが直撃した瞬間、撃ち抜く事無く弾かれてしまったからだ。

 

 「なっ、ビームを弾いた!?」

 

 そこでレティシアは思い出した。

 

 前大戦時、アスランが搭乗していたモビルスーツ『イージスリバイバル』の事を。

 

 あの機体に搭載されていたドラグーンにはシールドが内蔵され、ビームライフルでは破壊する事ができなかったと聞いた事があった。

 

 おそらくはそれと同じものだ。

 

 しかも高出力収束ビーム砲を防ぐほどとは。

 

 こうなると本体であるベルゼビュートを先に撃破するか、接近してドラグーンを破壊するかしかない。

 

 どちらにしても厄介である。

 

 「死ね! レティシア!!」

 

 ベルゼビュートは翼を広げ、何度も左右から斬撃を叩きつけてくる。

 

 「受けに回れば不利ですね」

 

 ブレードで機体を庇いながら、敵機を弾くと対艦ミサイルを発射した。

 

 レティシアとてこれが当たるとは思っていない。

 

 あくまでも視界を少しでも遮り、ドラグーンを操作し難くする為だ。

 

 案の定ビーム砲によって薙ぎ払われた対艦ミサイルは破壊され、周囲を爆煙が包んだ。

 

 その隙に機体を加速させたレティシアは、ブレードを構えて斬り込む。

 

 もちろんそうする事はリースも予測済みだ。

 

 先程の意趣返しのつもりなのだろう。

 

 「そんなの読ん―――ッ!?」

 

 ヴァナディスを迎え撃とうとビームソードを構えたリースは一瞬動きを止めた。

 

 何故なら爆煙の中から現れたのは、スレイプニルのみであり、本体の姿が見えなかったからである。

 

 「どこに!?」

 

 次の瞬間、コックピットに甲高い警戒音が鳴り響いた。

 

 いつの間にか配置されていたドラグーンから放たれた四方からのビームがベルゼビュートに襲いかかった。

 

 「ミサイルを撃った時には配置を済ませていた? 小賢しい!!」

 

 撃ち込まれる射撃を盾を使って防ぎつつ、回避。

 

 ドラグーンをビームライフルで撃ち落とすと周囲に視線を走らせた。

 

 そこにヴァナディスが上方からアインヘリヤルを片手に突っ込んでくる。

 

 それを見たリースはビームソードを放出し、上に向けて斬り上げる事で迎え撃った。

 

 「消え失せろ!!」

 

 「これで!」

 

 光が軌跡を描き、交錯する刃。

 

 二機がすれ違う瞬間に斬り裂かれていたのはベルゼビュートの方だった。

 

 「よくもォォ!! レティシア!!」

 

 装甲が袈裟懸けに浅く裂かれている。

 

 即座に計器をチェックするが戦闘には支障ないようだ。

 

 この程度で済んだのはリースの技量の賜物であり、僥倖と言えるだろう。

 

 改めて憎しみを込めてヴァナディスを睨みつける。

 

 「くそ、くそ!!」

 

 先ほどの斬り合い、競り負けたのには理由があった。

 

 ベルゼビュートは斬り裂かれた部分以外に左脚部を軽く抉られていた。

 

 これはドラグーンによってつけられた傷である。

 

 あの瞬間、レティシアは攻撃には加えずに配置しておいたドラグーンでベルゼビュートを狙撃したのである。

 

 それに気を取られてしまったリースは反応が一瞬遅れてしまったのだ。

 

 「どうやら上手くいったようですね」

 

 再びスレイプニルを装着し、ミサイルやビーム砲を一斉に撃ち出し畳み掛ける。

 

 砲撃を歯を食いしばって見つめるリースは咆哮した。

 

 

 「調子に―――乗るなァァァァァァ!!!!」

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 リースの叫びと共にI.S.システムが作動する。

 

 視界がクリアになり、感覚が研ぎ澄まされ、相手に対する憎しみの炎が全身を駆け廻った。

 

 放たれたミサイルを機関砲で撃破するとバレルロールしながらビームの嵐を易々と潜り抜ける。

 

 同時に射出していた大型ビームクロウを両手に装着。

 

 強力なビーム刃を発生させるとヴァナディスに突撃した。

 

 「はあああああああああ!!!」

 

 ベルゼビュートの一撃がスレイプニルのビームキャノンに直撃すると食いちぎる様にして破壊する。

 

 「ぐっ、動きが変わった!?」

 

 おそらくI.S.システムが起動したのだろう。

 

 こうなる前に決着をつけたかったのだが、詰めが甘かった。

 

 自分の不甲斐無さに苛立ちながら、振り向きざまにブレードを振るう。

 

 しかしベルゼビュートはすでに回避運動を取っており、捉えられない。

 

 リースは機体を回転させ背中に装着されていたミサイルポッドをパージ。

 

 ビーム砲で撃ち抜くとヴァナディスを巻き込んで凄まじい爆発が発生する。

 

 「ぐうううう!!」

 

 吹き飛ばされないように操縦桿を操作してスラスターを逆噴射、その場に留まりつつビームシールドで防御する。

 

 衝撃を何とかやり過ごし一旦距離を取ろうとするレティシアだったが、リースは攻撃の手を休めない。

 

 すぐに爆煙の中から飛び出してくると、上段からビームクロウを振り下ろす。

 

 「死ねェェェ!!」

 

 「まだです!」

 

 防御、回避共に間に合わない。

 

 咄嗟にコンソールを操作し、スレイプニルをパージした。

 

 ヴァナディスが離脱した瞬間、上から振り下ろされたビーム刃がスレイプニルを食い破る様に斬り裂き、爆散させた。

 

 背後からの爆風に押し出され、どうにか逃れたヴァナディスはベルゼビュートに向き直る。

 

 強い。

 

 鬼気迫るといった所だろうか。

 

 こちらに対する強烈なまでの殺意が伝わってくる。

 

 「……早く決着を付けないといけませんね」

 

 レティシアは素早く残った武装を確認する。

 

 ヴァナディス本体の武装は消耗していないがリンドブルムに搭載されたドラグーンのいくつかは落とされてしまっている。

 

 スレイプニルを破壊されてしまった以上、できるだけ武装の消耗は避けるべきだ。

 

 しかし目の前の相手は加減して倒せる相手ではない。

 

 「仕方ありません」

 

 覚悟を決めアインヘリヤルを構えて斬り込んできたベルゼビュートを迎え撃つ。

 

 「接近戦で勝てるつもりかァァァァ!!」

 

 ベルゼビュートの真価が最も発揮されるのは接近戦である。

 

 それに今の状況であえて挑むなど舐められているとしか思えない。

 

 加速しながらヴァナディスに向けてビーム砲を連射し、ビームクロウを叩きつける。

 

 だがレティシアも退く気はなかった。

 

 振りかぶられた刃をシールドを使って上手く捌き、フットペダルを踏み込んで前に出る。

 

 二機の機影が激突と離脱繰り返し、戦場を駆けて行った。

 

 

 

 

 攻防を繰り返す二機のモビルスーツ。

 

 その速度に他のザフトの部隊も迂闊に援護できない状態であった。

 

 「くそ、速すぎる!」

 

 「援護できないぞ!」

 

 ザクがオルトロスを二機がぶつかり合っている先に向けるが、狙いが定まらない。

 

 その時、甲高い音と共にレーダーが反応すると同時に数機のモビルスーツが撃ち落とされてしまった。

 

 「なんだ!?」

 

 「あれは……」

 

 ザフトのパイロット達が視線を向けた先には戦艦オーディンを中心とした同盟軍の艦隊と出撃済みのモビルスーツ部隊が近づいていた。

 

 オーディンの艦長席で指揮を執るテレサはため息をつく。

 

 「二人は足止めされているらしいな」

 

 「ええ、どうやら相手はザフトのエースのようです」

 

 久々に副官としての任務に戻ったヨハンは冷静に呟いた。

 

 予定通り先行した二機によって敵部隊の撃破及び撹乱は行われているようだ。

 

 だが想定よりも残っている敵の数がずいぶん多い。

 

 しかもヴァナディスの方はスレイプニルを完全に破壊されてしまったらしい。

 

 それだけ今交戦している敵が手強いという事だろう。

 

 とはいえこれくらいならば許容範囲内である。

 

 「良し、作戦を開始する。各モビルスーツ部隊は艦隊の道を開け!!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 命令が下ると同時にヘルヴォル、アルヴィト、ブリュンヒルデが一斉に戦場に突入する。

 

 当然それを黙って見ているザフトではない。

 

 「各機迎撃!! 同盟の好きにさせるな!!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 向ってくる同盟軍を迎え撃つべくザフトの部隊も前進、迎撃を開始した。

 

 

 

 

 高速で移動しながら攻防を繰り返すヴァナディスとベルゼビュートの戦いも決着の時を迎えようとしていた。

 

 激突と離脱を繰り返し攻防を繰り広げる二機。

 

 その装甲には剣撃によって無数の傷がついていた。

 

 ベルゼビュートの斬撃がヴァナディスの装甲を掠め、続けざまに振るわれた攻撃をレティシアは冷静にギリギリのタイミングでかわす。

 

 そして傍にしたザクを一蹴し、奪い取ったビームトマホークを投げつけた。

 

 「邪魔ァァ!」

 

 リースは投げつけられたビームトマホークを容易くビームシールドで外に向けて弾き飛ばした。

 

 だがヴァナディスは立て続けにシールドに内蔵されたグレネードランチャーが撃ち込んできた。

 

 「鬱陶しいぞ!!」

 

 それを容易く撃ち落としたベルゼビュート。

 

 しかし爆発の閃光に紛れ接近してきたヴァナディスの両手、両腰のビームガンがこちらを狙っていた。

 

 「そんなもので!」

 

 眼前に迫ったビームを常人ではあり得ない驚異的な反応で回避する。

 

 再び反撃に移ろうとしたリースだったが、その表情は苦悶に満ちていた。

 

 激しい頭痛に切れる息。

 

 いつも以上の掻いた汗がメットの内側を濡らしている。

 

 すでにシステムを起動させてから、通常時の倍以上に時間が経過していた。

 

 この頭痛はI.S.システムのリミッターを外した事に加え、通常以上にシステムを使用している影響だろうか。

 

 そこでリースは考えるのをやめた。

 

 そんな事はどうでも良い。

 

 今必要なのはレティシアを殺す為に必要な力なのだから。

 

 「ハァ、ハァ、さっさと落ちろ、レティシアァァ!!」

 

 放った砲撃も余裕で回避するヴァナディス。

 

 「ハァ、ハァ、ぐっ、頭が!」

 

 ヘルメットの上から頭に手を置き、激しい頭痛に耐えながら敵機を睨みつける。

 

 息も切れるし頭痛も酷いが戦意は全く衰えていない。

 

 「今度こそ私はこいつを!」

 

 両腕のビームクロウを構え、何度目かの突撃を行おうとしたリースだったが、下からのビーム攻撃によって動きを阻害されてしまった。

 

 「またドラグーンか!?」

 

 怒りに任せ目障りな砲塔を消し去ろうと、ビーム砲を向ける。

 

 しかしそれはレティシアの仕掛けた囮。

 

 ベルゼビュートがドラグーンに注意を逸らした一瞬の隙を突き、ヴァナディスはアインヘリヤルを構えて突撃してくる。

 

 「いい加減に決着をつけましょう!」

 

 「この程度でェェ!!」

 

 射出した腰のビームクロウでドラグーンを破壊すると、両腕の刃を叩きつける。

 

 再び激突する剣撃。

 

 右のビームクロウの光刃が横薙ぎに振るわれたアインヘリヤルを叩き折り、左の光爪がヴァナディスのアンチビームシールドを斬り潰す。

 

 リースは勝ったと確信し、表情は苦悶から歓喜に変わった。

 

 しかしすぐにそれが間違いであった事を知る。

 

 止めを刺そうと両手の刃を再び叩きつけようとした瞬間、ヴァナディスは左足の爪先からビームソードを放出、蹴り上げてきたのである。

 

 「なっ!?」

 

 咄嗟に機体を引こうとするが、間に合わない。

 

 蹴り上げられたビームソードでビームクロウ諸共右腕が完全に破壊されてしまう。

 

 「まだァァァ!!」

 

 残った左手でがら空きになった敵機の胴体を串刺しにしようと突きを放つ。

 

 レティシアがどれほど高い技量を持っていようがこれは絶対にかわせない。

 

 だが再びリースは驚愕する事になる。

 

 突きを放ったビームクロウは敵の胴体に届く前に下から斬り上げられたサーベルによって腕ごと斬り飛ばされてしまったからだ。

 

 「なんだと!?」

 

 レティシアはサーベルを持ってはいなかった筈だし、抜く間も無かった。

 

 一体どうやって?

 

 「どこから―――ッ!?」

 

 リースは自分の迂闊さに激しいまでの怒りを感じた。

 

 何故ならヴァナディスの右腕のビームガンから光の刃が形成されていたからだ。

 

 どうしてあれがサーベルとして使える可能性に気がつかなかった!

 

 怒りを感じる理由はそれだけではない。

 

 おそらく先の攻防でビームガンを使ってきた事も仕込みだったのだ。

 

 レティシアはあれを射撃兵装であると思い込ませる為にわざと使用してきた。

 

 そこにまんまと引っ掛かってしまった。

 

 「終わりですよ」

 

 ここに勝敗は決した。

 

 ベルゼビュートは武装のほとんどを破壊され、損傷も激しい。

 

 通常であれば戦闘は不可能だ。

 

 だがリースはそんなもの認める気など無かった。

 

 「私はまだァァァ!」

 

 残った足で蹴りを入れ、射出していたビームクロウを背後から襲わせた。

 

 「くっ!?」

 

 ベルゼビュートの蹴りをサーベルで斬り落とす事は出来たが、ビームクロウによってヴァナディスの左足首を切断されてしまう。

 

 レティシアはバランスを崩しながらも飛び回る光爪にドラグーンをぶつけて吹き飛ばす。

 

 そして半ばから折られたアインヘリヤルを逆手に持ってベルゼビュートに叩きつけた。

 

 「今度こそ終わりです!!」

 

 袈裟懸けに斬られた肩部分に直撃すると、火花を散らして突き刺さる。

 

 「きゃああああ!!」

 

 斬艦刀を手放し蹴りを入れて突き放すとベルゼビュートは爆発を起こして、装甲の色がメタリックグレーに変化した。

 

 けたたましい音が鳴り響くコックピット内でリースは頭を押さえながら、必死に操縦桿を動かすが全く反応がない。

 

 「ハァ、ハァ、動け、ベルゼビュート!」

 

 その時、唐突に限界は訪れた。

 

 I.S.システムの弊害が。

 

 「私は……まだ、ぐっ、ああああああああ!!」

 

 機体を動かそうとしていたリースに今まで以上の激しい頭痛が襲いかかる。

 

 これまでの比ではない。

 

 頭が割れるかと思われるほどの痛み。

 

 「あああああ、わ、た、しはァァァァァ―――」

 

 すべてが消えていくような感覚に導かれ、リースの意識は二度と這い上がる事ができないような暗い闇の中へと消えていった。

 

 同時に画面に文字が浮かび上がる。

 

 

 『System Delete』

 

 

 これはもしもの場合に備えた保険。

 

 対SEEDモビルスーツの機体が鹵獲されたらI.S.システムのデータが流失する事になる。

 

 上手く自爆でも出来ればよいが、戦闘中に自爆装置が破損したり、パイロットが気絶したりすればそれも為せない。

 

 だからヘレンはリミッター解除の設定する際、これも一緒に仕込んでおいたのである。

 

 宇宙を流れ、視界から消えていく破壊されたベルゼビュートの姿をレティシアは悲しそうに一瞥する。

 

 「リース・シベリウス、貴方は……」

 

 一瞬目を伏せる。

 

 それ以上は何も言わず、機体状態を確認したレティシアは作戦継続の為にその場を後にする。

 

 その場にはただ戦闘の残骸だけが漂っていた。

 

 

 

 

 同じ頃、インフニットジャスティスと激闘を繰り広げていたハイネもベルゼビュートの反応が消えた事に気がついた。

 

 「リースがやられた!?」

 

 思わず唇を噛む。

 

 リースが倒されるとは。

 

 彼女を一人のするべきではなかった。

 

 仲間が倒された事に対する一瞬の隙。

 

 それを見逃さなかったラクスは懐に飛び込むと同時にビームサーベルを下段から振り上げた。

 

 「そこです!」

 

 「しま―――」

 

 逆袈裟から振り上げられた斬撃が肩部の装甲を斬り裂く。

 

 同時に足のグリフォンビームブレイドを蹴り上げる。

 

 「この!」

 

 ビームブレイドをシールドで止めたハイネは斬り落された肩部に接続されていたフラッシュエッジを拾い、逆手に持って抜き放つ。

 

 そしてジャスティスのスレイプニルに突き刺し、同時にCIWSを連射して撃ち込んだ。

 

 フラッシュエッジによって斬り裂かれた部分から火を噴き、スレイプニルが爆発が起き始める。

 

 「不味い!?」

 

 スレイプニルの爆発は先のブレードを破壊した時の比ではない。

 

 巻き込まれれば自機も相当のダメージを受けてしまうだろう。

 

 「くっ、なら!」

 

 ラクスは咄嗟にスレイプニルをパージ、前に向って加速すると振り返り様にハイパーフォルティスビーム砲を叩き込んだ。

 

 ビーム砲によって撃ち抜かれたスレイプニルは凄まじいまでの爆発を引き起こした。

 

 当然近くにいたヴァンクールも巻き込まれ、吹き飛ばされてしまった。

 

 「ぐああああ!!」

 

 ハイネは衝撃に呻きながらどうにか機体を立て直し、状態を確認する。

 

 咄嗟にシールドを張ったおかげか、斬り裂かれた部分以外の損傷はない。

 

 だが一部駆動系に異常が出ているようだ。

 

 今のところ動かす事に影響はないが、ジャスティスとの戦闘は難しいだろう。

 

 「チッ、退くしかないか」

 

 不幸中の幸いか、あの爆発で向うもこちらをロストしている。

 

 チャンスは今しかない。

 

 ハイネはリースが戦っていた方角に視線を向け、一瞬だけ目を閉じると後退する為、反転した。

 

 

 

 

 コロニーでの戦闘開始。

 

 それはメサイアでも確認されていた。

 

 司令室では次々と戦況が伝えられ、全員が忙しなく対応に追われている。

 

 それらの報告を聞きながらデュランダルはモニターを眺めていた。

 

 「おおよそ予測通りと言ったところですか?」

 

 「そうだな」

 

 ヘレンの言う通り、現在の状況は事前に予測していた通りの結果となっている。

 

 三つのコロニーでは同盟との戦闘が開始され、最後に残ったコロニーでももうすぐ地球軍との戦闘が始まるだろう。

 

 「しかしベルゼビュートが落とされるとは」

 

 リースが倒された事は報告が上がっている。

 

 相手がレティシア・ルティエンスであった事もだ。

 

 流石は『戦女神』といったところだろう。

 

 「それも予想範囲内ですね」

 

 「後は彼らがいつ来るかだな。別動隊の方は?」

 

 「もうじきヴァルハラの防衛部隊と接敵する筈です」

 

 ヘレンの報告に「うむ」と頷くとデュランダルは考えを纏める為に目を閉じる。

 

 そしてしばらくして目を開くと指示を飛ばした。

 

 「アポカリプス、主砲発射準備、同時に『ネオジェネシス』の準備も開始せよ」

 

 「「「了解!!」」」

 

 発せられた指示に周りが慌ただしく動き出すとヘレンがデュランダルの耳元で囁くように呟く。

 

 「スカージももうすぐ発進準備が完了します」

 

 「そうか。そちらは君に任せる」

 

 「了解しました」

 

 ヘレンが準備の為に司令室を後にする。

 

 デュランダルは笑みを浮かべ動き出したアポカリプスを見上げていた。




後日、加筆修正します。

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